月軌道プラットフォームゲートウェイ
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月を周回する月軌道プラットフォームゲートウェイの想像図。左側にオリオン宇宙船がドッキング中。 | |
詳細 | |
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乗員数 | 最大4名(計画) |
打上げ機 | スペース・ローンチ・システム ファルコンヘビー |
月軌道プラットフォームゲートウェイ(つききどうプラットフォームゲートウェイ、英語: Lunar Orbital Platform-Gateway, LOP-G)は、多国間で月周回軌道上に建設することが提案されている有人の宇宙ステーションである(以下、ゲートウェイと略す)。太陽光発電で駆動し、通信ハブ、科学実験室、短期居住区画、探査車やその他の無人機用に確保された空間など全てが一体となっている[1]。NASAがプロジェクトを主導する。
惑星科学、天体物理学、地球観測、太陽物理学、基礎宇宙生物学、人間の健康と能力などの科学的分野の研究がゲートウェイで行われることが期待されている[2]。
ゲートウェイは商業的および国際的パートナーと提携して開発、提供及び利用されるように意図されている。有人及び無人の月探査、並びにNASAの提案している深宇宙輸送機が最初の有人火星ミッションに先んじて実施する300日間から400日間のテスト飛行の拠点として利用される予定である[3]。深宇宙輸送機とは、電気・化学推進を用いる再使用可能な宇宙船で、火星などを目的地とする有人ミッション向けに特別に設計される[4][5]。
国際宇宙ステーション (ISS) に参加しているNASA、ESA、JAXA、CSAにアラブ首長国連邦のムハンマド・ビン・ラシード宇宙センターを加えた各国が開発を主導し、2020年代中の建設を目指している[4][6][7][8]。当初はロスコスモスも協力していたが、2021年に参加しないことをロスコスモスが発表した[9]。NASAを含む世界各国の14の宇宙機関でつくる国際宇宙探査協働グループ (ISECG) は、月、火星及びそれ以遠の太陽系において人類の存在感を拡大していく上で、LOP-Gは決定的に重要であると結論づけている[10]。以前は深宇宙探査ゲートウェイ[11] (Deep Space Gateway, DSG) と呼ばれていたが、NASAがその構想を2019年度予算に計上する際に名称が改められた[12][13]。2019会計年度中に実施する予備調査のための資金として、NASAに5億400万ドルを投じる包括的歳出法案が2018年3月、連邦議会を通過した[14]。
概要
[編集]元々、NASAは小惑星リダイレクトミッションの一環としてゲートウェイの建設を検討していたが、後に中止された[15][16]。NASAとロスコスモスは2017年9月27日、非公式な共同声明で両者の協力を発表した[7]。地球と月との間(月周回軌道)を往来する旅行は、危険を冒して月の向こうの深宇宙へ行くために必要な知識と経験を得るのに役立てられる。ゲートウェイは、およそ6日間の周期で月の周りを南北に回る Near Rectilinear Halo Orbit (NRHO) と呼ばれる極端に細長い楕円軌道上に設置され、最接近時には月面から1,500 km (930 mi)以内、最も離れる時には70,000 km (43,000 mi)に位置することになる[17]。この軌道によって、ゲートウェイから月低軌道に到達する月探査が、デルタVを730 m/sとすると、半日で可能になる。軌道保持に要する速度はデルタVにして一年あたり10 m/s未満となる[18]。
また、考えられるところでは、ゲートウェイが現地資源利用技術の開発を支援し、月や小惑星から資源を採掘する試みもあり[19]、より複雑なミッションを遂行するために求められる能力を時間をかけて徐々に醸成していく機会を与えることにもなる[20]。様々な構成体(コンポーネント)がファルコンヘビー[21]、並びにEM-3からEM-8までのミッションを通じて、オリオン宇宙船の相乗りペイロードとしてスペース・ローンチ・システムで打ち上げられる[22]。
LOP-G用の電力・推進装置 (PPE) は重量が8-9トンで、機動性を持たせるためのイオンエンジンに電力を供給する、出力が50 kWになる[16]太陽電池を搭載するほか、化学推進にも対応する[23]。パトリック・トラウトマンが深宇宙輸送機及び月軌道プラットフォームゲートウェイの戦略的評価のリーダーを務める[24]。
提案されたモジュール
[編集]月軌道ゲートウェイの初期構想は2018年現在もなお発展途上の段階にあるが、少なくとも以下のモジュールが提案されている[25]。
- Power and Propulsion Element (PPE) : ステーションとイオンエンジンに供給する電力を発生させる。2024年11月にファルコンヘビーロケットでの打ち上げを予定している[26][27]。
- European System Providing Refuelling, Infrastructure and Telecommunications (ESPRIT) : キセノンとヒドラジンの供給を補い、通信機器を備え、科学実験装置用のエアロックを提供する[28]。重量は約4トンで、長さは3.91メートルになる[29]。
- U.S. Utilization Module : ゲートウェイを組み立てる間、ごく初期のミッションで乗員たちの入口となる、小さな与圧された空間。ESPRITと共にEM-3ミッションで打ち上げられ、当初は食料の備蓄のために使用される[28]。
- International Partner Habitat 及び U.S. Habitat : 2つの居住モジュール。EM-4とEM-5のミッションで打ち上げられ、合わせて最小でも125 m3の居住空間をステーションに提供する[28]。
- Gateway Logistics Module : ステーションの物資補給(ロジスティクス)に使用される。最初のロジスティクス・モジュールと共にステーションに届けられる、カナダ宇宙庁が建造するロボットアームを備える[30]。
- Gateway Airlock Module : ステーション外部での船外活動や深宇宙輸送機の係留に用いられる[23]。
提案された工程表
[編集]時期 | 機体の組み立て目標 | ミッションの名称 | 打ち上げ機 | 有人/無人 |
