ノート:シラビソ
シコクシラベの記載に関して
[編集]@As6022014さん 初めまして、エリック・キィと申す者でございます。早速本題へと移りますが、As6022014さんは10年以上前に『笹ヶ峰の生物』を典拠に『1928年、中井らは、四国山地に分布するシラビソが、本州のものと比較して毬果がやや小さく、葉の形状に相違が見られることから、四国の固有種「シコクシラベ Abies veitchii var. sikokiana (Nakai) Kusaka.」として発表した』と加筆されましたね(Special:Diff/33655646/35431282)。まずこの文章は一目見た段階で既に問題があります。植物の命名者が "(A) B" と書かれていた場合は、〈Aが過去にある基準標本をもとに学名を与える発表(記載)を行ったものを、Bが同じ標本に基づいて新たに別属へ組み替えたか、独立種であったものを亜種・変種と判定し直した (あるいはその逆)〉と読み取る必要があります。つまり今回の場合、〈Nakai (= 中井猛之進) が過去に sikokiana (あるいは sikokianus か sikokianum の可能性もある) という種小名を与えた何らかの分類名を Kusaka (= 草下正夫) が Abies veitschii var. sikokiana と分類し直した〉という事になります。お手数をお掛け致しますが、もし手元に『笹ヶ峰の生物』がおありでしたらもう一度内容を確認して頂けませんか。もし典拠に忠実に則った結果この加筆内容となったのであれば、『笹ヶ峰の生物』の学名に対する姿勢に問題があるという事になります。
そして学名がいつどこで初めて記載発表(訂正: Eryk Kij(会話) 2023年4月22日 (土) 09:10 (UTC))されたか調べられるデータベースが複数存在するのですが、そうしたデータベースを調べた結果、Abies veitschii var. sikokiana が初めて記載発表(訂正: Eryk Kij(会話) 2023年4月22日 (土) 09:42 (UTC))されたのは1928年ではなく1954年という事が分かりました。日本産の植物であればYListというところを探せば大体見つかるのですが、実際に1928年に記載されたのは中井による独立種 Abies veitchiisikokiana(訂正: Eryk Kij(会話) 2023年4月22日 (土) 09:10 (UTC)) としてのものであり(参照: Nakai, T. (1928). “Notulæ ad Plantas Japoniæ& Koreæ XXXVI”. The Botanical Magazine 42 (502): 452. doi:10.15281/jplantres1887.42.451.)、シラビソの変種 Abies veitchii var. sikokiana としてのものは岩田利治、草下正夫『増訂 邦産松柏類図説』産業図書、1954年、212頁。における草下によるものという事が分かりました(参照: [1]、[2])。この『増訂 邦産松柏類図説』は残念ながらオープンアクセスで実際に内容を確かめる事は不可能ですが、YList(やキュー植物園系の World Checklist of Selected Plant Families でも)等で言及されていたという事は記述する事が可能です。
更に中井がシコクシラベを記載した際に比較の対象としたのは「本州のシラビソ」ではなくチョウセンシラベ Abies koreana E.H.Wilson です。『笹ヶ峰の生物』ではどの様な記述が行われていたのか本当に気になって仕方がございませんので可能であればすぐにご確認頂けないでしょうか。私はこれまでに述べてきた三つの点(命名者情報の読み取り方、学名の記載年に関し複数のデータベースと矛盾、既知の種との比較に関し Nakai (1928) と矛盾)から『笹ヶ峰の生物』を典拠とした分類に関する記述を掲載し続ける事に非常に懐疑的でございます。ただ中井や草下がシコクシラベの分類を決める上でシラビソを比較対象とした訳ではないものの、シコクシラベの記載が行われてから別の機会にシラビソとの比較が行われたという事が記されているパターンであればその要素だけ残すという編集も可能です。--Eryk Kij(会話) 2021年7月5日 (月) 06:34 (UTC)
- 追記 なお、原記載においてシコクシラベとの比較対象がチョウセンシラベとされているという指摘は過去にも例があります(山中, 二男「四国のシラベの学名」『植物分類, 地理』第42巻第2号、1991年、106頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001078718。)。--Eryk Kij(会話) 2021年7月6日 (火) 17:03 (UTC)
- ご指摘ありがとうございます。申し訳ございませんが、『笹ヶ峰の生物』は手元にありません(よく覚えていませんが西条市立図書館にあったと思います。ローカルな文献です。)ので今ここで記述内容を確認ができません。この文献の記述、あるいはそれを元にした私の編集に疑義がある場合は、元文献に遡って、Nakai(1928)やKusaka(1954)などに基づいて編集するべきです。
- 記事内容に疑義がある場合は、適切に書き換えて編集を行うのがwikipediaのシステムですから。--As6022014(会話) 2021年7月7日 (水) 01:33 (UTC)
