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「強襲揚陸艦」の版間の差分

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[[File:USS America (LHA-6) F-35B loaded.jpg|thumb|300px|F-35B戦闘機、MV-22B輸送機およびヘリコプターを載せた「[[アメリカ (強襲揚陸艦)|アメリカ]]」]]
[[File:USS America (LHA-6) F-35B loaded.jpg|thumb|300px|F-35B戦闘機、MV-22B輸送機およびヘリコプターを載せた「[[アメリカ (強襲揚陸艦)|アメリカ]]」]]
'''強襲揚陸艦'''(きょうしゅうようりくかん、{{Lang-en|Amphibious assault ship}}、{{lang-zh|兩棲突擊艦}})は、[[揚陸艦]]の一種。元々は全通[[飛行甲板]]を備えた[[ヘリコプター揚陸艦]](LPH)を指していたが、後に[[ウェルドック]]を備えたLHA{{Enlink|Landing helicopter assault}}LHD{{Enlink|Landing helicopter dock}}が登場すると、これらも含まれるようになった{{Sfn|Friedman|2002|loc=ch.12 The Bomb and Vertical Envelopment}}{{Sfn|阿部|2007}}。
'''強襲揚陸艦'''(きょうしゅうようりくかん、{{Lang-en|Amphibious assault ship}}、{{lang-zh|兩棲突擊艦}})は、[[揚陸艦]]の一種。元々は全通[[飛行甲板]]を備えた[[ヘリコプター揚陸艦]](LPH)を指していたが、後に[[ウェルドック]]を備えたLHA([[:en:Landing helicopter assault|Landing helicopter assault]])LHD([[:en:Landing helicopter dock|Landing helicopter dock]])が登場すると、これらも含まれるようになった<ref name="Friedman 2002 ch.12" />{{sfn|阿部|2007|p={{要ページ番号|date=2021年12月}} }}。


== 大戦中の試み ==
== 大戦中の試み ==
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|caption2=艦首甲板に飛行甲板を備えたLST-906
|caption2=艦首甲板に飛行甲板を備えたLST-906
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[[大日本帝国陸軍]]では、[[大日本帝国海軍|海軍]]の[[航空母艦]]とは別途に、類似した機能を備えた[[陸軍特殊船]]を建造していた。これらは[[上陸用舟艇]]と[[飛行機]]の両方を搭載する上陸戦用の特殊輸送船であり、上陸部隊を乗せた舟艇を発進させると同時に、搭載機をも船上から発進させて、泊地の防空や敵陣地の偵察、攻撃に使用するという構想であった{{Sfn|秋本|1994}}。
[[大日本帝国陸軍]]では、[[大日本帝国海軍|海軍]]の[[航空母艦]]とは別途に、類似した機能を備えた[[陸軍特殊船]]を建造していた。これらは[[上陸用舟艇]]と[[飛行機]]の両方を搭載する上陸戦用の特殊輸送船であり、上陸部隊を乗せた舟艇を発進させると同時に、搭載機をも船上から発進させて、泊地の防空や敵陣地の偵察、攻撃に使用するという構想であった{{sfn|秋本|1994|pp=178-181}}。


まず[[1934年]]竣工の[[神州丸]]で航空機の発艦に対応したのち、発展型として[[1942年]]に竣工した[[あきつ丸]]では全通飛行甲板を設置して、より本格的な空母に近い構造となった。同船は海軍の空母と比べると速力などの性能が限定的であり、当初は航空機運搬船として使用されていたが、後に同船でも発着できる[[三式指揮連絡機]]や[[カ号観測機]]が登場すると、艦上運用が行われることになった{{Sfn|秋本|1994}}。ただしこれらは、当初計画されていた上陸戦用というよりは、[[護衛空母]]として対潜哨戒にあたるためのものであった。また航空機の艦上運用を想定した改造は行われたものの、[[1944年]]秋に撃沈され、結局、空母として使用する機会は得られなかった{{Sfn|福井|2008|loc=第十一章 陸軍の航空母艦}}。
まず[[1934年]]竣工の[[神州丸]]で航空機の発艦に対応したのち、発展型として[[1942年]]に竣工した[[あきつ丸]]では全通飛行甲板を設置して、より本格的な空母に近い構造となった。同船は海軍の空母と比べると速力などの性能が限定的であり、当初は航空機運搬船として使用されていたが、後に同船でも発着できる[[三式指揮連絡機]]や[[カ号観測機]]が登場すると、艦上運用が行われることになった{{sfn|秋本|1994|pp=178-181}}。ただしこれらは、当初計画されていた上陸戦用というよりは、[[護衛空母]]として対潜哨戒にあたるためのものであった。また航空機の艦上運用を想定した改造は行われたものの、[[1944年]]秋に撃沈され、結局、空母として使用する機会は得られなかった{{sfn|福井|2008|p={{要ページ番号|date=2021年12月}}|loc=第十一章 陸軍の航空母艦}}。


