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「コブシ」の版間の差分

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{{otheruses|植物|その他の用法|こぶし}}
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|節 = ハクモクレン節<ref name="東2003">{{Cite journal|author=東浩司|year=2003|title=モクレン科の分類・系統進化と生物地理: 隔離分布の起源|journal=分類|volume=3|issue=2|pages=123-140|doi=10.18942/bunrui.KJ00004649577}}</ref> ''Magnolia'' sect. ''Yulania''<ref name="Wang2020">{{Cite journal|author=Wang, Y. B., Liu, B. B., Nie, Z. L., Chen, H. F., Chen, F. J., Figlar, R. B. & Wen, J.|year=2020|title=Major clades and a revised classification of Magnolia and Magnoliaceae based on whole plastid genome sequences via genome skimming|journal=Journal of Systematics and Evolution|volume=58|issue=5|pages=673-695|doi=10.1111/jse.12588}}</ref>
|種 = '''コブシ''' ''M. kobus''
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* {{Snamei|Magnolia praecocissima}} {{AU|Koidz.}}<ref name="YList_19022">{{YList|id=19022|taxon=Magnolia praecocissima Koidz.|accessdate=2022-03-09}}</ref>
* ''Buergeria obovata'' {{AU|Siebold}} & {{AUY|Zucc.|1845}}<ref name="PWO" />
|和名 = コブシ(辛夷)
* ''Magnolia borealis'' ({{AU|Sarg.}}) {{AUY|Kudô|1922}}<ref name="PWO" />
|英名 = Kobushi magnolia
* ''Magnolia kobushii'' {{AUY|Mayr|1906}}<ref name="PWO" />
* ''Magnolia praecocossima'' {{AUY|Koidz.|1929}}<ref name="PWO" />
* ''Magnolia pseudokobus'' {{AU|S.Abe}} & {{AUY|Akasawa|1954}}<ref name="PWO" />
* ''Magnolia thurberi'' {{AUY|G.Nicholson|1894}}<ref name="PWO" />
* ''Michelia gracilis'' {{AUY|Kostel.|1836}}<ref name="PWO" />
* ''Talauma obovata'' ({{AU|Siebold}} & {{AU|Zucc.}}) {{AU|Benth.}} & {{AUY|Hook.f.|}} ex {{AUY|Hance|1882}}<ref name="PWO" />
* ''Yulania kobus'' ({{AU|DC.}}) {{AUY|Spach|1839}}<ref name="PWO" />
|和名 = コブシ(辛夷、拳)<ref name="コトバンク_辛夷">{{Cite Kotobank|word=辛夷|accessdate=2022-03-06}}</ref>{{sfn|田中潔|2011|p=127}}、ヤマアララギ、コブシハジカミ、タウチザクラ、ヒキザクラ、ヤチザクラ、シキザクラ
|英名 = kobus magnolia<ref name="GBIF">{{Cite web|author=GBIF Secretariat|date=2022|url=https://www.gbif.org/species/3153260|title=''Magnolia kobus'' DC.|website=[https://doi.org/10.15468/39omei GBIF Backbone Taxonomy]|publisher=|accessdate=2022-03-06}}</ref>, kobushi magnolia<ref name="GBIF" />, northern Japanese magnolia<ref name="GBIF" />
}}
}}
'''コブシ'''(辛夷{{sfn|田中潔|2011|p=127}}、[[学名]]: {{Snamei||Magnolia kobus}})は、[[モクレン科]][[モクレン属]][[落葉広葉樹]]高木<ref name="kobe">{{Cite web |url=http://kobegakuin-yakugaku.jp/yakusouen/pdf/no01.pdf|title=薬草園だより vol.2013.4月創刊号|publisher=神戸学院大学薬学部附属薬用植物園 |accessdate=2020-03-08}}</ref>。早春に、他の木々に先駆けて白い花を梢いっぱいに咲かせる{{sfn|西田尚監修 志村隆・平野勝男編|2009|p=89}}
'''コブシ'''(辛夷{{sfn|西尚道監修 学習研究社編|2009|p=89}}、[[学名]]: {{Snamei||Magnolia kobus}})は、[[モクレン科]][[モクレン属]]に属する[[落葉]][[高木]]の1種である。早春に、葉が展開する前に他の木々に先駆けて白い大きな花をつける。花は3枚の[[萼片]]、6枚の[[花弁]]、らん状についた多数の[[雄しべ]]・[[雌しべ]]をもつ。多数の[[果実]]が癒合してごつごつとした[[集合果]]を形成す。[[北海]]、[[本州]]、[[九州]]、[[済州島]]に分布するが、観賞用として広く植栽されている。ヤマアララギ、コブシハジカミ、タウチザクラなどの別名がある


== 名称 ==
== 名称 ==
和名'''コブシ'''の由来についてはがない{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}。[[つぼみ]]が開く前、開花の様子が小さな子どもの握りこぶしのように見えるいう説{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}{{sfn|田中|2009|p=59}}。[[つぼみ]]の形を(供の)握りこぶしに見立てたとする説{{sfn|西田尚道監修 志村隆・平野勝男編|2009|p=89}}{{sfn|田中|2011|p=127}}。あるいは、果実(集合果)の形がでこぼこしていて、(子供の)握りこぶしに見立てたとする説もある{{sfn|亀田龍吉|2013|p=28}}{{sfn|田中修|2009|p=59}}{{sfn|田中潔|2011|p=127}}。和名「コブシ」が、そのまま英名学名なっている
[[和名]]である「'''コブシ'''の由来については、諸ある<ref name="宮内2014" />{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}。[[つぼみ]]の形を握りこぶしに見立てたする説{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=89}}{{sfn|田中|2011|p=127}}つぼみが開花する様握りこぶしが開く様子に見立てたとする説{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}{{sfn|田中|2009|p=59}}、でこぼこした[[果実]][[集合果]])の形握りこぶしに見立てたとする説{{sfn|亀田龍吉|2013|p=28}}{{sfn|田中修|2009|p=59}}{{sfn|田中潔|2011|p=127}}などがある。和名「コブシ」が、そのまま英名(kobus magnolia)や[[学名]]の[[種小名]](''kobus'')の基となっ


中国植物名(漢名)は日本辛夷(ほんんい){{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。日本では「辛夷」という漢字て「コブシ」と読むが、これは花のつぼみを乾燥させた[[生薬]]名辛夷しんい)であるためである{{sfn|田中修|2009|p=59}}。[[中国]]の辛夷[[ハクモクレン]](白木蓮){{sfn|辻井達一|1995|p=153}}{{efn|中国で[[ハクモクレン]]は玉蘭(ぎょくらん)と呼んでいるとする説もある{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。}}、もしくは[[モクレン]](木蓮){{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}のを指し、コブシの漢名とするの誤りとされている{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}。
コブシて漢字では「辛夷」をが、[[中国]]での「{{読み仮|辛夷|しんい}}は[[モクレン]](モクレン)のこ、またはそのつぼみを乾燥させた生薬を意味する<ref name="コトバンク_辛夷" /><ref name="宮内2014" />{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}。またこの名称は後述の[[生薬]]名前もなっている。中国におけるコブシの名(漢名「日本辛夷」である{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。


=== 日本国内における異名 ===
別名'''ヤマアララギ'''、'''コブシハジカミ'''ともよばれる{{sfn|西田尚道監修 志村隆・平野勝男編|2009|p=89}}{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}{{sfn|田中潔|2011|p=127}}。昔はコブシの花の時期に、稲の苗代や種まきすることからタウチザクラ(田打桜)、タネマキザクラ(種まき桜)とよばれた{{sfn|田中潔|2011|p=127}}{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。アイヌ地方ではオマウクシニ、オプケニと呼ばれる。それぞれ、アイヌの言葉で「良い匂いを出す木」「放屁する木」という意味を持つ。遠見だと桜に似ていること、花を咲かせる季節が桜より早いことから、ヒキザクラ、ヤチザクラ、シキザクラなどと呼ばれる。これらの呼称は北海道、松前地方を中心に使われる<ref name="kitakobushi" />。一方、[[北海道]]のコブシは「キタコブシ」と呼ばれることもある<ref name="kitakobushi">[http://www.pref.hokkaido.lg.jp/kn/tkn/hana/flower/hk005.html キタコブシ(北拳)] - 北海道ホームページ</ref>。
赤い実([[種子]])に辛みがあるため、「ヤマアララギ」(アララギはふつう[[イチイ]]のこと)、「コブシハジカミ」(ハジカミは[[サンショウ]]のこと)ともよばれる<ref name="宮内2014" />{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=89}}{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}{{sfn|田中潔|2011|p=127}}。地域によってはコブシの花の時期に稲の[[苗代]]や種まきをしたことから、コブシは「タウチザクラ(田打桜)」や「タネマキザクラ(種まき桜)」ともよばれた<ref name="宮内2014" />{{sfn|田中潔|2011|p=127}}{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。[[北海道]]の[[松前]]地方では、遠見だと桜に似ているが花期が桜より早いことから、「ヒキザクラ」、「ヤチザクラ」、「シキザクラ」などとも呼ばれる<ref name="kitakobushi">{{Cite web|和書|author=|date=|url=http://www.pref.hokkaido.lg.jp/kn/tkn/hana/flower/hk005.html|title=キタコブシ(北拳)|website=|publisher=北海道|accessdate=2022-03-05}}</ref>。また同様に桜に先駆けて咲くことと、花付きのよい年には豊作になるとされることから、「マンサク」(「先ず咲く」、「満作」の意)との名もある(標準和名で[[マンサク]]とよばれる植物は別の植物である)<ref name="kitakobushi" /><ref name="北海道開発局" />。[[栃木県]]ではコブシの花が咲く頃を目安に[[サトイモ]]の植えつけを行ったため、「芋植え花」と呼ばれる<ref name="宮内2014" />。


