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神様のくれた赤ん坊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
神様のくれた赤ん坊
監督 前田陽一
脚本 前田陽一
南部英夫
荒井晴彦
製作 大谷信義
出演者 桃井かおり
渡瀬恒彦
音楽 田辺信一
主題歌 もしかしたら(歌:髙橋真梨子
撮影 坂本典隆
編集 太田一夫
製作会社 松竹
配給 松竹
公開 日本の旗 1979年12月28日
上映時間 91分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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神様のくれた赤ん坊』(かみさまのくれたあかんぼう)は、1979年に公開された松竹製作の日本映画[1]。主演は桃井かおり渡瀬恒彦[2]、監督は前田陽一。同時上映は「男はつらいよシリーズ」24作目『男はつらいよ 寅次郎春の夢[3]

1957年の松竹『集金旅行』のリメイク[1]

小夜子、晋作、新一の3人が東京を出発して西日本を周るロードムービー。旅の目的は、新一の父親探しプラスアルファと、小夜子のルーツをたどること[4]東京都を出発して広島県尾道市大分県中津市別府市熊本県天草市長崎県長崎市佐賀県唐津市福岡県北九州市若松区を巡る[4]

あらすじ

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森崎小夜子は同棲相手・三浦晋作と暮らす東京の自宅に見知らぬ女が現れ、「この子の母親に頼まれて連れてきた」と手紙と男の子・新一を置いて帰ってしまう。手紙には晋作を含めて5人の男の名前と住所が記されており、「新一は、この5人の男性の誰かの子供。父親に新一を引き取って欲しい」と書かれていた。突然男の子の父親候補となった晋作は、新一を引き取ってくれる父親を探すため彼らが住んでいる西日本を巡ることに。晋作から尾道に行くことを聞いた小夜子は、上京前に住んでいた尾道の町や母の故郷などを訪れて自身のルーツをたどるため旅について行くことを決める。

尾道に着いた晋作はさっそく1人目の父親候補・田島に会って新一について話をするが、彼が父親でない証拠を見せられその場を後にする。一方、小夜子は数年ぶりに尾道を訪れて懐かしむが、幼少期に住んでいた別の町の地名が分からず、その後行く先々の町に訪れてはおぼろげな記憶と照らし合わせて探そうとする。次に3人が訪れたのは別府で、その日偶然2人目の父親候補・福田が披露宴を挙げると知って式場に押しかけ約100万円の養育費をもらうことに成功する。

晋作が次の目的地を告げると小夜子が寄って欲しい所があると言い出し、3人は急遽彼女の母の故郷である天草に足を運ぶ。母の生家を見た小夜子はその夜、昔母が歌ってくれた「島原の子守唄」を新一に聞かせて、母との幸せな日々を思い出し目を潤ませる。翌日、再び父親探しの旅に戻った3人は長崎市に訪れ、晋作が3人目の父親候補・桑野に養育費をせびるがケンカになり退散してしまう。一方、天草の住民から若い頃母が長崎市内で働いていたとの情報を得た小夜子は、市内で母を知る人物に会って詳しい話を聞く。

自身が生まれる前後に母が唐津に引っ越したとの情報を掴んだ小夜子は、3人で唐津へ向かい唐津城の城下町を散策する。昔ながらの町並みを見て回る小夜子の脳裏に幼い頃の思い出が蘇り、幼少期に住んでいた町と確信した彼女は懐かしさで胸がいっぱいになる。そして、父親探しの旅もついに最後となり3人は北九州市に向かうが、4人目の父親候補・高田が気が荒い人物と知った晋作は緊張した面持ちに。3人は高田家に訪れると父親候補の男が既に故人だと判明したため、高田の妻・まさに何とか新一を引き取ってもらおうとする。