一方、[[アメリカ海軍]]も、[[LST-1級戦車揚陸艦]]の一部に飛行甲板を設置して[[連絡機]]・[[観測機]]の運用を試みており、まず[[1943年]]8月の[[ハスキー作戦|シチリア島上陸作戦]]の際にLST-386が投入された。続く[[ヴァランチ作戦|サレルノ上陸作戦]]でLST-337が投入された際には風が弱く1機しか発艦させられなかったが、この構想は依然として魅力的であり、[[1944年]]1月の[[アンツィオの戦い]]のためにLST-16、また南フランスへの上陸作戦のためにLST-525・906も改修された{{Sfn|Friedman|2002|pp=125-126}}。
一方、[[アメリカ海軍]]も、[[LST-1級戦車揚陸艦]]の一部に飛行甲板を設置して[[連絡機]]・[[観測機]]の運用を試みており、まず[[1943年]]8月の[[ハスキー作戦|シチリア島上陸作戦]]の際にLST-386が投入された。続くサレルノ上陸作戦([[ヴァランチ作戦]]でLST-337が投入された際には風が弱く1機しか発艦させられなかったが、この構想は依然として魅力的であり、[[1944年]]1月の[[アンツィオの戦い]]のためにLST-16、また南フランスへの上陸作戦のためにLST-525・906も改修された{{sfn|Friedman|2002|pp=125-126}}。


LSTの構造上、艦尾の艦橋構造物が邪魔になって全通[[飛行甲板]]を設けることができないため、これらの艦はいずれも航空機を発艦させることはできても着艦させることはできなかった。1944年8月には、LST-776に[[:en:Brodie landing system|ブロディー着艦装置]]を設置して、[[メキシコ湾]]上で着艦実験を行った。同艦は[[沖縄戦]]で実戦投入されている{{Sfn|Friedman|2002|pp=125-126}}。
LSTの構造上、艦尾の艦橋構造物が邪魔になって全通[[飛行甲板]]を設けることができないため、これらの艦はいずれも航空機を発艦させることはできても着艦させることはできなかった。1944年8月には、LST-776に{{仮リンク|ブロディー着艦装置|en|Brodie landing system}}を設置して、[[メキシコ湾]]上で着艦実験を行った。同艦は[[沖縄戦]]で実戦投入されている{{sfn|Friedman|2002|pp=125-126}}。
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{{See also|ヘリコプター揚陸艦}}
{{See also|ヘリコプター揚陸艦}}
[[ヘリコプター]]の発達を受けて、[[アメリカ海兵隊]]では[[水陸両用作戦]]での[[ヘリボーン]]戦術の活用について模索していた。海軍もその洋上拠点となる[[ヘリ空母]]について検討しており、当初は[[攻撃輸送艦]](APA)に航空母艦としての機能を組み合わせたものとして、APA-Mと仮称されていた。実験的に護衛空母「[[セティス・ベイ (護衛空母)|セティス・ベイ]]」を改装したのち、まず[[1958年]]度から[[1966年]]度にかけて、[[ヘリコプター揚陸艦]](LPH)として[[イオー・ジマ級強襲揚陸艦|イオー・ジマ級]]7隻が建造された{{Efn2|またイオー・ジマ級の竣工までの漸進策として、[[エセックス級航空母艦]]3隻も[[ボクサー級強襲揚陸艦|ボクサー級]]として改装された{{Sfn|Polmar|2008|loc=ch.11 New Carrier Concepts}}。}}。またこれと並行して、ヘリコプターの運用能力は妥協しつつ、上陸用舟艇の運用能力を強化した[[ドック型揚陸艦|ドック型輸送揚陸艦(LPD)]]の計画も進められ、[[1959年]]度より[[ローリー級ドック型輸送揚陸艦|ローリー級]]の建造が開始された{{Sfn|Friedman|2002|loc=ch.12 The Bomb and Vertical Envelopment}}
[[ヘリコプター]]の発達を受けて、[[アメリカ海兵隊]]では[[水陸両用作戦]]での[[ヘリボーン]]戦術の活用について模索していた。海軍もその洋上拠点となる[[ヘリ空母]]について検討しており、当初は[[攻撃輸送艦]](APA)に航空母艦としての機能を組み合わせたものとして、APA-Mと仮称されていた。実験的に護衛空母「[[セティス・ベイ (護衛空母)|セティス・ベイ]]」を改装したのち、まず[[1958年]]度から[[1966年]]度にかけて、[[ヘリコプター揚陸艦]](LPH)として[[イオー・ジマ級強襲揚陸艦|イオー・ジマ級]]7隻が建造された{{Efn2|またイオー・ジマ級の竣工までの漸進策として、[[エセックス級航空母艦]]3隻も[[ボクサー級強襲揚陸艦|ボクサー級]]として改装された{{sfn|Polmar|2008|p={{要ページ番号|date=2021年12月}}|loc=ch.11 New Carrier Concepts}}。}}。またこれと並行して、ヘリコプターの運用能力は妥協しつつ、上陸用舟艇の運用能力を強化した[[ドック型揚陸艦|ドック型輸送揚陸艦(LPD)]]の計画も進められ、[[1959年]]度より[[ローリー級ドック型輸送揚陸艦|ローリー級]]の建造が開始された<ref name="Friedman 2002 ch.12" />


APA-M試案の段階では上陸用舟艇のための[[ウェルドック]]が設けられていたが、LPHとLPDとを[[攻撃輸送艦|揚陸輸送艦 (LPA) ]]と[[攻撃貨物輸送艦|貨物揚陸艦(LKA)]]のように補完しあって運用させればよいと判断されて、実際に建造されたイオー・ジマ級では削除された。しかしその後の再検討により、このままでは艦隊としての重装備の揚陸能力が不足することが判明したことから、イオー・ジマ級の最後2隻にウェルドックを追加することも検討されたものの、結局は最終7番艦に[[LCVP]] 2隻のためのボートダビットを追加するに留まった{{Sfn|Friedman|2002|loc=ch.12 The Bomb and Vertical Envelopment}}
APA-M試案の段階では上陸用舟艇のための[[ウェルドック]]が設けられていたが、LPHとLPDとを[[攻撃輸送艦|揚陸輸送艦 (LPA) ]]と[[攻撃貨物輸送艦|貨物揚陸艦(LKA)]]のように補完しあって運用させればよいと判断されて、実際に建造されたイオー・ジマ級では削除された。しかしその後の再検討により、このままでは艦隊としての重装備の揚陸能力が不足することが判明したことから、イオー・ジマ級の最後2隻にウェルドックを追加することも検討されたものの、結局は最終7番艦に[[LCVP]] 2隻のためのボートダビットを追加するに留まった<ref name="Friedman 2002 ch.12" />


