「こうま座」の版間の差分
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|genitive = Equulei |
|genitive = Equulei |
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|pronounce = {{IPA-en|ɨˈkwuːliəs|}} ''Equúleus,'' 属格:{{IPA|/ɨˈkwuːliaɪ/}} |
|pronounce = {{IPA-en|ɨˈkwuːliəs|}} ''Equúleus,'' 属格:{{IPA|/ɨˈkwuːliaɪ/}} |
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|symbology = |
|symbology = [[馬]]{{R|IAU_constellations}} |
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|RA = {{RA|20|56|10.9212}} - {{RA|21|26|20.0331}}{{R|boundary}} |
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|quadrant = NQ4 |
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|arearank = 87 |
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|brighteststarname = [[こうま座アルファ星|α Equ]] |
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|starmagnitude = 3.92 |
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|meteorshowers = こうま座β流星群{{R|NAOJ_meteor}} |
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|bordering = [[みずがめ座]]<br />[[いるか座]]<br />[[ペガスス座]] |
|bordering = [[みずがめ座]]<br />[[いるか座]]<br />[[ペガスス座]] |
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|notes = |
|notes = |
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}} |
}} |
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'''こうま座''' |
{{読み仮名|'''こうま座'''|こうまざ|{{Lang-la|Equuleus}}}}は、[[星座#国際天文学連合による88星座|現代の88星座]]の1つで、[[トレミーの48星座|プトレマイオスの48星座]]の1つ{{R|Ridpath}}。馬をモチーフとしている{{R|IAU_constellations|Ridpath}}。[[ペガスス座]]・[[いるか座]]・[[みずがめ座]]に囲まれた、[[天の赤道]]近くに位置する。全天88の[[星座]]の中で[[みなみじゅうじ座]]の次に面積が小さく{{R|NAOJ_constellationsarea}}、また暗い星が多いため目立たない星座である。 |
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== 主な天体 == |
== 主な天体 == |
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この星座の星は、3つの4等星がある以外は全て5等以下の暗い星である。[[銀河平面]]から離れた位置にあり、領域も狭いため、星団や星雲など[[天の川銀河]]内の天体で目立つものもない。 |
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=== 恒星 === |
=== 恒星 === |
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{{See also|こうま座の恒星の一覧}} |
{{See also|こうま座の恒星の一覧}} |
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[[2023年]]11月現在、[[国際天文学連合]] (IAU) によって1個の恒星に固有名が認証されている{{R|iaucsn}}。 |
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* [[こうま座アルファ星|α星]]:キタルファは、こうま座で最も明るい恒星。 |
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* [[こうま座アルファ星|α星]]:[[太陽系]]から約190 [[光年]]の距離にある、[[見かけの等級|見かけの明るさ]]3.933 等、[[スペクトル分類|スペクトル型]] G6IV+B9.5V の[[分光連星]]で、4等星{{R|simbad_alpha}}。こうま座で最も明るく見える。[[2020年]]の研究では、{{Val|2.20|0.16|ul=Solar mass}}(太陽質量)の主星Aと{{Val|1.883|0.083|u=Solar mass}}の伴星Bが、約98.8 日の周期で互いの共通重心を周回しているとされる{{R|Halbwachs2020}}。A星には、[[アラビア語]]で「馬の部分」を意味する言葉に由来する{{R|Kunitzsch2006}}「'''キタルファ'''{{R|StellaNavigator11}}(Kitalpha{{R|iaucsn}})」という固有名が認証されている。 |
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* γ星:[[りょうけん座アルファ2型変光星|りょうけん座α<sup>2</sup>型変光星]](回転変光星)。 |
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このほか、以下の恒星が知られている。 |
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* β星:太陽系から約321 光年の距離にある、見かけの明るさ5.148 等、スペクトル型 A3V の5等星{{R|simbad_beta}}。分光連星だが詳細は不明{{R|WDS_beta}}。 |