[[アイヌ語]]では「オマウクㇱニ(omawkusni)」、「オㇷ゚ケニ(opkeni)」と呼ばれる。前者の原義は「そこ・香気・通る・木」を意味する「オマウクㇱニ(o-maw-kus-ni)」からとされ、後者はその良い匂いに誘われて病魔が来ることを防ぐための[[忌み名]]であり、「放屁する・木」を意味する「オㇷ゚ケニ(opke-ni)」を原義とするとされる<ref name=":0">{{Cite web|和書|url=https://web.archive.org/web/20220406130937/https://ainugo.nam.go.jp/siror/dictionary/detail_sp.php?page=book&book_id=P0247 |title=日本語名:キタコブシ アイヌ語名:オプケニ、オマウクシ二 |accessdate=2022-04-06 |publisher=アイヌ民族文化財団 |archivedate=2022-04-06 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20220406130937/https://ainugo.nam.go.jp/siror/dictionary/detail_sp.php?page=book&book_id=P0247=book&book_id=P0040}}</ref><ref name="北海道開発局">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.hkd.mlit.go.jp/ob/tisui/kds/pamphlet/ikimono/pdf/ctll1r0000004upgkitakobushi.pdf|title=キタコブシ|website=|publisher=国土交通省 北海道開発局|accessdate=2022-02-23}}</ref>。しかし、前者についても同音で「尻・風・通る・木」とも解釈できることから、当初はどちらも同じ意味で、前者についてだんだんと意味が変化していったのではないか、と考えられている<ref name=":0" />。
== 分布・生育地 ==
[[日本]]の[[北海道]]・[[本州]]・[[四国]]・[[九州]]北部{{sfn|山﨑誠子|2019|p=140}}、および[[朝鮮]]の[[済州島]]に分布する{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}。日本特産で、山地や丘陵の湿った平地に好んで生えている{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。栽培可能地は北海道から九州までの全域で、春を告げる花木として[[庭]]や[[公園]]にもよく植えられる{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}{{sfn|菱山忠三郎|1997|p=74}}。


== 形態・生態 ==
== 特徴 ==
[[落葉広葉樹]]の[[小高木]]から[[高木|大高木]]{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}。
[[落葉広葉樹]]の[[小高木]]から[[高木|大高木]]{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}。
樹高は5 - 20[[メートル]] (m) {{sfn|西田尚道監修 志村隆・平野勝男編|2009|p=89}}、木の幹は1本立ちで直立し、直径はおおむね30 - 60[[センチメートル]] (cm) に達する{{sfn|辻井達一|1995|p=151}}。生長は割合早いほうで、[[枝]]も均整に出て整った円錐形から卵形の樹形になる{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}。ただし、混生するものは枝ぶりが乱れる{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}。[[樹皮]]は灰白色表面はややなめらか{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}。若い樹皮は光の当たり具合で白っぽく見える{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}。一年枝は緑色から紫色を帯び、枝を一周する白っぽい托葉痕が目立つ{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}。枝は太いが折れやすい
樹高は 5 - 20[[メートル]] (m) {{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=89}}、木の幹は1本立ちで直立し、直径はおおむね 20 - 60[[センチメートル]] (cm) に達する{{sfn|辻井達一|1995|p=151}}<ref name="大橋2015">{{cite book|author=大橋広好|year=2015|chapter=モクレン科|editor=大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編)|title=改訂新版 日本の野生植物 1|publisher=平凡社|isbn=978-4582535310|pages=71–74}}</ref>(下図1a, b)。生長は比較的速く、[[枝]]も均整に出て整った円錐形から卵形の樹形になる{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}、混生するものは枝ぶりが乱れる{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}。根系の広がりは半径 1 m 程度で根の支持力は弱い<ref name="北海道開発局" />。[[樹皮]]は灰白色、平滑だが皮目がある{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}<ref name="勝山2000">{{cite book|author=勝山輝男|year=2000|chapter=コブシ|editor=|title=樹に咲く花 離弁花1|publisher=山と渓谷社|isbn=4-635-07003-4|pages=372–373}}</ref><ref name="馬場1999">{{cite book|author=馬場多久男|year=1999|chapter=コブシ|editor=|title=葉でわかる樹木 625種の検索|publisher=信濃毎日新聞社|isbn=978-4784098507|page=166}}</ref>(下図1c)。若い樹皮は光の当たり具合で白っぽく見える{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}。一年枝は緑色、無毛、枝を一周する白っぽい托葉痕が目立つ{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}<ref name="勝山2000" />


{{multiple image
[[葉]]は[[互生]]して{{sfn|田中潔|2011|p=127}}、長さ5 - 15&nbsp;cm{{sfn|西田尚道監修 志村隆・平野勝男編|2009|p=89}}{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}、幅5 - 8&nbsp;cmの倒卵形から広倒卵形で、先端は突き出る{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}。葉は揉むと強い香りを発する{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。
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| image1 = 四十九院のこぶし - panoramio (1).jpg
| caption1 = '''1a'''. 樹形(花期)
| image2 = Magnolia kobus, 2020 Marcali.jpg
| caption2 = '''1b'''. 樹形
| image3 = Magnolia kobus1.jpg
| caption3 = '''1c'''. 樹皮
}}


[[葉]]は[[互生]]、倒卵形から広倒卵形、長さ 5 - 15&nbsp;cm、幅 3 - 8&nbsp;cm、[[全縁]]でやや波打ち、先端は短く突出し、基部はくさび形{{sfn|田中潔|2011|p=127}}{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=89}}{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}<ref name="勝山2000" /><ref name="大橋2015" /><ref name="馬場1999" />(下図1d, e)。葉の表面は緑色で無毛、裏面は淡緑色で葉脈上に毛がある<ref name="大橋2015" /><ref name="馬場1999" />。葉脈は羽状、側脈は8–10対<ref name="馬場1999" />。葉柄は長さ1 - 1.5&nbsp;cm<ref name="勝山2000" /><ref name="大橋2015" /><ref name="馬場1999" />。秋には黄葉する<ref name="勝山2000" />。枝や葉には[[精油]]が含まれ、葉を揉んだり枝を燃やすと芳香を生じる{{sfn|正木覚|2012|p=59}}{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}<ref name="勝山2000" />。枝や葉に含まれる精油として、''d''-[[リモネン]]、[[シメン]]、[[シネオール]]、''d''-[[ネロリドール]]、[[カンフル]]などが報告されている<ref name="藤田1975">{{Cite journal|author=藤田安二, 菊池光子 & 藤田眞一|year=1975|title=各地産植物精油に関する研究 (第36報) コプシの精油成分 その2|journal=YAKUGAKU ZASSHI|volume=95|issue=2|pages=162-165|doi=10.1248/yakushi1947.95.2_162}}</ref>。葉芽は長さ 1 - 1.5 cm、灰色の伏毛に覆われる<ref name="勝山2000" />{{sfn|菱山忠三郎|1997|p=74}}(下図1f)。葉痕はV字形、維管束痕が8 - 12個つく{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}<ref name="勝山2000" />。花芽は大きく長卵形、長さ 2 - 2.5 cm、白く長い軟毛で覆われる<ref name="勝山2000" />{{sfn|菱山忠三郎|1997|p=74}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}(下図1f)。芽鱗は[[托葉]]2枚と[[葉柄]]基部が合着した帽子状の構造である{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}(下図1f)。
花期は早春(3 - 4月)とモクレンの仲間では早咲きの部類で{{sfn|正木覚|2012|p=59}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=140}}、葉に先だって小枝の先に、ほのかな芳香がある直径6 - 10&nbsp;cmの[[花]]を1個咲かせる{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|菱山忠三郎|1997|p=74}}。花は純白で、[[花弁]]の基部は淡紅色を帯びる{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}。[[花弁]]は、長さは5 - 6&nbsp;cmほどある{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}外花被片(萼片)3枚と、内花皮片3枚からなる計6枚の大きな花被片がつき{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|正木覚|2012|p=59}}、この外側にさらにごく小さな花被片が3枚つく{{sfn|長谷川哲雄|2014|p=16}}。花の中央に淡黄色の[[雄しべ]]が多く集まり{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}、その中心に薄緑色をした多数の[[雌しべ]]の集合体がある{{sfn|長谷川哲雄|2014|p=16}}。ふつう、[[花]]の基部に小型の1枚の若葉がつくのが特徴で{{sfn|西田尚道監修 志村隆・平野勝男編|2009|p=89}}{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}、よく似た[[タムシバ]]にはこれが付かないので見分けるポイントになる{{sfn|正木覚|2012|p=59}}{{sfn|長谷川哲雄|2014|p=16}}。花のほか、枝にも芳香があり、枝を燃やしても香りを放出する{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}。開花すると、数日ほどで花弁はばらけてしまう{{sfn|田中潔|2011|p=127}}。


