「はさみ (動物)」の版間の差分
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[[Image:Liocarcinus vernalis.jpg|right|250px|thumb|カニのハサミ |
[[Image:Liocarcinus vernalis.jpg|right|250px|thumb|[[カニ]]のハサミ。写真上部に一対の鋏状の第一胸脚が見える。]] |
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[[節足動物]]の'''はさみ'''('''ハサミ'''、'''鋏'''、'''鉗'''、'''螯'''、chela、複数形:chelae<ref name=":0">{{Cite web|title=chela, chelae, chelate, cheliform, cheliped - BugGuide.Net|url=https://bugguide.net/node/view/190823|website=bugguide.net|accessdate=2019-07-29}}</ref>)とは、[[はさみ]]や[[ペンチ]]と似た[[関節肢]]の構造である。 |
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動物に見られる'''ハサミ'''('''螯'''、'''鉗''')とは、[[カニ]]の第一脚のように紙や布を切る道具([[はさみ]])と似た構造を言う。 |
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== 概要 == |
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[[ファイル:Kräftklo-1.jpg|250px|サムネイル|[[タンカイザリガニ]]の第1脚のハサミ]] |
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カニの第一脚の先端は、先端が二つに割れ、動かせるようになっており、その形は確かにハサミに見える。これは、先端の節とその次の節から伸びる突起から形成されるもので、両者の間で挟むように動かせる。一般に刃は着いていないので、ハサミというよりは、[[ペンチ]]や[[ピンセット]]のような働きが主体である。 |
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[[節足動物]]の[[付属肢]]([[関節肢]])は、機能に応じて様々な形態をもち、ハサミ(鋏、chela)がその1つである。先端が二つに割れ、動かせるようになっており、その形は[[はさみ]]に見える。これは、先端の節とその基部に繋いだ節から伸びる突起から形成されるもので、両者の間で挟むように動かせる。この様な付属肢の状態は'''鋏状'''('''ハサミ状'''<ref name=":1">{{Cite journal|last=敬知|first=角井|date=2016-08-01|title=タナイスの多様性―特に性様式について|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/cancer/25/0/25_131/_article|journal=CANCER|volume=25|pages=131–136|language=ja|doi=10.18988/cancer.25.0_131|issn=0918-1989}}</ref>、chelate、cheliform<ref name=":0" />)と形容される。なお、節足動物のハサミは一般に刃はなく、物を掴むのに用いられるので、はさみというよりは、[[ペンチ]]や[[ピンセット]]のような働きが主体である。 |
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多くの場合、先端の節は爪状になっており、その基部に繋いだ節は大きく膨らんで、多量の筋肉を収める。基部の節は、先端の節の動作方向に向かった端から突起が出て、先端の節と向かい合うようになっている。この突起と先端の節がハサミの刃に当たる。先端の節の腱(内突起)が基部の節に入り込み、ここに多くの筋肉が付着し、これを引っ張ることで鋏の開閉が行われる。つまり先端の節が動き、基部の節の突起は動かない。そこで、先端の節を'''可動指'''(movable finger)、基部の節の突起を'''不動指'''(fixed finger)と呼び<ref>{{Cite web|title=Untitled 1|url=http://lanwebs.lander.edu/faculty/rsfox/invertebrates/callinectes.html|website=lanwebs.lander.edu|accessdate=2019-07-29}}</ref><ref>{{Cite web|title=はさみ(鋏)(はさみ)とは|url=https://kotobank.jp/word/%E3%81%AF%E3%81%95%E3%81%BF%28%E9%8B%8F%29-1195266|website=コトバンク|accessdate=2019-07-30|language=ja|first=世界大百科事典|last=第2版,世界大百科事典内言及}}</ref>、筋肉を収めた中央部を'''掌部'''ということもある。 |
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== さまざまなハサミ == |
== さまざまなハサミ == |
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[[Image:Gnathopods_nl.png|thumb|250px|left|甲殻類の顎脚に見られる鋏状(右)と亜鋏状(左)の構造]] |
