シュリンプペースト
シュリンプペースト(英語: shrimp paste)は、小型のエビに塩を加え、発酵させて作る調味料。塩辛や東南アジア一帯で広く利用される魚醤の一種であるが、液体のナンプラーなどとは違い、ペースト状もしくは固形である。非常に塩辛く、刺激臭とも言える強烈なにおいがあるが、日本のくさやと同じく、分解したアミノ酸等で複雑なうま味を持つ。
利用地域と名称
[編集]インドネシアではトゥラシやトラシ(インドネシア語: terasi)、マレーシアではブラチャン(マレー語: belacan)、タイではカピ(タイ語: กะปิ)、ベトナムではマムトムやマムルオック(ベトナム語: mắm tôm/mắm ruốc)𩻐𩽖、中国ではシアジアン(蝦醤。ペースト状のもの)またはシアガオ(蝦膏。ブロック状のもの)と呼ばれる。
日本では熊本県、岡山県、秋田県などにアミの塩辛(漬けあみ、いさじゃの塩辛)がある。
朝鮮半島にはセウジョッ(朝鮮語: 새우젓)、トンベッカジョッ(朝鮮語: 동백하젓)という「アミの塩辛」と呼ばれるものがあり、キムチ、チゲなどの朝鮮料理の調味に使われるが、これらは発酵がほとんど進んでおらずアキアミの原型があり、東南アジアのシュリンプペーストとは大きく異なる。
利用
[編集]インドネシアやマレーシアでは唐辛子ベースの合わせ調味料サンバルによく使われ、これを入れた物はサンバル・トゥラシやサンバル・ブラチャンと称し、スープや炒め物など多くの料理に使用し、ナシゴレンなどのご飯ものやペナン風の腸粉[1]やラクサなどの麺料理にも使用される。マッサマンカレーを含む各種タイカレー(ゲーン)にもよく使用される。通常は使用時に火で炙るか油で炒める。この時、非常に強烈な臭いがするが、それにより生臭みが飛ぶ。また、ナスなどの野菜やマンゴーなどの果物にかけても食べられる。インドネシア/マレーシア料理のフルーツサラダであるロジャックのタレにも加えられる[2]。
中華料理やタイ料理でも、ヨウサイなどの野菜を炒める時や、スープの調味料の一つとして使うことが多い。浙江省寧波市では醤油と蝦醤を合わせ、蒸したサトイモなどに付けて食べることも行われている。
ベトナムでは、米麺のブン(bún)のスープに(bún mắmと呼ばれる)、様々な料理のつけダレに、また犬肉 (thịt chó)やそれに似せたザーケイ(giả cầy、「偽犬」の意味で、豚足を用いる)を調理する際に用いられることが多い。タイのハジャイにはシュリンプペーストと独特の芳香がある水棲昆虫タイワンタガメを火であぶり、タイワンタガメ(メンダー)の肉にシュリンプペーストとニンニクと唐辛子を加えてすりつぶして水で伸ばした、「ナムプリックメンダー」という名の「たれ」を米飯にかけて食べる料理がある[3]。
作り方
[編集]地域により作り方は多少異なるが、マレーシアではアミを海水で洗って異物を取り除いた後、約1割の精製塩を加え混ぜ、日干しによって水分を減らしてから、挽きつぶし、さらに日干しをし、布袋に入れて圧縮することと日干しを繰り返して発酵させる。完成まで全体で1ヶ月から2ヶ月の時間が必要である。
歴史
[編集]書籍に記録されている物では、1707年に公刊されたウィリアム・ダンピアの航海記の中でトラシについて触れ「強烈な臭いはするものの先住民はこれが美味いと言う」と記している。ウィリアム・マースデン(William Marsden)が1805年に編纂し、1812年に出版された『A Dictionary of the Malayan Language』にもブラチャンの記載がある。
マレーシアでは、もともとは宗教の供物と結びついた聖餐に使われていたともいう[4]。
脚注
[編集]- ^ 曾美芯、容在鈞、郭子仁 著、『夜市風味美食 Pasar Malam Delights』pp84-85、2007年、Yum Yum Publications Sdn Bhd、クアラルンプール
- ^ 藍賽珍、『街辺風味小食 Agnes Chang's Hawkers' Delights』、pp90-91、2000年、Central Paper Agencies Sdn Bhd、クアラルンプール
- ^ 高野秀行、辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』p96、文藝春秋、2018年、ISBN 978-4-16-390919-6
- ^ 武富正一、『馬來語大辭典』p99、1943年、旺文社、東京