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* [[こうま座ガンマ星|γ星]]:太陽系から約115 光年の距離にある、見かけの明るさ4.68 等、スペクトル型 A9VpSrCrEu の[[化学特異星]]で、5等星{{R|simbad_gamma}}。分光スペクトル中に[[ストロンチウム]]・[[クロム]]・[[ユウロピウム]]の吸収線が顕著な[[特異星#分類|A型特異星]]に分類されている。[[変光星]]としては回転変光星の分類の1つ「[[りょうけん座アルファ2型変光星|りょうけん座α{{sup|2}}型変光星]]」の ACVO型に分類されており、0.00868日という短い周期で4.58 等から4.77 等の範囲で明るさを変えている{{R|GCVS_gamma}}。 |
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* [[こうま座デルタ星|δ星]]:太陽系から約61 光年の距離にある、見かけの明るさ4.49 等、スペクトル型 F7(V)+G0(V) の分光連星で、4等星{{R|simbad_delta}}。5.19 等のA星と5.52 等のB星が約5.7 年の周期で互いの共通重心を周回しているとされる{{R|Malkov2012}}。 |
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* R星:スペクトル型 M3e-M4e の[[ミラ型変光星]]{{R|GCVS_R}}。260.76日の周期で、8.7 等から15.0 等の範囲で明るさを変える{{R|GCVS_R}}。 |
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[[File:Equuleus 20191202.jpg|thumb|center|360px|こうま座の星々。色とコントラストを強調した補正が掛けられている。α・γ・δ の3星が作る鋭角三角形を確認できる。]] |
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== 流星群 == |
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こうま座の名前を冠した[[流星群]]で、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされているものはこうま座β流星群 (beta Equuleids, BEQ) のみである{{R|NAOJ_meteor}}。この流星群は、毎年7月9日頃に極大を迎える{{R|NAOJ_meteor}}。 |
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== 由来と歴史 == |
== 由来と歴史 == |
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[[File:Equuleus Uranometria.jpg|thumb|360px|ヨハン・バイエル『ウラノメトリア』(1603) に描かれた Equuleus(こうま座)。]] |
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こうま座は、[[トレミーの48星座]]には最初から入っていたが、誰が設定したのかわかっていない。紀元前3世紀に星座の神話をまとめた[[アラトス|アラートス]]の『ファイノメナ』に見えないことから、[[クラウディオス・プトレマイオス|プトレマイオス]]自身か彼に先立つ[[ヒッパルコス]]ではないかと考えられている{{R|Ian}}。[[ゲミノス]]は、ヒッパルコスが設定したものとしているが、ヒッパルコスの著書で唯一現存している「エウドクソスならびにアラートスによるファイノメナの注解」には言及がない |
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こうま座は、[[2世紀]]頃の[[クラウディオス・プトレマイオス]]の天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース ({{Lang-grc-short|ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας}})』、いわゆる『[[アルマゲスト]]』に星座として上げられた、[[トレミーの48星座|プトレマイオスの48星座]]の1つであるが、プトレマイオス以前の記録に乏しく、その由来や成立史は不確かな点が多い{{R|Ridpath}}。[[紀元前3世紀]]前半の詩人[[アラトス|アラートス]]の詩編『パイノメナ ({{Lang-grc-short|Φαινόμενα}})』や、紀元前3世紀後半の天文学者[[エラトステネス|エラトステネース]]の天文書『[[カタステリスモイ]] ({{Lang-grc-short|Καταστερισμοί}})』、[[帝政ローマ|帝政ローマ期]]1世紀初頭の[[ゲルマニクス]]による『パイノメナ』のラテン語訳、著作家[[ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌス]]の『天文詩 ({{Lang-la-short|De Astronomica}})』といった古代ギリシア・ローマ期の星座と伝承を伝える主な文献の中には、こうま座は全く登場しない{{R|Smyth1844|Allen2013}}。[[キケロ]]{{R|Smyth1844}}や[[マルクス・マニリウス]]、[[ウィトルウィウス]]らも同様であった{{R|Allen2013}}。そのため、[[16世紀]]末から[[17世紀]]初頭のイギリスの数学・物理学者の{{仮リンク|トーマス・フッド (数学者)|en|Thomas Hood (mathematician)|label=トーマス・フッド}}は、「この星座については、プトレマイオスとその追随者の『[[アルフォンソ天文表|アルフォンソ表]]』を除けば、ほとんど誰も何も書いていないので、どのように天にもたらされたのか確かな物語や歴史は伝えられていない。」とまで述べている{{R|Smyth1844|Allen2013}}。 |
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<ref name="Allen">Allen, R. H., ''Star Names: Their Lore and Meaning'', (rep.) New York, Dover Publications, 1963, p.213.</ref>。 |
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プトレマイオス以前にこの星座が存在したことは、[[紀元前1世紀]]に活躍した[[ゲミノス|ロードス島のゲミーノス]]の現存する唯一の著書『パイノメナ序説 ({{Lang-grc-short|Εἰσαγωγὴ εἰς τὰ Φαινόμενα}})』に伝えられており{{R|Ridpath}}、ゲミーノスはこの著書の中で「この星座は[[ヒッパルコス]]が[[いるか座]]の星を切り取って作った」としている{{R|Ridpath|Allen2013}}。しかし、ヒッパルコスの唯一現存する著書『Τῶν Ἀράτου καὶ Εὐδόξου φαινομένων ἐξήγησις(エウドクソスならびにアラートスによるファイノメナの注解)』にはこうま座について言及されておらず{{R|Allen2013}}、ゲミノスの言説を確認することは困難である{{R|Ridpath}}。イギリスの科学史研究者[[イアン・リドパス]]は、プトレマイオスの創作ではなくヒッパルコスによって作られたと考えるのがもっともらしいとしている{{R|Ridpath}}。 |
