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神経成長因子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
NGF
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
PDBのIDコード一覧

4ZBN, 1SG1, 1WWW, 2IFG, 4EDW, 4EDX

識別子
記号NGF, Beta-HSAN5, NGFB, nerve growth factor
外部IDOMIM: 162030 MGI: 97321 HomoloGene: 1876 GeneCards: NGF
遺伝子の位置 (ヒト)
1番染色体 (ヒト)
染色体1番染色体 (ヒト)[1]
1番染色体 (ヒト)
NGF遺伝子の位置
NGF遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点115,285,904 bp[1]
終点115,338,770 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
3番染色体 (マウス)
染色体3番染色体 (マウス)[2]
3番染色体 (マウス)
NGF遺伝子の位置
NGF遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点102,377,235 bp[2]
終点102,428,329 bp[2]
RNA発現パターン
さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 peptidase inhibitor activity
enzyme inhibitor activity
血漿タンパク結合
metalloendopeptidase inhibitor activity
nerve growth factor receptor binding
growth factor activity
受容体結合
細胞の構成要素 エンドソーム
Golgi lumen
細胞外領域
cytoplasmic vesicle
細胞外空間
細胞質基質
シナプス小胞
神経繊維
樹状突起
生物学的プロセス negative regulation of neuron apoptotic process
regulation of neuron differentiation
neuron projection morphogenesis
negative regulation of peptidase activity
neurotrophin TRK receptor signaling pathway
細胞間シグナル伝達
negative regulation of apoptotic process
regulation of cysteine-type endopeptidase activity involved in apoptotic process
positive regulation of axonogenesis
positive regulation of gene expression
positive regulation of apoptotic process
nerve growth factor processing
extrinsic apoptotic signaling pathway via death domain receptors
phosphatidylinositol-mediated signaling
negative regulation of cysteine-type endopeptidase activity involved in apoptotic process
microtubule-based movement
activation of cysteine-type endopeptidase activity involved in apoptotic process
positive regulation of Ras protein signal transduction
transmembrane receptor protein tyrosine kinase signaling pathway
末梢神経系発生
記憶
negative regulation of cell population proliferation
regulation of signaling receptor activity
nerve development
nerve growth factor signaling pathway
positive regulation of DNA binding
positive regulation of neuron differentiation
positive regulation of collateral sprouting
シナプス伝達の制御
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_002506

NM_001112698
NM_013609

RefSeq
(タンパク質)

NP_002497

NP_001106168
NP_038637

場所
(UCSC)
Chr 1: 115.29 – 115.34 MbChr 1: 102.38 – 102.43 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス

神経成長因子(しんけいせいちょういんし、: nerve growth factor、略称: NGF)は、特定の標的神経細胞の成長、維持、増殖、生存の調節に関与する神経栄養因子神経ペプチド英語版)である。NGFは成長因子の中で最初期に記載されたものの1つである。NGFは、ノーベル賞受賞者であるリータ・レーヴィ=モンタルチーニスタンリー・コーエンによって1956年に最初に単離された。それ以降、膵臓β細胞の生存や免疫系の調節など、NGFが関与する多数の生物学的過程が特定されている。

構造

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NGFの発現時にはまず、α-NGF、β-NGF、γ-NGFの3つのタンパク質が2:1:2の比率で結合した7S、130 kDaの複合体を形成する。この形態のNGFはproNGF(NGF前駆体)とも呼ばれる。この複合体のγサブユニットはセリンプロテアーゼとして作用し、βサブユニットのN末端を切断することで機能的なNGFへ活性化する。

通常は単にNGFという場合には2.5S、26 kDaのβサブユニットを指す。

機能

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神経成長因子という名称が示す通り、NGFは主に神経細胞の成長、そして維持、増殖、生存に関与している。NGFは交感神経細胞や感覚神経細胞の生存に重要であり、NGFが存在しない場合にはアポトーシスが引き起こされる[5]。近年の研究では、NGFが神経細胞の生活環の調節以外の経路にも関与していることが示唆されている。