この情勢を踏まえて、[[アメリカ海軍作戦部長|海軍作戦部長]]から委託されて将来揚陸艦について研究していた海軍分析センター{{Enlink|CNA (nonprofit)|CNA}}では、LPHとLPDを統合した新型艦としてLHA{{Enlink|Landing helicopter assault}}を検討するようになった{{Sfn|Friedman|2002|loc=ch.12 The Bomb and Vertical Envelopment}}。これに基づいて[[1969年]]度から建造されたのが[[タラワ級強襲揚陸艦|タラワ級]]であり、LPHとLSDに加えて、LKAや[[揚陸指揮艦]](LCC)の各機能を兼備した充実した能力を備え、イオー・ジマ級よりもかなり大型化して[[エセックス級航空母艦]]を凌ぐ大型艦となった{{Sfn|阿部|2007}}。
この情勢を踏まえて、[[アメリカ海軍作戦部長|海軍作戦部長]]から委託されて将来揚陸艦について研究していた海軍分析センター{{Enlink|CNA (nonprofit)|CNA}}では、LPHとLPDを統合した新型艦としてLHA([[:en:Landing helicopter assault|Landing helicopter assault]])を検討するようになった<ref name="Friedman 2002 ch.12" />。これに基づいて[[1969年]]度から建造されたのが[[タラワ級強襲揚陸艦|タラワ級]]であり、LPHとLSDに加えて、LKAや[[揚陸指揮艦]](LCC)の各機能を兼備した充実した能力を備え、イオー・ジマ級よりもかなり大型化して[[エセックス級航空母艦]]を凌ぐ大型艦となった{{sfn|阿部|2007|p={{要ページ番号|date=2021年12月}} }}。


また1960年代末から1970年代のアメリカ海軍は、[[航空機の離着陸方法#STOVL|STOVL]]方式の[[軽空母]]である[[制海艦]](SCS)を検討していたが、強襲揚陸艦はそのための実験にも供された。まず[[1972年]]から[[1974年]]にかけて、イオー・ジマ級の1隻である「[[グアム (強襲揚陸艦)|グアム]]」に[[アメリカ海兵隊|海兵隊]]の[[ホーカー・シドレー ハリアー#AV-8A/C|AV-8A]][[攻撃機]]と海軍の[[SH-3 シーキング|SH-3]]ヘリコプターを搭載してのSCSの評価試験が行われた{{Sfn|Polmar|2008|loc=ch.18 Carrier Controversies}}。その後、SCS計画は頓挫したものの、強襲揚陸艦をSCSとして用いるための研究は継続されており、[[1981年]]の演習ではタラワ級「[[ナッソー (強襲揚陸艦)|ナッソー]]」に19機のAV-8Aを搭載しての運用試験が行われたほか、[[湾岸戦争]]の際には、同艦にAV-8B 20機を搭載して「'''ハリアー空母'''」としての作戦行動が実施された{{Sfn|Polmar|2008|loc=ch.25 Amphibious Assault}}。
また1960年代末から1970年代のアメリカ海軍は、[[航空機の離着陸方法#STOVL|STOVL]]方式の[[軽空母]]である[[制海艦]](SCS)を検討していたが、強襲揚陸艦はそのための実験にも供された。まず[[1972年]]から[[1974年]]にかけて、イオー・ジマ級の1隻である「{{仮リンク|グアム (強襲揚陸艦)|en|USS Guam (LPH-9)|label=グアム}}」に[[アメリカ海兵隊|海兵隊]]の[[ホーカー・シドレー ハリアー#AV-8A/C|AV-8A]][[攻撃機]]と海軍の[[SH-3 シーキング|SH-3]]ヘリコプターを搭載してのSCSの評価試験が行われた{{sfn|Polmar|2008|p={{要ページ番号|date=2021年12月}}|loc=ch.18 Carrier Controversies}}。その後、SCS計画は頓挫したものの、強襲揚陸艦をSCSとして用いるための研究は継続されており、[[1981年]]の演習ではタラワ級「[[ナッソー (強襲揚陸艦)|ナッソー]]」に19機のAV-8Aを搭載しての運用試験が行われたほか、[[湾岸戦争]]の際には、同艦にAV-8B 20機を搭載して「'''ハリアー空母'''」としての作戦行動が実施された{{sfn|Polmar|2008|p={{要ページ番号|date=2021年12月}}|loc=ch.25 Amphibious Assault}}。


