ヒモヅル
ヒモヅル | |||||||||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Lycopodiastrum casuarinoides (Spring) Holub ex R.D.Dixit (1981) | |||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||
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ヒモヅル(紐蔓[1]、学名:Lycopodiastrum casuarinoides)は、ヒカゲノカズラ科の小葉植物の一種である。単型属ヒモヅル属 Lycopodiastrum を構成する[2][3]。異称はキノボリヒカゲノカズラ[4][5]。
茎が紐状に長く伸びて、蔓状になることからこの名がある[1]。茎が紐状に伸びるヒカゲノカズラ科として、ほかにヨウラクヒバ属のヒモスギラン Phlegmariurus fargesii およびヒモラン Phlegmariurus sieboldii が知られる[6]。
形態と生態
[編集]つる性(よじ登り生[1])の常緑草本[7][8][9]。木の枝にからみついて(アカマツなどの[5])高木をよじ登り[10][4][9]、樹幹や樹上に生育する[1]。高さは 5 m(メートル)程度になる[5][11]。このよじ登り型の地上茎を持つのは、ヒカゲノカズラ科の中で唯一の特徴である[12]。また、小梗が複数回二又分枝を行い、6–26個の胞子嚢穂を頂生することもこの種の特徴である[12]。
茎と枝
[編集]茎の主軸は蔓状に伸びて数メートルに達する[7][8]。茎は疎らに分枝し、地面近くの太いところでは直径5 mm を超えることもあるが[13][11]、通常 (1.4–)1.7–2.2(–2.6) mm[8]。それぞれの枝は二又分枝を行う[8]。小枝は垂れ下がる[4]
葉
[編集]葉(小葉)は茎の周りに疎らにつき[13][9]、斜上から開出する[8]。ただし、胞子嚢穂をつける枝では茎に圧着する[8]。栄養葉は全縁の線形で、紙質[8]。辺縁には不規則な毛状突起を持つ[11]。楯状で、先端は伸びてやや透明な膜質となる[13][9]。葉は茎につく位置によって形が異なり、線形から小突起状まで変化する[4]。
下部の側枝の小枝に付く葉は針状で密生する[13][9]。葉を含んだ小枝の径は5 mm に達する[13]。両側の葉は上下のものより多少長く、葉の先端は糸状(芒状[11])に伸びる[13][9]。線状披針形で、長さは 4 mm 前後[11]。
上部の側枝の小枝の葉ほど小さく疎らになり、先の方の小枝は扁平で、幅 1.5 mm ほどになる[13][9]。胞子嚢穂を付ける近くの枝では葉が鱗片状で、茎に対生状につき、葉の約5分の3が茎に沿着(圧着)する[9][11]。この小枝の葉の先端は、脱落しやすい糸状(小突起状[11])の構造物となる[9]。
胞子嚢穂
[編集]胞子嚢穂は、主軸上部にある多数分枝し葉を疎らに付けた側枝の、小枝端に1–3個頂生する[13][9][11]。長さは (1.7–)2.0–2.7(–3.4) cm、径は (3.2–)4.0–5.3(–6.5) mm[8]。
胞子葉は広卵形[13][9]または狭三角形の突起状[8]。長さ 20–25 mm[13][11]。先端は長く伸びて糸状膜質(芒状[11])となる[13][9]。胞子葉の辺縁部は不規則な浅い鋸歯を持つ[11]。
胞子の形態はヒカゲノカズラ科の他の属と大きく異なっている[14][15]。表面に微小突起型(scabrate)の装飾がある[12][15]。
分布
[編集]南アジアのインドから東アジア、東南アジアのニューギニア島にかけてのアジアの亜熱帯および熱帯に広く分布する[13][1][12]。山地の疎林に生息する[13][4][11]。
東アジアでは日本、中国、チベットおよび台湾にかけて分布する[1][16][3]。南アジアではブータン・インドに分布するが[16]、ネパールには見られない[3]。東南アジアではミャンマー、タイ王国、ベトナム、マレー半島、スマトラ島、ボルネオ島、スラウェシ島、フィリピン、ニューギニア島のイリアンジャヤ・パプアニューギニアに分布する[3]。タイプ産地はフィリピン[4]。
