近畿方言
近畿方言(きんきほうげん)とは、近畿地方で話される日本語の方言の総称をいう。俗に関西弁(かんさいべん)と呼ばれるが、その場合京阪神の方言のみを指すことが多い。畿内の言葉、直接的には江戸時代後期に京都・大坂で話されていた言葉(後期近世上方語)がもとになっており、近畿地方在住・出身の約2000万人が日常的に用いる。江戸時代中期までは京言葉が事実上の中央語(共通語)であり、現在も共通語に次ぐ影響力と知名度を持つ一大方言勢力である。以下、近畿方言の代表格である京言葉と大阪弁を中心に記述する。
概説
おおよそ、近畿地方の府県のうちで京阪式アクセントを用いる区域をもって近畿方言の領域とされる。具体的には、大阪府・京都府(丹後地方北部を除く)・兵庫県(但馬地方を除く)・奈良県・滋賀県・和歌山県・三重県が挙げられ、これはかつての大和国・山城国・河内国・和泉国・摂津国(以上畿内)・近江国・伊賀国・伊勢国・志摩国・紀伊国・丹波国・丹後国・播磨国・淡路国である。福井県嶺南地方も含まれることが多い。近畿地方では京都・大阪を中心にまとまった文化圏が形成されてきたため、他の方言区画と比べ近畿方言には広範囲にわたって一定の共通性が見られる。ただ、当然ながら地域や世代による差異は存在する(後述「近畿方言の地域別分類」も参照)。
兵庫県但馬地方と京都府丹後地方北部の方言は東京式アクセントを用いることから中国方言(山陰方言)に分類され、近畿方言との違いが明瞭である。奈良県吉野郡南部(十津川村・天川村など)や和歌山県新宮市・三重県熊野市周辺の方言も東京式アクセントやそれに近いアクセントを用いるなど他の近畿方言との類似性が低いが、近畿方言として以外に適当な分類法が無いため便宜上近畿方言に含まれる。また徳島県の方言は近畿方言に非常に近い方言であるが、徳島県が四国地方に属するために近畿方言には分類されない。
近畿方言の中でも船場言葉や京言葉、そして漫才に用いられる大阪弁はつとに有名である。これらの方言はマスメディアや文学などで取り上げられることが多く、近畿方言のイメージ形成や知名度向上に大きく影響を与えてきた。ただしこうした中での近畿方言は実際のものと異なっていることが多い(後述「マスメディアや文学における近畿方言」参照)。特にお笑いでの大阪弁は、関西以外の観客にも分かりやすいよう共通語を織り交ぜていたり、面白おかしく誇張されたりして伝統的な大阪弁とは異なる場合が多い。こうしたお笑いでの大阪弁を、業界最大手のプロダクション名をとって「吉本弁」と揶揄する声もある。[1]
なお、現在近畿方言で最も勢力の強い方言が大阪弁であるために「関西弁」と「大阪弁」は混同されがちであるが、「大阪弁」とは大阪府下(あるいは大阪市内)の方言のことであり、あくまで関西弁の中に含まれる一方言である。
歴史
ヤマト王権成立以降は大和盆地、平安遷都以降は京都を中心に、近畿地方は日本の政治・経済・文化の中心地であった。そのため奈良時代は大和方言、その後は京都方言が事実上の共通語となり、全国に伝播していった。東北や九州など近畿から離れた地域の方言に古語が残っていることがあるのはその名残りである。また平安貴族の京都方言が書記言語として確立され、近代に東京方言を基にした口語体が成立するまで文語体として権威を持ち続けた。
平安貴族の没落以後、庶民の人口流動の活発化や東国武士の京都進出により京都方言と他方言とが交わる機会が増え、京都方言は大きく変化した。特に京都周辺地域ではこれまで以上に京都との交流が盛んになったことで京都方言と周辺方言の混合が進み、近畿方言はまとまりを見せるようになる。室町時代になると、京都の公家社会で御所言葉が成立する。御所言葉の表現は徐々に庶民層にも取り入れられるようになり、現在の京言葉の原形となった。
安土桃山時代ののち江戸に幕府が開かれるが、江戸の町の整備に当たり上方から多くの人材が移住したこと、江戸経済の多くを上方商人が支配していたこと、上方の芸能・文化が江戸でも人気を博したことなどから、江戸の言葉に近畿方言の表現が大量に流入した(「ありがとう」でのウ音便など)。
江戸中期には、安土桃山時代以降発展を続けてきた大坂が「天下の台所」たる日本最大の商都となり、京都に並ぶ上方の拠点都市として地位を高めた。言葉の面でも大坂の方言が台頭し始め、それまで京都方言一辺倒であった近畿方言の潮流に変化が生じた。こうして保守的な京都方言と進歩的な大坂方言とで互いに意識し合うようになった[2]。なおこの当時の大坂方言は文楽の語りの中で現代に引き継がれている。
江戸が都市として成熟した江戸後期には江戸独自の表現が成立し始め、次第に「上方語」対「江戸語」という現在に通じる対抗意識が生じるようになる[3]。江戸の発展とともに江戸方言の地位が高まりつつあったが、周辺地域や西回り航路寄港地では上方方言が依然影響力を持ち続け、現在でも特に四国方言・中国方言・北陸方言で語彙やアクセントなどに近畿方言との共通点が見られる[4]。
幕末期には上方・江戸とも現代の表現に近いものが成立していた。この頃には既に江戸方言が上方方言の地位を凌ぐようになっていた。明治になり東京山の手の方言をもとにした標準語が規定されると、東京方言>近畿方言の構図は確固としたものになり、近畿方言は一方言に甘んじることとなった。社会構造の変革で武家言葉や京都の御所言葉がほぼ消滅したり、町人・庶民階層でも少なくない語彙や表現が衰退したり、アクセントが大きく変化したりした。また学校で標準語教育が始まったことや、標準語と比べ方言は劣った言葉だという意識が高まったことにより、沖縄や東北のような方言撲滅運動は起こらなかったとはいえ、近畿方言でも標準語の影響を強く受けるようになっていった。
太平洋戦争後は、旧来階層社会の崩壊や都市部での旧住民減少と新住民流入、社会・生活習慣の変化によって、多くの表現・語彙の創出と衰退が起こった。またテレビ放送が普及して以降、共通語がこれまでよりも圧倒的な勢いでお茶の間に浸透してきている。
このように明治以降地位が大きく低下した近畿方言であるが、その話者人口の多さや近畿地方の強い文化力・経済力を背景に、依然標準語・共通語に次ぐ最大の方言勢力であり続けている。近畿方言が標準語・共通語に影響を与えることもしばしばあり、例えば、大阪が日本の商業の中心地であった歴史から「ちょろまかす」「(値段を)勉強する」「ぼったくる」「(値段を)負ける」といった言葉が、漫才やお笑いのブームによって「あほ」「こける」「しんどい」「めっちゃ」「ヤンキー」といった言葉が、いずれも方言の域を超え日本全国に浸透している。
現状
近畿方言は時代によって様々に変化しているが、他の方言と同様に明治以降の変化は特に著しい。標準語・共通語の影響を一世紀以上にわたって受け続けているために、既に音便・語彙・アクセントなどの面で近畿方言の多くは標準語・共通語あるいは首都圏方言のものに置き換わってきている(例:「あきまへんやろ」→「あかんでしょ」、「のうなってもたさかい」→「なくなってもたから」)。その一方で、近畿方言に標準語・共通語を取り入れた新方言がその時代時代の若い世代で生み出されている(「あかん」+「なくない」→「あかんくない」など)。
また、近畿地方は複雑な社会構造が古くから発達した地方であり、方言の面でも階層・職業別に多様な言葉遣いが発達したが、階層社会が大きく変質して中流化が進んだ現在では多様性は薄れている。多様性の衰退は地域間でも起こっており、交通機関の発達に伴う大阪を中心とした京阪神圏の人的交流の活発化と拡大や在阪メディアの影響(詳細は後述の「在阪メディアにおける近畿方言」を参照)により、大阪弁と共通語をベースに近畿方言が平均化し、いわば「関西共通語」(関東での首都圏方言に相当)とも言うべき方言にまとまっていく傾向にある(これを「関西弁」と称する場合もある)。例えば近畿方言の二大方言であり互いに意識し合ってきた京言葉と大阪弁も、かつてのような大きな違いは高齢層でしか見られなくなっている。
「こてこて」イメージの形成
大阪弁を始めとする関西弁やその話者に対しては、ある種のイメージ・ステレオタイプ・偏見が存在する。ここではそうしたものがいかに形成されていったのかを記述する。(この項は金水敏著『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波書店)を参考文献とした)
