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| 名称=A300-600ST ベルーガ |
| 名称=A300-600ST ベルーガ |
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| 画像=File:A300-600ST 1 New Colour.JPG |
| 画像=File:A300-600ST 1 New Colour.JPG |
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| キャプション=2005年9月 |
| キャプション=A300-600ST、2005年9月[[ハンブルク国際空港]]にて。 |
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| 用途=[[貨物機]] |
| 用途=[[貨物機]] |
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| 分類= |
| 分類=貨物専用航空機 |
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| 設計者= |
| 設計者= |
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| 製造者=[[ |
| 製造者=[[Specal Aircraft Transport International Cmpany|SATIC]] |
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| 運用者=[[w:ja:エアバス・トランスポート・インターナショナル|エアバス・トランスポート・インターナショナル]] |
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| 運用者=SATIC |
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| 初飛行年月日=[[1994年]][[9月13日]] |
| 初飛行年月日=[[1994年]][[9月13日]] |
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| 生産数=5機 |
| 生産数=5機 |
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| 運用開始年月日= |
| 運用開始年月日= |
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| 退役年月日= |
| 退役年月日= |
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| 運用状況= |
| 運用状況=運用中 |
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| ユニットコスト= |
| ユニットコスト= |
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'''エアバス ベルーガ''' |
'''エアバス ベルーガ'''は企業連合[[w:ja:エアバス|エアバス・インダストリー]](後に[[w:ja:エアバス|エアバス社]])が開発・製造した[[貨物機]]である。大きな航空機部品を輸送する目的で[[エアバスA300-600R]]をベースに開発され、A300-600ST (Super Transporter)という型式名が付けられている。巨大な貨物室を備えることから[[シロイルカ]]に似た独特な外見を持っており、それにちなんで「ベルーガ」の愛称がつけられた<ref name=CNN1/>。ベルーガの開発・生産プロジェクトは[[w:ja:エアバス|エアバス]]の関連企業のSATIC (Special Aircraft Transport International Company) 社によって行われ、1994年9月13日に1号機が初飛行し、全部で5機が生産された。 |
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ベルーガの運航は[[w:ja:エアバス|エアバス]]関連企業の[[w:ja:エアバス・トランスポート・インターナショナル|エアバス・トランスポート・インターナショナル社]]によって行われ、欧州各地で分担して生産されたエアバス機のパーツを最終組み立て地へ輸送する任務についており、飛行機を作るための飛行機とも言われる<ref name=aviationwire/>。また、エアバス以外の顧客向けにチャーター輸送業務に用いられることもある。 |
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== 概要 == |
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[[ファイル:BELUGALANDUNG.jpg|thumb|left|ドイツのハンブルク上空を飛行するベルーガ(2007年)]] |
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エアバス社は、ヨーロッパ各国の航空機メーカーのコンソーシアムであるという政治的な理由から、ヨーロッパ各地に部品工場を保有している。その結果、最終組み立てのための機体部品の輸送が課題であった。大型の機体部品の輸送は[[ボーイング]]社の輸送機[[C-97 (航空機)|C-97]]を改造した[[スーパーグッピー]]を用いていたが、機体の老朽化により維持費が増大したため、その更新とより大きな容積が求められ、開発が始まった。 |
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== 沿革 == |
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非常に特殊な構造、また運用においても特別なノウハウが必要とされるため、ベルーガの開発とその後の運用のために[[アエロスパシアル]]社とDASA社(現[[EADS]])の合弁会社SATICが立ち上げられた。[[1991年]]よりエアバスA300-600Rを母体に開発がスタートし、[[1992年]]9月に製造が始まった。[[1994年]][[9月13日]]に初飛行を行い、335時間の試験飛行を経て[[1995年]]より就航した。 |
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=== 開発の背景 === |
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[[File:Aero Spacelines 377SGT Super Guppy Turbine, Airbus Skylink AN0592517.jpg|thumb|エアバスのロゴが描かれた[[スーパーグッピー]]。]] |
