ハープーン (ミサイル)
RGM-84 ハープーン | |
種類 | 対艦ミサイル |
---|---|
製造国 | アメリカ合衆国 |
設計 | マクドネル・ダグラス |
製造 |
1997年以前: マクドネル・ダグラス 1997年以後: ボーイング |
性能諸元 | |
推進方式 |
A/B44G固体燃料ロケット・ブースター J402-CA-400ターボジェット・サステナ |
飛翔速度 | マッハ0.85 |
ハープーン(英: Harpoon)は、アメリカ合衆国のマクドネル・ダグラス社が開発した対艦ミサイル。アメリカや日本など30ヶ国以上が採用しており、西側諸国ではフランスのエグゾセと市場を二分するベストセラーとなっている[1]。
アメリカ軍においては、艦対艦(SSM)型はRGM-84、潜水艦発射型(USM)はUGM-84、空対艦(ASM)型はAGM-84として制式化されている[2]。愛称の“harpoon”は捕鯨用の銛の意で、元々浮上した潜水艦を攻撃するために開発されていたことに因む。
開発
[編集]1965年、アメリカ海軍航空システム軍団(NAVAIR)は、ブルパップ・ミサイルの後継となる兵器の開発に着手した。当初は航空機から浮上潜水艦を攻撃することが主目的として構想されており、ハープーンという公式の愛称もこれに由来するものであったが、まもなく対艦兵器としても考慮されるようになった。また1967年にエイラート事件が発生する前の段階で、既に、艦上に搭載しての艦対艦ミサイルとしての運用が想定されるようになっていた[2]。
1968年より計画は公式に開始され、1971年6月にはマクドネル・ダグラス社が主契約者に選定された。1972年10月17日には初の試射が行われ、1974年には誘導試射に移った。量産は1975年から開始された。SSM型のRGM-84Aが1977年より配備開始されたのを皮切りに、ASM型のAGM-84Aは1979年、USM型のUGM-84Aは1981年より配備されている[3]。
その後、イギリス海軍の要請にもとづき、巡航高度を更に低空化するとともに、終末航程でポップアップせずにシースキミングのままで突入するよう誘導装置を変更したUGM-84B(イギリス軍での呼称はGWS-60)が開発された。この能力は、次の改良型にあたるブロック1Bにも導入され、これはアメリカ軍においてAGM/RGM/UGM-84Cとして制式化されて、1982年6月より配備を開始した[2][3]。
第3世代の改良型となるブロック1Cは1985年に実用化された。これはジェット燃料をJP-6からJP-10に変更することで射程を延伸するとともに、誘導装置に改良を加えたものであり、アメリカ軍ではAGM/RGM/UGM-84Dとして制式化された[2][3]。
次の改良型となるブロック1Dの開発は1989年より開始され、1991年9月4日にミサイルが初飛行した。これは燃料タンクを約50センチ延長して射程をブロック1Cのほぼ倍に延伸するとともに、目標の捕捉を失った場合の再攻撃能力を付与したものであった[4]。ただし冷戦の終結もあり、ブロック1Cからの改造計画はごく少数で打ち切られた[3]。
1996年、マクダネル・ダグラス社は、次世代のハープーン2000計画を公表し、これは後にブロックIIとなった。これは中間誘導にGPSを併用するとともに弾頭を大型化して、沿海域での戦闘への適合化を進めたものである。またブロック1Dほどではないが射程も延伸されている[3]。
なお、1990年には、本機の基本設計をもとにした対地ミサイルとしてSLAM(Standoff Land Attack Missile)が開発され、AGM-84Eとして制式化された。これをもとに射程を延伸したSLAM-ERも開発されて、こちらは1994年度からAGM-84Hとして配備を開始した[2]。
設計
[編集]発射方式
[編集]ミサイルは先端の尖った円柱形であり、中央部後寄りに4枚の安定翼、胴体末尾に4枚の小型誘導翼がある。
空中発射型は航空機から切り離されると、そのままサステナーのターボジェットエンジンに点火され飛行する。一方、潜水艦発射型と艦船発射型は、ともに固体燃料ロケットエンジンのブースターを装備しており、約7秒間ブースターによって加速された後にブースターを切り離し、初期速度を得た後にターボジェット・サステナーによる飛行に切り替わる。翼は発射後に展開される。艦船発射型は、通常は円筒形のキャニスターに収容され、連装ないし4連装の発射機に架されて搭載されるが、Mk.13 単装ミサイル発射機やアスロック用の8連装発射機からの運用も可能である。潜水艦発射型は専用のカプセルに入れられ魚雷発射管から発射される。海面にカプセルが到達すると、そこからミサイル本体が飛翔を開始する。
また、艦船発射型を地上発射型に改良した派生型も存在しており、デンマーク海軍と韓国陸軍[5]が運用している。
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航空機(A-4 スカイホーク)の胴体下ハードポイントに搭載されたAGM-84 ハープーン。空中発射型のため、尾部に固体燃料ブースターを装備していない。
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RGM-84 ハープーンのキャニスター。ハープーンの格納庫であり、発射機も兼ねる。