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類似の構造は多くの[[節足動物]]の足に見られる。最もよく見られるのは、やはり[[甲殻類]]である。[[十脚類]]の[[ザリガニ]]類、[[ヤドカリ]]類、[[カニ]]類はその大部分がよく発達したハサミを第一脚に持つし、他の足にも鋏をもつ場合もある。[[エビ]]類でも一対以上のハサミを持つものは多い。その他、[[タナイス目]]、[[オキアミ目]]などにはっきりしたハサミを持つものがある。 |
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=== 甲殻類 === |
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[[鋏角亜門|鋏角類]]の[[カブトガニ]]や[[サソリ]]にも鋏がある。カブトガニの場合は目立たないが歩脚の先端が鋏になっている。サソリや[[カニムシ]]などの場合、[[触肢]]が立派なハサミに発達している。また、触肢がハサミとして発達している鋏角類であっても、[[鋏角]]は小さいながらも鋏になっている。鋏脚が名前どおり鋏状になっているものは多く、[[ザトウムシ]]類や[[ダニ]]類もそうである。 |
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[[ファイル:Haeckel Decapoda.jpg|250px|サムネイル|多くの[[十脚類]]は鉗脚をもつ]] |
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ファイル:Lobster.jpg|強大な鉗脚をもつ[[ロブスター]] |
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ファイル:Stenopus Hispidus.Thailand.jpg|前3対の鉗脚のうち第3対が発達している[[オトヒメエビ]] |
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ファイル:BirgusLatroRay.jpg|[[ヤシガニ]]の第1脚と第4脚にハサミをもつ |
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ファイル:Calling Fiddler Crab (Uca vocans) (15717078196).jpg|[[シオマネキ]]は片側の鉗脚が大きく発達している |
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[[ファイル:Tanaidacea (YPM IZ 076906) 002.jpeg|250px|サムネイル|鋏状の第1胸脚をもつ[[タナイス目|タナイス]]]] |
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ハサミは多くの[[節足動物]]の付属肢に見られ、その中でも[[甲殻類]]が特に代表的である。[[十脚類]]の[[ザリガニ下目]]([[ザリガニ]]、[[ロブスター]]など)、[[異尾下目]]([[ヤドカリ]]、[[コシオリエビ]]など)、[[カニ]]類はハサミを第1胸脚に持つし、他の胸脚にもハサミをもつ場合もある。十脚類のこの様な胸脚は、'''鉗脚'''(かんきゃく)もしくが'''鋏脚'''(きょうきゃく)(cheliped)と言う<ref>{{Cite web|title=Definition of CHELIPED|url=https://www.merriam-webster.com/dictionary/cheliped|website=www.merriam-webster.com|accessdate=2019-07-30|language=en}}</ref>。 |
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[[エビ]]類では一対以上の鉗脚を持つものは多い。多くはザリガニ下目や[[クルマエビ科]]のように前の3対で、[[テナガエビ]]などは前の2対、[[センジュエビ科]]は前の4対もしくは5対で全ての脚の先端がハサミになる<ref>{{Cite web|title=FAMILY Details for Polychelidae - blind lobsters|url=https://www.sealifebase.ca/summary/FamilySummary.php?ID=11|website=www.sealifebase.ca|accessdate=2019-07-30}}</ref>。中でそのうち1対が特に強大になるものもあり、ザリガニ下目などの第1胸脚、テナガエビの第2胸脚、[[オトヒメエビ]]などの第3胸脚が挙げられる。エビ類の他、カニ類の[[ハサミアシホモラ]]と[[ヤドカリ]]類の[[ヤシガニ]]は、それぞれの第5胸脚と第4胸脚にもハサミをもつ。 |
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[[Image:Forficula auricularia.jpg|right|250px|thumb|ハサミムシの一種 ''Forficula auricularia'']] |
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十脚類の他、[[タナイス目]]、[[オキアミ目]]などにもはっきりした鋏状の脚を持つものがある。 |
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=== 鋏角類 === |
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[[ファイル:Pseudoscorpion (7586033338).jpg|250px|サムネイル|[[カニムシ]]の正面。左右の長い[[触肢]]の先端と口元の[[鋏角]]が鋏状である。]] |