神経増殖

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NGFはTrkA英語版への結合によってBcl-2などの遺伝子の発現を駆動し、標的神経細胞の増殖と生存を刺激する。

proNGF、ソルチリン英語版p75NTR英語版の間の高親和性結合は、生存もしくはプログラム細胞死のいずれかを引き起こす。p75NTRとTrkAの双方を発現している上頸神経節英語版神経細胞はproNGF処理によって死滅するが[6]、同じ神経細胞をNGF処理すると生存と軸索成長が引き起こされる。生存とプログラム細胞死は、p75NTRの細胞質テールのデスドメイン英語版へのアダプタータンパク質の結合によって媒介されている。p75NTRにリクルートされたアダプタータンパク質がTRAF6英語版などTNF受容体関連因子のメンバーを介したシグナル伝達を促進する場合には、生存が引き起こされる。TRAF6はNF-κB転写アクチベーターの放出を引き起こし[7]、NF-κBは核内で遺伝子の転写を調節して細胞生存を促進する。一方、TRAF6とNRIF(neurotrophin receptor interacting factor)がリクルートされた場合にはJNKが活性化されプログラム細胞死が引き起こされる。JNKはc-Junをリン酸化し、活性化された転写因子c-JunはAP-1を介してアポトーシス促進遺伝子の転写を増加させる[7]

膵β細胞の増殖

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膵臓のβ細胞はNGF受容体であるTrkAとp75NTRの双方を発現している証拠が得られている。NGFの除去によってβ細胞のアポトーシスが誘導されることが示されており、このことはNGFがβ細胞の維持と生存に重要な役割を果たしている可能性を意味している[8]

免疫系の調節

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NGFは自然免疫獲得免疫の双方の調節に重要な役割を果たしている。炎症過程では、NGFはマスト細胞から高濃度で放出され、近隣の侵害受容英語版神経細胞の軸索成長を誘導する。その結果、炎症領域における痛覚の知覚が強化される。獲得免疫においては、NGFは胸腺CD4T細胞クローンによって産生され、感染下でのT細胞の成熟カスケードが誘導される[9]

排卵

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NGFは精漿中に豊富に存在する。近年の研究では、ラマなど交尾排卵英語版を行う一部の哺乳類でNGFによって排卵が誘発されることが明らかにされている。これらの動物では、ウシなど自然排卵を行う動物由来の精液でも排卵が誘発される。一方で、このことのヒトの排卵に対する重要性は明らかでない。精液中のNGFは2012年にβ-NGFであることが同定されるまで、OIF(ovulation-inducing factor)と呼ばれていた[10]

作用機序

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NGFは少なくともトロポミオシン受容体キナーゼA英語版(TrkA)と低親和性神経成長因子受容体英語版(LNGFR/p75NTR)と呼ばれる2種類の受容体に結合する。どちらも神経変性疾患と関係している。

NGFがTrkA受容体に結合すると、受容体のホモ二量体化が駆動され、チロシンキナーゼ領域の自己リン酸化が引き起こされる[11]。TrkA受容体には5つの細胞外ドメインが存在し、NGFの結合には5番目ドメインで十分である[12]。NGFが結合するとNGF-TrkA複合体はエンドサイトーシスされるとともに、Ras/MAPK経路英語版PI3K/AKT経路英語版の2つの主要な経路に続いてNGFによる転写プログラムが活性される[11]。NGFのTrkAへの結合は、PI3KRasPLCシグナル伝達経路の活性化をもたらす[13]

NGFは血漿を介して体中を循環しており、全体的な恒常性の維持に重要であることが研究から示唆されている[14]

神経生存

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NGFとTrkA受容体の結合は、受容体の二量体化、そして隣接するTrk受容体による細胞質テールのチロシン残基のリン酸化を促進する[15]。Trk受容体のリン酸化部位はShc英語版アダプタータンパク質のドッキング部位として機能し、ShcもTrk受容体によるリン酸化が行われる[7]。Shcが受容体の細胞質テールによってリン酸化されると、いくつかの細胞内経路によって細胞生存過程が開始される。

主要な経路の1つでは、セリン/スレオニンキナーゼAktが活性化される。この経路は、Trk受容体複合体に2つ目のアダプタータンパク質であるGRB2GAB1英語版とともにリクルートされることで開始される[7]。その後、PI3Kが活性化されることで、Aktの活性化が引き起こされる[7]。PI3KもしくはAktの活性を遮断することで、NGF存在下でも培養交感神経細胞が死滅することが研究から示されている[16]。どちらかのキナーゼが恒常的に活性化された場合には、NGF非存在下でも神経細胞は生存することができる[16]

