年刊日本SF傑作選
『年刊日本SF傑作選』(ねんかんにほんエスエフけっさくせん)は、東京創元社が刊行していた年度別SFアンソロジー。編者は大森望と日下三蔵。2007年の作品を集めた『虚構機関』(2008年12月刊)より、創元SF文庫で毎年刊行されていた。
姉妹編として、大森望単独編集の《ゼロ年代日本SFベスト集成》(『〈S〉ぼくの、マシン』『〈F〉逃げゆく物語の話』)が同じく創元SF文庫より刊行された。
毎年十数作に及ぶ日本語SF短編・中編を収録する。日本SFの年刊傑作選の刊行は、『日本SFベスト集成』(筒井康隆編、徳間書店 1960年代版・1971年版~1975年版)以来である。
2019/8/29刊行の12巻目の『おうむの夢と操り人形』で創元SF文庫でのシリーズは終了。2020年、『年刊日本SF傑作選』全12巻が第40回日本SF大賞特別賞を受賞。
2019年度の作品を集めた『ベストSF2020』が大森望単独編集で竹書房文庫から2020/7/30に刊行、2020年度の作品を集めた『ベストSF2021』が同じく竹書房文庫から2021年11月に刊行された。2021年度の作品を集めた『ベストSF2022』が竹書房文庫から、2022年8月に刊行された。
編者
[編集]編者はそれぞれ別のアンソロジーの編者も務めており、大森望は『NOVA 書き下ろし日本SFコレクション』(河出文庫 2009年~)を、日下三蔵は『日本SF全集』(出版芸術社 2009年~)を編集している。1957年~2006年の作品を対象とした『日本SF全集』は、2007年作品から始まった『年刊日本SF傑作選』の前史的な位置づけが与えられている。
大森は第1集『虚構機関』の序文で、日下・大森をそれぞれ、『ワールズ・ベストSF』のウォルハイムとカー(理由は示されていない[1])、および、『日本SFベスト集成』の筒井康隆(SF作家の作品から選ぶ)と『年刊SF傑作選』のジュディス・メリル(周辺作品から選ぶ)になぞらえている。
3『量子回廊』以降に収録されている創元SF短編賞受賞作の選考にあたっては、毎回ゲスト選考委員が参加している。
対象作
[編集]収録の対象となるのは、奥付に準拠し毎年1月~12月(月刊誌では1月号~12月号)に発表された日本語作品。期間内の発表なら同人誌・ウェブ公開など商業出版以外も対象となる。
原則として発表済みの作品が対象だが、例外的に、1『虚構機関』には円城塔の未発表作(群像新人文学賞2次選考通過作品)、2『超弦領域』には同じ円城の書き下ろしが収録されている。2『超弦領域』刊行時には、大森・日下が選考委員を務める創元SF短編賞の募集が開始され、3『量子回廊』以降には各回の受賞作と選評が巻末に掲載されている。
大部分は小説だが、各巻1~2作の漫画が収録されている。また短歌、エッセイなど小説以外の文学作品もある。
『SFマガジン』誌(早川書房)、『SF Japan』誌(徳間書店)、アンソロジーシリーズ『異形コレクション』(光文社、井上雅彦編)から重点的に収録されている[2]。『NOVA1 書き下ろし日本SFコレクション』(河出書房新社、大森望編)、『神林長平トリビュート』(早川書房)からの収録は見合わされた[3]。
刊行
[編集]- 『虚構機関 年刊日本SF傑作選』2008年12月26日発行、ISBN 978-4-488-73401-5、2007年作品集
- 『超弦領域 年刊日本SF傑作選』2009年6月30日発行、ISBN 978-4-488-73402-2、2008年作品集
- 『量子回廊 年刊日本SF傑作選』2010年7月30日発行、ISBN 978-4-488-73403-9、2009年作品集
- 『結晶銀河 年刊日本SF傑作選』2011年7月29日発行、ISBN 978-4-488-73404-6、2010年作品集
- 『拡張幻想 年刊日本SF傑作選』2012年6月29日発行、ISBN 978-4-488-73405-3、2011年作品集
- 『極光星群 年刊日本SF傑作選』2013年6月28日発行、ISBN 978-4-488-73406-0、2012年作品集
- 『さよならの儀式 年刊日本SF傑作選』2014年6月27日発行、ISBN 978-4-488-73407-7、2013年作品集
