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「成長ホルモン放出ホルモン」の版間の差分

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/* GHRHの血中濃度とその由来片上秀喜(2010)"成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)".広範囲 血液,尿化学検査、免疫学的検査(第七版)-その数値をどう読むか-,日本臨床:pp193-199, 日本臨床社
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末梢血中のGHRHの由来は消化管とされている. 特異的分解酵素,DPP-4,により,活性型GHRHの血中半減期は短く(T1/2: 約7分), 視床下部から末梢血までは距離がある. 疾患により視床下部が破壊され, GHRH産生細胞数が著減した場合でも, 血中GHRH濃度は変化しない. 一方,下垂体門脈血が灌流し, GHRHが高濃度を示す海綿静脈洞や下錐体静脈洞, あるいは術中のトルコ鞍内や下垂体近傍での血中GHRH濃度は, 同時に測定した末梢血中のGHRH濃度と有意差を認めない. 
末梢血中のGHRHの由来は消化管とされている. 特異的分解酵素,DPP-4,により,活性型GHRHの血中半減期は短く(T1/2: 約7分), 視床下部から末梢血までは距離がある. 疾患により視床下部が破壊され, GHRH産生細胞数が著減した場合でも, 血中GHRH濃度は変化しない. 一方,下垂体門脈血が灌流し, GHRHが高濃度を示す海綿静脈洞や下錐体静脈洞, あるいは術中のトルコ鞍内や下垂体近傍での血中GHRH濃度は, 同時に測定した末梢血中のGHRH濃度と有意差を認めない. 
したがって, ヒトにおいては, 他の視床下部ホルモンと同様に,血中のGHRH濃度を測定することにより, 疾患, 睡眠, 運動状態の変化などに伴う視床下部機能を推定することは困難であると結論づけられる.
したがって, ヒトにおいては, 他の視床下部ホルモンと同様に,血中のGHRH濃度を測定することにより, 疾患, 睡眠, 運動状態の変化などに伴う視床下部機能を推定することは困難であると結論づけられる.