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[[w:ja:エアバス|エアバス・インダストリー]]は、欧州の航空機メーカーのコンソーシアム(企業連合)として設立され、参加各国で分担してパーツやコンポーネントを生産するという国際分業体制を取っていた{{sfn|青木|2010|p=131}}。欧州各地ので生産されるパーツを最終組み立て工場へ輸送するため、エアバスは大型貨物運搬用の輸送機として[[ボーイング377|ボーイング377ストラトクルーザー]]を改修した「[[スーパーグッピー]]」を購入し、使用してきた<ref name=aviationwire/>{{sfn|青木|2010|p=131}}。スーパーグッピーは[[1971年]]から使用されたが機体の旧式化が進んだことと、エアバスの事業が急成長したことにより、新しい輸送機が求められるようになった{{sfn|青木|2010|pp=78-79, 131}}<ref name=CNN1/><ref name=CNN2/>。そこで、エアバスは自社の旅客機A300-600Rをベースにした新しい貨物機を開発することとし、[[1991年]]8月にA300-600ST (Super Transporter) の開発計画を正式に開始した{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}。 |
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=== 設計と生産 === |
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エアバスA300の胴体床下貨物室より上を取り払い、より大きな直径の円筒形の貨物室を設けているのが最大の特徴。貨物室は与圧されていないが、直径7.26m長さ約37mの収容スペースが確保されている。上方に開く貨物扉が胴体前部の上部にあり、その前方下の操縦席を含む機首部分は貨物の出し入れの障害にならないように原型よりも低い位置に移されている。垂直安定性確保のために、垂直尾翼前方にフィンが追加されているほか、水平尾翼翼端に垂直安定板が増設されている。 |
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[[ファイル:BELUGALANDUNG.jpg|thumb|left|[[w:ja:ドイツ|ドイツ]]の[[w:ja:ハンブルク|ハンブルク]]上空を飛行するベルーガ(2007年)]] |
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A300-600STは、主翼、エンジン、胴体下半分をA300-600Rと同じくし、胴体上半分に大きな貨物を収容できる幅広の胴体セクションが設置された{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}<ref name=CNN2/>。貨物室最前部には上側に開く扉が配置され、[[旅客機のコックピット|コックピット]]が胴体の下側に移されたことで、機体前方から貨物を積み下ろしできるようにされた{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}<ref name=CNN2/>。コックピットのレイアウトや装備品などは、A300-600Rのものが踏襲された{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。 |
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A300-600STの生産数は、5機でそのうち1機は当初はオプションとされたが、最終的に5機全てが生産されている{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}。 |
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SATICによる運用が開始されている。全部で5機が生産され、ヨーロッパ各地の工場で生産されたエアバス旅客機の胴体や主翼などの大物部品を、[[トゥールーズ]]や[[ハンブルク]]にある工場の最終組み立てラインへ輸送することを通常の任務としている。この通常運航のほか、エアバス外のアウトサイズ貨物の輸送にもチャーターされることがあり、[[1999年]]には[[ウジェーヌ・ドラクロワ|ドラクロワ]]の絵画「[[民衆を導く自由の女神]]」を輸送するため[[成田国際空港]]に飛来した実績もある。 |
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A300-600STは新造機として生産されたが、幅広の胴体を組み付ける作業などは、最終組み立て地の[[トゥールーズ]]にてSuper Airbus Transport International (SATIC) 社によって行われることになった{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}{{sfn|Kingsley-Jones|1999|pp=57-58}}。SATIC社は[[w:ja:エアバス|エアバス]]参加企業である[[フランス]]の[[アエロスパシアル]]社と[[ドイツ]]の[[DASA]]社が50対50で出資した合弁企業で、1991年10月20日に設立された{{sfn|Kingsley-Jones|1999|pp=57-58}}。 |
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2006年5月には[[国際宇宙ステーション]]ヨーロッパ実験棟[[コロンバス (ISS)|コロンバス]]の[[ブレーメン]] - [[ケネディ宇宙センター]]間の運搬にも利用された。 |
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{| class="wikitable" style="font-size:91%; text-align:right; float:right; margin-left:1.5em;" |
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|+ 表: A300-600STの型式証明取得日と納入日 |
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! 号機 !! 証明取得日 !! 納入日 |
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| 1号機 (MSN 655) || 1995年10月25日 || 1995年10月25日 |
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|- |
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| 2号機 (MSN 751) || 1996年4月22日 || 1996年4月22日 |
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|- |
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| 3号機 (MSN 765) ||1997年5月7日 || 1997年5月7日 |
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|- |
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| 4号機 (MSN 776) || 1998年7月30日 || 1998年12月18日 |
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|- |
