農水省オウムソング事件
農水省オウムソング事件(のうすいしょうオウムソングじけん)は、1997年(平成9年)5月に起きたインターネット事件。国内初のサイバーテロとする向きもあるが、政府公式見解ではない(サイバーテロ評議会)。農林水産省のウェブ掲示板に、オウム真理教の曲が流れるよう細工が行われた。
農林水産省(以下農水省とする)が1997年(平成9年)3月27日に開設した「『食料・農業・農村』について一言申し上げたい」と題した掲示板コーナーでは、4月中旬から諫早湾干拓事業をめぐって論戦が繰り広げられていた。そうした中、5月23日と5月26日に、掲示板を閲覧するとオウム真理教の音楽である「尊師マーチ」が流れ出すという事態が発生[1]、マスコミ・警察等を巻き込んで事件へと発展した。
経緯
[編集]事件前、意見闘争の真っ只中であった農水省掲示板は、当時アンダーグラウンド系であった大手掲示板の「あやしいわーるど」に紹介されている。これにより「あやしいわーるど」から悪戯者が農水省掲示板へと流れ、騒ぎを大きくする原因となった。
その中には、この事件の真犯人と言われる「アリス・リデル」というハンドルネームのハッカーも含まれた。この人物は農水省掲示板のセキュリティが高くない事に着目し「embed」というHTMLタグを用いて「aumhymn.mid」というMIDIファイルへのリンクを行ったという。結果として閲覧者のパソコンからはオウムソングが流れ出すこととなったが、この手法自体はHTMLの少々の知識で簡単に行えてしまうものであり、クラッキング等ではなく、細工に過ぎなかった。
「aumhymn.mid」は地下鉄サリン事件当時に、教団とは無関係の第三者によって作られたもので、曲こそオウム真理教のものであったが、アレンジなどを見てもまったく教団とは関係のないものであった[脚注 1]。
本来なら「誰かのイタズラ」で終わってしまう程度の話だが、新聞、テレビなどのマスコミが取り上げたことで事件化した。当時のマスコミはインターネット関連の技術に詳しくなく、「ホームページから怪しい音楽が流れた」ことだけが注目され、かつオウム関係ニュースに新たな展開が欲しかったことも関係し、「農水省Webがハッキングされた」として報じてしまったのである。 ただし、毎日新聞は、
書き込みの中に表面上は見えない制御文字を忍び込ませる手口。この制御文字はオウム真理教ホームページの中にある曲「尊師マーチ」を読み込ませるようになっており、掲示板を開くと「ソンシ、ソンシ」と流れる仕掛けになっていた。 — 毎日新聞[1]
と報じている。
これにより本件は警察の関与する事件となったが、捜査の末行われたのは、オウム真理教信者宅への家宅捜索であった。これについて、オウムや後にオウム真理教信者である事が発覚した河上イチローは自著、「サイバースペースからの挑戦状」の中で「警察は真犯人を知りつつ、教団への捜査介入の口実として使った」と非難したが[3]、当時の警察がサイバー犯罪捜査に明るくなかっただけである、との見方もあり真相は不明である。事件的に本件は、オウム真理教関係者の犯行として決着している。
本件がサイバーテロであるという触れ込みは、サイバーテロ対策協議会(警視庁)の前身であり経済産業省内に設置されていた調査会の資料に、他数件の事件と共に掲載されていたことが発端であった。この資料は2001年(平成13年)の協議会設立とともに削除されたため現存しておらず、サイバーテロ対策協議会では、現在までのいずれの事件も公式にはサイバーテロと認めていない。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 麻原彰晃マーチ、エンマの数え歌、真理教・魔を祓う尊師の歌のメドレーにウルトラマンの主題歌「ウルトラマンのうた」がリミックスされている。元来は1995年に制作されパソコン通信などで同名のWRDファイルなどとともに出回っていたものである。MIMPIなどのソフトウェアを用いることで再生と同時に歌詞やタイトルを表示することができる(冒頭でオウム真理教のロゴマークを模したアスキーアートも表示される)が、オウムソングの詳細が判明していない時期に制作されたため本来のものと異なるほか、一部原曲に存在しない独自の歌詞・メロディーも含まれている。冒頭の表示によれば「ちゃっく ^^v」というハンドルネームの人物によるアレンジとなっている[2]。
出典
[編集]- ^ a b “農水省ホームページに「オウムの曲」 開けると「ソンシ、ソンシ」”. 毎日新聞 大阪本社版 第41129号 朝刊 (大阪市: 毎日新聞社大阪本社). (1997年5月27日)
- ^ オウム真理教賛歌(メドレー) - ニコニコ動画
- ^ 宗教団体・アレフ 過去のお知らせ 1996年