これらの実績を踏まえて、タラワ級に続く[[ワスプ級強襲揚陸艦|ワスプ級]]では、[[垂直/短距離離着陸機]]や[[LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇]]の運用にあわせて設計が改訂された{{Sfn|阿部|2007}}{{Sfn|Polmar|2008|loc=ch.25 Amphibious Assault}}。また、ウェルドックを廃止するかわりに更に航空運用機能を強化した発展型として[[アメリカ級強襲揚陸艦|アメリカ級]]も建造され、F-35Bを20機搭載しての「'''ライトニング空母'''」としての運用も検討されているものの、このような揚陸能力の弱体化は海兵隊には不評であり、3番艦以降ではウェルドックが復活することになった{{Sfn|Saunders|2015|p=960}}。
これらの実績を踏まえて、タラワ級に続く[[ワスプ級強襲揚陸艦|ワスプ級]]では、[[垂直/短距離離着陸機]]や[[LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇]]の運用にあわせて設計が改訂された{{sfn|阿部|2007|p={{要ページ番号|date=2021年12月}} }}{{sfn|Polmar|2008|p={{要ページ番号|date=2021年12月}}|loc=ch.25 Amphibious Assault}}。また、ウェルドックを廃止するかわりに更に航空運用機能を強化した発展型として[[アメリカ級強襲揚陸艦|アメリカ級]]も建造され、F-35Bを20機搭載しての「'''ライトニング空母'''」としての運用も検討されているものの、このような揚陸能力の弱体化は海兵隊には不評であり、3番艦以降ではウェルドックが復活することになった{{sfn|Saunders|2015|p=960}}。
{{LHA/LHD}}
{{LHA/LHD}}


== アメリカ国外での普及 ==
== アメリカ国外での普及 ==
ソ連海軍では、1980年代に入るとタラワ級に似た[[11780型揚陸艦]]を設計したが、[[スキージャンプ (航空)#VTOL機での使用 (STOVL方式)|スキージャンプ]]勾配を設置するか否かなどの点で海軍総司令官と参謀本部とが対立し、[[ソビエト連邦の崩壊]]もあって、結局実現しなかった{{Sfn|Polutov|2017|pp=118-119}}。その後を引き継いだ[[ロシア海軍]]は、[[2011年]]には下記の[[ミストラル級強襲揚陸艦|ミストラル級]] 2隻の建造契約を締結したが{{Sfn|Saunders|2015|p=709}}、[[2014年ウクライナ騒乱]]および[[2014年クリミア危機|クリミア危機]]に伴って引き渡しを受けられなくなり、竣工直前だった艦は[[エジプト海軍]]に引き渡された{{Sfn|大塚|2020}}。その後、独自設計の全通甲板型強襲揚陸艦として23900型の計画を進めている{{Sfn|大塚|2020}}。
ソ連海軍では、1980年代に入るとタラワ級に似た[[11780型揚陸艦]]を設計したが、[[スキージャンプ (航空)#VTOL機での使用 (STOVL方式)|スキージャンプ]]勾配を設置するか否かなどの点で海軍総司令官と参謀本部とが対立し、[[ソビエト連邦の崩壊]]もあって、結局実現しなかった{{sfn|Polutov|2017|pp=118-119}}。その後を引き継いだ[[ロシア海軍]]は、[[2011年]]には下記の[[ミストラル級強襲揚陸艦|ミストラル級]] 2隻の建造契約を締結したが{{sfn|Saunders|2015|p=709}}、[[2014年ウクライナ騒乱]]および[[2014年クリミア危機|クリミア危機]]に伴って引き渡しを受けられなくなり、竣工直前だった艦は{{仮リンク|エジプト海軍|en|Egyptian Navy}}に引き渡された{{sfn|大塚|2020|pp=76-85}}。その後、独自設計の全通甲板型強襲揚陸艦として23900型の計画を進めている{{sfn|大塚|2020|pp=76-85}}。


イギリス海軍は、アメリカとともに早期から水陸両用作戦でのヘリボーン戦術の活用を試みてきた海軍であり、従来は航空母艦をもとにヘリコプター揚陸艦へと転用ないし兼任させた'''コマンドー母艦'''を運用してきたが、[[フォークランド紛争]]でのヘリコプターの活躍を踏まえて、専用のヘリコプター揚陸艦として「[[オーシャン (ヘリコプター揚陸艦)|オーシャン]]」を建造した{{Sfn|Polmar|2008|loc=ch.25 Amphibious Assault}}{{Efn2|「オーシャン」はイギリス海軍を退役したのち、ブラジル海軍が購入して、2018年6月、「アツランチコ」として再就役した{{Sfn|大塚|2020}}。}}。また、[[フランス海軍]]は更に大型で、LHA/LHDと同様に全通飛行甲板とウェルドックを兼ね備えた[[ミストラル級強襲揚陸艦|ミストラル級]]を建造したが、これらはいずれも[[固定翼機]]の運用は行っていない{{Sfn|Polmar|2008|loc=ch.25 Amphibious Assault}}。
イギリス海軍は、アメリカとともに早期から水陸両用作戦でのヘリボーン戦術の活用を試みてきた海軍であり、従来は航空母艦をもとにヘリコプター揚陸艦へと転用ないし兼任させた'''コマンドー母艦'''を運用してきたが、[[フォークランド紛争]]でのヘリコプターの活躍を踏まえて、専用のヘリコプター揚陸艦として「[[オーシャン (ヘリコプター揚陸艦)|オーシャン]]」を建造した{{sfn|Polmar|2008|p={{要ページ番号|date=2021年12月}}|loc=ch.25 Amphibious Assault}}{{Efn2|「オーシャン」はイギリス海軍を退役したのち、ブラジル海軍が購入して、2018年6月、「アツランチコ」として再就役した{{sfn|大塚|2020|pp=76-85}}。}}。また、[[フランス海軍]]は更に大型で、LHA/LHDと同様に全通飛行甲板とウェルドックを兼ね備えた[[ミストラル級強襲揚陸艦|ミストラル級]]を建造したが、これらはいずれも[[固定翼機]]の運用は行っていない{{sfn|Polmar|2008|p={{要ページ番号|date=2021年12月}}|loc=ch.25 Amphibious Assault}}。


