ルーカン
ルーカン卿(Sir Lucan)は、アーサー王物語に登場する人物。アーサー王付きの執事[1](butler[2])として紹介されるが、厳密に意味解釈するならばワイン係の「献酌侍臣」である[3][4][2]。
のちのマロリーの作品ではベディヴィア卿の兄弟で[1][5]、コルネウス公(Corneus)の息子とされる[6][5]。
作品の中の人物
[編集]初出は『ペルスヴァル』の『第一続篇』(1200年頃)で[5]、そこではアーサーの軍が「傲れる城」(仮訳)(Castel Orguellous)を攻撃するとき、一番手となってジョスト(槍試合)に出場した[7]。
流布本系(ランスロ=聖杯サイクル)や、マロリー作品においては、モードレッド卿が引き起こした謀反の最終決戦であるソールズベリー(他の文献ではカムランの戦いとされる戦い)を生き残ったわずかの家臣の一人である。ただし、二つの作品では、設定が次のように異なる。
流布本系『アルテュス王の死』(1230年頃)では、ソールズベリー平原での戦い後、ルーカンは従兄弟のジルフレ(グリフレット卿)と共に、負傷した王を「黒き寺院」(Noire chapel)まで担いだとされている。そして悲しみに呉れたアーサーは、ルーカンを強く抱擁しすぎるあまり圧殺してしまう[8]。王剣エクスカリバーを湖に捨てるよう命じられるたのは、この作品では従兄弟のジルフレである。続流布本系(Post-Vulgate)では、負傷した彼らの行き場所は「古き寺院」という[9]。
トーマス・マロリー『アーサーの死』(1470年)では、ルーカン卿はベディヴィア卿の兄弟(兄)[1]に設定されている。そして、ソールズベリーの「丘陵」での決戦後、アーサーを抱えていくのはルーカンとベディヴィア卿の二人に置換わっている。そして王を寺院から移動するため持ち上げようとした際、ルーカンは腹の傷が破れて内臓が飛び出し、死亡する。そのあと最後に残った家臣が、弟のベディヴィアであり、エクスカリバーを湖に捨てよと仰せつかる。
マロリーの作品では、初期は騎士としての活躍もあったが、それでも、ごくたまに槍試合において名前だけ登場するが、これといった活躍はしない。
脚注
[編集]- ^ a b c Malory, XXI:4-5; 厨川 1996訳『アーサー王の死』, p.430「執事役のルーカン卿、..その弟のベディヴィア卿」
- ^ a b 英語のbutlerを調べてもわかるが、その本来の語源(古フランス語 butiller)は「ワイン係官」を意味した。
- ^ 役職は"butler, cupbearer, wine steward" などとも意訳される (Bruce 1999)
- ^ 流布本系の英訳(Lacy 1966, p. 418)で"Lucan [the Wine Steward]"とある
- ^ a b c Bruce 1999, Lucan の項
- ^ Malory, I:10; 厨川 1996訳『アーサー王の死』, p.53「コルネウス公の息子である執事役のルーカン卿」
- ^ Madden, Frederic, ed (1839). Golagros and Gawane. London: Printed by R. and J. E. Taylor. pp. p.336-(Notes) Madden は元の韻文ロマンスでなく、散文版『ペルスヴァル物語』を元に要約を収録している。『ゴラグロスとガウェイン』を参照
- ^ Lacy 1996, pp. 361-, vol.V (Summaries: Death of Arthur Ch. 23)
- ^ Lacy 1996, pp. 302-, vol.V, Post-Vulgate Death of Arthur Ch. 156, 158; p.303 note 9 "Ancient Chapel"
参考文献
[編集]- トーマス・マロリー、ウィリアム・キャクストン 著、厨川文夫 訳『アーサー王の死』厨川圭子、筑摩書房〈中世文学集 I〉、1986年。ISBN 4-480-02075-6。
- Bruce, Christopher W. (1999). The Arthurian Name Dictionary. Taylor & Francis. ISBN 0815328656
- Lacy, ed (1996). Garland Publishing. ISBN 0815307578