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「イットリウム」の版間の差分

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{{混同|イッテルビウム}}
<table border="1" cellpadding="2" cellspacing="0" align="right">
<tr><td colspan="2" cellspacing="0" cellpadding="2">
<table align="center" cellspacing="2" border="0">
<tr>
<td align="center" colspan=2>[[ストロンチウム]] - '''イットリウム''' - [[ジルコニウム]]</td>
</tr>
<tr><td>[[スカンジウム|Sc]]<br>'''Y'''<br>[[ランタン|La]]</td>
<td>[[画像:Y-TableImage.png]]<br>
<div style="text-align:right;"><small>[[周期表]]</small></div></td></tr>
</table></td></tr>
<tr>
<th colspan="2" align=center bgcolor="#ffc0c0">'''一般特性'''</th></tr>
<tr>
<td>[[元素の名前順一覧|名称]], [[元素の記号順一覧|記号]], [[元素の番号順一覧|番号]]</td><td>イットリウム, Y, 39</td></tr>
<tr>
<td>[[元素の分類|分類]]</td><td>[[遷移元素]]</td></tr>
<tr>
<td>[[元素の族|族]], [[元素の周期|周期]], [[元素のブロック|ブロック]]</td><td>[[第3族元素|3 (IIIA)]], [[第5周期元素|5]] , [[dブロック元素|d]]</td></tr>
<tr>
<td>[[密度]], [[モース硬度|硬度]]</td><td>4472 kg/m<sup>3</sup>, __</td></tr>
<tr>
<td>[[色]]</td><td align="center">銀白色<br>[[画像:Yttrium_sublimed_dendritic_and_1cm3_cube.jpg|120px|イットリウム]]</td></tr>
<tr>
<th colspan="2" align="center" bgcolor="#ffc0c0">'''原子特性'''</th></tr>
<tr>
<td>[[原子量]]</td><td>88.90585 [[原子質量単位|u]]</td></tr>
<tr>
<td>[[原子半径]] (計測値)</td><td>180 (212) [[ピコメートル|pm]]</td></tr>
<tr>
<td>[[共有結合半径]]</td><td>162 pm</td></tr>
<tr>
<td>[[ファンデルワールス半径|VDW半径]]</td><td>データなし</td></tr>
<tr>
<td>[[電子配置]]</td><td><nowiki>[</nowiki>[[クリプトン|Kr]]<nowiki>]</nowiki>4[[d軌道|d]]<sup>1</sup>5[[s軌道|s]]<sup>2</sup></td></tr>
<tr>
<td>[[電子殻]]</td><td>2, 8, 18, 9, 2</td></tr>
<tr>
<td>[[酸化数]]([[酸化物]])</td><td>3 (弱塩基性[[酸化物]])</td></tr>
<tr>
<td>[[結晶構造]]</td><td>六方最密構造</td></tr>
<tr>
<th colspan="2" align="center" bgcolor="#ffc0c0">'''物理特性'''</th></tr>
<tr><td>[[相]]</td><td>固体 ([[常磁性]])</td></tr>
<tr>
<td>[[融点]]</td><td>1799 [[ケルビン|K]] (2779 °[[華氏|F]])</td></tr>
<tr>
<td>[[沸点]]</td><td>3609 K (6037 °F)</td></tr>
<tr>
<td>[[モル体積]]</td><td>19.88 &times;10<sup>-6</sup> m<sup>3</sup>/mol</td></tr>
<tr>
<td>[[気化熱]]</td><td>363 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<td>[[融解熱]]</td><td>11.4 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<td>[[蒸気圧]]</td><td>5.31 [[パスカル|Pa]] (1799 K)</td></tr>
<tr>
<td>[[音速|音の伝わる速さ]]</td><td>3300 [[メートル毎秒|m/s]] (293.15 K)</td></tr>
<tr>
<th colspan="2" align="center" bgcolor="#ffc0c0">'''その他'''</th></tr>
<tr>
<td>[[クラーク数]]</td><td>0.003 [[パーセント|%]]</td></tr>
<tr>
<td>[[電気陰性度]]</td><td>1.22 ([[ライナス・ポーリング|ポーリング]])</td></tr>
<tr>
<td>[[比熱容量]]</td><td>300 J/(kg·K)</td></tr>
<tr>
<td>[[導電率]]</td><td>1.66 &times;10<sup>6</sup>/m·[[オーム|Ω]]</td></tr>
<tr>
<td>[[熱伝導率]]</td><td>17.2 W/(m·K)</td></tr>
<tr>
<td>第1[[イオン化エネルギー]]</td><td>600 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<td>第2イオン化エネルギー</td><td>1180 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<td>第3イオン化エネルギー</td><td>1980 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<td>第4イオン化エネルギー</td><td>5847 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<td>第5イオン化エネルギー</td><td>7430 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<td>第6イオン化エネルギー</td><td>8970 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<td>第7イオン化エネルギー</td><td>11190 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<td>第8イオン化エネルギー</td><td>12450 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<td>第9イオン化エネルギー</td><td>14110 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<td>第10イオン化エネルギー</td><td>18400 kJ/mol</td></tr>
<tr>
<th colspan="2" align="center" bgcolor="#ffc0c0">'''(比較的)安定同位体'''</th></tr>
<tr>
<td colspan="2">
<table border="1" cellspacing="0" cellpadding="2" width="100%">
<tr>
<th><small>[[同位体]]</small></th><th><small>[[天然存在比|NA]]</small></th><th colspan="4" width="100%">最長の[[半減期|t<sub>½</sub>]] は 106.65 [[日]] (Y-88)</th></tr>
<tr>
<td><sup>89</sup>Y</td><td>'''100%'''</td><td colspan="4">[[中性子]]50個で[[安定同位体|安定]]</td></tr>
</table>
</td></tr>
<tr>
<th colspan="2" align="center" bgcolor="#ffc0c0">{{Small2|注記がない限り[[国際単位系]]使用及び[[標準状態]]下。}}</th>
</tr>
</table>


{{Elementbox
'''イットリウム''' ('''Yttrium'''):[[原子番号]] 39 の[[元素]]。[[元素記号]]は '''Y'''。[[希土類元素]]の一つ。[[スカンジウム族元素]]の一つでもある(遷移金属にも含まれる場合あり)。灰色の[[金属]]。常温、常圧で安定な結晶構造は、六方最密充填構造 (HCP) で、比重は 4.47、[[融点]]は 1520℃、[[沸点]]は 3300℃(融点、沸点とも異なる実験値あり)。空気中で表面は酸化されるが、内部までは侵されない。[[酸]]には易溶だが、[[アルカリ]]には溶けない。熱水と反応する(水とはゆっくり反応)。原子価は +3価。
|name=yttrium
==用途==
|japanese name=イットリウム
[[コバルト]]、[[鉄]]との合金は永久磁石として利用される。赤色の蛍光体、高圧水銀灯などに利用される。また、イットリウム-[[アルミニウム]]-ガーネット(Y<SUB>3</SUB>Al<SUB>5</SUB>O<SUB>12</SUB>: [[イットリウム・アルミニウム・ガーネット|YAG]])は[[レーザー]]発振に使われる(→[[YAGレーザー]])。<BR>
|number=39
|symbol=Y
|left=[[ストロンチウム]]
|right=[[ジルコニウム]]
|above=[[スカンジウム|Sc]]
|below=[[ルテチウム|Lu]]
|series=遷移金属
|group=3
|period=5
|block=d
|image name=Yttrium_sublimed_dendritic_and_1cm3_cube.jpg
|image name comment=
|appearance=銀白色
|atomic mass=88.90585
|electron configuration=&#91;[[クリプトン|Kr]]&#93; 4d<sup>1</sup> 5s<sup>2</sup>
|electrons per shell=2, 8, 18, 9, 2
|phase=固体
|phase comment=
|density gpcm3nrt=4.472
|density gpcm3mp=4.24
|melting point K=1799
|melting point C=1526
|melting point F=2779
|melting point pressure=
|boiling point K=3609
|boiling point C=3336
|boiling point F=6037
|heat fusion=11.42
|heat vaporization=365
|heat capacity=26.53
|vapor pressure 1=1883
|vapor pressure 10=2075
|vapor pressure 100=(2320)
|vapor pressure 1 k=(2627)
|vapor pressure 10 k=(3036)
|vapor pressure 100 k=(3607)
|vapor pressure comment=
|crystal structure=hexagonal
|japanese crystal structure=[[六方晶系]]
|oxidation states='''3''', 2, 1(弱[[塩基性酸化物]])
|electronegativity=1.22
|number of ionization energies=3
|1st ionization energy=600
|2nd ionization energy=1180
|3rd ionization energy=1980
|atomic radius=[[1 E-10 m|180]]
|covalent radius=[[1 E-10 m|190±7]]
|magnetic ordering=[[常磁性]]<ref name="magnet" />
|electrical resistivity=([[室温|r.t.]]) (α, poly) 596 n
|thermal conductivity=17.2
|thermal expansion=([[室温|r.t.]]) (α, poly) 10.6
|speed of sound rod at 20=3300
|Young's modulus=63.5
|Shear modulus=25.6
|Bulk modulus=41.2
|Poisson ratio=0.243
|Brinell hardness=589
|CAS number=7440-65-5
|isotopes=
{{Elementbox_isotopes_decay2 | mn=[[イットリウム87|87]] | sym=Y
| na=[[人工放射性同位体|syn]] | hl=[[1 E5 s|3.35 d]]
| dm1=[[電子捕獲|ε]] | de1=- | pn1=[[ストロンチウム87|87]] | ps1=[[ストロンチウム|Sr]]
| dm2=[[ガンマ崩壊|γ]] | de2=0.48, 0.38 | pn2= | ps2=-}}
{{Elementbox_isotopes_decay2 | mn=[[イットリウム88|88]] | sym=Y
| na=[[人工放射性同位体|syn]] | hl=[[1 E6 s|106.6 d]]
| dm1=[[電子捕獲|ε]] | de1=- | pn1=[[ストロンチウム88|88]] | ps1=[[ストロンチウム|Sr]]
| dm2=[[ガンマ崩壊|γ]] | de2=1.83, 0.89 | pn2= | ps2=-}}
{{Elementbox_isotopes_stable | mn=[[イットリウム89|89]] | sym=Y | na=100% | n=50}}
{{Elementbox_isotopes_decay2 | mn=[[イットリウム90|90]] | sym=Y
| na=[[人工放射性同位体|syn]] | hl=[[1 E5 s|2.67 d]]
| dm1=[[ベータ崩壊|β<sup>-</sup>]] | de1=2.28 | pn1=[[ジルコニウム90|90]] | ps1=[[ジルコニウム|Zr]]
| dm2=[[ガンマ崩壊|γ]] | de2=2.18 | pn2= | ps2=-}}
{{Elementbox_isotopes_decay2 | mn=[[イットリウム91|91]] | sym=Y
| na=[[人工放射性同位体|syn]] | hl=[[1 E6 s|58.5 d]]
| dm1=[[ベータ崩壊|β<sup>-</sup>]] | de1=1.54 | pn1=[[ジルコニウム91|91]] | ps1=[[ジルコニウム|Zr]]
| dm2=[[ガンマ崩壊|γ]] | de2=1.20 | pn2= | ps2=-}}
|isotopes comment=
}}