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ファイル:Chelicerae.svg|様々な[[鋏角類]]の[[鋏角]] |
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ファイル:Pterygotus anglicus reconstruction.jpg|[[ウミサソリ]]の1属[[プテリゴトゥス]]は大きく張り出した鋏角をもつ |
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ファイル:Arachnida, Solifugae, Eremobatidae (3334820318).jpg|巨大な鋏角をもつ[[ヒヨケムシ]] |
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ファイル:Skorpion fg02.jpg|鋏型の[[触肢]]をもつ[[サソリ]] |
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</gallery> |
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[[鋏角亜門|鋏角類]]もハサミを持つ例が多い。'''[[鋏角]]'''(きょうかく、chelicera)は鋏角類に特有の付属肢で、名に現れるように多くの場合は鋏状になっている。そのほとんどが小さく目てないが、[[ヒヨケムシ]]と一部の[[ウミサソリ]]のように、鋏角が目立つなものもある。[[ウミグモ]]の場合、鋏角に当たる付属肢は鋏肢(chelifore)と言う<ref name=":2" />。 |
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鋏角以外の付属肢がハサミをもつ鋏角類もある、例えば[[カブトガニ類|カブトガニ]]の場合は、ほぼ全ての脚の先端がハサミになっている。[[サソリ]]や[[カニムシ]]などの場合、[[触肢]]が立派なハサミに発達している<ref name=":2">{{Cite journal|last=Lamsdell|first=James C.|last2=Dunlop|first2=Jason A.|title=Segmentation and tagmosis in Chelicerata|url=https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata|journal=Arthropod Structure & Development|volume=46|issue=3|pages=395–418|language=en|issn=1467-8039}}</ref>。 |
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鋏角は鋏角類の口器であり、多くの場合は餌を固定し、それを下側の口へ運ぶ機能をもつ。ヒヨケムシのような強大な鋏角は、獲物を捕獲することにも用いられる。サソリとカニムシは鋏状の触肢で獲物を捕獲し、それを口元の鋏角へ導いて捕食を行う。中でもカニムシの鋏は、掴んだ獲物に[[毒]]を注入する機能も備わっている<ref>{{Cite journal|last=von Reumont|first=Bjoern|last2=Campbell|first2=Lahcen|last3=Jenner|first3=Ronald|date=2014-12-19|title=Quo Vadis Venomics? A Roadmap to Neglected Venomous Invertebrates|url=http://www.mdpi.com/2072-6651/6/12/3488|journal=Toxins|volume=6|issue=12|pages=3488–3551|language=en|doi=10.3390/toxins6123488|issn=2072-6651|pmid=25533518|pmc=PMC4280546}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Krämer|first=Jonas|last2=Pohl|first2=Hans|last3=Predel|first3=Reinhard|date=2019-04-15|title=Venom collection and analysis in the pseudoscorpion Chelifer cancroides (Pseudoscorpiones: Cheliferidae)|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0041010119300509|journal=Toxicon|volume=162|pages=15–23|doi=10.1016/j.toxicon.2019.02.009|issn=0041-0101}}</ref>。カブトガニのハサミをもつ歩脚は歩行と餌を掴むのに用いられ、鋏角で餌を口へ運ぶ<ref>{{Cite web|title=Horseshoe Crabs ~ MarineBio Conservation Society|url=https://marinebio.org/species/horseshoe-crabs/limulus-polyphemus/|website=marinebio.org|accessdate=2019-07-30}}</ref>。 |
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=== 他の節足動物 === |
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ファイル:Sphaeromimus vatovavy posterior telopods.jpg|[[タマヤスデ]]のオスのtelopods |
