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きりん座

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
NGC 1961から転送)
きりん座
Camelopardalis
Camelopardalis
属格 Camelopardalis
略符 Cam
発音 [kəˌmɛləˈpɑrdəlɨs] Camélopárdalis, 属格の発音も同一
象徴 キリン[1]
概略位置:赤経  03h 15m 36.2s -  14h 27m 07.9s[2]
概略位置:赤緯 +52.67° - +85.12°[2]
20時正中 2月中旬[3]
広さ 756.828平方度[4]18位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
36
3.0等より明るい恒星数 0
最輝星 β Cam(4.02
メシエ天体 0
確定流星群 10月きりん座流星群[5]
隣接する星座 りゅう座
こぐま座
ケフェウス座
カシオペヤ座
ペルセウス座
ぎょしゃ座
やまねこ座
おおぐま座
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きりん座(きりんざ、Camelopardalis)は現代の88星座の1つ。17世紀に考案された新しい星座で、キリンをモチーフとしている[1][6]天の北極の近くに位置しているため、日本では年間通して見ることができる。16世紀以降に考案された星座の中では最も面積が大きな星座[4]だが、星座が置かれていない領域に作られたため、明るい星もなく目立たない星座である。

主な天体

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恒星

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2022年4月現在、国際天文学連合 (IAU) によって2個の恒星に固有名が認証されている[7]

  • HD 104985太陽系から約330 光年の距離にある黄色巨星で、ヘリウム中心核で起こる核融合反応で輝く「水平分枝」の段階にある[8]。2003年に太陽系外惑星が発見された。これは巨星として初めて、また日本の研究チームによる初めての系外惑星発見となった。2015年に開催されたIAUの太陽系外惑星命名キャンペーン「NameExoWorlds」で、恒星はアステカ神話の太陽神トナティウの名前にちなんで「トナティウ (Tonatiuh) 」、惑星は月の女神にちなんで「メツトリ (Meztli)」とそれぞれ命名された[9]
  • HD 32518見かけの明るさ6.42等の6等星[10]2019年に開催されたIAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoWorlds」でドイツに命名権が与えられ、主星はMago、太陽系外惑星はNeriと命名された[11]

そのほか、以下の恒星が知られている。

  • α星:見かけの明るさ4.29等の青色超巨星で4等星[12]
  • β星:見かけの明るさ4.02等の黄色超巨星で4等星[13]。きりん座で最も明るく見える恒星。
  • きりん座CS星:見かけの明るさ4.22等の青色超巨星で4等星[14]。変光星としては脈動変光星の一種「はくちょう座α型変光星」に分類され、約26.76日の周期で4.29等から4.34等の振幅で変光する[15]。きりん座で2番目に明るく見える恒星で、クロスウェルが考案した星座「モモンガ座」の最輝星である。

星団・星雲・銀河

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由来と歴史

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19世紀イギリスの星座カード集『ウラニアの鏡』に描かれたきりん座。

1612年に、オランダ神学者天文学者ペトルス・プランシウスが自作の天球儀に「Camelopardalis」としてキリンの姿を描いたことに始まる[6]。この名前は、ヘレニズム期コイネーでキリンを表すのに使われた、キリンの長い首をラクダに、斑点模様をヒョウに喩えた合成語「καμηλοπάρδαλις」に起源を持つ[6]。Camelopardalisは、καμηλοπάρδαλιςをラテン語化したもので、マルクス・テレンティウス・ウァッロ大プリニウスもキリンを表すのにこの表現を使っていた[19]

ドイツの天文学者ヤコブス・バルチウス1624年[注 1]に出版した天文書『Usus astronomicus planisphaerii stellati』の中で「Camelopardalis」を紹介していた[21]ことから、誤ってバルチウスが作った星座と紹介されることもあった[22]。当のバルチウスは、1621年にアイザック・ハプレヒト2世英語版が作った星座であると思い違いしていた[6]。また、バルチウスはこの Camelopardalis のモチーフをラクダと勘違いしており、「旧約聖書創世記リベカイサクの元へ嫁ぐエピソードに登場するラクダを記念したもの」と誤解に基づいた説明を残している[6][21]

