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日産・GT-R LM NISMO

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
日産・GT-R LM NISMO
カテゴリー ル・マン・プロトタイプ1 (LMP1)
コンストラクター 日産自動車
デザイナー ベン・ボウルビー
主要諸元[1]
シャシー カーボンファイバー モノコック
全長 4,645mm (182.9in)
全幅 1,900mm (75in)
全高 1,030mm (41in)
エンジン 日産 VRX30A・ニスモ 3.0L (3,000cc) V6ガソリン ツインターボ フロントエンジン, 縦置き,前輪駆動
トランスミッション 5速 ノンシンクロトランスミッション セミオートマチック
重量 880 kg (1,940 lb)
燃料 ガソリン/ハイブリッド
タイヤ ミシュラン
主要成績
チーム ニスモ
ドライバー 松田次生
ハリー・ティンクネル
オリビエ・プラ
マルク・ジェネ
ミハエル・クルム
ヤン・マーデンボロー
ルーカス・オルドネス
マックス・チルトン
アレックス・バンコム
初戦 2015年のル・マン24時間レース
出走優勝ポールFラップ
1000
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GT-R LM NISMOは、日産自動車2015年のル・マン24時間レースおよびFIA 世界耐久選手権のLMP1-Hybridクラスに参戦するために開発したプロトタイプレーシングカーである。日産のプロトタイプレーシングカーとしては、R391以来16年ぶりに製作された車両である。

概要

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日産は2014年から、同社のフラッグシップスポーツカーであるGT-Rの名前を冠したレーシングカー2015年のル・マン24時間レースに参戦する車両として予告していた[2]。全米で最もスポーツ中継のテレビ視聴率が高いとされるスーパーボウルのCM枠を日産北米法人が購入し[3]、現地時間2015年2月1日夜(日本時間2月2日午前)の第49回スーパーボウルNBC全米中継のCM枠にて、新型マキシマとともに「GT-R LM NISMO」が公開された[4]

プロジェクトの主体はダレン・コックス率いるグローバルモータースポーツ部門、開発拠点はアメリカ、エンジン開発は日本 (NISMO) という体制がとられる。チーフデザイナーのベン・ボウルビー (Ben Bowlby) は、ル・マン24時間レースのガレージ56枠として「デルタウイング」(2012年)と「日産・ZEOD RC」(2014年)という独創的なレースカーを設計しており、今回のGT-R LM NISMOも常識を覆すアイデアをもって登場した。

レイアウト

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GT-R LM NISMOのサイドビュー(2015年ジュネーブ・モーターショー

通常のプロトタイプレーシングカーは、エンジンをコクピット後方のリアミッドシップにマウントし後輪を駆動する、ミッドシップエンジン・リアドライブ (MR) 配置だが、GT-R LM NISMOはコクピット前方にエンジンをマウントし、前輪を駆動するフロントエンジン・フロントドライブ (FF) 配置としている[5](フロントエンジン車の前例としてはグループCマシンのスカイラインターボCやLMP1のパノス・ロードスターSがあるが、これらはいずれもフロントエンジン・リアドライブ(FR)配置)。形状も従来のプロトタイプとは一線を画したロングノーズの車体となっている。日産はこれを「革新的新型LMP1レースカーは他に類を見ないマシン」と説明している[6]

ユニークなFF方式のレイアウトを採用したのは、空力を優先したためだという[7]。ル・マン・プロトタイプのレギュレーションでは、リアよりもフロントの方が空力設計の自由度が高いので、フロント側で重点的に空力開発を行った[8]。車体設計上、ダウンフォースの前後配分と車体の重量配分を合わせるのがセオリーであるため、フロントに重量物を配置することになった[8]。前後の重量バランスに比して、タイヤ幅も前輪310mm、後輪200mmと異なっている。フロントでダウンフォースを多く稼げるため、大型のリアウィングを用いる必要はなく、ドラッグ量は少なく抑えられている。

フロントのノーズ周り、ヘッドライトなどのデザインについては日産本社から、市販車のGT-Rに近づけるように指示されていた[9]

モノコック

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モノコックは前後部の幅が細まったボートのような形状をしている[5]。その両脇にエアダクトが取り付けられ、フロントから流入した空気がダクト内を通過し、リアディフューザー上部に排出される。この構造によりドラッグ削減が見込めると説明されている[10]。ダクトを通す空間を確保するため、左右に張り出した箱型の構造物にリアサスペンションが取り付けられている[5]

エンジン・駆動系

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エンジンは3リットル60度V6直噴ガソリンエンジンをツインターボで過給し、コスワースエンジンコントロールユニットで制御する[11]。市販モデルの次期型GT-Rのエンジンはこの車両のものをベースとする可能性があるという[12]。前述のダクトの関係上、排気口はボンネット上に設けられている。