- @As6022014さん ありがとうございます。ローカルな資料……それは興味深いです。
- >記事内容に疑義がある場合は、適切に書き換えて編集を行うのがwikipediaのシステムですから。
- 理念的にはその通りです。とはいえ今回は出典が示されている以上、何の議論もなしに記述を破棄してしまっては不味いと判断したのです。加筆を行われた方(As6022014さん)が活動中であるならばすぐに確認して頂けるかもしれないという可能性も私視点ではございました。しかしすぐに確認する事はできないとなりますと、これはもう早く手を打った方が良いかもしれません。念のために確認致しますが、分類情報に関しては『笹ヶ峰の生物』を典拠とした記述は破棄し、代わりにNakai (1928)や各種データベースを典拠とする情報の方に差し替えるという事でよろしいでしょうか。--Eryk Kij(会話) 2021年7月7日 (水) 15:08 (UTC)
- そうですね。あと、岩田・草下, 1954,『増訂 邦産松柏類図説』の内容が気になります。現段階で確かであるのは
- * Nakai(1928)は、Abies sikokiana Nakaiを記載。Abies koreana Wilsonとの比較。
- * 翌年に、吉永(1929)はAbies sikokiana Nakaiを「シコクシラベ」としている。https://doi.org/10.4005/jjfs1919.11.607 吉永(1929)]「シコクシラベ」の名称は少なくとも1929年にはあった。
- * Abies veitchii var. sikokiana (Nakai) Kusakaは、岩田・草下(1954)による。
- Abies veitchii var. sikokiana (Nakai) Kusakaは、Abies veitchiiの変種として発表されたことになり、Abies veitchiiが本州に分布するシラビソを指すならば、このとき本州のシラビソとシコクシラベとの比較が行われた可能性は残ります。『笹ヶ峰の生物』にあった「四国山地に分布するシラビソが、本州のものと比較して毬果がやや小さく、葉の形状に相違が見られる」は岩田・草下(1954)のことを指していて、それを私が「中井(1928)らが・・」と誤読したのかもしれません。
- また、シコクシラベの特徴として毬果・葉の大きさや形状の違いを指摘するものが多く(岩泉ほか2016、山中(1991)などが言及、最古のものは小泉,1916)、岩田・草下(1954)のいう変種としての扱いは問題があって、矢頭(1957)などのように変異として扱うべきという声があるなど、山中(1991)を読む限り話は単純ではなさそうです。
- まずは、Nakai(1928)や、山中(1991)などを元にAbies sikokiana Nakai、Abies veitchii var. sikokiana (Nakai) Kusakaが記載された経緯を説明する編集でよいと思います。--As6022014(会話) 2021年7月8日 (木) 02:16 (UTC)
- 四国のシラベに関する最初の研究としてAbies veitchii var. reflexaを記載した小泉(1916)は外せないかも知れません。こちらはAbies veitchiiの変種としての扱いです。--As6022014(会話) 2021年7月8日 (木) 05:00 (UTC)
- @As6022014さん 確かにYListでは var. sikokiana ではなく var. reflexa が正名扱いされているのですよね……。この点にやはり触れない訳には参りませんね。どうも 山中 (1991) は中井が基準標本以外に付記した標本を小泉が原記載の際に用いていたものと同一である可能性を疑っている模様ですが、それもはっきりした書き方となっていないのでこちらと致しましては書き方に細心の注意を払う必要がありますね。--Eryk Kij(会話) 2021年7月8日 (木) 07:51 (UTC)
- 報告 これまでの議論内容のうち、
- 『笹ヶ峰の生物』を典拠とした記述のうち分類に関する箇所の除去
- 各種原記載文献の追加
- 中井が比較対象としていたのはチョウセンシラベという事の追加
- データベース系サイトでの受容の状況の追加
- 以上の要素は反映致しました。後は、
- 最初に var. reflexa と var. sikokiana とがシノニムの関係にあるという結び付けが行われた文献
- 矢頭 (1957) の内容の詳細
- その他形態や分類をめぐって行われてきた議論
- これらについても書いていきたい所存です。--Eryk Kij(会話) 2021年7月11日 (日) 15:39 (UTC)
- 報告 これまでの議論内容のうち、
- @As6022014さん 確かにYListでは var. sikokiana ではなく var. reflexa が正名扱いされているのですよね……。この点にやはり触れない訳には参りませんね。どうも 山中 (1991) は中井が基準標本以外に付記した標本を小泉が原記載の際に用いていたものと同一である可能性を疑っている模様ですが、それもはっきりした書き方となっていないのでこちらと致しましては書き方に細心の注意を払う必要がありますね。--Eryk Kij(会話) 2021年7月8日 (木) 07:51 (UTC)