'''イットリウム'''({{lang-la|yttrium}}<ref>http://www.encyclo.co.uk/search.php</ref> {{IPA-en|ˈɪtriəm}})は、[[原子番号]]39の[[元素]]である。元素記号は'''Y'''である。[[単体]]は軟らかく銀光沢をもつ金属である。[[遷移金属]]に属すが[[ランタノイド]]と化学的性質が似ているので[[希土類元素]]に分類される<ref name="IUPAC" />。唯一の安定[[同位体]]<sup>89</sup>Yのみ希土類[[鉱物]]中に存在する。単体は天然には存在しない。
[[セラミックス]]の原料にイットリウムを混ぜると、[[セラミックス]]の耐久性が増す場合がある。


[[1787年]]に{{仮リンク|カール・アクセル・アレニウス|en|Carl Axel Arrhenius}}がスウェーデンの[[イッテルビー]]の近くで未知の鉱物を発見し、町名にちなんで「イッテルバイト」と名づけた<ref name="Krogt" />。[[ヨハン・ガドリン]]はアレニウスの見つけた鉱物からイットリウムの酸化物を発見し、[[アンデルス・エーケベリ]]はそれをイットリアと名づけた。[[1828年]]に[[フリードリヒ・ヴェーラー]]は鉱物からイットリウムの単体を取り出した<ref name="CRC2008" />。イットリウムは[[蛍光体]]に使われ、赤色蛍光体はテレビの[[ブラウン管]]ディスプレイや[[LED]]に使われている<ref name="Cotton" />。ほかには[[電極]]、[[電解質]]、[[フィルタ回路|電気フィルタ]]、[[レーザー]]、[[超伝導体]]などに使われ、医療技術にも応用されている。イットリウムは[[生理活性|生理活性物質]]ではないが、その化合物は人間の肺に害をおよぼす<ref name="osha" />。
イットリウムを含む[[銅酸化物高温超伝導体]]は、液体窒素温度(およそ77 K)より高い転移温度を持つ超伝導物質である。([[Y系超伝導体]]を参照のこと。)


== 名称 ==
イットリウムを含む酸化物は[[カラーテレビ]]の赤色蛍光体として利用されている。
元素記号には1920年代初頭まで '''Yt''' が使われていたが、のちに '''Y''' が使われるようになった<ref name="Pure" />。


==歴史==
== 特徴 ==
=== 性質 ===
1794年に[[ガドリン]](J.Gadolin)が新元素として発見。始めはイットルビアと呼ばれた。これは、スウェーデンの小さな町[[イッテルビー]]にちなんで名づけられた。イッテルビーからは、イットリウム(Yttrium)の他、[[イッテルビウム]](Ytterbium)、[[テルビウム]](Terbium)、[[エルビウム]](Erbium)、と合計4つの新元素が発見されている。これらの新元素はいずれも、イッテルビーから名称の一部をとって、命名された。
イットリウムは軟らかく銀光沢を持つ金属である。[[第5周期元素|第5周期]]と[[第3族元素|第3族]]に属す[[遷移金属]]であり、[[周期律]]から予想されるとおり、第3族で[[第4周期元素|第4周期]]の[[スカンジウム]]より[[電気陰性度]]が小さく、[[第6周期元素|第6周期]]の[[ランタン]]よりも電気陰性度が大きい。また、第5族で第5周期の[[ジルコニウム]]よりも電気陰性度が小さい<ref name ="Greenwood1997p946" /><ref name="Hammond" />。第5周期元素の[[dブロック元素]]のなかではイットリウムがもっとも原子番号が小さい。


純粋な[[単体]]は空気中で比較的安定だが、これは[[酸化イットリウム(III)]] (Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub>) の膜が金属表面を覆って[[不動態]]化するためである。[[水蒸気]]中で750 ℃付近まで加熱すると、膜の厚さは10 [[マイクロメートル|µm]]に達することがある<ref name="ECE817" />。単体を細かくすると空気中で不安定となり、削り状のイットリウムは400 ℃以上で[[自然発火]]しうる。窒素中では、単体を1,000 ℃に加熱すると[[窒化イットリウム]] (YN) が生成する<ref name="ECE817" />。イットリウムには2つの同素体がある(α、β)。それぞれの結晶構造は六方最密充填構造と体心立方格子である。
==イットリウムの化合物==
*Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub>(酸化イットリウム)
*Y<SUB>3</SUB>Fe<SUB>5</SUB>O<SUB>12</SUB>(YIG:イットリウム-鉄-ガーネット)
*YVO<SUB>4</SUB>
*YB<SUB>66</SUB>(分光結晶として有用)
*YBa<SUB>2</SUB>Cu<SUB>3</SUB>O<SUB>7</SUB>([[Y系超伝導体]])


=== ランタノイドとの類似点 ===
== 同位体 ==
{{details|希土類元素}}
イットリウムと[[ランタノイド]]元素の性質はよく似ており、ともに[[希土類元素]]に属す<ref name="IUPAC" />。天然の{{仮リンク|希土類鉱物|en|Rare earth mineral}}は必ず複数の希土類元素を含んでいる<ref name="Emsley498" />。

イットリウムは、周期表中で近くに位置する元素よりも、ランタノイドに性質が似ている<ref name="ECE810" />。もし物理的性質だけに着目すれば、イットリウムの原子番号は64.5-67.5に相当する。この値は[[ガドリニウム]]と[[エルビウム]]の中間である<ref name="ECE815" />。しかし、イットリウムの密度が4.47 g/cm<sup>3</sup>であるのに対して[[ルテチウム]]が9.84 g/cm<sup>3</sup>、ジスプロシウムが8.56 g/cm<sup>3</sup>であるように、イットリウムはほかのランタノイドより密度が低く、物理的性質の相違もある<ref name=shinkinzoku126>[[#shinkinzoku1980|新金属協会 (1980)]] 126頁。</ref>。

また[[反応次数]]もほぼ同じであり<ref name="ECE817" />、[[テルビウム]]や[[ジスプロシウム]]と化学反応性が似ている<ref name="Cotton" />。原子半径 (180 pm) やイオン半径 (88 pm) も類似しており、溶液中ではまるで[[重希土]]類のようにふるまうため、重希土類のイオンは「イットリウム族」と呼ばれることがある<ref name="ECE817" /><ref name="Greenwood1997p945" />。原子半径の類似性は[[ランタノイド収縮]]による<ref name="Greenwood1997p1234" />。

このようにイットリウムとランタノイドは非常に類似した化学的性質をもつが、相違点としては、イットリウムはもっぱら+3の[[原子価]]しか取らないのに対し、ランタノイドのおよそ半数は+3価以外の原子価も取ることが挙げられる<ref name="ECE817" />。

=== 化合物と化学反応 ===
{{see also|Category:イットリウムの化合物}}
+3価の遷移金属として、イットリウムはさまざまな[[無機化合物]]をつくり、通常3つの[[価電子]]をすべて結合に使うため、酸化数は+3である<ref name="Greenwood1997p948" />。たとえば[[酸化イットリウム(III)]] (Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub>) は1つのイットリウム原子が6つの酸素原子と結合した構造をもち、白色固体の物質である<ref name="Greenwood1997p947" />。

[[フッ化物]]、[[水素化物]]、[[シュウ酸|シュウ酸塩]]は水に溶けないが、[[臭化物]]、[[塩化物]]、[[ヨウ化物]]、[[窒化物]]、[[硫化物]]はすべて水に溶ける<ref name="ECE817" />。Y<sup>3+</sup>イオンは5d軌道と4f軌道に電子が存在しないため[[電子遷移]]による可視光の吸収が起こらず、その溶液は無色である<ref name="ECE817" />。

イットリウムやその化合物は[[水]]と容易に反応してY<sub>2</sub>O<sub>3</sub>が生成する<ref name="Emsley498" />。濃[[硝酸]]や[[フッ化水素酸]]との反応性は高くないが、ほかの[[強酸]]とは容易に反応する<ref name="ECE817" />。

単体は200 ℃以上で[[ハロゲン]]と反応して[[フッ化イットリウム(III)]] (YF<sub>3</sub>)、[[塩化イットリウム(III)]] (YCl<sub>3</sub>)、[[臭化イットリウム(III)]] (YBr<sub>3</sub>) などの[[ハロゲン化物]]をつくる<ref name="osha" />。同様に、高温で[[炭素]]、[[リン]]、[[セレン]]、[[ケイ素]]、[[硫黄]]などと反応し、[[二元化合物]]をつくる<ref name="ECE817" />。

炭素─イットリウム結合を持つ化合物を{{仮リンク|有機イットリウム化合物|en|Organoyttrium chemistry}}という。そのなかには酸化数0のイットリウムを含むものがある<ref name="Cloke1993" /><ref name="Schumann" />{{#tag:ref|イットリウムが+3以外の酸化数をとる例として、融解した塩化イットリウム(III)中で+2のものが<ref name="Mikheev1992" />、酸化イットリウム(III)の気相中の[[クラスター]]で+1のものが観測された<ref name="Kang2005" />。|group=注}}。ある三量体化反応の[[触媒]]として有機イットリウム化合物が使われることがある<ref name="Schumann" />。その化合物は、Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub>と濃[[塩酸]]および[[塩化アンモニウム]]から得られるYCl<sub>3</sub>を出発物質として合成される<ref name="Turner" /><ref name="Spencer" />。

[[ハプト数]]とは、隣接する[[配位子]]がどのように中心原子へ結合しているかを表すもので、ギリシャ文字のイータ η で表される。[[カルボラン]]が d<sup>0</sup> 金属原子にハプト数 η<sup>7</sup> で配位している錯体として最初に発見されたのはイットリウム錯体であった<ref name="Schumann" />。{{仮リンク|炭素インターカレーション化合物|en|Graphite intercalation compound}}であるグラファイト-Yやグラファイト-Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub>を気化することにより、Y@C<sub>82</sub>のような球状の炭素の檻の中にイットリウム原子を内包した{{仮リンク|原子内包フラーレン|en|Endohedral fullerene}}が生成する<ref name="Cotton" />。[[電子スピン共鳴]]による研究で、Y<sup>3+</sup>と(C<sub>82</sub>)<sup>3−</sup>のイオン対の生成が示されている<ref name="Cotton" />。またY<sub>3</sub>C、Y<sub>2</sub>C、YC<sub>2</sub>などの[[炭化物]]を[[水素化]]すると[[炭化水素]]が得られる<ref name="ECE817" />。

=== 元素合成と同位体 ===
{{main|イットリウムの同位体}}
{{main|イットリウムの同位体}}
[[太陽系]]のイットリウムは[[恒星内元素合成]]に由来し、約72%が[[s過程]]、約28%が[[r過程]]によるものである<ref name="Pack" />。s過程は数千年かけてゆっくりと進み、[[脈動変光星|脈動]]する[[赤色巨星]]の内部で起こる<ref name="Greenwood1997p12-13" />。r過程は[[超新星]]爆発に伴って起こる速い反応である。いずれも軽い[[原子核]]の[[中性子捕獲]]により[[質量数]]が増加する。


