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男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け
監督 山田洋次
脚本 山田洋次
朝間義隆
原作 山田洋次
出演者 渥美清
太地喜和子
岡田嘉子
宇野重吉
音楽 山本直純
撮影 高羽哲夫
編集 石井巌
配給 松竹
公開 日本の旗 1976年7月24日
上映時間 109分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
配給収入 9億7400万円
前作 男はつらいよ 葛飾立志篇
次作 男はつらいよ 寅次郎純情詩集
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男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』(おとこはつらいよ とらじろうゆうやけこやけ)は、1976年7月24日に公開された日本映画。『男はつらいよ』シリーズの17作目。同時上映は『忍術猿飛佐助』。

あらすじ

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寅次郎が旅先で見た夢は『ジョーズ[1]の世界であり、おいちゃん、おばちゃん、満男を殺した人食い鮫が、さらに源公、さくらも殺し、寅次郎は必死に鮫を釣ろうとする。

「とらや」に久々に帰って来た寅次郎は、満男の小学校入学を祝う話題で内輪ゲンカをして、家を飛び出す。憂さを晴らそうと上野駅前の焼き鳥屋で飲んでいたところ、みすぼらしい老人(宇野重吉)が無銭飲食を店員にとがめられるのを目にする。かわいそうに思って支払いを肩代わりし、ハシゴして二人で飲んだ後、家に連れて帰る。

とらやに一晩泊まり、宿屋と間違えた老人は、おいちゃんたちに横柄な態度を取り、ひんしゅくを買う。家族に苦情を言われた寅次郎に説教された老人は、「おわびだ」と言って紙に筆で落書きしたかのように描いた絵を渡す。寅次郞は、老人に「持ってけば、いくらかにはなるから」と指定された神保町の古本屋に出かけ、半信半疑でその紙切れを店の主人(大滝秀治)に見てもらったところ、「7万円で譲って欲しい」と言われ、腰を抜かす。実はこの老人こそ、日本画壇を代表する池ノ内青観画伯だったのだ。

寅次郎が喜び勇んでとらやに戻ると、青観は既に自邸に帰っていた。画伯を身なりで判断し、冷たく帰してしまったことを残念に思う寅次郎たちは、満男が画伯に描いてもらった絵の取り合いをして破ってしまったことをきっかけとして喧嘩になり、そのことを反省した寅次郎はとらやを出て行く。さくらは、絵の代金の7万円を池ノ内家に返しに行く。それほどの大金をもらうだけのもてなしをしていないという理由だった。

寅次郎は、旅先の播州龍野で青観と再会する。龍野出身の画伯は、市で飾る絵を描いてもらいたい[2]と龍野市に招かれていたのだ。画伯に請われる形で、市主催の接待の宴席で杯を傾けた寅次郎は、そこで「ぼたん」という名の美しく気っ風のいい芸者(太地喜和子)と出会い、連日宴席をともにして、親しくなる。寅次郎は、「いずれそのうち所帯を持とうな」と冗談を言って、ぼたんと別れる。

寅次郎は、柴又に帰った後も、龍野での豪遊生活が懐かしく思い出され、腑抜けになってしまうが、ぼたんの突然の来訪に生気を取り戻す。「私と所帯持つ約束したやないの」と冗談を言って現れたぼたんは、とらやで温かく迎えられるが、実はある重大な目的で来ていた。芸者をやって必死に貯めた虎の子の200万円を、客であった鬼頭という悪い男(佐野浅夫)に投資目的で騙し取られ、東京で店をやっている鬼頭に直談判に来たのだ。自分一人では打開できず、その件を告白するぼたんの話に、寅次郎たちは憤慨する。暴力に訴えることも警察に訴え出ることも意味がないと知った寅次郎は、経験豊富なタコ社長をぼたんに同行させるが、したたかな鬼頭は今の財産はすべて自分名義ではないと抗弁して、泣き寝入りさせようとする。

その顛末を聞いた寅次郎は、義憤にかられ、とらやを飛び出す。元々は鬼頭を成敗しに出かけたつもりだったが、鬼頭の居場所が分からない。はたと困った寅次郎は、ある解決策を思いつく。[3]青観の家に向かった寅次郎は、ぼたんの苦境を話し、ぼたんが売却できるような絵を描いてほしいと頼む。それに対し、画伯は難色を示す。「絵を描くということは僕の仕事なんだ。金を稼ぐためのもんじゃない」というのが理由だった。寅次郎は画伯の頭の固さ[4]に暴言を吐いて、画伯の家を後にする。画伯の心に、初めて会った時の寅次郎の見返りを求めない思いやりが突き刺さる。お礼として渡したはずの「7万円」が戻ってきたことも聞いていた。

寅次郎の全力の気持ちに感激したぼたんは、幸せだと涙をこぼし、鬼頭の居場所を知らない寅次郎はどこに行ったのだろうと周囲が疑問に思う中、東京を去る。去り際「寅さん、好きな人おるん?」と尋ねるぼたんに、さくらは何かを感じ取る。同じ日、東京を発つ寅次郎に上野駅までカバンを届けたさくらは、「好きなんじゃないかしら、お兄ちゃんのこと」とぼたんの気持ちを伝える。[5]

龍野を再び訪れた寅次郎は、ぼたんを見つけ、「お前さんと所帯を持とうと思ってやって来たんだよ」と冗談めかすが、ぼたんは真剣な顔をして、バタバタと寅次郎を家に招き入れる。そこには、青観画伯の描いた牡丹の花の絵が飾ってあり、ついこの間送られてきたと言う。市からは200万円で譲り受けたいと言われたそうだが、ぼたんは言う。「私譲らへん。絶対譲らへん。一生宝物にするんや。」寅次郎は、青観のいる東京の方角を向いて、先日の暴言を詫び、心からの感謝を述べるのであった。