== 異所性GHRHに基づく先端巨大症と下垂体性巨人症<ref>片上秀喜(2011)"異所性成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)産生腫瘍".異所性ホルモン産生腫瘍の診断と治療,日本臨床:69増:711-719, 日本臨床社,東京</ref> ==
【疾患概念】
 膵内分泌腫瘍や気管支カルチノイドなどの神経内分泌腫瘍では,腫瘍組織から異所性にGHRHが大量に産生・分泌され,血中のGHRH濃度が上昇し,endocrine機構を介して,下垂体のGH細胞を長期間刺激する結果,下垂体に過形成や腺腫が発生する.一方,頭蓋内に発生する視床下部・下垂体部gangliocytomaやhamartomaの一部では末梢血中のGHRH濃度を上昇させずに,paracrine機構を介して,直接,GHRHが下垂体GH産生細胞に作用し,細胞増殖とGH分泌を促進し,巨人症や先端巨大症を引き起こす.
【歴史】
 1949年,気管支の内分泌腫瘍で下垂体腺腫を有する先端巨大症の一症例を報告し,異所性GHRH産生の可能性が指摘されて以来,気管支カルチノイド以外に,消化管カルチノイドや膵ラ氏島腫瘍に伴う先端巨大症が報告されるようなった.さらに,1970年代後半に,GHRH活性が腫瘍組織中に相次いで証明された.そして,1982年,GuilleminらとValeらのグループはそれぞれ独立して,視床下部抽出物からではなく,先端巨大症を呈した膵腫瘍より,ヒトGHRHを分離同定した.引き続いて,ヒト視床下部性GHRHと同一であることが確認された.このようにして,異所性に産生されたホルモンが正所性にも存在することがGHRHにおいても証明された.現在までに頭蓋外に発生する異所性GHRH産生腫瘍に基づく先端巨大症は本邦例8例を含め,80例以上が報告されている.
【病理および病態生理】
 53例のGHRH産生腫瘍のうち,46例の頭蓋外腫瘍,視床下部・下垂体gangliocytomaなど7例の頭蓋内腫瘍がGHRHを産生し,先端巨大症や巨人症をきたしたことが報告されている.うち,頭蓋外の異所性GHRH産生腫瘍の大部分は気管支と消化管などのカルチノイド(65%)あるいは膵ラ氏島腫瘍(28%)で,かつ,その約半数は悪性で,転移を伴う.また,広汎な転移をきたした神経内分泌悪性腫瘍の終末期では,血中GHRHが著明な高値を示すにもかかわらず,臨床的な先端巨大症を伴わない症例もある.
【疫学】
 本症に基づく先端巨大症および巨人症の正確な頻度は不明であるが,極めて稀で,本邦では先端巨大症および巨人症の0.2%である.発症の男女比は頭蓋外の異所性GHRH産生腫瘍に基づくものは女性に多く(約3:1),頭蓋内のものは同数である.年齢は15歳から74歳と幅広く分布し,若年者では巨人症を来たす.
【症候】
 異所性GHRH産生腫瘍の臨床症状は,下垂体GH細胞を刺激・増殖することによる症状(先端巨大症や巨人症)と,腫瘍自身がGHRH以外の種々の生理活性物質を産生することによる症状(下痢や悪液質など腫瘍随伴症候)が主体である.また,腫瘍組織は増殖・転移の部位と拡がりにより各種の通過障害や機能障害をもたらす場合がある.本症では通常のGH産生下垂体腺腫に基づくものと臨床症状の上で,区別できない.しかし,腫瘍がVIP,gastrin,ACTH,PTHrPやセロトニンなどを産生する場合は種類と産生量に応じて,それぞれ下痢,Zollinger-Ellison症候群,Cushing症候群,高カルシウム血症や顔面紅潮など,多彩な臨床症状を呈する.悪性腫瘍で腫瘍が大きいか,広汎な転移を有する場合は,種々のサイトカインを産生し,悪液質に陥る.
 腫瘍からのGHRHにより刺激/産生された血中GHは,腫瘍から同時に産生される種々のサイトカインにより先端巨大症を引き起こすに十分なIGF-I産生を活性化することができず,先端巨大症の臨床症状がさほど明らかにならない場合がある.
【診断および鑑別診断】
 GHRH産生腫瘍の診断の契機は,先端巨大症および巨人症に伴う病歴や臨床症状である.種々の腫瘍随伴症候もしくは視床下部腫瘍に随伴する臨床所見を伴わないかぎり,異所性GHRH産生腫瘍に基づく先端巨大症や巨人症は臨床症状や血中GHやIGF-I濃度からは通常の下垂体性先端巨大症や巨人症と区別は困難である.また,本症ではGHRH以外に腫瘍の産生するホルモンや生理活性物質の種類と病期により,臨床症状,検査所見および治療方針は大きく異なる.したがって,先端巨大症や巨人症を診察した場合には臨床的な所見のみならず,稀な疾患であるが,本症を念頭におき,検査によって病因を確かめることが肝要である. 
【治療】
 治療の要点は先端巨大症あるいは巨人症をきたしたGHRH産生腫瘍を除去し,GHならびにIGF-I過剰分泌を正常化することである.
すでに広汎な全身転移を伴っている症例では,GHRH産生腫瘍自体とそれにより惹起されたGH過剰症に対する治療が必要である.腫瘍自体に対する手術,化学療法および放射線療法有効性は乏しい.また,腫大した下垂体に対しては,先端巨大症に伴う諸症状を軽減するために,下垂体への外照射療法や下垂体切除は,いずれも有効性は乏しい.
 また,ドーパミン作動薬は本症においては,GHRH産生腫瘍を縮小したり,下垂体からのGH分泌を抑制することは極めて稀であり,有用な治療薬としては期待できない.
 一方,腫瘍がソマトスタチンに対するレセプターを有する場合は,ソマトスタチン誘導体であるoctreotideが著効を示すことがある.octreotideは下垂体に作用してGH分泌を抑制するだけでなく,腫瘍自身にも作用し,腫瘍増大を抑制しGHRH分泌を低下させる.この際,octreotide皮下投与後の血中GHRH濃度および腫瘍から同時に産生されている他の生理活性物質濃度を測定することにより,octreotideの抗腫瘍作用をある程度予測することが可能である.
【本症の診断と治療のポイント】
① 下垂体性と思われる先端巨大症においてもMEN I型も含め,本症を疑うこと.
② 非定型的な先端巨大症や下垂体巨人症においては血中GHRH濃度を測定し(高感度測定法しにて通常1,000 pg/ml以上を示す.基準値:4-14pg/ml,健常者:20 pg/ml以下,
③ 画像診断により共存する腫瘍を証明することである.頭蓋内の異所性GHRH産生腫瘍に基づく先端巨大症もしくは巨人症では血漿GHRH濃度は上昇せず,視床下部にgangliocytomaなどの腫瘍陰影を認める.
④ 治療は原発巣を可及的完全に摘出すること.
⑤ 摘除不能症例や転移を伴う悪性神経内分泌腫瘍ではSRIF誘導体(octreotide,lanretotideなど)が著効することがある.




