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長柄郡

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
千葉県長柄郡の位置

長柄郡(ながらぐん)は、伊甚屯倉の分割により成立した上総国千葉県)の古代からの明治維新を経て、1897年明治30年)上埴生郡と合併、長生郡が発足し廃止された。

古代

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日本書紀』卷18安閑天皇元年(534年)4月1日条には伊甚屯倉献上の記事があり、南側の夷隅郡を中心とする地域に屯倉が設けられたが、文末に「今分ちて郡として、上総国に属く」とあるので、伊甚屯倉は夷隅郡のみならず、当郡や埴生郡にもおよぶ広大な屯倉であったと推測され、その分割により当郡も成立したとみられている[1]

万葉集』巻二十には、当郡出身の防人上丁若麻續部羊の歌「庭中の阿須波の神に小柴さし我れは斎はむ帰り来までに」(万葉集 防人歌 20-4359)がみえる[2][3]

郡域には、藤原黒麻呂とその子春継が買得した田代荘があり、『朝野群載』所収の寛平2年8月5日の施入帳によれば、子孫の菅根らが藻原荘とともに興福寺に施入したという[3]

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和名類聚抄』に記される郡内の(6郷)。

刑部、管見、車持、兼施、柏原、谷部

式内社

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延喜式神名帳に記される郡内の式内社

神名帳 比定社 集成
社名 読み 付記 社名 所在地 備考
長柄郡 1座(小)
橘神社 タチハナノ 橘樹神社 千葉県茂原市本納 上総国二宮

明治維新後

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1878年明治11年)に行政区画として発足した当時の郡域は、現在の行政区画では概ね以下の区域にあたる。