キャスト

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ロケ地

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佐藤(2019)、p.623

エピソード

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  • タイトルの「夕焼け小焼け」は、龍野出身の三木露風が作詞した『赤とんぼ』より。市長室に歌詞を大書した額が飾られ、市長の挨拶や市の観光課長の案内の中にも三木露風の話が出てきているし、防災行政無線でも『赤とんぼ』が流れている。
  • 主題歌の2番の歌詞が特殊である。「当てもないのにあるよな素振り それじゃ行くぜと風の中 止めに来るかと後振り返りゃ 誰も来ないで汽車が来る 男の人生一人旅 泣くな嘆くな 泣くな嘆くな影法師 影法師」[疑問点]
  • 第6作で一度だけ登場したタコ社長の長男が、寅次郎と社長の会話で言及されている。
  • 青観と志乃(岡田嘉子)の会話は、本作のみならず、シリーズの名場面の一つ。[7]若い頃志乃と結ばれる道を選ばなかったことへの後悔を語る青観に対し、志乃は人生に後悔はつきもの、「ああすりゃよかったなあという後悔とどうしてあんなことをしてしまったんだろうという後悔」があると言って[8]、慰める。
  • 劇団民藝の重鎮・宇野重吉が、マドンナ以外では極めて異例の「トメ」(出演者最後の1枚クレジット)で迎えられている。宇野と下条正巳は1971年の大量脱退騒動で決裂した仲だが、今回は共演場面もある。和解があったのかどうかは不明だが、今回、同劇団の残留派からは大滝秀治が、脱退派からは佐野浅夫が出演している。その宇野重吉は長男寺尾聡と本作で共演をしている。
  • 岡田嘉子ソ連から帰国後、初めて映画、テレビドラマで役を演じたのが本作である。
  • DVDに収録されている特典映像の「特報」及び「予告編」では以下のような別カットが挿入されている。
    • 龍野を去る寅一行を見送るぼたんのロングバージョン
    • ラストシーン近くで、寅がアイスキャンディを購入する場所が本編では龍野の大きな川の橋であるが、特報では龍野の街の小さな橋になっている。また予告編では、アイスクリームの旗に対し邪魔そうな顔をしているシーンが入っている。
    • おばちゃんが「お茶の一杯も飲ませないで」と言いながらお皿を拭くシーンが本編ではお皿に息を当てている。
    • 冒頭の釣りのシーンでは予告編では「坊主釣れたぞ」という台詞になっているが本編では無い。また本編では海岸側からの撮影になっているが予告編では陸側である。
    • 龍野を再訪する寅次郎がぼたんと再会するシーンで、本編では前方からの撮影であるが、予告編では後方からの撮影になっている。
  • 使用されたクラシック音楽

スタッフ

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記録

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  • 観客動員:168万5000人[9]
  • 配給収入:9億7400万円[10](9億1000万円[9]とも)

受賞

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参考文献

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  • 佐藤利明『みんなの寅さん』(アルファベータブックス、2019)

脚注

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  1. ^ 前年(1975年12月)に公開された。
  2. ^ 「市役所で飾る絵」のようにしている書物もあるが、作中で明言はされていない。龍野市制施行25周年記念の文化事業の一環として、鶏籠山・揖保川などの龍野市の自然を描くようにお願いされている。
  3. ^ 「『社会的不正義』に対して、庶民が見事『人情的な正義感』で対抗した作品」(『完全版「男はつらいよ」の世界』p.143)と評する書物がある。もっとも、金をだまし取った悪党そのものに罰が与えられたわけではないので、「庶民の無力さをあらためて思い知らされるようなストーリー」(『みんなの寅さん 「男はつらいよ」の世界』p.244)という意見も存在する。
  4. ^ 「芸術」と「金を稼ぐ」というジレンマを打ち破るための青観なりの理由づけが、「龍野でいろいろ世話になったから、君にあげる」という絵の添え状の文句だとする考え方もある。(『「男はつらいよ」の幸福論』p.76)
  5. ^ 「今回はフラれない寅次郎ということで、惚れた腫れたの世界にとどまらない新趣向も見られる」(『男はつらいよ 寅さんの歩いた日本』p.52)とする書物もある。具体的には、(1)寅次郎の口から「(ぼたんと)所帯を持つ」という言葉が二度も飛び出す、(2)最後の場面はぼたんと一緒であり、マドンナとの別れの場面がない、(3)従って、「失恋」してとらやを出て行くという場面がない、といった特徴がある。
  6. ^ 「脇田」という苗字で、ぼたんに「お殿様」の子孫として紹介されている。幕末まで龍野藩主を務めた脇坂家が存在する。
  7. ^ 『男はつらいよ魅力大全』(p.30)に、「このシーンがあるかぎり、私は『寅次郎夕焼け小焼け』をベストテンから抜かすことはないだろう」という著者の意見が載っている。
  8. ^ 『男はつらいよ 寅さんの歩いた日本』 (p.52)は、この言葉が恋人との亡命生活という半生を送った「岡田嘉子自身の言葉として聞こえてくる」としている。
  9. ^ a b 日経ビジネス』1996年9月2日号、131頁。
  10. ^ 『キネマ旬報ベスト・テン全史: 1946-2002』キネマ旬報社、2003年、214-215頁。ISBN 4-87376-595-1 

外部リンク

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