イットリウムはウラン[[核分裂反応]]の主要な生成物である。核廃棄物管理の観点で重要な同位体は、半減期58.51日の<sup>91</sup>Yと半減期64時間の<sup>90</sup>Yである<ref name="NNDC" />。<sup>90</sup>Yは短い半減期を持ちながら、親核種の[[ストロンチウム]]90 (<sup>90</sup>Sr) の半減期が29年と長いため{{仮リンク|永続平衡|en|secular equilibrium}}状態になる。
{{Commons|Yttrium}}
{{元素周期表}}
[[Category:元素|いつとりうむ]]
[[Category:イットリウムの化合物|*]]


[[第3族元素]]の[[陽子]]の数は奇数なので[[安定同位体]]が少ない<ref name="Greenwood1997p946" />。イットリウムの安定同位体は<sup>89</sup>Yのみであり、これは天然に存在する。ほかの過程で生成した同位体が[[ベータ崩壊|電子放出]](中性子 → 陽子)で崩壊するための十分な時間をs過程が与えることにより、<sup>89</sup>Yの存在量が多くなったと考えられている<ref name="Greenwood1997p12-13" /><ref group="注">正確には、[[中性子]]が[[陽子]]になるとき[[電子]]と[[反ニュートリノ]]が放出される。</ref>。s過程では[[質量数]](''A'' = 陽子 + 中性子)が90、138、208付近の[[原子核]]が選択的に生成する傾向がある<ref name="Greenwood1997p12-13" />{{#tag:ref|[[魔法数]]を参照。この理由は中性子捕獲断面積が非常に低いことによるものと考えられている<ref>{{Harvnb|Greenwood|1997|pp=12-13}}</ref>。|group="注"}}。このとき中性子数はそれぞれ50、82、126となる。このような同位体は電子をあまり放出しないので、結果として存在量が多くなる<ref name="CRC2008" />。<sup>89</sup>Yの質量数は90に近く、中性子数は50である。
{{Link FA|en}}


質量数76から108まで、少なくとも32種のイットリウムの[[人工放射性同位体]]が確認されている<ref name="NNDC" />。最も不安定な同位体は半減期150 nsの<sup>106</sup>Yであり、その次は半減期200 nsの<sup>76</sup>Yである<ref name="NNDC" />。最も安定なものは半減期106.626日の<sup>88</sup>Yであり、その次は半減期58.51日の<sup>91</sup>Y、79.8時間の<sup>87</sup>Y、64時間の<sup>90</sup>Yである<ref name="NNDC" />。ほかの同位体の半減期はすべて1日以内であり、そのほとんどが1時間以内である<ref name="NNDC" />。
[[af:Yttrium]]

[[ar:إتريوم]]
質量数88以下のイットリウム同位体は、主に[[陽電子放出|β<sup>+</sup>崩壊]](陽子 → 中性子)により[[ストロンチウム]] ([[原子番号|''Z'']] = 38) の同位体になる<ref name="NNDC" />。質量数90以上のものは、主に[[ベータ崩壊|β<sup>−</sup>崩壊]](中性子 → 陽子)により[[ジルコニウム]] (''Z'' = 40) の同位体になる<ref name="NNDC" />。また、質量数97以上のものはβ遅延中性子放出過程による崩壊が一部起こる<ref name="nubase" />。
[[az:İttrium]]

[[be:Ітрый]]
質量数78から102まで、少なくとも20種の[[準安定同位体]](励起状態の同位体)が知られている<ref name="NNDC" /><ref group="注">準安定同位体は通常の核種よりも高いエネルギーを持っており、この状態は[[ガンマ線]]や[[転換電子]]を放出するまで続く。準安定同位体は質量数の横に m を記して示す。</ref>。<sup>80</sup>Yと<sup>97</sup>Yでは複数の励起状態が確認されている<ref name="NNDC" />。[[基底状態]]より励起状態のほうが不安定なはずだが、<sup>78m</sup>Y、<sup>84m</sup>Y、<sup>85m</sup>Y、<sup>96m</sup>Y、<sup>98m1</sup>Y、<sup>100m</sup>Y、<sup>102m</sup>Yは基底状態のものより長い半減期を持つ。その理由は、これらは[[核異性体転移]]だけでなくβ崩壊によっても崩壊するためである<ref name="nubase" />。
[[bg:Итрий]]

[[bn:ইট্রিয়াম]]
== 歴史 ==
[[bs:Itrijum]]
1787年、軍隊中尉のかたわら化学者をしていたカール・アクセル・アレニウスは、スウェーデンのストックホルム近郊の村[[イッテルビー]]の古い石切り場で、黒色の重い岩石を発見した。彼はこれを、当時見つかったばかりの[[タングステン]]が含まれる未知の鉱物だと考え<ref name="Emsley496" />、これを「イッテルバイト」と名づけた<ref group="注">イッテルバイト (ytterbite) は発見された場所の近くの村 (ytterby) の名前に由来し、語尾の -ite は鉱物であることを示している。</ref>。さらなる分析のため、その試料が多数の化学者に送られた<ref name="Krogt" />。
[[ca:Itri]]

[[co:Ittriu]]
[[File:Johan Gadolin.jpg|thumb|150px|left|alt= 白黒の肖像画。若い男がコートを着てネッカチーフを着けている。髪はわずかに着色されるのみで、灰色に見える。|酸化イットリウム(III)を発見した[[ヨハン・ガドリン]]]]
[[cs:Yttrium]]
1789年、[[ヨハン・ガドリン]]はオーボ大学 (University of Åbo) でアレニウスの試料から新たな酸化物を発見し(当時は「アース」と呼ばれた)、1794年、分析を完了してその成果を発表した<ref name="Gadolin" />。1797年、[[アンデルス・エーケベリ]]はこれを確認し、新たな酸化物を「イットリア (yttria)」と名づけた<ref name="Greenwood1997p944" />。数十年後、[[アントワーヌ・ラヴォアジエ]]による[[元素]]の近代的定義により、アースは元素へと還元することができると考えられるようになり、新たなアースの発見はそれに含まれる新たな元素の発見と同義であることが認識された。そしてイットリアには「イットリウム」が含まれると考えられた<ref group="注">アースは語尾に -a が、元素は -ium が付く。</ref>。
[[cv:Иттри]]

[[cy:Ytriwm]]
1843年、[[カール・グスタフ・モサンデル]]はイットリアから3種の酸化物、すなわち白色の[[酸化イットリウム(III)]]、黄色の[[酸化テルビウム|酸化テルビウム(III,IV)]](当時これは「エルビア」と呼ばれていた)、薔薇色の酸化エルビウム(これは「テルビア」と呼ばれていた)を発見した<ref name="Annalen" />。四つ目の酸化物、酸化イッテルビウムは1878年、[[ジャン・マリニャック]]により単離された<ref name="britan" />。その後、新たな元素が単体としてこれらの酸化物から単離され、採石場のあったイッテルビー村にちなんで、それぞれ[[イッテルビウム]]、[[テルビウム]]、[[エルビウム]]と命名された<ref name="Stwertka115" />。さらに数十年後、7種の新たな金属が「ガドリンのイットリア」から発見された<ref name="Krogt" />。イットリアは単一組成の酸化物ではなく鉱物であることがわかったため、[[マルティン・ハインリヒ・クラプロート]]はガドリンの名をとって、これをガドリナイトと改名した<ref name="Krogt" />。
[[da:Yttrium]]

[[de:Yttrium]]
金属イットリウムは1828年、[[フリードリヒ・ヴェーラー]]が無水[[塩化イットリウム]]と[[カリウム]]を加熱することによって初めて単離した<ref name="Heiserman" /><ref name="Wöhler" />。
[[el:Ύτριο]]

[[en:Yttrium]]
: <chem>YCl3 + 3K -> 3KCl + Y</chem>
[[eo:Itrio]]

[[es:Itrio]]
1987年に、{{仮リンク|イットリウム・バリウム・銅酸化物|en|yttrium barium copper oxide}}が[[高温超伝導]]を示すことが発見された。この性質を示す物質としては2番目に見つかったもので<ref name="Wu" />、窒素の沸点以上で[[超伝導]]を示す物質としては、初めて見つかったものである<ref group="注">[[YBCO]]の[[転移温度|超伝導転移温度]]は93 Kで、窒素の沸点は77 Kである。</ref>。
[[et:Ütrium]]

[[eu:Itrio]]
== 産出 ==
[[fa:ایتریم]]
[[File:Xenotímio1.jpeg|thumb|200px|alt= 白い背景の上の三つの柱状をした茶色の結晶|リン酸イットリウムを主成分とするゼノタイムの結晶]]
[[fi:Yttrium]]

[[fr:Yttrium]]
=== 存在量 ===
[[fur:Itri]]
イットリウムはほとんどの希土類鉱石に含まれ<ref name="Hammond" />、いくつかの[[天然ウラン|ウラン鉱石]]にも含まれるが、単体は自然界に存在しない<ref name="Lenntech" />。地殻中の存在量は約31 [[ppm]]であり、これは28番目に大きく、[[銀]]の400倍である<ref name="Emsley497" />。土壌中には10-150 ppm(乾燥質量の平均で23 ppm)含まれ、海水中には9 [[ppt]]ほど含まれている<ref name="Emsley497" />。[[アポロ計画]]で採集された[[月の石]]は、イットリウムを比較的多く含む<ref name="Stwertka115" />。
[[ga:Itriam]]

[[gl:Itrio]]
生体内での役割は知られていないが、ほとんどの生物に含まれ、ヒトでは肝臓、腎臓、脾臓、肺、骨に濃縮する傾向がある。ヒトの体には0.5 mg程度のイットリウムが含まれており、[[母乳]]には4 ppmほど含まれている<ref name="Emsley495" />。新鮮な野菜や作物には20-100 ppmほど含まれ、なかでもキャベツに最も多く含まれる<ref name="Emsley495" />。最も高濃度なのは樹木の種子であり、700 ppm以上含まれる<ref name="Emsley495" />。
[[gv:Yttrium]]

[[hak:Yet]]
=== 生産 ===
[[he:איטריום]]
イットリウムとランタノイドの物性が似ていることから、ともに同じような過程で鉱石中に濃縮される。そのため、これらは同じ鉱石、すなわち[[希土類鉱物]]中に存在する。鉱石中での軽希土と重希土の分離はわずかであって、完全なものとはならない。[[原子量]]は小さいが、イットリウムは重希土の中で濃縮される<ref name="Morteani" /><ref name="Kanazawaa" />。
[[hi:इत्रियम]]

