コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

カムテール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

カムテール英語: Kamm tail)は、自動車の外観デザイン要素の1つである。カムバック(Kammback)、K-テール(K-tail)、コーダトロンカイタリア語: coda tronca)とも呼ばれる。

車の屋根から後部へと続く面が下向きに傾斜し、下端まで下がりきる前に、垂直、またはほぼ垂直の面によって切り落とされる造形である。

概要

[編集]

カムテールは、車両の実用的形状を保ちながら、空気力学抗力を最小化し、性能と燃費を向上させることを目的としている[1]。名称は、1930年代にカムテールデザインを開発したドイツの空気力学研究者、ヴニバルト・カム英語版に由来する。

レーシングカーのように空気力学的原理に基づいてカムテールデザインを取り入れている場合もあれば、単に流行のデザイン、またはマーケティング要素として切り落とし(カットオフ)テールを採用する事もある。

起源

[編集]
1950年式ナッシュ・エアフライト
1952年式ボルグヴァルト・ハンザ2400英語版

1920年代から1930年代にかけて自動車の実用速度域が上がり、空力抗力(空気抵抗)の存在が無視できなくなってくると、技術者らは自動車の空気力学英語版の原理を適用し始めた[2]。空気抵抗が増大するにつれて、車両を前進させるためにより多くのエネルギー、つまり、より多くの燃料が必要となる[3]

1922年パウル・ヤーライが、より高い速度で増大する空気抵抗を最小化するため、涙滴断面(丸みを帯びたノーズと、長く先細りのテール)に基づく車体形状に関する特許を取得した[4][5]。1930年代中頃の流線形の自動車(タトラ・T77クライスラー・エアフロウ英語版リンカーン・ゼファーなど)は、この原理に基づいて設計された。

しかし、長いテールは全長の増大を招き、自動車にとって実用的な形状ではなかったため、技術者らは別の解決策を模索した。1935年ドイツ国の航空技術者ゲオルク・ハンス・マデルンク英語版はロングテールなしに抗力を最小化する代替策を示した[6]ラインハルト・フォン・ケーニヒ=ファハゼンフェルト英語版は、滑らかなルーフライン(流線形のボディと同様に低い抗力が達成される)なら垂直に切り落とされる車体形状を開発し、1936年に同様の理論が実験車に適用された[5][7][8]。ケーニヒ=ファハゼンフェルトはバス車体での空力設計を研究し、特許を取得した[9]。また、シュトゥットガルト大学ヴニバルト・カムと協力して、「日常的な実用性(例えば、全長や室内と荷室容積)と魅力的な抗力係数CD値)との間のまずまずの妥協案を提供する」ための車両形状について調べた[5][7]。空力的効率に加えて、カムは自身の設計における車両安定性を強調し[7]、数学的、経験的に設計の有効性を証明した[10]

1938年、カムはBMW・328英語版に基づいてカムテール形状を使ったプロトタイプを生産した[11]。カムテールとその他の空力的修正によって、プロトタイプの空気抵抗係数(CD値)は0.25になった[12]

カムテール理論を取り入れた最初期の量産車には、米国1949年 - 1951年式(モデルイヤーナッシュ・エアフライト西ドイツ1952年 - 1955年ボルグヴァルト・ハンザ2400ドイツ語版/英語版)がある[7]

空気力学的理論

[編集]

抗力を最小化するための理想的形状は「涙滴」(滑らかな翼型様形状)であるが、サイズの制約のため道路交通車両にとっては実用的ではない[1]。しかしながら、カムを含む研究者らはテールを突然切り落とすことで抗力が最低限しか増大しないことを見出した[5]。この理由は、乱れた曳き波領域が車体後方の垂直面の背後に形成されるためである。この曳き波領域が長く傾斜した尾部の効果(自由流がこの領域に入らず、境界層剥離が回避される)を模倣する。そのため、滑らかな空気の流れが維持され、抗力が最小化される[11]

カムの設計では断面積が車体の最大断面の50 %になる点でテールが途切れている[5][13]。この点までに、平らな後部を持つ車両に典型的な乱流が典型的な速度においてほとんど取り除かれる。

カムテールは車体形状が引き起こす揚力問題(リフト)に対する部分的な解決策を提示した。リフトは1950年代スポーツカーレースの速度が増大したため深刻になってきていた。抗力を低減するためにテールを傾斜させるという設計パラダイムはカニンガム・C-5R英語版といった車で極端に行われるようになり[14]、結果として、速度が上がると翼型効果によって車体の後部からリフトが始まり、操縦安定性の喪失、あるいは制御を失う危険性が高まっていた。

カムテールは、テール直下に低圧領域を生成しながら、揚力を受ける表面積を減少させる。いくつかの研究では、カムテール設計へのリアスポイラーの追加は、全体の抗力を増大するため、有益ではないことが示されている[1]

使用

[編集]

1959年、抗揚力方策としてフルボディレーシングカーでカムテールが使用されるようになり、数年内にはこういった車両の事実上全てで使われるようになった。カムテール設計は2000年代初頭に、ハイブリッドカーにおいて燃費を改善する方法として復活した。

