イタリア国鉄ETR200電車
ETR 200 | |
---|---|
保存車両となっているETR232、前面窓は1970年代の改造でオリジナルは2枚窓 | |
基本情報 | |
製造所 | Società Italiana Ernesto Breda |
主要諸元 | |
編成 | 18 |
軌間 | 1,435 mm |
電気方式 | 直流3kV |
最高運転速度 | 160 km/h |
編成重量 | 116.8 t |
編成出力 | 1,050 kW |
イタリア国鉄ETR200電車(イタリアこくてつETR200でんしゃ)はイタリアのイタリア国鉄(Ferrovie dello Stato Italiane(FS))で1937年から使用された高速列車用電車である。
開発背景
[編集]1930年代、イタリア国鉄(Ferrovie dello Stato)の幹線であるミラノ - ボローニャ - ナポリ間の電化の完成や他の新しい電化路線用に速達列車に投入する車両が必要となった。1934年にスティールと航空力学の新しい技術を用いた車両の開発計画が始まり、先頭車の先端部分はトリノ工科大学の風洞実験の研究に基いて開発が行われた一方、イタリア国鉄の車両設計では初めて建築家がデザインを担当しており、外装はジュゼッペ・パガーノ、内装はジオ・ポンティがそれぞれ担当している[1]。1936年にソチエタ・イタリアーナ・エルネスト・ブレーダ・ペル・コストゥルツィオーニ・メッカニケ [注釈 1]によって、4基のボギー式連接台車を装備した3両編成の試作車が製造された。4基の台車のうち2基にはT 62-R-100モーター1基が装備され、他の2基には同じモーターがそれぞれ2基ずつ装備された。
ETR200
[編集]ETR200は175 km/hに対応する設計がなされていたが、最初に装備されたパンタグラフは130 km/h以上で問題が発生した。ETR200は1937年にボローニャ - ローマ - ナポリ間の路線に投入された。ETR200は当時、ヨーロッパで最も快適で速い列車と考えられ、ベニート・ムッソリーニは1939年にニューヨークで開催されたニューヨーク万国博覧会に1編成送り込んだ[2]。1937年12月6日、ETR200はローマ=フォルミア=ナポリ線間において、201 km/hの最高速度記録を打ち立てた。1939年7月20日にはアレサンドロ=チェルヴェラッティ[注釈 2]が運転するETR212によってミラノ - ボローニャ線のポンテヌーレ・ピアチェンツァ間で203 km/hの新記録が出ている。しかし、ETR200は第二次世界大戦によって運行停止され、戦時中の空襲により多くの損害を被った。ETR200の各機体の経歴は以下の通り。
ETR200 | ETR220 | ETR240 | 廃車年月 | 解体年月 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
形式機番 | 発注年月日 | 製造年月 | 製造所 | 形式機番 | ETR220 | ETR220P | ETR220AV | 形式機番 | 改造年月 | ||
改造年月 | 改造年月 | 改造年月 | |||||||||
ETR201 | 1934年9月21日 | 1936年6月 | Breda | ETR236 | - | 1966年2月 | - | - | 1999年5月 | 1999年3月 | |
ETR202 | 1936年9月 | ETR225 | 1960年12月 | - | 1970年7月 | ETR243 | 1988年11月 | 1999年3月 | 2000年10月 | ||
ETR203 | 1936年10月 | ETR234 | 1964年12月 | 1969年3月 | - | ETR242 | 1986年7月 | 静態保存 | |||
ETR204 | ETR231 | 1963年3月 | 1967年11月 | - | 1998年以前 | 1999年10月 | |||||
ETR205 | ETR224 | 1960年11月 | - | 1970年6月 | 2000年10月 | ||||||
ETR206 | 1936年11月 | ETR235 | - | 1965年9月 | - | 1998年以前 | 1999年12月 | ||||
ETR207 | 1936年12月15日 | 1938年11月 | ETR221 | 1960年3月 | 1969年1月 | 1996年5月 | 2001年2月 | ||||
ETR208 | ETR227 | 1961年4月 | - | 1971年8月 | ETR244 | 1988年5月 | 1998年3月 | 1999年7月 | |||
ETR209 | 1938年12月 | ETR230 | 1962年5月 | 1967年4月 | - | - | 1992年以前 | 1998年8月 | |||
ETR210 | ETR228 | 1961年8月 | 1966年10月 | 2000年12月 | |||||||
ETR211 | ETR223 | 1960年10月 | - | 1971年3月 | ETR241 | 1989年2月 | 1999年10月 | ||||
ETR212 | 1939年1月 | ETR232 | 1963年9月 | 1968年2月 | - | - | 静態保存 | ||||
ETR213 | 1939年2月 | ETR226 | 1961年2月 | 1969年8月 | 2001年2月 | ||||||
ETR214 | ETR229 | 1962年11月 | - | 1972年5月 | ETR245 | 1987年12月 | 1995年3月 | 2002年4月 | |||
ETR215 | 1939年4月19日 | 1941年11月 | ETR233 | 1964年4月 | 1968年8月 | - | - | 2004年1月 | 2004年6月 | ||
ETR216 | - | 1946年3月 | |||||||||
ETR217 | ETR222 | 1960年7月 | 1968年7月 | - | 1999年3月 | 2000年9月 | |||||
ETR218 | 1941年12月 | - | 1946年3月 |
-
製造直後のETR212号機、左右の運転室窓間柱にパンタグラフ監視用の鏡が設置されている、1936年
-
新製当初のETR200、ミラノ付近、1936年
-
ETR200の先頭部、1936年頃
ETR220/240
[編集]1960年代初期に残っていた16編成は更新および4両編成化改造を実施してETR220へ転換され、このうち5編成はさらにETR240に改造された。これらの編成は1980年代まで営業運転に使われていた。