[[hr:Itrij]]
希土類元素の主な産出源として以下の四つが知られる<ref name="Naumov" />が、モナザイトやバストネサイトなどの軽希土鉱物においては副生成物として少量のイットリウムが得られるのみであり、主要なイットリウム源はもっぱら重希土鉱物のゼノタイムに依る<ref name=shinkinzoku117>[[#shinkinzoku1980|新金属協会 (1980)]] 117頁。</ref>。
[[hu:Ittrium]]
[[File:Yttrium 1.jpg|thumb|right|200px|alt= 立方体に近い形をした暗灰色金属片。表面は平坦でない。|イットリウムのかけら。イットリウムと他の希土類元素を分離するのは困難である]]
[[hy:Իտրիում]]
* 炭酸塩・フッ化物塩を含む軽希土である[[バストネサイト]] ({{chem|[(Ce, La, etc.)(CO|3|)F]}})。イットリウムの割合は平均0.1%で<ref name="CRC2008" /><ref name="Morteani" />、残り99.9%は他の16種の希土類元素である<ref name="Morteani" />。1960年から1990年にかけてのバストネサイトの主な産地はカリフォルニアのパス山希土鉱山であり、当時アメリカは最大の希土類産出国だった<ref name="Morteani" /><ref name="Naumov" />。
[[id:Itrium]]
* [[モナザイト]] ({{chem|[(Ce, La, etc.)PO|4]}}) は大部分がリン酸塩で、侵食を受けた[[花崗岩]]の移動や重力による分離でつくられた[[漂砂鉱床]]を構成する。軽希土鉱石として、モナザイトは2%<ref name="Morteani" />(または3%<ref name="Stwertka116" />)ほどのイットリウムを含んでいる。19世紀初めに最大の鉱床がインドとブラジルで見つかり、両国は19世紀半ばまで最大のイットリウム産出国だった<ref name="Morteani" /><ref name="Naumov" />。
[[io:Yitrio]]
* {{仮リンク|ゼノタイム|en|Xenotime}}は希土類のリン酸塩で、リン酸イットリウム (YPO<sub>4</sub>) としてイットリウムを60%以上含む重希土鉱石である<ref name="Morteani" />。最大の鉱床は中国の[[白云鄂博]](バイユンオボ)であり、1990年代にパス山鉱が閉山したため中国は最大の重希土輸出国となった<ref name="Morteani" /><ref name="Naumov" />。
[[is:Yttrín]]
* イオン吸着型粘土(ログナン粘土)は花崗岩の風化によって形成され、重希土を1%程度含む<ref name="Morteani" />。濃縮物により鉱石は最終的に8%以上のイットリウムを含むようになる。イオン吸着型粘土は主に中国の[[華南]]地方で採掘される<ref name="Morteani" /><ref name="Naumov" /><ref name="chinese" /><ref name="Murakami" />。イットリウムは[[サマルスカイト]]や{{仮リンク|フェルグソナイト|en|Fergusonite}}中にもみられる<ref name="Emsley497" />。
[[it:Ittrio]]

[[jbo:jinmrtitri]]
イットリウムを他の希土類から分離するのは困難であり、古典的な分離法である分別沈殿法では高純度なイットリウム化合物を得ることは事実上不可能である<ref>[[#shinkinzoku1980|新金属協会 (1980)]] 119頁。</ref>。イットリウムを分離するための前処理として、鉱石中に含まれる希土類のリン酸塩を[[硫酸|熱濃硫酸]]に溶解させて希土類溶液を得る硫酸法が用いられている。この希土類溶液に[[シュウ酸]]を加えて重希土類をシュウ酸塩として沈降させ軽希土類と分離し、これを酸素中で加熱乾燥させることで酸化イットリウム(III)を60%ほど含有したイットリウム濃縮物が得られる。得られた濃縮物は塩酸に溶解された後、[[イオン交換クロマトグラフィー]]や溶媒抽出法によって各元素に分けられる。イオン交換法におけるキレート剤としては通常[[エチレンジアミン四酢酸]] (EDTA) にあらかじめ銅(II)イオンや亜鉛(II)イオンなどの2価の金属イオンを吸着させたものが利用される。希土類元素とEDTAとの結合力はそれぞれの元素によって異なるため、イオン交換塔に希土類溶液を通すとEDTAとの結合力が強い順に希土類の混合物が分離され、イットリウムは[[ジスプロシウム]]と[[テルビウム]]の間で得られる。この分離プロセスから明白なように、イオン交換膜法はバッチ処理を前提としているため大量生産には向いていないが、様々な組成の溶液を同一プロセスで処理できる利点がある。溶媒抽出法において利用される抽出剤としては、トリブチルリン酸やイソデカン酸などがある。イットリウムの抽出序列はランタノイド元素のほぼ中央にあり、また抽出序列の隣り合うランタノイド元素との分離効率がそれほど高くないため、抽出序列の異なる2種類の抽出剤を用いて2段階に分けて抽出される。溶媒抽出法は連続処理であるため大量生産に向いており、工業生産法としては溶媒抽出法が主流になっている<ref>[[#shinkinzoku1980|新金属協会 (1980)]] 118-127頁。</ref>。さらに[[フッ化水素]]と反応させると、[[フッ化イットリウム]]が得られる<ref name="Holleman" />。
[[jv:Itrium]]

[[kn:ಇಟ್ರಿಯಮ್]]
世界の年間の酸化イットリウム(III)生産量は、2001年に600トンに達した。また、世界の保有量は推計で900万トンに上る<ref name="Emsley497" />。毎年わずか数トンの金属イットリウムが[[フッ化イットリウム]]を酸化することにより生産され、[[カルシウム]][[マグネシウム]]合金の金属スポンジに利用される。1,600 ℃以上に加熱を行う[[アーク炉]]内でイットリウムを融解させることができる<ref name="Emsley497" /><ref name="Holleman" />。
[[ko:이트륨]]

[[ku:Îtriyûm]]
== 応用 ==
[[la:Yttrium]]
=== 日用品 ===
[[lb:Yttrium]]
[[File:Aperture Grille.jpg|thumb|alt=Forty columns of oval dots, 30 dots high. First red than green than blue. The columns of red starts with only four dots in red from the bottom becoming more with every column to the right|イットリウムは[[ブラウン管]]テレビの赤色を作り出すために使われる元素の一つである]]
[[lij:Ittrio]]
[[ユウロピウム]]イオン (Eu<sup>3+</sup>) を[[ドープ]]した[[酸化イットリウム(III)]] (Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub>)、[[オルトバナジン酸イットリウム]] (YVO<sub>4</sub>)、二酸化硫化イットリウム(III) (Y<sub>2</sub>O<sub>2</sub>S) は[[蛍光体]]として、[[カラーテレビ]]の[[ブラウン管]]の赤色を出すために使われる<ref name="CRC2008" /><ref name="Cotton" />{{#tag:ref|エムスリーによると、「普通はユウロピウム(III)をドープした二酸化硫化イットリウム(III)がカラーテレビの赤色成分として使われている。」<ref name="Emsley497" />|group=注}}。イットリウムが[[電子銃]]からのエネルギーを集め、それを蛍光体へ渡すと、ユウロピウムから赤色の光が放出される<ref name="ECE818" />。Eu<sup>3+</sup> のほか[[テルビウム]] (Tb<sup>3+</sup>) もドーパントとして用いられ、これは緑色の蛍光を発する。
[[lt:Itris]]

[[lv:Itrijs]]
イットリウム化合物は[[エチレン]]を[[重合]]してポリエチレンを製造する際の触媒となる<ref name="CRC2008" />。金属としては高性能[[点火プラグ]]の電極に使われる<ref name="Carley" />。また、[[プロパン]]を燃料とする[[ランプ (照明器具)#ランタン|ランタン]]の[[ガスマントル]]の製造に、放射性物質である[[トリウム]]の代替として使われる<ref name="Gilbert" />。
[[ml:യിട്രിയം]]

[[mr:इट्रियम]]
研究中の用途として、固体電極や自動車排気ガスの酸素センサーとして期待される、イットリウムで安定化したジルコニアが挙げられる<ref name="Cotton" />。
[[ms:Itrium]]

[[nl:Yttrium]]
=== ガーネット ===
[[nn:Yttrium]]
[[File:Yag-rod.jpg|thumb|直径0.5 cmのNd:YAGレーザーロッド]]
[[no:Yttrium]]
イットリウムはさまざまな{{仮リンク|人工ガーネット|en|Garnet#Synthetic garnets}}の製造に使われる<ref>{{Cite journal|url = http://www.minsocam.org/ammin/AM36/AM36_133.pdf|title = The role of yttrium and other minor elements in the garnet group|last = Jaffe|first = H.W.|journal = American Mineralogist|year = 1951|accessdate = 2008-08-26|pages = 133-155|format=pdf}}</ref>。イットリウム・鉄・ガーネット (Y<sub>3</sub>Fe<sub>5</sub>O<sub>12</sub>, YIG) は高性能[[マイクロ波]][[フィルタ回路|電子フィルタ]]である<ref name="CRC2008" />。イットリウム、[[鉄]]、[[アルミニウム]]、[[ガドリニウム]]のガーネット({{chem|Y|3|(Fe,Al)|5|O|12}}、{{chem|Y|3(Fe,Ga)|5|O|12}}など)は[[磁性]]を持つ<ref name="CRC2008" />。YIGを音響エネルギー発信機や変換器に用ると高効率のものが得られる<ref>{{cite journal|doi= 10.1016/j.jallcom.2006.05.023|title = Preparation and characterization of yttrium iron garnet (YIG) nanocrystalline powders by auto-combustion of nitrate-citrate gel|year= 2007|last= Vajargah|first = S. Hosseini|journal= Journal of Alloys and Compounds|volume= 430|issue =1-2|pages= 339-343|last2= Madaahhosseini|first2= H|last3= Nemati|first3= Z}}</ref>。[[イットリウム・アルミニウム・ガーネット]] {{chem|Y|3|Al|5|O|12}}(YAG) は[[モース硬度]]8.5であり、模造ダイヤとして[[宝石]]に使われる<ref name="CRC2008" />。[[セリウム]]をドープしたイットリウム・アルミニウム・ガーネット (YAG:Ce) の結晶は、白色[[LED]]の蛍光体に使われる<ref>{{Ref patent |country=US |number=6409938 |status=patent |title=Aluminum fluoride flux synthesis method for producing cerium doped YAG|gdate=2002-06-25 |invent1=Comanzo Holly Ann|assign1=General Electrics}}</ref><ref>{{cite book|author =GIA contributors|publisher = Gemological Institute of America|title = GIA Gem Reference Guide|year = 1995|isbn = 0-87311-019-6}}</ref><ref>{{cite conference|last = Kiss|first = Z. J.|last2=Pressley |first2= R. J.|title = Crystalline solid lasers|book-title = Proceedings of the [[IEEE]]|pages = 1236-1248|volume = 54|issue = 10|publisher = IEEE|date = October 1966|url = http://ieeexplore.ieee.org/xpls/abs_all.jsp?arnumber=1447042|accessdate = 2008-08-16|id = issn: 0018-9219}}</ref>。
[[oc:Itri]]

