セイヨウコウホネ
セイヨウコウホネ | ||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1. セイヨウコウホネ
| ||||||||||||||||||
保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | ||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||||
Nuphar lutea (L.) Sm. (1809)[2] | ||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||
yellow water-lily[1], yellow cowlily[1], yellow pond-lily[1], brandy-bottle[3] |
セイヨウコウホネ[4] (学名: Nuphar lutea) は、スイレン科コウホネ属に属する水草の1種である。葉を水中と水面につけ (沈水葉と浮水葉)、浮水葉は長さ16–30センチメートル (cm)、葉柄の断面は三角形。花は黄色、直径 3–6.5 cm、柱頭盤は円形 (図1)。ヨーロッパからシベリア、西アジアなどに広く分布している。
特徴
[編集]多年生の水生植物であり、沈水葉と浮水葉をつける[5] (下図2)。地下茎は直径 3–8(–15) cm[5]。葉柄の断面は三角形、直径3–10ミリメートル (mm)[5]。浮水葉は広楕円形から卵形、16–30 × 11.5–22 cm、基部は長さの1/3ほど切れ込み、葉脈は羽状で側脈は16–29対、ときに裏面に毛が密生する[5] (下図2b, c)。
花期は6–9月、花は直径 3–4.5(–6.5) cm、花柄の直径 4–10 mm[5]。萼片はふつう5枚、黄色 (基部はときに緑色)[5] (下図3a, b)。花弁は多数、黄色[5] (下図3a)。雄しべの葯は 4–7 mm、黄色、花糸は葯長の1–2倍[5] (下図3a, b)。柱頭盤は直径 7–13 mm、ほぼ円形、柱頭は11–21個[5] (下図3a, b)。花は酢酸エチルを生成し、この匂いに誘引されたハエ目の昆虫などによって花粉媒介される[6][7]。この匂いのため、本種は「brandy bottle」ともよばれる[8]。果実は緑色で表面は平滑、つぼ形 (下図3c)、2.6–4.5 × 1.9–3.4 cm、頸部は直径 3–9 mm、最大400個ほどの種子を含む[5]。種子は水流散布される。
水底の嫌気的な環境におかれた種子は、フェノール類であるレゾルシノールを分泌する。レゾルシノールは他の植物や微生物に対するアレロパシー効果があるものと考えられている[9]。
分布・生態
[編集]ヨーロッパからシベリア、アルジェリア、西アジア、中央アジアに分布している[2][5]。同様に広域分布種であるネムロコウホネにくらべて、低緯度、低地に分布する傾向がある[5]。また、ニュージーランドなどに侵入している[2][3]。
湖沼や池、流れが緩い河川などに生育する[5] (図2a, 4)。
セイヨウコウホネは、スイレン属の種に比べて水質汚染に強いともされる[6]。
人間との関わり
[編集]地下茎や葉、果実は食用とされることがある[7]。地下茎はアルカロイドを含み、ときに民間薬に使われる[5][7]。またホメオパシー信者の間では、セイヨウコウホネの成分を抽出したものが使用されることがある[10]。
セイヨウコウホネの葉をモチーフにしたハート形のシンボルは seeblatt とよばれ[11]、オランダのフリースラント州の旗には7つの seeblatts (pompeblêden) が描かれている (図5)。またブリストル大聖堂やウェストミンスター修道院では天井にセイヨウコウホネの花を形どった浮き彫りが施されており、不淫を意味するモチーフと考えられている[12]。
分類
[編集]コウホネ属の植物は変異が大きく種の境界が不明瞭であるため、さまざまな分類体系が提唱されている[5]。例えば Beal (1955, 1956) は世界中のコウホネ属植物をコウホネとセイヨウコウホネの2種にまとめ、それまでに認識されていたほとんどの種をセイヨウコウホネに含めている[14]。そのため、この意味でのセイヨウコウホネは北米からユーラシアにわたって広く分布する種とされる (2020年現在では、この分類は支持されていない[2][5])。
セイヨウコウホネの中では、葉の大きさや毛の有無、花や果実の色などに変異が大きい。そのような変異に基づいて多くの種が記載されているが、2020年現在ではふつう同一種にまとめられている[5]。
ネムロコウホネの分布と重なる地域では雑種が形成され、Nuphar × spenneriana Gaudin (1828) とよばれる[5]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d GBIF Secretariat (2021年). “Nuphar lutea (L.) Sibth. & Sm.”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年8月31日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s “Nuphar lutea”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年8月31日閲覧。
- ^ a b Ogle, C. C. & Clarkson, J. (2005). “Myriophyllum robustum (robust milfoil) in the southern North Island”. NEW ZEALAND BOTANICAL SOCIETY NEWSLETTER 82: 17–20 .
- ^ 志賀隆. “日本産コウホネ属の形態変異と遺伝的変異”. 2021年8月31日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Padgett, D. J. (2007). “A monograph of Nuphar (Nymphaeaceae)”. Rhodora 109 (937): 1-95. doi:10.3119/0035-4902(2007)109[1:AMONN]2.0.CO;2.
- ^ a b Blamey, M. & Grey-Wilson, C. (1989). Flora of Britain and Northern Europe. ISBN 0-340-40170-2
- ^ a b c d “Nuphar lutea”. Plants For A Future. 2021年8月31日閲覧。
- ^ Reader's Digest Field Guide to the Wild Flowers of Britain. Reader's Digest. (1981). p. 29. ISBN 9780276002175
- ^ Sütfeld, R., Petereit, F. & Nahrstedt, A. (1996). “Resorcinol in exudates of Nuphar lutea”. Journal of Chemical Ecology 22 (12): 2221-2231. doi:10.1007/bf02029542.
- ^ http://www.homeopathycenter.org/remedy/nuphar-luteum
- ^ “Seeblatt”. Mistholme. 2021年8月31日閲覧。
- ^ Reader's Digest Field Guide to the Wild Flowers of Britain. Reader's Digest. (1981). p. 29. ISBN 9780276002175
- ^ Wunderlin, R. P., Hansen, B. F., Franck, A. R. & Essig, F. B. (2021年). “Nuphar”. Atlas of Florida Plants. Institute for Systematic Botany, University of South Florida, Tampa. 2021年8月20日閲覧。
- ^ Beal, E. O. (1956). “Taxonomic revision of the genus Nuphar Sm. of North America and Europe”. Journal of the Elisha Mitchell Scientific Society 72 (2): 317–346 .
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- “Nuphar lutea”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年8月31日閲覧。 (英語)
- “Nuphar lutea”. Missouri Botanical Garden. 2021年8月31日閲覧。 (英語)
- “Nuphar lutea”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2021年8月31日閲覧。 (英語)