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ネムロコウホネ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ネムロコウホネ
1. 浮水葉と花
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
: スイレン目 Nymphaeales
: スイレン科 Nymphaeaceae
: コウホネ属 Nuphar
: ネムロコウホネ N. pumila
学名
Nuphar pumila (Timm) DC. (1821)[2]
シノニム
和名
ネムロコウホネ[4][3][4]
エゾコウホネ[3][4]
英名
least water-lily,
least yellow water-lily[1]

ネムロコウホネ[注 2](根室河骨、学名: Nuphar pumila)はスイレン科コウホネ属に属する水草の1種である。エゾコウホネともよばれる。ふつう水中にある沈水葉と水面に浮かぶ浮水葉をつけ、浮水葉は長さ6–17センチメートル (cm)、葉柄が細い(図1)。は黄色、直径 1–4.5 cm、柱頭盤は深く切れ込み、ふつう黄色だがときに赤色(図1)。ユーラシア北部に広く分布しており、日本では北海道から本州北部で見られる[注 3]。観賞用に栽培されることがあり、また薬用植物としても用いられる[6][7]

日本では、柱頭盤が赤いものを変種オゼコウホネNuphar pumila var. ozeensis)として扱うことが多い。

特徴

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多年生水生植物であり、基本的に沈水葉と浮水葉をもつが、まれに抽水葉をつける[3][4][8] (下図2)。根茎は直径 1–3 cm[8][9]。沈水葉は膜質で広卵形から円心形、8–15 × 8–13 cm[4][10]。浮水葉は卵形から広卵形、11–22 × 8–15 cm、基部は深く切れ込み (3–6.3 cm)、側脈は10–21対、裏面にはときに細かい毛が密が生える[3][8][9][10] (下図2b, c)。葉柄は直径1–5ミリメートル (mm)[8]

2a. 浮水葉と抽水葉
2b. 浮水葉と花 (オゼコウホネ)
2b. 浮水葉

花期は夏 (日本では7–8月)、は直径 1–4.5 cm[3][4][9]花柄は長さ 40–50 cm、直径 2.5-5.5 mm[8][9]萼片は5枚、1–2.5 cm、黄色[3][9] (下図3a, b)。花弁は多数、5–7 mm、黄橙色[8][9] (下図3b)。雄しべは黄色、長さ 1.5–4 mm、花糸は葯の2–3倍長[3] (下図3a, b)。柱頭は8–14個[8] (15–20個との記述あり[4])、柱頭盤の色はふつう黄色だがときに赤色、直径 4–7.5 mm、深く切れ込んで星形、中央の窪みの中にしばしば突起がある[3][4][8][9] (下図3a, b)。果実はふつう緑色、卵形〜つぼ形、長さ 2–4 cm、表面は平滑、17–90個の種子を含む[3][8] (下図3c)。種子は長さ 3–5 mm、褐色〜緑褐色[3]染色体数は 2n = 34[3]

3a. 花
3b. 花 (オゼコウホネ)
3c. 果実

分布・生態

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ヨーロッパからシベリア極東ロシア中国朝鮮半島台湾日本 (北海道本州北部) にかけて、ユーラシア北部に広く分布している[2][3][8][9]。湖沼や湿原の池塘に生育する[4][8] (下図4)。

4. ネムロコウホネとミズドクサ (ポーランド)

保全状況評価

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絶滅危惧II類 (VU)環境省レッドリスト

日本では生育環境の減少などによって少なくなり[11]、基変種である狭義のネムロコウホネ (Nuphar pumila var. pumila) および変種のオゼコウホネ (Nuphar pumila var. ozeense) はいずれも絶滅危惧II類に指定されている (2022年現在)[12][13]。また下記のように、個々の都道府県でも絶滅危惧種に指定されている。以下は2022年現在の各都道府県におけるレッドデータブックの統一カテゴリ名での危急度を示している[12][13]

ネムロコウホネ[注 4]

オゼコウホネ

分類

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亜種

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Padgett (2007) は、本種の中に以下の3亜種を認めている[8](下表1)。ただしこれらは独立種として扱われることもある。