[[pl:Itr]]
YAG、酸化イットリウム(III)、テトラフルオロイットリウム(III)酸リチウム (LiYF<sub>4</sub>)、オルトバナジン酸イットリウム(III) (YVO<sub>4</sub>) に、[[ネオジム]]、[[エルビウム]]、[[イッテルビウム]]などを[[ドープ]]したものは、近[[赤外線]]レーザーに使われる<ref name="cw">{{cite journal|first = J.|last = Kong|coauthors = Tang, D. Y.; Zhao, B.; Lu, J.; Ueda, K.; Yagi, H. and Yanagitani, T.|title = 9.2-W diode-pumped Yb:Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub> ceramic laser|journal = Applied Physics Letters|volume = 86|year = 2005|doi = 10.1063/1.1914958|pages = 116}}</ref><ref>{{cite journal|first = M.|last = Tokurakawa|coauthors = Takaichi, K.; Shirakawa, A.; Ueda, K.; Yagi, H.; Yanagitani, T. and Kaminskii, A. A.|title = Diode-pumped 188 fs mode-locked Yb<sup>3+</sup>:Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub> ceramic laser|journal = Applied Physics Letters|volume = 90|pages = 071101| year = 2007|doi=10.1063/1.2476385}}</ref>。YAGレーザーは高出力で作動させることができ、金属の切削に使われる<ref name="Stwertka116" />。ドープ済みYAG単結晶は通常[[チョクラルスキー法]]で生産される<ref>{{cite journal|journal = Journal of the Serbian Chemical Society |year = 2002|volume = 67|issue = 4|pages = 91-300|doi = 10.2298/JSC0204291G|title = The growth of Nd: YAG single crystals|author = Golubović, Aleksandar V.; Nikolić, Slobodanka N.; Gajić, Radoš; Đurić, Stevan; Valčić, Andreja}}</ref>。
[[pnb:ایتریم]]

[[pt:Ítrio]]
=== 添加剤 ===
[[qu:Itriyu]]
[[クロム]]、[[モリブデン]]、[[チタン]]、[[ジルコニウム]]に微量のイットリウム (0.1-0.2%) を添加すると、その粒径が小さくなる<ref>{{cite journal|author = PIDC contributors|title = Rare Earth metals & compounds|url = http://www.pidc.com/products_imaterials_oth.html|accessdate =2008-08-26|publisher = Pacific Industrial Development Corporation}}</ref>。[[アルミニウム]]や[[マグネシウム]]の合金に添加すると、[[強度]]が増加する<ref name="CRC2008" />。一般に合金にイットリウムを添加すると、結晶の緻密化によって被加工性が向上し、強固な酸化被膜の形成によって高温条件下での再結晶や酸化、酸による腐食が起こりにくくなる<ref name="ECE818" /><ref>[[#shinkinzoku1980|新金属協会 (1980)]] 132頁。</ref>。このような合金への添加剤としての用途においては高純度であることを必要とされないことも多く、イットリウムの単離工程における中間生成物であるイットリウム濃縮物をそのまま還元して用いる場合もある<ref name="名前なし-1">[[#shinkinzoku1980|新金属協会 (1980)]] 131頁。</ref>。[[コバルト]]、[[鉄]]との合金は[[永久磁石]]として利用される。
[[ro:Ytriu]]

[[ru:Иттрий]]
イットリウムは[[バナジウム]]や[[非鉄金属]]を脱酸素するのに使われる<ref name="CRC2008" />。酸化イットリウム(III)は、宝石である[[立方晶]]の[[ジルコニア]]を安定化させる<ref>{{cite web|url = http://www.emporia.edu/earthsci/amber/go340/students/berg/cz.html|title = Cubic Zirconia|accessdate = 2008-08-26|first = Jessica|last = Berg|publisher=Emporia State University}}</ref>。これは、純粋なジルコニアでは温度変化によって結晶系が単斜晶系から正方晶系へと変化して割れを生じるが、イットリウムを添加することで温度変化に関わらず常に正方晶系となるため熱耐性が得られることによる<ref name="名前なし-1"/>。
[[scn:Ittriu]]

[[sh:Itrijum]]
[[展延性|延性]]に富む[[ダクタイル鋳鉄]]の製造用の球状化剤として、イットリウムが研究されている<ref name="CRC2008" />。[[酸化イットリウム(III)]]は高い[[融点]]を持ち、衝撃抵抗と低い[[熱膨張率]]を提供するので、[[セラミック]]や[[ガラス]]の製造に使われる<ref name="CRC2008" />。これはたとえば、多孔性[[窒化ケイ素]]の生産における焼結添加物や、カメラレンズに使われる<ref>{{Ref patent |country=US |number=5935888 |status=patent |title= Porous silicon nitride with rodlike grains oriented |gdate=1999-08-10 |assign1=Agency Ind Science Techn (JP)| assign2=Fine Ceramics Research Ass (JP)}}</ref><ref name="Emsley497" />。また、[[物質科学]]研究などに使われるイットリウム化合物を合成するための原料としても使われる。
[[simple:Yttrium]]

[[sk:Ytrium]]
=== 医療 ===
[[sl:Itrij]]
放射性同位体である[[イットリウム90]]は{{仮リンク|イットリウム90-dota-tyr3-オクトレオチド|en|Yttrium Y 90-DOTA-tyr3-octreotide}}や[[イブリツモマブ チウキセタン|イットリウム90イブリツモマブ・チウキセタン]]などの医薬品に含まれている。これらの薬は[[悪性リンパ腫]]、[[白血病]]、子宮、結腸直腸、骨などの[[癌]]の治療に用いられている<ref name="Emsley495"/>。これらは[[モノクローナル抗体]]に付着し、癌細胞へと結合して、これをイットリウム90の発する[[ベータ粒子|β線]]で破壊する<ref>{{cite journal|journal = Cancer Research|volume =64|pages = 6200-6206|year =2004|title = A Single Treatment of Yttrium-90-labeled CHX-A&#39;&#39;-C6.5 Diabody Inhibits the Growth of Established Human Tumor Xenografts in Immunodeficient Mice|last = Adams|first= Gregory P.|coauthors= Shaller, Calvin C.; Dadachova, Ekaterina; Simmons, Heidi H.; Horak, Eva M.; Tesfaye, Abohawariat; Klein-Szanto, Andres J. P.; Marks, James D.; Brechbiel, Martin W.; Weiner, Louis M.|doi = 10.1158/0008-5472.CAN-03-2382|pmid = 15342405|issue = 17}}</ref>。
[[sq:Itriumi]]

[[sr:Итријум]]
イットリウム90でできた針は、メスよりも正確に切断を行うことができるので、痛覚を伝達する[[脊髄]]の神経を切り離すのに使われる<ref name="Emsley496" />。イットリウム90は、[[関節リウマチ]]などにより膝などに炎症を起こしている患者の治療のため、放射線滑膜切除術を行う際にも使われる<ref>{{cite journal|first = M.|last = Fischer|coauthors = Modder, G.|title = Radionuclide therapy of inflammatory joint diseases|journal = Nuclear Medicine Communications|volume = 23|issue = 9|pages = 829-831|year = 2002|doi = 10.1097/00006231-200209000-00003|pmid = 12195084}}</ref>。
[[stq:Yttrium]]

[[sv:Yttrium]]
ロボットを補助的に利用し、側枝神経や組織への損傷を減少する目的で行われた、イヌでの前立腺全摘除術実験に、ネオジムをドープしたYAGレーザーが用いられた<ref>{{cite journal|first = Troy|last = Gianduzzo|coauthors = Colombo Jr, Jose R.; Haber, Georges-Pascal; Hafron, Jason; Magi-Galluzzi, Cristina; Aron, Monish; Gill, Inderbir S.; Kaouk, Jihad H.|title = Laser robotically assisted nerve-sparing radical prostatectomy: a pilot study of technical feasibility in the canine model|journal = BJU International|volume = 102|issue = 5|page= 598|publisher = Glickman Urological Institute| location = Cleveland|year = 2008|pmid = 18694410|doi = 10.1111/j.1464-410X.2008.07708.x}}</ref>。一方、エルビウムがドープされたものは、美容外科において皮膚再生(スキン・リサーフェイシング)への利用が検討されている<ref name="Cotton" />。
[[sw:Ytri]]

[[ta:யிற்றியம்]]
=== 超伝導体 ===
[[th:อิตเทรียม]]
[[File:YBCO-modified.jpg|thumb|right|alt=Dark grey pills on a watchglass. One cubic piece of the same material on top of the pills.|[[YBCO]]超伝導体]]
[[tr:İtriyum]]
[[イットリウム系超伝導体|イットリウム・バリウム・銅酸化物]] ({{chem|YBa|2|Cu|3|O|7}}, YBCO, 1-2-3) は1987年にアラバマ大学とヒューストン大学で開発された[[超伝導体]]である<ref name="Wu" />。この超電導体は約93 Kでその性質を現すが、[[液体窒素]]の沸点77.1 Kより高いという点で有用である<ref name="Wu" />。液体窒素は[[液体ヘリウム]]より安価なので、冷却のコストを大幅に減らすことができるためである。
[[ug:ئىتترىي]]

[[uk:Ітрій]]
イットリウム・バリウム・銅酸化物は化学式{{chem|YBa|2|Cu|3|O|7−''d''}}で表されるが、超電導性を示すには ''d'' は0.7より小さくなければならない。その理由はわかっていないが、空孔が結晶中の特定の場所(平面状または鎖状の銅酸化物)にしか発生せず、銅固有の酸化数を上げることが知られていて、これが超電導性に関係しているのだろうとされている。
[[uz:Ittriy]]

[[vi:Yttri]]
1957年に[[BCS理論]]が発表されてから、低温超伝導性の理論はよく理解されるようになった。基礎となるのは結晶中の2電子間の相互作用の独自性である。しかし、BCS理論では高温超電導性を説明できず、詳細な機構は明らかになっていない。わかっているのは、超電導性を起こすには銅酸化物の組成を正確に制御する必要があるということである<ref>{{cite web|url=http://www.ch.ic.ac.uk/rzepa/mim/century/html/ybco_text.htm |publisher=Imperial College|accessdate=2009-12-20|title=Yttrium Barium Copper Oxide - YBCO}}</ref>。
[[war:Yttrium]]

[[xal:Иттриум]]
YBCOは、黒緑色、多結晶、多相の無機物で、[[ペロブスカイト構造]]を基にしている。研究者は[[灰チタン石|ペロブスカイト]]について、実用的な[[高温超電導体]]の開発を目指している<ref name="Stwertka116" />。
[[yi:איטריום]]

[[yo:Yttrium]]
== 危険性 ==
[[zh:钇]]
水溶性イットリウム化合物はわずかに有害であると考えられているが、不溶性化合物は無害である<ref name="Emsley495" />。動物実験により、イットリウムやその化合物は、種類によって程度は異なるが、肺や肝臓に損傷を与えることが示されている。ラットでは、クエン酸イットリウムの吸入により[[肺水腫]]や[[呼吸困難]]が生じ、[[塩化イットリウム(III)]]では肝臓水種、[[胸水]]、肺の充血が生じた<ref name="osha"/>。
[[zh-yue:釔]]

