カイロス (ロケット)
KAIROS Kii-based Advanced & Instant Rocket System | |
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基本データ | |
運用国 | 日本 |
開発者 | スペースワン |
運用機関 | スペースワン |
使用期間 | 2024年3月 - (予定) |
射場 | スペースポート紀伊 |
打ち上げ数 | 1(成功0) |
公式ページ | [1] |
物理的特徴 | |
段数 |
固体燃料3段式 +軌道変更用液体エンジン(PBS) |
総質量 | 約23 トン |
全長 | 約18 m |
直径 |
1.35 m(代表径) 1.55 m(PLF径) |
軌道投入能力 | |
低軌道 |
250 kg 500 km / 33度 |
太陽同期軌道 |
150 kg 500 km / 97度 |
カイロス(KAIROS)は日本の衛星打ち上げ用ロケットである。民間企業スペースワンの開発した自社事業用のロケットで、小型衛星の打ち上げを目的とする。
「大型の衛星を少数打上げるのではなく小型の衛星を大量に打上げるという発想」をもとに、「契約から打上げまでの「世界最短」と打上げの「世界最高頻度」をめざす」小型軽量のロケットである。動力に固体燃料を使うことで発射までの準備期間を短縮し、衛星の受け取りから4日で発射することを可能にした。また効率化のため、GO/NOGO判断などの管制手順を自動化したほか、異常発生時の指令破壊も機体に自動で判断させることで、打ち上げの省人化を実現している。
名称
[編集]ロケットは「Kii-based Advanced & Instant ROcket System」の頭文字からKAIROSと命名された[1]。
カイロスはギリシャ神話に登場する「時間」および「機会」の神。同社は「世界で最も契約から最短で、頻繁にロケットを打ち上げる」宇宙輸送サービスを目指していて、「時間を味方に市場を制する」との意思を示したという。また、カイロスにはギリシャ語で「チャンス」の意味があり、好機をとらえて事業を成功に導くという思いも込めた[2]。
製造
[編集]キヤノン電子が駆動系や電子制御に関わる部品の一部を供給[3]し、群馬県富岡市にあるIHIエアロスペースの富岡事業所で製造される[4][5]。
構成と諸元
[編集]主要諸元一覧[6] | ||||
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全長 | 約18m | |||
直径 | 代表径 1.35m
フェアリング径 1.5m | |||
全備重量 | 約23トン | |||
段数(Stage) | 第1段 | 第2段 | 第3段 | 軌道修正用PBS |
推進系 | 固体燃料モータ | 固体燃料モータ | 固体燃料モータ | 1液式液体エンジン |
燃焼時間 | 約90秒 | 約70秒 | 約60秒 | - |
構成
[編集]フェアリングはミッションに合わせ4種の構成が計画されている。
名称 | 衛星搭載機数 |
---|---|
シングルローンチ | 1機 |
デュアルローンチ | 2機 |
マルチローンチ | 主衛星1機+キューブサット数機 |
キューブサットクラスター | キューブサット多数 |
能力増強型
[編集]第3段エンジンを固体ロケットから3t級メタンエンジンに変更し、軌道投入能力の向上を図った「カイロス増強型」が開発されている[7]。打ち上げ能力は高度500kmの太陽同期軌道に250kgとしている[8]。
射場
[編集]和歌山県東牟婁郡串本町(敷地の一部は那智勝浦町)に位置するスペースポート紀伊から発射される。射場の選定理由は、工場から陸路で運べる可能な限り南の場所であり、ロケットの打ち上げ方向である南や東に開けており、その先がすぐ無人の太平洋であること、そして地元が協力的だったことがあげられる[9]。
打ち上げ
[編集]初号機
[編集]令和3年(2021年)度中の打ち上げを目標としていたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延やロシアによるウクライナ侵攻の影響で部品調達が遅れ、4度にわたって延期された[10]。
2024年(令和6年)3月9日に、内閣衛星情報センターの短期打上型小型衛星を搭載しての打ち上げが予定された。当日午前6時半、11時1分12秒の打ち上げの実行を判断したが、直前に予定時間を変更。11時17分12秒打ち上げとされたが[11]、警戒区域に船舶が侵入し、速やかな退去がなされなかったため、打ち上げは「13日11時1分12秒」へ延期となった[12]。
2024年3月13日11時1分、スペースポート紀伊より発射されたものの、数十メートル上昇したのちに爆発を起こし、打ち上げは失敗となった[13]。山中に落下した破片により周辺では火災が発生し、木々などが焼けた[14]。発射施設に大きな損傷はなく、焼損面積は山林やロケットの残骸を含め約980平方メートル[15]。スペースワンは「飛行中断措置が行われた」と発表している[13][16]。
打ち上げ失敗の原因
[編集]スペースワンは2024年8月25日の会見で初号機の失敗について、事前の固体燃料サンプルの分析を元にした推力の予測よりも実際の第1段ロケットの推力が数%不足しており、設定していた飛行正常範囲から外れたことをロケットが検知して自律破壊に至ったと説明した。また、自律破壊をしなければ正常に飛行した可能性が高いとしている。2号機では推進系等の機体側の設計変更はせず、飛行正常範囲の設定を見直すとしている[17]。
2号機
[編集]2024年10月9日、スペースワンは2号機について、12月14日午前11時から午前11時20分、スペースポート紀伊から打ち上げると発表した[18]。ペイロードはマイクロサット1基、3Uのキューブサット4基の計5基とし[17]、うち4基について輸送サービス契約相手はSpace Cubics、台湾国家宇宙センター(TASA)、テラスペース、ラグラポ(広尾学園中学校・高等学校の衛星打上げを支援)、1基については契約相手を非公開と発表している[19]。
各国の小型ロケットとの比較