日本での分布と保全
[編集]日本では紀伊半島以西の本州と九州の各地に分布する[13][1]。
九州では福岡県行橋市[13][5](旧京都郡稗田村[9][17])、鹿児島県の薩摩郡さつま町(旧宮之城町[13][17])・伊佐市(旧大口市[17])および屋久島[1][9][17]、熊本県天草市[9](旧天草郡倉岳町[17][18])、長崎県の旧琴海町から旧西彼町にかけて[19]に知られる。このうち天草のものは日本で初めて発見された[20]。
紀伊半島では、三重県南牟婁郡御浜町[17]および滋賀県にのみ現存する[5]。和歌山県有田郡鳥屋城村にもあったが[9][17]、既に絶滅した[5]。ほかに山口県で知られ、全国の7県にのみ分布する[5]。
三重県[注釈 1]・福岡県[注釈 2]・熊本県[注釈 3]の自生地は天然記念物に指定されている[1]。分布する各県で絶滅危惧種に指定されている[5]。
分類
[編集]ヒモヅルの属するヒカゲノカズラ科はかつて、フィログロッスム属以外をすべてヒカゲノカズラ属にまとめる分類が行われてきた[22][23]。そのため、ヒモヅルも Lycopodium casuarinoides Spring とされた[7][1]。
しかし、この方法では非常に多様なボディプランの種を一つの属に含んでしまい[22]、分子系統解析においても旧ヒカゲノカズラ属は側系統群となっていた[24][25]。そのため現在では細分化され、ヒモヅルは独自の属ヒモヅル属[22] Lycopodiastrum に置かれる[2][12]。
ヒモヅル属は初め Holub (1975) によって提案され、Dixit (1981) によって正式に発表された[12]。秦仁昌の分類体系 (1981) では日本のヒカゲノカズラ科に2科7属を認め、ここでもヒモヅルは独自のヒモヅル属とされた[12][12]。日本では長らく統一的な分類体系は提唱されず、図鑑でも旧来の分類体系が用いられることが多かった[22][1]。PPG I (2016) では、ヒカゲノカズラ科に3亜科16属を認め[26]、ヒモヅルは秦仁昌の分類体系と同様に単型のヒモヅル属 Lycopodiastrum とされる[2][12]。独立属にしない場合も、ヒカゲノカズラ属のヒモヅル節 sect. Lycopodiastrum に置かれる[27]。
系統関係
[編集]Chen et al. (2021) による分子系統解析に基づくヒカゲノカズラ科現生種の内部系統関係を示す[25]。分子系統解析によりPPG I (2016) で認められた3亜科の単系統性は強く支持される[14]。ヒモヅル属はヒカゲノカズラ亜科の残りの属と姉妹群をなす[14][12]。なお Field et al. (2015) の分子系統解析では、ヒモヅルは Pseudolycopodium、Pseudodiphasium、Austrolycopodium の3属からなるクレードの姉妹群となっていた[24]。
ヒカゲノカズラ科 |
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Lycopodiaceae |
利用
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k 海老原 2016, p. 263.
- ^ a b c PPG I 2016, p. 570.
- ^ a b c d Hassler 2024, Lycopodiastrum casuarinoides.
- ^ a b c d e f 中池 1992, p. 14.
- ^ a b c d e f g h i j 行橋市 2022, 御所ヶ谷のヒモヅル自生地.
- ^ 海老原 2016, p. 270.
- ^ a b c 岩槻 1992, p. 48.
- ^ a b c d e f g h i 海老原 2016, p. 267.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 田川 1959, p. 15.