== 脚注 ==
== 脚注 ==

2011年8月6日 (土) 05:42時点における版

成長ホルモン放出ホルモン(せいちょうホルモンほうしゅつホルモン、Growth hormone releasing hormone; GHRH, GRH)は、44個のアミノ酸残基から成るペプチドホルモンである。このホルモンは、視床下部弓状核で作られる。また、このホルモンは、成長ホルモン(GH)放出因子 (GRF, GHRF) やソマトクリニンとも呼ばれる。構造的には,脳腸管ペプチドであるセクレチンファミリーに分類される.従来の視床下部ペプチドとは異なり,先端巨大症を来した異所性GHRH産生膵腫瘍より単離同定された(1982年)[1].[2].

GHRHは弓状核のニューロンで産生され,視床下部正中隆起の神経分泌神経末端から脈動的に下垂体門脈血中に放出される.瞬時にして脳下垂体前葉成長ホルモン(GH)分泌を特異的に促進する(視床下部-脳下垂体門脈循環)。一方,視床下部に存在する成長ホルモン分泌抑制ホルモン(ソマトスタチン,SRIF)はその神経終末を正中隆起外層に終止し,GHRHと同様に,下垂体門脈血中に放出され,GH分泌を抑制する.したがって,下垂体からの脈動的GH分泌は相反するGHRHとSRIFの作用によって成り立つ [3].[4].

下垂体のGH産生細胞にたいする作用には時間的に3種類に区別できる.1)秒.分単位:GH細胞に特異的に発現している膜レセプター[GHRH Rc]に結合し,細胞内のcAMP濃度を上昇させ,GH分泌を促進する.2)時間.日単位:GH遺伝子の発現を促進する.3)月・年単位:GH産生細胞の増殖を促進し,造腫瘍作用を示す.齧歯類では下垂体の過形成,さらに,腺腫を生じさせる.一方,ヒトでは大多数は下垂体過形成のみを生じ,ごく稀に腺腫を形成させる.この場合,GHRHの持続的刺激によるGHRHレセプターのdown regulationは生じない.

他方,このような向下垂体作用に加え,GHRHには中枢作用として,睡眠誘発作用が報告されている.徐波睡眠のときGHRH分泌が促進されるという[5]

GHRHとソマトスタチンの関係

GHRH分泌はSRIFによって直接的に阻害される。SRIFは中枢神経系に広汎に存在する.そのうち,主として視床下部室周囲核と内側視索前野に局在するSRIFニューロンは正中隆起外層に神経分泌神経端末を投射する.それ以外に,視床下部のSRIFとGHRHニューロンの間にはいくつかの負の分泌調節機構が想定されている.視床下部からのGHRH分泌はSRIFによる直接的な分泌抑制以外に,下垂体からのGH(negative short feedback機構)と,GHによって産生される血中IGF-1(negative long feedback機構)によって,負の調節をうける.つまり,1)ultrashort feedback機構:視床下部内で,弓状核のGHRHはaxo-dendricあるいはdendricにGHRHニューロン自身の活動を抑制する(autofeedback機構).あるいは,GHRHが直接,SRIFニューロンを刺激する.2)short feedback機構:GHRHにより分泌されたGH,さらに, IGF-1が視床下部室周囲核のSRIF神経細胞上あるいは正中隆起外層に終止するSRIF神経終末上のSRIFレセプター([SSTR2])を介して,SRIF分泌を促進し,その結果,GHRH分泌を抑制する.