現在のようなイメージが生まれ始めるのは江戸時代後期からである。江戸時代後期は江戸が京都・大坂を凌ぐ文化拠点として成熟した時期であり(それまでは江戸は政治都市としての面が強く、文化面では上方の方が先進地域であった)、そのことで上方と江戸とで互いに対抗意識が生まれた。双方とも相手の言葉を自分達のものとは「異質」な言葉と小馬鹿にしており、また上方では江戸に対して「冷たい」「荒っぽい」「男性的」といった、江戸では上方に対して「ケチ[5]」「俗物的」「女性的」(現代では近畿方言は共通語に比べてむしろ男性的とされることが多いが、京言葉に対してはなお女性的なイメージが強い)といった意識・偏見があった。江戸で上方に対して「ケチ」「俗物的」などの意識が生まれた背景としては、当時江戸の庶民が接する機会の多かった上方者は商人であったことが考えられる。「武士は喰わねど高楊枝」「宵越しの金は持たない」といった気風が尊ばれた江戸において、上方から金儲けにやってくる現実的で計算高い商人達は際立って特異に映ったのだろう。
なお、江戸後期においても依然上方語は江戸語と比べて権威のある言葉とされ、江戸においても、上級武士や老人・知識人などの中には「…じゃ」「…のう」「…ぬ」など上方風の話し方をする者もいたとされる。そのため上方風の言い回しは徐々に「老人の言葉」「権威者の言葉」として歌舞伎や戯作などでステレオタイプ化され[6]、現代でもフィクションにおける老人や権威者(博士や政治家など)の典型的な口調となっている。(老人語も参照)
明治時代になり、東京では江戸時代から続く上方に対する意識・偏見が文芸や演芸などで「(商売人の)大阪人」としてキャラクター化され日本全国に発信されていった。大阪発の漫才や新喜劇が人気を集めるようになると、近畿方言にはさらに「お笑い」「滑稽」「口やかましい」というイメージが添加された。また、近畿方言に限らず方言全般に言えることだが、標準語がもっとも都会的で知的な日本語とされたことで近畿方言は「非知的」「庶民的」「人情豊か」といったイメージを内外ともに持たれるようになっていった。
戦後には、大阪・神戸でヤクザが急速に興隆し、それをモチーフにしたヤクザ映画が盛んに制作されたこと、グリコ・森永事件などの凶悪犯罪が近畿地方で多発したことなどから、近畿方言に「ヤクザ」「恐怖」「柄が悪い」のイメージが添加された。また高度経済成長期には、大阪商人の苦労話や成功話などが注目されたことから「ど根性」のイメージが強い時期もあった。
ステレオタイプな近畿方言は特に昭和前中期の小説・演劇・映画・テレビドラマ・漫画などによって固定化された。このため、「わい」「まんねん」「でんがな」などのいかにもな近畿方言は当時一般的だった大阪弁を誇張させたものであることが多く、現在では「そんな言葉いまどき使わんわ」ということになりやすい。
1980年代以降、漫才ブームや吉本興業の本格的な東京進出によって近畿方言はテレビのバラエティー番組などで頻繁に聞かれるようになり、近畿方言に対するイメージが「おもしろい」「親しみやすい」「あたたかい」など肯定的なものに変化しつつある。とは言え、近畿方言に対するネガティブイメージは依然として存在する。
特徴
ここでは近畿方言の音韻や表現傾向の特徴を述べる。あくまで共通語と比較しての特徴であり、近畿方言だけに限らず他方言でも広く見受けられるものも含む。
- 京阪式アクセントであり、音調・抑揚のパターンが複雑。ただし京阪神での京阪式アクセントは比較的簡略化されたものである。(「声調」も参照)
- 全般的に母音を強調した発音がされる。そのため共通語に比べて、良く言えば柔らかい印象を、悪く言えば間延びした印象を持たれやすい。
- 一音節語は母音が付加されて二音節化する傾向が共通語と比べて強い。例えば「蚊」は「かぁ」、「木」は「きぃ」と発音される。
- 語中や語尾の母音弱化がほとんどない。(例)「ネクタイです」は/nekutaidesu/と発音し、共通語や東京方言における/nektaides/のような発音をする人は少ない。
- 「おめえ」「すげえ」のような連母音の融合は起こりにくい。
- 「いのく」(動く)や「かいる」(帰る)などの例はあるものの、子音に比べ母音の訛りは少ない。
- 「う」が/ɯ/(非円唇後舌狭母音)よりも/u/(円唇後舌狭母音)に近い形で発音される傾向がある。また「う」の次にマ行音が来る場合には、「う」を「ん」(/m/)と発音することが多い。(例)んまれる(生まれる) んみ(海)
- ウ音便が発達している。ただし原形が三音節の動詞の場合には「う」は省略されることが多い。(例)言うた
高 う笑 た- ウ音便の簡略化は昔から盛んである。特に形容詞は「楽しゅうなる」→「楽しいなる」→「楽しなる」、「よろしゅうおす」→「よろしゅおす」→「よろしおす」のように音便が省略されやすい。ただ現在では単に共通語の「く」を省略しただけのものも増えている。(例)
旨 うて→旨 あて えろうすんません→えらいすんません 見たくなる→見たなる やばくない→やばない
- ウ音便の簡略化は昔から盛んである。特に形容詞は「楽しゅうなる」→「楽しいなる」→「楽しなる」、「よろしゅうおす」→「よろしゅおす」→「よろしおす」のように音便が省略されやすい。ただ現在では単に共通語の「く」を省略しただけのものも増えている。(例)
- 近畿方言の特徴としてかつてはサ行イ音便がよく挙げられたが、現在では衰退している。(例)差した→さいた 出した→出いた
- 撥音化・促音化・拗音化。連声に伴うものも多い。(例)言うてはるのや→言うてはんにゃ しておくれやす→しとくりゃす なんということじゃ→なんちゅうこっちゃ 一番→いっちゃん
- 撥音の多用が近畿方言の柔らかでユーモラスな響きの一因となっている。(例)行かなきゃならないんだ←→行かんならんねん
- 促音は特に大阪弁で顕著であり、京言葉との印象の違いをもたらす一因となっている。(例)どすか←→だっか、でっか
- 音や言葉の省略。語尾の長音は特に省略されやすい。(例)はよう→はよ 行こうか→いこか おもしろい→おもろい
- 「を」「と」「が」「へ」「は」などの助詞も省略されることが多い。(例)「気をつけて」と言われた→「気ぃつけて」言われた
- 大阪の商家では互いに角を立てない曖昧な言い回しとして語尾の省略が盛んに行われた。(例)だす→だぁ でおます→でおま
- 畳語の多用。特に京言葉で顕著である。(例)ちゃうちゃう あぁさむさむ
- サ行音のハ行音への転訛。特に「し」と「ひ」の混同が多い。(例)あきません→あきまへん しつこい→ひつこい 七条→ひちじょう 布団を敷く→布団をひく
- ザ行音・ダ行音・ラ行音の混同。現在も和歌山県・大阪府南部・兵庫県播州で盛んだが、衰退が進んでいる。(例)とったぞ→とったど 全然→でんでん 淀川→よろがわ
- マ行音とバ行音の混同。ただしサ行→ハ行などと比べると稀。(例)寒い→さぶい 煙たい→けぶたい 狭い→せばい
- かつては「せ」「ぜ」を「しぇ」「じぇ」と古い音韻で発音することで知られたが、現在では全くの死語となっている。
- 待遇表現が豊かで、特に京都を中心に敬語が発達している。標準語・共通語の敬語も多くは京都発祥であり、「言いません」「おはようございます」「…しており、」などにその名残りがある。ただし現在では共通語の影響から近畿方言独自の敬語は廃れる傾向にある。
- 婉曲表現が発達しており、特に京言葉での多用はよく知られる。(例)相手の提案・勧誘を断る際「考えときますわ」などと遠回しに表現する。
- 京都・大阪では大都市という性格から言葉の流行り廃りが古くから激しい。その一方で京阪神の周辺部(場合によっては四国地方や北陸地方に)では京都・大阪で廃れた古い表現、アクセントが残存していることが多い。
- 金田一春彦によれば、京阪神のアクセントの一部は東京式またはその他の形に置き換わっており、典型的な京阪式アクセントで最も純粋なものは和歌山市のものという。また古いタイプの京阪式アクセントは和歌山県中部・徳島県・高知県に残されている(「補忘記」式アクセント)。
表現
ここでは大阪と京都を中心に明治以降の近畿方言で多く見られる表現を挙げる。共通語のように文法の規範があるわけではないので、地域・世代・個人によって揺れがある。現在ほとんど死語となりつつあるものに【古】、若年層での使用が少ないものに【やや古】をつけている。
- 断定・終止の助動詞 「や」 (例)あれが大阪城や。
平安時代 | 鎌倉時代 | 室町時代 | 江戸時代 | 明治以降 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
関西 | にてあり | である | でぁ | じゃ(ぢゃ) | や | ||
関東 | だ |
- 古くから東日本の「だ」と対比されてきた、近畿方言の代表的な表現。成立過程を同じくすることから「や」と「だ」には互換性があるが、「かて=だって」「やのに=なのに」のように、「じゃ」と「だ」の分化以降に生じた差異によって対応関係が起こらないこともあり、また「や」は「ございますのや」「ですやろ」のように敬語表現との親和性を持ち合わせている。
- 「や」の成立以降、「じゃ」は罵倒など強い口調の場合にのみ用いられる。 (例)何しとんじゃ!