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2027年 | Power and Propulsion Element (PPE) を打ち上げ、月軌道プラットフォームゲートウェイの組み立てを開始[31]。 | Mini-space station Gateway | Falcon Heavy[32][33] [34] | 無人 |
2028年9月 | International Partner Habitatの搬入[28]。 | Artemis 4 | スペース・ローンチ・システムのブロック1B | 有人 |
2028年 | 月面着陸船スターシップ HLS | Artemis support mission | スターシップ | 有人 |
2030年3月 | ESPRIT及びU.S. Utilization Moduleの打ち上げ、並びにL2点のSouthern Near Rectilinear Halo Orbit (NRHO-S) 上でPPEと結合[28]。 | Artemis 5 | スペース・ローンチ・システムのブロック1B | 有人 |
2030年 | Blue Moon HLS | Artemis support mission | ニューグレン | 有人 |
2031年3月 | 最初のロジスティクス・モジュール及びロボット・アームの搬入[28]。 | Artemis 6 | スペース・ローンチ・システムのブロック1B | 有人 |
2031年 | U.S. Habitatの搬入[28]。 | Artemis support mission | スペース・ローンチ・システムのブロック1B | 無人 |
2032年3月 | カプセル型宇宙船「オリオン」(乗員4名)がゲートウェイにエアロック・モジュールを搬入。 | Artemis 7 | スペース・ローンチ・システムのブロック1B | 有人 |
2032年以降 | 深宇宙輸送機 (DST) が月軌道ゲートウェイまで飛行[35]。 | EM-8 | スペース・ローンチ・システムのブロック1B | 無人 |
2033年以降 | DSTの点検ミッション[35]。 | EM-9 | スペース・ローンチ・システムのブロック1B | 有人 |
2034年以降 | DSTによる物資輸送及び燃料補給[35]。 | EM-10 | スペース・ローンチ・システムのブロック1B | 無人 |
2035年以降 | 地球–月間でDSTの1年間に及ぶ巡航試験(テスト飛行)[35]。 | EM-11 | スペース・ローンチ・システムのブロック2 | 有人 |
2035年以降 | DSTによる物資輸送及び燃料補給[35]。 | EM-12 | スペース・ローンチ・システムのブロック2 | 無人 |
2035年以降 | 火星軌道への投入に向けたDSTの巡航[35]。 | EM-13 | スペース・ローンチ・システムのブロック2 | 有人 |
脚注
[編集]- ^ “Competition Seeks University Concepts for Gateway and Deep Space Exploration Capabilities”. nasa.gov. NASA (11 September 2018). 19 September 2018閲覧。
- ^ “NASA Seeks Ideas for Scientific Activities Near the Moon”. nasa.gov. NASA (24 August 2018). 19 September 2018閲覧。
- ^ Gebhardt, Chris (6 April 2017). “NASA finally sets goals, missions for SLS – eyes multi-step plan to Mars”. NASASpaceflight.com. NASA Spaceflight. 19 September 2018閲覧。
- ^ a b “Deep Space Gateway to Open Opportunities for Distant Destinations”. www.nasa.gov. NASA. April 5, 2017閲覧。
- ^ “Cislunar Habitation & Environmental Control & Life Support System”. www.nasa.gov. NASA. March 31, 2017閲覧。
- ^ “"РОСКОСМОС - NASA. СОВМЕСТНЫЕ ИССЛЕДОВАНИЯ ДАЛЬНЕГО КОСМОСА (ROSCOSMOS - NASA. JOINT RESEARCH OF FAR COSMOS)"”. September 29, 2017閲覧。
- ^ a b Weitering, Hanneke (27 September 2017). “NASA and Russia Partner Up for Crewed Deep-Space Missions”. Space.com 2017年11月5日閲覧。
- ^ “国際宇宙探査及びISSを含む地球低軌道を巡る最近の動向”. 文部科学省宇宙開発利用部会国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会 (2024年1月30日). 2024年4月17日閲覧。
- ^ “"Роскосмос" подтвердил выход из лунного проекта Gateway”. インテルファクス通信. (2021年1月25日) 2023年8月22日閲覧。
- ^ “Gateway Memorandum for the Record”. nasa.gov. NASA (2 May 2018). 19 September 2018閲覧。
- ^ “米国航空宇宙局(NASA)との宇宙探査に係る共同声明について”. JAXA (2018年1月26日). 2018年2月1日閲覧。
- ^ “国際宇宙ステーション・国際宇宙探査を巡る米国の動向について”. 文部科学省 (2018年3月). 2018年7月7日閲覧。
- ^ Yuhas, Alan (2018年2月12日). “Trump's Nasa budget: flying 'Jetson cars' and a return to the moon” (英語). the Guardian. 2018年2月25日閲覧。