他方,このような神経性調節と別に,液性の諸因子,たとえば,糖質ステロイド,甲状腺ホルモンなどにより,GHRHとSRIFの産生・分泌は影響をうける.最終的に,神経性の因子であるGHRHとSRIFと,これらの液性因子が協調して,脈動的GH分泌を調整する.

GHRHのアミノ酸配列

ヒトGHRHのアミノ酸配列は、

Tyr - Ala - Asp - Ala - Ile - Phe - Thr - Asn - Ser - Tyr - Arg - Lys - Val - Leu - Gly - Glu - Leu - Ser - Ala - Arg - Lys - Leu - Leu - Gln - Asp - Ile - Met - Ser - Arg - Glu - Gln - Gly - Glu - Ser - Asn - Gln - Glu - Arg - Gly - Ala - Arg - Ala - Arg - LeuNH2

うち,N端側1-29位のアミノ酸配列は種族間で比較的よく保存されている.血中ではN端側第2位Alaと3位Asp残基の間は,ペプチド分解酵素DPP-4の作用により,切断され,生物活性のないGHRH3-44NH2が産生される(T1/2=7分).その結果,血中生物学的半減期は数分と,きわめて短い.そして,消化液,血液ならびに各組織内に豊富に存在する他のペプチド分解酵素により,さらに分解される.したがって,他のペプチドやホルモン(GHなど)と同様に,天然のGHRHを経口摂取しても,その生物作用は全く期待できない.

GHRHの血中濃度とその由来[6]

健常者の血中GHRH濃度は4-14pg/mLと低濃度である. そのため, 従来は血中GHRHは血漿からの抽出とRIA法を組み合わせて測定されていた. しかし, 用いた抗体の種類や抽出方法により, その値は10pg/ml~300pg/mLと, 測定者により大きく異なっている. 新規の超高感度測定法(ICT-EIA,0.4pg/ml)の開発により, 健常者のみならず異所性GHRH産生腫瘍の症例で血中GHRH濃度を非抽出で直接的, かつ, 正確に測定することが可能となった. カルチノイド, 膵ラ氏島腫瘍, 褐色細胞腫やMEN I型に伴う膵・消化管腫瘍などの神経内分泌腫瘍はGHRHを産生する. しかし, その産生能は低く, 広範な全身転移に伴う腫瘍細胞量の著増がない限り, 血中GHRH濃度はさほど高値を示さない(通常 50pg/mL以下). 一方, 先端巨大症を惹起するGHRH産生腫瘍では腫瘍細胞のGHRH産生量が増加しており, 末梢血中GHRH濃度は著明な高値を示す(>300pg/mL,通常,800-5,000pg/mL).

末梢血中のGHRHの由来は消化管とされている. 特異的分解酵素,DPP-4,により,活性型GHRHの血中半減期は短く(T1/2: 約7分), 視床下部から末梢血までは距離がある. 疾患により視床下部が破壊され, GHRH産生細胞数が著減した場合でも, 血中GHRH濃度は変化しない. 一方,下垂体門脈血が灌流し, GHRHが高濃度を示す海綿静脈洞や下錐体静脈洞, あるいは術中のトルコ鞍内や下垂体近傍での血中GHRH濃度は, 同時に測定した末梢血中のGHRH濃度と有意差を認めない.  したがって, ヒトにおいては, 他の視床下部ホルモンと同様に,血中のGHRH濃度を測定することにより, 疾患, 睡眠, 運動状態の変化などに伴う視床下部機能を推定することは困難であると結論づけられる.