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ファイル:Cf Anteoninae F (16159116553).jpg|[[カマバチ]]の前脚 |
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</gallery> |
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[[多足類]]([[ムカデ]]、[[ヤスデ]]など)と[[六脚類]]([[昆虫]]など)の場合、付属肢そのものがハサミになる例が非常に少ない。[[タマヤスデ]]のオスの終端の脚は、頑丈なハサミに特殊化している。これは「telopod」と言い、[[繁殖行動]]でメスを掴むのに用いられている<ref>{{Cite journal|last=Shear|first=William|date=1999|title=Millipeds|url=http://www.americanscientist.org/issues/feature/1999/3/millipeds|journal=American Scientist|volume=87|issue=3|pages=232|language=en|doi=10.1511/1999.24.820|issn=0003-0996}}</ref>。鋏状の付属肢をもつ昆虫は、[[カマバチ]]とCarcinocorini族の[[サシガメ#分類|ヒゲブトサシガメ]]のみによって知られる<ref>{{Cite journal|last=Weirauch|first=Christiane|last2=Forero|first2=Dimitri|last3=Jacobs|first3=Dawid H.|date=2011|title=On the evolution of raptorial legs – an insect example (Hemiptera: Reduviidae: Phymatinae)|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1096-0031.2010.00325.x|journal=Cladistics|volume=27|issue=2|pages=138–149|language=en|doi=10.1111/j.1096-0031.2010.00325.x|issn=1096-0031}}</ref>。いずれも前脚で、カマバチは跗節の第5節と爪でハサミをなし<ref name=":3">{{Cite web|title=Dryinidae (Hymenoptera Chrysidoidea): an interesting group among the natural enemies of the Auchenorrhyncha (Hemiptera). - PDF|url=https://docplayer.net/29635667-Dryinidae-hymenoptera-chrysidoidea-an-interesting-group-among-the-natural-enemies-of-the-auchenorrhyncha-hemiptera.html|website=docplayer.net|accessdate=2019-07-29}}</ref>、Carcinocorini族のヒゲブトサシガメは腿節と脛節がそれぞれハサミの不動指と可動指になる。 |
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== ハサミに似た構造 == |
== ハサミに似た構造 == |
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前述の特徴に当たらないものの、ハサミに似た構造をもつ節足動物もある。 |
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第一節と向かい合う突起が第一節の基部からやや離れたところにあるものもある。この場合、第一節は第二節の突起ではなく、第二節の突起までの間の部位で第一節の内側とかみ合う。外見的にはやや[[鎌]]に似た姿となる。この状態を'''亜鋏状'''と言う。[[ワレカラ]]や[[ヨコエビ]]などの[[端脚類]]、口脚目([[シャコ]]類)などにそのようなものが見られる。 |
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=== 亜鋏状の構造 === |
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[[Image:Gnathopods_nl.png|thumb|250px|甲殻類の付属肢に見られる鋏状(右)と亜鋏状(左)の構造]]一部の節足動物の付属肢は、先端の節と向かい合う突起を欠き、もしくはその基部からやや離れたところにあるものもある。この場合、先端の節は基部の節の突起ではなく、基部の節の片側で先端の節の内側とかみ合い、全体が[[鎌]]に似た姿となる。外見的には歩脚状と鋏状の中間形態に当たるようで、この状態を'''亜鋏状'''('''亜ハサミ状'''<ref name=":1" />、subchelate<ref>{{Cite web|title=subchelate|url=https://crustacea.academic.ru/1627/subchelate|website=Academic Dictionaries and Encyclopedias|accessdate=2019-07-30|language=en|publisher=}}</ref>)と言う。[[甲殻類]]の中では、[[ワレカラ]]や[[ヨコエビ]]などの[[端脚類]]、[[シャコ目|口脚目]](シャコ類)などにそのようなものが見られる。 |