[編集]ロケット | 国・機関 | 成功/打ち上げ[注 1] | 成功率 | 費用 | 打ち上げ能力 LEO |
1kgあたりの費用 LEO 500km |
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カイロス | スペースワン | 0/1 | 0 % | - | - | - |
イプシロン強化型 | JAXA | 4/5 | 80 % | 45億円(3号機時点)[20] | 1500 kg[21] | 300万円/kg |
エレクトロン | ロケット・ラボ | 45/49 | 91.8 % | 推定 約8億円[22] | 300 kg[23] | 約267万円/kg |
ミノタウロスI | アメリカ合衆国 | 13/13 | 100% | 約47.2億円[24] | 580 kg | 約813万円/kg |
開拓者1号 | 中国 | 0/2 | 0% | - | 100 kg | - |
長征11号 | 中国 | 12/12 | 100% | 約11.3億円[25] | 700 kg | 約162万円/kg |
シャヴィト2 | IAI | 6/6 | 100 % | - | 300 kg | - |
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 2024年7月11日時点。
出典
[編集]- ^ “スペースワンの「カイロスロケット初号機」、3/9にスペースポート紀伊より打上げ”. SPACE Media (2024年1月29日). 2024年3月9日閲覧。
- ^ “ロケットの名は「カイロス」 スペースワン発表:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2021年6月20日). 2022年12月21日閲覧。
- ^ “スペースワンの小型ロケット「カイロス」爆発、打ち上げ直後に”. 日本経済新聞 (2024年3月13日). 2024年3月13日閲覧。
- ^ “会社概要”. IHIエアロスペース. 2020年4月19日閲覧。
- ^ 日経ビジネス電子版. “日本初の民間ロケット発射場、なぜ本州最南端に”. 日経ビジネス電子版. 2024年3月9日閲覧。
- ^ Ltd, SPACE ONE Co. “SPACE ONE”. SPACE ONE. 2024年3月13日閲覧。
- ^ “防衛省・自衛隊:小型ロケットの能力向上の進捗状況について”. 防衛省. 2023年3月13日閲覧。
- ^ “[https://www.mod.go.jp/atla/souhon/supply/jisseki/rakusatu/kohyo_r05/05_zuikei_kijunijo-03.xlsx 防衛装備庁 : 契約に係る情報の公表(中央調達分) 随意契約(基準以上)/令和5年度/3月]” (xlsx). 防衛装備庁. 2024年7月11日閲覧。
- ^ 「日本初の民間ロケット発射場、なぜ本州最南端に」『日経ビジネス』日本経済新聞、2019年11月21日。2024年3月9日閲覧。
- ^ 「日本初の民間ロケット発射場、なぜ本州最南端に」『読売新聞オンライン』読売新聞、2024年1月27日。オリジナルの2024年3月9日時点におけるアーカイブ。2024年3月9日閲覧。
- ^ 「民間ロケット「カイロス」打ち上げ延期 期日は未定」『産経ニュース』産経新聞、2024年3月9日。2024年3月9日閲覧。
- ^ “【速報】「カイロス」打ち上げ直後に爆発、墜落して炎上 「飛行中断措置」行う 和歌山・串本町の“日本初”民間ロケット発射場|YTV NEWS NNN”. 日テレNEWS NNN. 2024年3月13日閲覧。
- ^ a b “「カイロス」初号機、打ち上げ直後に爆発…スペースワン「飛行中断措置が行われた」”. 読売新聞オンライン (2024年3月13日). 2024年3月13日閲覧。
- ^ “【随時更新】民間小型ロケット 爆発し打ち上げ失敗 和歌山 | NHK”. NHKニュース (2024年3月13日). 2024年3月13日閲覧。
- ^ “発射施設に大きな損傷なし”. 2024年3月18日閲覧。
- ^ “スペースワンの小型ロケット「カイロス」爆発、打ち上げ直後に”. 日本経済新聞 (2024年3月13日). 2024年3月13日閲覧。
- ^ a b “スペースワン、「カイロス」2号機を12月に打ち上げ–民間単独での衛星軌道投入に再挑戦”. UchuBiz (2024年8月25日). 2024年11月12日閲覧。
- ^ “猪瀬氏の控訴、東京高裁棄却 朝日新聞社報道めぐる訴訟:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞. 2024年10月10日閲覧。
- ^ Ltd, SPACE ONE Co. “SPACE ONE”. SPACE ONE. 2024年11月12日閲覧。
- ^ イプシロン3号機の打ち上げ成功 JAXA、商業衛星を初投入 2018年1月18日
- ^ イプシロン開発の現状と将来の構想 科学衛星シンポジウム(2013年3月7日、8日)
- ^ A Small Rocket Maker Is Running A Different Kind of Space RaceBloomberg,2020年2月3日
- ^ Rocket Lab Increases Electron Payload Capacity, Enabling Interplanetary Missions and ReusabilityRocket Lab USA,2020年8月4日
- ^ “Cold-War-era missile launches three modern-day spy satellites”. arstechnica (2021年6月17日). 2024年7月11日閲覧。
- ^ Ria Urban (2023年8月16日). “How Much Does It Cost To Launch A Rocket? [By Type & Size]”. SPACE IMPULSE. 2024年7月11日閲覧。