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リュウキュウマツ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
リュウキュウマツ
リュウキュウマツ(東京都小笠原村父島)。小笠原諸島には人為的に持ち込まれた帰化植物である。
保全状況評価[1]
LOWER RISK - Least Concern
(IUCN Red List Ver.2.3 (1994))
分類新エングラー体系
: 植物界 Plantae
: 裸子植物門 Pinophyta
: マツ綱 Pinopsida
: マツ目 Coniferae
: マツ科 Pinaceae
: マツ属 Pinus
: リュウキュウマツ P. luchuensis
学名
Pinus luchuensis Mayr (1894)[2]
和名
リュウキュウマツ(琉球松)、リュウキュウアカマツ[2]
英名
Ryukyu Island pine

リュウキュウマツ(琉球松[3]学名: Pinus luchuensis)は、マツ科マツ属針葉樹。別名はリュウキュウアカマツ(琉球赤松)[4]、オキナワアカマツ[4]、オキナワマツ(沖縄松)[3]沖縄方言ではマーチ[3][5]、マチ[3][6]八重山方言ではマチィという。沖縄県の県木にも指定されている。

形態[編集]

常緑高木で雌雄同株[4]。高さは30メートル (m) 、幹径1 mに達する[3]。沖縄の気候に適した針葉樹のひとつで、生長が早く、20年ほどで高さは14 mにもなる[3]。樹冠は傘型で、横に大きな枝を出す[3]。樹皮はクロマツに似ていて、下の方で亀甲形に剥がれていく[3]。枝は長枝と短枝を持つ二形性で葉は短枝に2本が束生する。長さは10 - 15センチメートル (cm) 、細くてやわらかい[3]。球果(松かさ)は卵形で、長さ約5 cm、幅は約3 cmほどある[7]

発芽様式は地上性(英:epigeal)で子葉は地上に出てくる。他のマツと同じく多子葉植物である。子葉の数は6枚前後とクロマツより若干少なくアカマツに近いという[8]

生態[編集]

耐風性や耐潮性に優れ、極端な乾燥地以外には特に土壌を選ばず、日当たりのよいところを好む性質がある[7]。パイナップル産業の勃興により山地が開墾され、松が枯死したものも非常に多い。石垣島ではかつて直径1メートルを超す巨松が群生していた。

他のマツ科針葉樹と同じく、菌類と樹木のが共生して菌根を形成している。樹木にとっては菌根を形成することによって菌類が作り出す有機酸や抗生物質による栄養分の吸収促進や病原微生物の駆除等の利点があり、菌類にとっては樹木の光合成で合成された産物の一部を分けてもらうことができるという相利共生の関係があると考えられている。菌類の子実体は人間がキノコとして認識できる大きさに育つものが多く、中には食用にできるものもある。土壌中には菌根から菌糸を通して、同種他個体や他種植物に繋がる広大なネットワークが存在すると考えられている[9][10][11][12][13][14]。外生菌根性の樹種にスギニセアカシアが混生すると菌根に負の影響を与えるという報告がある[15][11]。土壌の腐植が増えると根は長くなるが細根が減少するという[16]

熱帯産のマツを中心にしばしば知られることではあるが、本種苗木も適当な日長条件下に置くと側枝が伸びず主幹ばかりが伸びるfoxtailing(和名未定)という現象が見られるという[17]。実験ではfoxtailing現象は日長12時間の時に最も頻繁に見られ、それ以下でも以上でも減少したという[18]。また、熱帯多雨地域の樹種にありがちであるが、本種も冬芽を形成せず連続成長することでも知られる。自生地より高緯度の和歌山県へ移入された個体を観察した結果ごく小さい冬芽を形成し、生長を止めるものがあったという[19]

リュウキュウマツには幾つかの枯死にいたる重大病害が知られているほか、高温障害が見られることがあるという[20]。マツ材線虫病の蔓延や化石燃料の普及によるマツ林の放棄などによりリュウキュウマツ林は広葉樹化が進行している。

マツ材線虫病[編集]