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ファイル:Tamarutaca.png|鎌のような顎脚をもつ[[シャコ目|シャコ類]] |
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ファイル:MantisLegGBMNH.jpg|[[カマキリ]]の前脚 |
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ファイル:Crab louse (251 24) Female adult and eggs, from a human host.jpg|[[ケジラミ]] |
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</gallery> |
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⚫ | [[昆虫]]類は非常に種数が多く、その付属肢の構造にも多様なものが見られるが、不思議に単独でハサミとなった付属肢を持つものはほとんど無く、前述の僅かな例しか見当たらない。鎌型の亜鋏状の前脚を持つものが散見される程度で、[[カマキリ]]、[[カマキリモドキ]]、[[カマバエ]](カマキリバエ)、[[水生カメムシ類]]、Carcinocorini族以外の[[サシガメ#分類|ヒゲブトサシガメ]]などの例があり、いずれも獲物を捕らえ保持するための器官として発達している。[[哺乳類]]に寄生する[[シラミ]]は、宿主の毛を掴めるように、全ての脚の先端が亜鋏状になっている。一部の[[コバチ]]は、頑丈で鎌のような後脚をもつ。また、前述のカマバチの中でも、一部の群では跗節の第5節の突起が発達せず、亜鋏状に近い構造となる<ref name=":3" />。 |
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前述の[[鋏角類]]の中でも、[[鋏角]]は鋏型でないものもある。例えば[[四肺類]]([[クモ]]、[[ウデムシ]]、[[サソリモドキ]]、[[ヤイトムシ]])の鋏角は亜鋏状で、折りたたみナイフのような構造をもつ<ref name=":2" />。 |
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また、第三節にも第二節と同様な突起を生じ、三本指になる例もある。カブトガニでは第5歩脚が三本指になり、これを広げることで[[かんじき]]のように泥の上でも足を支えられるようになっている。 |
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=== 多数の節と突起からなる構造 === |
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中国[[雲南省]]の[[カンブリア紀]]地層から発見された[[澄江生物群]]に属する[[パラペユトイア]]は、[[アノマロカリス]]に似た構造を持つ動物である。アノマロカリスは口の前に一対の[[触手]]を持ち、その形がエビの腹部と間違われたように節に分かれ、内側には歯のような突起があるが、パラペユトイアの触手は、先端近くの節から長い突起を出して、三本歯のはさみ状になっている。 |
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[[File:Leanchoilia superlata study.jpg|250px|サムネイル|[[Megacheira]]類の[[レアンコイリア]]は3本の突起からなる[[大付属肢]]を持つ]] |
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先端の節に繋いだ基部2個以上の節がかみ合わせられる突起を生じ、併せて三本以上の突起があり、多重の鋏状構造のようになる例もある。この様な形態は、[[ヨホイア]]、[[パラペユトイア]]、[[レアンコイリア]]などの[[Megacheira]]類という化石節足動物の[[大付属肢]]に見られる<ref>{{Cite journal|last=Haug|first=Joachim T.|last2=Waloszek|first2=Dieter|last3=Maas|first3=Andreas|last4=Liu|first4=Yu|last5=Haug|first5=Carolin|date=2012-3|title=Functional morphology, ontogeny and evolution of mantis shrimp-like predators in the Cambrian: MANTIS SHRIMP-LIKE CAMBRIAN PREDATORS|url=http://doi.wiley.com/10.1111/j.1475-4983.2011.01124.x|journal=Palaeontology|volume=55|issue=2|pages=369–399|language=en|doi=10.1111/j.1475-4983.2011.01124.x}}</ref>。 |
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基盤的な節足動物と考えられる古生物[[アノマロカリス類]]は、頭部の前方に1対の前部付属肢がある。これは摂食に用いられた関節肢と考えられ、往々にして10節前後に分かれる。その中で[[アンプレクトベルア科]]に属する種類は、基部の節の腹側から大きな突起を伸ばし、残り全ての節の湾曲方向とかみ合わせ、全体がハサミの様になっている<ref>{{Cite journal|last=Paterson|first=John R.|last2=Shu|first2=Degan|last3=Dunlop|first3=Jason A.|last4=Steiner|first4=Michael|last5=Lerosey-Aubril|first5=Rudy|last6=Liu|first6=Jianni|date=2018-11-01|title=Origin of raptorial feeding in juvenile euarthropods revealed by a Cambrian radiodontan|url=https://academic.oup.com/nsr/article/5/6/863/5025873|journal=National Science Review|volume=5|issue=6|pages=863–869|language=en|doi=10.1093/nsr/nwy057|issn=2095-5138}}</ref>。 |