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『アルマゲスト』では、[[ギリシャ語]]で「馬の前半身」を意味する '''Ἵππου Προτομή''' という星座名が付けられていた{{R|Ridpath}}。プトレマイオスはこの星座の星の数を4つとしている{{R|Ridpath|Smyth1844}}。大きく時を下った[[17世紀]]初頭の[[1603年]]に[[ドイツ]]の[[法律家]][[ヨハン・バイエル]]が編纂した星図『[[ウラノメトリア]]』では、「小さい方の馬」を意味する '''EQVVS MINOR'''という星座名が付けられ、α・β・γ・δの4つの星があるとされた{{R|Bayer1603a|Bayer1603b}}。バイエルは、「先行する馬」を意味する Equus prior や現在と同じ Equuleus という星座名も付記している{{R|Bayer1603a}}。 |
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[[1922年]]5月に[[ローマ]]で開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は '''Equuleus'''、略称は '''Equ''' と正式に定められた{{R|IAU_list}}。 |
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=== 中東 === |
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[[紀元前500年]]頃に製作された天文に関する粘土板文書『{{仮リンク|ムル・アピン|en|MUL.APIN}} (MUL.APIN)』では、こうま座αはペガスス座の [[ペガスス座ゼータ星|ζ]]・[[ペガスス座シータ星|θ]]・[[ペガスス座イプシロン星|ε]] の3星とともに、[[ツバメ]]の星座とされた{{R|Kondo2021}}。 |
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=== 中国 === |
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ドイツ人宣教師{{仮リンク|イグナーツ・ケーグラー|en|Ignaz Kögler}}(戴進賢)らが編纂し、[[清|清朝]][[乾隆帝]]治世の[[1752年]]に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、こうま座の星は、[[二十八宿]]の[[玄武|北方玄武]]七宿の第四宿「[[虚宿]]」に配されていたとされる{{Sfn|伊世同|1981|p=147}}{{R|Osaki1987_1}}。虚宿では、α が[[みずがめ座ベータ星|みずがめ座β]]とともに墳墓に侍衛する役人を表す[[星官]]「虚」に、β・9 の2星が安危禍福を司る天界の役人を表す星官「司危」に、γ・δ の2星が是非正邪を明らかにすることを司る天界の役人を表す星官「司非」に、それぞれ配されていた{{Sfn|伊世同|1981|p=147}}{{R|Osaki1987_1}}。 |
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== 神話 == |
== 神話 == |
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トーマス・フッドが述べたように、'''この星座に直接結び付いた伝承は伝わっていない'''{{R|Ridpath|Allen2013}}。[[19世紀]]末[[アメリカ]]のアマチュア博物家の[[リチャード・ヒンクリー・アレン]]は著書『Star-Names and Their Meanings』の中で俗説として、天馬[[ペーガソス]]の弟で[[メルクリウス]]が[[カストール]]に与えたケレリス{{R|Hara}}({{Lang-la-short|Celeris}}) 、[[ユーノー]]が[[ポリュデウケース|ポルックス]]に与えたキュラルス ({{Lang-la-short|Cyllarus}}) 、[[ネプトゥヌス]]が[[ミネルウァ]]と力比べをしたときに[[三叉槍]]で大地から叩き出された馬や、[[サトゥルヌス]]と[[ケイローン]]の母[[ピリュラー]]の物語と関連付ける者もいたことを紹介している{{R|Allen2013}}。 |
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リドパスは、プトレマイオスは[[ケンタウロス]]のケイローンの娘[[ヒッペー]]を想定していたのではないかとしている{{R|Ridpath}}。ヒッペーにまつわる物語はエラトステネースの『カタステリスモイ』やヒュギーヌスの『天文詩』にも伝えられているが、あくまで[[ペガスス座]]と結び付いた伝承とされている{{R|Condos1997|Hard2015}}。 |
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== 呼称と方言 == |
== 呼称と方言 == |
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世界で共通して使用されるラテン語の学名は '''Equuleus'''、日本語の学術用語としては「'''こうま'''」とそれぞれ正式に定められている{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|pp=305-306}}。 |
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日本では、昭和30年頃まで'''駒(こま)座'''と呼ばれていた{{R|rika}}。 |
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[[1879年]](明治12年)に[[ノーマン・ロッキャー]]の著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』では「'''リットルホールス'''」と紹介された{{R|Rakushi}}。それから30年ほど時代を下った明治後期には「'''駒'''」と呼ばれていたことが、[[1910年]](明治43年)2月刊行の[[日本天文学会]]の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事で確認できる{{R|AH191002}}。この訳名は、[[東京天文台]]の編集により[[1925年]](大正14年)に初版が刊行された『[[理科年表]]』にも「'''駒(こま)'''」として引き継がれ{{R|Rika_1925}}、[[1944年]](昭和19年)に天文学用語が見直しされた際も「'''駒(こま)'''」が継続して使用されることとされた{{R|1944jutsugo}}。 |