- 命令・勧誘・禁止の終助詞「や」(「はよせえや」「はよ行こうや」など)の多用や、「じゃない」→「やない」、「やんか」「やんけ」「やん」(後述)など、助動詞「や」に引かれてか近畿方言では「や」が好んで用いられる傾向がある。
- 強調の終助詞 「ねん」「ねや」 (例)あれが大阪城やねん / ねや。
- 「のや」の変形。活用語の連体形や助動詞「や」に接続して断定の意味合いを強める。大阪の商家では「お客様への『念』(心配り)に通ずる」として「ねん」が殊更多用された。「ねや」は「ね」と省略されたり、地域(京都など)・個人によって「にゃ」となったりすることがある。 (例)お邪魔しまんにゃわ。
- 過去の強調の終助詞 「てん」 (例)あれが大阪城やってん。
- 「たのや」の変形。「たねん」とする地域(泉州など)・個人もある。
- 若年層を中心に形容詞・形容動詞・断定助動詞「や」の過去強調表現として「かって」「やって」(例:おいしかって、きれ(い)かって、きれいやって)が用いられるが、これは通常の「て」(例:おいしゅうて、きれいで)と「てん」(例:おいしかってん、きれいやってん)が混合したものと考えられる。
- 強調の終助詞 「で」 (例)あれが大阪城やで。
- 「ぜ」の転訛。強調のほか、相手への注意や問いかけも表す。共通語「ぜ」と袂を同じくするものの用法に細かな違いがあり、男性的なニュアンスの強い「ぜ」に対して「で」は男女問わず用いられるほか、「で」には「行こうぜ」のような勧誘用法を持たない。
- 強調の終助詞 「がな」 (例)あれが大阪城やがな。
- 「で」よりもさらに強い表現で、相手への強い念押しと主張を表す。
- 疑問・反語の終助詞 「かいな」「かいや」 (例)あれが大阪城かいな / かいや。
- 「かい」の後ろに「な」「や」を付けたもので、「かい」よりも柔らかなニュアンスを持つ。
- 終助詞 「わ」 (例)あれが大阪城やわ。
- 共通語では終助詞の「わ」は女性語とされることが多いが、近畿方言では男女関係なく多用される。
- 「わ」に抑揚をつけて「わあ」と弱く伸ばすと詠嘆の意を込めた表現になる。こちらは男性はあまり用いない。 (例)きれいやわあ。
- 「わ」の強調表現「わい」も男女ともに多用されたが、現在では年配男性以外はほとんど用いない。 (例)あれが大阪城やわいな。
- 終助詞 「な」「なあ」 (例)あれが大阪城やな。 あれが大阪城やなあ。
- 【やや古】終助詞 「え」 (例)あれが大阪城え。
- 推量・意志の助動詞 未然形+「う」「よう」 (例)あれが大阪城やろ。 大阪城行こ。
- 推量・意志の助動詞「う」「よう」は元々京都で生まれた表現だが、近畿方言では長音は省略されやすいため「う」は省略されることが多い。また現在では共通語「だろ(う)」と同様に推量の用法は後述「やろ(う)」に譲り、「う」「よう」は専ら意志表現に用いられる。
- サ変動詞に接続する場合は「しょう」となる。これはサ変の文語未然形「せ」+「う」の変形だが、現在では共通語「しよう」の方が主流である。 (例)どないしょ。(どうしよう)
- カ変動詞「来る」に接続する場合は未然形に「う」をそのまま接続させた「こう」となるが、現在では共通語「こよう」の方が主流である。 (例)私も見てこ。(私も見てこよう)
- 「ましょう」はサ行音のハ行音化によって「まひょ」となることがある。 (例)ほな行きまひょか。
- 現在、推量表現としては「う」が「や」の未然形に接続した「やろ(う)」が用いられる。共通語「だろ(う)」は男性的なニュアンスが強いが、「やろ(う)」は「でしょ」程度の軽い意味合いで女性も多用する。丁寧形には「敬体+やろ」(「ですやろ」「ますやろ」「ましたやろ」「まへんやろ」など、「○すやろ」は促音化して「○っしゃろ」とも)を用いるが、現在では共通語「でしょう」や後述の「ですやん」「ますやん」に押されて廃れつつある。 (例)あれが大阪城で / ど / だっしゃろ。
- 疑問の終助詞 「け」 (例)あれが大阪城け?
- 疑問の終助詞「か」に「え」を合わせた「かえ」の変形とも、「かい」の変形ともされる。一般的には「か」よりも粗野な表現として親しい間柄や目下に対して用いられるが、「か」よりも丁寧な表現とする地域(泉州など)もある。近畿地方各地で散見されるが、特に河内弁の特徴としてよく知られる。地域によっては「こ」とも。
- 終助詞 「やんか」「やん」 (例)あれが大阪城やんか。 あれが大阪城やん。
- 「やないか」の「ない」の変形が「やんか」で、地域や個人によっては上述「け」を用いて「やんけ」とも(「やんけ」は粗野な表現とされ、基本的に女性は用いない)。さらに「か」「け」が欠落して成立したものが「やん」で、東海・関東の「じゃん」に相当する。また「やろ」と同様に丁寧形として「敬体+やん(か)」がある。 (例)あれが大阪城ですやん(か)。
- 主に若年層で見受けられる表現として、共通語「だよな」「だよね」に相当する「やんな」「やんね」や婉曲的な主張表現「やんかぁ?」などがある。 (例)これええやんな。 今度東京行くんやんかぁ?
- 否定の助動詞 未然形+「ん」、a音またはe音+「へん」 (例)食べん。 食べへん。
- 「ん」は打ち消しの助動詞「ぬ」の転訛。「へん」は「…はせぬ」が「食べはせぬ」→「食べはせん」→「食べやせん」→「食べやへん」→「食べへん」と変化して成立したもの。一部では「やせん」「やへん」が使われ続けているほか、地域によって様々な形がある。 (例)食べしん。 食べやん。 食べらん。
- 「ん」は「へん」に比べて強い打ち消しに用いられる傾向があり、人によっては尊大な印象を抱く場合もある。ただし連語表現の中では、音の簡潔さから「へん」よりも「ん」が多用される。「かなん」「あらへん」のように、「ん」「へん」のどちらを用いるかが慣用的に固定されている語もある。
- 「e音+へん」の形は特に大阪周辺で盛んである。 (例)でけへん(できない)。 めえへん(「め」にアクセントをつけると「見ない」、「え」にアクセントをつけると「見えない」)。 おれへん(おらぬ)。
- 前の音がi音で終わる場合は「ひん」の形を取ることが多く、特に京都周辺で顕著である。 (例)起きひん。 できひん。 見いひん。 いいひん(いない)。
- カ変動詞の否定は、大阪では通例「けえへん」の語形をとり、京都では通例「きいひん」である(どちらも「きやへん」の変形)。最近では、共通語「来ない」の影響を受けて成立した「こおへん」も神戸を中心に広まりつつある。
- サ変動詞の否定は「せえへん」という語形になることが多いが、京都などでは「しいひん」も併用される(どちらも「しやへん」の変形)。
- 「てんか」で反語的な依頼・命令を表す。 (例)これまけてんか。
- 共通語「ずに」「ないで」の意味で「んと」が用いられる。また「んと置く」の変形「んとく」は軽い命令や意志表現に多用される(「やっとく」のような「とく」は「て置く」の変形)。 (例)怠けてんと仕事し! アホなことせんとき。 そんなこと言わんといて。 行かんとこ。
- 共通語と同様に勧誘表現にも用いられ、やや強い勧誘表現として「んか」、また強い命令表現として「んかい」がある。 (例)はよせんかい!