ヒトがイットリウム化合物に曝されると肺疾患の原因となる可能性がある<ref name="osha" />。バナジン酸イットリウムユウロピウムの粉塵に曝された労働者の目、肌、呼吸器に軽度の炎症が見つかった例があるが、これはイットリウムではなく[[バナジウム]]の影響による可能性もある<ref name="osha" />。イットリウム化合物に急激に曝されると、息切れ、咳、胸痛、[[チアノーゼ]]が起こることがある<ref name="osha" />。[[アメリカ国立労働安全衛生研究所]] ([[:en:National Institute for Occupational Safety and Health|NIOSH]]) では、[[許容曝露濃度]] ([[:en:Permissible exposure limit|PEL]]) は1 mg/m<sup>3</sup>、[[生命と健康に対する危険性]] ([[:en:IDLH|IDLH]]) は500 mg/m<sup>3</sup>を推奨している<ref>{{cite web|author = NIOSH contributors|url = http://www.cdc.gov/niosh/npg/npgd0673.html|title = Yttrium|work = NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards|month = September|year = 2005|publisher = National Institute for Occupational Safety and Health|accessdate = 2008-08-03}}</ref>。イットリウムの粉塵は引火性である<ref name="osha" />。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}

=== 出典 ===
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{{元素周期表}}
{{イットリウムの化合物}}
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{{DEFAULTSORT:いつとりうむ}}
[[Category:イットリウム|*]]
[[Category:元素]]
[[Category:遷移金属]]
[[Category:第3族元素]]
[[Category:第5周期元素]]

2024年7月13日 (土) 14:05時点における最新版

ストロンチウム イットリウム ジルコニウム
Sc

Y

Lu
Element 1: 水素 (H),
Element 2: ヘリウム (He),
Element 3: リチウム (Li),
Element 4: ベリリウム (Be),
Element 5: ホウ素 (B),
Element 6: 炭素 (C),
Element 7: 窒素 (N),
Element 8: 酸素 (O),
Element 9: フッ素 (F),
Element 10: ネオン (Ne),
Element 11: ナトリウム (Na),
Element 12: マグネシウム (Mg),
Element 13: アルミニウム (Al),
Element 14: ケイ素 (Si),
Element 15: リン (P),
Element 16: 硫黄 (S),
Element 17: 塩素 (Cl),
Element 18: アルゴン (Ar),
Element 19: カリウム (K),
Element 20: カルシウム (Ca),
Element 21: スカンジウム (Sc),
Element 22: チタン (Ti),
Element 23: バナジウム (V),
Element 24: クロム (Cr),
Element 25: マンガン (Mn),
Element 26: 鉄 (Fe),
Element 27: コバルト (Co),
Element 28: ニッケル (Ni),
Element 29: 銅 (Cu),
Element 30: 亜鉛 (Zn),
Element 31: ガリウム (Ga),
Element 32: ゲルマニウム (Ge),
Element 33: ヒ素 (As),
Element 34: セレン (Se),
Element 35: 臭素 (Br),
Element 36: クリプトン (Kr),
Element 37: ルビジウム (Rb),
Element 38: ストロンチウム (Sr),
Element 39: イットリウム (Y),
Element 40: ジルコニウム (Zr),
Element 41: ニオブ (Nb),
Element 42: モリブデン (Mo),
Element 43: テクネチウム (Tc),
Element 44: ルテニウム (Ru),
Element 45: ロジウム (Rh),
Element 46: パラジウム (Pd),
Element 47: 銀 (Ag),
Element 48: カドミウム (Cd),
Element 49: インジウム (In),
Element 50: スズ (Sn),
Element 51: アンチモン (Sb),
Element 52: テルル (Te),
Element 53: ヨウ素 (I),
Element 54: キセノン (Xe),
Element 55: セシウム (Cs),
Element 56: バリウム (Ba),
Element 57: ランタン (La),
Element 58: セリウム (Ce),
Element 59: プラセオジム (Pr),
Element 60: ネオジム (Nd),
Element 61: プロメチウム (Pm),
Element 62: サマリウム (Sm),
Element 63: ユウロピウム (Eu),
Element 64: ガドリニウム (Gd),
Element 65: テルビウム (Tb),
Element 66: ジスプロシウム (Dy),
Element 67: ホルミウム (Ho),
Element 68: エルビウム (Er),
Element 69: ツリウム (Tm),
Element 70: イッテルビウム (Yb),
Element 71: ルテチウム (Lu),
Element 72: ハフニウム (Hf),
Element 73: タンタル (Ta),
Element 74: タングステン (W),
Element 75: レニウム (Re),
Element 76: オスミウム (Os),
Element 77: イリジウム (Ir),
Element 78: 白金 (Pt),
Element 79: 金 (Au),
Element 80: 水銀 (Hg),
Element 81: タリウム (Tl),
Element 82: 鉛 (Pb),
Element 83: ビスマス (Bi),
Element 84: ポロニウム (Po),
Element 85: アスタチン (At),
Element 86: ラドン (Rn),
Element 87: フランシウム (Fr),
Element 88: ラジウム (Ra),
Element 89: アクチニウム (Ac),
Element 90: トリウム (Th),
Element 91: プロトアクチニウム (Pa),
Element 92: ウラン (U),
Element 93: ネプツニウム (Np),
Element 94: プルトニウム (Pu),
Element 95: アメリシウム (Am),
Element 96: キュリウム (Cm),
Element 97: バークリウム (Bk),
Element 98: カリホルニウム (Cf),
Element 99: アインスタイニウム (Es),
Element 100: フェルミウム (Fm),
Element 101: メンデレビウム (Md),
Element 102: ノーベリウム (No),
Element 103: ローレンシウム (Lr),
Element 104: ラザホージウム (Rf),
Element 105: ドブニウム (Db),
Element 106: シーボーギウム (Sg),
Element 107: ボーリウム (Bh),
Element 108: ハッシウム (Hs),
Element 109: マイトネリウム (Mt),
Element 110: ダームスタチウム (Ds),
Element 111: レントゲニウム (Rg),
Element 112: コペルニシウム (Cn),
Element 113: ニホニウム (Nh),
Element 114: フレロビウム (Fl),
Element 115: モスコビウム (Mc),
Element 116: リバモリウム (Lv),
Element 117: テネシン (Ts),
Element 118: オガネソン (Og),
Yttrium has a hexagonal crystal structure
39Y
外見
銀白色
一般特性
名称, 記号, 番号 イットリウム, Y, 39
分類 遷移金属
, 周期, ブロック 3, 5, d
原子量 88.90585
電子配置 [Kr] 4d1 5s2
電子殻 2, 8, 18, 9, 2(画像
物理特性
固体
密度室温付近) 4.472 g/cm3
融点での液体密度 4.24 g/cm3
融点 1799 K, 1526 °C, 2779 °F
沸点 3609 K, 3336 °C, 6037 °F
融解熱 11.42 kJ/mol
蒸発熱 365 kJ/mol
熱容量 (25 °C) 26.53 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 1883 2075 (2320) (2627) (3036) (3607)
原子特性
酸化数 3, 2, 1(弱塩基性酸化物
電気陰性度 1.22(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 第1: 600 kJ/mol
第2: 1180 kJ/mol
第3: 1980 kJ/mol
原子半径 180 pm
共有結合半径 190±7 pm
その他
結晶構造 六方晶系
磁性 常磁性[1]
電気抵抗率 (r.t.) (α, poly) 596 nΩ⋅m
熱伝導率 (300 K) 17.2 W/(m⋅K)
熱膨張率 (r.t.) (α, poly) 10.6 μm/(m⋅K)
音の伝わる速さ
(微細ロッド)
(20 °C) 3300 m/s
ヤング率 63.5 GPa
剛性率 25.6 GPa
体積弾性率 41.2 GPa
ポアソン比 0.243
ブリネル硬度 589 MPa
CAS登録番号 7440-65-5
主な同位体
詳細はイットリウムの同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
87Y syn 3.35 d ε - 87Sr
γ 0.48, 0.38 -
88Y syn 106.6 d ε - 88Sr
γ 1.83, 0.89 -
89Y 100% 中性子50個で安定
90Y syn 2.67 d β- 2.28 90Zr
γ 2.18 -
91Y syn 58.5 d β- 1.54 91Zr
γ 1.20 -

イットリウムラテン語: yttrium[2] 英語発音: [ˈɪtriəm])は、原子番号39の元素である。元素記号はYである。単体は軟らかく銀光沢をもつ金属である。遷移金属に属すがランタノイドと化学的性質が似ているので希土類元素に分類される[3]。唯一の安定同位体89Yのみ希土類鉱物中に存在する。単体は天然には存在しない。

1787年カール・アクセル・アレニウス英語版がスウェーデンのイッテルビーの近くで未知の鉱物を発見し、町名にちなんで「イッテルバイト」と名づけた[4]ヨハン・ガドリンはアレニウスの見つけた鉱物からイットリウムの酸化物を発見し、アンデルス・エーケベリはそれをイットリアと名づけた。1828年フリードリヒ・ヴェーラーは鉱物からイットリウムの単体を取り出した[5]。イットリウムは蛍光体に使われ、赤色蛍光体はテレビのブラウン管ディスプレイやLEDに使われている[6]。ほかには電極電解質電気フィルタレーザー超伝導体などに使われ、医療技術にも応用されている。イットリウムは生理活性物質ではないが、その化合物は人間の肺に害をおよぼす[7]

名称

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元素記号には1920年代初頭まで Yt が使われていたが、のちに Y が使われるようになった[8]

特徴

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性質

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イットリウムは軟らかく銀光沢を持つ金属である。第5周期第3族に属す遷移金属であり、周期律から予想されるとおり、第3族で第4周期スカンジウムより電気陰性度が小さく、第6周期ランタンよりも電気陰性度が大きい。また、第5族で第5周期のジルコニウムよりも電気陰性度が小さい[9][10]。第5周期元素のdブロック元素のなかではイットリウムがもっとも原子番号が小さい。

純粋な単体は空気中で比較的安定だが、これは酸化イットリウム(III) (Y2O3) の膜が金属表面を覆って不動態化するためである。水蒸気中で750 ℃付近まで加熱すると、膜の厚さは10 µmに達することがある[11]。単体を細かくすると空気中で不安定となり、削り状のイットリウムは400 ℃以上で自然発火しうる。窒素中では、単体を1,000 ℃に加熱すると窒化イットリウム (YN) が生成する[11]。イットリウムには2つの同素体がある(α、β)。それぞれの結晶構造は六方最密充填構造と体心立方格子である。

ランタノイドとの類似点

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イットリウムとランタノイド元素の性質はよく似ており、ともに希土類元素に属す[3]。天然の希土類鉱物英語版は必ず複数の希土類元素を含んでいる[12]

イットリウムは、周期表中で近くに位置する元素よりも、ランタノイドに性質が似ている[13]。もし物理的性質だけに着目すれば、イットリウムの原子番号は64.5-67.5に相当する。この値はガドリニウムエルビウムの中間である[14]。しかし、イットリウムの密度が4.47 g/cm3であるのに対してルテチウムが9.84 g/cm3、ジスプロシウムが8.56 g/cm3であるように、イットリウムはほかのランタノイドより密度が低く、物理的性質の相違もある[15]

