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Portal:医学と医療/特集項目/15

マレー糸状虫

八丈小島のマレー糸状虫症(はちじょうこじまのマレーしじょうちゅうしょう)とは、伊豆諸島南部の八丈小島東京都八丈町)にかつて存在したリンパ系フィラリア症を原因とする風土病である。この風土病は古くより八丈小島および隣接する八丈島では「バク」と呼ばれ、島民たちの間で恐れられていた。

本疾患の原因は、フィラリアの一種であるマレー糸状虫 Brugia malayi ICD-10(B74.1)によるものであり、八丈小島は日本で唯一のマレー糸状虫症の流行地であった。

フィラリアは、イヌ心臓に寄生する犬糸状虫 Dirofilaria immitisから、イヌの病気としても知られている。しかし、かつての日本国内ではヒト発症するフィラリア症のひとつバンクロフト糸状虫 Wuchereria bancroftiICD-10(B74.0)による流行地が、北は青森県から南は沖縄県に至る広範囲に散在していた。特に九州南部から奄美沖縄へかけての南西諸島一帯は、世界有数のフィラリア症流行地として世界の医学界で知られていた。

日本におけるフィラリア症の防圧・克服へ向けた本格的な研究は、1948年(昭和23年)から始まった東京大学付属伝染病研究所(現:東京大学医科学研究所)の佐々學による八丈小島でのフィールドワークと、それに続く同島での駆虫薬スパトニンを用いた臨床試験が端緒である。この八丈小島で得られた一連の治験データや経験は、のちに続く愛媛県佐田岬半島長崎県鹿児島県奄美沖縄県各所での集団治療を経て、最終的に日本国内でのフィラリア症根絶へ向かう契機となる日本の公衆衛生史上重要な意義を持つものであった。