- 若年層では共通語「ない」の連用形「なく」と「ん」を混合させた新方言「んく」が広まりつつある。 (例)あかんくても あかんくなる あかんくない? (旧来の近畿方言ではそれぞれ「あかんでも」「あかんようになる」「あかんことない?」となる)
- 【古】否定の接続助詞 未然形+「いで」 (例)食べいで。
- 先述「んと」と同様の意味を表す。「…んで」の変形とも、文語「…ずて」の「ず」が省略され「食べずて」→「食べで」→「食べいで」と変化したものとも考えられている。「いでか」で反語表現を表す。(例)やらいでか。(やらずにいられるものか)
- 否定の過去形 未然形+「なんだ」「へ(な)んだ」または「んかった」「へんかった」 (例)あかなんだ。 あかへんだ。 あかんかった。
- 否定の過去形は従来「なんだ」や「へ(な)んだ」が使われてきたが、現在は共通語「なかった」を応用させた「んかった」「へんかった」が広く使われる。
- 先述の過去強調表現「かって」の影響を受けて、「んかって」(「…なくって」を強調したニュアンス)という表現が若者を中心に広まっている。 (例)あかんかって。
- 【やや古】否定の丁寧形 連用形+「まへん」 a音またはe音+「しまへん」 (例)あきまへん。 あかしまへん。
- 「ます」に否定「ぬ」(ん)を接続させた「ません」の転訛。「しまへん」は「まへん」よりも丁寧な表現。共通語に取り入れられなかった古い活用形を保ってきたが、現在では廃れつつある。 (例)できまへなんだ(できませんでした) できませず(できませんで)
- 内部要因による不可能 「よう…未然形+ん」 (例)そないなこと、ようせんわ。
- 行う能力が無くて、行う立場になくて、行うのが憚られて、行う気になれなくて、とても自分には出来ないということを示す。「よう」は「能く」のウ音便形であり、「良う」と違い平板に発音する。古語「え…ず」と同義で、それから派生したとされる。
- 外部要因による不可能 未然形+「れへん」 (例)雨やさかい、買い物に行かれへん。
- 否定表現を「e音+へん」とする地域(上述)で用いられる表現。可能動詞が成立する以前の古い表現であるが、これは可能動詞を用いた不可能表現では「e音+へん」と同音になってしまうので、区別するために古形が保たれたものと考えられる。「a音+へん」の地域では共通語と同様の語法が用いられる。このため、「行かれへん」を用いる地域(大阪など)と「行けへん」を用いる地域(京都など)とで意思疎通に混乱が生じることがある。例えば、京都人が「(用事があって)行けない」という意味で「行けへん」と言ったのが、相手の大阪人には「(行きたくないから)行かない」と取り違えられてしまうなど。
- 否定の接続助詞 未然形+「な」 (例)はよせなあかん。
- 共通語「なければ(なけりゃ・なきゃ)」「なくては(なくちゃ)」の省略と思われがちだが、この「な」は「ねば」が「にゃ」を経て簡略化したもの。前に「や」が添加されて「やな」となることがあり、この場合単語によっては「な」単独の時と接続の仕方が異なることがある。 (例)はよしやなあかん。
- 「ねば」の後ろに「ならん」が付く場合は「んならん」または「んなん」となる。こちらも「や」が添加されることがある。 (例)はよせんならん。 はよしやんならん。
- 「な」に似た表現として「んと」があり、これは共通語「ないと」に対応する。 (例)はよせんとあかん。
- 接続助詞・副助詞 「かて」 (例)そない言うたかて。 私にかてできるわ。
- 係助詞「か」と接続助詞「とて」が組み合わさって成立。共通語「たって」「だって」「ても」「さえ」に当たる。
- 【やや古】接続助詞 「さかい」「よって」 (例)雨降りそうやさかい / よって、傘持ってくわ。
- 原因・理由の接続助詞。「さかい」は「さかいに」「さかいで」(「さかいで」は江戸時代に盛んだった言い方)または「さけ」、「よって」は「よってに」とも。「さかい」は近世以来の近畿方言の代表的な語彙だが、現在では「よって」ともども共通語「から」「ので」に取って代わられつつあり、京阪神の若年層ではほぼ死語となっている。
- 簡潔な言い回しとして「し」も多用される。特に女性層で終助詞としても共通語以上に用いられる。 (例)ほな、私もう行くし。
- 助詞 「ん」 (例)何するん?
- 近畿方言では助詞「の」が撥音化することが多い。「の」よりも柔らかな印象を与え、特に女性が多用する。大阪などでは「のん」とも。 (例)何するのん?
- 尊敬語 五段動詞a音あるいはi音またはその他動詞連用形+助動詞「はる」 (例)行かはった。 行きはった。
- 「未然形+なさる」が「行きなはる」→「行きやはる」→「行きゃはる」と経て成立したもの。相手や第三者に対する軽い敬意を表す。「はる」に命令形はなく、代わりに「なはる」の命令形「なはれ」または「なはい」が用いられてきたが、現在では年配層以外では死語となっている。
- 「i音+はる」は大阪周辺、「a音+はる」は京都周辺で盛んに行われる傾向がある。「a音+はる」が盛んな京都周辺では「てはる」が「たはる」となることがある(例:何したはるの?)。また京都では「はる」の使用頻度が特に高く、身内や動物にも用いるなど尊敬語としてよりも丁寧語としての面が強い。
- 「はる」と同様の表現として、播州や神戸の「て(や)」、丹波や舞鶴の「ちゃった」などがある。なお、大阪でも「はる」が普及する以前は「て(や)」が盛んに用いられた。 (例)何しとってや? おってです。(おられました) 何しちゃったの?
- 丁寧語 連用形+「やる」 (例)あの人、何してやるのや?
- 第三者の動作に対して用いられる丁寧語で、主に女性が用いる。使役動詞「やる」に似るが、これは動詞「ある」の変形。
- 【古】尊敬語・丁寧語 「お…連用形+やす」「やす」 (例)お食べやした(お食べになった)。 おいでやす(おいでください)。 ごめんやす(ごめんなさい、ごめんください)。
- 共通語「お…になる」「お…ください」に当たる表現で、敬意・丁寧さは「はる」より高い。相手の動作を高めたり自分の動作を丁寧にしたり、相手への柔らかで丁寧な命令・勧誘表現として使われる。「やっしゃ」とも。 (例)ごめんやっしゃ。
- 大阪などで「やす」を「ます」と同義に用いることもあった。 (例)恐れ入りやす。
- 【やや古】丁寧語 「おます」「おす」 (例)ここにおます / おす。 おいしゅおます / おす。
- 「ある」の丁寧語。「ございます」よりは敬意が軽い。「おます」は大阪の、「おす」は京都の表現。否定形はそれぞれ「おまへん」「おへん」。
- 【古】丁寧語 「だす」「どす」 (例)大阪城だす。 清水寺どす。
- 共通語の「です」に当たり、「でやす」の変形「だす」は大阪、「でおす」の変形「どす」は京都の表現。ともに江戸末期から明治にかけて成立したが、成立後まもなくから標準語「です」が浸透し始めたため、早い段階でほぼ「です」に入れ替わった。
- 後ろに終助詞や助動詞が付く時に促音化・撥音化することがある。これは「です」「ます」にも当てはまり、特に大阪で顕著である。 (例)だすか→だっか どすさかい→どっさかい ですな→でんな ますねん→まんねん ますがな→まんがな ですわ→でっさ
- 補助動詞 「おる」 (例)何しとんねん。 重々分かっております。 よう泣きよる / 泣っきょる。
- 動詞「おる」が補助動詞化したもの。京都や大阪周辺では「いる」に比べてややぞんざいな表現とされ、同輩や目下に対して用いられることが多いが、「いる」と同等の表現とする地域もある。i音やe音の後では「よる」「よおる」となり、また前の音とついて促拗音化・撥拗音化することもある。共通語同様、「おります」として自分や身内の動作に用いると謙譲表現になる。「おる」の前に接続助詞「て」がつく場合は連声させて「とる」「とおる」とするのが自然である。「よる」「とる」は播州・神戸では「よう」「とう」と変形することが多い。
- かつて「よる」「とる」は中国方言や四国方言と同様に「よる」で進行を、「とる」で完了を表していた。京都・大阪では江戸時代に廃れたが、播州など一部の地域では現代もこの用法を保っている。 (例)桜の花が散りよう。(桜の花は今まさに散っている / 散ろうとしている) 桜の花が散っとう。(桜の花は既に散ってしまっている)
- 罵倒語 動詞連体形(+「て」)+「くさる」「さらす」「けつかる」 (例)何ぬかしくさる! 何してけつかんねん!
- 相手を罵倒する表現で、特に「けつかる」は最も強烈なものである。
- 使役の助動詞 「す」「さす」 (例)笑わす。 アホなことさすなや。
- 共通語では「す」「さす」を口語で使用することは少なくなったが、近畿方言では現在でも広く使用される。なお「(さ)せて」「(さ)せた」は「(さ)して」「(さ)した」となることが多い。
- 「(さ)せてもらう」や「(さ)せていただく」が謙譲表現として共通語以上に多用される。近年問題となっている「さ入れ言葉」も、「させて…」を多用する大阪から広まったとする説がある。 (例)こちらの品は十分に勉強さしてもろてます。
- 仮定の接続助詞 「たら」 (例)好きなようにしたらええがな。
- 「たならば」の変形。近畿方言では仮定表現には「たら」が多用され、「ば」「なら」「ては」はほとんど使われない。
- 連用形+「たる」 (例)ええこと教えたる。
- 「てやる」の変形。共通語では「てやる」は尊大な意味合いが強いが、関西では比較的軽い感覚で用いられる。共通語同様、「てあげる」「たげる」も併用される。
- 近畿方言独特の語法として、遠回しな命令・依頼表現に用いられることがある。 (例)自分、邪魔になるさかい退いたって(あなた、邪魔になるから退いてよ。この場合、邪魔に感じているのは話し手本人であるが、客観的に見てもあなたは邪魔になっているから退いてほしい、というニュアンスが込められている)。 すまん、許したってえや(すまない、許してくれや。この場合、「すまん」と言いつつも自分の落ち度を他人事のように捉えているニュアンスがある)。
- 継続・存続 連用形+「たある」 (例)雨が降ったあった。 そんなことくらい分かったある。
- 「てある」の変形。「たる」と短音化したり、泉州などでは「ちゃある」となったりすることがある。共通語「てある」よりも使用範囲が広い。
- 完了 連用形+「てまう」 (例)ついやってまうねん。
- 通常の形は共通語と同じ「てしまう」だが、くだけた表現では「てまう」となる(共通語や東京方言の「ちまう」「ちゃう」に相当)。連用形はウ音便を用いて「しもう」「もう」だが、「う」は省略されることも多い。 (例)やってもた!
- 「(と)違う」 (例)チャウチャウちゃうんちゃう? これでええんと違いますか?