{{multiple image
[[果実]]は長さ5 - 15&nbsp;cmの[[集合果]]で{{sfn|西田尚道監修 志村隆・平野勝男編|2009|p=89}}{{sfn|亀田龍吉|2013|p=28}}、赤紅色でやや扁平状の球形の袋果が数個から十数個結合してできており、所々にこぶが隆起した不整な長楕円形の形状を成している{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2018|p=266}}。花の直後の未熟果は緑色をしているが、やがてごつごつした形へと変化する{{sfn|田中潔|2011|p=127}}。秋(9 - 10月ころ)に赤く熟した果実が開裂し、朱赤い種皮に包まれた[[種子]]がこぼれ出して、白い糸状の珠柄で垂れ下がる{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}{{sfn|亀田龍吉|2013|p=29}}。種子は腎形や心形で、赤い外皮のほかに肉質の中層と黒い内層がある{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2018|p=266}}。
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| image1 = Bergpark Wilhelmshöhe - Baum 299a 2020-06-24 b.JPG
| caption1 = '''1d'''. 葉
| image2 = Magnolia kobus var borealis Magnolia japońska 2011-09-11 02.jpg
| caption2 = '''1e'''. 葉と果実
| image3 = Bergpark Wilhelmshöhe - Baum 299a 2020-03-24 b.JPG
| caption3 = '''1f'''. 花芽と葉芽
}}


花期は早春(3 - 4月)、日本産モクレン類の中では早咲きの部類であり{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=89}}{{sfn|正木覚|2012|p=59}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=140}}、葉の展開に先だって、小枝の先端に直径 6 - 10&nbsp;cm の[[花]]を1個ずつつける<ref name="勝山2000" /><ref name="大橋2015" />{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|菱山忠三郎|1997|p=74}}(下図1g, h)。しばしば[[花]]の基部に小型の葉が1枚つき{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=89}}{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}<ref name="大橋2015" />(下図1g)、よく似た[[タムシバ]]は付けないことで見分ける{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。[[花被片]]はふつう9枚で3枚ずつ3輪につき、最外輪の3枚は小さく広線形で[[萼片]]状(下図1h)、内側の6枚は[[花弁]]状、長さ5 - 6&nbsp;cmと大きく、白色で基部はしばしば淡紅色を帯びる{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|正木覚|2012|p=59}}<ref name="勝山2000" /><ref name="大橋2015" />(下図1g, h)。開花後、数日ほどで花被片は落ちてしまう{{sfn|田中潔|2011|p=127}}。[[雄しべ]]は多数、淡黄色、らせん状につく{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}<ref name="勝山2000" /><ref name="大橋2015" />(下図1i)。[[雌しべ]]も多数、薄緑色、花軸にらせん状につく<ref name="勝山2000" /><ref name="大橋2015" />{{sfn|長谷川哲雄|2014|p=16}}(下図1i)。花は蜜を分泌せず、花粉を利用する[[甲虫]]や[[ハエ目]]、[[ハチ目]]などによって送粉される<ref name="玉木2021" /><ref name="北海道開発局" />。花にはほのかな芳香があるが{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}、匂いの成分には大きな多様性があり、1) [[リナロール]]とリナロールオキシド類、2) β-[[オシメン]]、3) [[リモネン]]、4) [[ベンジルアルコール]]と[[ベンズアルデヒド]]、5) [[ベンジルシアニド]]、6) 2-[[アミノベンズアルデヒド]]をそれぞれ主成分とするものが報告されている<ref name="東2004">{{cite journal|author=東浩司|year=2004|title=モクレン科の花の匂いと系統進化|journal=分類|volume=4|issue=1|pages=49-61|doi=10.18942/bunrui.KJ00004649594}}</ref>。このような多様性と地理的分布との相関はあまりない。コブシは早春に目立つ花をつけるため、匂いの種類の重要性が低く、このような匂いの多様性が生じたと考えられている<ref name="東2004" />。
冬芽は互生し、灰色または黄土色の芽鱗に包まれており、花芽は長い軟毛が、葉芽は短い毛が密生する{{sfn|菱山忠三郎|1997|p=74}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}。冬芽の芽鱗は[[托葉]]に起源するものである{{sfn|長谷川哲雄|2014|p=16}}。花芽は大きくて、長さ2 - 2.5&nbsp;cmの長卵形で枝の先につく{{sfn|菱山忠三郎|1997|p=74}}。葉芽は花芽よりも小さく、枝先や枝のわきにつく{{sfn|菱山忠三郎|1997|p=74}}。芽鱗は[[托葉]]2枚と[[葉柄]]基部が合着した帽子状である{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}。冬芽わきにある葉痕は、V字形や三日月形で維管束痕が8 - 12個つく{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=239}}。


{{multiple image
<gallery>
| total_width = 900
File:P1320268 コブシの実.JPG|果実
| footer =
File:Magnolia C4322.jpg|関東地方
| align = center
ファイル:Kobushi magnolia P4231715.JPG|花(青森)
| caption_align = left
ファイル:Kobushi magnolia P4231729.JPG|花の中心部
| image1 = Bergpark Wilhelmshöhe - Baum 168 2020-04-06 e.JPG
</gallery>
| caption1 = '''1g'''. 花
| image2 = Atlas roslin pl Magnolia japońska 3256 7366.jpg
| caption2 = '''1h'''. 花(左側の花に[[萼片]]が見える)
| image3 = Kobushi magnolia P4231729.JPG
| caption3 = '''1i'''. 雄しべ群と雌しべ群
| image4 = Atlas roslin pl Magnolia japońska 4283 7366.jpg
| caption4 = '''1j'''. 種子が出た果実
}}


[[果実]]はやや扁平な球形の袋果となり、同一の花軸についた数個から十数個の袋果が癒合して長さ 5 - 15&nbsp;cm、所々にこぶが隆起した不整な長楕円形の[[集合果]]となる{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=89}}{{sfn|亀田龍吉|2013|p=28}}{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2018|p=266}}<ref name="勝山2000" /><ref name="大橋2015" />(上図1e, j)。未熟果は緑色であるが、秋(9 - 10月ころ)に果実は赤く熟し、裂開して赤い種皮に包まれた[[種子]]がこぼれ出し、珠柄に由来する白い糸で垂れ下がる{{sfn|田中潔|2011|p=127}}{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}{{sfn|亀田龍吉|2013|p=29}}<ref name="勝山2000" />(上図1j)。種子は腎形から心形、種皮外層は赤く、中層は肉質、内層は黒い{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2018|p=266}}。主に[[鳥]]によって[[種子散布]]されるが、[[テン]]による散布も報告されている<ref name="玉木2021" /><ref name="北海道開発局" />。[[染色体]]数は 2''n'' = 38(2倍体)<ref name="大橋2015" />。
== 栽培 ==
日なたから半日陰を好む性質で、成長速度は速く、土壌の質は全般で根は深く張る{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。増植は、[[実生]]・[[挿し木]]・[[接ぎ木]]による{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。実生は秋に行われ、秋に採取した種を床蒔し、2 - 3年後に定植する{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。挿し木は3月中旬から下旬ころに行い、前年の生枝を15&nbsp;cmほどの長さに切って、地面に挿す{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。定植は、日当たりのよい場所を選んで行われる{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。[[剪定]]は好まないので、1 - 2月か5月に、不要枝を抜き取る程度にする{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。施肥は必要がない{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。丈夫で[[病害虫]]も少なく、手がかからず栽培は容易である{{sfn|辻井達一|1995|p=154}}。


== 利用 ==
== 分布・生育地 ==
[[ファイル:Goka Magnolia Kobus Huge Tree 2.JPG|thumb|right|200px|'''2'''. コブシの巨木([[茨城県]][[猿島郡]][[五霞町]])]]
樹の形が美しく整っていることから、庭木・[[街路樹]]として植栽されるほか{{sfn|西田尚道監修 志村隆・平野勝男編|2009|p=89}}{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}、接ぎ木の台木にされる{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}。特に庭木にすると、コブシの大振りで白い花が[[サクラ]]より早く咲き始めて、春の訪れを楽しめる庭となる{{sfn|山﨑誠子|2019|p=141}}。[[建材]]として、樹皮を付けたまま[[茶室]]の柱に用いられることがある。
[[日本]]の[[北海道]]、[[本州]]([[東海地方]]を除く)、[[九州]](一部のみ)、および[[韓国]]の[[済州島]]の[[温帯]]から[[暖帯]]上部に分布する<ref name="玉木2021" />{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}。丘陵帯から山地帯のやや湿った場所に生育する{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}<ref name="馬場1999" /><ref name="宮内2014">{{Cite journal|author=宮内泰之|year=2014|title=恵泉樹の文化史 (9): コブシ|journal=恵泉女学園大学園芸文化研究所報告: 園芸文化|volume=10|issue=|pages=127-133|naid=120005854769}}</ref><ref name="玉木2020">{{cite journal|author=玉木一郎|year=2020|title=日本の森林樹木の地理的遺伝構造 (28) タムシバ (モクレン科モクレン属)|journal=森林遺伝育種||volume=9|issue=3|pages=105-109|doi=10.32135/fgtb.9.3_105}}</ref>。