(インデント戻し) 編集ありがとうございました。 『笹ヶ峰の生物』は西条市立図書館にありました。その一部を引用します。 p35, A. 自然植生 Natural vegetation, 1. シラベ(シラビソ)群落 Abies veitchii community
四国に分布するシラベは、土佐産の標本に基づいて、シコクシラベ Abies sikokiana Nakai 1928 とされ、本州のものと区別されていた。シコクシラベとシラベの一般的な区分点としては、中井(1928)の原記載ではふれられていないが、毬果の長さ、有果枝の葉長、毬果の苞鱗の状態、有果枝の葉の基部横断面に見られる樹脂道の位置などが挙げられている。しかし、矢頭献一(1957)は、西駒ヶ岳、石鎚山、大峰山のシラベの毬果の長さ及び葉の解剖的性質について比較を行い、四国産のシラベと本州産のシラベを区別する必要はないとした。また、山中二男(1981)も矢頭の見解を支持し、特に紀伊半島のシラベと四国のシラベを比較して、両者は同じものと見なすのがよく、本州では大峰山地までシラベがあるとするなら四国産のものもシラベとしなければならないと報告している。その他、北村・村田(1979)でも、シコクシラベを独立種として認めていない。そこで、本報告でも四国産のものもシラベ(シラビソ)として扱うこととした。しかし、山中(1981)でも述べられているように、四国の固有植物が1つ減ることは残念なことである。
中井(1928)がなぜAbies koreana Wilsonとの比較を行ったかは、小泉(1925),p15が、阿波の剣山にAbies koreanaがあると記載しているため、これを検証したということになります。--As6022014(会話) 2021年7月14日 (水) 02:09 (UTC)
- @As6022014さん 折角『笹ヶ峰の生物』の内容に関する情報をご提供頂いたにもかかわらず、今の今に至るまで放置するという大変不誠実な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした。申し開きを致しますと、分類に関して特に重要と思われる岩田 & 草下 (1954) と Yatoh (1957) へのアクセスが困難で、思う様に加筆を進める事ができなかったのです。こちらでの議論を開始した2021年当時はCOVID-19に対して特に警戒の必要があり、国立国会図書館(NDL)にも気軽に足を運ぶ事ができず、岩田 & 草下 (1954) が収蔵されていると把握していても手も足も出ない状況でした。しかし
今昨(訂正: Eryk Kij(会話) 2023年4月22日 (土) 09:10 (UTC))年の2月、漸く直接図書館に赴かずとも絶版資料を中心に個人が恩恵を受けやすくなるサービスが開始されました。これにより、岩田 & 草下 (1954) はもとより、まず雑誌名の特定から始める必要のあった Yatoh (1957) に関しても先ほど略記からの類推に成功し、これもNDLデジタルコレクションで利用可能という事が判明しました(いずれもNDLコレクションへのリンクを貼り付けておきました)。丸1年以上時間を空けてしまいましたが、As6022014さんから頂いた情報も併せ、今後本腰を入れて加筆を行って参りたいと存じます。 - ところで Koidzumi (1925: 15) とはこちらの事ですね。『植物学雑誌』(や『植物研究雑誌』)の初期の巻号では日本語記事と英語記事でページに重複の見られるものが結構存在するのです。しかし2021年といえば私は漸く文献上の誤同定の指摘に注意を払い始めていっぱいいっぱいであった頃ですね。今改めて Nakai (1928) を見返してみますと、確かに Koidzumi (1925) を誤同定であったとして扱っている事が分かります。何はともあれ、材料が揃った事(私自身の理解力の向上含む)により、結構やりやすくなりそうです。--Eryk Kij(会話) 2023年4月21日 (金) 19:22 (UTC)
- 報告 ここまでの議論で挙がった典拠を可能な限り使用し、先程シコクシラベの分類に関して改稿を行いました(参照: Special:Diff/94877596/94886144)。無論『笹ヶ峰の生物』による記述も破棄せずに済みました。そして草下氏がシコクシラベをシラビソの一変種とした根拠は、本文にも反映致しました通り葉の形態比較であった事が判明しました。ただ一方で、今回の私の加筆により従来から存在する「分布域は…」や「従って石鎚山系のシラビソは南限に相当する。」の文を浮いた状態にしてしまった点は少々心残りでもあります。--Eryk Kij(会話) 2023年4月22日 (土) 09:10 (UTC)
- 追記 なお、『笹ヶ峰の生物』中で引用されている「山中 (1981)」とは、山中, 二男 (1981). “四国のシラベについての問題”. 高知大学教育学部研究報告 第3部 (33): 19–24. の事であるとお見受け致しました。この文献は山中 (1991) が引用しており、シラビソとシコクシラベの間の差異を変異レベルに過ぎないとしている点が共通している様に見えます。残念ながらこちらへのオープンアクセスは現時点では不可能である模様です(NDLデジタルコレクションに同誌の第33巻は存在するものの、第1部のみ)。--Eryk Kij(会話) 2023年4月22日 (土) 09:26 (UTC)