異所性GHRHに基づく先端巨大症と下垂体性巨人症[7]

【疾患概念】  膵内分泌腫瘍や気管支カルチノイドなどの神経内分泌腫瘍では,腫瘍組織から異所性にGHRHが大量に産生・分泌され,血中のGHRH濃度が上昇し,endocrine機構を介して,下垂体のGH細胞を長期間刺激する結果,下垂体に過形成や腺腫が発生する.一方,頭蓋内に発生する視床下部・下垂体部gangliocytomaやhamartomaの一部では末梢血中のGHRH濃度を上昇させずに,paracrine機構を介して,直接,GHRHが下垂体GH産生細胞に作用し,細胞増殖とGH分泌を促進し,巨人症や先端巨大症を引き起こす. 【歴史】  1949年,気管支の内分泌腫瘍で下垂体腺腫を有する先端巨大症の一症例を報告し,異所性GHRH産生の可能性が指摘されて以来,気管支カルチノイド以外に,消化管カルチノイドや膵ラ氏島腫瘍に伴う先端巨大症が報告されるようなった.さらに,1970年代後半に,GHRH活性が腫瘍組織中に相次いで証明された.そして,1982年,GuilleminらとValeらのグループはそれぞれ独立して,視床下部抽出物からではなく,先端巨大症を呈した膵腫瘍より,ヒトGHRHを分離同定した.引き続いて,ヒト視床下部性GHRHと同一であることが確認された.このようにして,異所性に産生されたホルモンが正所性にも存在することがGHRHにおいても証明された.現在までに頭蓋外に発生する異所性GHRH産生腫瘍に基づく先端巨大症は本邦例8例を含め,80例以上が報告されている. 【病理および病態生理】  53例のGHRH産生腫瘍のうち,46例の頭蓋外腫瘍,視床下部・下垂体gangliocytomaなど7例の頭蓋内腫瘍がGHRHを産生し,先端巨大症や巨人症をきたしたことが報告されている.うち,頭蓋外の異所性GHRH産生腫瘍の大部分は気管支と消化管などのカルチノイド(65%)あるいは膵ラ氏島腫瘍(28%)で,かつ,その約半数は悪性で,転移を伴う.また,広汎な転移をきたした神経内分泌悪性腫瘍の終末期では,血中GHRHが著明な高値を示すにもかかわらず,臨床的な先端巨大症を伴わない症例もある. 【疫学】  本症に基づく先端巨大症および巨人症の正確な頻度は不明であるが,極めて稀で,本邦では先端巨大症および巨人症の0.2%である.発症の男女比は頭蓋外の異所性GHRH産生腫瘍に基づくものは女性に多く(約3:1),頭蓋内のものは同数である.年齢は15歳から74歳と幅広く分布し,若年者では巨人症を来たす. 【症候】  異所性GHRH産生腫瘍の臨床症状は,下垂体GH細胞を刺激・増殖することによる症状(先端巨大症や巨人症)と,腫瘍自身がGHRH以外の種々の生理活性物質を産生することによる症状(下痢や悪液質など腫瘍随伴症候)が主体である.また,腫瘍組織は増殖・転移の部位と拡がりにより各種の通過障害や機能障害をもたらす場合がある.本症では通常のGH産生下垂体腺腫に基づくものと臨床症状の上で,区別できない.しかし,腫瘍がVIP,gastrin,ACTH,PTHrPやセロトニンなどを産生する場合は種類と産生量に応じて,それぞれ下痢,Zollinger-Ellison症候群,Cushing症候群,高カルシウム血症や顔面紅潮など,多彩な臨床症状を呈する.悪性腫瘍で腫瘍が大きいか,広汎な転移を有する場合は,種々のサイトカインを産生し,悪液質に陥る.  腫瘍からのGHRHにより刺激/産生された血中GHは,腫瘍から同時に産生される種々のサイトカインにより先端巨大症を引き起こすに十分なIGF-I産生を活性化することができず,先端巨大症の臨床症状がさほど明らかにならない場合がある. 【診断および鑑別診断】  GHRH産生腫瘍の診断の契機は,先端巨大症および巨人症に伴う病歴や臨床症状である.種々の腫瘍随伴症候もしくは視床下部腫瘍に随伴する臨床所見を伴わないかぎり,異所性GHRH産生腫瘍に基づく先端巨大症や巨人症は臨床症状や血中GHやIGF-I濃度からは通常の下垂体性先端巨大症や巨人症と区別は困難である.また,本症ではGHRH以外に腫瘍の産生するホルモンや生理活性物質の種類と病期により,臨床症状,検査所見および治療方針は大きく異なる.