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| 5号機 (MSN 796) || 2001年1月5日 || 2001年1月5日 |
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|- |
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| colspan=3 style="text-align:left; font-size:90%;" | |
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* 出典:{{harvnb|EASA|2014|p=4}}、{{harvnb|青木|2010|pp=78-79}} |
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|} |
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A300-600STの1号機は[[1994年]]9月13日に初飛行し、飛行試験を経て[[1995年]]10月25日に型式証明を取得した<ref name=aviationwire/>{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}{{sfn|EASA|2014}}。証明を取得した年から[[w:ja:エアバス|エアバス社]]への引き渡しが始まり{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}、2号機から5号機についても、表のとおり型式証明の取得と納入が進められた。 |
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A300-600STの「ベルーガ」という愛称は、SATIC社によって付けられた{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。[[w:ja:エアバス|エアバス社]]は、当初はこの愛称を気に入っていなかったが、広く浸透したことから後に認めて使用するようになった{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。 |
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=== 運用開始後 === |
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ベルーガの最初の実用飛行は、納入の翌年となる[[1996年]]1月15日に行われた{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}。ベルーガは、欧州各地で製造されるエアバス機のパーツやコンポーネントを最終組み立て工場へ輸送する任務に従事し、全5機の導入によりスーパーグッピーは完全に退役した{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。 |
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また、[[w:ja:エアバス|エアバス]]はベルーガを用いたチャーター輸送事業へも参入することとし、ベルーガの2号機を受領した後の1996年6月30日に、輸送請負の専門会社の設立を決めた{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。この専門会社は「エアバス・トランスポート・インターナショナル」(Airbus Transport International、以下ATI)社と名付けられ同年9月20日に正式に登記を行い、11月24日に最初の請負輸送業務を行った{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。全5機のベルーガの運航はATI社が担うようになり、2014年の時点では、欧州11カ所の工場間を1週間に60回以上飛行している<ref name=aviationwire/>。 |
|||
ベルーガの運航開始以降も、エアバス機の生産数は拡大の一途をたどり、[[2011年]]にエアバスは輸送量の増加に対応するため「フライ10000」と呼ばれる計画を開始した<ref name=aviationwire/><ref name=CNN3/>。この計画では、積み荷、積み降ろし方法を含めた物流インフラの最適化を目的とし、[[2017年]]までにエアバスの輸送機の年間総飛行時間を1万時間に増やすことを目指している<ref name=aviationwire/><ref name=CNN3/>。この計画によりベルーガの1日当たりの飛行時間も延長される見込みである<ref name=CNN3/>。 |
|||
一方、SATIC社では、ベルーガのコンセプトを他のエアバス機に適用することも検討しており、[[エアバスA330]]や[[エアバスA340]]がベース機の候補として取りざたされている{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}<ref name=CNN4/>。2014年の時点では、A330をベースとしてA300-600SLより飛行距離が長く、より重い貨物の輸送を可能にするベルーガXL構想が報じられている<ref name=CNN4/>。 |
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== 機体の特徴 == |
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[[File:Airbus Beluga lands at KSC.jpg|thumb|[[ケネディ宇宙センター]]に着陸するベルーガを前方から見る。]] |
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ベルーガは、主翼やエンジンはA300-600Rと同じだが、大型貨物を搭載できるように極めて太い胴体を持つ{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。2014年現在、ベルーガは世界最大の胴体幅を持つ飛行機である<ref name=aviationwire/><ref name=Beluga-freight/>。 |
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胴体の下半分はA300-600Rと同じだが、客室部にあたる胴体上半分に大きな円筒形を乗せたような形で、その円筒形の下側2/3から胴体下半分までは直線的に結ばれている{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。この円筒形部分は中心から内壁までの半径が3.52メートルあり、貨物室の最大高は7.10メートル、床面の幅は5.11メートルである{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。円筒の前方と後方は、もとの機体形状に合わせてすぼめられており、完全な円筒部となる部分の長さは21.34メートルで、貨物室の全長は37.70メートルである{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。床下貨物室にも貨物を搭載可能である{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}。貨物室の総容量は1,400立方メートルで、積載量は47トンである{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}<ref name=aviationwire/>。 |