また反応次数もほぼ同じであり[11]テルビウムジスプロシウムと化学反応性が似ている[6]。原子半径 (180 pm) やイオン半径 (88 pm) も類似しており、溶液中ではまるで重希土類のようにふるまうため、重希土類のイオンは「イットリウム族」と呼ばれることがある[11][16]。原子半径の類似性はランタノイド収縮による[17]

このようにイットリウムとランタノイドは非常に類似した化学的性質をもつが、相違点としては、イットリウムはもっぱら+3の原子価しか取らないのに対し、ランタノイドのおよそ半数は+3価以外の原子価も取ることが挙げられる[11]

化合物と化学反応

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+3価の遷移金属として、イットリウムはさまざまな無機化合物をつくり、通常3つの価電子をすべて結合に使うため、酸化数は+3である[18]。たとえば酸化イットリウム(III) (Y2O3) は1つのイットリウム原子が6つの酸素原子と結合した構造をもち、白色固体の物質である[19]

フッ化物水素化物シュウ酸塩は水に溶けないが、臭化物塩化物ヨウ化物窒化物硫化物はすべて水に溶ける[11]。Y3+イオンは5d軌道と4f軌道に電子が存在しないため電子遷移による可視光の吸収が起こらず、その溶液は無色である[11]

イットリウムやその化合物はと容易に反応してY2O3が生成する[12]。濃硝酸フッ化水素酸との反応性は高くないが、ほかの強酸とは容易に反応する[11]

単体は200 ℃以上でハロゲンと反応してフッ化イットリウム(III) (YF3)、塩化イットリウム(III) (YCl3)、臭化イットリウム(III) (YBr3) などのハロゲン化物をつくる[7]。同様に、高温で炭素リンセレンケイ素硫黄などと反応し、二元化合物をつくる[11]

炭素─イットリウム結合を持つ化合物を有機イットリウム化合物英語版という。そのなかには酸化数0のイットリウムを含むものがある[20][21][注 1]。ある三量体化反応の触媒として有機イットリウム化合物が使われることがある[21]。その化合物は、Y2O3と濃塩酸および塩化アンモニウムから得られるYCl3を出発物質として合成される[24][25]

ハプト数とは、隣接する配位子がどのように中心原子へ結合しているかを表すもので、ギリシャ文字のイータ η で表される。カルボランが d0 金属原子にハプト数 η7 で配位している錯体として最初に発見されたのはイットリウム錯体であった[21]炭素インターカレーション化合物英語版であるグラファイト-Yやグラファイト-Y2O3を気化することにより、Y@C82のような球状の炭素の檻の中にイットリウム原子を内包した原子内包フラーレン英語版が生成する[6]電子スピン共鳴による研究で、Y3+と(C82)3−のイオン対の生成が示されている[6]。またY3C、Y2C、YC2などの炭化物水素化すると炭化水素が得られる[11]

元素合成と同位体

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太陽系のイットリウムは恒星内元素合成に由来し、約72%がs過程、約28%がr過程によるものである[26]。s過程は数千年かけてゆっくりと進み、脈動する赤色巨星の内部で起こる[27]。r過程は超新星爆発に伴って起こる速い反応である。いずれも軽い原子核中性子捕獲により質量数が増加する。

イットリウムはウラン核分裂反応の主要な生成物である。核廃棄物管理の観点で重要な同位体は、半減期58.51日の91Yと半減期64時間の90Yである[28]90Yは短い半減期を持ちながら、親核種のストロンチウム90 (90Sr) の半減期が29年と長いため永続平衡英語版状態になる。

第3族元素陽子の数は奇数なので安定同位体が少ない[9]。イットリウムの安定同位体は89Yのみであり、これは天然に存在する。ほかの過程で生成した同位体が電子放出(中性子 → 陽子)で崩壊するための十分な時間をs過程が与えることにより、89Yの存在量が多くなったと考えられている[27][注 2]。s過程では質量数A = 陽子 + 中性子)が90、138、208付近の原子核が選択的に生成する傾向がある[27][注 3]。このとき中性子数はそれぞれ50、82、126となる。このような同位体は電子をあまり放出しないので、結果として存在量が多くなる[5]89Yの質量数は90に近く、中性子数は50である。

質量数76から108まで、少なくとも32種のイットリウムの人工放射性同位体が確認されている[28]。最も不安定な同位体は半減期150 nsの106Yであり、その次は半減期200 nsの76Yである[28]。最も安定なものは半減期106.626日の88Yであり、その次は半減期58.51日の91Y、79.8時間の87Y、64時間の90Yである[28]。ほかの同位体の半減期はすべて1日以内であり、そのほとんどが1時間以内である[28]

質量数88以下のイットリウム同位体は、主にβ+崩壊(陽子 → 中性子)によりストロンチウム (Z = 38) の同位体になる[28]。質量数90以上のものは、主にβ崩壊(中性子 → 陽子)によりジルコニウム (Z = 40) の同位体になる[28]。また、質量数97以上のものはβ遅延中性子放出過程による崩壊が一部起こる[30]

質量数78から102まで、少なくとも20種の準安定同位体(励起状態の同位体)が知られている[28][注 4]80Yと97Yでは複数の励起状態が確認されている[28]基底状態より励起状態のほうが不安定なはずだが、78mY、84mY、85mY、96mY、98m1Y、100mY、102mYは基底状態のものより長い半減期を持つ。その理由は、これらは核異性体転移だけでなくβ崩壊によっても崩壊するためである[30]

歴史

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1787年、軍隊中尉のかたわら化学者をしていたカール・アクセル・アレニウスは、スウェーデンのストックホルム近郊の村イッテルビーの古い石切り場で、黒色の重い岩石を発見した。彼はこれを、当時見つかったばかりのタングステンが含まれる未知の鉱物だと考え[31]、これを「イッテルバイト」と名づけた[注 5]。さらなる分析のため、その試料が多数の化学者に送られた[4]

白黒の肖像画。若い男がコートを着てネッカチーフを着けている。髪はわずかに着色されるのみで、灰色に見える。
酸化イットリウム(III)を発見したヨハン・ガドリン

1789年、ヨハン・ガドリンはオーボ大学 (University of Åbo) でアレニウスの試料から新たな酸化物を発見し(当時は「アース」と呼ばれた)、1794年、分析を完了してその成果を発表した[32]。1797年、アンデルス・エーケベリはこれを確認し、新たな酸化物を「イットリア (yttria)」と名づけた[33]。数十年後、アントワーヌ・ラヴォアジエによる元素の近代的定義により、アースは元素へと還元することができると考えられるようになり、新たなアースの発見はそれに含まれる新たな元素の発見と同義であることが認識された。そしてイットリアには「イットリウム」が含まれると考えられた[注 6]

1843年、カール・グスタフ・モサンデルはイットリアから3種の酸化物、すなわち白色の酸化イットリウム(III)、黄色の酸化テルビウム(III,IV)(当時これは「エルビア」と呼ばれていた)、薔薇色の酸化エルビウム(これは「テルビア」と呼ばれていた)を発見した[34]。四つ目の酸化物、酸化イッテルビウムは1878年、ジャン・マリニャックにより単離された[35]。その後、新たな元素が単体としてこれらの酸化物から単離され、採石場のあったイッテルビー村にちなんで、それぞれイッテルビウムテルビウムエルビウムと命名された[36]。さらに数十年後、7種の新たな金属が「ガドリンのイットリア」から発見された[4]。イットリアは単一組成の酸化物ではなく鉱物であることがわかったため、マルティン・ハインリヒ・クラプロートはガドリンの名をとって、これをガドリナイトと改名した[4]

金属イットリウムは1828年、フリードリヒ・ヴェーラーが無水塩化イットリウムカリウムを加熱することによって初めて単離した[37][38]

1987年に、イットリウム・バリウム・銅酸化物英語版高温超伝導を示すことが発見された。この性質を示す物質としては2番目に見つかったもので[39]、窒素の沸点以上で超伝導を示す物質としては、初めて見つかったものである[注 7]

産出

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白い背景の上の三つの柱状をした茶色の結晶
リン酸イットリウムを主成分とするゼノタイムの結晶

存在量

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イットリウムはほとんどの希土類鉱石に含まれ[10]、いくつかのウラン鉱石にも含まれるが、単体は自然界に存在しない[40]。地殻中の存在量は約31 ppmであり、これは28番目に大きく、の400倍である[41]。土壌中には10-150 ppm(乾燥質量の平均で23 ppm)含まれ、海水中には9 pptほど含まれている[41]アポロ計画で採集された月の石は、イットリウムを比較的多く含む[36]

生体内での役割は知られていないが、ほとんどの生物に含まれ、ヒトでは肝臓、腎臓、脾臓、肺、骨に濃縮する傾向がある。ヒトの体には0.5 mg程度のイットリウムが含まれており、母乳には4 ppmほど含まれている[42]。新鮮な野菜や作物には20-100 ppmほど含まれ、なかでもキャベツに最も多く含まれる[42]。最も高濃度なのは樹木の種子であり、700 ppm以上含まれる[42]

生産

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イットリウムとランタノイドの物性が似ていることから、ともに同じような過程で鉱石中に濃縮される。そのため、これらは同じ鉱石、すなわち希土類鉱物中に存在する。鉱石中での軽希土と重希土の分離はわずかであって、完全なものとはならない。原子量は小さいが、イットリウムは重希土の中で濃縮される[43][44]

希土類元素の主な産出源として以下の四つが知られる[45]が、モナザイトやバストネサイトなどの軽希土鉱物においては副生成物として少量のイットリウムが得られるのみであり、主要なイットリウム源はもっぱら重希土鉱物のゼノタイムに依る[46]

立方体に近い形をした暗灰色金属片。表面は平坦でない。
イットリウムのかけら。イットリウムと他の希土類元素を分離するのは困難である
  • 炭酸塩・フッ化物塩を含む軽希土であるバストネサイト ([(Ce, La, etc.)(CO3)F])。イットリウムの割合は平均0.1%で[5][43]、残り99.9%は他の16種の希土類元素である[43]。1960年から1990年にかけてのバストネサイトの主な産地はカリフォルニアのパス山希土鉱山であり、当時アメリカは最大の希土類産出国だった[43][45]
  • モナザイト ([(Ce, La, etc.)PO4]) は大部分がリン酸塩で、侵食を受けた花崗岩の移動や重力による分離でつくられた漂砂鉱床を構成する。軽希土鉱石として、モナザイトは2%[43](または3%[47])ほどのイットリウムを含んでいる。19世紀初めに最大の鉱床がインドとブラジルで見つかり、両国は19世紀半ばまで最大のイットリウム産出国だった[43][45]
  • ゼノタイム英語版は希土類のリン酸塩で、リン酸イットリウム (YPO4) としてイットリウムを60%以上含む重希土鉱石である[43]。最大の鉱床は中国の白云鄂博(バイユンオボ)であり、1990年代にパス山鉱が閉山したため中国は最大の重希土輸出国となった[43][45]
  • イオン吸着型粘土(ログナン粘土)は花崗岩の風化によって形成され、重希土を1%程度含む[43]。濃縮物により鉱石は最終的に8%以上のイットリウムを含むようになる。イオン吸着型粘土は主に中国の華南地方で採掘される[43][45][48][49]。イットリウムはサマルスカイトフェルグソナイト英語版中にもみられる[41]