自然分布していない地域を含め、[[北海道]]から[[九州]]まで庭や公園に広く植栽され、また街路樹とされる{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}{{sfn|菱山忠三郎|1997|p=74}}。[[ヨーロッパ]]や[[北米]]など海外でも観賞用に植栽されている<ref name="宮内2014" />。
{{-}}
== 人間との関わり ==
=== 栽培 ===
[[ファイル:Bergpark Wilhelmshöhe - Baum 168 2021-04-14.JPG|thumb|right|200px|'''3a'''. 植栽されたコブシ([[カッセル]]、[[ドイツ]])]]
早春の花が美しく、また樹形が整っていることから、公園や庭木、[[街路樹]]として植栽されることもある<ref name="大橋2015" /><ref name="玉木2021" /><ref name="北海道開発局" /><ref name="宮内2014" />{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=89}}{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}。大きくなるため庭木とするには広い空間が必要となるが、大きな白い花が[[サクラ]]より早く咲き始め、春の訪れを楽しめる庭となる{{sfn|山﨑誠子|2019|p=141}}。コブシは1879年に[[ヨーロッパ]]に導入され、また[[北米]]でも盛んに植栽されている<ref name="宮内2014" />(右図3)。

日なたから半日陰を好み、成長速度は速く、土壌の質は全般で根は深く張る{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。増植は、[[実生]]・[[挿し木]]・[[接ぎ木]]による{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。実生は秋に行われ、秋に採取した種を床蒔し、2 - 3年後に定植する{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。挿し木は3月中旬から下旬頃に行い、発葉前の前年枝を15&nbsp;cmほどの長さに切り、地面に挿す{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}<ref name="北海道開発局" />。定植は、日当たりのよい場所を選んで行われる{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。ただし根の支持力は弱く移植は難しいため、移植する場合は前年に根回しをする必要がある<ref name="北海道開発局" />。[[剪定]]は好まないので、1 - 2月か5月に、不要枝を抜き取る程度にする{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。施肥は必要がない{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。丈夫で病虫害も少なく、手がかからず栽培は容易である{{sfn|辻井達一|1995|p=154}}。病虫害はほとんどない<ref name="宮内2014" />。また接ぎ木の台木にされることがある{{sfn|平野隆久監修|1997|p=18}}。


=== 薬用 ===
=== 薬用 ===
==== 生薬「辛夷」 ====
早春に採取した花の[[蕾]]を風通しのよい場所または、天日で乾かしたものは、'''辛夷'''(しんい)という[[生薬]]になり{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}、[[漢方薬]]に配合される。中国では[[モクレン]]、[[ハクモクレン]]、それぞれの蕾の薬物名を辛夷としている{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。[[薬効]]は、[[鎮痛]]、[[鎮静]]、[[鼻炎]]、[[蓄膿症]]、[[頭痛]]、[[めまい]]に効能があるとされる{{sfn|西田尚道監修 志村隆・平野勝男編|2009|p=89}}{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。民間では、1日量2 - 10[[グラム]]の辛夷を300 - 400&nbsp;[[立方センチメートス|cc]]の水で半量になるまで煎じ、1日3回に分けて服用する用法が知られている{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。蓄膿症や[[花粉症]]の[[鼻づまり]]に、よく効くという意見もある{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。また、乾燥した辛夷を粉末にして、1回0.1 - 0.2グラムを白湯で服用してもよいともいわれている{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。身体を温める薬草のため、多量に飲むとめまいや充血を起こすこともある{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。
コブシや[[タムシバ]]、[[シモクレン]]、[[ハクモクレン]]の花の[[つぼみ]]を風通しのよい場所または天日で乾かしたものは、{{読み仮名|'''辛夷'''|しんい}}とよばれる[[生薬]]となり、[[鼻炎]]、[[蓄膿症]]、[[頭痛]]、[[めまい]]に効能があるとされる{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=89}}{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。漢方処方では{{読み仮名|[[葛根湯加川芎辛夷]]|かっこんとうかせんきゅうしんい}}や{{読み仮名|[[辛夷清肺湯]]|しんいせいはいとう}}に配合される<ref name="東京生薬協会">{{Cite web|和書|author= |date= |url=https://www.tokyo-shoyaku.com/wakan.php?id=122 |title=シンイ (辛夷) |website= |publisher=公益社団法人東京生薬協会 |accessdate=2022-03-23}}</ref><ref name="熊本大">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003373.php|title=コブシ|website=植物データベース|publisher=熊本大学薬学部 薬草園|accessdate=2022-03-10}}</ref><ref name="武田">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.takeda.co.jp/kyoto/area/plantno171.html|title=コブシ|website=京都薬用植物園|publisher=武田薬品工業株式会社|accessdate=2022-03-10}}</ref>。民間では、1日量2 - 10[[グラム]]の辛夷を300 - 400[[ミリリットル]]の水で半量になるまで煎じ、1日3回に分けて服用する用法が知られている{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。蓄膿症や[[花粉症]]の[[鼻づまり]]に、よく効くともされる{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。また、乾燥した辛夷を粉末にし、1回0.1 - 0.2グラムを白湯で服用してもよいともいわれている{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。身体を温める薬草のため、多量に飲むとめまいや充血を起こすこともある{{sfn|貝津好孝|1995|p=143}}。コブシの辛夷は、[[アルカロイド]]のコクラウリン、[[モノテルペン]]の[[リモネン]]や[[シネオール]]、[[フェニルプロパノイド]]の[[エストラゴール]]などを含む<ref name="熊本大" /><ref name="武田" /><ref name="長沢1969">{{cite journal|author=長沢元夫|author2=村上孝夫|author3=池田恵子|author4=久田陽一|year=1969|title=辛夷の精油成分の地理的変異に関する研究|journal=藥學雜誌|ISSN=0031-6903|publisher=|volume=89|issue=4|pages=454-459|naid=110003654090|doi=10.1248/yakushi1947.89.4_454|url=https://doi.org/10.1248/yakushi1947.89.4_454}}</ref>。タムシバの辛夷と異なり、[[サフロール]]や[[メチルオイゲノール]]などの芳香族化合物を含まない<ref name="長沢1969" />。[[東北]]東部から[[関東]]北部のものは[[カンフル]]を全く含まないが、東北[[日本海]]側から西日本のものはカンフルを多く含む<ref name="長沢1969" />。

==== その他の薬用 ====
コブシのつぼみは、[[芳香料]]にも利用される{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。


かつて[[アイヌ]]は、[[樹皮]]や[[枝]]を煎じて[[風邪薬]]などとしていた<ref name="北海道開発局" />{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}。ただし、[[樹皮]]は有毒なので注意を要する{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。
蕾(辛夷)は[[芳香料]]になる{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。また花は、香水の原料にもなる。


=== 食用・飲用 ===
=== 食用・飲用 ===
かつてアイヌが[[樹皮]]をお茶のように使って飲用したとも言われている{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}。ただし、[[樹皮]]は有毒なので注意を要する{{sfn|馬場篤|1996|p=53}}。花は[[砂糖漬け]]にしたり、薄く衣をつけて[[天ぷら]]に調理されたりもする{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}。赤い果実などを集めて焼酎などに漬けておくと、一風変わった香りの[[果実酒]]を作ることができる{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}。
花は[[砂糖漬け]]にしたり、薄く衣をつけて[[天ぷら]]に調理されたりもする{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}。赤い種子を集めて[[焼酎]]などに漬けておくと、一風変わった香りの[[果実酒]]を作ることができる{{sfn|辻井達一|1995|p=153}}。


== 文化・文学 ==
=== ===
[[木材|材]]は[[家具]]や[[器具]]、細工物に用いられる<ref name="大橋2015" /><ref name="北海道開発局" />。[[建材]]として、樹皮を付けたまま[[茶室]]の柱に用いられることがある{{要出典|date=2022年3月}}。また[[炭]]は金属研磨用に使われることがある<ref name="北海道開発局" />。
古来より農民との縁が深く、コブシの花の咲き具合に応じて種子を撒くなど、農作業の指標として用いられてきた{{sfn|田中潔|2011|p=127}}。春早く咲いて目立つことから、北海道や[[東北地方]]、[[信越地方]]などで、その年の田植えをはじめるので、「満作」あるいは「田打ち桜」「田植え桜」「種まきザクラ」ともよばれた<ref name="kobe" />{{sfn|辻井達一|1995|p=151}}{{sfn|田中修|2009|p=60}}。栃木県ではコブシが花を咲かせるのを目安に、[[サトイモ]]の植えつけに着手する。それゆえ「芋植え花」と呼ばれる。さらに、コブシの花の咲き具合を見て、農民はその年の豊作を占ったという{{sfn|田中潔|2011|p=127}}。


