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ヘスペロルニス類

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヘスペロルニス科から転送)
ヘスペロルニス類
Hesperornithes
生息年代:
後期白亜紀, 100–66 Ma
分類
: 動物界 Animalia
: 脊椎動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
階級なし : 鳥翼類 Avialae
階級なし : 鳥尾類 Ornithurae
階級なし : ヘスペロルニス類 Hesperornithes
: ヘスペロルニス目 Hesperornithiformes
学名
Hesperornithes
Fürbringer, 1888[1]
シノニム
和名
ヘスペロルニス類[4]
ヘスペロルニス目[5]
下位分類群[8]

ヘスペロルニス類学名 : Hesperornithes)は、現世の鳥群の祖先に近縁関係があり、絶滅し高度に特殊化した潜水鳥類の一群。ヘスペロルニス類は北半球海洋淡水の両方に生息しており、ヘスペロルニスパラヘスペロルニス英語版バプトルニスエナリオルニスポタモルニス英語版などのが含まれており、いずれも泳ぎが得意な捕食性の鳥類。泳ぐことに最も特化したの多くは、完全に飛ぶことができない鳥類であった。既知されている最大のヘスペロルニス類であるカナダガ・アークティカ英語版は、成体で最大全長2.2メートルに達した可能性がある[9]

ヘスペロルニス類は、海洋に進出した唯一の中生代の鳥類である。ヘスペロルニス類は、エナンティオルニス類や他のすべての非鳥類型恐竜と共に、白亜紀と古第三紀の間の大量絶滅で絶滅した。

解剖学と生態学

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ヘスペロルニス・レガリスの復元図

この分類学について分かっている殆どのことは、化石が断片的なため十分な資料が揃っておらず、分析は単一種の分析に基づいている。エナリオルニス科ブロダヴィス科に属するより小型で基盤的な種の中には飛べた可能性のある種もいたが、ヘスペロルニスやバプトルニスのような大型のヘスペロルニス科には退化した翼しかなかった。現代の潜水鳥類と同様に、これらの動物の大腿骨中足骨は短く、脛骨は長かった。また、アビ属カイツブリ科ペンギン目と同様に、は胴体のかなり後方に位置していた。ヘスペロルニス科は泳ぎも潜水も得意だったに違いないが、陸上では非常に不格好で、巣を作る以外は陸上で過ごす時間はほとんどなかったと考えられている。また、かなり胴が長く、体長は180センチメートルほどだった[10]

研究者の中には、陸上では腹這いになって足で押すしかなかったと考える者もいる。股関節膝関節の形状は、これらの種が背腹方向に動かせない形になっており、休息姿勢では足が体から横に突き出ているため、直立歩行ができなかったと考えられる[6]。足の指の解剖学的特徴から、ヘスペロルニス類は水中で推進力を得るために、水掻きではなく、カイツブリ科のような小葉状の皮膚を持っていたことが示唆されている。これらの動物の骨密度が高いため浮力が低く、潜水が容易になった[11]。しかし、現代の水生鳥類との形態測定学的比較では、ヘスペロルニス類はアビ属やカイツブリ科よりも、潜水カモ類英語版ウ科との類似点が多いことが示唆されている[12]

吻部は長く、先端はわずかに鉤状の嘴で、嘴の後方の顎には縦溝に埋め込まれた一連の単純で鋭い歯が並んでいた。これらはおそらく、アイサ属の鋸歯状の嘴のように、を捕えるのに役立ったものとされる[13][14]。現代の鳥類とは異なり、下顎骨の間に関節が残っていた。これにより、下顎の後方部分を前方部分とは独立して回転させることが可能になり、下の歯を外すことが可能になったと考えられている[10]

進化

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現在、ヘスペロルニス類は現代の鳥類の祖先ではない、非常に特殊化した系統であると認識されている。しかし、両者の関係は十分に近縁なため、おそらく白亜紀初期には現代の鳥類の祖先から分岐していたと考えられている。

最古のヘスペロルニス類として知られているのは、前期白亜紀エナリオルニスである。ヘスペロルニス類の種の大部分は、北アメリカ後期白亜紀から知られている。小型のヘスペロルニス類の化石は、ジュディスリバー層群英語版の後期白亜紀の淡水堆積物ヘルクリーク層ランス層、およびユーラシアのいくつかの地層から発見されている。これらの種は、ウ科やアビ属とほぼ同じ大きさであった。