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これに対して、[[東亜天文学会|天文同好会]]{{efn2|現在の[[東亜天文学会]]。}}の[[山本一清]]らは異なる訳語を充てていた。天文同好会の編集により[[1928年]](昭和3年)4月に刊行された『[[天文年鑑]]』第1号では、星座名 Equuleus に対して「'''駒(こま)'''」を充てた{{R|nenkan1928}}が、翌[[1929年]](昭和4年)刊行の第2号ではこれを「'''小馬(こうま)'''」と改め{{R|nenkan1929}}、以降の号でもこの表記を継続して用いた{{R|nenkan1937}}。これについて山本は東亜天文学会の会誌『[[天界 (雑誌)|天界]]』[[1934年]]8月号の「天文用語に關する私見と主張 (3)」という記事の中で以下のような見解を開陳していた{{R|Yamamoto1934}}。{{Quotation|'''Equuleus''' は小さい馬である.之れを「駒」と譯する人があるのは,「こま」卽ち小馬であるのだから,一應は首肯するに足る.しかし,よく考へて見ると,この「駒」といふ譯名を幾百年も昔し,我等の祖先から受け繼いだのならば,もはや何も言ふ資格も權利も無い.けれど,實は左様でなく,現代の日本人が「小さい馬」といふ意味の語を日本語の中に求めやうといふのである.今日の吾々の vocabulary 中の「駒」は,決して「小さい馬」だけを意味するのでなく,いろゝゝ永い國語史上の慣はしによつて,「駒」は敢へて小さからざる普通の寸法の堂々たる馬をも立派に意味する文學用語であるし,尚ほ又,一般社會に於いて,特に何の註釋も加へずに只「駒」と言へは,將棋の駒だとすぐに解釋する人の方が遙かに多い現代である.して見ると,Equuleus は寧ろ率直に「小馬」(こうま)と譯して置くのが無難であり,自然である|山本一清|「天文用語に關する私見と主張 (3)」『[[天界 (雑誌)|天界]]』1934年8月号{{R|Yamamoto1934}}}} |
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戦後も継続して「駒(こま)」が使われていた{{R|Rika_1949}}が、[[1952年]](昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|p=316}}とした際に、Equuleus の日本語名は「'''こうま'''」と改められた{{R|AH195210}}。これ以降は「'''こうま'''」という表記が継続して用いられている{{Sfn|学術用語集:天文学編(増訂版)|1994|pp=305-306}}。 |
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現代の中国でも、'''小马座'''{{Sfn|伊世同|1981|p=131}}(小馬座{{R|Osaki1987_2}})とされている。 |
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== こうま座に由来する事物 == |
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{{Main|星座を扱った事物}}<!--各種作品についてはこちらにお願いします--> |
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* [[EQUULEUS]]:[[2022年]]11月16日に[[スペース・ローンチ・システム]]の[[アルテミス1号]]で打ち上げられた超小型探査機。'''EQU'''ilibri'''U'''m '''L'''unar-'''E'''arth point 6'''U''' '''S'''pacecraft の[[アクロニム]]とこうま座に由来している{{R|Cosmos20220819}}。 |
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== 脚注 == |
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{{脚注ヘルプ}} |
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=== 注釈 === |
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{{Notelist2}} |
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=== 出典 === |
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{{Reflist|25em|refs= |
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<ref name="Ridpath">{{Cite web |
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| last=Ridpath | first=Ian | authorlink=イアン・リドパス |
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| title=Equuleus |
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| website=Star Tales |
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| url=http://www.ianridpath.com/startales/equuleus.html |
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| access-date=2023-12-02}}</ref> |
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<ref name="IAU_constellations">{{Cite web |
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| title=The Constellations |
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| publisher=[[国際天文学連合]] |
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| url=https://www.iau.org/public/constellations/#equ |
