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91式携帯地対空誘導弾

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
91式携帯地対空誘導弾
91式携帯地対空誘導弾の原寸模型
種類 携帯式防空ミサイルシステム (MANPADS)
製造国 日本の旗 日本
設計 技術研究本部
製造 東芝[1]
性能諸元
ミサイル直径 80 mm
ミサイル全長 1,430 mm
ミサイル全幅 90 mm
ミサイル重量
  • 9 kg(本体)
  • 17 kg(発射セット)
弾頭 指向性弾頭
信管 着発式
射程 5,000メートル (2.7 nmi)[2]
推進方式 固体燃料ロケット
誘導方式
飛翔速度 マッハ1.9[2]
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91式携帯地対空誘導弾きゅういちしきけいたいちたいくうゆうどうだんは、日本防衛省技術研究本部東芝が開発した国産の携帯式防空ミサイルシステム (MANPADS)。

略称は「携SAM」および「SAM-2」、広報向け愛称は「ハンドアロー[3][2]で、部隊内では「スティンガー」、「PSAM」と呼称されている。自衛および基地防空用として三自衛隊に配備されている[1]

概要

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誘導弾先端のシーカー部
個人携帯地対空誘導弾(改) (SAM-2B) に装備されている、可視光イメージ誘導の際に使用する画像表示装置(写真の中央部分)

アメリカ合衆国製の携帯地対空誘導弾FIM-92 スティンガーの後継として[1][4]1991年(平成3年)に制式採用された携帯式防空ミサイルシステムである。1979年より部内研究が行われていたが、1987年より試作に入っている[4]。派生型としてOH-1観測ヘリコプターに搭載する空対空ミサイル型や、高機動車に4連装発射機2基を搭載した93式近距離地対空誘導弾が存在する[2]

通常の赤外線パッシブ誘導と可視光イメージ誘導とを併用したハイブリッド型の誘導方式となっており[1]、後者はCCDカメラの画像認識により、人の目と同じように目標の可視光イメージを記憶してから誘導(画像認識誘導)ができる[4]。そのため、発射器本体には、ハンディタイプのVTRカメラに装着されているビューファインダーに似た可動式の画像表示装置が取付けられている。これにより赤外線低放出目標や目標機体正面方向からでも発射が可能になり、フレアなどの妨害装置にも強くなった[4]ミサイルの姿勢制御は、発射後に展開する前部の小型翼4枚と、ミサイル後部のくびれ部にある4枚の翼を用いて行っている[2]。推進機関は、2段式の固体燃料ロケットであり、発射ロケットにより、射手との距離を確保し、ブラストの影響範囲外に出たのちに飛翔用ロケットに点火される[2]

信管は設定秒時に作動する自爆機能を持つ。携行型は、発射筒に封入された誘導弾および発射器、外部電池、敵味方識別装置 (IFF) によって構成される。発射器の形状は、スティンガーと似ているが、発射筒前上部のIFFアンテナの穴がSAM-2は2列、スティンガーは1列となっている[2]

主に陸上自衛隊普通科機甲科戦車)部隊や特科部隊の自衛防空用に配備されているが、航空自衛隊海上自衛隊でも1993年(平成5年)から基地防空用に配備されている[1]。空自では当初、操作要員に予備自衛官を充てることを想定していたが、操作法が難しく短期間の訓練で習熟することが不可能と判断され、現職の基地防空隊員と運用要員が扱っている。

2007年(平成19年)度からライフサイクルコストの低減や、低空目標への対処能力の改善、携行SAMとしては世界初の赤外線画像 (IIR) 誘導方式による夜間戦闘能力の向上、煙の少ない推進薬の使用などの改良を加えた個人携帯地対空誘導弾(改) (SAM-2B) の調達が開始された[5][6][7][8][9]2002年度から開発が開始され、開発経費は約26億円となっている。またSAM-2Bの開発中には93式近距離地対空誘導弾の発射装置やOH-1のランチャーに共用性試験用誘導弾を搭載しての共用性試験も実施されており、これにより発射までのシーケンスを確認された[9]

調達数

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SAM-2の調達数(陸上自衛隊分)[10]
SAM-2
調達年度 数量
平成3年度(1991年) 13セット
平成4年度(1992年) 13セット
平成5年度(1993年) 13セット
平成6年度(1994年) 13セット
平成7年度(1995年) 18セット
平成8年度(1996年) 15セット
平成9年度(1997年) 18セット
平成10年度(1998年) 13セット
平成11年度(1999年) 12セット
平成12年度(2000年) 11セット
平成13年度(2001年) 11セット
平成14年度(2002年) 39セット
平成15年度(2003年) 52セット
平成16年度(2004年) 23セット
平成17年度(2005年) 15セット
SAM-2の合計 279セット
SAM-2B
平成19年度(2007年) 23セット
平成20年度(2008年) 13セット
平成21年度(2009年) 19セット
平成22年度(2010年) 22セット
SAM-2Bの合計 77セット
SAM-2全体の合計 356セット