分類

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ヘスペロルニス類はもともと、1888年にマックス・フューアブリンガー英語版によって鳥綱亜綱Hesperornithesとして命名された[1]。のちにヘスペロルニス類の階級はとされ、学名の語尾を変えてヘスペロルニス目Hesperornithiformes)となった[15]。2004年、ジュリア・クラーク英語版は系統発生の観点からヘスペロルニス類を定義した最初の人物となった。クラークは、Hesperornithesを現代の鳥類よりもヘスペロルニス・レガリスに近いすべての種と定義し、HesperornithiformesをHesperornithesのシノニムとして扱った。クラークはまた、より包括的なグループであるヘスペロルニス科Hesperornithidae)を、バプトルニスよりもヘスペロルニスに近いすべてのヘスペロルニス類として定義した[2]

ヘスペロルニス類はもともと、1873年にオスニエル・チャールズ・マーシュによってイクチオルニスと統合され、側系統群Odontornithes」に分類された。1875年に、Odontolcaeとして分離された。この一群は、アビ属やカイツブリ科[16]、あるいは(骨質の口蓋の類似性に基づき)古顎類と関連があると考えられていた[17]。しかし、これらの類似点は、近年になって、少なくともヘスペロルニスの骨基質英語版新顎類のものと類似したパターンで配置されていたことが判明したことと同様に[18]、現在では収斂進化によるものと考えられている[19][20]

近縁関係

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2015年に行われた種レベルの系統解析により、ヘスペロルニス類の間に以下の関係が発見された[21]

