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「性教育」の版間の差分

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== 性教育の効果 ==
== 性教育の効果 ==
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[[2002年]]から、[[秋田県]]では県の教育委員会と[[医師会]]が連携し、中高校生向けに性教育を実施している。その結果、全国平均の1.5倍だった10代の中絶が平均以下となり<ref>{{Cite web|url=https://www.asahi.com/articles/ASL583WNBL58UTIL00Y.html|title=性教育、親「現実見て正しい知識を」 自治体が講座開催|accessdate=2019/2/19|publisher=|author=三島あずさ、山下知子、山田佳奈、塩入彩|date=2018年5月14日|website=朝日新聞}}</ref>、[[2012年]]には10代の中絶率が約三分の一となった。性教育で性行動はより慎重になると知られている<ref>{{Cite web|url=http://www.tokyo-np.co.jp/article/culture/hiroba/CK2018090802000222.html|title=【考える広場】よく生きるための性教育|accessdate=2019/2/16|publisher=|website=東京新聞|date=2018年9月8日}}</ref>。

なお、人工妊娠は毎年低減しているものの、平成30年度件数は 161,741件であり、「20 歳未満」について各歳でみると、「19 歳」が 5,916 件と最も多く、次いで「18 歳」が 3,434件となっている<ref>{{Cite web|url=https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/18/|title=平成30年度衛生行政報告例の概況 母体保護関係|accessdate=2020-05-10|website=厚生労働省|date=2019-10-31}}</ref>。平成29年度の出産数と中絶数の比率で出した中絶選択率は、全体では15%だが20歳未満で59%にも上る。また12歳未満の強制性交等の性犯罪は約1000人が被害者となっている<ref>{{Cite web|url=http://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/06/132_20190612.pdf|title=性教育の新たなスタートに向けて|accessdate=2020-05-10|autheor=安達知子|website=日本産婦人科医会|date=2019-6-12}}</ref>ため、女性の心身を守るうえでも性教育は重要である。


== 北欧の性教育 ==
== 北欧の性教育 ==

2020年5月10日 (日) 01:38時点における版

「世界エイズデー」を記念して建立されたコンドームを模した塔

性教育(せいきょういく、英語:Sex education)は、性器生殖性交人間の他の性行動についての教育全般を意味する言葉。性教育は、学校だけで行われるものではなく、両親教師看護師助産師など子どもの世話をする人々が直接的に行ったり、公衆衛生の宣伝活動の一環として行ったりする。

日本学校では、保健科や家庭科の時間を中心に行われ、体や心の変化(第一次性徴及び第二次性徴妊娠出産、男女の相互理解と男女共同参画社会性別にとらわれない自分らしさを求めること、性感染症の予防や避妊などの内容が扱われている。

なお、2018年1月に改訂されたユネスコの『国際セクシュアリティ教育ガイダンス[1][2]』では、性教育の開始は5歳からで、ヨーロッパの性教育スタンダードでは0歳からとなっている[3][4]

概説

生殖に関する教育は、広義には性交後の女性体内の受胎から胎芽へ、胎芽から胎児へ、そして出産へと移り変わっていく流れを追いながら、新たな命の創造と成長を取り扱う。狭義には性感染症の概念やその予防、避妊法などの内容が、この範疇に含まれる。

学校の教育課程の中に性教育的なものが組み込まれてはいるものの、それを教えることに関して、未だ激しい議論が行われている国もある。性教育はどの段階で開始されるべきなのか、どこまで深く踏み込んで良いのだろうか、セクシャリティや性行動に関する内容(安全な性交の実践、自慰行為、性の倫理感など)も扱うべきなのかなど、様々な論争が巻き起こっている。