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[[File:Airbus Beluga A300-600ST open.jpeg|thumb|前方貨物扉を開いたベルーガを正面から見る。見学者用の通路が設けられている。]] |
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貨物の積み下ろしを行うため、貨物室の最前部に上開き式の扉が設けられている{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。この扉は貨物室断面が完全に開口するまで上がるため、貨物室の寸法をフルに使用できる{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。貨物扉を開いた時の最大の高さは、貨物を搭載しない状態で16.97メートルとなる{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。 |
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前方から貨物の出し入れを行えるように、ベルーガのコックピットの位置は胴体下部に移されている{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。乗務員の乗降扉は胴体の床面下に配置され、操縦室の後方にあたる胴体右側面に非常口が設けられている{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。コックピットの設計やレイアウト、装備品はA300-600Rのものを踏襲している{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。ベルーガでは人工衛星や美術品といった温度管理が必要な貨物を輸送できるように、可搬式のヒーターモジュールも用意されており、コックピットからヒーターモジュールの制御が行えるようになっている<ref name=Beluga-spotlight/>。 |
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ベルーガでは、機体重量の増加に合わせてベース機よりも[[尾翼]]の構造が強化された{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。また、直進安定性を高めるため、水平安定版の両翼端に垂直安定板が追加されたほか、垂直安定板の面積も拡大された{{sfn|Kingsley-Jones|1999|pp=57-58}}。 |
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エンジンは[[ターボファンエンジン]]で、[[GE・アビエーション|ゼネラル・エレクトリック]]製のCF6-80C2を2基装備する<ref name=aviationwire/>。 |
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== 運用 == |
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全5機のベルーガはATI社によって運航され、欧州各地で製造される[[エアバスA320]]やエアバスA330、そして開発中の[[エアバスA350 XWB]]といったエアバス機のパーツやコンポーネントを最終組み立て工場へ輸送する任務に従事している<ref name=Beluga/>。パーツの生産地であるフランスの[[ナント]]や[[サンナゼール]]、ドイツの[[ブレーメン]]、[[スペイン]]の[[ヘタフェ]]、イギリスの{{仮リンク|ブロートン|en|Broughton, Flintshire}}、[[イタリア]]の[[ナポリ]]などから、最終組み立て地の[[トゥールーズ]]やドイツの[[ハンブルク]]を結んでいる<ref name=aviationwire/>。総2階建ての超大型機である[[エアバスA380]]については、ベルーガの貨物室にも収まらないコンポーネントがあるため専用の船と車両を用いた輸送がメインとなっている{{sfn|青木|2010|pp=135-137}}。 |
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== 要目 == |
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[[ファイル:Columbus beluga.jpg|thumb|ブレーメン国際空港で[[コロンバス (ISS)|コロンバス]]を搭載するベルーガ(2006年)]] |
[[ファイル:Columbus beluga.jpg|thumb|ブレーメン国際空港で[[コロンバス (ISS)|コロンバス]]を搭載するベルーガ(2006年)]] |
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ATI社ではこの通常運航のほか、エアバス以外の顧客向けに大型貨物のチャーター輸送業務を請け負っている{{sfn|青木|2010|pp=78-79}}。ベルーガの広い貨物室を活かし、それほど重くはないがかさばる荷物の輸送として、[[人工衛星]]や[[ヘリコプター]]のほか[[美術品]]の輸送にチャーターされることもある<ref name=CNN2/>。[[1999年]]には[[ウジェーヌ・ドラクロワ|ドラクロワ]]の絵画「[[民衆を導く自由の女神]]」を輸送するため日本の[[成田国際空港]]に飛来している<ref name=aviationwire/>。また、[[2006年]]5月には[[国際宇宙ステーション]]のヨーロッパ実験棟[[コロンバス (ISS)|コロンバス]]をドイツの[[ブレーメン]]から[[アメリカ合衆国|米国]]の[[ケネディ宇宙センター]]へ運搬するためにも利用された<ref name=NASA/>。 |
|||
''出典:Airbus S.A.S.''<ref>{{Cite web|url=http://www.airbus.com/en/aircraftfamilies/beluga/specifications.html|title=Airbus Aircraft Families - Beluga - Specifications|publisher=Airbus S.A.S.|accessdate=2009-05-18}}</ref> |
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* 全長:56.16 m |
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* 全幅:44.84 m |
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* 全高:17.34 m |
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* エンジン:[[GE・アビエーション|GE]] [[ゼネラル・エレクトリック CF6|CF6-80C2A8]] [[ターボファンエンジン]](推力:26.7t)2基 |
