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性感染症
「梅毒は危険な病気ですが治せます」(Syphilis is a dangerous disease, but it can be cured) 梅毒の治療を促すこのポスターは、1936年から38年の間のものである。
概要
診療科 感染症
分類および外部参照情報
ICD-10 A64
ICD-9-CM 099.9
DiseasesDB 27130
Patient UK 性感染症
MeSH D012749

性行為感染症(せいこういかんせんしょう、性感染症性病: sexually transmitted infections: STI, sexually transmitted diseases: STD, venereal diseases: VD)とは、膣性交肛門性交口腔性交を含む性行為によって感染する感染症である。ほとんどの性行為感染症は感染初期に症状を示さない[1]。そのため他の人へ感染させやすい。[2][3]。症状と徴候として膣やペニスの分泌物、性器やその周辺に生じる潰瘍、下腹部痛などが含まれる。妊娠や出産に伴う感染では新生児の予後不良となりうる。また、不妊の原因となることもある。[1]

性行為感染症の原因となる細菌ウイルス寄生虫は30種以上にのぼる[1]。細菌性にはクラミジア感染症淋病梅毒などがある。ウイルス性には性器ヘルペスHIV/AIDS尖圭コンジローマなどがある。寄生虫にはトリコモナス症などがある。性行為感染症は通常は性交によって伝播するが、汚染した血液や臓器との接触、授乳出産など性交以外の接触によって伝播することもある[1]。診断検査は先進国では利用しやすいが、発展途上国においてはその限りでない[1]

性行為感染症の最も効果的な予防法は性交をしないことである[4]。予防接種によってある種の性行為感染症のリスクを低減する事も可能であり、B型肝炎、一部の型のHPVがこれにあたる[4]コンドームの使用、不特定多数の相手と性交をしないといったセーフセックスの実施も感染のリスクを低下させる[1][4]。男性の割礼はある種の性行為感染症の予防に効果的である[1]。ほとんどの性行為感染症は寛解可能あるいは完治可能である[1]。一般的な性行為感染症の中では梅毒、淋病、クラミジア感染症、トリコモナス症が完治可能だが、ヘルペス、B型肝炎、HIV/AIDS、HPVは寛解可能である一方完治はできない[1]。淋菌などの一部の病原体はある種の抗生物質に耐性を獲得しつつある[5]

2008年には5億人の人々が梅毒、淋病、クラミジア、トリコモナスのいずれかに感染したと推定された[1]。さらに少なくとも5.3億人が性器ヘルペスに、2.9億人の女性がヒトパピローマウイルスに感染している[1]。HIVを除いても性行為感染症は2013年の一年間で14万2千人の死を引き起こした[6]。アメリカ合衆国では2010年に1900万人が新たに性行為感染症に感染している[7]。歴史的な記述は少なくとも紀元前1550年頃のエーベルス・パピルス旧約聖書までさかのぼる[8]。性行為感染症にはしばしば恥や汚名を伴う[1]。英語では症状を示さない感染者を含む、sexually transmitted infection の語が、sexually transmitted disease や venereal disease よりも好まれて用いられる[9]

名称

世界保健機構 (WHO) は1999年から sexually transmitted infection の単語の使用を推奨している[9]。これは sexually transmitted disease より広い意味を持つ[10]Infection(感染)は寄生生物の侵入を意味するが、感染が必ずしも悪影響を与えるとは限らない。Disease(疾病、疾患)においては infection が機能の異常や障害につながる。そしていずれにおいても徴候や症状を示さないことがある[11]

徴候と症状

すべての性行為感染症が症状を示す訳ではなく、また症状を示すとしても感染直後にそれが現れるとは限らない。症例によっては感染症が無症状で保有される事があり、このような場合は他の人を感染させる可能性が高くなる。感染症の種類によって性行為感染症は不妊慢性痛、さらには死を引き起こしうる[12]

性行為感染症に思春期以前の子どもが感染していた場合は性的虐待の可能性を示すことがある[13]

病原体

細菌

真菌

ウイルス

顕微鏡写真英語版はヘルペス・ウイルスの細胞変性効果を示す。 (ground glass nuclear inclusions, multi-nucleation). パップテストパパニコロウ染色

寄生虫

原虫

診断

梅毒やHIVでは特徴的な口腔の病変が生じ診断の機会となりうるが、淋菌やクラミジアでは症状がなかったり、特徴のない炎症が生じるため見逃されやすい[30]

梅毒の感染が発覚した場合、HIVの検査も推奨される[31]

鑑別診断

排尿痛、尿道の痛みや分泌液は、性感染症以外でも起こりうるため鑑別が必要である[32]

  • 淋菌性尿道炎[32]
  • クラミジア性尿道炎 - クラミジアが分離できる[32]
  • 非クラミジア性非淋菌性尿道炎 - 主にマイコプラズマ、ウレアプラズマ、トリコモナスなどであり、他の多くの細菌では確実な証拠は不足している[33]