細胞生存に寄与する2つ目の経路は、MAPKの活性化を介して行われる。この経路では、アダプタータンパク質やドッキングタンパク質によるグアニンヌクレオチド交換因子のリクルートによって、膜結合型Gタンパク質であるRasの活性化が引き起こされる[7]。グアニンヌクレオチド交換因子はGDP-GTP交換過程を活性化することでRasの活性化を媒介する。活性型Rasタンパク質はいくつかのタンパク質とともにセリン/スレオニンキナーゼRafを活性化する[7]。RafはMAPKカスケードを活性化し、リボソームタンパク質S6キナーゼ(RSK)の活性化や転写調節を促進する[7]

AktとRSKはそれぞれPI3K-Akt経路、MAPK経路の構成要素であり、どちらもCREB転写因子をリン酸化する[7]。リン酸化されたCREBは核内へ移行して抗アポトーシスタンパク質の発現上昇を媒介し[7]、NGFを介した生存を促進する。NGFが存在しない場合には上述したNGFを介した細胞生存経路によるc-Junなどの細胞死促進転写因子の抑制が起こらず、その結果アポトーシス促進タンパク質の発現が増加する[7]

出典

[編集]
  1. ^ a b c GRCh38: Ensembl release 89: ENSG00000134259 - Ensembl, May 2017
  2. ^ a b c GRCm38: Ensembl release 89: ENSMUSG00000027859 - Ensembl, May 2017
  3. ^ Human PubMed Reference:
  4. ^ Mouse PubMed Reference:
  5. ^ “NGF deprivation-induced gene expression: after ten years, where do we stand?”. NGF and Related Molecules in Health and Disease. Progress in Brain Research. 146. (2004). pp. 111–26. doi:10.1016/S0079-6123(03)46008-1. ISBN 978-0-444-51472-1. PMID 14699960 
  6. ^ “Regulation of cell survival by secreted proneurotrophins”. Science 294 (5548): 1945–48. (Nov 2001). Bibcode2001Sci...294.1945L. doi:10.1126/science.1065057. PMID 11729324. 
  7. ^ a b c d e f g h i j k “Naturally-occurring neuron death”. Development of the Nervous System, Third Edition. Boston: Academic Press. (2011). pp. 171–208. ISBN 978-0-12-374539-2 
  8. ^ “NGF-withdrawal induces apoptosis in pancreatic beta cells in vitro”. Diabetologia 44 (10): 1281–95. (Oct 2001). doi:10.1007/s001250100650. PMID 11692177. 
  9. ^ “Human CD4+ T cell clones produce and release nerve growth factor and express high-affinity nerve growth factor receptors”. The Journal of Allergy and Clinical Immunology 100 (3): 408–14. (Sep 1997). doi:10.1016/s0091-6749(97)70256-2. PMID 9314355. 
  10. ^ “The nerve of ovulation-inducing factor in semen”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 109 (37): 15042–47. (Sep 2012). Bibcode2012PNAS..10915042R. doi:10.1073/pnas.1206273109. PMC 3443178. PMID 22908303. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3443178/. 
  11. ^ a b “Tropomyosin-Receptor-Kinases Signaling in the Nervous System”. Maedica 8 (1): 43–48. (2013). PMC 3749761. PMID 24023598. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3749761/. 
  12. ^ “Crystal structure of nerve growth factor in complex with the ligand-binding domain of the TrkA receptor”. Nature 401 (6749): 184–88. (September 1999). Bibcode1999Natur.401..184W. doi:10.1038/43705. PMID 10490030. 
  13. ^ “Biogenesis and function of the NGF/TrkA signaling endosome”. International Review of Cell and Molecular Biology 314: 239–57. (2015). doi:10.1016/bs.ircmb.2014.10.002. ISBN 9780128022832. PMC 4307610. PMID 25619719. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4307610/. 
  14. ^ “The nerve growth factor and the neuroscience chess board”. NGF and Related Molecules in Health and Disease. Progress in Brain Research. 146. (2004). pp. 525–27. doi:10.1016/s0079-6123(03)46033-0. ISBN 9780444514721. PMID 14699984 
  15. ^ “Tyrosine phosphorylation and tyrosine kinase activity of the trk proto-oncogene product induced by NGF”. Nature 350 (6314): 158–60. (Mar 1991). Bibcode1991Natur.350..158K. doi:10.1038/350158a0. PMID 1706478. 
  16. ^ a b “Phosphatidylinositol 3-kinase and Akt protein kinase are necessary and sufficient for the survival of nerve growth factor-dependent sympathetic neurons”. The Journal of Neuroscience 18 (8): 2933–43. (Apr 1998). doi:10.1523/JNEUROSCI.18-08-02933.1998. PMC 6792598. PMID 9526010. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6792598/. 

関連項目

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外部リンク

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