ボホナー空間
数学の分野におけるボホナー空間(ボホナーくうかん、英: Bochner space)とは、必ずしも実数の空間 R あるいは複素数の空間 C とは限らないバナッハ空間に値を取る関数への、Lp空間の概念の一般化である。
ボホナー空間 Lp(X) は、バナッハ空間 X に値を取るボホナー可測関数 f で、そのノルム ||f||X が通常の Lp 空間に属するようなもの全ての同値類からなる。したがって、X が複素数の集合であるなら、ボホナー空間は通常のルベーグ空間 Lp となる。
Lp 空間に関するほとんど全ての結果は、ボホナー空間についても同様に得られる。特に、ボホナー空間 Lp(X) は に対してバナッハ空間である。
背景
[編集]ボホナー空間は、ポーランド系アメリカ人数学者のサロモン・ボホナーの名にちなむ。
応用
[編集]ボホナー空間は、時間依存の偏微分方程式、例えば熱方程式の研究へのアプローチとしての関数解析学において、しばしば用いられる。温度 が時間および空間についてのスカラー関数であるとき、 と書くことで、f を時間についての関数とし、f(t) を空間についての関数とすることが、いくつかのボホナー空間においては可能となる。
定義
[編集]測度空間 (T, Σ, μ)、バナッハ空間 (X, || · ||X) および 1 ≤ p ≤ +∞ が与えられたとき、ボホナー空間 Lp(T; X) は、対応するノルムが有限であるような全ての可測関数 u : T → X の空間の(等号はほとんど至る所についてのものであるような)コルモゴロフ商として定義される。すなわち、そのような u に対しては
が成立する。言い換えると、Lp 空間の研究においてよくあるように、Lp(T; X) は関数の同値類であって、そこでは二つの関数が等しいとは、T の μ-測度ゼロの部分集合を除いた至る所でそれらが等しいことを言う。そのような空間の研究においてよくあるように、それは(より技術的には正しい)同値類と言うよりは、Lp(T; X) の「関数」と言う記号の濫用がよく見受けられる。
偏微分方程式への応用
[編集]空間 T は偏微分方程式を解こうとしている時間区間で、μ は一次元ルベーグ測度であるようなことが頻繁にある。ここでのアイデアは、時間および空間の関数を、空間の関数の集まりと見なし、その集まりが時間についてパラメータ付けられるものとすることである。例えば、Rn 内の領域 Ω および時間区間 [0, T] 上の熱方程式の解としては、
および時間微分が
であるようなものを探すであろう。ここで は、一回弱微分可能でその一回弱微分が L²(Ω) に属し、Ω の境界上で(トレースの意味で)消失するような関数からなるソボレフヒルベルト空間を表す。あるいはそのような関数は、Ω にコンパクトな台を持つような滑らかな関数の極限でもある。 は の双対空間を表す。
(ボホナー空間を使うことで空間依存性は除かれるため、上記の時間 t についての偏微分は実際には全微分である。)
参考文献
[編集]- Evans, Lawrence C. (1998). Partial differential equations. Providence, RI: American Mathematical Society. ISBN 0-8218-0772-2