- 『折り紙衛星の伝説 年刊日本SF傑作選』2015年6月29日発行、ISBN 978-4-488-73408-4、2014年作品集
- 『アステロイド・ツリーの彼方へ』2016年6月30日発行、ISBN 978-4-488-73409-1、2015年作品集
- 『行き先は特異点』2017年6月30日発行、ISBN 978-4-488-73410-7、2016年作品集
- 『プロジェクト:シャーロック』2018年6月29日発行、ISBN 978-4-488-73411-4、2017年作品集
- 『おうむの夢と操り人形』2019年8月29日発行、2018年作品集
各巻のタイトルに意味はなく、SFらしい響きの四字熟語を名付ける方式をとっていたが、7『さよならの儀式』からは収録作のタイトルからとっている。『虚構機関』は山田正紀『エイダ』に登場する装置の名で、収録作「The Indifference Engine」(「公平化機関」の意味)にもかけている。『超弦領域』は山田正紀『超弦世界のマリア』(連載中断・未単行本化作)と半村良『不可触領域』の合成である[4]。
1『虚構機関』は年刊傑作選としては遅めの翌年12月刊行だったが、これは企画が立ち上がったのが遅かったため。次巻からは、翌年6-7月という標準的な時期に出ている。
各巻には両編者による序文と後記(1『虚構機関』では大森が序文・日下が後記、以下、各巻交代)および、大森望による年度概況が収録されている。また、短編推薦作リストも掲載されている。
各収録作には、冒頭に編者による作品解説・著者紹介、末尾に「著者のことば」(一部ないものあり)が収録されている。
『SFが読みたい! 2010年版』(対象:2008年11月〜2009年10月発行書籍)では、『虚構機関』が8位、『超弦領域』が7位となった(『虚構機関』の刊行が遅かったために同年の年間ランキングにランクインした)。
収録作リスト
[編集]作者 | タイトル | 備考 | 収録 | 発表年 |
---|---|---|---|---|
小川一水 | グラスハートが割れないように | 虚構機関 | 2007年 | |
山本弘 | 七パーセントのテンムー | |||
田中哲弥 | 羊山羊 | |||
北國浩二 | 靄の中 | |||
円城塔 | パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語 | |||
中原昌也 | 声に出して読みたい名前 | |||
岸本佐知子 | ダース考 着ぐるみフォビア | |||
恩田陸 | 忠告 | |||
堀晃 | 開封 | |||
かんべむさし | それは確かです | |||
萩尾望都 | バースディ・ケーキ | |||
福永信 | いくさ 公転 星座から見た地球 | |||
八杉将司 | うつろなテレポーター | |||
平谷美樹 | ||||
林譲治 | 大使の孤独 | |||
伊藤計劃 | The Indifference Engine | |||
法月綸太郎 | ノックス・マシン | 超弦領域 | 2008年 | |
林巧 | エイミーの敗北 | |||
樺山三英 | ONE PIECES | |||
小林泰三 | 時空争奪 | |||
津原泰水 | 土の枕 | |||
藤野可織 | 胡蝶蘭 | |||
岸本佐知子 | 分数アパート | 「あかずの日記」より | ||
石川美南 | 眠り課 | |||
最相葉月 | 幻の絵の先生 | |||
Boichi | 全てはマグロのためだった | |||
倉田英之 | アキバ忍法帖 | イラスト・内藤泰弘 | ||
堀晃 | 笑う闇 | |||
小川一水 | 青い星まで飛んでいけ | |||
円城塔 | ムーンシャイン | |||
伊藤計劃 | From the Nothing, With Love. | |||
上田早夕里 | 夢見る葦笛 | 量子回廊 | 2009年 | |
高野史緒 | ひな菊 | |||
森奈津子 | ナルキッソスたち | |||
皆川博子 | 夕陽が沈む | |||
小池昌代 | 箱 | |||
最果タヒ | スパークした | |||
市川春子 | 日下兄妹 | |||
田中哲弥 | 夜なのに | |||
北野勇作 | はじめての駅で 観覧車 | |||
綾辻行人 | 心の闇 | |||