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| access-date=2023-12-02}}</ref> |
|||
<ref name="boundary">{{Cite web |
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| title=Constellation boundary |
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| publisher=[[国際天文学連合]] |
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| url=https://www.iau.org/static/public/constellations/txt/equ.txt |
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| access-date=2023-12-02}}</ref> |
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<ref name="Nenkan2016">{{Cite book | 和書 |
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| author=山田陽志郎 |
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| title=天文年鑑2016年版 |
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| chapter=星座 | date=2015-11-26 | isbn=978-4-416-11545-9 | pages=290-293}}</ref> |
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<ref name="NAOJ_meteor">{{Cite web | 和書 |
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| title=流星群の和名一覧(極大の日付順) |
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| website=[[国立天文台]] | date=2022-12-31 |
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| url=https://www.nao.ac.jp/new-info/meteor/table-ls.html |
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| access-date=2023-12-02}}</ref> |
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<ref name="iaucsn">{{Cite web |
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| url=https://www.pas.rochester.edu/~emamajek/WGSN/IAU-CSN.txt |
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| title=IAU Catalog of Star Names |
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| publisher=[[国際天文学連合]] | access-date=2023-11-30}}</ref> |
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<ref name="StellaNavigator11">{{citation | 和書 |
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| publisher=AstroArts |
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| title=ステラナビゲータ11 |
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| edition=11.0i}}</ref> |
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<ref name="simbad_alpha">{{Cite simbad |
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| title=alp Equ |
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| access-date=2023-12-02}}</ref> |
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<ref name="Halbwachs2020">{{Cite journal | display-authors=1 |
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| last=Halbwachs | first=J-L | last2=Kiefer | first2=F | last3=Lebreton | first3=Y | last4=Boffin | first4=H M J | last5=Arenou | first5=F | last6=Le Bouquin | first6=J-B | last7=Famaey | first7=B | last8=Pourbaix | first8=D | last9=Guillout | first9=P | last10=Salomon | first10=J-B | last11=Mazeh | first11=T |
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| title=Masses of the components of SB2 binaries observed with Gaia – V. Accurate SB2 orbits for 10 binaries and masses of the components of 5 binaries |
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| journal=[[王立天文学会月報|Monthly Notices of the Royal Astronomical Society]] | publisher=Oxford University Press (OUP) |
