クロネッカーのデルタ(英: Kronecker delta)とは、集合 T(多くは自然数の部分集合)の元 i, j に対して
によって定義される二変数関数 のことをいう。つまり、T × T の対角成分の特性関数のことである。名称は、19世紀のドイツの数学者レオポルト・クロネッカーに因む[1]。
アイバーソンの記法を用いると
と書ける。
単純な記号だが、色々な場面で有用である。例えば、単位行列は (δij) と書けたり、n 次元直交座標の基底ベクトルの内積は、(ei, ej) = δij と書ける。
が成り立つ。これはベクトルに単位行列を作用させても不変であることに対応する。
が成り立つ。これは単位行列に単位行列を掛けたものは単位行列であることに対応する。
この節では、添字は 1 から n の間の値をとるものとする。
2階(1, 1)型テンソルとしてのクロネッカーのデルタは
である。
これを高階に拡張したものとして、n 次元、2p 階の一般化されたクロネッカーのデルタがある。これは (p, p) 型テンソルで、上下それぞれの添字に対して反対称である。
一般化されたクロネッカーのデルタの定義は
である[2][3]。
なお、"" は が全て異なり、かつ、 の偶置換の場合を指し、"" は が全て異なり、かつ、 の奇置換の場合を指し、"" は上記以外のすべての場合を指す。
を p 次の対称群とすれば
と表現でき、反対称化の記号を用いると:
となる。また、p × p 行列式で表現すると[4]:
となる。
行列式の余因子展開を用いると再帰的な定義:
が得られる。ただし、チェック()が付いた項は式から外されるとする。
n=p の場合、(高階に拡張された)エディントンのイプシロンを使えば:
となる。
逆にエディントンのイプシロンの定義と考えることもできる。
反対称化を一般化されたクロネッカーのデルタを使って定義すると
となる。
これより、以下の演算規則が導かれる。
これらは#性質の節の内容の一般化であり、3番目の式はコーシー・ビネの公式に対応する。
添字の縮約については 0≤m<k≤n として[5]、
あるいは
が成立する。
特に k=n のとき、
あるいは
が成立する。
- ^ 記号としての初出は恐らく Kronecker, L. (1868). “Ueber bilineare Formen”. Journal für die reine und angewandte Mathematik 68: 272–285. EuDML 148042. の276ページ。
- ^ Theodore Frankel, The Geometry of Physics: An Introduction 3rd edition (2012), published by Cambridge University Press, ISBN 9781107602601
- ^ D. C. Agarwal, Tensor Calculus and Riemannian Geometry 22nd edition (2007), published by Krishna Prakashan Media
- ^ David Lovelock, Hanno Rund, Tensors, Differential Forms, and Variational Principles, Dover Publications
- ^ Sadri Hassani,Mathematical Methods: For Students of Physics and Related Fields 2nd edition (2008), published by Springer-Verlag, ISBN 978-0387095035