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色覚異常

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
リンゴの見え方の違いのイメージ

色覚異常(しきかくいじょう)とは、ヒト色覚が正常色覚ではない事を示す診断名である。別の呼び方として小数色覚(しょうすうしきかく)や、1990年代に眼科医の高柳泰世らが提唱した色覚特性(しきかくとくせい)、またはカラーユニバーサルデザイン機構が提唱する色弱者(しきじゃくしゃ)などがある。なお、日本では2004年以前は眼科の診断名として「色盲」「色弱」という呼称が使われていたが、2005年に日本眼科学会によって正式に廃止され、これらの用語は現在では基本的に歴史的な文脈でのみ使われる用語となっている[1]

概要

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2017年には日本遺伝学会が、ヒトが持つ多様な色覚に着目した「色覚多様性」という概念を提唱し、色の見え方はヒトによって多様であり、色覚異常は「異常」ではなく、ヒトにおける色覚の「多様性」の1つであるとした[2][3]

一方で、正常色覚とされる範囲は、眼科学によって定義される。要因が先天性である場合を先天性色覚異常後天性である場合を後天性色覚異常と分類する。先天性色覚異常を持つヒトの割合は、日本においては男性で約5%[4]、女性で約0.2%の割合である[5][6]。しかし、地域によって割合は異なり、例えば、フランスや北欧では、男性で約10%、女性で約0.4%である[5]。また、アフリカ系のヒトでは、2 - 4%程度である[7]。なお、ヒトの色覚は、女性が持つX染色体と関連性が強いため、X染色体のスペアを有する女性の方が、先天性色覚異常は少ない傾向が見られる[8]

分類

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先天色覚異常

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ヒトの錐体細胞(S、M、L)と桿体細胞(R)が含む、視物質の光の吸収スペクトル。黒の破線が桿体細胞のスペクトル。青の線は、短波長側(short)に吸光極大を有するS錐体のスペクトル。赤の線は、長波長側(long)に吸光極大を有するL錐体のスペクトル。緑の線は、この2種類の錐体細胞の中間(middle)に吸光極大を有するM錐体のスペクトルである。例えば、S錐体は、俗に「青錐体」などと呼ばれる事例も見られるものの、青色の光のみを吸収するわけではない。いずれの視細胞も単一の波長にだけ反応するわけではない点に注意を要する。

1色覚

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錐体細胞を全く持たない場合、または、S・M・Lのいずれか1つしか錐体細胞を持たない場合に発生する。発症は数万人に1人と少ない。

錐体細胞を全く持たない場合は、弱い光を感知するために主に利用される桿体細胞のみに[注 1]、光の検知を頼る形になる。暗い場所では正常色覚者でも色が判別不能になり、細かい形状もわかりにくくなる(視力が低下する)が、錐体細胞が全くない場合は、明るい環境でもこの状態になる。つまり、色が全く識別できないだけでなく、弱視などの症状が現れる。視力は0.1程度に留まる。近視などと違い網膜の問題であるため、眼鏡では色覚も視力も改善しない。また、明る過ぎる環境では桿体細胞が正常に働かず、さらに視力が低下する。これに対してはサングラスや遮光眼鏡で対処する。

S錐体のみを持つ場合、ヒトも場合は元来のS錐体自体の数が、M錐体・L錐体に比して約10分の1しかないため、錐体細胞を全く持たない場合とあまり変わらない症状になる。視力は0.3程度。

M錐体またはL錐体のみを持つ場合は、色の識別はできなくとも、視力は比較的良好に保たれる。ただし、このような事例は、極めて稀である。

ミクロネシア連邦ピンゲラップ島は、12人に1人を1色覚者(錐体を持たない)が占める島である。これは、1775年頃に島を襲ったレンキエキ台風によって人口が20数人にまで減ってしまい、その生き残りに1色覚者がいたため、孤立した環境で近親婚を繰り返した結果、1色覚者の割合が高くなった結果である。1色覚者は、暗い場所で微妙な明かりを見分けられるとされている。このため、ピンゲラップ島において1色覚者の人々の多くは、夜釣りの漁師として働いている[9]