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海面から飛翔を開始するUGM-84 ハープーン。吹き飛ばされたカプセルのキャップが画像左上に映り込んでいる。画像は固体燃料ブースターによる加速中のもので、この後尾部のブースターを切り離してターボジェットによる巡航に移行する。
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デンマーク海軍の地上発射型ハープーン発射器。RGM-84のキャニスターを大型トラックに搭載したもの。
誘導方式
[編集]発射時にはあらかじめ敵艦の大まかな位置などの情報を入力し、発射後は慣性誘導によって敵艦の方向へ飛翔、最終段階では自らレーダーを作動させてアクティブレーダーホーミングにより、目標艦船へと突入する。また、敵艦の大まかな位置情報の入力もせず、飛翔方向のみ指定し、発射することもできる。これは、通常のRBL方式(Range and Bearing Launch)に対し、BOL方式(Bearing-Only Launch)と呼ばれ、発射後指定の距離まで達した段階でミサイルのレーダーを作動させ、飛翔方向左右45度の範囲で索敵を行い、発見した目標へ誘導・突入させる。
敵艦までの飛行経路としては高空を巡航する方法と低空を巡航する方法(シースキミング)が選択可能であり、通常はシースキミングを使用する。
- 高空巡航
- 低空を巡航するのに比べて空気密度が小さく、抗力も小さいため射程は長くなる。しかし、かなり遠距離で敵艦のレーダーに探知されてしまい、対空兵器によって迎撃される可能性が高くなる。
- シースキミング
- ミサイルは敵艦から見ると水平線下を飛行してくるため、敵艦に近づくまでレーダーで捕捉されず、対応時間をかなり減らすことが可能である。レーダーの設置位置によってある程度の差があるが、大体水平線下から出てくるのは敵艦から30km前後の位置だといわれる。
ブロック1Cからは、複数の経由点を設定することで迂回航路を設定できるようになった。また同時に、シースキミングを使用した場合、敵艦到達前に一度上昇してから降下しつつ敵艦上面を見て突入させる方法(ポップアップ/ダイブ)と、そのまま低高度で敵艦側面に突入させる方法の2種から選択可能となった。ポップアップは命中率が高まるが、一旦上昇させる分だけ曝露時間が長くなることから敵艦に迎撃のチャンスを与えることとなる。逆にそのまま突入させる場合は、投影面積の差から比較して若干命中率が下がることとなる。 最初期型のハープーンではポップアップ/ダイブのみ、ブロック1Bではシースキミングのままで突入する方法のそれぞれ1つしか選択できなかった。
終末誘導には、テキサス・インスツルメンツ社によるKuバンドのアクティブ・レーダー・ホーミング(ARH)誘導装置が用いられる[2]。
採用国
[編集]仕様
[編集]ブロック1C | ブロック1D | ブロックII | |||
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AGM-84D | RGM/UGM-84D | AGM-84F | AGM-84J | RGM-84J | |
ASM型 | SSM/USM型 | ASM型 | SSM型 | ||
全長 | 3.85 m | 4.63 m | 4.44 m | 3.85 m | 4.63 m |
翼幅 | 91.4 cm | ||||
直径 | 34.3 cm | ||||
重量 | 540 kg | 690 kg | 635 kg | 526 kg | 690 kg |
射程 | 220 km (120 nmi) | 140 km (75 nmi) | 315 km (170 nmi) | 124 km (67 nmi)以上 |
登場作品
[編集]映画
[編集]- 『ゴジラシリーズ』
- 『沈黙の戦艦』
- テロリストに乗っ取られたアイオワ級戦艦「ミズーリ」に搭載されたRGM-84が、衛星中継基地を破壊するために使用される。
- 『亡国のイージス』
- 幹部らの叛乱により架空のイージス護衛艦「いそかぜ」より2発発射され僚艦である架空の護衛艦「うらかぜ」を撃沈した。
- なお「うらかぜ」の76mm単装速射砲により1発は撃墜された。
アニメ・漫画
[編集]- 『ジオブリーダーズ』
- UGM-84が登場。
- 『ジパング』
- 第二次世界大戦時へタイムスリップする架空のイージス護衛艦「みらい」の搭載兵器として、RGM-84が登場。
- オペレーション「サジタリウス」では、ガダルカナル島に上陸したアメリカ海兵隊に対して警告を送るために無弾頭型が1発使用され、レーザー誘導で物資集積所に着弾する[注 3]。アリューシャン撤退戦では、ノースカロライナ級戦艦「ノースカロライナ」に対して3発使用される。
- 『スプリガン』
- 『戦海の剣シリーズ』
- 「くろしお」「しろしお」「さきしお」の搭載兵器として登場。
- 『タイドライン・ブルー』
- 架空の戦略型原子力潜水艦「ユリシーズ」の搭載兵器として登場。
- 『超時空DDH ヘリ母艦南海の決戦』
- 第二次世界大戦時へタイムスリップする架空の護衛艦「うみなり」の搭載兵器として登場。エセックス級航空母艦「レキシントン」に対して使用される。
- 『沈黙の艦隊』
- 架空の原子力潜水艦「やまと」の搭載兵器としてUGM-84が登場。それが通常弾頭か核弾頭であるのかが、物語の重要な要素となる。また、「やまと」は弾頭にチャフを装填した架空型も搭載しており、アメリカ海軍艦艇のレーダーを無力化するために使用される。