1980年代以降、後天性免疫不全症候群(エイズ)の存在が取り上げられるようになり、性教育もその存在を無視することはできなくなった。エイズが流行しているとまで言える状態にまで達してしまったアフリカ各国においては、研究者たちのほとんどが、性教育をきわめて重要な公共衛生計画と捉えている。米国家族計画連盟など、国際的な組織の中には、幅広い性教育を実践していくことは、人口爆発の危機を乗り越える/女性の権利を向上させるといった地球規模的な成果を達成することに繋がる、と考えている人々もいる。

性教育の効果

2002年から、秋田県では県の教育委員会と医師会が連携し、中高校生向けに性教育を実施している。その結果、全国平均の1.5倍だった10代の中絶が平均以下となり[5]2012年には10代の中絶率が約三分の一となった。性教育で性行動はより慎重になると知られている[6]

なお、人工妊娠は毎年低減しているものの、平成30年度件数は 161,741件であり、「20 歳未満」について各歳でみると、「19 歳」が 5,916 件と最も多く、次いで「18 歳」が 3,434件となっている[7]。平成29年度の出産数と中絶数の比率で出した中絶選択率は、全体では15%だが20歳未満で59%にも上る。また12歳未満の強制性交等の性犯罪は約1000人が被害者となっている[8]ため、女性の心身を守るうえでも性教育は重要である。

北欧の性教育

デンマークでは、性教育をカリキュラムの特定の部分に限定せず、必要な際には授業のあらゆる過程で議論される。スウェーデンでも同様であり、かつ性教育は1956年以降必修である。フィンランドでは15歳時に学校でコンドームなどの入った小包を渡される。これらの国はこのような教育の一方で性の早熟化には至っていない。(いずれもTIME[1]

キリスト教と純潔教育

アメリカでは1980年代半ばから、性病エイズ感染症の予防からコンドームの使用指導をしていた。しかし1990年代初めより、キリスト教右派の「絶対禁欲性教育(Abstinence-Only Sex Education)」が導入された。結婚するまで絶対にセックスをしてはならず、妊娠の医学的仕組み、避妊の仕方も教えてはならないというもの。ブッシュ政権は莫大な資金援助をしたが、避妊を教えた場合は助成金を打ち切った。その結果、一部の州で未成年者の性病罹患と妊娠が急増した[9][10][11]。この純潔教育の顛末は、ドキュメンタリー映画『The Education of Shelby Knox』などで知ることができる。ピュアボール(Purity ball)という、父親と10代の娘が「結婚するまで処女を守る」と誓い合うダンスイベントも存在する。

また2004年共同通信によると、18歳以上の成人1009人に行われた電話調査で、アメリカ国民の79%、キリスト教徒では87%が、聖母マリア処女懐胎を信じていることが明らかになった[12]2016年にはカトリック系高校の女子生徒が保健室の先生に「生理が来ない」と相談したところ、「処女懐胎かも」と言われたエピソードも話題となった(国や年代は不明)[13]

アメリカ心理学会の研究では、「包括的性教育(comprehensive sex education)」の有効性が示されているとした[14]。包括的・総合的な性教育の有効性は、査読誌の記事の複数によって明白であるとする一方、「絶対禁欲性教育(Abstinence-Only Sex Education)」は深刻な危険があるとの指摘がなされている[15]

日本の性教育

戦前の性教育

戦前の性教育学者たちの言説には、明治以前の性的卓越性という男らしさの尺度を禁じつつ、男としてのアイデンティティを保持するために「学生時代は禁欲し、立身し然るべき時期に結婚して一家を成す」という、新しい「男性としてあるべき姿」像が含まれていた[16]

純潔教育から性科学への変化

日本の性教育のはじまりは、1945年第二次世界大戦敗戦直後から国が主導してきた「純潔教育」に遡る。風俗対策や治安対策の一環としてスタートした[17]性科学者で京都精華大学ポピュラーカルチャー学部教授の斎藤光によると、1947年GHQの支援を受けて婦人民主クラブが創立され、発起人のひとりである救世軍士官牧師)の山室民子は、「一夫一婦結婚の貫徹」「男女ともに婚前性交の禁止」「男性の買春への批判、女性の人格を認め、女性の性の商品化と決別する」などの主張をした。これは日本キリスト教婦人矯風会等の性 ・ 結婚思想の基軸となってきたもので、戦前から存在する思想である[18]