プランシウスやバルチウスは現代と同じく「Camelopardalis」と綴ったが、のちの17世紀ポーランドの天文学者ヨハネス・ヘヴェリウス19世紀ドイツの天文学者ヨハン・ボーデが「Camelopardalus」と綴ったため、表記に混乱が生じていた。この混乱は、1908年にアメリカの天文学者エドワード・ピッカリングによって「「コイネーや古典ラテン語での表記」「動物学者に使われる表記」「天文学者が最も良く使う表記」の3つの観点から「Camelopardalis」が最も相応しい」とする研究結果が発表された[19]ことによって決着がつけられた[6]

イギリス生まれの天文学者リチャード・アンソニー・プロクター英語版は、この星座をラクダを意味する「Camelus」と呼ぶことを提唱したが、追随する者も少なく廃れた[20][22][23]。また、アメリカの学者ウィリアム・クロスウェルは、カシオペヤ座との境界に近いこの星座の領域に自らが考案した「モモンガ座 (Sciurus Volans)」を配したが、のちに取り上げる者もおらず廃れている[24]

1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Camelopardalis、略称は Cam と正式に定められた[25]。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。

中国

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中国の天文では、きりん座の星は「三垣」の1つ「紫微垣」に配されていた。きりん座には明るい星がなく、バイエル符号もフラムスティード番号も振られていない暗い星が多いが、そのような星も数多く星官に配されている。天の北極近くの星官「北極」の星「天枢」にはHD 112028が充てられていた。北極の隣の星官「四輔」にはHD 89571とHD 90089が配された。星官「右垣」の星「上衛」に43番星、「少衛」にα星、「上丞」にHD 20336が充てられた。星官「六甲」には、HD 46588、HD 49878、HD 64486、HD 55966、HD 33564の5星が充てられた。星官「五帝内座」にはカシオペヤ座ケフェウス座の星とともにHD 25274が配された。星官「杠」には、γ星とカシオペヤ座の8星が充てられた。星官「八穀」にはぎょしゃ座の星とともに26・14・11・31の4星が配された。星官「伝舎」にはカシオペヤ座の6星とともにCS星、CE星、HD 21447の3星が充てられた[6][26]

呼称と方言

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日本では明治末期には「麒麟」という訳語が充てられていた。これは、1910年(明治43年)2月に刊行された日本天文学会の会誌『天文月報』の第2巻11号に掲載された、星座の訳名が改訂されたことを伝える「星座名」という記事で確認できる[27]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「麒麟(きりん)」として引き継がれ[28]1944年(昭和19年)に学術研究会議によって天文学用語が改訂された際もこの呼称が継続して採用された[29]。戦後の1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[30]とした際に、Camelopardalis の日本語の学名は「きりん」と改められた[31]。これ以降は「きりん」が星座名として継続して用いられている。

現代の中国では「鹿豹座」と呼ばれている[32]。なお、中国ではいっかくじゅう座を「麒麟座」と呼んでいる[32]

脚注

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注釈

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  1. ^ リチャード・ヒンクリー・アレンは1614年としている[20]が、『Usus astronomicus planisphaerii stellati』の表紙に「MDCXXIV (1624)」と明記されており、誤りとされる[6]