回生装置 (ERS-K) はフロントにトロトラック製の機械式フライホイールを搭載。ライバル車と異なり、電力変換を行わず運動エネルギーをダイレクトにフライホイールに伝えて蓄えられるという[13]。モーターを装備せず、プロペラシャフトを介して後輪を機械的に駆動し、パートタイム4WDとなる設計[10]。放出量は8メガジュールを目標にしたが、2015年は2MJを選択した。コクピットの足元にフライホイールが位置するため、ドライバーは膝を抱えたような窮屈な運転姿勢を強いられる。2016年シーズン参戦用の車両ではトロトラック製に替わって、新たなサプライヤーがシステムの開発に当たっていると見られている[14]

5速トランスミッションはエンジン前方(マシンの最前部)に置かれる。

ジャーナリストのサム・コリンズは、「電装系ケーブルや冷却パイプ、エアダクト、ラジエーター、サスペンションパーツなどがエンジンやトランスミッションの周囲や上部を這うように配置されており、エンジンやトランスミッション周りの作業を行うことはほとんど不可能に思えた」と述懐している[15]

レース活動

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2015年シーズン

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走行中ドアが開いたままになるトラブルに見舞われた21号車(2015年ル・マン24時間レース)

2015年のFIA 世界耐久選手権 (WEC) に開幕から出場する予定であったが、2015年3月初めに行なわれたセブリングテストを2日間で打ち切った。4月と5月の期間を重点的に車両の開発とテストに充てると方針変更し、第1戦シルバーストン6時間レースと第2戦スパ・フランコルシャン6時間レースには出場しないこととなった[16][17]

第3戦ル・マン24時間レースへは3台体制で臨んだが、予選ではトップのポルシェ・919から20秒落ちでLMP2の1台をも下回り、110%落ちのタイム(3分36秒575)に達することができなかったため3台ともグリットを降格された[18]、決勝では21号車は開始10時間の所でフロントタイヤが外れるトラブルでリタイヤ。23号車はリアサスペンションに問題が発生し残り1時間の所でリタイヤ。22号車は開始9時間の所で障害物にぶつかりレースから一時脱落。車体を修復してレースに復帰し、24時間を走り切りチェッカーを受けたが、規定周回に満たないため完走扱いにならなかった[19]。信頼性不足のためハイブリッドシステムの使用を諦め、エンジン出力のみで走行していたという[20](LMP1-Hybridクラスの車両には回生装置の搭載が義務付けられているが、走行中に使用しなくても規定違反にはならない)。またサスペンションの強度不足から、縁石に乗らないように指示されており、ドライバーはレコードラインを外すことを強いられた。しかしそうした縛りがあってもなお、決勝中のベストラップは重量・出力で上回るLMP2よりも速かった。

チーム側では挑戦初年度において「3台のうち1台はフィニッシュまで導く」という目標を達成したと自己評価したが[19]、プロジェクトへの取り組み方や準備不足に対して疑問の声が挙がっている[21][22]。レーシングカーデザイナーの由良拓也は「他のメーカーに失礼」と日産の準備不足を批判し、また、レース中に解説を務め過去にワークスドライバーとして、日産からル・マンに参戦していた長谷見昌弘は「LMP2より遅いペースで走ってデータ取りなど意味が無い」などとレース関係者が痛烈に批判していた。

8月には、WEC第4戦以降の参戦を延期し、車両開発に専念することを決めた[23]。10月1日、正式にル・マン24時間レースを除くWECの2015年シーズン参戦の欠場が発表された[14]

同2015年にはベン・ボウルビーがチーム代表を退いてマイク・カルカモに交代し、10月30日には日産のグローバルモータースポーツ部門を率いていたダレン・コックスがLMP1プログラムの中心から外された格好となって退職したことが明らかとなった。

同年11月末に行われたニスモフェスティバルでは、ニスモの宮谷正一社長が「来年に向けて、いま開発をかなり取り組んでいて、来年にはしっかりと戦うことができるようにしています」とファンに向けて説明したが[24]、同年12月23日に2016年度のWECおよびル・マン24時間レースへの参戦を中止することが発表された[25]。この発表とほぼ同時に、インディアナポリスに存在するファクトリーの従業員に対する解雇通知がEメールで通達され、驚いた従業員らはファクトリーに押し寄せたが入れてもらえず、完全に締め出されてしまったという[26]。このような顛末からレースファンからの批判に加え、AUTOSPORT誌上でも日産のモータースポーツへの取り組み方についてジャーナリストたちの懐疑的、批判的な論調の記事が掲載される結果となった[27]

なお、本車が搭載していたVRX30A型エンジンはノートラブルで評価も高く、2017年にLMP1プライベーターのバイコレスに供給された[28]。しかしル・マンではオープニングラップでクラッシュ、WECはシーズン途中で活動休止と、戦果を挙げるには至らなかった。

チーム クラス No. ドライバー Rds. 1 2 3 4 5 6 7 8 Pts. Pos.
SIL
イギリスの旗
SPA
ベルギーの旗
LMS
フランスの旗
NÜR
ドイツの旗
COA
アメリカ合衆国の旗
FUJ
日本の旗
SHA
中華人民共和国の旗
BHR
バーレーンの旗
2015年 日本の旗 日産モータースポーツ LMP1 21 日本の旗 松田次生
スペインの旗 ルーカス・オルドネス
ロシアの旗 マーク・シュルジッツスキー英語版
3 Ret 0 NC
22 イギリスの旗 ハリー・ティンクネル
イギリスの旗 アレックス・バンコム
ドイツの旗 ミハエル・クルム
3 NC
23 イギリスの旗 マックス・チルトン
イギリスの旗 ヤン・マーデンボロー
フランスの旗 オリヴィエ・プラ
3 Ret