一部の編成は保存車両となっており、イタリアFS財団[注釈 3]により、2014年時点ではETR232がフィレンツェ・オスマンノロで動態保存、ETR242がファルコナーラで静態保存されており[3]、2019年時点ではETR232がローマ・テルミにで動態保存されている[4]。
-
4両編成化などの改造を実施した直後のETR220、原型、1961年頃
-
正面窓が1枚に改造された動態保存機のETR232、2010年
-
ETR232の1等室の室内、更新改造を重ねた最終的な形態、2010年
主要諸元
[編集]項目 | ETR200 | ETR220 | ETR240 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1次製造分 | 2次製造分 | 3次製造分 | ETR220 | ETR220P | ETR220AV | |||
軌間 | 1435 mm | |||||||
電化方式 | DC3000 V | |||||||
車軸配置 | Bo'(1A)'(A1)'Bo' | Bo'(1A)'(A1)'Bo' + 2'2' | Bo'2'2'Bo' + Bo'2' | |||||
編成長 | 62800 mm | 62863 mm | 87550 mm | |||||
車体幅 | 2920 mm | |||||||
屋根高 | 3800 mm[表注 1] | 3800 mm[表注 2] | ||||||
固定軸距 | 3000 mm[表注 3] | 3000 mm | ||||||
台車形式 | C1000/D1000 | C1000/D1000/V920 | Z1040/Zpm1040 | |||||
台車中心間距離 | 17500 + 17500 + 17500 mm | 17500 + 17500 + 17500 / 17500 mm | ||||||
車輪径 | 1000mm | 1000/920 mm | 1040 mm | |||||
自重 | 空車 | 103.6 t | 109.9 t | 112.2 t | 164 t | 175 t | 186 t | 185 t |
積車 | 116.8 t | 1215.5 t | 127.7 t | 175 t | ||||
粘着重量 | 86.0 t | 93.1 t | 94.7 t | 92.0 t | 96.5 t | |||
定員 | 編成 | 94名/100名[表注 4] | 100名 | 154/161名[表注 5] | 161/240名[表注 6] | 205名 | ||
1等 | 70/100名[表注 4] | 100名 | 154/161名[表注 5] | 161/84名[表注 6] | 205名 | |||
2等 | 24/-名[表注 4] | - | -/156名[表注 6] | - | ||||
集電装置 | 42FS→42LR FS | 42LR FS→52FS | 52FS | |||||
主制御装置 | 抵抗制御(直並列制御、弱め界磁制御付) | |||||||
主電動機 | 62-100直流直巻整流子電動機[表注 7]×6台 | T165直流直巻整流子電動機[表注 8])×6台 | ||||||
駆動装置 | クイル式駆動装置[2] | |||||||
歯車比 | 32/42 = 1.31[表注 9] | 28/42 = 1.50 | 34/50 = 1.47[表注 10] | 38/46=1.21 | ||||
性能 | 1時間定格出力 | 1050 kW | 1350 kW | |||||
連続定格出力 | 800 kW | 1100 kW | ||||||
最高速度 | 160 km/h[表注 9] | 160 km/h[表注 11] | 180km/h | |||||
ブレーキ装置 | 空気ブレーキ、発電ブレーキ、手ブレーキ | |||||||
装備一覧 | 1等室 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
2等室 | ○/×[表注 4] | × | × | × | ×/○[表注 6] | × | × | |
厨房 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○/×[表注 6] | ○ | × | |
ミニバー | × | × | × | △/×[表注 5] | ×/○[表注 6] | × | ○ | |
荷物室 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○/×[表注 6] | × | × | |
郵便室 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○/×[表注 6] | × | × | |
乗降扉 | 4 | 4 | 4 | 5 | 5 | 5 | 5 | |
トイレ | 4/2[表注 4] | 2 | 2 | 3 | 3 | 3 | 3 | |
|
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]参考文献
[編集]書籍
- Cherubini, Fabio (1979) (イタリア語). Materiale Motore F.S.Italia 1979-01-01. malmö: Frank Stenvalls Förlag. ISBN 9172660430
- Haydock, Dvid (2007) (英語). ITALIAN RAILWAYS LOCOMOTIVES, MULTIPLE UNITS. Sheffield: Platform 5. ISBN 9781902336565
- Haydock, Dvid (2014) (英語). ITALIAN RAILWAYS LOCOMOTIVES, MULTIPLE UNITS. Sheffield: Platform 5. ISBN 9781909431164
- Haydock, Dvid (2019) (英語). ITALIAN RAILWAYS LOCOMOTIVES, MULTIPLE UNITS. Sheffield: Platform 5. ISBN 9781909431607
- Kalla-Bishop, P. M. (1971) (英語). Italia Railways Railway Histories of the World. Newton Abbot: DAVID & CHARLES. ISBN 9780715351680
その他
- 臼井敬太郎「1930 年代イタリア国鉄の新形式車両デザインイタリア近代の鉄道デザイン研究 2」、日本デザイン学会、2010年。