キャスト

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森崎小夜子
演 - 桃井かおり
駆け出しの女優。24歳。東京で晋作と数年間同棲生活を送っていたが冒頭で同棲を解消する。私生活では度胸があり口も上手く臨機応変な対応を見せるが、女優の仕事ではなぜか日常的にミスをしてスタッフから怒られている。上京する前まで尾道市で自身の母と2人で暮らしていたが、数年前に母は亡くなっており他に身寄りはいない。旅では、自身のルーツをたどるという個人的な目的を果たすため、「城を望む古い町並み」のおぼろげな記憶を頼りに、幼少期に住んでいた町を探す。
三浦晋作
演 - 渡瀬恒彦
小夜子の恋人。芸能事務所でエキストラのバイトをしながらプロの漫画家を目指している。血液型はAB型。左利き。自分勝手でだらしがなく無責任で頼りがない性格で、面倒なことから逃げ出す性分が身についている。旅先での父親候補たちとのやり取りでは、少々脅すような口調で親子関係を認めさせようとしたり、養育費をせびっている。また、冒頭で同棲を解消した小夜子と、旅の間に何とかしてヨリを戻そうと考えている。新一の父親候補の1人だが親子関係を認めたくないため、周りから新一と似ていると言われるたびに否定する。
田中新一
演 - 鈴木伊織(子役)
父親が誰か分からない男の子。年齢は不明だが小学校低学年ぐらい。数日前まで母・あけみと2人暮らししていたが、冒頭で晋作に預けられる。血液型はB型。小夜子からは晋作と鼻がそっくりと言われている。また晋作と同じく左利き。ピンクパンサーの人形と晋作に買ってもらった巨人(プロ野球球団)の帽子がお気に入り。巨人の選手の中では、特に王貞治のファン。晋作に預けられた後、小夜子を含めた3人で父親探しの旅に出る。口数が少なく大人しい性格だが、作中の長崎市でライオンズファンを前にした時は毅然とした態度を見せる。

尾道の人たち

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房江
演 - 正司歌江
美容院の美容師。長年に渡り生前の小夜子の母を自身の店で雇っていたため彼女と親しくしており、小夜子とも顔なじみ。
達夫
演 - 森本レオ
父親の跡を継いで床屋を経営している。小夜子の中学の頃の初恋相手。自身の店で久しぶりに小夜子と再会する。
田島啓一郎
演 - 曽我廼家明蝶
新一の父親候補の1人。元代議士で作中の市長選挙の立候補者。血液型はO型。初めて会った晋作のことを『兄弟』と呼ぶ。
その秘書(田島の秘書)
演 - 河原崎長一郎
代議士から市長への転身を図ろうとする田島を全力で支える。晋作から田島の子供かもしれないと新一のことを聞かされて対応する。

別府の人たち

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福田邦彦
演 - 吉幾三
新一の父親候補の1人。慶応大学法学部卒で現在は父親の事業を手伝う。口が悪い人物で、あけみのことを悪く言う。
福田の父親
演 - 天草四郎
事業で成功しており裕福に暮らしている。披露宴で小夜子が邦彦の過去の恋愛話を暴露しそうになったため臨機応変に対応する。

天草の人たち

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天草の老人
演 - 日野道夫
小夜子の母の生家の近所に住む老人。小夜子の母について知る人物。モウロクしているのか耳が遠いのかは不明だが会話が少々噛み合わない。
旅館の女中
演 - 小林トシ江
小夜子たち3人が宿泊する旅館で働く。女中だが客の小夜子と彼女の部屋で酒を酌み交わし、『島原の子守唄』を歌唱する。
おでん屋の女将
演 - 伊藤昌子
晋作が訪れるおでん屋で1人で働く。夜の相手をする女性を探す晋作に店の2階に案内し女性を紹介し、自らが夜の女になり晋作に近付く。