1972年(昭和42年)日本性教育協会が設立され、純潔教育から性科学を主軸にする性教育へと転換した[17]

1890年(昭和23年)頃から学生間での風紀の乱れと花柳病の蔓延がメディアを通じて社会問題となり、1900年代ごろから学生の性の扱いに打つ手を持たない教育界を医学界がリードする形で、医学者と教育者との議論によって性教育が形成されていった[16]。初期の性教育の使命は、若者の自然で健全な性欲を衛生的かつ倫理的に適った方向に誘導する、というものであり、議論のポイントは「手淫の害」と「花柳病の害」の予防法だった。しかし、科学に基づいた性知識の普及が学生の性的悪行を刺激し手助けする、という批判から、花柳病の具体的な予防法は教授せずに、若年の性交や恋愛は危険であり学生の間は学業に専念し禁欲せよ、という強制禁欲主義の教育がなされるようになった[16]

学習指導要領の改訂

1992年(平成4年)学習指導要領が改訂され、性に関する具体的な指導が盛り込まれたことで「性教育元年」と呼ばれた[17]

学習指導要領の改訂で、思春期の成長は「男子=声変わり」から「精通」と定義され、これにより男女が名目上は平等に性教育を受けられるようになり、教育現場では射精をどこまで掘り下げるかなど試行錯誤をしていた[19]エイズが社会問題化し、HIV教育の重要さがフォーカスされたことで、小学校6年の理科で扱う人体の学習が3年生に前倒しされ、5年生に『人の発生と成長』が位置づけられるなど、性教育に発展の兆しが見られるようになった[17]

そんななか、東京都日野市七生養護学校(現・東京都立七生特別支援学校)では、知的障害の子どもが性被害を受けても気づかなかった等の事態を受け、男性器と女性器の名称を織り込んだ歌や、性器のついている人形を使うなど独自の性教育に取り組み、校長会等でも高く評価された[17]

性教育を巡る論争と学習指導要領の変更

2002年(平成14年)東京都議会議員自民党古賀俊昭自民党の田代博嗣、民主党土屋敬之ら3名の議員が、七生養護学校を始めとした学校を「行きすぎた性教育」と問題にし、産経新聞などのメディアで「過激な性教育」「まるでアダルトショップのよう」と扱われるなど、保護者や寮の職員から学校側に苦情や懸念が相次ぎ、社会的な批判が起きた[20][21]。その後、七生養護学校は授業内容の全面変更・禁止、授業は事前に副校長の許可と当日の監視のもとで実施するよう指導され、校長他116人の教職員は処分された[20][3]

この処分について時の教育長横山洋吉は「都立七生養護学校では、虚偽の学級編制あるいは勤務時間の不正な調整、それから勤務時間内の校内飲酒などの服務規律違反、その他、学習指導要領を踏まえない性教育など、不適切な学校運営の実態が明らかになったことから、教職員とともに、管理監督責任を果たさなかった校長への処分等を行ったものでございます」と都議会で説明している[22]

2005年3月4日の参議院予算委員会では、山谷えり子参議院議員が「ペニスヴァギナなどの用語を使いセックスを説明するのは過激で、とても許せない」と批判し、小泉純一郎元首相も同意した。自民党安倍晋三を座長とした「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が設置され、性教育は余計に性を乱すと批判した[3][23]山谷えり子は「性なんて教える必要はない」「オシベとメシベの夢のある話をしているのがいい」「結婚してから知ればいい」と主張した[23]

元一橋大学非常勤講師の村瀬幸浩は、これにより学習指導要領が変更され、科学的な知識としての「受精」は扱うが「受精に至るプロセス(=セックス・性交)」は扱わないなど、日本は性教育後進国となったと主張した[23]