一方、[[スペイン海軍]]は、ミストラル級よりも更に大型で、スキージャンプ勾配も備えるなど航空運用能力が高い「[[フアン・カルロス1世 (揚陸艦)|フアン・カルロス1世]]」を建造したが、これは[[軽空母]]「[[プリンシペ・デ・アストゥリアス (空母)|プリンシペ・デ・アストゥリアス]]」の代艦も兼ねることになっている{{Sfn|Saunders|2015|p=776}}。また[[イタリア海軍]]の「[[トリエステ (強襲揚陸艦)|トリエステ]]」でも、[[サン・ジョルジョ級強襲揚陸艦|サン・ジョルジョ級]]と「[[ジュゼッペ・ガリバルディ (空母)|ジュゼッペ・ガリバルディ]]」の代艦を兼用できるように、全通飛行甲板とウェルドックを兼ね備えて、空母としての運用も想定されている{{Sfn|大塚|2020}}。
一方、[[スペイン海軍]]は、ミストラル級よりも更に大型で、スキージャンプ勾配も備えるなど航空運用能力が高い「[[フアン・カルロス1世 (揚陸艦)|フアン・カルロス1世]]」を建造したが、これは[[軽空母]]「[[プリンシペ・デ・アストゥリアス (空母)|プリンシペ・デ・アストゥリアス]]」の代艦も兼ねることになっている{{sfn|Saunders|2015|p=776}}。また[[イタリア海軍]]の「[[トリエステ (強襲揚陸艦)|トリエステ]]」でも、[[サン・ジョルジョ級強襲揚陸艦|サン・ジョルジョ級]]と「[[ジュゼッペ・ガリバルディ (空母)|ジュゼッペ・ガリバルディ]]」の代艦を兼用できるように、全通飛行甲板とウェルドックを兼ね備えて、空母としての運用も想定されている{{sfn|大塚|2020|pp=76-85}}。


[[中国人民解放軍海軍]]は、これらの艦よりも更に大型の全通甲板型強襲揚陸艦である[[075型強襲揚陸艦|075型]]を建造しており、後継艦では空母としての運用も検討されている<ref>{{Cite news |url=https://www.forbes.com/sites/hisutton/2020/07/23/stealth-uavs-could-arm-chinas-type-076-assault-carrier/#ce3acc76f3d6|author=H.I. Sutton|title=Stealth UAVs Could Give China’s Type-076 Assault Carrier More Firepower|newspaper=[[フォーブス (雑誌)|フォーブス]]|date=Jul 23, 2020}}</ref>。
[[中国人民解放軍海軍]]は、これらの艦よりも更に大型の全通甲板型強襲揚陸艦である[[075型強襲揚陸艦|075型]]を建造しており、後継艦では空母としての運用も検討されている<ref>{{Cite news |url=https://www.forbes.com/sites/hisutton/2020/07/23/stealth-uavs-could-arm-chinas-type-076-assault-carrier/#ce3acc76f3d6|author=H.I. Sutton|title=Stealth UAVs Could Give China’s Type-076 Assault Carrier More Firepower|newspaper=[[フォーブス (雑誌)|フォーブス]]|date=Jul 23, 2020}}</ref>。
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{{脚注ヘルプ}}
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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<ref name="Friedman 2002 ch.12">{{Harvnb|Friedman|2002|p={{要ページ番号|date=2021年12月}}|loc=ch.12 The Bomb and Vertical Envelopment}}</ref>
}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* {{Cite book|authorlink=:en:Norman Friedman|first=Norman|last=Friedman|title=U.S. Amphibious Ships and Craft: An Illustrated Design History|year= 2002|publisher=[[:en:United States Naval Institute|Naval Institute Press]]|isbn=978-1557502506|ref=harv}}
* {{Cite book|authorlink=:en:Norman Friedman|first=Norman|last=Friedman|title=U.S. Amphibious Ships and Craft: An Illustrated Design History|year=2002|publisher=[[:en:United States Naval Institute|Naval Institute Press]]|isbn=978-1557502506|ref=harv}}
* {{Cite book|authorlink=:en:Norman Polmar|first=Norman|last=Polmar|year=2008|title=Aircraft Carriers: A History of Carrier Aviation and Its Influence on World Events|publisher=Potomac Books Inc.|volume = Volume II|isbn=978-1597973434|ref=harv}}
* {{Cite book|authorlink=:en:Norman Polmar|first=Norman|last=Polmar|year=2008|title=Aircraft Carriers: A History of Carrier Aviation and Its Influence on World Events|publisher=Potomac Books Inc.|volume=Volume II|isbn=978-1597973434|ref=harv}}
* {{Cite journal|和書|first=Andrey V.|last=Polutov|year=2017|month=8|title=ソ連/ロシア空母建造史|journal=[[世界の艦船]]|issue=864|pages=1-159|publisher=[[海人社]]|naid=40021269184|ref=harv}}
* {{Cite journal|和書|first=Andrey V.|last=Polutov|year=2017|month=8|title=ソ連/ロシア空母建造史|journal=[[世界の艦船]]|issue=864|pages=118-119|publisher=[[海人社]]|naid=40021269184|ref=harv}}
* {{Cite book|first=Stephen|last=Saunders|year= 2015|title=[[ジェーン海軍年鑑|Jane's Fighting Ships 2015-2016]]|publisher=[[:en:Jane's Information Group|Janes Information Group]]|isbn=978-0710631435|ref=harv}}
* {{Cite book|first=Stephen|last=Saunders|year=2015|title=[[ジェーン海軍年鑑|Jane's Fighting Ships 2015-2016]]|publisher=[[:en:Jane's Information Group|Janes Information Group]]|isbn=978-0710631435|ref=harv}}
* {{Cite journal|和書|last=秋本|first=實|year=1994|month=5|title=陸軍の空母|journal=世界の艦船|issue=481|pages=178-181|publisher=海人社|naid=|ref=harv}}
* {{Cite journal|和書|last=秋本|first=實|year=1994|month=5|title=陸軍の空母|journal=世界の艦船|issue=481|pages=178-181|publisher=海人社|naid=|ref=harv}}
* {{Cite journal|和書|last=阿部|first=安雄|year=2007|month=1|title=アメリカ揚陸艦史|journal=世界の艦船|issue=669|publisher=海人社|naid=40015212119|ref=harv}}
* {{Cite journal|和書|last=阿部|first=安雄|year=2007|month=1|title=アメリカ揚陸艦史|journal=世界の艦船|issue=669|publisher=海人社|naid=40015212119|ref=harv}}