- 共通語「ではない」「じゃない」に相当する表現には、「じゃない」の変形「やない」に加えて、「(と)違う」が多用される。
- 「違う」は「ちゃう」と発音されることが多いが、これは「ちがう」が「ちやう」に転じ、更に「ちゃう」と変化したものである。
- 若年層では「ちゃう」を形容詞のように用いる例も見られる。 (例)ちゃうかった ちゃうくて (旧来の近畿方言ではそれぞれウ音便を用いて「ちごた」「ちごて」となる)
- 詠嘆表現 語幹(+長音) (例)
熱 う! あぁ重たぁ。- 近畿方言では語幹による詠嘆表現が多用される。東京方言に多い「熱い」→「あちぃ!」のような表現は本来用いられない。
- 指示語(こ・そ・あ・ど)表現
- 断定の助動詞「や」につく時、「どうや」と「そうや」は「どや」「そや」と短音化することが多く、また地域・個人によっては「どや」が「でや」、「そや」が「せや」となることがある。 (例)どや! そやそや。 せやねん。
- 「○ない」で「○のよう / んな / う」といったニュアンスを表す。一説に「○がい」の変形と言い、その場合西日本各地の「○げん」「○ぎゃん」などと同系統ということになる。 (例)調子どないや? どないもこないもあらへんがな。
- 遠い場所を表す指示語「あそこ」が「あ(っ)こ」となることがある。 (例)あこを右へ曲がって。
- サ行音のハ行音化で「そ」が「ほ」、稀に「へ」と転訛することがある。 (例)そして→ほして→ほて→へて それで→そんで→ほんで
- くだけた会話では「○れは」が「○ら」と簡略化されることが多い。 (例)そら大変やわ。 こらどうしょうもあらへん。
- 動詞や形容詞の名詞化 (例)ええかっこしい かしこ
- 「暑がり」「見栄っ張り」など共通語でも動詞や形容詞の名詞化は見られるが、近畿方言でも盛んに行われる。例の「ええかっこしい」(体裁ばかりを飾っている人)は「ええかっこをする」の名詞化、「かしこ」(賢い人)は「賢い」の名詞化である。「ちょかちょか」(落ち着きの無い様子)→「ちょか」(落ち着きの無い人)のように、オノマトペが名詞化されることもある。
- 命令表現 連用形(+い、え) (例)はよ
来 (い)。 よう噛んで食べ(い / え)。- 文語命令形(例:せよ、食べよ)の変形または「連用形+なさい」の省略と考えられる。共通語にも「連用形+な」があるが、連用形そのままあるいは長音化させた命令表現は共通語にはない語法である。サ変動詞「する」の命令表現は「せい(せえ)」または「しい」を(「せい」はややきつめの表現で、「しい」は柔らかな表現である)、カ変動詞「来る」の命令表現は「きい」を用いる。連用形の後の「い」「え」部分はアクセントによって使い分けがあり、例えば「起きい」(__ ̄)と「起きい」(_ ̄_)では後者の方がやや強い表現となる(後者は「い」よりも「え」であることが多い)。後ろには「な」や「や」が付くことが多いが、連用形に直接付ける場合は後述の禁止表現とかぶらないように「な」よりも「や」を付けるのが一般的である。 (例)よう噛んで食べや
- より柔らかに念を押す場合、後ろに「いな」「いや」がつく。こちらもアクセントによる使い分けがあり、例えば「食べいいな」(____ ̄)と「食べいいな」(__ ̄__)では後者の方がやや強い表現となる。 (例)はよ
来 いな。 よう噛んで食べいいや。 - 「連用形+て」も共通語と同様に用いられる。また、やや甘えた命令・依頼表現として「て」を伸ばした「てえな」「てえや」がある。 (例)おもちゃ買うてえな。
- 通常の命令形を用いた表現は、連用形の命令表現に比べてきつめの表現とされる。また「…ろ」系の命令形(例:しろ、食べろ)は東日本発祥であり関西では本来用いないが、現在では共通語の影響で併用されるようになった。 (例)はよ
来 いや。
- 【やや古】禁止表現 連用形+「な」 (例)危ないとこへは行きなや。
- 通常の「終止形+な」(例:行くな)に比べて柔らかな禁止表現。「連用形+なさるな」の省略。後ろには「な」以外に「なや」「ないな」などが付くことも多い。
- 上述の命令表現と同じ形を取ることがあるが、この場合アクセントで区別される。例えば、「長生きしな」の「しな」を平板に発音すると「長生きしなよ」の意味だが、「高低」で発音すると「長生きするな」になってしまう。
- 動詞「いる」「おる」「いてる」「いとる」 (例)犬がようけおるわ。 人がようけいるわ / いてるわ。
- 人や動物の存在を表す動詞として、東日本では「いる」、西日本では「おる」が多用されるが、近畿方言では「いる」「おる」のどちらも使われる。大阪を中心に「いる」に進行形「ている」「ておる」を掛け合わせた「いてる」「いとる」という表現も使われる。「おる」は「いる」「いてる」よりもぞんざいな表現とされがちだが、「おられる」は尊敬語として特に大阪で多用される。
語彙
大阪を中心に近畿地方で広く使われる語彙を挙げる。近畿地方以外でも使われる言葉や古語も含む。共通語に取り入れられたものがある一方で、共通語に押されて死語と化したものも数多い。
- あいそ【愛想】 - 「愛想ない」「愛想なし」で「かわいげがない」または「もてなしが薄い」の意。また「おあいそ」を「御勘定」の意味で客側が使い始めたのは明治時代の京都からとされる。 (例)あいそなしですんまへん。(もてなしが足りず、すみません)
- あかん【明かん】 - 駄目だ。いけない。「埒があかぬ」の略。やや強い表現として「いかん」がある。
- あかんたれ【明かん垂れ】 - 駄目な奴。弱虫。小心者。
- あじない【味無い】 - 美味しくない。まずい。主に京都周辺で用いられ、「あんない」とも。
- あて【当て】 - 酒の肴。
- あほ【阿呆・阿房】 - 馬鹿。単に相手を罵倒するだけでなく、冗談混じりに用いられることも多い。 (例)ほんまアホやなぁ。(ほんとバカねぇ)
- あほんだら【阿呆んだら】 - 「あほ」を強めた言い方。大馬鹿野郎。語源としては「阿呆太郎」説と「阿呆陀羅尼」説がある。
- あらけない【荒けない】 - 荒々しい。ぞんざいな。乱暴な。
- あらへん【有らへん・在らへん】 - 無い。「ありはせぬ」の変形。大阪などでは「あれへん」とも。
- あんじょう - 上手に。上手く。「味良く」の変形。 (例)あんじょう頼んまっさ。(上手く頼みますよ)
- いか【凧】 - 凧。「いかのぼり」とも。共通語の「たこ」がタコに由来するのと同様、姿がイカに似ていることに由来。
- いきる - 「勢いづく」や「息を荒くして怒る」といった意味のほかに、「調子に乗る」「粋がる」の意でも用いられる。 (例)なにいきっとんねん。(何調子乗ってんだよ)
- いけず - 意地悪。「行けず」から派生した語。
- いちびる - 調子に乗る。ふざける。名詞形「いちびり」で「お調子者」の意。
- いっこも【一個も】 - ちっとも。少しも。 (例)いっこも分からへん。(ちっとも分からない)
- いてまう【行てまう】 - やっつけてしまう。これのさらに強い言い方が「いてこます」である。かつて大阪近鉄バファローズの打線の愛称として「いてまえ打線」というものがあった。 (例)いてまうどワレェ!(やっちまうぞ貴様ァ!)
- いと - 娘。お嬢ちゃん。「ぼん」の対義語。 (例)いとはん。(お嬢さん)
- いぬ【去ぬ・往ぬ】 - 帰る。去る。元々はナ変活用であるが、江戸時代中期以降五段活用をとる。 (例)とっとといね!(とっとと去れ!)