- ^ 岩槻 1992, pp. 48–49.
- ^ a b c d e f g h i j k l 中池 1990, p. 12.
- ^ a b c d e f g h i j Chen et al. 2021, p. 39.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 岩槻 1992, p. 49.
- ^ a b c Chen et al. 2021, p. 30.
- ^ a b Field et al. 2015, p. 642.
- ^ a b 中池 1990, p. 14.
- ^ a b c d e f g 中池 1990, p. 15.
- ^ “倉岳町のヒモヅル”. 熊本県総合博物館ネットワーク・ポータルサイト. 2025年1月3日閲覧。
- ^ 長崎市自然環境調査委員 中西弘樹『平成29年度 長崎市自然環境調査報告書:植物』(PDF)(レポート) 。2025年1月3日閲覧。
- ^ a b 観光文化部 文化課 (2024年2月6日). “ヒモヅル”. 天草市. 2025年1月3日閲覧。
- ^ 教育委員会 生涯学習係 (2021年3月31日). “文化財について”. 御浜町. 2025年1月3日閲覧。
- ^ a b c d 岩槻 1992, p. 42.
- ^ 海老原 2016, p. 260.
- ^ a b Field et al. 2015, p. 638.
- ^ a b Chen et al. 2021, pp. 25–51.
- ^ PPG I 2016, p. 569.
- ^ 海老原 2016, p. 261.
参考文献
[編集]- Chen, De-Kui; Zhou, Xin-Mao; Rothfels, Carl J.; Shepherd, Lara D.; Knapp, Ralf; Zhang, Liang; Lu, Ngan Thi; Fan, Xue-Ping et al. (2021). “A global phylogeny of Lycopodiaceae (Lycopodiales; lycophytes) with the description of a new genus, Brownseya, from Oceania”. TAXON 71 (1): 25–51. doi:10.1002/tax.12597.
- Field, Ashley R.; Testo, Weston; Bostock, Peter D.; Holtum, Joseph A.M.; Waycott, Michelle (2015). “Molecular phylogenetics and the morphology of the Lycopodiaceae subfamily Huperzioideae supports three genera: Huperzia, Phlegmariurus and Phylloglossum”. Molecular Phylogenetics and Evolution 94 (B): 635-657. doi:10.1016/j.ympev.2015.09.024.
- PPG I (The Pteridophyte Phylogeny Group) (2016). “A community-derived classification for extant lycophytes and ferns”. Journal of Systematics and Evolution (Institute of Botany, Chinese Academy of Sciences) 56 (6): 563-603. doi:10.1111/jse.12229.
- 岩槻邦男 編『日本の野生植物 シダ』平凡社、1992年2月4日。ISBN 4582535062。
- 海老原淳 著 編『日本産シダ植物標準図鑑1』日本シダの会 企画・協力、学研プラス、2016年7月13日。ISBN 978-4054053564。
- 田川基二『原色日本羊歯植物図鑑』保育社〈保育社の原色図鑑〉、1959年10月1日。ISBN 4586300248。
- 中池敏之 著「ヒモヅル [ヒカゲノカズラ科]」、倉田悟、中池敏之 編『日本のシダ植物図鑑 分布・生態・分類 第6巻』日本シダの会 企画、東京大学出版会、1990年2月20日、12–15頁。ISBN 4-13-061066-X。
- 中池敏之『新日本植物誌 シダ篇 改訂増補版』至文堂、1992年11月10日。
ウェブサイト
[編集]- Hassler, Michael (1994–2025). “World Ferns. Synonymic Checklist and Distribution of Ferns and Lycophytes of the World. Version 25.01; last update January 2nd, 2025”. Worldplants. 2025年1月3日閲覧。
- “御所ヶ谷のヒモヅル自生地”. ゆかし、ゆくはし。―行橋市の歴史と文化財― - 行橋市ホームページ (2022年8月12日). 2025年1月3日閲覧。