赤緑異常

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先天色覚異常の中で最も多く存在し、赤系統や緑系統の色の弁別に困難が生じるヒトが多いとされる。色の弁別に困難が生じるだけで、視力は正常である。日本人では男性の約5%、女性の0.2%が先天赤緑異常で[10]、日本全体では約290万人が存在する。北欧にルーツを持つ男性では約8%、女性では約0.4%で先天赤緑異常が見られる[11]

脊椎動物の色覚は、網膜の中にどのタイプの錐体細胞を持つかによって決まる。魚類両生類爬虫類鳥類には4タイプの錐体細胞(4色型色覚)を持つ種が多い。よってこれらの生物は、長波長域から短波長域である近紫外線までを認識できると考えられている。一方で、ほとんどの哺乳類は錐体細胞を2タイプ(2色型色覚)しか持たない。哺乳類の祖先である爬虫類は、4タイプ全ての錐体細胞を持っていたが、2億2500万年前には、最初の哺乳類と言われるアデロバシレウスが生息し始め、初期の哺乳類は主に夜行性であったため、色覚は生存に必須ではなかった。結果、4タイプのうち2タイプの錐体細胞を失い、青を中心に感知するS錐体と赤を中心に感知するL錐体の2錐体のみを保有するに至った。これは、赤と緑を十分に区別できない、いわゆる「赤緑異常」の状態である。この色覚が哺乳類の子孫に遺伝的に受け継がれていった[12]

ヒトを含む旧世界の霊長類(狭鼻下目)の祖先は、約3000万年前に、X染色体にL錐体から変異した緑を中心に感知する新たなタイプの錐体(M錐体)視物質の遺伝子が出現し、ヘテロ接合体の2本のX染色体を持つメスのみが3色型色覚を有するようになり、さらにヘテロ接合体のメスにおいて相同組換えによる遺伝子重複の変異が起こり、同一のX染色体上に2タイプの錐体視物質の遺伝子が保持されるようになり、X染色体を1本しか持たないオスも3色型色覚を有するようになった。これによって、第3の錐体細胞が「再生」された。3色型色覚は、植物の緑色の葉と、熟して葉とは別な色に変色した果実を、見分けて発見する際などに有利だったと考えられる[12][13]

時代を下ってヒトの色覚の研究成果により、ヒトが属する狭鼻下目のマカクザルに色覚異常がヒトよりも非常に少ない点を考慮すると、ヒトの祖先が狩猟生活をするようになり3色型色覚の優位性が低くなり、2色型色覚の淘汰圧が低下したと考えられる[12]。色覚異常の出現頻度は狭鼻下目のカニクイザルで0.4%、チンパンジーで1.7%である[13]。新世界ザル(広鼻下目)はヘテロ接合体のX染色体を2本持つメスのみが3色型色覚を有し、 オスは全ての個体が色覚異常である。これは狭鼻下目のようなX染色体上での相同組換えによる遺伝子重複の変異を起こさなかったためである[13]。ヒトは上記のような狭鼻下目の祖先のX染色体の遺伝子変異を受け継いでいるため、M錐体を欠損したX染色体に関連する赤緑異常が、伴性遺伝の形式で遺伝し、劣性遺伝の形式で発現する。したがって、男性ではX染色体の赤緑異常の遺伝子を受け継いだ場合に色覚異常が発現するのに対して、女性では2本のX染色体が、いすれも赤緑異常の遺伝子を受け継いだ場合に色覚異常が発現する[8]

青黄色覚異常

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錐体神経のうち、S錐体の異常(第3色覚異常)により発生する。先天的な青黄色覚異常は、非常に稀である。正常色覚者でもS錐体の数は少なく、そこからの情報は補助的にしか利用していない[注 2]ため、生活上の不便は特になく、本人も周囲の者も気付かない場合が多い。日本の学校でかつて全員に行われていた色覚検査でも、赤緑異常の検出に主眼を置いていたため、発見される機会も少なかった。