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| volume=496 | issue=2 | date=2020-06-12 | issn=0035-8711 |
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| doi=10.1093/mnras/staa1571 | pages=1355–1368 | bibcode=2020MNRAS.496.1355H}}</ref> |
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<ref name="Kunitzsch2006">{{Cite book |
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| last=Kunitzsch | first=Paul | last2=Smart | first2=Tim | author-link=パウル・クーニチュ |
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| title=A Dictionary of Modern Star Names - A Short Guide to 254 Star Names and Their Derivations. |
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| publisher=Sky Publishing | location=Cambridge | date=2006 | isbn=978-1-931559-44-7 | page=35}}</ref> |
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<ref name="simbad_beta">{{Cite simbad |
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| title=bet Equ |
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| access-date=2023-12-02}}</ref> |
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<ref name="WDS_beta">{{Citation |
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| last=Mason | first=Brian D. | last2=Wycoff | first2=Gary L. | last3=Hartkopf | first3=William I. | last4=Douglass | first4=Geoffrey G. | last5=Worley | first5=Charles E. |
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| title=VizieR Online Data Catalog: The Washington Double Star Catalog |
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| url=https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR-S?WDS%20J21229%2b0649A |
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| date=2023-06 |
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| bibcode=2023yCat....102026M}}</ref> |
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<ref name="simbad_gamma">{{Cite simbad |
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| title=gam Equ |
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<ref name="GCVS_gamma">{{Cite journal | display-authors=1 |
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| title=General catalogue of variable stars: Version GCVS 5.1 |
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| journal=Astronomy Reports | volume=61 | issue=1 | year=2017 | pages=80-88 | issn=1063-7729 |
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| doi=10.1134/S1063772917010085 | bibcode= 2017ARep...61...80S}}</ref> |
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<ref name="simbad_delta">{{Cite simbad |
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| title=del Equ |
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| access-date=2023-12-02}}</ref> |
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<ref name="Malkov2012">{{Cite journal | display-authors=1 |
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| last=Malkov | first=O. Yu. | last2=Tamazian | first2=V. S. | last3=Docobo | first3=J. A. | last4=Chulkov | first4=D. A. |
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| title=Dynamical masses of a selected sample of orbital binaries |