Hesperornithes

Pasquiaornis

Enaliornis

Baptornithidae

AMNH 5101

FMNH 395

Baptornis advenus

Brodavidae

Brodavis varneri

Brodavis baileyi

Fumicollis hoffmani

Hesperornithidae

Parahesperornis alexi

Hesperornis

脚注

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  1. ^ a b Fürbringer, M. 1888. Untersuchungen zur Morphologie und Systematik der Vögel, zugleich ein Beitrag zur Anatomie der Stütz- und Bewegungsorgane. T. van Holkema: Amsterdam. 2 Vols. doi:10.5962/bhl.title.51998.
  2. ^ a b c Clarke, J. A. (2004). “Morphology, Phylogenetic Taxonomy, and Systematics of Ichthyornis and Apatornis (Avialae: Ornithurae)”. Bulletin of the American Museum of Natural History 286: 1–179. doi:10.1206/0003-0090(2004)286<0001:MPTASO>2.0.CO;2. hdl:2246/454. http://digitallibrary.amnh.org/dspace/bitstream/2246/454/1/B286.pdf. 
  3. ^ Cope, E.D. 1889. Synopsis of the Families of Vertebrata. The American Naturalist, Vol. 23, No. 274, pp. 849-877. doi:10.1086/275018.
  4. ^ 冨田幸光・對比地孝亘・三枝春生・池上直樹・平山廉・仲谷英夫「恐竜類の分岐分類におけるクレード名の和訳について」『化石』第108巻、日本古生物学会、2020年、23-35頁、doi:10.14825/kaseki.108.0_23 
  5. ^ 田中公教・小林快次ヘスペロルニス目:白亜紀の潜水鳥類の起源と進化」『日本鳥学会誌』第67巻、日本鳥学会、2018年、57-68頁、doi:10.3838/jjo.67.57 
  6. ^ a b Larry D. Martin; Evgeny N. Kurochkin; Tim T. Tokaryk (2012). “A new evolutionary lineage of diving birds from the Late Cretaceous of North America and Asia”. Palaeoworld 21: 59–63. doi:10.1016/j.palwor.2012.02.005. 
  7. ^ Tomonori Tanaka; Yoshitsugu Kobayashi; Ken'ichi Kurihara; Anthony R. Fiorillo; Manabu Kano (2017). "The oldest Asian hesperornithiform from the Upper Cretaceous of Japan, and the phylogenetic reassessment of Hesperornithiformes". Journal of Systematic Palaeontology. Online edition. doi:10.1080/14772019.2017.1341960.
  8. ^ Holtz, Thomas R. Jr. (2012) Dinosaurs: The Most Complete, Up-to-Date Encyclopedia for Dinosaur Lovers of All Ages, Winter 2011 Appendix.
  9. ^ Wilson, Laura; Chin, Karen; Cumbaa, Stephen; Dyke, Gareth (2011-03-01). “A high latitude hesperornithiform (Aves) from Devon Island: palaeobiogeography and size distribution of North American hesperornithiforms”. Journal of Systematic Palaeontology 9: 9–23. doi:10.1080/14772019.2010.502910. https://www.researchgate.net/publication/233446737_A_high_latitude_hesperornithiform_Aves_from_Devon_Island_palaeobiogeography_and_size_distribution_of_North_American_hesperornithiforms. 
  10. ^ a b Perrins, Christopher (1987). “Bird Families of the World”. In Harrison, C.J.O.. Birds: Their Lifes, Their Ways, Their World. Reader's Digest Association, Inc.. pp. 165–167. ISBN 978-0895770653. https://archive.org/details/birdstheirlifeth00came/page/165 
  11. ^ Chinsamy, A.; Martin, Larry D.; Dobson, P. (1998). “Bone microstructure of the diving Hesperornis and the volant Ichthyornis from the Niobrara Chalk of western Kansas”. Cretaceous Research 19 (2): 225. doi:10.1006/cres.1997.0102. 
  12. ^ Bell, Alyssa; Wu, Yun-Hsin; Chiappe, Luis M. (2019). “Morphometric comparison of the Hesperornithiformes and modern diving birds”. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 513: 196–207. Bibcode2019PPP...513..196B. doi:10.1016/j.palaeo.2017.12.010. 
  13. ^ Marsh, Othniel Charles (1880): Odontornithes, a Monograph on the Extinct Toothed Birds of North America. Government Printing Office, Washington DC.
  14. ^ Gregory, Joseph T. (1952). “The Jaws of the Cretaceous Toothed Birds, Ichthyornis and Hesperornis. Condor 54 (2): 73–88. doi:10.2307/1364594. JSTOR 1364594. http://sora.unm.edu/sites/default/files/journals/condor/v054n02/p0073-p0088.pdf. 
  15. ^ Sharpe, R.B. 1899. A hand-list of the genera and species of birds. Vol. I. London. British Museum (Natural History).
  16. ^ Cracraft, Joel (1982). “Phylogenetic relationships and monophyly of loons, grebes, and hesperornithiform birds, with comments on the early history of birds”. Systematic Zoology 31 (1): 35–56. doi:10.2307/2413412. JSTOR 2413412. 
  17. ^ Gingerich, P. D. (1973). “Skull of Hesperornis and the early evolution of birds”. Nature 243 (5402): 70–73. Bibcode1973Natur.243...70G. doi:10.1038/243070a0. 
  18. ^ Houde, Peter (1987). “Histological evidence for the systematic position of Hesperornis (Odontornithes: Hesperornithiformes”. The Auk 1045 (1): 125–129. doi:10.2307/4087243. JSTOR 4087243. http://sora.unm.edu/node/24363. 
  19. ^ Stolpe, M. (1935). “Colymbus, Hesperornis, Podiceps: ein Vergleich ihrer hinteren Extremität” (ドイツ語). Journal für Ornithologie 83: 115–128. doi:10.1007/BF01908745. 
  20. ^ Bogdanovich, I.O. (2003). “Морфологiчнi аспекти філогеніі Hesperornithidae (Ornithurae, Aves) [Morphological Aspects of the Phylogeny of the Hesperornithidae (Ornithurae, Aves)]” (uk, ru, en). Vestnik Zoologii 37 (6): 65–71. オリジナルのAugust 31, 2021時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210831102222/http://www.v-zool.kiev.ua/pdfs/2003/6/07.pdf. 
  21. ^ Bell, A.; Chiappe, L. M. (2015). “A species-level phylogeny of the Cretaceous Hesperornithiformes (Aves: Ornithuromorpha): Implications for body size evolution amongst the earliest diving birds”. Journal of Systematic Palaeontology 14 (3): 239–251. doi:10.1080/14772019.2015.1036141.