いくつかの車種は、それらの形状が真のカムテールの空気力学的哲学を忠実に守っていないにもかかわらず、カムテール(カムバック)として売り込まれてきた。これらのモデルには、1971年-1977年式シボレー・ベガ英語版・カムバックワゴン[15]、1981年-1982年式AMC・イーグル・カムバック[16][17][18][19]AMC・AMX-GTポンティアック・ファイヤーバードを基にした「Type K」コンセプトカーがある[20][21][22][23][24]

出典

[編集]
  1. ^ a b c Santos, Rodrigo de Oliveira; Lyra, Paulo Roberto Maciel; Souza, Márcio Rodrigo de Araújo; Souza Júnior, Marcelo Alexandre de (2012). “Aerodynamic Design of Super Efficient Vehicle”. SAE International 36-0352. https://www.academia.edu/6142362/Aerodynamic_Design_of_Super_Efficient_Vehicle 16 January 2021閲覧。. 
  2. ^ Hucho, Wolf-Heinrich (1987). Aerodynamics of Road Vehicles: from fluid mechanics to vehicle engineering. Butterworths. pp. 19–20. ISBN 978-0-408-01422-9 
  3. ^ The Effect of Aerodynamic Drag on Fuel Economy”. Auto Research Center. 16 January 2021閲覧。
  4. ^ Paul Jaray 1889-1974”. Coachbuilt.com. 9 June 2014閲覧。
  5. ^ a b c d e Ziemnowicz, Christopher (2004年). “The Origin of the Kammback Design”. 15 April 2012時点のオリジナルよりアーカイブ。9 June 2014閲覧。
  6. ^ Gowans, Alan (1981). Learning To See: Historical perspective on modern popular/commercial arts. Popular Press 1. p. 360. ISBN 978-0-87972-182-4 
  7. ^ a b c d Eckermann, Erik; Albrecht, Peter L. (2001). World History of the Automobile. SAE International. pp. 115–117. ISBN 978-0-7680-0800-5. https://books.google.com/books?id=yLZeQwqNmdgC&pg=PA117&dq=Kammback 9 June 2014閲覧。 
  8. ^ Ludvigsen, Karl (Fall 1967). “Automobile Aerodynamics: Form and Fashion”. Automobile Quarterly 6 (2). 
  9. ^ Montgomery, Bob (8 August 2007). “Designing a spin for the tail end of things” (fee required). The Irish Times. http://www.irishtimes.com/newspaper/motors/2007/0808/1186424868676.html 8 December 2011閲覧。 
  10. ^ Bush, Donald J. (1975). The streamlined decade. George Braziller. p. 109. ISBN 978-0-8076-0793-0. https://archive.org/details/streamlineddecad00bush 
  11. ^ Ihrig, Ron (3 December 2004). “Part 3: Production, Physics, Politics - Only the Strong Survive - German Design History”. 22 July 2012時点のオリジナルよりアーカイブ。9 June 2014閲覧。
  12. ^ Kamm Back”. Auto Repair About. 9 June 2014閲覧。
  13. ^ Cunningham C5-R, 1953”. auta5p.eu. 16 January 2021閲覧。
  14. ^ Stevenson, eon (2008). American automobile advertising, 1930-1980: an illustrated history. McFarland. p. 221. ISBN 9780786452316. https://books.google.com/books?id=FGU5qHJY-y4C&pg=PA221&dq=Vega+Kammback+wagon 9 June 2014閲覧。 
  15. ^ History of the 1981 AMC Eagle”. AMC Eagle Den. 9 June 2014閲覧。
  16. ^ Ernst, Kurt (10 March 2014). “Lost Cars of the 1980s – 1981-1982 AMC Eagle Series 50 Kammback”. 9 June 2014閲覧。
  17. ^ Witzenburg, Gary; Miller, Moss (September 1980). “Driving the new AMC Eagles”. Popular Mechanics 154 (4): 100. 
  18. ^ Stevenson, eon (2008). American automobile advertising, 1930-1980: an illustrated history. McFarland. p. 221. ISBN 9780786452316. https://books.google.com/books?id=FGU5qHJY-y4C&pg=PA221&dq=Vega+Kammback+wagon 5 January 2014閲覧。 
  19. ^ “Kamm Tail AMX”. Car and Driver 14: 99. (1968). https://books.google.com/books?id=FUhWAAAAMAAJ&q=AMX-GT+kamm 9 June 2014閲覧。. 
  20. ^ Mitchell, Larry G. (2000). AMC Muscle Cars. Motorbooks. p. 23. ISBN 9780760307618. https://books.google.com/books?id=JHVaQFDrx_MC&pg=PA1965&dq=1968+AMC+AMX+GT+show+car 9 June 2014閲覧. "...with a chopped-off rear end that was known as a Kamm-back." 
  21. ^ ((Editors of Consumer Guide)) (15 November 2007). “Chevrolet Camaro and Pontiac Firebird Concept Cars”. auto.howstuffworks.com. 9 June 2014閲覧。
  22. ^ Wilson, Bill (26 March 2014). “The Pontiac Kammback: Innovation vs. Convention”. Boldride. 9 June 2014閲覧。
  23. ^ Stone, Matt (August 2009). “Pontiac Trans Am Greats: We Shall Never Pass This Way Again”. Motor Trend. http://www.motortrend.com/features/archive/112_0910_pontiac_trans_am_greats/#ixzz32p7C1Jv5 9 June 2014閲覧。. 

関連項目

[編集]