イットリウムを他の希土類から分離するのは困難であり、古典的な分離法である分別沈殿法では高純度なイットリウム化合物を得ることは事実上不可能である[50]。イットリウムを分離するための前処理として、鉱石中に含まれる希土類のリン酸塩を熱濃硫酸に溶解させて希土類溶液を得る硫酸法が用いられている。この希土類溶液にシュウ酸を加えて重希土類をシュウ酸塩として沈降させ軽希土類と分離し、これを酸素中で加熱乾燥させることで酸化イットリウム(III)を60%ほど含有したイットリウム濃縮物が得られる。得られた濃縮物は塩酸に溶解された後、イオン交換クロマトグラフィーや溶媒抽出法によって各元素に分けられる。イオン交換法におけるキレート剤としては通常エチレンジアミン四酢酸 (EDTA) にあらかじめ銅(II)イオンや亜鉛(II)イオンなどの2価の金属イオンを吸着させたものが利用される。希土類元素とEDTAとの結合力はそれぞれの元素によって異なるため、イオン交換塔に希土類溶液を通すとEDTAとの結合力が強い順に希土類の混合物が分離され、イットリウムはジスプロシウムテルビウムの間で得られる。この分離プロセスから明白なように、イオン交換膜法はバッチ処理を前提としているため大量生産には向いていないが、様々な組成の溶液を同一プロセスで処理できる利点がある。溶媒抽出法において利用される抽出剤としては、トリブチルリン酸やイソデカン酸などがある。イットリウムの抽出序列はランタノイド元素のほぼ中央にあり、また抽出序列の隣り合うランタノイド元素との分離効率がそれほど高くないため、抽出序列の異なる2種類の抽出剤を用いて2段階に分けて抽出される。溶媒抽出法は連続処理であるため大量生産に向いており、工業生産法としては溶媒抽出法が主流になっている[51]。さらにフッ化水素と反応させると、フッ化イットリウムが得られる[52]

世界の年間の酸化イットリウム(III)生産量は、2001年に600トンに達した。また、世界の保有量は推計で900万トンに上る[41]。毎年わずか数トンの金属イットリウムがフッ化イットリウムを酸化することにより生産され、カルシウムマグネシウム合金の金属スポンジに利用される。1,600 ℃以上に加熱を行うアーク炉内でイットリウムを融解させることができる[41][52]

応用

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日用品

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Forty columns of oval dots, 30 dots high. First red than green than blue. The columns of red starts with only four dots in red from the bottom becoming more with every column to the right
イットリウムはブラウン管テレビの赤色を作り出すために使われる元素の一つである

ユウロピウムイオン (Eu3+) をドープした酸化イットリウム(III) (Y2O3)、オルトバナジン酸イットリウム (YVO4)、二酸化硫化イットリウム(III) (Y2O2S) は蛍光体として、カラーテレビブラウン管の赤色を出すために使われる[5][6][注 8]。イットリウムが電子銃からのエネルギーを集め、それを蛍光体へ渡すと、ユウロピウムから赤色の光が放出される[53]。Eu3+ のほかテルビウム (Tb3+) もドーパントとして用いられ、これは緑色の蛍光を発する。

イットリウム化合物はエチレン重合してポリエチレンを製造する際の触媒となる[5]。金属としては高性能点火プラグの電極に使われる[54]。また、プロパンを燃料とするランタンガスマントルの製造に、放射性物質であるトリウムの代替として使われる[55]

研究中の用途として、固体電極や自動車排気ガスの酸素センサーとして期待される、イットリウムで安定化したジルコニアが挙げられる[6]

ガーネット

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直径0.5 cmのNd:YAGレーザーロッド

イットリウムはさまざまな人工ガーネット英語版の製造に使われる[56]。イットリウム・鉄・ガーネット (Y3Fe5O12, YIG) は高性能マイクロ波電子フィルタである[5]。イットリウム、アルミニウムガドリニウムのガーネット(Y3(Fe,Al)5O12Y3(Fe,Ga)5O12など)は磁性を持つ[5]。YIGを音響エネルギー発信機や変換器に用ると高効率のものが得られる[57]イットリウム・アルミニウム・ガーネット Y3Al5O12(YAG) はモース硬度8.5であり、模造ダイヤとして宝石に使われる[5]セリウムをドープしたイットリウム・アルミニウム・ガーネット (YAG:Ce) の結晶は、白色LEDの蛍光体に使われる[58][59][60]

YAG、酸化イットリウム(III)、テトラフルオロイットリウム(III)酸リチウム (LiYF4)、オルトバナジン酸イットリウム(III) (YVO4) に、ネオジムエルビウムイッテルビウムなどをドープしたものは、近赤外線レーザーに使われる[61][62]。YAGレーザーは高出力で作動させることができ、金属の切削に使われる[47]。ドープ済みYAG単結晶は通常チョクラルスキー法で生産される[63]

添加剤

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クロムモリブデンチタンジルコニウムに微量のイットリウム (0.1-0.2%) を添加すると、その粒径が小さくなる[64]アルミニウムマグネシウムの合金に添加すると、強度が増加する[5]。一般に合金にイットリウムを添加すると、結晶の緻密化によって被加工性が向上し、強固な酸化被膜の形成によって高温条件下での再結晶や酸化、酸による腐食が起こりにくくなる[53][65]。このような合金への添加剤としての用途においては高純度であることを必要とされないことも多く、イットリウムの単離工程における中間生成物であるイットリウム濃縮物をそのまま還元して用いる場合もある[66]コバルトとの合金は永久磁石として利用される。

イットリウムはバナジウム非鉄金属を脱酸素するのに使われる[5]。酸化イットリウム(III)は、宝石である立方晶ジルコニアを安定化させる[67]。これは、純粋なジルコニアでは温度変化によって結晶系が単斜晶系から正方晶系へと変化して割れを生じるが、イットリウムを添加することで温度変化に関わらず常に正方晶系となるため熱耐性が得られることによる[66]

延性に富むダクタイル鋳鉄の製造用の球状化剤として、イットリウムが研究されている[5]酸化イットリウム(III)は高い融点を持ち、衝撃抵抗と低い熱膨張率を提供するので、セラミックガラスの製造に使われる[5]。これはたとえば、多孔性窒化ケイ素の生産における焼結添加物や、カメラレンズに使われる[68][41]。また、物質科学研究などに使われるイットリウム化合物を合成するための原料としても使われる。

医療

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放射性同位体であるイットリウム90イットリウム90-dota-tyr3-オクトレオチド英語版イットリウム90イブリツモマブ・チウキセタンなどの医薬品に含まれている。これらの薬は悪性リンパ腫白血病、子宮、結腸直腸、骨などのの治療に用いられている[42]。これらはモノクローナル抗体に付着し、癌細胞へと結合して、これをイットリウム90の発するβ線で破壊する[69]

イットリウム90でできた針は、メスよりも正確に切断を行うことができるので、痛覚を伝達する脊髄の神経を切り離すのに使われる[31]。イットリウム90は、関節リウマチなどにより膝などに炎症を起こしている患者の治療のため、放射線滑膜切除術を行う際にも使われる[70]

ロボットを補助的に利用し、側枝神経や組織への損傷を減少する目的で行われた、イヌでの前立腺全摘除術実験に、ネオジムをドープしたYAGレーザーが用いられた[71]。一方、エルビウムがドープされたものは、美容外科において皮膚再生(スキン・リサーフェイシング)への利用が検討されている[6]

超伝導体

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Dark grey pills on a watchglass. One cubic piece of the same material on top of the pills.
YBCO超伝導体

イットリウム・バリウム・銅酸化物 (YBa2Cu3O7, YBCO, 1-2-3) は1987年にアラバマ大学とヒューストン大学で開発された超伝導体である[39]。この超電導体は約93 Kでその性質を現すが、液体窒素の沸点77.1 Kより高いという点で有用である[39]。液体窒素は液体ヘリウムより安価なので、冷却のコストを大幅に減らすことができるためである。

イットリウム・バリウム・銅酸化物は化学式YBa2Cu3O7−dで表されるが、超電導性を示すには d は0.7より小さくなければならない。その理由はわかっていないが、空孔が結晶中の特定の場所(平面状または鎖状の銅酸化物)にしか発生せず、銅固有の酸化数を上げることが知られていて、これが超電導性に関係しているのだろうとされている。

1957年にBCS理論が発表されてから、低温超伝導性の理論はよく理解されるようになった。基礎となるのは結晶中の2電子間の相互作用の独自性である。しかし、BCS理論では高温超電導性を説明できず、詳細な機構は明らかになっていない。わかっているのは、超電導性を起こすには銅酸化物の組成を正確に制御する必要があるということである[72]

YBCOは、黒緑色、多結晶、多相の無機物で、ペロブスカイト構造を基にしている。研究者はペロブスカイトについて、実用的な高温超電導体の開発を目指している[47]

危険性

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水溶性イットリウム化合物はわずかに有害であると考えられているが、不溶性化合物は無害である[42]。動物実験により、イットリウムやその化合物は、種類によって程度は異なるが、肺や肝臓に損傷を与えることが示されている。ラットでは、クエン酸イットリウムの吸入により肺水腫呼吸困難が生じ、塩化イットリウム(III)では肝臓水種、胸水、肺の充血が生じた[7]

ヒトがイットリウム化合物に曝されると肺疾患の原因となる可能性がある[7]。バナジン酸イットリウムユウロピウムの粉塵に曝された労働者の目、肌、呼吸器に軽度の炎症が見つかった例があるが、これはイットリウムではなくバナジウムの影響による可能性もある[7]。イットリウム化合物に急激に曝されると、息切れ、咳、胸痛、チアノーゼが起こることがある[7]アメリカ国立労働安全衛生研究所 (NIOSH) では、許容曝露濃度 (PEL) は1 mg/m3生命と健康に対する危険性 (IDLH) は500 mg/m3を推奨している[73]。イットリウムの粉塵は引火性である[7]

脚注

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注釈

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  1. ^ イットリウムが+3以外の酸化数をとる例として、融解した塩化イットリウム(III)中で+2のものが[22]、酸化イットリウム(III)の気相中のクラスターで+1のものが観測された[23]
  2. ^ 正確には、中性子陽子になるとき電子反ニュートリノが放出される。
  3. ^ 魔法数を参照。この理由は中性子捕獲断面積が非常に低いことによるものと考えられている[29]
  4. ^ 準安定同位体は通常の核種よりも高いエネルギーを持っており、この状態はガンマ線転換電子を放出するまで続く。準安定同位体は質量数の横に m を記して示す。
  5. ^ イッテルバイト (ytterbite) は発見された場所の近くの村 (ytterby) の名前に由来し、語尾の -ite は鉱物であることを示している。
  6. ^ アースは語尾に -a が、元素は -ium が付く。
  7. ^ YBCO超伝導転移温度は93 Kで、窒素の沸点は77 Kである。
  8. ^ エムスリーによると、「普通はユウロピウム(III)をドープした二酸化硫化イットリウム(III)がカラーテレビの赤色成分として使われている。」[41]

出典

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