フォーヴィスム
フォーヴィスム(仏: Fauvisme、野獣派)は、20世紀初頭の絵画運動の名称。ルネサンス以降の伝統である写実主義とは決別し、目に映る色彩ではなく、心が感じる色彩を表現した。
歴史
[編集]1905年、パリで開催された展覧会サロン・ドートンヌに出品された一群の作品の、原色を多用した強烈な色彩と、激しいタッチを見た批評家ルイ・ボークセル(仏: Louis Vauxcelles、英: Louis Vauxcelles)が「あたかも野獣(フォーヴ、fauves)の檻の中にいるようだ」と評したことから命名された。
象徴主義の画家で、当時エコール・デ・ボザール(官立美術学校)の教授をしていたギュスターヴ・モロー[注 1]がフォーヴィスムの画家達の指導者であった。彼が弟子達に主張したのは、形式の枠組みの外で物事を考え、その考えに従うことであった。主な弟子達は、この運動の中心人物であるアンリ・マティス[1]、アンドレ・ドランらであった。
フォーヴィスムはキュビズムのように理知的ではなく、感覚を重視し、色彩はデッサンや構図に従属するものではなく、芸術家の主観的な感覚を表現するための道具として、自由に使われるべきであるとする。ルネサンス以降の伝統である写実主義とは決別し、目に映る色彩ではなく、心が感じる色彩を表現した。世紀末芸術に見られる陰鬱な暗い作風とは対照的に、明るい強烈な色彩でのびのびとした雰囲気を創造した。
フォーヴィスムに分類される主要な画家は、以下のとおり。
- アンリ・マティス(Henri Matisse、1869年 - 1954年)
- ジョルジュ・ルオー(Georges Rouault1871年 - 1958年)
- アンリ・マンギャン(Henri C. Manguin、1874年 - 1943年)
- アルベール・マルケ(Albert Marquet、1875年 - 1947年)
- モーリス・ド・ヴラマンク(Maurice de Vlaminck、1876年 - 1958年)
- ラウル・デュフィ(Raoul Dufy、1877年 - 1953年)
- キース・ヴァン・ドンゲン(Kees Van Dongen、1877年 - 1968年)
- オトン・フリエス(Henri Achille Émile Othon Friesz、1879年 - 1949年)
- シャルル・カモワン(Charles Camoin、1879年 - 1965年)
- アンドレ・ドラン(André Derain、1880年 - 1954年)
- ジョルジュ・ブラック(Georges Braque、1882年 - 1963年)
フォーヴィスムに影響を与えた画家として、明るく強烈な印象の色彩を使用するポール・ゴーギャンやフィンセント・ファン・ゴッホ、点描のジョルジュ・スーラやポール・シニャックに代表される新印象派の画家達、またポール・セザンヌ等が挙げられる。
日本への影響
[編集]フォーヴィスムは日本にも大きな影響を与えている。オトン・フリエスの弟子として坂田一男や宮坂勝が挙げられ、現在の日本美術史にも影響を与えたとされる。
その他、1992年から1993年にかけて『フォーヴィスムと日本近代洋画』(愛知県美術館、京都国立近代美術館、東京国立近代美術館)という展覧会が開催されており、その展覧会では次の21名の作家が取り上げられた。
- 梅原龍三郎(1888年 - 1986年)
- 川上凉花(1887年 - 1921年)
- 岸田劉生(1891年 - 1929年)
- 木村荘八(1893年 - 1958年)
- 熊谷守一(1880年 - 1977年)
- 小出楢重(1887年 - 1931年)
- 小絲源太郎(1887年 - 1978年)
- 児島善三郎(1893年 - 1962年)
- 佐伯祐三(1898年 - 1928年)
- 里見勝蔵(1895年 - 1981年)
- 中川一政(1893年 - 1991年)
- 中川紀元(1892年 - 1972年)
- 中村彝(1887年 - 1924年)
- 野口弥太郎(1899年 - 1976年)
- 長谷川利行(1891年 - 1940年)
- 前田寛治(1896年 - 1930年)
- 三岸好太郎(1903年 - 1934年)
- 村山槐多(1896年 - 1919年)
- 柳瀬正夢(1900年 - 1945年)
- 萬鐵五郎(1885年 - 1927年)
- 寺西進三郎(1938年 - 2017年)
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 「刺青のサロメ」などの作品がある巨匠。マティスに「君は絵を単純化するために生まれてきた」と的確なアドバイスをしている。
出典
[編集]関連項目
[編集]関連書籍
[編集]- 秋丸知貴「フォーヴィズムと自動車」(2013年)(初出:秋丸知貴「フォーヴィスムと自動車――二〇世紀における近代技術による視覚の変容」『形の文化研究』第6号、形の文化会、2011年、23-32頁。)