- その他、アメリカ海軍艦艇に搭載されたRGM-84が、第2護衛隊群や海上に浮上した「やまと」に対して使用される。
- 『フルメタル・パニック!』
小説
[編集]- 『Op.ローズダスト』
- 第1護衛隊群各艦に搭載されたRGM-84が、テロリストによって仕掛けられたT-Pexを無力化するために使用される。
- 『日本北朝鮮戦争 竹島沖大空海戦』
- 物語終盤の北朝鮮海軍との戦闘の際に、むらさめ型護衛艦「ゆうだち」「きりさめ」、はつゆき型護衛艦「はるゆき」、あさぎり型護衛艦「さわぎり」、こんごう型護衛艦「こんごう」に搭載されたRGM-84が一斉発射され、北朝鮮海軍の艦隊を一瞬で全滅させる。
- 『亡国のイージス』
- 小説・漫画・映画版で反乱を起こした架空のイージス護衛艦「いそかぜ」[注 4]の搭載兵器として、RGM-84が登場。「いそかぜ」の進行を阻止しようとする架空の護衛艦「うらかぜ」[注 5]に対して使用され、「うらかぜ」を撃沈する。
- 小説・漫画版で発射されたのは4発だが、映画版では2発に変更されている。
- 『レッド・ストーム作戦発動』
ゲーム
[編集]- 『MetalStorm』
- 「AIM-54 フェニックス」の名称で登場。安価でやや性能も良いことから人気がある。
- 『Wargame Red Dragon』
- NATO陣営で使用可能な艦船の武装としてRGM-84が、航空機の武装としてAGM-84が登場する。また、「MOBA」の名称でトラックにRGM-84の4連装ランチャーを搭載した地上発射型が登場する。
- 『エナジーエアフォースシリーズ』
- F/A-18 ホーネット・F-35 ライトニングIIなどの搭載装備として登場。
- 『鋼鉄戦記C21』
- パーツ「ハープーンBS」として登場する。
- 『戦闘国家シリーズ』
- 『大戦略シリーズ』
- 艦船・航空機の搭載装備および地対艦ミサイルユニットとして登場。
- 『バトルフィールド4』
- ゲームモード「キャリア・アサルト」にて地上発射型のものが登場し、一定時間ごとに空母に向けて発射される。
- 『サブマリンハンター鯱』
- 「ハープーン・ミサイル」の名称にて対艦・対潜両用ミサイルとして登場。潜水艦が主役の本作では敵空母が繰り出してくる対潜哨戒機を空中で撃ち落とせる唯一の対抗手段として扱われる。
- 『Cold Waters』
- 「UGM-84」の名称にてプレイアブルな潜水艦に搭載され、対艦用として発射可能。
- 『Dangerous Water』
- 『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』
- F/A-18F Super Hornetの特殊兵装「LASM」として登場。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 2023年時点で、シンガポール空軍のフォーミダブル級フリゲート、ヴィクトリー級コルベットが艦対艦型を搭載し、シンガポール空軍が空対艦型を保有している[6]。
- ^ 発射映像は71式ボフォースロケットランチャーだが、目標手前でホップアップしていることから、実際に発射されているのがハープーンだと解る
- ^ 漫画版では「RGM-84-1D-EX」と呼ばれる架空型が使用され、Mk.41 Mod.6 VLSから発射されているが、アニメ版では4連装発射機のRGM-84に直されている
- ^ 原作の「いそかぜ」は架空のはたかぜ型護衛艦3番艦だが、映画版ではこんごう型護衛艦「みょうこう」が代役を務めている。
- ^ 原作の「うらかぜ」は架空のたちかぜ型護衛艦4番艦だが、映画版ではむらさめ型護衛艦「いかづち」が代役を務めている。
出典
[編集]- ^ 海人社 2005.
- ^ a b c d e f Friedman 1997, pp. 255–257.
- ^ a b c d e Parsch 2008.
- ^ 『世界の艦船 1992年5月号(通巻第450集)』海人社、1992年5月1日、16頁。
- ^ ハープーン地対艦ミサイル(韓国) - 日本周辺国の軍事兵器
- ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. pp. 287-288. ISBN 978-1-032-50895-5
参考文献
[編集]- Friedman, Norman (1997). The Naval Institute guide to world naval weapon systems 1997-1998. Naval Institute Press. ISBN 9781557502681
- Parsch, Andreas (2008年). “Directory of U.S. Military Rockets and Missiles - AGM/RGM/UGM-84” (英語). 2014年6月29日閲覧。
- 青木, 謙知『軍用機ウエポン・ハンドブック 航空機搭載型ミサイル・爆弾450種解説』イカロス出版。ISBN 4-87149-749-6。
- 海人社(編)「モノクロ写真頁 写真特集2 世界の代表的艦載ミサイル」『世界の艦船』第639号、海人社、2005年3月、39-48頁、NAID 40006607563。
外部リンク
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