したがって,先端巨大症や巨人症を診察した場合には臨床的な所見のみならず,稀な疾患であるが,本症を念頭におき,検査によって病因を確かめることが肝要である.  【治療】  治療の要点は先端巨大症あるいは巨人症をきたしたGHRH産生腫瘍を除去し,GHならびにIGF-I過剰分泌を正常化することである. すでに広汎な全身転移を伴っている症例では,GHRH産生腫瘍自体とそれにより惹起されたGH過剰症に対する治療が必要である.腫瘍自体に対する手術,化学療法および放射線療法有効性は乏しい.また,腫大した下垂体に対しては,先端巨大症に伴う諸症状を軽減するために,下垂体への外照射療法や下垂体切除は,いずれも有効性は乏しい.  また,ドーパミン作動薬は本症においては,GHRH産生腫瘍を縮小したり,下垂体からのGH分泌を抑制することは極めて稀であり,有用な治療薬としては期待できない.  一方,腫瘍がソマトスタチンに対するレセプターを有する場合は,ソマトスタチン誘導体であるoctreotideが著効を示すことがある.octreotideは下垂体に作用してGH分泌を抑制するだけでなく,腫瘍自身にも作用し,腫瘍増大を抑制しGHRH分泌を低下させる.この際,octreotide皮下投与後の血中GHRH濃度および腫瘍から同時に産生されている他の生理活性物質濃度を測定することにより,octreotideの抗腫瘍作用をある程度予測することが可能である. 【本症の診断と治療のポイント】 ① 下垂体性と思われる先端巨大症においてもMEN I型も含め,本症を疑うこと. ② 非定型的な先端巨大症や下垂体巨人症においては血中GHRH濃度を測定し(高感度測定法しにて通常1,000 pg/ml以上を示す.基準値:4-14pg/ml,健常者:20 pg/ml以下, ③ 画像診断により共存する腫瘍を証明することである.頭蓋内の異所性GHRH産生腫瘍に基づく先端巨大症もしくは巨人症では血漿GHRH濃度は上昇せず,視床下部にgangliocytomaなどの腫瘍陰影を認める. ④ 治療は原発巣を可及的完全に摘出すること. ⑤ 摘除不能症例や転移を伴う悪性神経内分泌腫瘍ではSRIF誘導体(octreotide,lanretotideなど)が著効することがある.


脚注

  1. ^ Guillemin R, et al: Growth hormone-releasing factor from a human pancreatic tumor that caused acromegaly. Science 218:585-587, 1982
  2. ^ Rivier J, et al: Characterization of a growth hormone-releasing factor from a human pancreatic islet tumor. Nature 300:276-278, 1982.
  3. ^ 片上秀喜(2004). "成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)",ホルモンの事典, pp55-93, 朝倉書店,東京
  4. ^ Malcolm LJ (2008): Neuroendocrinology. Williams Textbook of Endocrinology, pp114-122, Saunders, Philadelphia.
  5. ^ Obál F, Krueger J (2001). "The somatotropic axis and sleep.". Rev Neurol (Paris) 157 (11 Pt 2): S12-5. PMID 11924022
  6. ^ 片上秀喜(2010)"成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)".広範囲 血液,尿化学検査、免疫学的検査(第七版)-その数値をどう読むか-,日本臨床:pp193-199, 日本臨床社,東京
  7. ^ 片上秀喜(2011)"異所性成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)産生腫瘍".異所性ホルモン産生腫瘍の診断と治療,日本臨床:69増:711-719, 日本臨床社,東京