強度の青黄色覚異常の場合、かすかに緑がかった黄色と青紫色が中性点(無彩色に見える点)となる。しかし、赤緑異常での中性点[注 3]が、日常的に同明度で区別を要する状況が頻出するのに対し、黄色と青紫が同明度で使われることは、まずあり得ない[注 4]。また、緑と青の区別も難しいが、正常者でも青と緑は区別しない傾向にあるため、周囲の者も気付かないだけである。逆に赤緑異常の者にとっては、青と緑は違う色に見え、正常者が区別しない傾向にあることを不思議に感じる場合が多い。逆に言えば「正常色覚」は、青と緑の判別力が相対的に弱いと言える。また、青黄色覚異常のヒトは、赤から緑にかけての色の識別は問題が出ないものの、緑から青にかけての色の識別は正常色覚よりも劣る。S錐体が欠損しているため波長410 nm前後の光を吸収できず、厳密には紫みを帯びた青は黒く見え、黄色は白く見えるようになる。

まとめ

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正常色覚RGBW
1型2色覚RGBW
2型2色覚RGBW
3型2色覚RGBW

実際の患者によるヒアリングによると、3型は絵のように青がここまで黒くなく、もう少し青く見えると判明した。錐体細胞の異常の有無と現れる色覚異常の関係を表にまとめると、下記の通りである。

錐体細胞の異常の有無と現れる色覚異常の関係
錐体細胞 名称 症状 発生頻度
S M L
正常色覚 正常(無症状) ヒトの大多数の色覚。
× 1型色覚 赤系統 - 緑系統の色弁別に困難が生じるが、
正常色覚とほぼ同程度の弁別能を持つ者も多い。
日本では男性約20人に1人。
女性約500人に1人。
× 2型色覚
× 3型色覚 正常色覚とほとんど変わらないが、
正常色覚と比べて全体的に色がくすんで暗く見える。
日本では数万人に1人[注 5]
× × 1色覚 色は識別できないが、視力は正常。 日本では数万人に1人。
× ×
× × 色が識別できず、視力も低い。
× × ×
  • 日本眼科学会が2005年に更新した色覚関連用語は以下の通りである[14]
色覚に関する眼科用語(一部)
医学用語(現行) 医学用語(2004年以前) 英語名
1色覚 全色盲 achromatopsia
2色覚 2色型色覚 dichromatism
3色覚・正常色覚 正常3色型色覚・正常色覚 normal trichromatism
異常3色覚 異常3色型色覚・色弱 anomalous trichromatism
1型色覚 第1色覚異常 protan defect
1型2色覚 第1色盲・赤色盲 protanopia
1型3色覚 第1色弱・赤色弱 protanomaly
2型色覚 第2色覚異常 deutan defect
2型2色覚 第2色盲・緑色盲 deuteranopia
2型3色覚 第2色弱・緑色弱 deuteranomaly
3型色覚 第3色覚異常 tritan defect
3型2色覚 第3色盲・青色盲 tritanopia
3型3色覚 第3色弱・青色弱 tritanomaly

後天色覚異常

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後天色覚異常は視覚系の障害に生じて起こる症候(随伴症状)のうち先天性でないものすべてで、病変部位も要因も様々である(加齢変化・心因性色覚異常・色視症など)、後天性色覚異常では青錐体に障害を受けた黄青判別の異常の報告例が多いが、これは赤や緑の錐体に異常が起きると色覚以前に視力障害の影響が大きく「視力に異常をきたさずに色覚だけ異常が起きている」という状況が青錐体の障害以外では起きないためである。そもそも後天的に選択的に特定種類の錐体だけ障害がおこるというのが考えにくく(特殊な遺伝性疾患などでは考えられる)、元々少ない青錐体が減った場合はともかく赤緑の判別が難しいほど赤や緑錐体が障害を受けている場合は青黄の判別の判別もできなくなっている場合が多い[15]