三崎亜記 | 確認済飛行物体 | |||
倉田タカシ | 紙片50 | |||
木下古栗 | ラビアコントロール | |||
八木ナガハル | 無限登山 | |||
新城カズマ | 雨ふりマージ | |||
瀬名秀明 | For a breath I tarry | |||
円城塔 | バナナ剥きには最適の日々 | |||
谷甲州 | 星魂転生 | |||
松崎有理 | あがり | 第 | 1回創元SF短編賞受賞作||
冲方丁 | メトセラとプラスチックと太陽の臓器 | 結晶銀河 | 2010年 | |
小川一水 | アリスマ王の愛した魔物 | |||
上田早夕里 | 完全なる脳髄 | |||
津原泰水 | 五色の舟 | |||
白井弓子 | 成人式 | |||
月村了衛 | 機龍警察 火宅 | |||
瀬名秀明 | 光の栞 | |||
円城塔 | エデン逆行 | |||
伴名練 | ゼロ年代の臨界点 | |||
谷甲州 | メデューサ複合体 | |||
山本弘 | アリスへの決別 | |||
長谷敏司 | allo, toi, toi | |||
眉村卓 | じきに、こけるよ | |||
酉島伝法 | 皆勤の徒 | 第 | 2回創元SF短編賞受賞作||
小川一水 | 宇宙でいちばん丈夫な糸 ――The Ladies who have amazing skills at 2030. | 拡張幻想 | 2011年 | |
庄司卓 | 5400万キロメートル彼方のツグミ | |||
恩田陸 | 交信 | |||
堀晃 | 巨星 | |||
瀬名秀明 | 新生 | |||
とり・みき | Mighty TOPIO | |||
川上弘美 | 神様 2011 | |||
神林長平 | いま集合的無意識を、 | |||
伴名練 | 美亜羽へ贈る拳銃 | |||
石持浅海 | 黒い方程式 | |||
宮内悠介 | 超動く家にて | |||
黒葉雅人 | イン・ザ・ジェリーボール | |||
木々津克久 | フランケン・ふらん ―OCTOPUS― | |||
三雲岳斗 | 結婚前夜 | |||
大西科学 | ふるさとは時遠く | |||
新井素子 | 絵里 | |||
円城塔 | 良い夜を持っている | |||
理山貞二 | 〈すべての夢|果てる地で〉 | 第 | 3回創元SF短編賞受賞作||
宮内悠介 | 星間野球 | 極光星群 | 2012年 | |
上田早夕里 | 氷波 | |||
乾緑郎 | 機巧のイヴ | |||
山口雅也 | 群れ | |||
高野史緒 | 百万本の薔薇 | |||
會川昇 | 無情のうた | 『UN-GO』第2話「明治開化 安吾捕物帖 ああ無情」より | ||
平方イコルスン | とっておきの脇差 | |||
西崎憲 | 奴隷 | |||
円城塔 | 内在天文学 | |||
瀬尾つかさ | ウェイプスウィード | |||
瀬名秀明 | Wonderful World | |||
宮西建礼 | 銀河風帆走 | 第 | 4回創元SF短編賞受賞作||
宮部みゆき | さよならの儀式 | さよならの儀式 | 2013年 | |
藤井太洋 | コラボレーション | |||
草上仁 | ウンディ | |||
オキシタケヒコ | エコーの中でもう一度 | |||
藤野可織 | 今日の心霊 | |||
小田雅久仁 | 食書 | |||
筒井康隆 | 科学探偵帆村 | |||
式貴士 | 死人妻(デッド・ワイフ) | |||
荒巻義雄 | 平賀源内無頼控 | |||
石川博品 | 地下迷宮の帰宅部 | |||
田中雄一 | 箱庭の巨獣 | |||
酉島伝法 | 電話中につき、ベス | |||
宮内悠介 | ムイシュキンの脳髄 | |||
円城塔 | イグノラムス・イグノラビムス | |||
冲方丁 | 神星伝 | |||
門田充宏 | 風牙 | 第 | 5回創元SF短編賞受賞作||
長谷敏司 | 10万人のテリー | 折り紙衛星の伝説 | 2014年 | |
下永聖高 | 猿が出る | |||
星野之宣 | 雷鳴 | |||
理山貞二 | 折り紙衛星の伝説 | |||
草上仁 | スピアボーイ | |||
円城塔 | ∅ | |||
堀晃 | 再生 | |||
田丸雅智 | ホーム列車 | |||