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=== 付属肢単体に由来でない構造 === |
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[[ファイル:JapyxLefroy.jpg|250px|サムネイル|[[ハサミコムシ]]]] |
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File:Forficula.auricularia.-.lindsey.jpg|[[クギヌキハサミムシ|ヨーロッパクギヌキハサミムシ]] |
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File:Kuwagata jp.jpg|[[ノコギリクワガタ]] |
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File:Xylotrupes gideon m.jpg|[[ヒメカブト]] |
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</gallery> |
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単独の付属肢からなるものではないが、ハサミのように働く構造もある。[[クワガタムシ]]などの大顎や、[[ハサミムシ]]と[[コムシ目|コムシ]]における[[ハサミコムシ]]の尾肢のように、左右1対の付属肢がそれぞれハサミの片割れとなり、併せてハサミのように機能するものがある。また、付属肢由来の構造ではないが、一部の[[カブトムシ亜科|カブトムシ類]]の頭部と前胸背甲は、ハサミのように上下でかみ合わせた頭角と胸角を持つ<ref>{{Cite journal|last=McCullough|first=Erin L.|last2=Tobalske|first2=Bret W.|last3=Emlen|first3=Douglas J.|date=2014-10-07|title=Structural adaptations to diverse fighting styles in sexually selected weapons|url=http://www.pnas.org/lookup/doi/10.1073/pnas.1409585111|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=111|issue=40|pages=14484–14488|language=en|doi=10.1073/pnas.1409585111|issn=0027-8424}}</ref>。 |
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== 脚注 == |
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==関連項目== |
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*[[はさみ]] |
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*[[関節肢]] |
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*[[鋏角]] |
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2019年8月15日 (木) 12:54時点における版
節足動物のはさみ(ハサミ、鋏、鉗、螯、chela、複数形:chelae[1])とは、はさみやペンチと似た関節肢の構造である。
概要
節足動物の付属肢(関節肢)は、機能に応じて様々な形態をもち、ハサミ(鋏、chela)がその1つである。先端が二つに割れ、動かせるようになっており、その形ははさみに見える。これは、先端の節とその基部に繋いだ節から伸びる突起から形成されるもので、両者の間で挟むように動かせる。この様な付属肢の状態は鋏状(ハサミ状[2]、chelate、cheliform[1])と形容される。なお、節足動物のハサミは一般に刃はなく、物を掴むのに用いられるので、はさみというよりは、ペンチやピンセットのような働きが主体である。
多くの場合、先端の節は爪状になっており、その基部に繋いだ節は大きく膨らんで、多量の筋肉を収める。基部の節は、先端の節の動作方向に向かった端から突起が出て、先端の節と向かい合うようになっている。この突起と先端の節がハサミの刃に当たる。先端の節の腱(内突起)が基部の節に入り込み、ここに多くの筋肉が付着し、これを引っ張ることで鋏の開閉が行われる。つまり先端の節が動き、基部の節の突起は動かない。そこで、先端の節を可動指(movable finger)、基部の節の突起を不動指(fixed finger)と呼び[3][4]、筋肉を収めた中央部を掌部ということもある。
さまざまなハサミ
甲殻類