長崎市の人たち

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果物屋
演 - 小松政夫
晋作に聞かれて桑野が一時野球で地元の英雄的存在になったことを熱く語る。プロ野球チームの西武ライオンズのファンで、アンチ巨人軍。
桑野弘
演 - 小島三児
新一の父親候補の1人。バーのバーテンとして働く。元高校球児でその後ライオンズに入団し、一時は『稲尾二世』と言われるほど活躍を期待されていた。
クラブの客
演 - 片桐竜次
桑野が働く店の客。熱狂的なライオンズファン。桑野の店で同じく自身と同じ熱狂的ファンでケンカ騒ぎを起こす。
お好み焼き屋の老婆
演 - 武知杜代子
お好み焼き屋を切り盛りする女性。若い頃の小夜子の母を知る人物で小夜子に当時の母について話す。
童貞の青年(志麻哲也)、サラリーマン風の男(横山あきお
ある晩小夜子が夜の街に一人でいた時に声をかけてくる男たち。

北九州市の人たち

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高田ごろう(登場人物の会話の中にだけ登場)
新一の父親候補の1人。既に故人。生前は高田組2代目だった。ただし、実際には名ばかりの肩書きで、日頃は好き勝手に遊び回っていた。
高田幾松
演 - 嵐寛寿郎
新一の父親候補者・高田ごろうの父。お年寄りだが威厳のある人物。訪ねてきた晋作たちにごろうが既に故人であることを告げる。
高田まさ
演 - 吉行和子
高田組の3代目。夫の死後、海運会社・高田組の経営者となり男たちを仕切る。基本的にはサバサバした性格だが、心の奥では夫への不満を抱いている。

その他の人たち

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小夜子の母(ちよ)
演 - 楠トシエ
故人。天草出身で小夜子が生まれてから3,4年間を唐津で暮らし、その後は尾道で美容師として働きながら女手1つで娘を育て上げた。明朗快活な性格だがいざとなると男相手に闘うなど小夜子にとって頼りになる愛すべき母だった。晋作によると「(晋作のことを)嫌っていて、おっかない人だった」と評されている。
あけみ(登場人物の会話の中にだけ登場)
新一の母。過去に晋作を含めた5人の男性と関わりがあった恋多き女。自身が東京にいた頃に父親候補たちそれぞれと関係があったとされ、晋作と付き合っていた当時は高田馬場のバーで働いていた。マンションの隣人によると男と駆け落ちして中南米の国に渡ったとのこと。血液型はB型。
子供を連れてくる女
演 - 樹木希林
あけみと同じマンションの隣人。あけみが書いた手紙を持って新一の父親候補である晋作の部屋を訪れ、手紙を代読した上で父親候補の晋作に新一を預ける。
大津
演 - 泉谷しげる
晋作と同じ芸能事務所のバイト仲間。様々なイベント会場の客のフリをして場を盛り上げる仕事を行う。
芸能社の社員
演 - 成瀬正(現:成瀬正孝)
晋作が所属する芸能社『あすなろ芸能社』の社員。晋作たちにその日の仕事のスケジュールを伝えたり、仕事のやり方を伝える。

スタッフ

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主題歌

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ロケ地

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近年の映画のようにタイトルロールで、撮影協力などの表記がされないため、本編を見て分かる範囲(以下、演者は俳優名で表記)。

※ロケは豊富だが、飲食店やホテルの部屋など、途中室内シーンも多く、これらは撮影所のスタジオと見られる。

作品の評価

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興行成績

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シティロード』1979年11月号に「完成しながら公開のメドがたたなかった前田陽一監督、桃井かおり、渡瀬恒彦主演の『神様のくれた赤ん坊』が『男はつらいよ 寅次郎春の夢』の併映作品に決定した」と書かれている[2]。その『男はつらいよ 寅次郎春の夢』との併映作でもあり[3]、松竹系としては最大級の全国221館で拡大公開され[3]、7週と2日間(51日)の上映[3]、興行的にも成功した[3]。『年鑑代表シナリオ集'79』には「この年、松竹が自社製作した12本のうち健闘した一本」と書かれている[5]