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* 最大離陸重量:155 t |
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* 最大積載量:45.5 t |
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* 貨物室床面積:約100 m² |
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* 貨物室容量:約14,000 m³ |
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== 主要諸元 == |
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出典:特に記載のないものは Airbus S.A.S.<ref name=Beluga-spec/> による |
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<div class="references-small"> |
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* 運航乗務員数:2名<ref name=Beluga-spotlight/> |
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<references /> |
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* 全長:56.15 [[メートル|m]] |
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</div> |
|||
* 全幅:44.84 m |
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* 全高:17.24 m |
|||
* 翼面積:122.40 [[平方メートル|m{{sup|2}}]] |
|||
* 胴体直径:7.31 m |
|||
* 貨物室全長:37.7 m |
|||
* エンジン:[[GE・アビエーション|GE]] [[ゼネラル・エレクトリック CF6|CF6-80C2A8]] [[ターボファンエンジン]] 2基 |
|||
* エンジン推力(1基あたり):119 - 120 [[キロニュートン|kN]] |
|||
* 最大離陸重量:155 [[トン|t]] |
|||
* 最大積載量:47 t |
|||
* 貨物室容量:約14,000 [[立方メートル|m{{sup|3}}]]<ref name=aviationwire/> |
|||
* 最大巡航速度:[[マッハ数|マッハ]]0.82 |
|||
* 航続距離:積載量40トンで2,779 [[キロメートル|km]]、26トンで4,632 km. |
|||
== 脚注 == |
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=== 出典 === |
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{{Reflist|2|refs= |
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<ref name=aviationwire>{{Cite web |
|||
|last=吉川 |first=忠行 |
|||
|title=エアバスの巨大輸送機ベルーガ、初飛行20周年 主翼や胴体運ぶ |
|||
|url=http://www.aviationwire.jp/archives/45618 |
|||
|accessdate=2014-09-15 |
|||
|archiveurl=http://web.archive.org/web/20140915071759/http://www.aviationwire.jp/archives/45618 |
|||
|archivedate=2014-09-15 |
|||
}}</ref> |
|||
<ref name=CNN1>{{Cite web |
|||
|title=エアバス・ベルーガ 世界一変わった外観の貨物機の秘密 (1/4) |
|||
|date=2014-02-11 |
|||
|publisher=CNN.co.jp |
|||
|url=http://www.cnn.co.jp/business/35043558.html |
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|accessdate=2014-09-15 |
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|archiveurl=http://web.archive.org/web/20140723185453/http://www.cnn.co.jp/business/35043558.html |
|||
|archivedate=2014-07-23 |
|||
|ref={{sfnref|CNN|「エアバス・ベルーガ 世界一変わった外観の貨物機の秘密」}} |
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}}</ref> |
|||
<ref name=CNN2>{{Cite web |
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|title=エアバス・ベルーガ 世界一変わった外観の貨物機の秘密 (2/4) |
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|date=2014-02-11 |
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|publisher=CNN.co.jp |
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|url=http://www.cnn.co.jp/business/35043558-2.html |
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|archivedate=2014-09-17 |
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}}</ref> |
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<ref name=CNN3>{{Cite web |
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|title=エアバス・ベルーガ 世界一変わった外観の貨物機の秘密 (3/4) |
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|date=2014-02-11 |
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|publisher=CNN.co.jp |