近代以降の沿革

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  • 旧高旧領取調帳」に記載されている明治初年時点での上総国長柄郡の支配は以下の通り。●は村内に寺社領が、○は寺社除地(領主から年貢免除の特権を与えられた土地)が存在。下記の他、山崎村、村田新田が「往古ヨリ埴生郡ニ属ス」との注釈つきで掲載。
知行 村数 村名
幕府領 幕府領 20村 北山田寺崎新田、驚北野村、驚大村、蟹道村、新屋敷村、城之内村、溝代村、原村、大坪村、前里村、畑中村、中島村、兵庫内村、高塚村、初崎村、新地村、一ツ松惣郷持、下吉井村、観音寺村、永吉村新田
旗本領 61村 ○大津蔵村、金谷村、○田代村、岩井村、北山田村、木崎村、徳増村、力丸村、国府里村、早野村新田、味庄村、千沢村、芦網村、小八斗村新田、箕輪村、上野村、山之郷村、舟木村、高師村、国府関村、●鷲巣村、江本村、●寺崎村、庄吉村、○一ツ松村、北四箇村、宮原村、●鴇谷村、長富村、千代丸村、七渡村、綱田村、小榎本村、中原村、上市場村、小滝村、河須ヶ谷村、●長柄山村、六地蔵村、中ノ台村、神房村(榎神房村とも)、真名村、●笠森村、南清水村、黒戸村、大登村、深沢村、高山村、天子丸村、小泉村、南日当村、押日村、立鳥村、猿袋村、針ヶ谷村、○初柴村、皿木村、大谷木村、福島村、小萱場村、南吉田村
幕府領・旗本領 27村 粟生野村、浜宿村、御蔵芝村、内長谷村、牛込村、八斗村、渋谷村、南九箇村、船頭給村、新笈分村、東浪見村、北塚村新田(北塚村とも)、大芝村、●茂原村、信友村、川島村、上吉井村、桂村、和泉村、五井村、中里村、剃金村、幸治村、北水口村、驚村、高田村、●七井戸村
幕府領・旗本領・与力給地 2村 ●刑部村、●本納村
藩領 上総鶴牧藩 2村 曾根新田、木崎新田
下総生実藩 1村 長谷村
出羽長瀞藩 1村 弓渡村
幕府領・藩領 幕府領・旗本領・鶴牧藩 2村 古所村、北高根村
幕府領・旗本領・鶴牧藩・安房館山藩 2村 関村、金田村
幕府領・旗本領・上総一宮藩 3村 入山須村、藪塚村、長尾村
幕府領・旗本領・館山藩 1村 高根本郷村
幕府領・旗本領・武蔵吉井藩 1村 下ノ郷村
幕府領・鶴牧藩 4村 岩沼村、江尻村、久手村、貝塚村
幕府領・一宮藩 2村 ●本郷村、新笈村
幕府領・一宮藩・館山藩 1村 水口村
旗本領・鶴牧藩 18村 萱場村、宮成村、●上ノ郷村、柴名村、本小轡村、小轡新田村、千町野新田・町保新田(併記されているが、前者は千盛新田の一部か)、小林川上新田、上福新田、総寿新田、国昌新田、千盛新田、新久新田、田永新田、新小轡村、北日当村、腰当村、大庭村
旗本領・鶴牧藩・館山藩 1村 千町村
旗本領・鶴牧藩・武蔵岩槻藩 1村 法目村
旗本領・一宮藩 4村 ●椎木村、上太田村、●下太田村、小林村
旗本領・吉井藩 2村 桜谷村、山根村
鶴牧藩・長瀞藩 1村 谷本村
  • 慶応4年7月2日1868年8月19日) - 鶴舞藩領の全域、幕府・旗本領の一部(寺崎村、中里村、本納村の全域、高山村、立鳥村、大庭村の各一部)、鶴牧藩領の一部(岩沼村、江尻村、久手村、大庭村、金田村)、館山藩領の一部(水口村)を除く全域が一旦安房上総知県事の管轄となる。以降の藩の設置にはすべて旧寺社領、寺社除地も含む。
  • 明治元年9月21日(1868年11月5日) - 遠江浜松藩、遠江横須賀藩転封。それぞれ上総鶴舞藩安房花房藩となる。また、鶴牧藩で領地替えが行われ、郡内の各村は以下の管轄となる。
知行 村数 村名
政府管轄領 安房上総知県事 76村 木崎村、高根本郷村、萱場村、宮成村、早野村新田、粟生野村、千沢村、椎木村、浜宿村、御蔵芝村、牛込村、八斗村、小八斗村新田、渋谷村、北四箇村、驚北野村、驚大村、蟹道村、新屋敷村、城之内村、溝代村、原村、大坪村、前里村、一ツ松惣郷持、東浪見村、北塚村新田、曾根新田、大芝村、信友村、七渡村、綱田村、中原村、古所村、上吉井村、下吉井村、柴名村、桂村、神房村、上太田村、下太田村、本小轡村、小轡新田村、千町野新田・町保新田、小林川上新田、上福新田、総寿新田、国昌新田、千盛新田、新久新田、田永新田、木崎新田、南清水村、天子丸村、小泉村、千町村、新小轡村、南日当村、北日当村、五井村、関村、観音寺村、腰当村、永吉村新田、剃金村、幸治村、福島村、小萱場村、北水口村、驚村、高田村、法目村、長尾村、弓渡村、谷本村、南吉田村
藩領 鶴舞藩 39村 大津蔵村、金谷村、田代村、徳増村、力丸村、国府里村、味庄村、内長谷村、長谷村、芦網村、箕輪村、上野村、山之郷村、刑部村、舟木村、高師村、国府関村、鷲巣村、江本村、庄吉村、茂原村、桜谷村、鴇谷村、長富村、千代丸村、小榎本村、長柄山村、六地蔵村、中ノ台村、真名村、笠森村、押日村、立鳥村、針ヶ谷村、初柴村、大庭村、皿木村、中里村、本納村
花房藩 27村 岩井村、北山田村、北山田寺崎新田、岩沼村、寺崎村、南九箇村、新笈分村、江尻村、畑中村、中島村、久手村、貝塚村、兵庫内村、高塚村、初崎村、新地村、宮原村、川島村、上市場村、小滝村、河須ヶ谷村、黒戸村、大登村、深沢村、猿袋村、大谷木村、七井戸村
鶴舞藩・花房藩 1村 金田村
鶴牧藩・鶴舞藩・花房藩 1村 高山村
政府管轄領・藩領 安房上総知県事・鶴牧藩 1村 北高根村
安房上総知県事・鶴舞藩 3村 本郷村、和泉村、小林村
安房上総知県事・花房藩 8村 水口村、新笈村、一ツ松村、船頭給村、入山須村、上ノ郷村、下ノ郷村、藪塚村
安房上総知県事・鶴舞藩・花房藩 1村 山根村
  • 明治初年に小八斗村新田が八斗村に編入。曽根新田が曽根村に改称。
  • 明治2年
    • 2月9日1869年3月21日) - 安房上総知県事が宮谷県となる。
    • 元和年間まで一ツ松村1村であった一ツ松村、北四箇村、驚北野村、驚大村、蟹道村、新屋敷村、城之内村、溝代村、原村、大坪村、前里村、一ツ松村惣郷持、南九箇村、新笈分村、江尻村、畑中村、中島村、久手村、貝塚村、兵庫内村、高塚村、初崎村、新地村、船頭給村、入山須村の各村より再統合の嘆願があり許可される。ただし、原村のみ同年高根本郷村に編入。
    • 町保新田が町保村に改称。
  • 明治3年 - 小林川上新田が上林村に改称。
  • 明治4年
  • 1873年(明治6年)6月15日 - 木更津県が印旛県に統合して千葉県が発足。
  • 1874年(明治7年) - 初柴村が針ヶ谷村に編入。
  • 1875年(明治8年) - 上福新田、総寿新田、国昌新田、千盛新田、新久新田、田永新田、木崎新田が合併して六ッ野村が成立。
  • 1876年(明治9年) - 観音寺村が関村に編入。
  • 1878年(明治11年)
    • 11月2日 - 郡区町村編制法の千葉県での施行により、行政区画としての長柄郡が発足。「長柄上埴生郡役所」が茂原町に設置され、上埴生郡とともに管轄。
    • 上吉井村、下吉井村が合併して吉井村が成立。
  • 1881年(明治14年) - 本郷村、新笈村が合併して一宮本郷村が成立。
  • 1883年(明治16年) - 小轡新田村が小轡村に改称。