マツ材線虫病(英:pine wilt、通称:松くい虫)は本種をはじめ全国的にマツ類の枯死被害をもたらしている病害である。原因は線虫による感染症であることが1971年に日本人研究者らによって発表され[21]、その後カミキリムシによって媒介される[22]ことが判明した。日本のマツ類はこの病気に感受性が高く[21][23]、枯死しやすいことから媒介昆虫であるカミキリムシの駆除や殺線虫剤の樹幹注入などの対策が被害の先端地域や保安林などの重要な森林を中心に進められている。また、被害の大きかった森林でも枯死せずに生き残ったマツを選抜して種を採り、線虫に強い系統を探し固定する試みが行われている。

線虫抵抗性系統のリュウキュウマツは幾つか見つかっているが数はあまり多くない。また、いずれも産地が沖縄本島に偏っていること、島嶼部に分布する種であるために島ごとに遺伝子が異なっている可能性があり、不用意に本島の抵抗性個体を持ち込むと遺伝子汚染につながることが懸念されており課題だという[24]。なお、沖縄県で見られるリュウキュウマツの集団枯損にはマツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)が関与していないと見られるものがしばしば報告されている[25]

南根腐病[編集]

南根腐病(英:brown root rot)は熱帯地域の各種樹木に発生し枯死に至ることが多い致命的な病害である。日本においても石垣島の防風林において1980年代後半にまとまった被害が確認され、病名和名を南根腐病とすることが提案された[26]。病原性が強いことのほか、地中の根の接触部から感染するという様式、非常に多くの樹種に感染することなどが課題として研究が進められている。

分布[編集]

トカラ列島以南の南西諸島に分布る[27][7]。ただし、元々分布していたのは第三紀層・中世層・古生層などの地質時代の古い島に限られており、それ以外は移入種であるという[28]。明治以降、緑化または薪炭材にするために小笠原諸島にも移植され、父島母島で広く繁茂する外来種帰化植物)となっている[4]

人間との関係[編集]

沖縄県を代表する針葉樹としてイヌマキとともに育種に力が入れられている[24]

沖縄では公園樹街路樹、および防潮林防風林など多方面に広く用いられている[7]。美しい樹形と、台風が多い沖縄の気候ならびに土壌環境が合っており、琉球列島では極めて有用な樹種とされている[7]。緑化樹としても適しており、沖縄本島の高速道路の法面にも使われている[7]首里城の内外にも植栽されており、今帰仁城知念城座喜味城中城城などのグスクにも大きな株が見られる[7]

沖縄本島の仲原馬場周辺にある松並木は、今帰仁城とともに沖縄県の文化財に指定されている[7]。沖縄本島以外では、久米島の長岳松並木も有名である[7]

銘木として有名なものに沖縄県伊平屋村念頭平松久米島五枝の松がある。戦前、沖縄本島の首里から普天間宮へ至る参道には、5キロメートル (km)にわたるリュウキュウマツの並木道宜野湾並松(じのーんなんまち)が存在した。

リュウキュウマツをシンボルとする自治体[編集]

リュウキュウマツは、1972年(昭和47年)に沖縄県の県木として指定されている[7]

