爆発卵
爆発卵(ばくはつたまご)とは、電子レンジで殻のまま加熱してレンジ内で破裂する卵の俗称である[1]。養鶏分野においては、孵卵器内で腐敗ガスによって破裂する卵のことも指す[2]。
概要
[編集]電子レンジで殻のままの卵を加熱すると、通常はレンジ内で破裂してしまう。これは以下のような理由によるものである[3]。
- 電子レンジによる加熱で卵の中心部から均等に加熱されることにより、黄身の部分から水分の沸騰が発生する。
- 黄身は白身と殻に包まれているために外気よりも高圧となり、水の沸点が上昇する。
- 黄身は熱膨張による体積の増加に伴い、白身と殻を押し破って外気に触れ、この瞬間に急激な減圧が起こる。
- 沸点が下がることで黄身に含まれる水分が一気に蒸発して気化し、平衡破綻型の水蒸気爆発が発生する。
ところが、破裂する前に取り出された場合にも、白身に包まれた内部には100 ℃を超えても沸騰せずに残留している水分が存在しているため、殻むきの際や口に運んだ時に黄身が外気にさらされれば同様の爆発が発生することになる。こうした現象は殻をむいた状態のゆで卵の再加熱においても発生するほか、圧力鍋による加熱や、ごくまれではあるが通常の鍋による調理によっても起こることがある。また、生卵の黄身のみであっても電子レンジで加熱すると破裂する。
上記のほか、殻が付いたままの銀杏や栗、薄い膜で覆われているイカやソーセージでもこうした破裂が発生するため、電子レンジで調理する場合にはあらかじめ殻を剥がすなり切れ込みを入れるなりして、水蒸気を逃がす必要がある[4]。
パーシー・スペンサーも、電子レンジ開発中の2回目の実験で起こしたとも言われる[5]。
影響
[編集]電子レンジ内で破裂してレンジが壊れたり[6]、人が持った時に破裂して火傷したりする事故も発生し[7]、電子レンジによっては解きほぐしていない卵の加熱を取扱説明書にて禁止している商品もある[8]。卵を金属殻で覆うことで卵に直接電磁波を当てず、容器の水位線まで入れた水を加熱することで卵を茹でる電子レンジ調理器も市販されており、国民生活センターによるテストでは水位線まで水を入れて使用すれば破裂は起きないが、水の量が半分より少ないと破裂するという結果が出ている[9]。製品評価技術基盤機構によれば、ふたがずれた状態で使用したために破裂した事故も起きている[6]
養鶏分野において
[編集]養鶏分野における爆発卵とは、孵卵中の卵が腐敗し、卵内に産生したガスによって大きな音を立てて破裂する現象をいう[10]。薬浴によるサルモネラ菌・大腸菌対策は緑膿菌による爆発卵を誘発し[11]、発生まで無精卵や中止卵を除かずに孵卵を行うと緑膿菌が増殖した果てに爆発卵となり、鶏群全体を[12]高濃度に汚染してしまう[13]。
脚注
[編集]- ^ ゆげ 2018, p. 21.
- ^ 板垣, 今津 & 加藤 1975, p. 162.
- ^ 佐藤勝昭『理科力をきたえるQ&A』SBクリエイティブ〈サイエンス・アイ新書〉、2009年、17頁。ISBN 978-4-7973-4987-0 。2021年6月26日閲覧。
- ^ 主婦の友社『ひとり暮らしで知りたいことが全部のってる本』主婦の友社、2021年、94頁。ISBN 978-4-07-446730-3 。2021年7月2日閲覧。
- ^ ジョン・ロイド、ジョン・ミッチンソン『頭のいい人のセンスが身につく 世界の教養大全』大浦千鶴子 訳、マガジンハウス、2020年、91頁。ISBN 978-4-8387-3132-9 。2021年6月26日閲覧。
- ^ a b 製品評価技術基盤機構 2008, p. 4.
- ^ 生活文化局消費生活部生活安全課 2019, p. 1.
- ^ 商品テスト部 2021, p. 1.
- ^ 商品テスト部 2021, pp. 1–2.
- ^ 鶏病研究会 2015, p. 159.
- ^ 丸山 & 森満 1991, p. 159.
- ^ 家畜改良センター 2021, p. 64.
- ^ 高瀬, 西川 & 山田 1983, p. 719.
参考文献
[編集]- 板垣勝正、今津忠志、加藤義文「緑膿菌に起因すると思われる爆発卵の発生」『鶏病研究会報』第11巻第4号、鶏病研究会、1975年、162-166頁、CRID 1050564288517730688、ISSN 0285709X、NAID 220000007088、2022年7月30日閲覧。
- 家畜改良センター「ふ卵技術」『鶏の繁殖技術』、家畜改良センター、2021年、58-77頁、2022年7月30日閲覧。
- 鶏病研究会「種鶏の衛生対策」『鶏病研究会報』第51巻第3号、鶏病研究会、2015年、158-166頁、CRID 1050001338761038848、ISSN 0285709X、NCID AN0007252X、2022年7月30日閲覧。
- 高瀬公三、西川比呂志、山田進二「鶏ひなの脳病巣から分離した緑膿菌に対するひなの感受性」『日本獣医師会雑誌』第36巻第12号、日本獣医師会、1983年、717-720頁、CRID 1390001204711649664、doi:10.12935/jvma1951.36.717、ISSN 0446-6454、NAID 130004050838。
- 商品テスト部「ゆで卵を作る電子レンジ調理器で卵が破裂」『相談解決のためのテストから』第150号、独立行政法人国民生活センター、2021年、1-2頁、2022年8月15日閲覧。
- 生活文化局消費生活部生活安全課「電子レンジを使った卵の加熱に注意!」『危害・危険情報』、生活文化局、2019年、5-7頁、2022年8月15日閲覧。
- 製品評価技術基盤機構「新生活スタート暮らしに潜む危険」『製品安全点検日セミナー』第13号、経済産業省、2008年、4-6頁、2022年8月15日閲覧。
- 丸山義人、森満佐美「薬剤に代わる殺菌法としての養鶏へのオゾン利用について(1)」『静岡県中小家畜試験場研究報告』第4号、静岡県中小家畜試験場、1991年、39-44頁、CRID 1050001338631844096、ISSN 09146520、NAID 220000059105、2022年7月30日閲覧。
- 山本ゆり『syunkon日記おしゃべりな人見知り』扶桑社、2021年3月。ISBN 9784594087920 。2022年8月2日閲覧。
- ゆげひろのぶ『なぜ、指揮官は馬に乗るのか? 組織で悩むアナタのための世界史』星海社〈星海社新書 世界史専門・ゆげ塾の実況シリーズ〉、2018年3月。ISBN 9784065107676 。2022年8月1日閲覧。
関連項目
[編集]- 探偵!ナイトスクープ - 1993年12月24日放送回で当現象を取り上げた。
外部リンク
[編集]- 日本火山学会2005年秋季大会 電子レンジ卵の爆発実験 - ウェイバックマシン(2006年9月14日アーカイブ分) - 爆発たまごのメカニズム
- 電子レンジ、正しく使ってますか…ゆで卵注意を! - ウェイバックマシン(2010年10月7日アーカイブ分)(『神戸新聞』2010年10月7日) - 『探偵!ナイトスクープ』で放送されたことに関する記述がある。