古いうちから「視野狭窄の色彩版」のようなものが報告されていて、健常者でも視野で実際によく見えるのは中心部のみで外側に行くほどはっきり見えなくなるが、「このはっきり見えない」は形状だけではなく色にも当てはまり、緑→赤→青の順に見えなくなっていき視野の最外部はほぼ色の判別ができなくなる。病気などでこの「色がわかる範囲」が狭まる現象が起きることがあり、これを後天性色盲と言われたが、先天性の物と違って全色盲・赤緑色盲といった分類はなく不規則で片目の一部だけ色が見えなくなる状態であること、むしろ同時に起こる視力低下の方が通常問題となるため、存在自体は古くから確認されていたものの色盲としてはあまり注意されなかった[16]

これ以外の事例として、第四次視覚野に銃弾を撃ち込まれてその部位だけ壊されてしまった事で色の判別ができなくなり、視界が白黒に映るようになったという例がある(全色盲の例でもある)。銃弾が速く鋭利に発展したため、脳の一部のみを破壊する例が増え、こうした症例も確認されるようになったとされる[17]

検査・評価

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仮性同色表

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石原表の一例

色覚異常を有すると数字などが読めない指標や、色覚異常を有する場合とない場合で異なる物が読める指標、色覚異常者には読め、正常色覚者には読めない指標を読ませる方法で色覚異常を検出する。この方法は感度が高く、ほとんど正常に近い色覚異常でも検出できる[18]。色覚特性に対する高い検出力、検査の簡便さや準備の手軽さ、低費用などの長所を有するため、色覚検査で頻用される方法の1つであり、精密検査の際に、他の色覚検査法に先立って行われる場合も多い。

石原表が有名で世界的に用いられているほか、標準色覚検査表、東京医大表などが作られてきた。色覚異常がある場合でも後述の理由でカラーセロファンなどの一般的な色フィルターをかざすことで、色覚検査表を判読することができる場合がある。

アノマロスコープ

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レイリーマッチを使用したアノマロスコープ

赤緑異常の評価に頻用される。緑の光と赤の光を混合すると黄色く見えるが、これを黄色の波長の光を見ながら同じく見えるように混合比を調節させる物である。赤緑異常を持っている場合、正常人に比べて混合比がどちらかに大きく偏る傾向が見られる。

パネルD-15テスト

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D15テストセット

連続した色相の15個のチップを、色が連続的に変化するように並べる方法である。ある2色の区別が難しい場合は、それ以外の色の変化のみに着目した配列にしてしまうため、色覚異常の種類・程度を判別できる。

航空業界や船舶業界では、石原表と合わせて検査に使われている(後述)。

症状

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CIEXYZ色空間に色が見分けにくい傾向を示す3種の混同色線を重ねた図。

色覚異常は、かつて色盲と呼ばれたため[注 6]、「白黒に見える」ような誤解を持つ者も見られるが、それは稀な1色型色覚の場合のみである。先天色覚異常の大多数を占める赤緑異常の当事者は、有彩色を検知している。先天色覚異常者の色弁別能(2つ以上の色が同じか違うかを判別する能力)は、正常色覚者の色弁別能に劣る。しかし、軽度の先天色覚異常者の色弁別能は、日常生活で特に不便は感じない[19]

混同色

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色差が少なく、見分けにくい色の組み合わせを混同色と呼ぶ[20]