2021年12月23日 (木) 18:28時点における版

F-35B戦闘機、MV-22B輸送機およびヘリコプターを載せた「アメリカ

強襲揚陸艦(きょうしゅうようりくかん、英語: Amphibious assault ship中国語: 兩棲突擊艦)は、揚陸艦の一種。元々は全通飛行甲板を備えたヘリコプター揚陸艦(LPH)を指していたが、後にウェルドックを備えたLHA(Landing helicopter assault)やLHD(Landing helicopter dock)が登場すると、これらも含まれるようになった[1][2]

大戦中の試み

全通飛行甲板を備えた「あきつ丸」。飛行甲板後方の機体は三式指揮連絡機。
艦首甲板に飛行甲板を備えたLST-906

大日本帝国陸軍では、海軍航空母艦とは別途に、類似した機能を備えた陸軍特殊船を建造していた。これらは上陸用舟艇飛行機の両方を搭載する上陸戦用の特殊輸送船であり、上陸部隊を乗せた舟艇を発進させると同時に、搭載機をも船上から発進させて、泊地の防空や敵陣地の偵察、攻撃に使用するという構想であった[3]

まず1934年竣工の神州丸で航空機の発艦に対応したのち、発展型として1942年に竣工したあきつ丸では全通飛行甲板を設置して、より本格的な空母に近い構造となった。同船は海軍の空母と比べると速力などの性能が限定的であり、当初は航空機運搬船として使用されていたが、後に同船でも発着できる三式指揮連絡機カ号観測機が登場すると、艦上運用が行われることになった[3]。ただしこれらは、当初計画されていた上陸戦用というよりは、護衛空母として対潜哨戒にあたるためのものであった。また航空機の艦上運用を想定した改造は行われたものの、1944年秋に撃沈され、結局、空母として使用する機会は得られなかった[4]

一方、アメリカ海軍も、LST-1級戦車揚陸艦の一部に飛行甲板を設置して連絡機観測機の運用を試みており、まず1943年8月のシチリア島上陸作戦の際にLST-386が投入された。続くサレルノ上陸作戦(アヴァランチ作戦)でLST-337が投入された際には風が弱く1機しか発艦させられなかったが、この構想は依然として魅力的であり、1944年1月のアンツィオの戦いのためにLST-16、また南フランスへの上陸作戦のためにLST-525・906も改修された[5]

LSTの構造上、艦尾の艦橋構造物が邪魔になって全通飛行甲板を設けることができないため、これらの艦はいずれも航空機を発艦させることはできても着艦させることはできなかった。1944年8月には、LST-776にブロディー着艦装置英語版を設置して、メキシコ湾上で着艦実験を行った。同艦は沖縄戦で実戦投入されている[5]

LPHの誕生とLHA・LHDへの発展

CH-53を搭載した「イオー・ジマ
ウェルドックの門扉を開放した「ベロー・ウッド

ヘリコプターの発達を受けて、アメリカ海兵隊では水陸両用作戦でのヘリボーン戦術の活用について模索していた。海軍もその洋上拠点となるヘリ空母について検討しており、当初は攻撃輸送艦(APA)に航空母艦としての機能を組み合わせたものとして、APA-Mと仮称されていた。実験的に護衛空母「セティス・ベイ」を改装したのち、まず1958年度から1966年度にかけて、ヘリコプター揚陸艦(LPH)としてイオー・ジマ級7隻が建造された[注 1]。またこれと並行して、ヘリコプターの運用能力は妥協しつつ、上陸用舟艇の運用能力を強化したドック型輸送揚陸艦(LPD)の計画も進められ、1959年度よりローリー級の建造が開始された[1]

APA-M試案の段階では上陸用舟艇のためのウェルドックが設けられていたが、LPHとLPDとを揚陸輸送艦 (LPA) 貨物揚陸艦(LKA)のように補完しあって運用させればよいと判断されて、実際に建造されたイオー・ジマ級では削除された。しかしその後の再検討により、このままでは艦隊としての重装備の揚陸能力が不足することが判明したことから、イオー・ジマ級の最後2隻にウェルドックを追加することも検討されたものの、結局は最終7番艦にLCVP 2隻のためのボートダビットを追加するに留まった[1]