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}}</ref> |
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<ref name=CNN4>{{Cite web |
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|title=エアバス・ベルーガ 世界一変わった外観の貨物機の秘密 (4/4) |
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|date=2014-02-11 |
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|publisher=CNN.co.jp |
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|archivedate=2014-09-17 |
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|first=Cheryl |last=Mansfield |
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|title=Space station module Columbus lands on Florida shores |
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|magazine=Spaceport News |
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|volume=45 |
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|number=11 |
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|publisher=John F. Kennedy Space Center, NASA |
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}}</ref> |
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<ref name=Beluga>{{Cite web |
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|title=Beluga A300-600ST : the most voluminous cargo for oversized cargo transport |
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|publisher=Airbus S.A.S |
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|url=http://www.airbus.com/aircraftfamilies/freighter/beluga/ |
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|accessdate=2014-09-20 |
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|archiveurl=http://web.archive.org/web/20140828231534/http://www.airbus.com/aircraftfamilies/freighter/beluga/ |
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|archivedate=2014-08-28 |
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}}</ref> |
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<ref name=Beluga-freight>{{Cite web |
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|title=Beluga A300-600ST: widest fuselage, oversized dimensions, cylindrical cargo |
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|publisher=Airbus S.A.S |
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|url=http://www.airbus.com/aircraftfamilies/freighter/beluga/freight/ |
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|accessdate=2014-09-20 |
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|archivedate=2014-08-17 |
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<ref name=Beluga-spec>{{Cite web |
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|title=Beluga A300-600ST: Dimensions & key data |
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|publisher=Airbus S.A.S |
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|url=http://www.airbus.com/aircraftfamilies/freighter/beluga/specifications/ |
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|accessdate=2014-09-20 |
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}}</ref> |
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* [[ボーイング747-400#改修型|ボーイング747LCF]] - ボーイング747を改造した大型貨物機。ボーイング機のコンポーネントを輸送するために用いられている。 |
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* [[ボーイング747-400#改修型|ボーイング747LCF]] |
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== 外部リンク == |
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2014年10月18日 (土) 05:25時点における版
