サイドナヤ刑務所
座標: 北緯33度39分54秒 東経36度19分43秒 / 北緯33.66500度 東経36.32861度 サイドナヤ刑務所 (アラビア語: سجن صيدنايا, Sijn Ṣaydnāyā, スィジュン・サイドナーヤー)は、シリアのダマスカス近郊にある軍事刑務所である。常に1,000人以上の政治犯が収容されていて[1]、その中にはムスリム同胞団のメンバーやその他イスラム主義者も含まれている。
名称
[編集]刑務所名はダマスカスから30kmほど離れた農村地帯である所在地名にちなむ[2]。
同地名ならびに刑務所名はアラビア語で文語と口語の違いによる発音揺れがあることから
- 古典的文語アラビア語発音:Ṣaydanāyā / Ṣaidanāyā(サイダナーヤー)[3][4]
- 文語アラビア語的発音:Ṣaydnāyā / Ṣaidnāyā(サイドナーヤー)
- 【現地発音】口語アラビア語発音(1):Ṣeidnāya(セイドナーヤ)[5]
- 【現地発音】口語アラビア語発音(2):Ṣēdnāya(セードナーヤ)[6]
日本語メディア・記事ではサイドナヤ以外にもサイドナーヤー[7]、セイドナヤ[8][9]、セドナヤ[10]など、英語メディアではSaydnaya[11]、Saidnaya[12]、Seydnaya[13]、Seidnaya[14]、Sednaya[15]、Sidnaya[16]のような表記が混在している。
また内部における度々の凄惨な事件・処刑ゆえに、後に血の色にちなんだ「赤の刑務所」(アラビア語:السجن الأحمر, al-sijn al-aḥmar, アッ=スィジュン・アル=アフマル)という別名でも呼ばれるようになった[2]。
歴史
[編集]1987年、サイドナヤ修道院の近くに建設。地上部と地下部から成り、政治犯・民間人を収容するレッドセクション[17][18]と軍人を収容するホワイトセクションに分けて管理された[2]。
2008年7月に暴動が発生し、数百人の収容者が負傷、多くのイスラム主義収容者が死亡したとされる[19]。
2017年2月、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが2011年9月から2015年12月にかけて当刑務所で5000人から13000人ぐらいが違法に絞首刑を受けたと報告している[20][21][22]。
2011年の反政府デモの数カ月後、様々な恩赦で多くのイスラム主義収容者が釈放されたが[23]、ザフラーン・アッルーシュ、アブー・シャーディー・アッブード(ハッサーン・アッブードの兄弟[24])やアフマド・アブー・イーサーといったより著名な受刑者も釈放されていて、釈放後シリア内戦においてジャイシュ・アル=イスラーム、シャーム自由人イスラム運動、スクール・アッ=シャーム旅団といったイスラム主義反政府グループを率いている。
また、当刑務所を含むシリアの刑務所では拷問や栄養失調、公平な裁判無しの独断的な死刑といった勾留者への非人道的な扱いが繰り返し報告されている[1][25][26][27]。
「サイドナヤ刑務所に送られた勾留者の70%が生きて帰れておらず、軍法会議による裁判のほとんどは秘密警察によって決められてしまう。」—ハマーで受刑者の弁護を行うシリア人弁護士[1]
2017年5月15日、アメリカ合衆国は、サイドナヤ刑務所に遺体を処理するための火葬場が設置されているとしてシリア政府を非難した[28]
2024年12月8日、アサド大統領が国外に出国して政権が崩壊。同日、刑務所が解放された[29]。刑務所の地下に秘密の拘束施設があり多数の人々が閉じ込められているとされていたが、捜索に当たったホワイト・ヘルメット側は発見されなかったとの発表を行った[30]。
過去の収監者
[編集]- ザフラーン・アッルーシュ - ジャイシュ・アル=イスラム元リーダー
- ハッサーン・アッブード - シャーム自由人イスラム運動元リーダー
- アブー・ヤフヤー・アル=ハマウィー - シャーム自由人イスラム運動元リーダー
- アフマド・アブー・イーサー - スクール・アッ=シャーム旅団のリーダー
- アブー・ムハンマド・アル=アドナーニー - IS元リーダー、スポークスパーソン
- アブー・ルクマーン - ラッカを統治していたISメンバー
- ハイサム・アル=マーリフ - イスラム主義の反体制活動家、弁護士[31]
脚注
[編集]- ^ a b c "Syrian prisoners take over prison, claiming President Assad is about to start torturing and executing them". The Independent (英語). 2016.