以下のような色の組み合わせの例は、正常色覚者と先天色覚異常者とで見分けやすさが異なる場合が多い。正常色覚者にとっては同系色でない色彩の組み合わせを、先天色覚異常者が同系色と認識する、あるいは色相を特定できないなどといったことが生じる場合がある。狭い面積に配色された物(細い線の文字など)は、より判別し難くなるなど、色彩以外の条件も影響する。なお、以下の色彩は、各々のコンピュータやディスプレイの設定・特性に影響されるため、参考程度に考えるべきである。また、これらは先天色覚異常の説明のための物に過ぎず、色覚異常の判定に用いることは不適切である。大雑把に言えば、明度が近い場合に、赤っぽさと緑っぽさを混同しているように見える。

淡赤と淡緑
淡赤と淡灰
淡緑と淡灰
淡青紫と淡青灰
淡青緑と淡青灰
淡青紫と淡青緑
赤味青と緑味青
青紫と暗青
赤味黄と緑味黄
黄赤と黄緑
暗黄と暗緑
暗赤と暗緑(重度の場合)
赤黒と黒(1型色覚の場合)
赤と暗橙(1型色覚の場合)
緑黒と黒(2型色覚の場合)
青緑と灰(2型色覚の場合)

社会生活

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色というものは自分がどう見えているのかを他人と比較しようがないので元々主観的な要素が強く、一番多い視力自体は悪くはない赤緑異常の場合、赤と緑が同系統の色に見えても先天性のためそれに慣れてしまっており、周囲の物の色などは学習して見分けられることが多く、「検査して初めて気がついた」という人が通常であり、また明治時代の日本で1色型色覚であっても自身でそれを把握しているので布などは買う際に色を聞いて覚えておくことで明るさだけで区別し、小学校で裁縫の教師をしていた人なども報告されている。 ただし、果実の色のように固定的でなく微妙な変化があるものの場合は見分けられず「木の実の収穫で青い実を誤って取る」「初見のもの(新しく買った服の色合いなど)に対応できない」といったようなトラブルは古くから報告されており、石原表で有名な石原忍はこうしたことを理由に「自分が色盲だと云うことを知っていれば(当人にとって)都合が良い」(迷った場合人に聞く、間違えやすい色の場合注意したり見方を変え対応できることがあるなど)と述べている[21]。 これ以外に信号の色の判別が難しい、肉の焼け具合がわかりにくい、顔色がわかりにくい[注 7])など、非当事者には十分に知られていない部分も多い。また「色盲」「異常」などの言葉の語感ゆえ誤解・理解不足による偏見を招き、社会生活の多くの面で制限を受ける場合が多い。

日本における強制検査

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日本の小学校では、全児童を対象に石原表を用いた「色盲検査」が行われていた。1994年以降は4年次における1回だけになった。その後に文部科学省は「色覚異常についての知見の蓄積により、色覚検査において異常と判別される者であっても、大半は支障なく学校生活を送ることが可能であることが明らかになってきていること、これまで、色覚異常を有する児童生徒への配慮を指導してきていること」を理由として、2003年度より色覚検査を定期健康診断の必須項目から削除した[22]

学校内で必要に応じて色覚検査を行うことについては、日本学校保健会は「学習指導や進路指導に際して、色覚異常の児童生徒を配慮するために、検査の実施を必要とする考えから」、色覚検査の任意実施を認める姿勢にある。また日本眼科医会は、2013年の調査で色覚異常の子どもの半数が異常に気付かぬまま進学・就職時期を迎え、その6人に1人が進路の断念などのトラブルを経験していると分かった[22][23]。このため、希望者には小学校低学年と中学1・2年で検査を実施するのが望ましいとの考えも見られた[24]。2014年に、文部科学省は学校保健安全法施行規則を一部改正し、事前の同意を得た上での個別の検査・指導などの働きかけを適切に行い、保護者などに色覚に関する周知を積極的に行うように通知した[25]。この通知は「学校での色覚検査の取り組みを積極的に進めるように」との趣旨と解釈され、日本の学校では2016年度から児童生徒に「色覚希望調査票」を配布し、希望者に色覚検査を実施することにした[26]