批評家評

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桂千穂は「『神様のくれた赤ん坊』は〈怒鳴り屋〉なる珍商売の渡瀬恒彦が身に憶えのある赤ん坊を押しつけられ、父親と目される他の男たちをたずねて尾道を皮切りに九州へ。テレビタレントの卵桃井かおりと幼い日に母親と暮した瞼の故郷を求めて旅する。子供を想う屈折した感情と、母親に捨てられた子供に対する哀れさが次第にダブってきて、一旦人手に渡した子供を取りもどすかおりの心の軌跡は、心憎いほどくっきり出ている。渡瀬青年も旅をしているうちに、父親としての愛に目覚めていくのだが、その心理過程がかおりほど鮮明に描かれてないので、二人が子供を取り返しにいく切っ掛けとなるかおりのセリフ〈私たちもしかして同じことを考えているんじゃないかしら〉が、ビシッとキマらないのが残念。しかし近来稀にみるおもしろいコメディなのは確か」などと評している[4]

備考

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  • タイトルでは『赤ん坊』となっているが、新一役として実際に登場するのは小学校低学年ぐらいの子供で、まさか作り手がこのような大きな子供に対して『赤ん坊』とタイトルを付けることには別の意味があるのか、単にロケに赤ん坊を連れ回すのが困難と判断されたか分からない。赤ん坊なら問題なかったが、この年齢の子供にすると、母親から父親のことを聞いていたりとか、急にいなくなったりとか、別の展開も予想されるが、この子を「おしっこ」程度しか喋らせないおとなしい子という都合のいい設定にしている。本作では父親が誰か分からない男の子と5人の父親候補との親子関係がストーリーに絡んでくるが、専門家による親子鑑定のような検査はない。晋作たち一般人がABO式血液型を用いて「この血液型の親からB型の子供は生まれない」などの簡単な説明があるぐらいである。さほど裕福には見えない渡瀬が子供を連れて大金をかけ旅行をするぐらいなら、病院へ行って鑑定すれば済む話なのではと思われたが、物語が進むと、各地の父親候補から養育費と称して金をせびる恐喝目的の旅だと分かる。最初はそういう目的を含んだものかは描写されないが、最初の訪問地・尾道で成功したことで発想したものと見られ、これが観る側にハッキリ示されるのは三分一程度進んだ別府で結婚式場に乗り込み、御祝儀をごっそりせしめるシーンからである。以降は、渡瀬は父親候補から金を強請り、タッグを組む桃井はこれとは別に自身の過去を巡る旅という目的がメインとなる。幼少期の記憶に強く残るお城がどこなのか、各地のお城を訪ねて記憶と一致する場所を探す。母親が熊本県の天草生まれで、記憶にあるのが尾道からのため、それはその間の西日本のどこかで、そこが自身の生まれた場所であろうと想像している。このプロットは、尾道パートで美容師役の正司歌江が話す『ルーツ』の影響で、日本でもルーツ旅行が多少流行ったことをヒントに加えたのかも知れない。
  • 冒頭に小さな川に架かる橋の上をかぐや姫の「神田川」を大きな声で歌いながら歩くカップルが登場することから、主人公2人が同棲中のアパートは神田川の畔と見られる。このカップルに渡瀬がアパートの2階から「ナ・ツ・メ・ロ歌うな!このバカとブス!」と叫ぶシーンがある。

受賞

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脚注

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  1. ^ a b c d e f g h <あの頃映画 松竹DVDコレクション>神様のくれた赤ん坊(DVD) | 松竹DVD倶楽部(Internet Archive)、【作品データベース】神様のくれた赤ん坊神様のくれた赤ん坊 松竹DVD倶楽部
  2. ^ a b 「新作進行状況 正月作品決まる。」『シティロード』1979年11月号、エコー企画、23頁。 
  3. ^ a b c d e 「製作・配給界 邦画製作界 松竹/製作配給界(邦画) 松竹」『映画年鑑 1981年版(映画産業団体連合会協賛)』1980年12月1日発行、時事映画通信社、98、104頁。 
  4. ^ a b c 桂千穂「邦画傑作拾遺集(9)」『シナリオ』1980年3月号、日本シナリオ作家協会、141–142頁。 
  5. ^ 日本シナリオ作家協会編「作品解説〈1979年概観〉 文・鬼頭麟兵」『年鑑代表シナリオ集'79』ダヴィッド社、1987年、283-294頁。 

外部リンク

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