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| journal=[[アストロノミー・アンド・アストロフィジックス|Astronomy & Astrophysics]] | publisher=EDP Sciences |
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| volume=546 | year=2012 | issn=0004-6361 | doi=10.1051/0004-6361/201219774 | page=A69 | bibcode=2012A&A...546A..69M}}</ref> |
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<ref name="GCVS_R">{{Cite journal | display-authors=1 |
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| last1=Samus’| first1=N. N. | last2=Kazarovets | first2=E. V. | last3=Durlevich | first3=O. V. | last4=Kireeva | first4=N. N. | last5=Pastukhova | first5=E. N. |
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| title=General catalogue of variable stars: Version GCVS 5.1 |
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== 出典 == |
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|title = Star Tales - Equuleus |
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== 参考文献 == |
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2023年12月7日 (木) 11:12時点における版
Equuleus | |
---|---|
属格形 | Equulei |
略符 | Equ |
発音 | [ɨˈkwuːliəs] Equúleus, 属格:/ɨˈkwuːliaɪ/ |
象徴 | 馬[1] |
概略位置:赤経 | 20h 56m 10.9212s - 21h 26m 20.0331s[2] |
概略位置:赤緯 | +13.0390635° - +2.4773185°[2] |
20時正中 | 10月上旬[3] |
広さ | 71.641平方度[4] (87位) |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 10 |
3.0等より明るい恒星数 | 0 |
最輝星 | α Equ(3.92等) |
メシエ天体数 | 0 |
確定流星群 | こうま座β流星群[5] |
隣接する星座 |
みずがめ座 いるか座 ペガスス座 |
主な天体
この星座の星は、3つの4等星がある以外は全て5等以下の暗い星である。銀河平面から離れた位置にあり、領域も狭いため、星団や星雲など天の川銀河内の天体で目立つものもない。
恒星
2023年11月現在、国際天文学連合 (IAU) によって1個の恒星に固有名が認証されている[7]。
- α星:太陽系から約190 光年の距離にある、見かけの明るさ3.933 等、スペクトル型 G6IV+B9.5V の分光連星で、4等星[8]。こうま座で最も明るく見える。2020年の研究では、2.20±0.16 M☉(太陽質量)の主星Aと1.883±0.083 M☉の伴星Bが、約98.8 日の周期で互いの共通重心を周回しているとされる[9]。A星には、アラビア語で「馬の部分」を意味する言葉に由来する[10]「キタルファ[11](Kitalpha[7])」という固有名が認証されている。
このほか、以下の恒星が知られている。
- β星:太陽系から約321 光年の距離にある、見かけの明るさ5.148 等、スペクトル型 A3V の5等星[12]。分光連星だが詳細は不明[13]。
- γ星:太陽系から約115 光年の距離にある、見かけの明るさ4.68 等、スペクトル型 A9VpSrCrEu の化学特異星で、5等星[14]。分光スペクトル中にストロンチウム・クロム・ユウロピウムの吸収線が顕著なA型特異星に分類されている。変光星としては回転変光星の分類の1つ「りょうけん座α2型変光星」の ACVO型に分類されており、0.00868日という短い周期で4.58 等から4.77 等の範囲で明るさを変えている[15]。
- δ星:太陽系から約61 光年の距離にある、見かけの明るさ4.49 等、スペクトル型 F7(V)+G0(V) の分光連星で、4等星[16]。5.19 等のA星と5.52 等のB星が約5.7 年の周期で互いの共通重心を周回しているとされる[17]。
- R星:スペクトル型 M3e-M4e のミラ型変光星[18]。260.76日の周期で、8.7 等から15.0 等の範囲で明るさを変える[18]。
流星群
こうま座の名前を冠した流星群で、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされているものはこうま座β流星群 (beta Equuleids, BEQ) のみである[5]。この流星群は、毎年7月9日頃に極大を迎える[5]。
由来と歴史
こうま座は、2世紀頃のクラウディオス・プトレマイオスの天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース (古希: ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας)』、いわゆる『アルマゲスト』に星座として上げられた、プトレマイオスの48星座の1つであるが、プトレマイオス以前の記録に乏しく、その由来や成立史は不確かな点が多い[6]。紀元前3世紀前半の詩人アラートスの詩編『パイノメナ (古希: Φαινόμενα)』や、紀元前3世紀後半の天文学者エラトステネースの天文書『カタステリスモイ (古希: Καταστερισμοί)』、帝政ローマ期1世紀初頭のゲルマニクスによる『パイノメナ』のラテン語訳、著作家ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『天文詩 (羅: De Astronomica)』といった古代ギリシア・ローマ期の星座と伝承を伝える主な文献の中には、こうま座は全く登場しない[19][20]。キケロ[19]やマルクス・マニリウス、ウィトルウィウスらも同様であった[20]。そのため、16世紀末から17世紀初頭のイギリスの数学・物理学者のトーマス・フッドは、「この星座については、プトレマイオスとその追随者の『アルフォンソ表』を除けば、ほとんど誰も何も書いていないので、どのように天にもたらされたのか確かな物語や歴史は伝えられていない。」とまで述べている[19][20]。