2008年2月、七生養護学校の教員や保護者、関係者が人権侵害を訴えて提訴した裁判で、東京地方裁判所は教育委員会の裁量権乱用を認め、処分取り消しを命じる判決を言い渡した。また、2009年3月12日、東京地裁(矢尾渉裁判長)は、3議員および東京都教育委員会に対して210万円の損害賠償の支払いを命じた。

2013年最高裁は「教育の自主性を阻害」するなどの「不当な支配」にあたると認定し、古賀俊昭をはじめとした都議側に、原告である教員らに賠償金を支払う判決を下した[24][25]

2013年中京テレビ『ニッポンの性教育 セックスをどこまで教えるか』が放送され、のちに無料公開された[26]

2018年3月、東京都足立区立中学校の授業が不適切だとする東京都議会質問が波紋を広げた。性交避妊中絶は中学の学習指導要領で扱っていないが、3年生を対象にした授業で「産み育てられる状況になるまで性交は避けるべき」と強調し、避妊人工妊娠中絶についても教え、考えさせる内容を行った[27][28]。また授業前のアンケートで「2人が合意すれば、高校生になればセックスをしてもよいと思うか」や、正しいと思う避妊方法などを問う項目が含まれており、「学習指導要領に記載のない性交、避妊、中絶といった言葉を使っていた」「かえって性交を助長する」と問題視され、足立区教育委員会を指導するに至った[27][29]

発端の都議会質問は、七生養護学校を非難・処分し最高裁で敗訴した古賀俊昭であり、「結婚するまで性交渉を控えるという純潔教育や自己抑制教育が必要だ」「そもそも『結婚する・しない』を自己決定するという戦後の価値観が問題だ。『結婚・出産・子育て』は社会貢献だとしっかり教育すれば、安易な性交渉にはおのずと抑制的になる」などと主張した[30]

Yahoo!ニュースのアンケート(2018/5/15〜5/25)では、25,063票中、性教育が必要は90.5%(22,674票)、不必要は9.5%(2,389票)だった[31]

2019年2月26日に行われた東京都議会では、中学校での性教育について、都教育委員会の中井敬三教育長は「児童生徒が正しい知識を身に付け、適切に意思決定や行動選択ができるよう、区市町村教委などと連携して各学校を支援する」と答弁した。小池百合子知事は、犯罪の被害者を支援するための犯罪被害者支援条例を制定する方針を明らかにした[32]

男子の性教育

一橋大学津田塾大学講師の村瀬幸浩は、2014年出版の『男子の性教育』(ISBN 4469267600)に、男子高校生を対象にした「射精イメージ」の調査結果を記載した。約15%の男子が射精を「汚らわしい」と感じ、約20%が「恥ずかしい」という意識を持っている一方、女子高校生の「月経のイメージ」では「汚らわしい」と答えた人は約5%、「恥ずかしい」は約8%であった。この男女差は教育の有無によるものだとしている[33]

女子は妊娠・出産に備え親や学校が月経のメカニズムを教えるが、男子には「別に教える必要はない」という風潮が続いた。思春期になれば性的な欲求や関心が高まり、メディアや友達を通じ、様々な性情報にアクセスするようになるが、科学的に正しい知識ではなく、誤解や偏見によって理解や認識が歪むことも少なくない[33]。高1男子100人に「射精や性器についての相談相手は?」をアンケートした際は、誰にも相談できないが70%、友達が20%、家族・親戚が9%だったとし、誰にも相談できず、悩んでいる子供が多い実態を指摘した[34]

レイプが女性の人格を切り裂く殺人的行為だなんて考えたこともなかった。セックスのバリエーションのひとつと思っていた」などの認識や、望まない妊娠や中絶において彼氏の「他人事感」が問題となる場合、無知ゆえにリアルな想像や共感ができなかったことも原因だとし[35]、性教育は大人が子どもに対して果たすべき責任だとしている[33]

