ディネオベラトル
ディネオベラトル | ||||||||||||||||||||||||
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ディネオベラトルの骨格図。発見された部位は白色で示されている。
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地質時代 | ||||||||||||||||||||||||
後期白亜紀マーストリヒチアン期 | ||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Dineobellator Jasinski et al., 2020 | ||||||||||||||||||||||||
下位分類群(種) | ||||||||||||||||||||||||
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ディネオベラトル(学名:Dineobellator、「ナバホ族の戦士」の意)は、約7000万年前から約6800万年前に生息した、ドロマエオサウルス科に属する獣脚類の恐竜の属。化石は2008年にアメリカ合衆国ニューメキシコ州で発見され、ペンシルベニア大学などの研究チームにより2020年にタイプ種ディネオベラトル・ノトヘスペルス(学名:D. notohesperus)が記載・命名された[1]。
大腿骨・上腕骨・尾椎・末節骨・歯など、約20におよぶ部位が特定されている。体高約1メートル、全長約2メートルの羽毛恐竜と見られている。記載者の一人であるスティーブン・ヤシンスキは、ディネオベラトルの動作は小回りが利き、前肢を使って小鳥やトカゲおよび他の恐竜を捕食していたと推測した[1]。
発見と命名
[編集]ホロタイプ標本 SMP VP-2430 は2008年にロバート・M・サリヴァンとスティーブン・E・ヤシンスキおよびジェームズ・ニカスによりオホアラモ累層から回収された。2009年にもサリヴァンとヤシンスキにより追加のマテリアルが収集され、2011年に学術論文で報告された[2]。さらなる発掘はヤシンスキにより2015年と2016年に実施された[3]。
発見された化石は新たな分類群に属することが判明し、その分類群は2020年にヤシンスキとサリヴァンおよびピーター・ドッドソンにより記載・命名された。命名された種名は Dineobellator notohesperus であり、属名はナバホ語でナバホ族を指す Diné と、ラテン語で「戦士」を意味する bellator に由来する。種小名はギリシア語で「南」を意味する noto~ (νότος) と「西」を意味する hesperis (Ἑσπερίς)に由来し、全体として「南西」を意味する。これは、発見地がアメリカ合衆国の南西部であることにちなむ[3]。
記載
[編集]ディネオベラトルは全長約2メートル、体重約18 - 22キログラムと推定された[4]。骨格のユニークな特徴からは、ディネオベラトルが通常のドロマエオサウルス科恐竜と比較して手首の関節がより大きく屈曲可能であり、また前肢末節骨の握力が強く、かつ尾の基部の可動域が広いことが示唆される。これらは敏捷性と捕食行動に寄与した可能性がある。加えて、尺骨には羽軸の突起に類似する構造が存在しており、これは全てのドロマエオサウルス科恐竜と同様である[3]。
分類
[編集]系統解析では、ディネオベラトルはヴェロキラプトル亜科に置かれた。アケロラプトルやダコタラプトルと共に、ディネオベラトルはドロマオサウルス類が白亜紀の末まで多様化を遂げつつあったことを示唆している。北アメリカのヴェロキラプトル亜科の第二の種が発見されたことからは、カンパニアン-マーストリヒチアンの分散イベントの後に北アメリカで分断分布が起きたことが示唆される。以下は、ヤシンスキらによる系統樹である[3]。
真ドロマエオサウルス類 |
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古生物学
[編集]ディネオベラトルのタイプ標本の右手の鉤爪の1つには、同様のサイズの獣脚類の鉤爪と大きさが一致する削られた跡が存在する。これはおそらく別個体のディネオベラトルに起因するものである。治癒した痕跡はなく、この負傷は死の間際に負ったことが示唆される。この標本では、骨折して治癒した肋骨もまた纏められている[3]。
古環境
[編集]ディネオベラトルはララミディア大陸南部のオホアラモ累層動物群の一部であり、当時の環境には湿地と水辺の裸子植物の森林が優占する豊かな氾濫原が広がっていた。ディネオベラトルと共存した大型恐竜には角竜類(オジョケラトプスとトロサウルス)、ハドロサウルス類(エドモントサウルスとクリトサウルス)、2タイプの曲竜類(ノドサウルス科のグリプトドントペルタを含む)、ティタノサウルス類のアラモサウルスがいた。生態系に小型の植物食・雑食恐竜はまだ化石が発見されていないものの、テスケロサウルスなどのテスケロサウルス亜科の鳥脚類や、パキケファロサウルスのような堅頭竜類が考えられる。本層の生態系の頂点捕食者はアズダルコ科の翼竜であるケツァルコアトルスと、ティラノサウルス科の恐竜であるティラノサウルスであった。ドロマエオサウルス科の化石が産出していることは、大型のティラノサウルスが生息していながら活発な捕食者の生態的地位が不連続であったことを示唆する。ディネオベラトルと共存した他の獣脚類には、カエグナトゥス科(オジョラプトロサウルス)、オルニトミムス科、 トロオドン科、また分類が定かでないもののリカルドエステシアがいた。また、本層からは少なくとも8個体の哺乳類化石が産出しており、アルファドン、エッソノドン、メソドゥマ、メニスコエッススといったものが挙げられる。カメの化石は5種類から7種類におよび、アスピデレトイデス、コンプセミス、ホプロケリス、ネウランキルス、プラストメヌス、およびおそらくアドクスとバシレミスが産出している。魚類化石はミレダプスとスクアチルヒナおよびおそらくレピソステウスを含む4つの化石が知られている。これらの小動物はディネオベラトルの一般的な獲物になり得たと考えられている[2][3]。
出典
[編集]- ^ a b 米山正寛「北米で羽毛恐竜の化石 7千万年前のディネオベラトル」『朝日新聞』2020年4月25日。2022年11月3日閲覧。
- ^ a b Jasinski, S. E.; Sullivan, R. M.; Lucas, S. G. (2011). “Taxonomic composition of the Alamo Wash local fauna from the Upper Cretaceous Ojo Alamo Formation (Naashoibito Member) San Juan Basin, New Mexico”. New Mexico Museum of Natural History and Science 53 .
- ^ a b c d e f Jasinski, S. E.; Sullivan, R. M.; Dodson, P. (2020). “New Dromaeosaurid Dinosaur (Theropoda, Dromaeosauridae) from New Mexico and Biodiversity of Dromaeosaurids at the end of the Cretaceous”. Scientific Reports 10 (1): 5105. Bibcode: 2020NatSR..10.5105J. doi:10.1038/s41598-020-61480-7. ISSN 2045-2322. PMC 7099077. PMID 32218481 .
- ^ Davis, N. (March 26, 2020). “Fossil of 67m-year-old raptor dinosaur found in New Mexico”. The Guardian 2022年11月3日閲覧。