かつて指定していた自治体(消滅)[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Conifer Specialist Group 2000. Pinus luchuensis. In: IUCN 2010. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2010.4.
  2. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Pinus luchuensis Mayr リュウキュウマツ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年4月29日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i 辻井達一 2006, p. 18.
  4. ^ a b c d 国立環境研究所 侵入生物DB リュウキュウマツ 2021年8月25日閲覧
  5. ^ 首里・那覇方言音声データベース 琉球大学附属図書館沖縄言語研究センター
  6. ^ 今帰仁方言音声データベース 琉球大学附属図書館沖縄言語研究センター
  7. ^ a b c d e f g h i j 辻井達一 2006, p. 20.
  8. ^ 諸見里秀宰. (1962) リュウキュウマツの子葉数. 沖縄農業1(2), p.53-54. hdl:20.500.12000/0002015081
  9. ^ 谷口武士 (2011) 菌根菌との相互作用が作り出す森林の種多様性(<特集>菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性). 日本生態学会誌61(3), pp. 311 - 318. doi:10.18960/seitai.61.3_311
  10. ^ 深澤遊・九石太樹・清和研二 (2013) 境界の地下はどうなっているのか : 菌根菌群集と実生更新との関係(<特集>森林の"境目"の生態的プロセスを探る). 日本生態学会誌63(2), p239-249. doi:10.18960/seitai.63.2_239
  11. ^ a b 岡部宏秋,(1994) 外生菌根菌の生活様式(共生土壌菌類と植物の生育). 土と微生物24, pp. 15 - 24.doi:10.18946/jssm.44.0_15
  12. ^ 菊地淳一 (1999) 森林生態系における外生菌根の生態と応用 (<特集>生態系における菌根共生). 日本生態学会誌49(2), pp. 133 - 138. doi:10.18960/seitai.49.2_133
  13. ^ 宝月岱造 (2010)外生菌根菌ネットワークの構造と機能(特別講演). 土と微生物64(2), pp. 57 - 63. doi:10.18946/jssm.64.2_57
  14. ^ 東樹宏和. (2015) 土壌真菌群集と植物のネットワーク解析 : 土壌管理への展望. 土と微生物69(1), p7-9. doi:10.18946/jssm.69.1_7
  15. ^ 谷口武士・玉井重信・山中典和・二井一禎(2004)ニセアカシア林内におけるクロマツ実生の天然更新について クロマツ実生の菌根と生存率の評価. 第115回日本林学会大会セッションID: C01.doi:10.11519/jfs.115.0.C01.0
  16. ^ 喜多智靖(2011)異なる下層植生の海岸クロマツ林内でのクロマツ菌根の出現頻度. 樹木医学研究15(4), pp.155-158. doi:10.18938/treeforesthealth.15.4_155
  17. ^ 万木豊・永田洋(1987)12時間日長でのリュウキュウマツの枝無し連続生長の誘導. 日本林学会誌69(6), p.236-239. doi:10.11519/jjfs1953.69.6_236
  18. ^ 万木豊・永田洋・赤井龍男(1996)リュウキュウマツの側枝形成に及ぼす日長の影響. 日本林学会誌78(3), p.335-336. doi:10.11519/jjfs1953.78.3_335
  19. ^ 青木まどか・平田真智子・山本将功・中島敦司(2011)温暖化の進行によって亜熱帯に生息するリュウキュウマツは温暖化した暖温帯でいきていけるのか 3年生リュウキュウマツの成長に及ぼす高緯度への移動の影響. 第122回日本森林学会大会セッションID: Pb2-63. doi:10.11519/jfsc.122.0.770.0
  20. ^ 大宜味朝栄(196x)リュウキュウマツの病害について. 琉大農家便り166, p.2-6. hdl:20.500.12000/21303
  21. ^ a b 清原友也・徳重陽山 (1971) マツ生立木に対する線虫Bursaphelenchus sp.の接種試験. 日本林学会誌53(7), pp. 210 - 218. doi:10.11519/jjfs1953.53.7_210
  22. ^ 森本桂・岩崎厚 (1972) マツノザイセンチュウ伝播者としてのマツノマダラカミキリの役割. 日本林学会誌54(6), pp. 177 - 183. doi:10.11519/jjfs1953.54.6_177
  23. ^ 古野東洲. (1982) 外国産マツ属の虫害に関する研究 : 第7報 マツノザイセンチュウにより枯死したマツ属について. 京都大学農学部演習林報 54 p.16-30, hdl:2433/191761
  24. ^ a b 玉城雅範(2017)シリーズ 各都道府県の林業・林産業と遺伝育種の関わり(16)沖縄県. 森林遺伝育種6(4), p.178-181. doi:10.32135/fgtb.6.4_178
  25. ^ 中村克典・秋庭満輝・相川拓也・小坂肇・伊禮英毅・喜友名朝次(2010)沖縄県宮古島のリュウキュウマツ枯死木およびマツノマダラカミキリからのBursaphelenchus属線虫検出調査. 日本森林学会誌92(1), p.45-49. doi:10.4005/jjfs.92.45
  26. ^ Yasuhisa ABE, Takao KOBAYASHI, Masatoshi ONUKI, Tsutomu HATTORI, Masaichi TSURUMACHI (1995) Brown Root Rot of Trees Caused by Phellinus noxius in Windbreaks on Ishigaki Island, Japan. 日本植物病理学会報61(5), p.425-433. doi:10.3186/jjphytopath.61.425
  27. ^ 鹿児島県環境生活部環境保護課編 『鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 -鹿児島県レッドデータブック植物編-』 財団法人鹿児島県環境技術協会、2003年、483頁、ISBN 4-9901588-1-4
  28. ^ 初島住彦・中島邦夫。(1979) 琉球の植物.講談社, 東京.

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]