=== 文化・文学 ===
春の[[季語]]であり、春の訪れを象徴する花として、[[千昌夫]]のヒット曲「[[北国の春]]」にも唄われている{{sfn|田中修|2009|p=60}}。
日本では古来より農民との縁が深く、[[北海道]]や[[東北地方]]、[[信越地方]]などではコブシの開花を田仕事を始める目安とすることがあり<ref name="北海道開発局" />、そのため前述の「田打ち桜」「マンサク」などの異名で呼ばれた<ref name="kobe">{{Cite web|和書|url=http://kobegakuin-yakugaku.jp/yakusouen/pdf/no01.pdf|title=薬草園だより vol.2013.4月創刊号|publisher=神戸学院大学薬学部附属薬用植物園 |accessdate=2020-03-08}}</ref>{{sfn|辻井達一|1995|p=151}}{{sfn|田中修|2009|p=60}}<ref name="北海道開発局" />。また[[佐渡島|佐渡]]では、コブシの花が咲く頃、[[イワシ]]が捕れるとされた<ref name="北海道開発局" />。


アイヌ文化においても、花付きで豊作や豊漁を占う文化があったほか、魔よけのために炉で燃やしたり、窓や戸口、水桶に枝を刺す文化があった<ref>{{Cite web|和書|url=https://ainugo.nam.go.jp/siror/densho/index_sp.php?page=book&book_id=P0247 |title=アイヌの伝承 日本語名:キタコブシ アイヌ語名:オプケニ、オマウクシ二 |accessdate=2022-04-09 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20220409101639/https://ainugo.nam.go.jp/siror/densho/index_sp.php?page=book&book_id=P0247 |archivedate=2022-04-09 |publisher=アイヌ民族文化財団}}</ref>。
コブシの[[花言葉]]は、「友情」とされる{{sfn|田中潔|2011|p=127}}。


コブシ(辛夷)は[[仲春]]の[[季語]]である<ref name="きごさい">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://kigosai.sub.jp/001/archives/4643|title=辛夷(こぶし)|website=きごさい歳時記|publisher=|accessdate=2022-03-11}}</ref>。春の訪れを象徴する花として、[[千昌夫]]のヒット曲「[[北国の春]]」にも唄われている{{sfn|田中修|2009|p=60}}<ref name="宮内2014" />。コブシの花言葉は「愛らしさ」、「友情」、「信頼」である{{sfn|田中潔|2011|p=127}}<ref name="BOTANICA">{{Cite web|和書|author=|date=2020-03-26|url=https://botanica-media.jp/1643|title=マグノリアとは?香り・特徴や花言葉をご紹介!コブシとの違いは?|website=|publisher=BOTANICA|accessdate=2022-03-11}}</ref>。
== コブシモドキ ==
[[File:Magnolia pseudokobus Abe et Akasawa Kobushimodoki.JPG|thumb|150px|コブシモドキ]]
[[File:Kobushimodoki Flower.JPG|thumb|150px|コブシモドキの花]]
'''コブシモドキ'''(学名:''Magnolia pseudokobus'')はモクレン科の落葉高木。コブシの近縁種とされる。コブシの北方型の変種の一つ{{sfn|辻井達一|1995|p=151}}。


== 分類 ==
1948年に阿部近一、[[赤澤時之]]の二人により[[徳島県]][[相生町]]で発見された。発見された当時、株から出た枝が地面を這って、土に接した部分から根が出ていたことから、「ハイコブシ」の別名もつけられた。4月中旬に直径12 - 15&nbsp;cmの花を多く咲かせ、コブシよりやや開花が遅いことなどが特徴。また、葉の大きさもコブシより若干大きめで、長さ20&nbsp;cm、幅8 - 10&nbsp;cm以上ある{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}。その後も何度か再調査が行われたが、発見された一株以外は見つかっておらず、またこれは三倍体であることから種子も出来ないこと、四国にそもそもコブシが自生していないことなどから謎の多い植物として現在も語り継がれている。野生種は既に存在しないと考えられているが、徳島県の相生森林美術館をはじめとした数箇所で当時の株から挿し木などで増やされたものが栽培されている。環境省のレッドデータブックでは野生絶滅(EW)、徳島県のレッドデータブックでは絶滅と評価されている。
=== 学名 ===
コブシの[[学名]]としては、一般的に {{Snamei||Magnolia kobus}} {{AUY|DC.|1817}} が用いられる<ref name="GBIF" /><ref name="PWO" /><ref name="YList" />。ただし、この学名はタイプ指定に問題があり、''Magnolia praecocissima'' {{AUY|Koidz.|1929}} を用いるべきとする意見もある<ref name="Ueda1985">{{cite journal|author=Ueda, K.|year=1985|title=A nomenclatural revision of the Japanese ''Magnolia'' species (Magnoliac.), together with two long-cultivated Chinese species: III. ''M. heptapeta'' and ''M. quinquepeta''|journal=Acta Phytotaxonomica et Geobotanica|volume=36|issue=4-6|pages=149-161|doi=10.18942/bunruichiri.KJ00001078551}}</ref>。


[[モクレン属]]を複数の属に細分する場合は、コブシは ''Yulania'' に分類されることがある(''Yulania kobus'' ({{AU|DC.}}) {{AUY|Spach|1839}})<ref name="PWO" /><ref name="GBIF" />。しかし2022年現在、コブシはふつうモクレン属に含められ、モクレン属のハクモクレン節<ref name="東2003" />(section ''Yulania'')に分類される<ref name="Wang2020" />。

=== キタコブシ ===
[[ファイル:Magnolia kobus 'Borealis' JPG1c.JPG|thumb|right|200px|'''4a'''. キタコブシの葉]]
コブシのうち、[[北海道]]から東日本[[日本海]]側に分布するものは[[葉]]が 10–20 × 6–10 cm とやや大きく薄く、花もやや大きく、[[変種]]'''キタコブシ'''({{Snamei||Magnolia kobus}} var. ''borealis'' {{AUY|Sarg.|1908}})として分けられることがある<ref name="勝山2000" /><ref name="大橋2015" /><ref name="玉木2021" /><ref name="GBIFb">{{Cite web|author=GBIF Secretariat|date=2022|url=https://www.gbif.org/species/3153264|title=''Magnolia kobus'' var. ''borealis'' Sarg.|website=[https://doi.org/10.15468/39omei GBIF Backbone Taxonomy]|publisher=|accessdate=2022-03-11}}</ref>(右図4a)。葉の形態に注目すると、コブシの分布域の中で[[北緯]]36度付近に境界があることが示されている<ref name="玉木2021" />。ただしキタコブシと基変種のコブシの差異はそれほど明瞭ではなく、分類学的に分けないことも多い<ref name="玉木2021">{{cite journal|author=玉木一郎|year=2021|title=日本の森林樹木の地理的遺伝構造 (32) コブシ (モクレン科モクレン属)|journal=森林遺伝育種|volume=10|issue=2|pages=116-119|doi=10.32135/fgtb.10.2_116}}</ref><ref name="GBIFb" />。

核[[マイクロサテライト]]の研究から、コブシは北緯39度付近を境に遺伝的に分けられることが示唆されている<ref name="玉木2021" />。また北方系統は単一の[[葉緑体DNA]][[ハプロタイプ]]から構成されるのに対し、南方系統では3種類のハプロタイプが検出されている<ref name="玉木2021" />。ただし形態的な差異(キタコブシと基変種のコブシ)とこの2つの遺伝型は完全には対応しておらず、北方系統は形態的にキタコブシであるものだけで構成されているが、南方系統にはキタコブシとコブシの両者を含むことが報告されている<ref name="玉木2021" />。