男性の尿道炎の70%は非淋菌性であり、そのうち30-50%がクラミジアを検出するが、そのクラミジア性尿道炎と非クラミジア性非淋菌性尿道炎との症状の差はみられないため、症状による鑑別は困難であり検査により容易となる[34]。初診時にグラム染色で淋菌の診断が得られれば、クラミジアの検査も行う[32]。淋菌感染者の20-30%がクラミジアの感染を合併しており、クラミジアの検査も必須とされる[35]。グラム染色で淋菌が検出できなければ、核酸増殖法(SDA法)を行う[32]

淋病では、3-7日で発症し強い排尿痛と膿を伴い、クラミジアでは1-3週間で発症し軽い排尿痛で粘液性の分泌物を伴う[32]。非クラミジア性非淋菌性尿道炎では1-5週間である[34]

予防

カリフォルニア州サンフランシスコにある性病検査のためのサンフランシスコ・シティ・クリニック。

カウンセリングと行動科学的アプローチ

淋菌では1回の性行為で30%の確率で感染するとみなされている[36]

最も効果的な性行為感染症の予防法は性行為(肛門性交や口腔性交等を含む)を一切行わない事である[4]。また、性行為感染症を防ぐ上では「特定の相手とのみ性行為を行う」「コンドームを使用する」などのセーファーセックスの実行が重要である。これは望まない妊娠を防ぐ上でも重要となる[1][4][37]

コンドーム

コンドームの使用は効率的に性行為感染症を予防する事ができる[1][4]

ワクチン

HPV感染症の一部とB型肝炎ワクチンの接種により予防可能である。さらにHIVとヘルペスウイルスについてもワクチンの開発が進められている[1][4]

その他

男性の割礼はHIVをはじめとした性行為感染症に予防効果がある事が知られている。また、抗ウイルス薬であるテノホビルのゲルもHIVの感染予防等に効果があるとされる[1]

治療

クラミジア感染症淋病の診断を受けた人のパートナーの治療選択肢には、初回検査なしで医薬品を提供することも慣行である[38]。パートナーの検査や治療を放置すると簡単に再感染する[39]

以下、日本の2016年のガイドラインより説明する。

オーラルセックスの増加により咽喉の淋菌やクラミジアの感染も増えており、咽喉にも有効な治療が第一選択となる[32]。淋菌の薬剤耐性は著しく、薬剤感受性試験も行う[32]。咽喉では淋菌、クラミジアともに2週間以上開けてから治療判定の検査を行う[40]

淋菌の薬剤耐性は著しく、ペニシリン系は90%、テトラサイクリン系ニューキロノン系では70-80%、第三世代のセファロスポリン系でも30-50%が耐性を持ち、セイフィキシムでも無効例が報告されるようになり、セフトリアキソンスペクチノマイシンの注射剤のみが保険適用の上で推奨でき、2016年時点で100%に近い有効性があり、治療後の検査は必須ではない[41]アジスロマイシンの2グラムは、90%以上の有効率であるが、1グラムでは40%が治療に失敗しており、地域的に耐性を持つ菌も増えており、第一選択肢ではない[35]。例えば、福岡では2010年の1.8%の割合であったアジストロマイシンに耐性を持つ淋菌は2013年には22.6%だと報告されている[42]。咽喉の淋菌では推奨されるのはセフトリアキソンを1グラムの注射剤のみである[40]。セフトリアキソンの耐性菌も日本では世界に先駆けて報告されている[36]

クラミジアではマクロライド系のアジスロマイシンやニューキノロン系やテトラサイクリン系が用いられる[43]。 咽喉のクラミジアでは性器への感染に準じる[40]。非クラミジア性非淋菌性でも同様である[44]。マイコプラズマ・ジェニタリウムは、薬剤耐性があり、テトラサイクリン系よりも、アジスロマイシンやクラリスロマイシンやなどマクロライド系が強い殺菌効果を持つが、それでも2000年前後にはほぼ100%であった有効率は低下してきており、2012年のオーストラリアの報告ではアジスロマイシン1グラムでは69%であり、日本ではそこまで失敗が頻発していないため1グラムか2グラムを第一選択とする[45]。ウレアプラズマでは、アジスロマイシン1グラム、あるいはレボフロキサシン500mgを7日間、あるいはシタフロキサシン200mgを1日2回7日間で100%であったため、これらのマクロライド系やニューキノロン系が推奨される[45]

トリコモナスではメトロニダゾールによる治療が一般的である[46]

梅毒ではペニシリンが第一選択である[31]

疫学

日本

国立感染症研究所の調査では、2008年のデータでは性感染症の罹患率は年々減少、もしくは横ばいとなっていた[47]が、2010年以降は後天性免疫不全症候群[48]梅毒[49]では増加傾向にある。

出典

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参考文献

関連項目

外部リンク

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