画像

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登場作品

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漫画

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空母いぶき
特殊作戦群C-2に積まれていた物資を回収後、反撃手段として用いられた。
ジパング
第二次世界大戦時へタイムスリップする架空のイージス護衛艦みらい」の海外派遣用の装備として武器庫に積み込まれており、艦載機SH-60J哨戒ヘリコプターキャビンから、核爆弾を搭載した大和型戦艦大和」を停船させるために煙突に向けて発射する。
なお、実際の海上自衛隊では91式は基地防空用に配備されているが護衛艦には通常積まれていない。
続・戦国自衛隊
戦国時代へタイムスリップする自衛隊の装備として登場。「関ヶ原の戦い」にて、アメリカ軍AH-64D アパッチ・ロングボウに対して使用する。

小説

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自衛隊三国志
三国時代タイムスリップする自衛隊国際連合平和維持活動(PKO)部隊の装備として、個人携帯地対空誘導弾(改)(SAM-2B)が「11式携帯地対空誘導弾(SAM-3)」の名称で登場。襲来する中国軍攻撃ヘリコプターに対して使用される。
『中国完全包囲作戦』(文庫名:『中国軍壊滅大作戦』)
03式中距離地対空誘導弾81式短距離地対空誘導弾93式近距離地対空誘導弾とともに登場し、統一朝鮮空軍F-15KおよびKF-16撃墜する[11]
日中尖閣戦争
第1挺進団の町田三曹と小川士長中国海軍ミサイル艇を攻撃するために使用し、煙突を破壊する[12]
日本国召喚
陸上自衛隊の装備として登場。第1巻ではOH-1に搭載されたものがロウリア王国軍のワイバーンに使用される。第2巻ではトーパ王国に派遣された陸自隊員が、飛翔中の魔王ノスグーラに対して発射する。
ルーントルーパーズ 自衛隊漂流戦記
異世界に飛ばされた自衛隊のAH-64DOH-1に搭載されたものが、襲来する竜騎士たちに対して使用される。
実際のAH-64Dに搭載されているのはスティンガーだが、作中では、少ない機数を質でカバーするために行った近代化改修により、搭載可能になったと設定されている。

脚注

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  1. ^ a b c d e f 朝雲新聞社編集局 2006.
  2. ^ a b c d e f g 荒木雅也 2012.
  3. ^ 1式携帯地対空誘導弾発射装置”. 陸上自衛隊第2師団. 2014年12月30日閲覧。
  4. ^ a b c d 防衛庁技術研究本部 2002, pp. 167–169.
  5. ^ 平成18年度 事後の段階の事業評価 個人携帯SAM(改) 要旨” (PDF). 2019年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年8月8日閲覧。
  6. ^ 平成18年度 事後の段階の事業評価 個人携帯SAM(改) 本文” (PDF). 2019年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年8月8日閲覧。
  7. ^ 平成18年度 事後の段階の事業評価 個人携帯SAM(改) 参考” (PDF). 2019年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年8月8日閲覧。
  8. ^ 陸上自衛隊の車輌と装備2012-2013.
  9. ^ a b 防衛庁技術研究本部 2012.
  10. ^ 防衛白書の検索
  11. ^ 116頁
  12. ^ 199頁など

参考文献

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  • 朝雲新聞社編集局『自衛隊装備年鑑 2006-2007』朝雲新聞社、2006年、38, 449頁。ISBN 4-7509-1027-9 
  • 荒木雅也「91式携帯地対空誘導弾」『スピアヘッド』第12巻、アルゴノート社、2012年、66-70頁。 
  • 『PANZER 臨時増刊 陸上自衛隊の車輌と装備2012-2013』アルゴノート、2013年1月、90頁。 
  • 防衛庁技術研究本部「II 技術研究開発 5.技術開発官(誘導武器担当)」『技術研究本部50年史』(PDF)2002年https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1283286 
  • 防衛庁技術研究本部「II 技術研究開発 5.技術開発官(誘導武器担当)」『技術研究本部60年史』(PDF)2012年https://web.archive.org/web/20160308094049/http://www.mod.go.jp/trdi/data/pdf/60th/2-5.pdf 

関連項目

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外部リンク

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