=== コブシモドキ ===
{{multiple image
| total_width = 400
| footer =
| align = right
| caption_align = left
| image1 = Magnolia pseudokobus Abe et Akasawa Kobushimodoki.JPG
| caption1 = '''4b'''. コブシモドキ
| image2 = Kobushimodoki Flower.JPG
| caption2 = '''4c'''. コブシモドキの花
}}
コブシの近縁種として、'''コブシモドキ'''([[学名]]:''Magnolia pseudokobus'' {{AU|S.Abe}} & {{AUY|Akasawa|1954}})が記載されている<ref name="玉木2021" />{{sfn|辻井達一|1995|p=151}}。記載のもととなったコブシモドキの個体は高さ 1 m ほどの低木で株から出た枝が地面を這って土に接した部分から根が出ており(そのため「ハイコブシ」の別名もある)、葉がコブシより若干大きめで長さ20&nbsp;cm、幅8 - 10&nbsp;cm以上、開花期が4月中旬とコブシよりやや遅く花が大きい(直径12 - 15&nbsp;cm)<ref name="玉木2021" />{{sfn|辻井達一|1995|p=152}}(右図4c)。また3倍体であり、[[種子]]を作らない<ref name="玉木2021" />。コブシは[[四国]]には分布していないが、この個体は1948年に阿部近一と[[赤澤時之]]によって[[徳島県]][[相生町]]で発見され、この1個体のみが知られていたが、現在ではこの個体は存在せず、徳島県の[[相生森林美術館]]をはじめとした数箇所で当時の株から挿し木でクローン栽培したものが現地外保存されている<ref name="玉木2021" />(右図4b)。このように栽培されたものは、高さ 15 m、胸高直径 15 cm の直立高木となる<ref name="玉木2021" />。[[環境省]]の[[レッドデータブック]]では、コブシモドキは野生絶滅(EW)、徳島県のレッドデータブックでは絶滅と評価されている<ref name="レッドデータ">{{Cite web|和書|author=|date=|url=http://jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=06030231415|title=コブシモドキ|website=日本のレッドデータ 検索システム|publisher=|accessdate=2022-03-12}}</ref>。

[[細胞核|核]]、[[葉緑体]][[DNA]]の解析からは、コブシモドキはごく最近になってコブシから生じた3倍体であることが示され、植栽個体からの逸出に由来する可能性が高いとされている<ref name="玉木2021" />。そのため、コブシモドキを独立種とはせず、コブシの品種({{Snamei||Magnolia kobus}} f. ''pseudokobus'')とすることが提唱されている<ref name="玉木2021" />。

=== 類似種 ===
[[ファイル:Magnoliaceae - Magnolia stellata rosea.JPG|thumb|right|200px|'''4d'''. [[シデコブシ]]とコブシの交雑品種 ‘Leonard Messel’]]
[[ファイル:Magnolia salicifolia Wadas Memory 2022-04-28 8665.jpg|thumb|right|200px|'''4e'''. [[タムシバ]]とコブシの交雑品種 ’Wada’s Memory’]]
コブシの類似種としては[[シデコブシ]]や[[タムシバ]]があり、系統的にも近縁である<ref name="勝山2000" /><ref name="大橋2015" /><ref name="Wang2020" />。

[[シデコブシ]]は小型で一年枝に毛が密にあり、[[葉]]の先端は突出せず、[[葉柄]]が短く(2–5 mm)、[[花弁]]数がふつう12–24枚と多い点でコブシとは異なる<ref name="勝山2000" /><ref name="大橋2015" />。生育環境は類似するが、シデコブシが分布する東海地方にコブシは自然分布していない<ref name="玉木2021" />。しかしコブシは広く植栽されているため、シデコブシとの種間交雑が起こることがあり、そのような雑種は {{Snamei||Magnolia × loebneri}} {{AUY|Kache|1920}} とよばれる<ref name="宮内2014" /><ref name="行年2016">{{cite journal|author=行年恭兵, 玉木一郎, 石田清 & 戸丸信弘|year=2016|title=国内外来種コブシからシデコブシへの遺伝子浸透の可能性|journal=日本森林学会大会発表データベース 第 127 回日本森林学会大会|volume=|issue=|pages=760|doi=10.11519/jfsc.127.0_760}}</ref>。また園芸においても、コブシとシデコブシの交雑に由来するさまざまな園芸品種(’Leonard Messel‘、’Ballerina‘、’Spring Snow‘、’Merrill’ などの園芸品種)が作出されている<ref name="POWELL">{{Cite web|author=|date=2014-04-11|url=https://powellgardens.org/the-early-kobus-star-magnolias/|title=THE EARLY KOBUS-STAR MAGNOLIAS|website=|publisher=Powell Gardens|accessdate=2022-02-23}}</ref>(右図4d)。

[[タムシバ]]は[[葉]]が細長く葉裏が白色を帯びる点、[[葉芽]]の鱗片が無毛である点、[[花]]の基部に葉がつかない点、[[萼片]]が比較的大きく(花弁長の1/3から1/2)無毛である点などでコブシとは異なる<ref name="勝山2000" /><ref name="大橋2015" /><ref name="玉木2021" />。また生態的にもより乾燥した斜面や尾根に生育する<ref name="玉木2020" />。コブシと生育環境は異なるが分布域は重なっており、ときに自然種間交雑が起こる<ref name="玉木2021" />。コブシとタムシバの雑種はシバコブシ({{Snamei||Magnolia × kewensis}} {{AUY|Pearce|1952}})とよばれ、これに由来する園芸品種もある(’Wada’s Memory’)<ref name="宮内2014" />(右図4e)。
{{-}}
== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
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=== 注釈 ===
<!--=== 注釈 ===
<references group="注釈"/>
{{Reflist|group=注釈}}-->
=== 出典 ===
=== 出典 ===
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<references />


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
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* {{Cite book|和書|author =貝津好孝|title = 日本の薬草|date=1995-07-20|publisher = [[小学館]]|series = 小学館のフィールド・ガイドシリーズ|isbn=4-09-208016-6|page =143|ref=harv}}
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* {{Cite book|和書|author =亀田龍吉|title =木の実の呼び名辞典|date=2013-09-15|publisher =[[世界文化社]]|series =|isbn=978-4-418-13433-5|pages =28 - 29|ref=harv}}
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* [[草川俊]]『有用草木博物事典』[[東京堂出版]]。
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* {{Cite book|和書|author =長谷川哲雄|title =森のさんぽ図鑑|date=2014-03-10|publisher =[[築地書館]]|isbn=978-4-8067-1473-6|page =16|ref=harv}}
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* {{Cite book|和書|author = 馬場篤|others = 大貫茂(写真)|title = 薬草500種-栽培から効用まで|date = 1996-09-27|publisher = [[誠文堂新光社]]|series = |isbn = 4-416-49618-4|page =53|ref=harv}}
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* {{Cite book|和書|author =菱山忠三郎|title =樹木の冬芽図鑑|date=1997-01-07|publisher =[[主婦の友社]]|isbn=4-07-220635-0|pages =74 - 75|ref=harv}}
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* {{Cite book|和書|author =平野隆久監修|title =樹木ガイドブック|date=1997-05-10|publisher =[[永岡書店]]|isbn=4-522-21557-6|page =18|ref=harv}}
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* {{Cite book|和書|author =西田尚道監修 志村隆・平野勝男編|title =日本の樹木|date=2009-08-04|publisher =[[学習研究社]]|series=増補改訂フィールドベスト図鑑 5|isbn=978-4-05-403844-8|page =89|ref=harv}}
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* {{Cite book|和書|author=正木覚 |title=ナチュラルガーデン樹木図鑑|publisher=[[講談社]] |date=2012-04-26 |pages=59 |isbn=978-4-06-217528-9 |ref=harv }}
* {{Cite book|和書|author=正木覚 |title=ナチュラルガーデン樹木図鑑|publisher=[[講談社]] |date=2012-04-26 |pages=59 |isbn=978-4-06-217528-9 |ref=harv }}
* {{Cite book|和書|author=山﨑誠子 |title=植栽大図鑑[改訂版]|publisher=[[エクスナレッジ]] |date=2019-06-07 |pages=140 - 141 |isbn=978-4-7678-2625-7 |ref=harv }}
* {{Cite book|和書|author=山﨑誠子 |title=植栽大図鑑[改訂版]|publisher=[[エクスナレッジ]] |date=2019-06-07 |pages=140 - 141 |isbn=978-4-7678-2625-7 |ref=harv }}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[モクレン属]]:[[タイサンボク]]、[[ホオノキ]]、[[オオヤマレンゲ]]、[[モクレン]] (シモクレン)、[[ハクモクレン]]、[[タムシバ]]、[[シデコブシ]]、[[オガタマノキ]]、[[カラタネオガタマ]]
{{commons|Magnolia kobus}}

* [[木の一覧]]
== 外部リンク ==
* [[シデコブシ]]
{{Commonscat|Magnolia kobus}}
* [[タムシバ]]
{{Wikispecies|Magnolia kobus}}
* [[モクレン]]
* {{Cite web|和書|author=|date=|url=http://www.forest-akita.jp/data/2017-jumoku/07-kobusi/kobusi.html|title=樹木シリーズ⑦ コブシ、タムシバ|website=|publisher=あきた森づくり活動サポートセンター|accessdate=2022-03-13}}
* [[ハクモクレン]]
* {{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-168|title=コブシ|website=みんなの趣味の園芸|publisher=NHK出版|accessdate=2022-03-12}}
* {{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003373.php|title=コブシ|website=植物データベース|publisher=熊本大学薬学部 薬草園|accessdate=2022-03-10}}
* {{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.shigei.or.jp/herbgarden/album/kobushi/album_kobushi.html|title=コブシ (モクレン科)''Magnolia kobus''|website=|publisher=重井薬用植物園|accessdate=2022-03-13}}
* {{Cite web|url=https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:332100-2|title=''Magnolia kobus''|date=|work=Plants of the World Online|publisher=Kew Botanical Garden|accessdate=2022-03-06}}
* {{Cite web|author=GBIF Secretariat|date=2022|url=https://www.gbif.org/species/3153260|title=''Magnolia kobus'' DC.|website=[https://doi.org/10.15468/39omei GBIF Backbone Taxonomy]|publisher=|accessdate=2022-03-06}}