アダルトビデオ=性のスタンダードになってしまうと、パートナーを心理的・肉体的に傷つけてしまうことに発展しかねず、「アダルトビデオは作り物なんだ」「あれは女の人がお金で演技している(させられている)ものなんだ」という分別がつけられるよう、性について真面目に伝えていくことが大切だとする。精液がついたパンツを「汚いから別の洗濯かごに入れてね」などと対応することで、子供がセックスは汚い、いやらしい、ひどいといったネガティブな意識を持ち、恋愛や性行為を回避するケースもあるという[34]

埼玉大学教育学部教授の田代美江子は、「性をいやらしいと考えている大人」や「性と真正面から向き合わない大人」は、極めて個人的な感覚に端を発するタブー意識を拠りどころに性を捉えており、大人たちが体系的な性教育を受けていないことから、「小学生には早い」「中学生に避妊なんて教えてどうするんだ」という価値観がストッパーになってしまうとしている[36]

アダルト業界の性教育

カリスマAV男優として名高い加藤鷹1988年デビュー)は、『秘戯伝授 最終章』(ISBN 4845412381)や各種メディアで、爪のケアなど衛生面の徹底、女性の反応を重視するセックステクニックを推奨している。

女性が作る女性のためのAVメーカー「シルクラボ」にて圧倒的人気を博した一徹は、加藤鷹の時代から「AVはファンタジーである」という発信は多くの人が言い続けているが、気づかないままAVに影響されてしまう者が多いとした。ネット時代において、情報リテラシーが高い者は正しい情報を手に入れており、格差も大きいとしている。2014年に『恋に効くSEXセラピー』(ISBN 4040662296)を出版。大事なのは相手の立場に立って考えるコミュニケーションだとし、女性は勇気を出して違和感を伝え、男性はそれを受け止めて、やり方や考え方を変えていくことを提案している。2017年時点で、男性向けの激しいAVはもういい、女性が嫌がっている顔を見たくないという理由で、女性向け作品を見ている男性も少しずつ増えているとした[37]

マスターベーション関連商品TENGA株式会社典雅は、獨協医科大学埼玉医療センター小堀善友医師(通称:コボちゃん先生)の「腟内射精障害のセルフチェック」を推奨し、治療法、体験談、相談先の紹介などを行っている[38]

日本の性教育の内容

体育・保健体育の授業で小学校4年生で「体の発育・発達」、同5年生で「心の発達及び不安、悩みへの対処」[39]中学校1年生で「身の機能の発達と心の健康」[40]として性教育を受ける。初めて学ぶ小学校4年生では、思春期初来の平均年齢[41]の関係上、男子は思春期前に学ぶ者が多いが、女子は思春期初来後に学ぶ者が多くなる。

小学校では体や心の変化を中心に取り上げ、自分と他の人では発育・発達が異なり、いじめなどの対人トラブルを起こしやすいことから、発育・発達の個人差を肯定的に受け止めること特に取り上げる。また、発育・発達を促すための食事運動・休養・睡眠なども取り上げる。中学校では体や心の変化に加えて生殖も取り上げられるが、受精・妊娠までをは取り上げても妊娠の経過は取り上げられない。

一方で初経の授業はあっても、ブラジャーについては学ぶ機会はほとんどなく、思春期の乳房が成長中(途中で初経を挟む約4年間)にジュニアブラを着用せずにノーブラだったり、大人用のブラジャーをつけたりとした問題が起きている[42][43]

トランクス着用の小中学生が増加したことで一部の自治体では小中学生にブリーフの着用を勧める活動が組織的に行われるようになった。2000年代前半頃より東京都足立区の一部の小中学校では性教育活動に熱心に取り組んでいる女性養護教諭が性教育の一環で小中学生の下着指導を行い、その活動の輪が足立区全体で拡がったことによるものである。養護教諭は男子生徒に体育の授業でトランクスでは陰部が見えるとの理由でブリーフの着用を提唱し、男子生徒にブリーフの着用を実践させている[44]