- いらう【弄う】 - いじる。触る。弄ぶ。似た表現に「なぶる」がある。 (例)かさぶたいろうたらアカン。(かさぶたを弄っては駄目だ)
- いらち【苛ち】 - 短気者。せっかち。「いらつ」(苛立つ・焦る)の名詞化。大阪人の気質を表す言葉として度々使われる。
- …(て)いらん【…(て)要らん】 - …てくれる必要はない。…てくれなくても良い。 (例)もう来て要らん。(もう来てくれなくて結構)
- いんじゃん、いんちゃん - じゃんけん。地域や世代によって様々な言い方があり、「いんじゃん」「いんちゃん」は昭和中期以降の大阪周辺での表現。現在は共通語の「じゃんけん」あるいはそれが訛った「じゃいけん」が主流。「じゃ~ん~け~ん~で、ホ~イ!」のように節が付くことが多い。
- うち - 主に少女や若い女性が用いる一人称。近年東京にも伝わった。
- うっとい - うざい。「鬱陶しい」の略。若者言葉。
- ええ【良え・好え・善え】 - 良い。終止形と連体形以外は「よい」と同様の活用をとる。古語「えし」の変形とも、「よい」の変形とも言われる。
- ええし - 良家。あるいは金持ちの家。「ええ衆」の転訛。
- えげつない - 強烈な。卑劣な。あくどい。
- えずく【嘔吐く】 - 吐き気を催す。吐く。吐き気が込み上げた時の声(オエッ)に「衝く」が組み合わさったものとされる。
- えらい - とても。非常に。ひどく。大変。世代や地域によっては「疲れる」「苦しい」の意味でも用いる。 (例)えらいえらかったわ。(とても疲れたよ) えらいこっちゃ。(とんでもないことだ)
- えんりょのかたまり【遠慮の塊】 - おかずの最後の余り物。互いに遠慮し合ってなかなか箸が付かないことから。
- おいど【御居処】 - お尻。女房言葉より。
- おおきに【大きに】 - ありがとう。どうも。「おおきにありがとう」(大いにありがとう)などの略。「おおけに」とも。京都では遠回しな拒否表現としても用いられる。なお「ありがとう」も共通語以上に多用される。
- おしピン【押しピン】 - 画鋲。関東にも伝わったが、関東では持ち手がプラスチック製の画鋲に対して用いられる。
- おちょくる - からかう。小馬鹿にする。
- おっさん - 平板な発音だと「おじさん」のくだけた言い方であるが、「おっ」にアクセントをつけると「和尚さん」の意。 (例)おっさんが来やはるで。(和尚さんが来られるよ)
- おとつい【一昨日】 - おととい。なお共通語「おととい」は「おとつい」の変形である。
- おとん、おかん - 「お父さん」「お母さん」のくだけた言い方。
- おなかがおおきなる【お腹が大きなる】 - 満腹になる。「妊娠する」ではない。
- おはようおかえり【お早うお帰り】 - 出立する相手を見送る際の挨拶言葉。「さっさと帰れ」という意味ではない。 (例)おはようおかえりやす。(お早く帰って来て下さいね)
- おぼこい - 幼い。子供らしい。うぶな。あどけない。
- おやかましさん【御喧しさん】 - 他家を辞する際の挨拶言葉。「おやかまっさん」とも。 (例)おやかまっさんどした。(お邪魔しました)
- おもろい - 面白い。
- ○かいせい【回生】 - 大学○年生。京都帝国大学で使われだし、現在では近畿一円の大学生の間で用いられる。
- かいてんやき【回転焼】 - 今川焼。この他にも「太鼓焼き」など様々な言い方がある。
- かしわ【黄鶏】 - 鶏肉。
- がしんたれ【餓死垂れ】 - 意気地無し。甲斐性無し。能無し。
- カッターシャツ - ワイシャツ。「カッター」と略されることも多い。詳しくはワイシャツ#日本語での呼び名についてを参照。
- かなん【叶ん・適ん】 - 嫌だ。やり切れない。「かなわん」の略。「かなへん」とは言わない。
- かまとと【蒲魚】 - 世間知らず。または世間知らずな振りをしてウブなように振舞うこと、人。元は上方の花街言葉であったが、大正期に宝塚などで隠語として使われたのがきっかけで全国に広まった。 (例)あいつはかまととしとる。(あいつはブリっ子してる)
- かまへん【構へん】 - 構わない。「かまわへん」の略。大阪などでは「かめへん」とも。
- がめつい - 異常な程に物や金に執着心を持つこと。麻雀用語「がめる」を基に劇作家菊田一夫が造った言葉で、昭和34年に大阪が舞台の演劇「がめつい奴」で使われて広まった。本来は間違いであるが、関西弁として認識されがちな語彙である。
- かやくごはん【加薬御飯】 - 炊き込みご飯。五目飯。「色ごはん(色飯)」とも。
- …(て)からに - 添加や強調を表す接続助詞。終助詞として用いられることも多い。 (例)余計なこと言いよってからに。(余計なことを言いやがってよお)
- かる【借る】 - 借りる。過去形は「借った」。共通語でも「虎の威を借る狐」という諺に残る。 (例)図書館で本をかった。(図書館で本を借りた)
- かんこくさい【紙子臭い】 - 焦げ臭い。きな臭い。
- かんてき - 七輪。「かんてき(を)おこす」で「癇癪を起こす」、「かんてき者」で「癇癪持ち」の意。
- かんと(う)だき【関東煮・関東焚き・関東炊き】 - 煮込みおでん。元々「おでん」とは田楽を指す言葉であり、煮込みおでんが江戸から伝わった時に旧来の「おでん」と区別するためにこの名が付けられた。なお台湾でもおでんのことはzh:關東煮と表記される。
- きくな【菊菜】 - 春菊。
- きさんじ【気散じ】 - (気性が)闊達な。気さくな。さばさばした。
- きしょい - 「気色悪い」の略。若者言葉。類義語に「きもい」があり、共に東京でも若者言葉として広まった。
- ぎょうさん【仰山】 - 数量や程度が甚だしい様子。たくさん。大層な。「ようさん」とも。「アホほど」よりやや少ない。
- くど【曲突】 - かまど。京都周辺での言い方。通常「おくどさん」という形を取ることが多い。
- げいこ【芸子】- 芸妓。見習いの者は「舞妓」。東京では「芸者」。
- けったい - 奇妙。変。不思議。おかしい。「卦体」または「稀代」の変形と考えられる。 (例)けったいなやっちゃ。(おかしな奴だ)
- けったくそ【けった糞】 - 主に「けったくそ(が)悪い」の形で使われ、「癪に障る」「忌々しい」「腹立たしい」の意。「けったい」からの派生語。
- ごあさって【五明後日】 - 「今日」から数えて五日目、つまり「しあさって」の翌日。東京でいう「やのあさって」。ちなみに「明後日」の翌日を指す「しあさって」は関西から東京に伝わった語である。
- こうと【公道】 - 質素で地味だが上品さを兼ね備えている様子。
- こける【転ける】 - 転ぶ。倒れる。
- こそばい - くすぐったい。かゆい。「こそばゆい」の略。
- ごつい - でかい。強い。いかつい。ひどい。派生して、「めっちゃ」などと同様の使われ方もする。 (例)ごっつやばい。(超やばい)
- さいぜん【最前】 - 先程。現在ではほとんど用いられないが、古典落語で多用される。
- さし【差し】 - 物差し。定規。
- さぶいぼ【寒疣】 - (寒い時の)鳥肌。 (例)あー、さぶいぼが出た。(あー、鳥肌が立った)
- さら【更・新】 - 新しい。共通語でも「更地」「まっさら」といった表現に残る。 (例)さらぴん(新品)
- さん - 近畿方言では接尾語「さん」の使用頻度が高い。また前の音がハ行を除くa・o・e音の場合には「はん」と訛ることがある(従って「おけいはん」は厳密には誤用といえる)。
- さんかくすわり【三角座り】 - 体育座り。「さんかくずわり」とも。
- …しな - …の時に。…のついでに。…の合間に。…の途中に。単に「し」とも。 (例)帰りしな友達の家に寄った。(帰る途中、友達の家に寄った)
- しばく - 叩く。引っぱたく。昭和以降、「…を飲食しに行く」の意で用いられることもある。 (例)茶ぁしばけへん?(お茶しない?)
- じぶん【自分】 - 一般的な用法だけでなく、くだけた二人称としても用いられる。 (例)自分、自分のことどう思てる?(お前、俺のことどう思ってる?)
- しゃあない - しょうがない。仕方がない。
- じゃまくさい【邪魔臭い】 - 面倒臭い。 (例)邪魔臭い仕事やなぁ。(面倒臭い仕事だなぁ)
- しょうことなしに【為うこと無しに】 - 仕方なく。
- しょうもない【仕様も無い】 - つまらない。おもしろくない。くだらない。
- しんきくさい【辛気臭い・心気臭い】 - じれったい。苛立たしい。まどろっこしい。
- しんどい - 疲れる。苦しい。精神的な疲労に対しても用いる。「心労」または「辛労」からの派生語と考えられる。
- じんべ(え)【甚兵衛・甚平】 - 主に夏に着る男物の袖無し羽織(現在では袖のあるものも)。「甚兵衛羽織」の略。「でんち」(「殿中羽織」の略)とも。
- すい(い)【酸い(い)】 - すっぱい。共通語でも「酸いも甘いも嚙み分ける」という諺に残る。
- すうどん【素饂飩】 - 具の無いうどん。かけうどん。当然ながら「酢うどん」ではない。
- すかたん - まぬけ。とんちんかん。あてはずれ。ちなみに「まぬけ」も関西から広まった表現である。 (例)すかたんかますな。(へまをするな)
- すこい - ずるい。狡猾。せこい。「こすい」を言葉遊びで変形させたもの。
- ずっこい - ずるい。 (例)そんなんずっこいわ!(そんなのずるいよ!)
- ずつない【術無い】 - 苦しい。「しんどい」よりも程度が強い。 (例)気ずつないなぁ。(心苦しいなぁ)
- せいだい - 精々。大いに。「せいざい」「せいらい」などとも。「精を出して」の変形とする説と「精際」の変形とする説がある。 (例)せいだい気張りや。(大いに頑張りなよ)
- ぜんざい【善哉】 - 餅を入れたつぶし餡(または粒餡)の汁粉。関東での「田舎汁粉」に同じ。
- せんど【千度】 - 何度も。たびたび。大層。ひどく。 (例)せんど言わすな!(何度も言わせるな!)