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2024年9月19日 (木) 04:24時点における最新版

コブシ
コブシ(2005年4月)
保全状況評価[1]
DATA DEFICIENT
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : モクレン類 magnoliids
: モクレン目 Magnoliales
: モクレン科 Magnoliaceae
: モクレン属 Magnolia
: ハクモクレン節[2] Magnolia sect. Yulania[3]
: コブシ M. kobus
学名
Magnolia kobus DC.1817[4][5]
シノニム
和名
コブシ(辛夷、拳)[6][7]、ヤマアララギ、コブシハジカミ、タウチザクラ、ヒキザクラ、ヤチザクラ、シキザクラ
英名
kobus magnolia[1], kobushi magnolia[1], northern Japanese magnolia[1]

コブシ(辛夷[8]学名: Magnolia kobus)は、モクレン科モクレン属に属する落葉高木の1種である。早春に、葉が展開する前に他の木々に先駆けて白い大きな花をつける。花は3枚の萼片、6枚の花弁、らせん状についた多数の雄しべ雌しべをもつ。多数の果実が癒合してごつごつとした集合果を形成する。北海道本州九州済州島に分布するが、観賞用として広く植栽されている。ヤマアララギ、コブシハジカミ、タウチザクラなどの別名がある。

名称

[編集]

和名である「コブシ」の由来については、諸説ある[9][10]つぼみの形を握りこぶしに見立てたとする説[8][7]、つぼみが開花する様子を握りこぶしが開く様子に見立てたとする説[10][11]、でこぼこした果実集合果)の形を握りこぶしに見立てたとする説[12][11][7]などがある。和名「コブシ」が、そのまま英名(kobus magnolia)や学名種小名kobus)の基となった。

コブシに対して漢字では「辛夷」を充てるが、中国での「辛夷しんい」はシモクレン(モクレン)のこと、またはそのつぼみを乾燥させた生薬を意味する[6][9][13][14]。またこの名称は後述の生薬の名前ともなっている。中国におけるコブシの名(漢名)は「日本辛夷」である[13]

日本国内における異名

[編集]

赤い実(種子)に辛みがあるため、「ヤマアララギ」(アララギはふつうイチイのこと)、「コブシハジカミ」(ハジカミはサンショウのこと)ともよばれる[9][8][13][7]。地域によってはコブシの花の時期に稲の苗代や種まきをしたことから、コブシは「タウチザクラ(田打桜)」や「タネマキザクラ(種まき桜)」ともよばれた[9][7][15]北海道松前地方では、遠見だと桜に似ているが花期が桜より早いことから、「ヒキザクラ」、「ヤチザクラ」、「シキザクラ」などとも呼ばれる[16]。また同様に桜に先駆けて咲くことと、花付きのよい年には豊作になるとされることから、「マンサク」(「先ず咲く」、「満作」の意)との名もある(標準和名でマンサクとよばれる植物は別の植物である)[16][17]栃木県ではコブシの花が咲く頃を目安にサトイモの植えつけを行ったため、「芋植え花」と呼ばれる[9]

アイヌ語では「オマウクㇱニ(omawkusni)」、「オㇷ゚ケニ(opkeni)」と呼ばれる。前者の原義は「そこ・香気・通る・木」を意味する「オマウクㇱニ(o-maw-kus-ni)」からとされ、後者はその良い匂いに誘われて病魔が来ることを防ぐための忌み名であり、「放屁する・木」を意味する「オㇷ゚ケニ(opke-ni)」を原義とするとされる[18][17]。しかし、前者についても同音で「尻・風・通る・木」とも解釈できることから、当初はどちらも同じ意味で、前者についてだんだんと意味が変化していったのではないか、と考えられている[18]

特徴

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落葉広葉樹小高木から大高木[19][20]。 樹高は 5 - 20メートル (m) [8]、木の幹は1本立ちで直立し、直径はおおむね 20 - 60センチメートル (cm) に達する[21][22](下図1a, b)。生長は比較的速く、も均整に出て整った円錐形から卵形の樹形になるが[10][23]、混生するものは枝ぶりが乱れる[23]。根系の広がりは半径 1 m 程度で根の支持力は弱い[17]樹皮は灰白色、平滑だが皮目がある[10][24][25](下図1c)。若い樹皮は光の当たり具合で白っぽく見える[23]。一年枝は紫緑色、無毛、枝を一周する白っぽい托葉痕が目立つ[23][24]

1a. 樹形(花期)
1b. 樹形
1c. 樹皮

互生、倒卵形から広倒卵形、長さ 5 - 15 cm、幅 3 - 8 cm、全縁でやや波打ち、先端は短く突出し、基部はくさび形[7][8][20][19][10][24][22][25](下図1d, e)。葉の表面は緑色で無毛、裏面は淡緑色で葉脈上に毛がある[22][25]。葉脈は羽状、側脈は8–10対[25]。葉柄は長さ1 - 1.5 cm[24][22][25]。秋には黄葉する[24]。枝や葉には精油が含まれ、葉を揉んだり枝を燃やすと芳香を生じる[15][14][24]。枝や葉に含まれる精油として、d-リモネンシメンシネオールd-ネロリドールカンフルなどが報告されている[26]。葉芽は長さ 1 - 1.5 cm、灰色の伏毛に覆われる[24][27](下図1f)。葉痕はV字形、維管束痕が8 - 12個つく[23][24]。花芽は大きく長卵形、長さ 2 - 2.5 cm、白く長い軟毛で覆われる[24][27][23](下図1f)。芽鱗は托葉2枚と葉柄基部が合着した帽子状の構造である[23](下図1f)。

1d. 葉
1e. 葉と果実
1f. 花芽と葉芽

花期は早春(3 - 4月)、日本産モクレン類の中では早咲きの部類であり[8][15][28]、葉の展開に先だって、小枝の先端に直径 6 - 10 cm のを1個ずつつける[24][22][19][27](下図1g, h)。しばしばの基部に小型の葉が1枚つき[8][10][22](下図1g)、よく似たタムシバは付けないことで見分ける[15]花被片はふつう9枚で3枚ずつ3輪につき、最外輪の3枚は小さく広線形で萼片状(下図1h)、内側の6枚は花弁状、長さ5 - 6 cmと大きく、白色で基部はしばしば淡紅色を帯びる[10][19][15][24][22](下図1g, h)。開花後、数日ほどで花被片は落ちてしまう[7]雄しべは多数、淡黄色、らせん状につく[10][24][22](下図1i)。雌しべも多数、薄緑色、花軸にらせん状につく[24][22][29](下図1i)。花は蜜を分泌せず、花粉を利用する甲虫ハエ目ハチ目などによって送粉される[30][17]。花にはほのかな芳香があるが[19]、匂いの成分には大きな多様性があり、1) リナロールとリナロールオキシド類、2) β-オシメン、3) リモネン、4) ベンジルアルコールベンズアルデヒド、5) ベンジルシアニド、6) 2-アミノベンズアルデヒドをそれぞれ主成分とするものが報告されている[31]。このような多様性と地理的分布との相関はあまりない。コブシは早春に目立つ花をつけるため、匂いの種類の重要性が低く、このような匂いの多様性が生じたと考えられている[31]

1g. 花
1h. 花(左側の花に萼片が見える)
1i. 雄しべ群と雌しべ群
1j. 種子が出た果実

果実はやや扁平な球形の袋果となり、同一の花軸についた数個から十数個の袋果が癒合して長さ 5 - 15 cm、所々にこぶが隆起した不整な長楕円形の集合果となる[8][12][10][32][24][22](上図1e, j)。未熟果は緑色であるが、秋(9 - 10月ころ)に果実は赤く熟し、裂開して赤い種皮に包まれた種子がこぼれ出し、珠柄に由来する白い糸で垂れ下がる[7][19][20][33][24](上図1j)。種子は腎形から心形、種皮外層は赤く、中層は肉質、内層は黒い[32]。主にによって種子散布されるが、テンによる散布も報告されている[30][17]染色体数は 2n = 38(2倍体)[22]

分布・生育地

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2. コブシの巨木(茨城県猿島郡五霞町

日本北海道本州東海地方を除く)、九州(一部のみ)、および韓国済州島温帯から暖帯上部に分布する[30][20]。丘陵帯から山地帯のやや湿った場所に生育する[20][13][25][9][34]

自然分布していない地域を含め、北海道から九州まで庭や公園に広く植栽され、また街路樹とされる[20][27]ヨーロッパ北米など海外でも観賞用に植栽されている[9]

人間との関わり

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栽培

[編集]
3a. 植栽されたコブシ(カッセルドイツ

早春の花が美しく、また樹形が整っていることから、公園や庭木、街路樹として植栽されることもある[22][30][17][9][8][14]。大きくなるため庭木とするには広い空間が必要となるが、大きな白い花がサクラより早く咲き始め、春の訪れを楽しめる庭となる[35]。コブシは1879年にヨーロッパに導入され、また北米でも盛んに植栽されている[9](右図3)。