A300-600ST ベルーガ
エアバス ベルーガは企業連合エアバス・インダストリー(後にエアバス社)が開発・製造した貨物機である。大きな航空機部品を輸送する目的でエアバスA300-600Rをベースに開発され、A300-600ST (Super Transporter)という型式名が付けられている。巨大な貨物室を備えることからシロイルカに似た独特な外見を持っており、それにちなんで「ベルーガ」の愛称がつけられた[1]。ベルーガの開発・生産プロジェクトはエアバスの関連企業のSATIC (Special Aircraft Transport International Company) 社によって行われ、1994年9月13日に1号機が初飛行し、全部で5機が生産された。
ベルーガの運航はエアバス関連企業のエアバス・トランスポート・インターナショナル社によって行われ、欧州各地で分担して生産されたエアバス機のパーツを最終組み立て地へ輸送する任務についており、飛行機を作るための飛行機とも言われる[2]。また、エアバス以外の顧客向けにチャーター輸送業務に用いられることもある。
沿革
開発の背景
エアバス・インダストリーは、欧州の航空機メーカーのコンソーシアム(企業連合)として設立され、参加各国で分担してパーツやコンポーネントを生産するという国際分業体制を取っていた[3]。欧州各地ので生産されるパーツを最終組み立て工場へ輸送するため、エアバスは大型貨物運搬用の輸送機としてボーイング377ストラトクルーザーを改修した「スーパーグッピー」を購入し、使用してきた[2][3]。スーパーグッピーは1971年から使用されたが機体の旧式化が進んだことと、エアバスの事業が急成長したことにより、新しい輸送機が求められるようになった[4][1][5]。そこで、エアバスは自社の旅客機A300-600Rをベースにした新しい貨物機を開発することとし、1991年8月にA300-600ST (Super Transporter) の開発計画を正式に開始した[6]。
設計と生産
A300-600STは、主翼、エンジン、胴体下半分をA300-600Rと同じくし、胴体上半分に大きな貨物を収容できる幅広の胴体セクションが設置された[7][5]。貨物室最前部には上側に開く扉が配置され、コックピットが胴体の下側に移されたことで、機体前方から貨物を積み下ろしできるようにされた[7][6][5]。コックピットのレイアウトや装備品などは、A300-600Rのものが踏襲された[7]。
A300-600STの生産数は、5機でそのうち1機は当初はオプションとされたが、最終的に5機全てが生産されている[7][6]。
A300-600STは新造機として生産されたが、幅広の胴体を組み付ける作業などは、最終組み立て地のトゥールーズにてSuper Airbus Transport International (SATIC) 社によって行われることになった[7][8]。SATIC社はエアバス参加企業であるフランスのアエロスパシアル社とドイツのDASA社が50対50で出資した合弁企業で、1991年10月20日に設立された[8]。
号機 | 証明取得日 | 納入日 |
---|---|---|
1号機 (MSN 655) | 1995年10月25日 | 1995年10月25日 |
2号機 (MSN 751) | 1996年4月22日 | 1996年4月22日 |
3号機 (MSN 765) | 1997年5月7日 | 1997年5月7日 |
4号機 (MSN 776) | 1998年7月30日 | 1998年12月18日 |
5号機 (MSN 796) | 2001年1月5日 | 2001年1月5日 |
A300-600STの1号機は1994年9月13日に初飛行し、飛行試験を経て1995年10月25日に型式証明を取得した[2][7][9]。証明を取得した年からエアバス社への引き渡しが始まり[6]、2号機から5号機についても、表のとおり型式証明の取得と納入が進められた。
A300-600STの「ベルーガ」という愛称は、SATIC社によって付けられた[7]。エアバス社は、当初はこの愛称を気に入っていなかったが、広く浸透したことから後に認めて使用するようになった[7]。
運用開始後
ベルーガの最初の実用飛行は、納入の翌年となる1996年1月15日に行われた[7][6]。ベルーガは、欧州各地で製造されるエアバス機のパーツやコンポーネントを最終組み立て工場へ輸送する任務に従事し、全5機の導入によりスーパーグッピーは完全に退役した[7]。
また、エアバスはベルーガを用いたチャーター輸送事業へも参入することとし、ベルーガの2号機を受領した後の1996年6月30日に、輸送請負の専門会社の設立を決めた[7]。この専門会社は「エアバス・トランスポート・インターナショナル」(Airbus Transport International、以下ATI)社と名付けられ同年9月20日に正式に登記を行い、11月24日に最初の請負輸送業務を行った[7]。全5機のベルーガの運航はATI社が担うようになり、2014年の時点では、欧州11カ所の工場間を1週間に60回以上飛行している[2]。
ベルーガの運航開始以降も、エアバス機の生産数は拡大の一途をたどり、2011年にエアバスは輸送量の増加に対応するため「フライ10000」と呼ばれる計画を開始した[2][10]。この計画では、積み荷、積み降ろし方法を含めた物流インフラの最適化を目的とし、2017年までにエアバスの輸送機の年間総飛行時間を1万時間に増やすことを目指している[2][10]。この計画によりベルーガの1日当たりの飛行時間も延長される見込みである[10]。
一方、SATIC社では、ベルーガのコンセプトを他のエアバス機に適用することも検討しており、エアバスA330やエアバスA340がベース機の候補として取りざたされている[6][11]。2014年の時点では、A330をベースとしてA300-600SLより飛行距離が長く、より重い貨物の輸送を可能にするベルーガXL構想が報じられている[11]。
機体の特徴
ベルーガは、主翼やエンジンはA300-600Rと同じだが、大型貨物を搭載できるように極めて太い胴体を持つ[7]。2014年現在、ベルーガは世界最大の胴体幅を持つ飛行機である[2][12]。
胴体の下半分はA300-600Rと同じだが、客室部にあたる胴体上半分に大きな円筒形を乗せたような形で、その円筒形の下側2/3から胴体下半分までは直線的に結ばれている[7]。この円筒形部分は中心から内壁までの半径が3.52メートルあり、貨物室の最大高は7.10メートル、床面の幅は5.11メートルである[7]。円筒の前方と後方は、もとの機体形状に合わせてすぼめられており、完全な円筒部となる部分の長さは21.34メートルで、貨物室の全長は37.70メートルである[7]。床下貨物室にも貨物を搭載可能である[6]。貨物室の総容量は1,400立方メートルで、積載量は47トンである[7][2]。
貨物の積み下ろしを行うため、貨物室の最前部に上開き式の扉が設けられている[7]。この扉は貨物室断面が完全に開口するまで上がるため、貨物室の寸法をフルに使用できる[7]。貨物扉を開いた時の最大の高さは、貨物を搭載しない状態で16.97メートルとなる[7]。
前方から貨物の出し入れを行えるように、ベルーガのコックピットの位置は胴体下部に移されている[7]。乗務員の乗降扉は胴体の床面下に配置され、操縦室の後方にあたる胴体右側面に非常口が設けられている[7]。コックピットの設計やレイアウト、装備品はA300-600Rのものを踏襲している[7]。ベルーガでは人工衛星や美術品といった温度管理が必要な貨物を輸送できるように、可搬式のヒーターモジュールも用意されており、コックピットからヒーターモジュールの制御が行えるようになっている[13]。