- ^ a b c “سجن صيدنايا.. "مسلخ بشري" قرب دير في ريف دمشق” (アラビア語). الجزيرة نت. 2024年12月12日閲覧。
- ^ “معاني (صيدنايا)”. www.almougem.com. 2024年12月12日閲覧。
- ^ “Search results for صيدنايا” (英語). 2024年12月12日閲覧。
- ^ شاشة العربية (2024-12-11), زيارة موحشة إلى غرفة مكبس الجثث في معتقل صيدنايا 2024年12月12日閲覧。
- ^ Team, Forvo. “صيدنايا pronunciation: How to pronounce صيدنايا in Arabic” (英語). Forvo.com. 2024年12月12日閲覧。
- ^ “アサド政権を支えてきたシリア軍を壊滅させることで、シャーム解放機構の軍事的懸念を払拭するイスラエル(青山弘之) - エキスパート”. Yahoo!ニュース. 2024年12月12日閲覧。
- ^ “72種類の拷問 10万人が“行方不明” シリア「絶滅収容所」の生存者を独自取材 証言から浮かび上がった残虐な拷問の実態【news23】”. TBS NEWS DIG (2024年12月12日). 2024年12月12日閲覧。
- ^ “アサド政権の刑務所で行方不明となった親族の捜索を行うシリア人たち”. Arab News. 2024年12月12日閲覧。
- ^ “シリア反体制派への拷問を指示 前政権幹部を米が起訴 爪はぎや酸”. 毎日新聞. 2024年12月12日閲覧。
- ^ “Reports of people trapped underground at Syria's Saydnaya prison investigated” (英語). www.bbc.com. 2024年12月12日閲覧。
- ^ “A visit to Syria’s Saidnaya prison as political detainees are freed”. The Economist. ISSN 0013-0613 2024年12月12日閲覧。
- ^ “Back from the dead: Desperately searching for Syria's missing prisoners” (英語). (2023年9月13日) 2024年12月12日閲覧。
- ^ “A new life for Omar: Syrian torture victim thrives in Sweden” (英語). euronews (2017年6月19日). 2024年12月12日閲覧。
- ^ “'Death camp': the haunting history of Syria's Sednaya prison” (英語). France 24 (2024年12月9日). 2024年12月12日閲覧。
- ^ “MSN”. www.msn.com. 2024年12月12日閲覧。
- ^ “サイドナヤ刑務所を訪問、アサド政権で大規模な拷問と収容 シリア”. CNN.co.jp. 2024年12月12日閲覧。
- ^ 日本テレビ. “拷問や処刑も…刑務所での残虐行為の実態は アサド独裁政権崩壊|日テレNEWS NNN”. 日テレNEWS NNN. 2024年12月12日閲覧。
- ^ Line Khatib (2011). Islamic Revivalism in Syria: The Rise and Fall of Ba'thist Secularism. Routledge. p. 141. ISBN 978-0-415-78203-6. 2013年3月30日閲覧。
- ^ "Document". www.amnesty.org (英語). 2017年2月7日閲覧。
- ^ “シリア刑務所で1万人以上が絞首刑に アムネスティー報告”. BBC. (2017年2月7日) 2017年2月11日閲覧。
- ^ “シリアの刑務所で1万3000人処刑か 人権団体が報告”. CNN. (2017年2月7日) 2017年2月11日閲覧。
- ^ Abouzeid, Rania (2014年6月23日). “The Jihad Next Door” (英語). Politico. 2015年1月13日閲覧。
- ^ “Behind the Black Flag: The Recruitment of an ISIS Killer” (英語). The New York Times. (2015年12月21日)
- ^ "Thousands of Inmates Killed in Sednaya Prison from Torture, Disease, Malnutrition: Former Prisoner". The Syrian Observer (英語). 2015.
- ^ "Ex-detainee tells about horror of Sednaya Prison, 285 Security Branch". Zaman Al Wasl (英語). 2016.
- ^ "If the Dead Could Speak - Mass Deaths and Torture in Syria's Detention Facilities" (英語). Human Rights Watch. 2015. 2017年5月16日閲覧。
- ^ “シリア、「火葬場」使い大量処刑を隠ぺい 米が非難”. AFP. (2017年5月16日) 2017年5月16日閲覧。
- ^ “シリア刑務所から大勢を解放、子どもの姿も 多数がまだ地下房に閉じ込められている恐れ”. BBC (2024年12月8日). 2024年12月9日閲覧。
- ^ “シリアの刑務所、秘密の地下房見つからず 病院には拷問された遺体とHTS”. BBC (2024年12月10日). 2024年12月10日閲覧。
- ^ "هيثم المالح". Al Jazeera. 10 March 2011. 2016年12月8日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- "Révélations sur le massacre de la prison de Saydnaya". Courrier international (French). 2015年10月20日閲覧。
- "Syria: Investigate Sednaya Prison Deaths". Human Rights Watch. 2015年10月20日閲覧。
- "Saydnaya - Inside a Syrian torture prison". Amnesty International. 2016年8月24日閲覧。
- "Inside Saydnaya: Syria's Torture Prison - Amnesty International - YouTube. August 18, 2016.