2019年3月28日、東京都教育委員会は教員向けの指導書「性教育の手引」改訂版を公表し学習指導要領の範囲を超えた授業の実施を始めて容認した。手引は小中高校、特別支援学校での性教育の考え方をまとめ、コンドームピルでの避妊人工妊娠中絶できる時期がかぎられていること、性交相手の過去は分からないため性感染症の危険があること、SNSで性的な画像を送ると削除できないことを伝える。性の多様性にも初めて言及し性同一性障害や性的指向などへの配慮を明記した[注釈 1]

性教育関連事件

思春期のためのラブ&ボディBOOK

性行動の低年齢化や人工妊娠中絶、不測の事態の対応について書かれた冊子『思春期のためのラブ&ボディBOOK』が、中学校に無料で配布された[45]。内容の一部が過激だとして批判され2002年に回収・絶版となった[45]。2002年に国会の議論の対象になった[46][47]

性教育の議論

教育の効果をどのように測定するかという問題がある。現状は教育の実施を文部科学省、効果の測定は厚生労働省が担っていると言っても過言ではない面がある。

アメリカでは、「絶対禁欲性教育(Abstinence-Only Sex Education)」「包括的性教育(comprehensive sex education)」他の複数のカリキュラムがある。この二つについてはどちらが良いかについて論争がある。特に、子どもの性的行動を取り扱っていくことを善しとするか害と見るかに関して、激しく意見が割れている。より具体的に言えば、コンドーム経口避妊薬などの産児制限避妊具婚外妊娠に与える影響力、若年での妊娠、性感染症の伝染などの扱うことの是非である。アメリカの性教育をめぐる論争の火種となっているものの1つとしては、保守系の人々が推奨する純潔教育や絶対禁欲性教育(Abstinence-Only Sex Education)への支持が高まっていることを挙げることができる。性教育に対して、アメリカや英国も含めたより保守的な態度を示す国では、性感染症の蔓延や若年妊娠が高い率で生じている。

性教育の事例として京都市教育委員会は保健指導の中で独自の性教育を開発している。最近では、生命誕生については用語を知る程度におさえ、自分が父母になったときにどんな子育てをしていきたいかを低学年から考える指導が適切であるという考えもある。

こういった問題を巡っては、「過度な性教育は子供たちに大きな影響を及ぼしかねない」という批判がある[48]。そのため前述の「ラブ&ボディBOOK」問題のように反応の分かれることも多く、この事件でもメディアによって取り扱いが大きく異なっている。

近年では、児童を対象とした性犯罪や親族らによる児童性的虐待が問題となっており、これらに被害児童の性に対する無知につけこんだ物が多い事から、思春期前のより早期からの性教育によって、子供に自身が性的搾取から保護されるべき権利主体である事を認識させようとする動きが見られるが、これもやはり分別の付かない幼い子供が性知識を持つ事に難色を示す意見がある。性教育を行うこと自体を猥褻な行為、セクシャルハラスメント扱いし、児童を欠席させボイコットさせるという、モンスターペアレントの無理解な行動も起きているとされる。

脚注

注釈

  1. ^ 2019年3月30日中日新聞朝刊25面。

出典

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  3. ^ a b c 末吉陽子. “2018.2.12 日本の性教育は時代遅れ、ユネスコは小学生に性交のリスク教育推奨”. ダイヤモンドオンライン. 株式会社ダイヤモンド社. 2019年2月14日閲覧。
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  5. ^ 三島あずさ、山下知子、山田佳奈、塩入彩 (2018年5月14日). “性教育、親「現実見て正しい知識を」 自治体が講座開催”. 朝日新聞. 2019年2月19日閲覧。
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参考文献

  • 澁谷知美井上章一(編)、2008、「性教育はなぜ男子学生に禁欲を説いたか:1910~40年代の花柳病言説」、『性欲の文化史』1、講談社〈講談社選書メチエ〉 ISBN 9784062584258

関連項目