町村制以降の沿革

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1.東浪見村 2.太東村 3.一宮本郷村 4.土睦村 5.一松村 6.八積村 7.高根本郷村 8.東郷村 9.関村 10.白潟村 11.南白亀村 12.豊岡村 13.帆丘町 14.新治村 15.豊田村 16.二宮本郷村 17.上長柄村 18.茂原町 19.日吉村 20.水上村(紫:茂原市 水色:いすみ市 黄:一宮町 緑:睦沢町 赤:長生村 橙:白子町 青:長柄町 桃:長南町)
  • 1889年(明治22年)4月1日 - 町村制の施行により、長柄郡に以下の町村が発足。(2町18村)
    • 東浪見村 ← 東浪見村、綱田村(現・長生郡一宮町)
    • 太東村 ← 椎木村、和泉村、中原村(現・いすみ市)
    • 一宮本郷村(単独村制。現・長生郡一宮町)
    • 土睦村 ← 下之郷村、上之郷村、大谷木村、北山田村、北山田寺崎新田、上市場村、寺崎村、岩井村、川島村、小滝村、河須ヶ谷村(現・長生郡睦沢町)
    • 一松村(一ツ松村が単独村制。現・長生郡長生村、長生郡一宮町)
    • 八積村 ← 金田村、信友村、水口村、北水口村、藪塚村、七井戸村、岩沼村(現・長生郡長生村)、宮原村(現・長生郡一宮町)
    • 高根本郷村 ← 高根本郷村、宮成村、小泉村、曽根村、中之郷村(現・長生郡長生村)
    • 東郷村 ← 谷本村、千町村、町保村、六ツ野村、小轡村、新小轡村、木崎村、本小轡村、七渡村(現・茂原市)
    • 関村 ← 関村、北高根村、北日当村、南日当村、福島村(現・長生郡白子町)
    • 白潟村 ← 中里村、驚村、幸治村、八斗村、古所村(現・長生郡白子町)
    • 南白亀村 ← 五井村、牛込村、浜宿村、剃金村(現・長生郡白子町)
    • 豊岡村 ← 粟生野村、千沢村、御蔵芝村、南吉田村、萱場村、弓渡村(現・茂原市)、南清水村(現・茂原市、大網白里市)
    • 帆丘町 ← 本納村、高田村、法目村、榎神房村、小萱場村(現・茂原市)
    • 新治村 ← 柴名村、桂村、吉井村、上太田村、下太田村、山辺郡大沢村(現・茂原市)
    • 豊田村 ← 長尾村、渋谷村、腰当村、小林村、大登村、北塚村(現・茂原市)
    • 二宮本郷村 ← 国府関村、黒戸村、庄吉村、押日村、真名村、芦網村、上埴生郡山崎村(現・茂原市)
    • 上長柄村 ← 味庄村、舟木村、上野村、長柄山村、山之郷村、中野台村、山根村、千代丸村、六地蔵村、皿木村、国府里村、力丸村(現・長生郡長柄町)
    • 茂原町 ← 茂原町、高師村、上林村、鷲巣村、箕輪村、長谷村、内長谷村、大芝村、早野新田、永吉新田(現・茂原市)
    • 日吉村 ← 榎本村、小榎本村、徳増村、長富村、桜谷村、鴇谷村、針ヶ谷村、立鳥村(現・長生郡長柄町)
    • 水上村 ← 大庭村、高山村、大津倉村、田代村、刑部村、金谷村(現・長生郡長柄町)、深沢村、笠森村(現・長生郡長南町)
    • 猿袋村が上埴生郡鶴枝村の一部となる。
  • 1890年(明治23年)10月27日 - 一宮本郷村が町制施行・改称し、一宮町となる。(3町17村)
  • 1897年(明治30年)4月1日 - 郡制の施行により、長柄郡・上埴生郡の区域をもって長生郡が発足。同日長柄郡廃止。

行政

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長柄・上埴生郡長
氏名 就任年月日 退任年月日 備考
1 明治11年(1878年)11月2日
明治30年(1897年)3月31日 上埴生郡との合併により長柄郡廃止

脚注

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注釈

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  1. ^ 玉前神社は現在の一宮町にあるが、延喜式神名帳には上総国埴生郡とあり、古代とは郡域が異なっている。

出典

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  1. ^ 『日本古代史地名事典』 239頁
  2. ^ 『日本古代史地名事典』 237頁
  3. ^ a b 『角川日本地名大辞典 12 千葉県』 635頁

参考文献

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  • 「角川日本地名大辞典」編纂委員会 編『角川日本地名大辞典』 12 千葉県、角川書店、1984年3月1日。ISBN 4040011201 
  • 加藤謙吉・他 『日本古代史地名事典』 雄山閣、2007年、ISBN 978-4-639-01995-4
  • 旧高旧領取調帳データベース

関連項目

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先代
-----
行政区の変遷
- 1897年
次代
長生郡