- ぞぞげ【ぞぞ毛】 - (ぞっとした時の)鳥肌。「ぞぞ毛が立つ」で「身の毛がよだつ」の意。
- …たおす【倒す】 - 徹底的に…まくる。強調の語であり、実際に押し倒したりするわけではない。同じような表現に「…まわす」がある。 (例)しばき倒す。(徹底的に殴りまくる) 拝み倒す。(熱心に拝みまくる)
- たく【炊く・焚く】 - 煮る。米以外にも多用される。 (例)夕飯は大根の炊いたんやで。(夕飯は大根の煮物だよ)
- だぼ - 馬鹿。「あほ」よりややキツイ言い方。播州・神戸で用いる。
- …たら - 「…とやら」の簡略化。…とか。 (例)なんたらかんたら。(なんとかかんとか)
- ちゃいする - 捨てるを意味する幼児語。 (例)そんなばばいもんちゃいし。(そんなばっちいものはポイしなさい)
- ちゃらんぽらん - 軽率でいい加減な様子。
- ちょう、ちょお - ちょっと。当然ながら「超」とは無関係。 (例)ちょお待ってえな。(ちょっと待ってよ)
- ちょ(う)ける【嘲ける】 - ふざける。おどける。名詞形「ちょけ」で「ふざけたことをする、言う人」の意。
- ちんと - きちんと。ちゃんと。「ちんとする」「おっちんする」で「(きちんと)座る」の意を表す幼児語になる。 (例)静かにおっちんし。(静かにお座りなさい)
- つくり【造り・作り】 - 刺身。淡水魚の刺身は「さしみ」と呼んで他の「つくり」と区別することがある。
- つぶれる【潰れる】 - 共通語では「駄目になる」「平らに変形して壊れる」の意味だが、関西では外見上の変形を伴わない破損・故障に対しても使用される。 (例)テレビが潰れおった。(テレビが壊れた)
- てい - こら。めっ。とうっ。子供を叱る時に用いられることが多い。
- てれこ - 逆さま。あべこべ。もとは歌舞伎用語。
- てんかす【天滓】 - 天ぷらの揚げかす。ちなみに天かすを具とするうどんのことを関西では「ハイカラうどん」と呼ぶ。
- てんご - いたずら。悪ふざけ。冗談。
- てんぷら【天麩羅・天婦羅】 - 一般的な天ぷらに加えて、薩摩揚げのことも指す。
- ど - 語頭につけて程度を強める。罵りのニュアンスが加わる場合が多い。 (例)ど真ん中 どあほ どぎつい ど派手
- どたま【ど頭】 - 罵り言葉。 (例)どたまかち割ったろか!(頭ぶちのめしてやろうか!)
- どつく【ど突く】 - 叩く。殴る。「どづく」とも。
- どつぼ【ど壺】 - 肥溜め。多くは「どつぼにはまる」の形で使われ、「最悪の状態になる」「やることなすこと全てが悪い方向に向かう」といった様を表わす。
- どんくさい【鈍臭い】 - 鈍い。手際が悪い。間抜け。
- ないない【無い無い】 - 「しまう」を意味する幼児語。 (例)おもちゃないないしょうな。(おもちゃお片付けしようね)
- なおす【直す】 - しまう。片付ける。元の場所に戻す。 (例)これ棚になおしといて。(これ棚に片付けておいて)
- なんきん【南京】 - カボチャ。大阪を中心に使われる。「かぼちゃ」は京都発祥の言葉であり、東京では本来は「唐茄子」。
- なんば【南蛮】 - トウモロコシ。「南蛮キビ」の略。
- なんぼ【何ぼ】 - 幾ら。どれほど。「何ほど」の変形。 (例)なんぼのもんじゃい。(なんだってんだ)
- におぐ【匂ぐ】 - 嗅ぐ。「匂う」と「嗅ぐ」の混合。 (例)ちょっとにおいでみて。(ちょっと嗅いでみて)
- にぬき【煮抜き】 - ゆで卵。狭義には固ゆで卵を指す。
- ねき【根際】 - 側。近く。
- はばかりさん【憚りさん】 - お疲れ様。御苦労様。恐れ入ります。
- はまち【魬】 - ブリの若魚。最近では養殖ブリ全般のことを指すこともある。東京では「イナダ」。
- はみる【食みる】 - 仲間外れになる。除け者になる。「はみ出る」の略で若者言葉。仲間外れにされた人のことは「はみご」という。
- ばり - とても。かなり。元々は博多弁であるが、山陽地方を経由して1980年代以降神戸を中心に関西にも広まった。
- はんなり - 上品で華やかな様子。上品で爽やかな様子。 (例)はんなりしたおべべどすなぁ。(上品で華やかなお召し物ですなぁ)
- ひりょうす【飛竜頭】 - がんもどき。ポルトガル語のfilhosに由来する。「ひろうす」、「ひりゅうず」などとも。
- フレッシュ - コーヒーフレッシュ。
- ぺけ - バツ。バッテン。
- へたる - 弱って座り込む。へこたれる。挫ける。名詞化したものは「へたれ」。
- へちゃ - べっぴんの反対。「鼻がぺちゃんこ」ということから。
- へっつい - かまど。大阪周辺での言い方。「へっついさん」とも呼ばれる。
- べべた - びり。最下位。「べべ」「べべちゃ」などとも。
- ほかす【放下す】 - 捨てる。 (例)この書類ほかしといて。(この書類捨てといて)
- ほげた【頬げた】 - 文句。(目上に対する)反論。物言い。 (例)ほげたをはく。(文句を言う)
- ほたえる - ふざける。じゃれる。
- ぼちぼち - まあまあ。そろそろ。 (例)ぼちぼちでんな。(まあまあですな) ぼちぼち行こか。(そろそろ行こうか)
- ほっこり - 本義は「(一仕事を終えたあとの)程よい疲れ」あるいは「ほかほかとあたたかな様子」だが、現在では「疲れが癒える」「ほっとする」といった意味でも使われる。 (例)ほっこりしたし一服しょうか。(くたびれたし一服しようか) お芋さんほっこり焼けてるで。(サツマイモがほくほくに焼けてるよ)
- ほ(ん)な(ら) - では。じゃあ。「それなら」の変形で、軽い別れの挨拶にも使われる。 (例)ほなな。(じゃあね)
- ほる【放る】 - 投げる。捨てる。
- ほん【本】 - 本当に。極めて。古風な印象があるが、実際は「ほんま」よりも後に成立した言葉。 (例)ほんに寒いなぁ。(本当に寒いなぁ) ほんこないだ。(ごく最近)
- ぼん - 坊や。「坊」の変形。やや丁寧な言い方としては「ぼんぼん」「ぼんち」などがある。 (例)かいらしいぼんやなぁ。(可愛らしい坊やだなぁ) ぼんぼん育ち。(お坊ちゃま育ち)
- ぼんさん - お坊さん。
- ぼんさんがへをこいた【ぼんさんが屁を放いた】 - だるまさんがころんだ。「においだら臭かった」と続くことが多い。
- ほんま【本真】 - 本当。実際。「本間」と書かれることがあるが、これは間違い。
- まいど【毎度】 - どうも。「毎度ありがとうございます」などの略。大阪の商業関係者の間で広く挨拶として使われる。
- マクド - マクドナルドの略。マクドナルド#呼称も参照。ミスタードーナツの略「ミスド」に影響されたものか。 (例)マクド行ってビッグマック食べよか。(マックに行ってビッグマック食べようか)
- まったり - 本来は「まろやかでこくのある味わい」を指し、稀に「じっくりと」「くどくどと」といった意味も表したが、最近では「のんびり・ゆったりした様子」といった意味で用いる者が増えている。
- まんまんちゃん - 神仏を意味する幼児語。稀に月を指すことも。「南無阿弥陀仏様」の変形とされる。お辞儀を表す「あん」を後ろにつけると、神仏に対する祈りの動作を表す。 (例)お仏壇にまんまんちゃんあんせんとな。(お仏壇にお祈りしないとね)
- みぃいる【身いる】 - 筋肉痛になる。筋肉が張る。 (例)走って身ぃいったわ。(走って筋肉痛になったよ)
- みずや【水屋】 - 食器棚。台所全体を指すこともある。茶道用語の「水屋」(茶室内の茶器を洗う一角)からの派生語とされる。
- めいぼ【目疣】- 麦粒腫。ものもらい。京都周辺での言い方。
- めっちゃ - とても。超。「めちゃくちゃ」の略であり、主に若者が用いる。「めっさ」とも。似た表現に「むちゃくちゃ」の略である「むっちゃ」がある。
- めばちこ【目ばちこ】 - 麦粒腫。ものもらい。
- めんちきる【めんち切る】 - ガンをつける。睨みつける。「目ん玉切る」が「めんた切る」を経て出来た言葉とされる。
- めんどい【面倒い】 - 「面倒」を形容詞化したもの。関西では江戸時代から使われてきた言葉で、最近東京などにも伝わった。
- モータープール - 駐車場。パーキング。進駐軍の用語をハイカラ好きの大阪人が真似たのが始まり。ただし英語での本義は「配車場に待機する車群」。中部地方(金沢、静岡など)以西で広く使用される。
- もうかりまっか【儲かりまっか】 - 「儲かりますか」の転訛。大阪弁の代表としてあまりにも有名だが、実際には「もうかりまっか」を使う大阪商人はほとんどおらず、商人の挨拶としては主に「どうでっか」「お忙しおまっか」などが用いられたという。
- もって【以て】 - …しながら。「もて」とも。 (例)食べもってしゃべりな。(食べながらしゃべるな)
- もむない - 美味しくない。まずい。「旨うもない」あるいは「旨みがない」の変形とされ、「もみない」とも。主に大阪周辺で使われる。
- ややこ【稚児】 - 赤ん坊。単に「やや」とも。
- ややこしい - 煩雑だ。厄介だ。込み入った。面倒だ。「ややこ」が形容詞化したもので、赤ん坊の世話は面倒で大変であるということから。
- ヤンキー - 不良。アメリカ村にたむろする不良少年のことを「やんけ言い」(「やんけ」のような乱暴な言葉遣いの奴)と呼んだのが由来とされるが異論もある。東京では「ツッパリ」。
- やんぺ - 物事をやめる時に使う言葉。主に子供が用いる。「やんぴ」とも。「止め」の変形。 (例)もうやーんぺ。(もうやーめた)
- よういわんわ【能う言わんわ】 - 呆れて物も言えないよ。昭和初期に流行語になったことがある。
- ようけ - 数量が甚だしい様子。たくさん。「余計」の変形。
- よっしゃ - よし。やった。「良しや」(ここでの「や」は断定ではなく詠嘆の「や」)の変形。 (例)よっしゃあ!(やったあ!)