雇用者については、労働安全衛生法で義務づけられた雇い入れ時健康診断の必須項目の中に色覚検査が加えられており、実際に行われることは少なかった[要出典]ものの、法的には新規採用社員は色覚検査を受ける必要があった。この義務は、採用を制限しないよう指導する目的で2001年に廃止された[23]

大学への入学制限

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以前の日本では多くの大学が入学制限を課しており[27]、中には、医師免許の取得には昔から色覚による制限がなかったにもかかわらず、入学者選考時に色覚制限を課す大学が多く存在した。1993年以降、ほぼすべての国立大学で色覚による制限は撤廃され、私立大学もそれに準じている。

会社への就職制限

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上述の通り、雇い入れ時健康診断における色覚検査は廃止されたが、これは雇用者が任意に検査を実施することを禁ずるものではなく、企業によっては制限を課している場合もある。

厚生労働省は、

  • 色覚検査は現場における職務遂行能力を反映するものではないことに十分注意すること。
  • 各事業場で用いられている色の判別が可能か否かを確認するだけで十分であること。
  • 「色覚異常は不可」などの求人条件をつけるのではなく、色を使う仕事の内容を詳細に記述すること。
  • 採用選考時の色覚検査を含む健康診断については、職務内容との関連でその必要性を慎重に検討し、就職差別につながらないよう注意すること。
  • 各事業場内において「色」の表示のみにより安全確保等を図っているものについては、文字との併用などにより、誰もが識別しやすい表示方法に配慮すること。

という指導を行っている。しかし実情としては、同じ業種であっても色覚制限の有無は企業によってまちまちである。

職種の制限

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1875年にスウェーデンで船が信号を間違えたことにより衝突事故(死者9人)が発生し、生理学者のホルムグレーンはこれを調査後、機関手が色覚異常で信号を間違えたのが原因と報告し、これ以後も事故の後に調査したところ乗員に色覚障害が見つかったという報告例が幾度もあったので西洋を中心に会員や鉄道員など色の信号を見る職種には色覚異常者はつかない方が良いと言われるようになった[28](日本の場合、1912年時点で鉄道員や海軍を含む船員の学校、色を扱うことがあるという理由で工業学校などで色覚検査を厳重に行うようになり、陸軍の場合も現役将校はダメという制限があった。)。しかし、色覚検査で厳密に測定すると健康と思われた人でも少々色覚が弱いというケースが多数見つかり、「支障があるから色覚に問題があるものをその業務につけない」とする場合に合否基準をどこにするのかという問題と、色覚の検査方法で異常有り無しが違うこともあったため、1910年代初頭までに実際的に判断するべきだということで「鉄道や船の乗員ならば、実際に使っている鉄道や船の信号を見分けられるかで検査」という傾向になっていた[29]

日本では偏見が薄れ、少しずつ改善傾向にある。学校の健康診断で色覚検査は2003年に行われなくなったが、これ以降の世代は自身の色覚について知る機会がなかったため、色覚に制限がある職種の採用試験で発覚したという事態も起きた[30]

日本眼科医会では、鉄道運転士(後述)、染色業、塗装業、滴定実験を伴う業務、色調整・色校正が伴う業務については、異常3色覚であっても就業が困難とし、パイロットや鉄道・航空関係の整備士、商業デザイナー、警察官、看護師、獣医師、カメラマン、食品の鮮度を確認する作業が伴う業務、美容・服飾関係の業務については2色覚での就業が困難としている。また、医師や薬剤師、理容師、電気工事士、教師などについては本人の努力が必要としている。このため、日本眼科医会は進路選択前に、色覚検査の受診を推奨している[31]

絵画など色を使う芸術分野への就業は不可能ではないが、色の判別ができないことは足かせとなるため、安藤正基のように白黒で済む漫画家を目指す者もいる[注 8]。また石ノ森章太郎は『マンガ家入門』において「色が判別できなければ(アシスタントなどの)他人に塗ってもらえばいい」としている。