プトレマイオス以前にこの星座が存在したことは、紀元前1世紀に活躍したロードス島のゲミーノスの現存する唯一の著書『パイノメナ序説 (古希: Εἰσαγωγὴ εἰς τὰ Φαινόμενα)』に伝えられており[6]、ゲミーノスはこの著書の中で「この星座はヒッパルコスがいるか座の星を切り取って作った」としている[6][20]。しかし、ヒッパルコスの唯一現存する著書『Τῶν Ἀράτου καὶ Εὐδόξου φαινομένων ἐξήγησις(エウドクソスならびにアラートスによるファイノメナの注解)』にはこうま座について言及されておらず[20]、ゲミノスの言説を確認することは困難である[6]。イギリスの科学史研究者イアン・リドパスは、プトレマイオスの創作ではなくヒッパルコスによって作られたと考えるのがもっともらしいとしている[6]。
『アルマゲスト』では、ギリシャ語で「馬の前半身」を意味する Ἵππου Προτομή という星座名が付けられていた[6]。プトレマイオスはこの星座の星の数を4つとしている[6][19]。大きく時を下った17世紀初頭の1603年にドイツの法律家ヨハン・バイエルが編纂した星図『ウラノメトリア』では、「小さい方の馬」を意味する EQVVS MINORという星座名が付けられ、α・β・γ・δの4つの星があるとされた[21][22]。バイエルは、「先行する馬」を意味する Equus prior や現在と同じ Equuleus という星座名も付記している[21]。
1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Equuleus、略称は Equ と正式に定められた[23]。
中東
紀元前500年頃に製作された天文に関する粘土板文書『ムル・アピン (MUL.APIN)』では、こうま座αはペガスス座の ζ・θ・ε の3星とともに、ツバメの星座とされた[24]。
中国
ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー(戴進賢)らが編纂し、清朝乾隆帝治世の1752年に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、こうま座の星は、二十八宿の北方玄武七宿の第四宿「虚宿」に配されていたとされる[25][26]。虚宿では、α がみずがめ座βとともに墳墓に侍衛する役人を表す星官「虚」に、β・9 の2星が安危禍福を司る天界の役人を表す星官「司危」に、γ・δ の2星が是非正邪を明らかにすることを司る天界の役人を表す星官「司非」に、それぞれ配されていた[25][26]。
神話
トーマス・フッドが述べたように、この星座に直接結び付いた伝承は伝わっていない[6][20]。19世紀末アメリカのアマチュア博物家のリチャード・ヒンクリー・アレンは著書『Star-Names and Their Meanings』の中で俗説として、天馬ペーガソスの弟でメルクリウスがカストールに与えたケレリス[27](羅: Celeris) 、ユーノーがポルックスに与えたキュラルス (羅: Cyllarus) 、ネプトゥヌスがミネルウァと力比べをしたときに三叉槍で大地から叩き出された馬や、サトゥルヌスとケイローンの母ピリュラーの物語と関連付ける者もいたことを紹介している[20]。
リドパスは、プトレマイオスはケンタウロスのケイローンの娘ヒッペーを想定していたのではないかとしている[6]。ヒッペーにまつわる物語はエラトステネースの『カタステリスモイ』やヒュギーヌスの『天文詩』にも伝えられているが、あくまでペガスス座と結び付いた伝承とされている[28][29]。
呼称と方言
世界で共通して使用されるラテン語の学名は Equuleus、日本語の学術用語としては「こうま」とそれぞれ正式に定められている[30]。
1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』では「リットルホールス」と紹介された[31]。それから30年ほど時代を下った明治後期には「駒」と呼ばれていたことが、1910年(明治43年)2月刊行の日本天文学会の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事で確認できる[32]。この訳名は、東京天文台の編集により1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「駒(こま)」として引き継がれ[33]、1944年(昭和19年)に天文学用語が見直しされた際も「駒(こま)」が継続して使用されることとされた[34]。
これに対して、天文同好会[注 1]の山本一清らは異なる訳語を充てていた。天文同好会の編集により1928年(昭和3年)4月に刊行された『天文年鑑』第1号では、星座名 Equuleus に対して「駒(こま)」を充てた[35]が、翌1929年(昭和4年)刊行の第2号ではこれを「小馬(こうま)」と改め[36]、以降の号でもこの表記を継続して用いた[37]。これについて山本は東亜天文学会の会誌『天界』1934年8月号の「天文用語に關する私見と主張 (3)」という記事の中で以下のような見解を開陳していた[38]。
Equuleus は小さい馬である.之れを「駒」と譯する人があるのは,「こま」卽ち小馬であるのだから,一應は首肯するに足る.しかし,よく考へて見ると,この「駒」といふ譯名を幾百年も昔し,我等の祖先から受け繼いだのならば,もはや何も言ふ資格も權利も無い.けれど,實は左様でなく,現代の日本人が「小さい馬」といふ意味の語を日本語の中に求めやうといふのである.今日の吾々の vocabulary 中の「駒」は,決して「小さい馬」だけを意味するのでなく,いろゝゝ永い國語史上の慣はしによつて,「駒」は敢へて小さからざる普通の寸法の堂々たる馬をも立派に意味する文學用語であるし,尚ほ又,一般社會に於いて,特に何の註釋も加へずに只「駒」と言へは,將棋の駒だとすぐに解釋する人の方が遙かに多い現代である.して見ると,Equuleus は寧ろ率直に「小馬」(こうま)と譯して置くのが無難であり,自然である — 山本一清、「天文用語に關する私見と主張 (3)」『天界』1934年8月号[38]
戦後も継続して「駒(こま)」が使われていた[39]が、1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[40]とした際に、Equuleus の日本語名は「こうま」と改められた[41]。これ以降は「こうま」という表記が継続して用いられている[30]。
現代の中国でも、小马座[42](小馬座[43])とされている。
こうま座に由来する事物
- EQUULEUS:2022年11月16日にスペース・ローンチ・システムのアルテミス1号で打ち上げられた超小型探査機。EQUilibriUm Lunar-Earth point 6U Spacecraft のアクロニムとこうま座に由来している[44]。
脚注
注釈
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参考文献
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