この情勢を踏まえて、海軍作戦部長から委託されて将来揚陸艦について研究していた海軍分析センター (CNAでは、LPHとLPDを統合した新型艦としてLHA(Landing helicopter assault)を検討するようになった[1]。これに基づいて1969年度から建造されたのがタラワ級であり、LPHとLSDに加えて、LKAや揚陸指揮艦(LCC)の各機能を兼備した充実した能力を備え、イオー・ジマ級よりもかなり大型化してエセックス級航空母艦を凌ぐ大型艦となった[2]

また1960年代末から1970年代のアメリカ海軍は、STOVL方式の軽空母である制海艦(SCS)を検討していたが、強襲揚陸艦はそのための実験にも供された。まず1972年から1974年にかけて、イオー・ジマ級の1隻である「グアム英語版」に海兵隊AV-8A攻撃機と海軍のSH-3ヘリコプターを搭載してのSCSの評価試験が行われた[7]。その後、SCS計画は頓挫したものの、強襲揚陸艦をSCSとして用いるための研究は継続されており、1981年の演習ではタラワ級「ナッソー」に19機のAV-8Aを搭載しての運用試験が行われたほか、湾岸戦争の際には、同艦にAV-8B 20機を搭載して「ハリアー空母」としての作戦行動が実施された[8]

これらの実績を踏まえて、タラワ級に続くワスプ級では、垂直/短距離離着陸機LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇の運用にあわせて設計が改訂された[2][8]。また、ウェルドックを廃止するかわりに更に航空運用機能を強化した発展型としてアメリカ級も建造され、F-35Bを20機搭載しての「ライトニング空母」としての運用も検討されているものの、このような揚陸能力の弱体化は海兵隊には不評であり、3番艦以降ではウェルドックが復活することになった[9]

歴代強襲揚陸艦との比較
LHA アメリカ級 LHD ワスプ級 LHA タラワ級
(最終状態)
LPH イオー・ジマ級
(最終状態)
フライトI フライト0 8番艦 1-7番艦
船体 満載排水量 50,000 t以上 45,570 t 41,335 t 40,650 t 39,300 t 18,300 t
全長 257.3 m 254.2 m 180.4 m
最大幅 32.3 m 42.7 m 38.4 m 31.7 m
機関 方式 CODLOG 蒸気タービン
出力 70,000 hp 72,000 hp 77,000 hp 22,000 hp
速力 22ノット 24ノット 23ノット
兵装 砲熕 25mm単装機関砲×2 - 4基 76mm連装砲×2基
ファランクス 20mmCIWS×2 - 3基
12.7mm連装機銃×3 - 8基
ミサイル ESSM 8連装発射機×2基 シースパロー 8連装発射機×2基 シースパロー 8連装発射機×2基
RAM 21連装発射機×2基
航空運用機能 飛行甲板 全通(STOVL対応)
航空燃料 不明 3,813 t 1,960 t 約1,200 t
搭載機数 AV-8Bなら24機、F-35Bなら20機 AV-8Bなら20機 AV-8なら12機
MV-22Bなら42機 CH-46なら38機 CH-46なら20機
輸送揚陸機能 舟艇 LCACなら2隻 なし LCACなら3隻
LCM(6)なら12隻
LCACなら1隻
LCM(6)なら20隻
なし
(7番艦のみLCVP×2隻)
上陸部隊 1個大隊揚陸チーム (約1,900名)
同型艦数 9隻予定 2隻 1隻 7隻(1隻退役) 5隻(退役) 7隻(退役)

アメリカ国外での普及

ソ連海軍では、1980年代に入るとタラワ級に似た11780型揚陸艦を設計したが、スキージャンプ勾配を設置するか否かなどの点で海軍総司令官と参謀本部とが対立し、ソビエト連邦の崩壊もあって、結局実現しなかった[10]。その後を引き継いだロシア海軍は、2011年には下記のミストラル級 2隻の建造契約を締結したが[11]2014年ウクライナ騒乱およびクリミア危機に伴って引き渡しを受けられなくなり、竣工直前だった艦はエジプト海軍に引き渡された[12]。その後、独自設計の全通甲板型強襲揚陸艦として23900型の計画を進めている[12]

イギリス海軍は、アメリカとともに早期から水陸両用作戦でのヘリボーン戦術の活用を試みてきた海軍であり、従来は航空母艦をもとにヘリコプター揚陸艦へと転用ないし兼任させたコマンドー母艦を運用してきたが、フォークランド紛争でのヘリコプターの活躍を踏まえて、専用のヘリコプター揚陸艦として「オーシャン」を建造した[8][注 2]。また、フランス海軍は更に大型で、LHA/LHDと同様に全通飛行甲板とウェルドックを兼ね備えたミストラル級を建造したが、これらはいずれも固定翼機の運用は行っていない[8]

一方、スペイン海軍は、ミストラル級よりも更に大型で、スキージャンプ勾配も備えるなど航空運用能力が高い「フアン・カルロス1世」を建造したが、これは軽空母プリンシペ・デ・アストゥリアス」の代艦も兼ねることになっている[13]。またイタリア海軍の「トリエステ」でも、サン・ジョルジョ級と「ジュゼッペ・ガリバルディ」の代艦を兼用できるように、全通飛行甲板とウェルドックを兼ね備えて、空母としての運用も想定されている[12]