日なたから半日陰を好み、成長速度は速く、土壌の質は全般で根は深く張る[15]。増植は、実生挿し木接ぎ木による[19]。実生は秋に行われ、秋に採取した種を床蒔し、2 - 3年後に定植する[19]。挿し木は3月中旬から下旬頃に行い、発葉前の前年枝を15 cmほどの長さに切り、地面に挿す[19][17]。定植は、日当たりのよい場所を選んで行われる[19]。ただし根の支持力は弱く移植は難しいため、移植する場合は前年に根回しをする必要がある[17]剪定は好まないので、1 - 2月か5月に、不要枝を抜き取る程度にする[15]。施肥は必要がない[15]。丈夫で病虫害も少なく、手がかからず栽培は容易である[36]。病虫害はほとんどない[9]。また接ぎ木の台木にされることがある[20]

薬用

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生薬「辛夷」

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コブシやタムシバシモクレンハクモクレンの花のつぼみを風通しのよい場所または天日で乾かしたものは、辛夷しんいとよばれる生薬となり、鼻炎蓄膿症頭痛めまいに効能があるとされる[19][13][8][19]。漢方処方では葛根湯加川芎辛夷かっこんとうかせんきゅうしんい辛夷清肺湯しんいせいはいとうに配合される[37][38][39]。民間では、1日量2 - 10グラムの辛夷を300 - 400ミリリットルの水で半量になるまで煎じ、1日3回に分けて服用する用法が知られている[19][13]。蓄膿症や花粉症鼻づまりに、よく効くともされる[13]。また、乾燥した辛夷を粉末にし、1回0.1 - 0.2グラムを白湯で服用してもよいともいわれている[13]。身体を温める薬草のため、多量に飲むとめまいや充血を起こすこともある[13]。コブシの辛夷は、アルカロイドのコクラウリン、モノテルペンリモネンシネオールフェニルプロパノイドエストラゴールなどを含む[38][39][40]。タムシバの辛夷と異なり、サフロールメチルオイゲノールなどの芳香族化合物を含まない[40]東北東部から関東北部のものはカンフルを全く含まないが、東北日本海側から西日本のものはカンフルを多く含む[40]

その他の薬用

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コブシのつぼみは、芳香料にも利用される[19]

かつてアイヌは、樹皮を煎じて風邪薬などとしていた[17][14]。ただし、樹皮は有毒なので注意を要する[19]

食用・飲用

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花は砂糖漬けにしたり、薄く衣をつけて天ぷらに調理されたりもする[14]。赤い種子を集めて焼酎などに漬けておくと、一風変わった香りの果実酒を作ることができる[14]

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家具器具、細工物に用いられる[22][17]建材として、樹皮を付けたまま茶室の柱に用いられることがある[要出典]。または金属研磨用に使われることがある[17]

文化・文学

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日本では古来より農民との縁が深く、北海道東北地方信越地方などではコブシの開花を田仕事を始める目安とすることがあり[17]、そのため前述の「田打ち桜」「マンサク」などの異名で呼ばれた[41][21][42][17]。また佐渡では、コブシの花が咲く頃、イワシが捕れるとされた[17]

アイヌ文化においても、花付きで豊作や豊漁を占う文化があったほか、魔よけのために炉で燃やしたり、窓や戸口、水桶に枝を刺す文化があった[43]

コブシ(辛夷)は仲春季語である[44]。春の訪れを象徴する花として、千昌夫のヒット曲「北国の春」にも唄われている[42][9]。コブシの花言葉は「愛らしさ」、「友情」、「信頼」である[7][45]

分類

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学名

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コブシの学名としては、一般的に Magnolia kobus DC.1817 が用いられる[1][5][4]。ただし、この学名はタイプ指定に問題があり、Magnolia praecocissima Koidz.1929 を用いるべきとする意見もある[46]

モクレン属を複数の属に細分する場合は、コブシは Yulania に分類されることがある(Yulania kobus (DC.) Spach1839[5][1]。しかし2022年現在、コブシはふつうモクレン属に含められ、モクレン属のハクモクレン節[2](section Yulania)に分類される[3]

キタコブシ

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4a. キタコブシの葉

コブシのうち、北海道から東日本日本海側に分布するものはが 10–20 × 6–10 cm とやや大きく薄く、花もやや大きく、変種キタコブシMagnolia kobus var. borealis Sarg.1908)として分けられることがある[24][22][30][47](右図4a)。葉の形態に注目すると、コブシの分布域の中で北緯36度付近に境界があることが示されている[30]。ただしキタコブシと基変種のコブシの差異はそれほど明瞭ではなく、分類学的に分けないことも多い[30][47]

マイクロサテライトの研究から、コブシは北緯39度付近を境に遺伝的に分けられることが示唆されている[30]。また北方系統は単一の葉緑体DNAハプロタイプから構成されるのに対し、南方系統では3種類のハプロタイプが検出されている[30]。ただし形態的な差異(キタコブシと基変種のコブシ)とこの2つの遺伝型は完全には対応しておらず、北方系統は形態的にキタコブシであるものだけで構成されているが、南方系統にはキタコブシとコブシの両者を含むことが報告されている[30]

コブシモドキ

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4b. コブシモドキ
4c. コブシモドキの花

コブシの近縁種として、コブシモドキ学名Magnolia pseudokobus S.Abe & Akasawa1954)が記載されている[30][21]。記載のもととなったコブシモドキの個体は高さ 1 m ほどの低木で株から出た枝が地面を這って土に接した部分から根が出ており(そのため「ハイコブシ」の別名もある)、葉がコブシより若干大きめで長さ20 cm、幅8 - 10 cm以上、開花期が4月中旬とコブシよりやや遅く花が大きい(直径12 - 15 cm)[30][10](右図4c)。また3倍体であり、種子を作らない[30]。コブシは四国には分布していないが、この個体は1948年に阿部近一と赤澤時之によって徳島県相生町で発見され、この1個体のみが知られていたが、現在ではこの個体は存在せず、徳島県の相生森林美術館をはじめとした数箇所で当時の株から挿し木でクローン栽培したものが現地外保存されている[30](右図4b)。このように栽培されたものは、高さ 15 m、胸高直径 15 cm の直立高木となる[30]環境省レッドデータブックでは、コブシモドキは野生絶滅(EW)、徳島県のレッドデータブックでは絶滅と評価されている[48]

葉緑体DNAの解析からは、コブシモドキはごく最近になってコブシから生じた3倍体であることが示され、植栽個体からの逸出に由来する可能性が高いとされている[30]。そのため、コブシモドキを独立種とはせず、コブシの品種(Magnolia kobus f. pseudokobus)とすることが提唱されている[30]

類似種

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4d. シデコブシとコブシの交雑品種 ‘Leonard Messel’
4e. タムシバとコブシの交雑品種 ’Wada’s Memory’

コブシの類似種としてはシデコブシタムシバがあり、系統的にも近縁である[24][22][3]

シデコブシは小型で一年枝に毛が密にあり、の先端は突出せず、葉柄が短く(2–5 mm)、花弁数がふつう12–24枚と多い点でコブシとは異なる[24][22]。生育環境は類似するが、シデコブシが分布する東海地方にコブシは自然分布していない[30]。しかしコブシは広く植栽されているため、シデコブシとの種間交雑が起こることがあり、そのような雑種は Magnolia × loebneri Kache, 1920 とよばれる[9][49]。また園芸においても、コブシとシデコブシの交雑に由来するさまざまな園芸品種(’Leonard Messel‘、’Ballerina‘、’Spring Snow‘、’Merrill’ などの園芸品種)が作出されている[50](右図4d)。

タムシバが細長く葉裏が白色を帯びる点、葉芽の鱗片が無毛である点、の基部に葉がつかない点、萼片が比較的大きく(花弁長の1/3から1/2)無毛である点などでコブシとは異なる[24][22][30]。また生態的にもより乾燥した斜面や尾根に生育する[34]。コブシと生育環境は異なるが分布域は重なっており、ときに自然種間交雑が起こる[30]。コブシとタムシバの雑種はシバコブシ(Magnolia × kewensis Pearce, 1952)とよばれ、これに由来する園芸品種もある(’Wada’s Memory’)[9](右図4e)。

脚注

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出典

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  1. ^ a b c d e f GBIF Secretariat (2022年). “Magnolia kobus DC.”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年3月6日閲覧。
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  3. ^ a b c Wang, Y. B., Liu, B. B., Nie, Z. L., Chen, H. F., Chen, F. J., Figlar, R. B. & Wen, J. (2020). “Major clades and a revised classification of Magnolia and Magnoliaceae based on whole plastid genome sequences via genome skimming”. Journal of Systematics and Evolution 58 (5): 673-695. doi:10.1111/jse.12588. 
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  7. ^ a b c d e f g h i 田中潔 2011, p. 127.
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参考文献

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関連項目

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外部リンク

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