出典

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  1. ^ a b The Constellations”. 国際天文学連合. 2023年7月30日閲覧。
  2. ^ a b The Constellations”. 国際天文学連合. 2023年7月30日閲覧。
  3. ^ 山田陽志郎「星座」『天文年鑑2016年版』2015年11月26日、290-293頁。ISBN 978-4-416-11545-9 
  4. ^ a b 星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
  5. ^ 流星群の和名一覧(極大の日付順)”. 国立天文台. 2023年3月12日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h Ridpath, Ian. “Camelopardalis”. Star Tales. 2023年3月11日閲覧。
  7. ^ Mamajek, Eric E.. “IAU Catalog of Star Names”. 国際天文学連合. 2023年3月11日閲覧。
  8. ^ "HD 104985". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年3月11日閲覧
  9. ^ Approved names 2015”. 国際天文学連合. 2023年3月11日閲覧。
  10. ^ "HD 32518". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年3月11日閲覧
  11. ^ Approved names”. Name Exoworlds. 国際天文学連合 (2019年12月17日). 2023年3月11日閲覧。
  12. ^ "alp Cam". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年3月11日閲覧
  13. ^ "bet Cam". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年3月11日閲覧
  14. ^ "CS Cam". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年3月11日閲覧
  15. ^ Samus’, N. N.; Kazarovets, E. V.; Durlevich, O. V.; Kireeva, N. N.; Pastukhova, E. N. (2017). “General catalogue of variable stars: Version GCVS 5.1”. Astronomy Reports 61 (1): 80-88. Bibcode2017ARep...61...80S. doi:10.1134/S1063772917010085. ISSN 1063-7729. https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ640c234f32d9a4&-out.add=.&-source=B/gcvs/gcvs_cat&recno=6810. 
  16. ^ "NGC 2403". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年3月11日閲覧
  17. ^ a b Frommert, Hartmut (2006年8月22日). “The Caldwell Catalog”. SEDS Messier Database. 2023年3月11日閲覧。
  18. ^ a b "IC 342". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年3月11日閲覧
  19. ^ a b Pickering, Edward C. (1908-12). “The Constellation Camelopardalis”. Harvard College Observatory Circular 146. Bibcode1908HarCi.146....1M. 
  20. ^ a b Allen, Richard H. (2013-2-28). Star Names: Their Lore and Meaning. Courier Corporation. pp. 106-107. ISBN 978-0-486-13766-7. https://books.google.com/books?id=vWDsybJzz7IC 
  21. ^ a b Bartsch, J. (1624) (ラテン語). Usus astronomicus planisphaerii stellati. J. ab Heyden. p. 52. https://books.google.co.uk/books?id=LGBRAAAAcAAJ&pg=PA52 2022年10月4日閲覧。 
  22. ^ a b 原恵『星座の神話 -星座史と星名の意味-』(新装改訂版第四刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、32,232,233頁。ISBN 978-4-7699-0825-8 
  23. ^ Proctor, Richard A. (1872). A new star atlas for the library, the school, and the observatory : in twelve circular maps. London: Longmans, Green. p. 17. OCLC 5581005. https://books.google.co.jp/books?id=yzRRAAAAYAAJ 
  24. ^ Barentine, John C. (2016-04-04). Uncharted Constellations: Asterisms, Single-Source and Rebrands. Springer. pp. 137-139. ISBN 978-3-319-27619-9. https://books.google.com/books?id=3MztCwAAQBAJ 2022年10月5日閲覧。 
  25. ^ Ridpath, Ian. “The IAU list of the 88 constellations and their abbreviations”. Star Tales. 2023年3月11日閲覧。
  26. ^ 大崎正次「中国の星座・星名の同定一覧表」『中国の星座の歴史』雄山閣出版、1987年5月5日、294-341頁。ISBN 4-639-00647-0 
  27. ^ 星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、11頁、ISSN 0374-2466 
  28. ^ 東京天文台 編『理科年表 第1冊丸善、1925年、61-64頁https://dl.ndl.go.jp/pid/977669/1/39 
  29. ^ 学術研究会議 編「星座名」『天文術語集』1944年1月、10頁。doi:10.11501/1124236https://dl.ndl.go.jp/pid/1124236/1/9 
  30. ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2 
  31. ^ 星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、158頁、ISSN 0374-2466 
  32. ^ a b 大崎正次「辛亥革命以後の星座」『中国の星座の歴史』雄山閣出版、1987年5月5日、115-118頁。ISBN 4-639-00647-0 

座標: 星図 06h 00m 00s, +70° 00′ 00″