表1. ネムロコウホネの種内分類[8]
  • ネムロコウホネ[4] Nuphar pumila (Timm) DC. (1821)
    • ネムロコウホネ[3][5] (狭義) Nuphar pumila subsp. pumila
      葉柄の直径は 1–5 mm、横断面では小さな間隙が網状に分布している。浮水葉の葉身は緑色から紫色、6.8–15.4(–17) × 5.5–10.8(–12.5) cm (縦横比は1–1.7)、側脈は10–17対、裏面は無毛または短毛が密にある。は直径 1.3–2.3(–3) cm。の長さは 1–2.5 mm。柱頭盤は直径 4–7.5 mm。果実は 1.5–3(–4.5) × 0.9–1.9 cm。種子は緑褐色から褐色、長さ 3–4 mm。ユーラシア北部に広く分布。
    • オグラコウホネ Nuphar pumila subsp. oguraensis (Miki) Padgett (1999)
      葉柄の直径は 1–3(–5) mm、横断面は三角形で中央に大きな間隙がある。浮水葉の葉身は緑色、(5–)8–11.5(–18) × (4–)6–9(–15) cm (縦横比は1.1–1.45)、基部は深く切れ込み、側脈は10–12対、裏面はふつう短毛が密にある[14]。花は直径 1.7–2.5(–3.5) cm。葯の長さは 1–2.5 mm。柱頭盤は直径 5–6(–9.5) mm、柱頭はお互いに離れて規則正しく配列している[14]。果実は 2.5–3 × 1.5–2 cm。種子は褐色、長さ 3.5–4 mm。沈水葉を多くつけ、水位が低下しても抽水葉をつけない[10]。日本 (本州西部、四国九州) および朝鮮半島に分布[3]。日本では独立種 (Nuphar oguraensis Miki1934) として扱われることが多い[3][4][14]。柱頭盤が赤いものはベニオグラコウホネ (Nuphar oguraensis var. akiensis Shimoda) とされる[14]。タイワンコウホネ (Nuphar shimadae Hayata1916) に近縁であり、これと同種とする見解もある[3][14]
    • Nuphar pumila subsp. sinensis (Hand.-Mazz.) Padgett (1999)
      葉柄の直径は 3–5 mm、横断面では小さな間隙が網状に分布している。浮水葉の葉身は緑色、9.3–15.5(–17) × 6.9–12.3 cm (縦横比は1.0–1.3)、側脈は13–21対、裏面は無毛または短毛が密にある。花は直径 2–4.5(–6) cm。葯の長さは 3.5–6 mm。柱頭盤は直径 5–6 mm。果実は 2–2.7 × 1.5–2 cm。種子は褐色、長さ約 3 mm。中国南東部 (安徽省浙江省福建省湖南省江西省広西省広東省) に分布。独立種 (Nuphar sinensis Hand.-Mazz., 1926) とされることもある。

オゼコウホネ

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ネムロコウホネの種内分類群として、変種オゼコウホネが認められることがある[3][4]。ただし、これは分類学的に分けられないこともある[2][15]

5a. オゼコウホネ
5b. オゼコウホネの花
5b. オゼコウホネの花

雑種

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セイヨウコウホネの分布と重なる地域では雑種が形成され、Nuphar × spenneriana Gaudin (1828) とよばれる。一方、日本ではコウホネとの雑種が形成され、ホッカイコウホネ (Nuphar x hokkaiensis Shiga & Kadono (2007)) とよばれる。

脚注

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注釈

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  1. ^ 独立種とする場合や、オグラコウホネと同種とすることがある[3]
  2. ^ この名は、基変種である Nuphar pumila var. pumila に対する和名としている例も多い[3][5]
  3. ^ 本州西部から九州に分布するオグラコウホネをネムロコウホネの亜種とすることもある(下記参照)。
  4. ^ 北海道と宮城県では種としての Nuphar pumilum を、それ以外では基変種 Nuphar pumilum var. pumilum を指定している[12]

出典

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  1. ^ a b GBIF Secretariat (2021年). “Nuphar pumila (Timm) DC.”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年9月2日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Nuphar pumila”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年8月24日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 志賀隆 (2015). “コウホネ属”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 46–48. ISBN 978-4582535310 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 角野康郎 (1994). “コウホネ属”. 日本水草図鑑. 文一総合出版. pp. 112–116. ISBN 978-4829930342 
  5. ^ a b 米倉浩司・梶田忠. “植物和名ー学名インデックスYList”. 2021年8月27日閲覧。
  6. ^ Nuphar pumila”. Practical Plants. 2021年9月2日閲覧。
  7. ^ 根室河骨」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E6%A0%B9%E5%AE%A4%E6%B2%B3%E9%AA%A8コトバンクより2021年8月29日閲覧 
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m Padgett, D. J. (2007). “A monograph of Nuphar (Nymphaeaceae)”. Rhodora 109 (937): 1-95. doi:10.3119/0035-4902(2007)109[1:AMONN]2.0.CO;2. 
  9. ^ a b c d e f g h Flora of China Editorial Committee (2001年). “Nuphar pumila”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2021年8月27日閲覧。
  10. ^ a b c 角野康郎 (2014). “ネムロコウホネ”. 日本の水草. 文一総合出版. p. 47. ISBN 978-4829984017 
  11. ^ ネムロコウホネ”. 十勝の川の生き物たち. 帯広開発建設部 治水課 
  12. ^ a b c ネムロコウホネ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2022年7月21日閲覧。
  13. ^ a b オゼコウホネ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2022年7月21日閲覧。
  14. ^ a b c d e 角野康郎 (2014). “オグラコウホネ”. 日本の水草. 文一総合出版. pp. 45–46. ISBN 978-4829984017 
  15. ^ a b GBIF Secretariat (2021年). “Nuphar pumila var. ozeensis (Miki) H.Hara”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年8月24日閲覧。
  16. ^ a b c d 高橋英樹, 山崎真実 & 佐々木純一 (2005). “オゼコウホネ (スイレン科) の1新品種”. 植物研究雑誌 80 (1): 48-51. NAID 40006644248. 

外部リンク

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