脚注

[編集]
  1. ^ FIA世界耐久選手権(WEC)”. 日産自動車. 2019年9月4日閲覧。
  2. ^ "Nissan GT-R LM NISMO LMP1 To Tackle WEC And Le Mans In 2015: Video"MOTOR AUTHORITY(2014年5月23日) 2015年2月3日閲覧。
  3. ^ この年のスーパーボウル30秒CM枠の広告料は平均450万米ドルであった。
  4. ^ "『ニッサンGT-R LMニスモ』遂に公開! 駆動はFF"AUTO SPORT web(2015年2月2日) 2015年2月3日閲覧。
  5. ^ a b c "Nissan GT-R LM NISMO". Nissan Photo Gallery.(2015年2月2日)2015年12月27日閲覧。
  6. ^ スーパーボウル期間中にル・マン24時間レース参戦車両を公開』(プレスリリース)日産自動車、2015年2月2日https://newsroom.nissan-global.com/releases/release-608a9f84a3bd4686b756cb63fea1dd632017年10月20日閲覧 
  7. ^ オートスポーツ』2015年2月27日号、イデア。
  8. ^ a b 世良耕太 "ル・マン最後発の日産が見せたセオリー無視の「空力」勝負。押し通したのはエンジニアのプライドだ【連載:世良耕太】". エンジニアtype.(2015年7月6日)2015年12月26日閲覧。
  9. ^ [【ルマン24時間 2015】日産のFFレーサー、松田選手「コーナーの入り口はまったく問題ない」]Response.jp
  10. ^ a b 『モーターファン別冊 ル・マン/WECのテクノロジー 2015』、三栄書房、2015年、88-89頁。
  11. ^ 2015年ル・マン24時間レース参戦車両を公開!!”. 日産自動車 (2015年2月3日). 2015年3月2日閲覧。
  12. ^ "【レポート】日産の次期型「GT-R」、エンジンはル・マン用レースカーのV6がベースに" Autoblog(2015年5月5日) 2015年5月5日閲覧。
  13. ^ 世良耕太 (2015年2月9日). “NISSAN GT-R LM NISMOが積んでいる(?)フライホイールKERSについて”. 2015年2月19日閲覧。
  14. ^ a b ニッサン、今季WECの残り全戦を欠場。16年に復帰”. オートスポーツ (2015年10月2日). 2015年10月2日閲覧。
  15. ^ [2015年ル・マン24時間、ニッサンが犯した“アメリカで製造するという過ち”【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】 https://www.as-web.jp/sports-car/587015/2] AS-web 2020年5月30日
  16. ^ GT-R LMニスモ、セブリングテストを早期打ち切り”. as-web.jp/. オートスポーツ (2015年3月18日). 2015年3月19日閲覧。
  17. ^ ニッサン、WEC開幕2戦を欠場へ。ル・マンに集中”. as-web.jp/. オートスポーツ (2015年3月5日). 2015年3月19日閲覧。
  18. ^ GT-R LMニスモ、3台ともにグリッド降格 - オートスポーツweb.2015年6月27日閲覧。
  19. ^ a b ニッサン、GT-R LMニスモの初戦は「目標達成」 - オートスポーツweb.2015年6月27日閲覧。
  20. ^ GT-R LMニスモ、ハイブリッドなしでル・マンを走行 - オートスポーツweb. 2015年6月27日閲覧。
  21. ^ "ル・マン24時間レビュー:「目標達成」のニッサンに違和感". オートスポーツweb.(2015年6月16日)2015年12月26日閲覧。
  22. ^ 川喜田 研 "恥辱のル・マン参戦に終わったニッサンには愛がなさすぎる! 真剣に勝負するならあんなマシンは造らない". 週プレnews.(2015年6月29日)2015年12月26日閲覧。
  23. ^ 【WEC】日産、GT-R LM NISMOによるレース参戦を当面見送り - レスポンス 2015年8月8日閲覧
  24. ^ "ニスモ宮谷社長、LMP1は「来年はしっかり戦える」". オートスポーツweb.(2015年11月29日)2015年12月26日閲覧。
  25. ^ 日産自動車、2016年 世界耐久選手権LMP1クラス参戦取りやめを決定』(プレスリリース)日産自動車、2015年12月23日https://newsroom.nissan-global.com/releases/release-f53b23c44e9906242924b3d4a5000d882017年10月20日閲覧 
  26. ^ Nissan Fired Its Le Mans Team Over E-Mail
  27. ^ 『AUTOSPORT NO.1423』P12-13 2016年1月29日発売 三栄書房刊行
  28. ^ バイコレス、GT-R LM搭載のニッサンVRX30Aエンジンにスイッチ

関連項目

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外部リンク

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