運転免許については信号機の色が弁別しづらいために取得できないという誤解が見られるものの、実際は、普通自動車免許については赤、黄、青の3色を弁別できれば取得できる[33]。運転免許が取得できるにもかかわらず、バスの運転手では採用をしないケースもあったが、色覚補正レンズの使用を認める例もある[34]

船舶は舷側灯として左舷側には紅灯、右舷側には緑灯の装備が法定(海上衝突予防法21条2項)されており赤緑異常は致命的であるが、海技士パネルD15テストで正常とみなされれば受験可能である。また水先法施行規則によれば、水先人になるためには色盲または強度の色弱でないことが求められる。2004年からは、小型船舶操縦士は強度異常であっても、夜間に舷側灯の色が識別できれば免許を取得できるようになった。

航空機の位置灯は左翼端が赤灯、右翼端が緑灯、上下が赤色の閃光灯であるため、船舶と同じく赤緑異常は致命的であり、操縦士は石原表で正常範囲と認められない場合は不適合となるが、パネルD15テストの検査と眼科の専門医の判断により適合となる場合もある[35]。一方で、航空管制官の採用試験では、色覚に異常のある者は不合格となる[36]。航空業界では法的に定めがなくとも航空整備士や地上支援業務を行うグランドハンドリングなど、航空機に接近する職種での色覚異常を有する者の採用は厳しい。

動力車操縦者(鉄道の運転士)免許試験では色覚に異常のある者の受験を長らく認めていなかったが、2024年7月に受験資格が見直され受験できるようになった[37]。根拠法は、国土交通省が定める、『動力車操縦者運転免許に関する省令』による。また運転士以外の運転業務に就く際にも色覚が正常である必要がある。なお鉄道会社では、運転業務に就く可能性がない非常勤採用などの場合を除き、採用時に色覚検査を行っており、色覚に異常のある者は、鉄道会社への就職はできない場合が多い[23]

自衛隊では、航空機関係と潜水艦乗組員には特に厳しい色覚制限がある。しかし、その他の職種についてはパネルD15テストの結果が正常であれば入隊可とされている。これは、防衛医科大学校の医官が実際に自衛官の各業務の内容を実地に精査し、色覚異常の隊員等の勤務成績も勘案した結果出された判断であって、その後10年間の追跡調査でも、色覚異常の有無による勤務成績の差は見られていない。

毒物及び劇物取締法によれば、色覚異常者には特定毒物研究者の許可を与えないことができる。

警察官採用試験は自治体により異なっていたが、最後まで残っていた沖縄県が2011年6月に制限を廃した。

徴兵検査

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徴兵検査では多くの国で詳細な色覚の検査が行われてきた歴史があり、日本では石原表が官民で広く用いられていた。男性約22人に1人いる2型色覚の場合には兵科色の中に区別できない物が何種類か存在することになり、軍務を行う上で重大な欠陥として扱われてきた。このため2型色覚は兵役免除の対象になった。たとえば、2型色覚の混同色である橙色と黄緑色はドイツ軍では前者が憲兵、後者が装甲擲弾兵部隊を表していた。

徴兵制が世界的に行われていた時代には身体的欠陥による徴兵不適格者は社会的にあらゆる場面で差別を受けたため、色覚異常は過剰に障害として問題視されたが、現代では兵科色自体があまり使われなくなったことや、誤認を防ぐ色分け方法の発達などによりそれほど問題とされなくなった。

対応

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デザイン・ウェブサイト

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デザインの分野では、色覚異常者に重要な表示が読みづらくなる可能性を考慮して、特定の色遣いを避けることが推奨されている。ウェブサイト設計においては、前景色と背景色の色差、明度差を一定以上にするようW3Cがガイドラインを示している。

  • 赤(R)、緑(G)、青(B)の明るさをそれぞれ0 - 255の256段階で表す。
    明度差
    表示された際の明るさの差を表す。
    • 明度差は(R×299 + G×587 + B×114 )/ 1000 で計算する。
    • 明度差は125以上が望ましい。
    色差
    表示された際の色相の差を表す。
    • 色差は、RGBそれぞれの前景色と背景色の差を取り、合計した値。
    • 色差は500以上が望ましい。