- ^ Foust, Jeff (June 12, 2018). “Senate bill restores funding for NASA science and technology demonstration missions” (英語). Space News. September 16, 2018閲覧。
- ^ NASA Seeks Information on Developing Deep Space Gateway Module. Jeff Foust, Space. 29 July 2017.
- ^ a b NASA issues study contracts for Deep Space Gateway element. Jeff Foust, Space News. 3 November 2017.
- ^ Mike Wall, Space.com. 10 September 2018.
- ^ “Options for Staging Orbits in Cis-Lunar Space”. nasa.gov. NASA (21 October 2015). 19 September 2018閲覧。
- ^ Research Possibilities Beyond Deep Space Gateway. David Smitherman, Debra Needham, Ruthan Lewis. NASA. February 28, 2018.
- ^ Human Exploration and Operations Mission Directorate - Architecture Status. (PDF) Jim Free. NASA. 28 March 2017.
- ^ Potter, Sean (2021年2月9日). “NASA Awards Contract to Launch Initial Elements for Lunar Outpost”. NASA. 2022年2月12日閲覧。
- ^ Godwin, Curt (April 1, 2017). “NASA's human spaceflight plans come into focus with announcement of Deep Space Gateway”. Spaceflight Insider 2017年4月2日閲覧。
- ^ a b “NASA finally sets goals, missions for SLS – eyes multi-step plan to Mars”. NASA Spaceflight. April 9, 2017閲覧。
- ^ NASA Langley Talk to Highlight Sending Humans to the Deep Space Gateway. April 25, 2018.
- ^ Cursan, Jason (March 27, 2018). “Future Human Exploration Planning:Lunar Orbital Platform-Gateway and Science Workshop Findings”. April 13, 2018閲覧。
- ^ published, Amy Thompson (2021年2月10日). “NASA picks SpaceX Falcon Heavy to launch 1st Gateway station pieces to the moon” (英語). Space.com. 2023年5月23日閲覧。
- ^ Potter, Sean (2021年7月8日). “NASA, Northrop Grumman Finalize Moon Outpost Living Quarters Contract”. NASA. 2023年5月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g Sloss, Philip (September 11, 2017). “NASA updates Lunar Gateway plans”. NASASpaceFlight.com. 2017年9月15日閲覧。
- ^ ESA develops logistics vehicle for cis-lunar outpost. Anatoly Zak, Russian Space Web. September 8, 2018.
- ^ “Canadian Space Agency to build robotic arms for lunar space station” (英語). Global News 2017年9月29日閲覧。
- ^ Daines, Gary (December 1, 2016). “Crew Will Mark Important Step on Journey to Mars”. Nasa.gov. 2 January 2018閲覧。
- ^ “NASA FY 2019 Budget Overview”. February 20, 2019閲覧。 Quote: "Supports launch of the Power and PropulsionElement on a commercial launch vehicle as the first component of the LOP - Gateway, (page 14)
- ^ Status of Power and Propulsion Element (PPE) for Gateway. (PDF) Michele Gates, NASA's NAC HEO Committee Meeting August 27, 2018.
- ^ February 2021, Amy Thompson 10. “NASA picks SpaceX Falcon Heavy to launch 1st Gateway station pieces to the moon” (英語). Space.com. 2021年7月12日閲覧。
- ^ a b c d e f Finally, some details about how NASA actually plans to get to Mars. Eric Berger, ARS Technica. 28 March 2017.