ハサミは多くの節足動物の付属肢に見られ、その中でも甲殻類が特に代表的である。十脚類のザリガニ下目(ザリガニ、ロブスターなど)、異尾下目(ヤドカリ、コシオリエビなど)、カニ類はハサミを第1胸脚に持つし、他の胸脚にもハサミをもつ場合もある。十脚類のこの様な胸脚は、鉗脚(かんきゃく)もしくが鋏脚(きょうきゃく)(cheliped)と言う[5]。
エビ類では一対以上の鉗脚を持つものは多い。多くはザリガニ下目やクルマエビ科のように前の3対で、テナガエビなどは前の2対、センジュエビ科は前の4対もしくは5対で全ての脚の先端がハサミになる[6]。中でそのうち1対が特に強大になるものもあり、ザリガニ下目などの第1胸脚、テナガエビの第2胸脚、オトヒメエビなどの第3胸脚が挙げられる。エビ類の他、カニ類のハサミアシホモラとヤドカリ類のヤシガニは、それぞれの第5胸脚と第4胸脚にもハサミをもつ。
カニの鉗脚は餌となる生物をつまみあげ、捕捉し、あるいは殻を粉砕したうえで、食べられる部分を裁断、引きちぎるのに用いられる。また、敵を攻撃する際や、防御のため、さらにはシオマネキ類やチゴガニ類のようなスナガニ科でよく見られるように、異性をめぐる闘争やそれに関係したダンスなどのデモンストレーションにも用いられることがある。
十脚類の鉗脚は時として左右が不対称になっている。大きい鉗脚は武器として用いられる例が多い。極端な例はシオマネキである。このカニの場合、大きい鉗脚は雌を巡る争いやデモンストレーションに用い、餌を採る際には小さい方の鉗脚だけを使う。これに関わって、鉗脚に性的二形を生じる例も少なくない。また、ヤドカリでは大きい方の鉗脚を貝殻入り口の蓋として用いる。
十脚類の他、タナイス目、オキアミ目などにもはっきりした鋏状の脚を持つものがある。
鋏角類
-
巨大な鋏角をもつヒヨケムシ
鋏角類もハサミを持つ例が多い。鋏角(きょうかく、chelicera)は鋏角類に特有の付属肢で、名に現れるように多くの場合は鋏状になっている。そのほとんどが小さく目てないが、ヒヨケムシと一部のウミサソリのように、鋏角が目立つなものもある。ウミグモの場合、鋏角に当たる付属肢は鋏肢(chelifore)と言う[7]。
鋏角以外の付属肢がハサミをもつ鋏角類もある、例えばカブトガニの場合は、ほぼ全ての脚の先端がハサミになっている。サソリやカニムシなどの場合、触肢が立派なハサミに発達している[7]。
鋏角は鋏角類の口器であり、多くの場合は餌を固定し、それを下側の口へ運ぶ機能をもつ。ヒヨケムシのような強大な鋏角は、獲物を捕獲することにも用いられる。サソリとカニムシは鋏状の触肢で獲物を捕獲し、それを口元の鋏角へ導いて捕食を行う。中でもカニムシの鋏は、掴んだ獲物に毒を注入する機能も備わっている[8][9]。カブトガニのハサミをもつ歩脚は歩行と餌を掴むのに用いられ、鋏角で餌を口へ運ぶ[10]。
他の節足動物
多足類(ムカデ、ヤスデなど)と六脚類(昆虫など)の場合、付属肢そのものがハサミになる例が非常に少ない。タマヤスデのオスの終端の脚は、頑丈なハサミに特殊化している。これは「telopod」と言い、繁殖行動でメスを掴むのに用いられている[11]。鋏状の付属肢をもつ昆虫は、カマバチとCarcinocorini族のヒゲブトサシガメのみによって知られる[12]。いずれも前脚で、カマバチは跗節の第5節と爪でハサミをなし[13]、Carcinocorini族のヒゲブトサシガメは腿節と脛節がそれぞれハサミの不動指と可動指になる。
ハサミに似た構造
前述の特徴に当たらないものの、ハサミに似た構造をもつ節足動物もある。
亜鋏状の構造
一部の節足動物の付属肢は、先端の節と向かい合う突起を欠き、もしくはその基部からやや離れたところにあるものもある。この場合、先端の節は基部の節の突起ではなく、基部の節の片側で先端の節の内側とかみ合い、全体が鎌に似た姿となる。外見的には歩脚状と鋏状の中間形態に当たるようで、この状態を亜鋏状(亜ハサミ状[2]、subchelate[14])と言う。甲殻類の中では、ワレカラやヨコエビなどの端脚類、口脚目(シャコ類)などにそのようなものが見られる。
昆虫類は非常に種数が多く、その付属肢の構造にも多様なものが見られるが、不思議に単独でハサミとなった付属肢を持つものはほとんど無く、前述の僅かな例しか見当たらない。鎌型の亜鋏状の前脚を持つものが散見される程度で、カマキリ、カマキリモドキ、カマバエ(カマキリバエ)、水生カメムシ類、Carcinocorini族以外のヒゲブトサシガメなどの例があり、いずれも獲物を捕らえ保持するための器官として発達している。哺乳類に寄生するシラミは、宿主の毛を掴めるように、全ての脚の先端が亜鋏状になっている。一部のコバチは、頑丈で鎌のような後脚をもつ。また、前述のカマバチの中でも、一部の群では跗節の第5節の突起が発達せず、亜鋏状に近い構造となる[13]。
前述の鋏角類の中でも、鋏角は鋏型でないものもある。例えば四肺類(クモ、ウデムシ、サソリモドキ、ヤイトムシ)の鋏角は亜鋏状で、折りたたみナイフのような構造をもつ[7]。
多数の節と突起からなる構造
先端の節に繋いだ基部2個以上の節がかみ合わせられる突起を生じ、併せて三本以上の突起があり、多重の鋏状構造のようになる例もある。この様な形態は、ヨホイア、パラペユトイア、レアンコイリアなどのMegacheira類という化石節足動物の大付属肢に見られる[15]。
基盤的な節足動物と考えられる古生物アノマロカリス類は、頭部の前方に1対の前部付属肢がある。これは摂食に用いられた関節肢と考えられ、往々にして10節前後に分かれる。その中でアンプレクトベルア科に属する種類は、基部の節の腹側から大きな突起を伸ばし、残り全ての節の湾曲方向とかみ合わせ、全体がハサミの様になっている[16]。
付属肢単体に由来でない構造
単独の付属肢からなるものではないが、ハサミのように働く構造もある。クワガタムシなどの大顎や、ハサミムシとコムシにおけるハサミコムシの尾肢のように、左右1対の付属肢がそれぞれハサミの片割れとなり、併せてハサミのように機能するものがある。また、付属肢由来の構造ではないが、一部のカブトムシ類の頭部と前胸背甲は、ハサミのように上下でかみ合わせた頭角と胸角を持つ[17]。
脚注
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