宮内悠介 | 薄ければ薄いほど | |||
矢部嵩 | 教室 | |||
伴名練 | 一蓮托掌(R・×・ラ×ァ×ィ) | |||
三崎亜記 | 緊急自爆装置 | |||
諸星大二郎 | 加奈の失踪 | |||
遠藤慎一 | 『恐怖の谷』から『恍惚の峰』へ~その政策的応用 | |||
高島雄哉 | わたしを数える | |||
オキシタケヒコ | イージー・エスケープ | |||
酉島伝法 | 環刑錮 | |||
宮澤伊織 | 神々の歩法 | 第 | 6回創元SF短編賞受賞作||
藤井太洋 | ヴァンテアン | アステロイド・ツリーの彼方へ | 2015年 | |
高野史緒 | 小ねずみと童貞と復活した女 | |||
上遠野浩平 | 製造人間は頭が固い | |||
宮内悠介 | 法則 | |||
坂永雄一 | 無人の船で発見された手記 | |||
森見登美彦 | 聖なる自動販売機の冒険 | |||
速水螺旋人 | ラクーンドッグ・フリート | |||
飛浩隆 | La poésie sauvage | |||
高井信 | 神々のビリヤード | |||
円城塔 | 〈ゲンジ物語〉の作者、〈マツダイラ・サダノブ〉 | |||
野﨑まど | インタビュウ | |||
伴名練 | なめらかな世界と、その敵 | |||
ユエミチタカ | となりのヴィーナス | |||
林譲治 | ある欠陥物件に関する関係者への聞き取り調査 | |||
酉島伝法 | 橡(つるばみ) | |||
梶尾真治 | たゆたいライトニング | |||
北野勇作 | ほぼ百字小説 | |||
菅浩江 | 言葉は要らない | |||
上田早夕里 | アステロイド・ツリーの彼方へ | |||
石川宗生 | 吉田同名 | 第 | 7回創元SF短編賞受賞作||
藤井太洋 | 行き先は特異点 | 行き先は特異点 | 2016年 | |
円城塔 | バベル・タワー | |||
弐瓶勉 | 人形の国 | |||
宮内悠介 | スモーク・オン・ザ・ウォーター | |||
眉村卓 | 幻影の攻勢 | |||
石黒正数 | 性なる侵入 | |||
高山羽根子 | 太陽の側の島 | |||
小林泰三 | 玩具 | |||
山本弘 | 悪夢はまだ終わらない | |||
山田胡瓜 | 海の住人 | |||
飛浩隆 | 洋服 | |||
秋永真琴 | 古本屋の少女 | |||
倉田タカシ | 二本の足で | |||
諏訪哲史 | 点点点丸転転丸 | |||
北野勇作 | 鰻 | |||
牧野修 | 電波の武者 | |||
谷甲州 | スティクニー備蓄基地 | |||
上田早夕里 | プテロス | |||
酉島伝法 | ブロッコリー神殿 | |||
久永実木彦 | 七十四秒の旋律と孤独 | 第 | 8回創元SF短編賞受賞作||
我孫子武丸 | プロジェクト:シャーロック | プロジェクト:シャーロック | 2017年 | |
彩瀬まる | 山の同窓会 | |||
新井素子 | 階段落ち人生 | |||
上田早夕里 | ルーシィ、月、星、太陽 | |||
円城塔 | Shadow.net | |||
小川哲 | 最後の不良 | |||
小田雅久仁 | 髪禍 | |||
加藤元浩 | 鉱区A-11 | |||
筒井康隆 | 漸然山脈 | |||
酉島伝法 | 彗星狩り | |||
伴名練 | ホーリーアイアンメイデン | |||
松崎有理 | 惑星Xの憂鬱 | |||
眉村卓 | 逃亡老人 | |||
宮内悠介 | ディレイ・エフェクト | |||
山尾悠子 | 親水性について | |||
横田順彌 | 東京タワーの潜水夫 | |||
八島游舷 | 天駆せよ法勝寺 | 第 | 9回創元SF短編賞受賞作
関連項目
[編集]かつて刊行されていた年刊のSF傑作選
- 年刊SF傑作選 - 海外の年刊SF傑作選。ジュディス・メリル編、東京創元社(1956年~1967年)
- ワールズ・ベストSF - ドナルド・A・ウォルハイムとテリー・カーとが共同編者で、1965年から1970年まで、ジュディス・メリルの『年刊SF傑作選』に対抗して刊行されたアンソロジー[5]。邦訳は1968年分まで。
- 日本SFベスト集成 - 筒井康隆編、徳間書店、全6巻(1960年代版、1971年版~1975年版)