緊急脱出スライド
緊急脱出スライド(きんきゅうだっしゅつスライド)は、航空機に装備されている緊急脱出用装置。
概要
[編集]旅客機などの非常口の下部にあり、不時着や火災などの緊急時に展開してすべり台として乗員・乗客を機外に脱出させる機能を有する。多くの場合は自動化されており、非常口を開けると自動的にガスによってスライドが膨張し、展開する[1]。航空機の両側のドアに装備されているが、アメリカ連邦航空局 (FAA) および欧州共同航空当局 (JAA) の規定では、片側の非常口から90秒以内に乗客全員を脱出させることが絶対的な条件とされており、事実上の世界的な規格となっている。多くの航空事故の際に機能し、数多くの乗員・乗客を救ってきた実績がある。
なお、不時着水などの陸地以外で脱出が必要となった場合に備え、スライドがそのままサバイバルキットを備えたいかだになるものも存在する[2]。
利用方法
[編集]腕を前にして足を肩幅程度に広げ、滑り落ちる。乗客は手ぶらでの利用を求められ、手荷物は持ち出さないよう離陸時に利用方法とともに案内され、注意喚起が行われる。非常口の近くの乗客は、航空会社から緊急時にスライドの下で援助するよう予約時に指名・依頼されることがある[3]。なお、客室乗務員には、定期的にスライドの利用についての研修受講が義務づけられている[4]。
緊急脱出スライドをめぐる事故・事件
[編集]2010年8月9日には、ジョン・F・ケネディ国際空港に着陸直後のジェットブルー航空の機内で客室乗務員と乗客が口論し、客室乗務員が機外へ緊急脱出スライドを開いて逃走する事件が発生した[5]。
2012年3月28日、日本の長崎空港に駐機していたピーチ・アビエーション機の客室乗務員が誤って緊急脱出用スライドを展開。修理のため機体のやり繰りができず、数日間にわたり運休便が相次いだ[6]。
2019年12月5日には、マサチューセッツ州ミルトンの住宅地に飛行中のデルタ航空機からスライドが脱落して民家の庭に落下する事件が発生した。ケガ人はいなかったが庭木が数本折れており、住民が巻き込まれれば死傷は避けられない状況にあった[7]。
脚注
[編集]- ^ “緊急脱出のための装備”. 日本航空. 2019年12月16日閲覧。
- ^ “緊急脱出や救命ボート、普段は目にしない非常時用の食糧試食などJALの最新の訓練設備を体験レポ”. Gigazine (2017年3月12日). 2019年12月16日閲覧。
- ^ “「知っておきたい 旅客機の緊急脱出」(くらし☆解説)”. NHK解説委員室 (2016年8月4日). 2019年12月16日閲覧。
- ^ “万が一の事態に備えて飛行機の客室乗務員が受けるめちゃくちゃ本格的な緊急脱出訓練をJAL(日本航空)施設で体験してみた”. Gigazine (2012年11月20日). 2019年12月16日閲覧。
- ^ “乗客にののしられ逆上、客室乗務員がシューターで脱出して逮捕される 米国”. AFPBB. (2010年8月10日)
- ^ “ピーチ欠航 少ない機材…LCCの弱点、早くも露呈”. Sankei Biz (2012年3月30日). 2020年4月6日閲覧。
- ^ “米デルタ航空の緊急脱出スライド、民家の庭に落下”. CNN (2019年12月5日). 2019年12月16日閲覧。