これらの対応を行えば、色覚異常を有していても読みやすい表示が可能と言われる。加えて、白黒表示環境など多様な環境からのアクセシビリティの確保にも有利だと考えられる。

交通信号機

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2012年2月に、東京都・芝郵便局前交差点に試験設置された信号機。 赤信号にピンク色で×印を表示している。

1910年代までには、もっとも多い赤緑異常の場合、青黄の判別は支障がないと分かっていたので、鉄道や船の信号に色覚異常者にとって紛らわしい色(純粋な赤と緑)はそのまま用いず、黄や青を加えるという方法が行われていた[38]

その後、道路の交通信号機では、照明を白熱電球からLEDに変更した影響により、色覚異常者が以前より色の判別が難しくなったとの指摘もある。しかし、赤信号に特殊なLEDで×印を表示する方法で、色覚異常者が赤と黄信号を判別しやすいように配慮されたユニバーサルデザインの信号機が開発された[39][40]

電子機器

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状態を表示するために2色LEDを使用している電子機器において、その多くが赤と緑の組み合わせであるため、色覚異常で最多を占める赤緑異常のヒトには、状態を判別できない。しかし、青色LEDの実用化に伴い、青とアンバーや青と赤の組み合わせの2色LEDも製品化された[41][42]

治療

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日本においては、鍼灸などの治療家や医療研究家による、先天色覚異常は治療可能であるという主張があり[43]、その主張を支持する医師、研究者、当事者らも一部に存在する。しかし、眼科学において先天色覚異常が治療されたとみなされる例は、現在のところ報告されていない。

一方で、「治療」という言い方が正しいのか微妙な所だが、かなり古くから「赤緑異常でも赤緑の色の区別はできなくても明るさは区別できる」のでそれを利用して赤と緑の光を増減することで判断しにくいものを判別する手法があった。第一の方法は色フィルターを使うもので、普通に見ると同程度の明るさに見えても赤や緑のガラス越しに見ることで緑と赤で明るさが変わる(赤フィルターの場合、赤→明るく、緑→暗くと変化する。緑フィルターの場合は逆で、どちらの場合も同程度の明るさの無彩色の灰色の場合は変化が起きない。)ので区別ができるようになる。第二の方法は光源を変えることで、太陽光では同程度に見えても、赤みの強い低温の光源(マッチやランプなど)で見ると赤が明るく緑が暗くなるので判別できるようになるというものである[44]。 また、第一の方法を応用し「上だけ色のついた度の無いレンズの眼鏡」を装着し、透明な側と色付き側を交互に見れるように訓練をして「当人に一見同色に見えるが違う色」を把握し、それぞれのわずかな色味の違いを見分けられるようにするという訓練なども行われたことがある[45]

脚注

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注釈

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  1. ^ ヒトの視細胞のなかでは、桿体細胞が最多を占める。つまり、多くの光センサーで、光を待ち構えている状態である。
  2. ^ 赤や緑に比べていい加減な再現でも、ヒトの眼には違いが判別し難いため、画像圧縮でも青色情報には少ない情報量しか割り当てられない。
  3. ^ 大雑把に赤と緑だが、厳密には第1色覚と第2色覚で微妙に異なる。
  4. ^ 同明度の黄色と青紫は、一般的にいう黄土色と藤色の関係であり、普通の黄色と青紫では白と黒ほど明度が違って見えるため区別できないことは事実上ない。
  5. ^ ほとんどの場合、後天色覚異常が多い。
  6. ^ 先述「医学用語(2004年以前)」表にもある通り。
  7. ^ 全ての色覚異常者がこれらに該当するわけではない。
  8. ^ 実際には色塗り作業は多い[32]

出典

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参考文献

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関連項目

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外部リンク

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