中国人民解放軍海軍は、これらの艦よりも更に大型の全通甲板型強襲揚陸艦である075型を建造しており、後継艦では空母としての運用も検討されている[14]

主な強襲揚陸艦の比較
アメリカ合衆国 アメリカ級
フライト1
中華人民共和国 075型 イタリア トリエステ スペイン フアン・カルロス1世 フランス ミストラル級
船体 満載排水量 50,000 t以上 36,000 - 40,000 t 38,000 t 27,082 t[注 3] 21,500 t
全長 257.3 m 232 m 245 m 230.82 m 210 m
全幅 32.3 m 36 m 32 m
機関 方式 CODLOG CODAD CODOG電気推進 CODAGE ディーゼル・エレクトリック
出力 70,000 hp 65,000 hp 102,000 hp 29,500 hp 19,040 shp
速力 22 kt 25 kt 19.5 kt 18.8 kt
兵装 砲熕 ファランクスCIWS×2基 H/PJ-11 CIWS×2基 76mm単装砲×3基 20mm機関銃×4基 30mm単装機関砲×2基
12.7mm連装機銃×7基 25mm単装機関砲×3基 12.7mm機関銃×2基 12.7mm機関銃×4基
ミサイル ESSM 8連装発射機×2基 HHQ-10 18連装発射機×2基 VLS×16セル
アスターまたはCAMM
SIMBAD 2連装発射機×2基
RAM 21連装発射機×2基
航空運用機能 飛行甲板 全通(STOVL対応) 全通 スキージャンプ勾配つき全通 全通
搭載機数 F-35B×6機 ヘリコプター×30機 F-35B×4-8機 AV-8B×10機
※将来はF-35Bも考慮
ヘリコプター×16機
ヘリコプター×20機以上 ヘリコプター×6-9機 ヘリコプター×12機
輸送揚陸機能 舟艇 LCAC-1級×2隻 LCAC×3隻 70 t LCU×4隻
またはLCAC-1級×1隻
LCM-1E型×4隻と複合艇×4〜6隻
またはLCAC-1級×1隻
LCM×8艇
LCU×2艇またはLCAC-1級×2隻
上陸部隊 約1,900名 約1,600名 1,043名 902名 短期:900名、長期:400名
同型艦数 9隻予定 3隻(5隻計画中) 1隻 1隻(準同型3隻[注 4] 3隻(準同型2隻[注 5]

脚注

注釈

  1. ^ またイオー・ジマ級の竣工までの漸進策として、エセックス級航空母艦3隻もボクサー級として改装された[6]
  2. ^ 「オーシャン」はイギリス海軍を退役したのち、ブラジル海軍が購入して、2018年6月、「アツランチコ」として再就役した[12]
  3. ^ 揚陸艦任務
  4. ^ オーストラリア海軍キャンベラ級強襲揚陸艦トルコ海軍の「アナドル
  5. ^ エジプト海軍の「ガマール・アブドゥル=ナーセル」と「アンワル・アッ=サーダート英語版

出典

  1. ^ a b c d Friedman 2002, p. [要ページ番号], ch.12 The Bomb and Vertical Envelopment
  2. ^ a b c 阿部 2007, p. [要ページ番号].
  3. ^ a b 秋本 1994, pp. 178–181.
  4. ^ 福井 2008, p. [要ページ番号], 第十一章 陸軍の航空母艦.
  5. ^ a b Friedman 2002, pp. 125–126.
  6. ^ Polmar 2008, p. [要ページ番号], ch.11 New Carrier Concepts.
  7. ^ Polmar 2008, p. [要ページ番号], ch.18 Carrier Controversies.
  8. ^ a b c d Polmar 2008, p. [要ページ番号], ch.25 Amphibious Assault.
  9. ^ Saunders 2015, p. 960.
  10. ^ Polutov 2017, pp. 118–119.
  11. ^ Saunders 2015, p. 709.
  12. ^ a b c d 大塚 2020, pp. 76–85.
  13. ^ Saunders 2015, p. 776.
  14. ^ H.I. Sutton (Jul 23, 2020). “Stealth UAVs Could Give China’s Type-076 Assault Carrier More Firepower”. フォーブス. https://www.forbes.com/sites/hisutton/2020/07/23/stealth-uavs-could-arm-chinas-type-076-assault-carrier/#ce3acc76f3d6 

参考文献

  • Friedman, Norman (2002). U.S. Amphibious Ships and Craft: An Illustrated Design History. Naval Institute Press. ISBN 978-1557502506 
  • Polmar, Norman (2008). Aircraft Carriers: A History of Carrier Aviation and Its Influence on World Events. Volume II. Potomac Books Inc.. ISBN 978-1597973434 
  • Polutov, Andrey V.「ソ連/ロシア空母建造史」『世界の艦船』第864号、海人社、2017年8月、118-119頁、NAID 40021269184 
  • Saunders, Stephen (2015). Jane's Fighting Ships 2015-2016. Janes Information Group. ISBN 978-0710631435 
  • 秋本, 實「陸軍の空母」『世界の艦船』第481号、海人社、1994年5月、178-181頁。 
  • 阿部, 安雄「アメリカ揚陸艦史」『世界の艦船』第669号、海人社、2007年1月、NAID 40015212119 
  • 大塚, 好古「世界の強襲揚陸艦 ラインナップ (特集 強襲揚陸艦)」『世界の艦船』第937号、海人社、2020年12月、76-85頁、NAID 40022388506 
  • 福井, 静夫『世界空母物語』光人社〈福井静夫著作集〉、2008年。ISBN 978-4769813934