ベルーガでは、機体重量の増加に合わせてベース機よりも尾翼の構造が強化された[7]。また、直進安定性を高めるため、水平安定版の両翼端に垂直安定板が追加されたほか、垂直安定板の面積も拡大された[8]。
エンジンはターボファンエンジンで、ゼネラル・エレクトリック製のCF6-80C2を2基装備する[2]。
運用
全5機のベルーガはATI社によって運航され、欧州各地で製造されるエアバスA320やエアバスA330、そして開発中のエアバスA350 XWBといったエアバス機のパーツやコンポーネントを最終組み立て工場へ輸送する任務に従事している[14]。パーツの生産地であるフランスのナントやサンナゼール、ドイツのブレーメン、スペインのヘタフェ、イギリスのブロートン、イタリアのナポリなどから、最終組み立て地のトゥールーズやドイツのハンブルクを結んでいる[2]。総2階建ての超大型機であるエアバスA380については、ベルーガの貨物室にも収まらないコンポーネントがあるため専用の船と車両を用いた輸送がメインとなっている[15]。
ATI社ではこの通常運航のほか、エアバス以外の顧客向けに大型貨物のチャーター輸送業務を請け負っている[7]。ベルーガの広い貨物室を活かし、それほど重くはないがかさばる荷物の輸送として、人工衛星やヘリコプターのほか美術品の輸送にチャーターされることもある[5]。1999年にはドラクロワの絵画「民衆を導く自由の女神」を輸送するため日本の成田国際空港に飛来している[2]。また、2006年5月には国際宇宙ステーションのヨーロッパ実験棟コロンバスをドイツのブレーメンから米国のケネディ宇宙センターへ運搬するためにも利用された[16]。
主要諸元
出典:特に記載のないものは Airbus S.A.S.[17] による
- 運航乗務員数:2名[13]
- 全長:56.15 m
- 全幅:44.84 m
- 全高:17.24 m
- 翼面積:122.40 m2
- 胴体直径:7.31 m
- 貨物室全長:37.7 m
- エンジン:GE CF6-80C2A8 ターボファンエンジン 2基
- エンジン推力(1基あたり):119 - 120 kN
- 最大離陸重量:155 t
- 最大積載量:47 t
- 貨物室容量:約14,000 m3[2]
- 最大巡航速度:マッハ0.82
- 航続距離:積載量40トンで2,779 km、26トンで4,632 km.
脚注
出典
- ^ a b “エアバス・ベルーガ 世界一変わった外観の貨物機の秘密 (1/4)”. CNN.co.jp (2014年2月11日). 2014年7月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月15日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l 吉川, 忠行. “エアバスの巨大輸送機ベルーガ、初飛行20周年 主翼や胴体運ぶ”. 2014年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月15日閲覧。
- ^ a b 青木 2010, p. 131.
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- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y 青木 2010, pp. 78–79.
- ^ a b c Kingsley-Jones 1999, pp. 57–58.
- ^ EASA 2014.
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- ^ a b “エアバス・ベルーガ 世界一変わった外観の貨物機の秘密 (4/4)”. CNN.co.jp (2014年2月11日). 2014年9月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月15日閲覧。
- ^ “Beluga A300-600ST: widest fuselage, oversized dimensions, cylindrical cargo”. Airbus S.A.S. 2014年8月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月20日閲覧。
- ^ a b “Beluga A300-600ST: flight deck”. Airbus S.A.S. 2014年8月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月20日閲覧。
- ^ “Beluga A300-600ST : the most voluminous cargo for oversized cargo transport”. Airbus S.A.S. 2014年8月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月20日閲覧。
- ^ 青木 2010, pp. 135–137.
- ^ Mansfield, Cheryl. “Space station module Columbus lands on Florida shores” (PDF) (English). John F. Kennedy Space Center, NASA. 2014年9月19日閲覧。
- ^ “Beluga A300-600ST: Dimensions & key data”. Airbus S.A.S. 2014年8月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月20日閲覧。
参考文献
書籍
- 青木謙知『AIRBUS JET STORY』イカロス出版、2010年3月25日。ISBN 978-4-86320-277-1。
オンライン資料
- Kingsley-Jones, Max; Moxon, Julian; OToole, Kevin; Lewis, Paul; Learmount, David; Henley, Peter (1997-10-29), “A300-600ST BELUGA” (English) (PDF), Airbus Industrie -- 25 Flying Years (Flight International supplement): 13 2014年5月21日閲覧。
- Kingsley-Jones, Max (1999-09-1/7), “Commercial Aircraft Directory: Part 2”, Flight International: 40-73 2014年9月18日閲覧。
- Kaminski-Morrow, David (2013-11-04), Airbus wing station plan hints at A330 Beluga, オリジナルの2013-12-04時点におけるアーカイブ。 2014年9月15日閲覧。
- (English) (PDF) EASA Restricted Type-Certificate Data Sheet EASA.A.014, Issue 4, European Aviation Safety Agency (EASA), (2014-05-16) 2014年9月15日閲覧。
関連項目
- ボーイング747LCF - ボーイング747を改造した大型貨物機。ボーイング機のコンポーネントを輸送するために用いられている。