- よろしゅうおあがり【宜しゅうお上がり】 - 食事を十分に召し上がってくれてありがとう。本来は「ご馳走様」に対応する言葉だが、家庭によっては「いただきます」の後に用いることもある。 (例)「ごっつぉーさん!」「はいはい、よろしゅうおあがり」
- レーコ(ー)【冷コ(ー)】 - アイスコーヒー。「冷コーヒー」の略。昭和の流行語。同様の語に「レスカ」(レモンスカッシュ)、「ミーコ(ー)」(ミルクコーヒー)などがある。
- れいめん【冷麺】 - 冷やし中華。
- わい - 男性が用いたややぞんざいな一人称。「わし」が変化したもの。
- わて - 男女とも用いた一人称。「わたし」が「わたい」を経て変化したもの。女性の場合「あて」とも言った。
- わや - 滅茶苦茶。台無し。駄目。「わやく」の変形。「わやくちゃ」「わやくそ」などとも。 (例)わやになってもた。(どうしようもなくなってしまった)
- んま【馬】 - うま。「う」の次に「ま」行の音が来る場合には、「う」を「ん」と発音する。(例)「んまれる(生まれる)」、「んみ(海)」、「んめ(梅)」[7]。
近畿方言の地域別分類
ここでは近畿方言を地域ごとに分類する。以下の分類が全てということはなく、様々な分類法が提唱されている。また、言語学者による方言区分と一般人の方言意識とでは隔たりがあることに注意が必要である。(例えば、大阪弁・摂津弁・河内弁・泉州弁・神戸弁は、学者によっては全て「摂河泉方言」で一括りにされる)
この項では簡単な説明に留めているので、各方言の詳細は各項目を個別に、また周辺の他方言との比較については方言比較表をそれぞれ参照。
- 京言葉(京都弁)
- 紀州弁(和歌山弁)
マスメディアや文学における近畿方言
「歴史」の項目で述べた通り、近畿方言のイメージの形成や、近畿方言が他地方でも通用しやすい方言となった背景には、マスメディアや文学の影響が大きい。近畿方言が現在のように全国的に馴染みの深いものとなったのは、ラジオやテレビで漫才の放送が始まり「生の関西弁」が全国で視聴されるようになってからである。
方言への認識が肯定的なものとなってきた現在、共通語以外で売りとして意識せずに自然に話される唯一といっていい方言であり、漫才師でない近畿地方出身のタレントやアイドルでも、特に意識することや隠匿することなく方言を用いる事が多い。
文学作品の中でも関西弁が用いられることは昔からよくあった。近畿地方出身あるいはゆかりの作家は多く、彼らが自分達の作品に関西弁を取り込むのは自然なことである。近畿以外の地方出身の作家であっても、近畿地方を舞台にした作品などで関西弁(特に大阪弁や京言葉)は度々使われてきた。関西弁を文学に取り入れた作家としては、織田作之助、谷崎潤一郎、水上勉、山崎豊子、田辺聖子、木津川計などが著名である。
漫画やアニメにおいても関西弁はひとつのキャラクター要素として定着し、近畿地方出身の声優が地の言葉で活躍している。(永井一郎、若本規夫、坂口哲夫、松岡由貴、久川綾、杉本ゆう、植田佳奈、小野坂昌也、前田愛など)
また、海外の文学や映画作品で方言を用いた場面を邦訳する際、関西弁が当てられることがある(韓国映画「友へ チング」など)。
このように関西弁(特に大阪弁)はテレビや映画などで耳にすることが多い。漫才やコントなどでは、共通語よりも大阪弁が積極的に使われるケースもある。しかし、マスメディアや文学に登場する関西弁のなかには、ある種パターン化した誤ったものになってしまっていることもまま見受けられる。例えば、映画『極道の妻たち』や『ミナミの帝王』の登場人物、『パーマン』の「パーやん」が用いる言葉は、ネイティブからすると自然な関西弁とは言い難いものである(似非方言も参照)。
在阪メディアにおける近畿方言
大阪を中心とした近畿圏の放送局では、情報・バラエティ・トーク番組などでアナウンサーが番組中に関西弁を話すことは決して珍しい事ではない。これは共通語の規範とされることの多いNHKであっても例外ではなく、NHK大阪放送局などに長く在籍しているアナウンサーや近畿地方出身のアナウンサーは関西弁を用いることが多い。(例:NHKの佐藤誠・濱中博久・小寺康雄、関西テレビの山本浩之、毎日放送の角淳一、朝日放送の乾浩明・中原秀一郎・宮根誠司など)
讀賣テレビ放送の『なるトモ!』・『大阪ほんわかテレビ』や毎日放送の『ちちんぷいぷい』・『痛快!明石家電視台』・『せやねん!』など関西ローカルの番組では番組出演者が関西弁を用いることは一般的であり、いずれも共通語を用いる番組に比べて気さくな印象や和やかな雰囲気で視聴者から親しまれている。
近年近畿方言の均一化が進み「関西共通語」といえるものが成立しつつあるが、この一因に在阪メディアによる関西弁の影響が考えられる。吉本や松竹の芸人が多く出演する在阪メディアでは、漫才の大阪弁と共通語をベースとした関西弁が話されることが多い。そうした言葉がマスメディアの持つ強い影響力によって近畿一円に広まっているのである。
脚注・補足
- ^ 『新日本語の現場』方言の戦い(38) 「吉本弁」ほとんど共通語(2006年6月8日付読売新聞)
- ^ 此ごろ京よりきたるうかれ女、なにはのどうとんぼりといへる所のうかれ里にたよりてつとめしに、やゝもすれば京ことばをもつてひとをいやしめ、大きいはいかつい、ぬくいはあたたか、其外やごとなきことばのはし〲をおぼへて、そのうたてさかぎりなしとや (宝暦9年『弥味草紙』)
- ^ 「 ―略― 江戸
詞 のからを笑ひなはるが、百人一首 の歌に何とあるエ。」「ソレ〱、最 う百人一首 ぢや。アレハ首 ぢやない百人一首 ぢやわいな。まだまア、しやくにんしト云はいで頼もしいナ。」「そりやア、わたしが云ひぞこねへにもしろさ。」「ぞこねへぢやない、云ひ損ひ ぢや。えらう聞きづらいナ。 ―略― 」 (文化年間『浮世風呂』、ルビと「 ―略― 」は引用者注) - ^ 新潟弁・庄内弁・秋田弁で「さかい」と同系統の「さけ」「すけ」が使用される、名古屋弁で否定の助動詞「へん」の古形「せん」が使用される、など。
- ^ 北八「コウ、左平さん、他国ものだとおもつて、あんまり人をばかにした。夕べ喰たものが、何こんなにかゝるものか。惣体(註:総じて)上方ものはあたじけねへ(註:欲深い)。気のしれたべらぼうものだ。」左平「イヤおまいがたがあたじやわいな。何じやあろうと、くたもの(註:食ったもの)はらうて下んせにや、わしがすまんわいな」 (『東海道中膝栗毛』、註は引用者注)
- ^ 「どうじや番頭どの。だいぶ寒くなつたの -略- 此としになるが、ゆふべほど犬の吠た晩は覚えぬ」(文化年間『浮世風呂』、太字強調と「 ―略― 」は引用者注)
- ^ 牧村史陽『大阪ことば事典』講談社,1984年,752ページ
参考文献・近畿方言に関する書籍
- 前田勇編『上方語源辞典』東京堂出版。
- 堀井令以知著『上方ことば語源辞典』東京堂出版。ISBN 4490105177
- 大阪女子大学国文学研究室著『上方の文化―上方ことばの今昔』和泉書院。ISBN 4870885514
- 井上史雄ほか著『日本列島方言叢書 (13) 近畿方言考』ゆまに書房。ISBN 4896688368
- 中井幸比古編著『京阪系アクセント辞典』勉誠出版。ISBN 4-585-08009-0
- 井之口有一・堀井令以知編『京ことば辞典』東京堂出版。 ISBN 4-490-10305-0
- 牧村史陽編『大阪ことば事典』講談社[講談社学術文庫]。ISBN 4061586580
- 尾上圭介著『大阪ことば学』講談社[講談社文庫]。ISBN 4062747901
- 山下好孝著『関西弁講義』講談社[講談社選書メチエ]。ISBN 4062582929
- 真田信治監修、岡本牧子・氏原庸子著『聞いておぼえる関西(大阪)弁入門』ひつじ書房。ISBN 978-4894762961