利用者:Omotecho/感覚の庭
感覚の庭(かんかくのにわ 英: Sensory garden)は、来園者が五感を通して楽しむ自己完結型の庭園を指す[2]。感覚を刺激する機会を意図して盛り込み、日常に出あうことのない、または気づかずに過ごしている嗅覚や触覚などの要素を組み合わせ、または個別に組み込んである[3]。
用途は幅広く、教育から娯楽まで[2]、自閉症スペクトラムの人々を含む特別なニーズのある学生の教育に導入する先例がある[4]ほか、園芸療法の一形態「療しの庭」として、認知症のケアを補う点も期待される[5]。
この種別の庭はアクセスのしやすさの度合いや障がいの有無、程度を受容する設計ができる。たとえば香りが強いものと食用植物の組み合わせ、さわって鑑賞する彫刻や触感を工夫した手すり、泉水など音が出たり手で触れるように設計した水の空間を作る。また鑑賞の手段を増やし、解説コンテンツを視聴する手段は指でなぞるパネル、内容を拡大表示した解説シート、点字板で読んだり、音声解説を誘導ループシステムの無線で流す例もある。これらとは別に音と音楽に集中し、幼い来園者を想定して遊びと感覚の要素に応えようとする庭がある。
特定の感覚をどう組み合わせるか、目的をしぼった庭は多い。嗅覚を専門とする「香りの庭園」(sented garden)もあれば、もっぱら聴覚をテーマとした「音の庭」では音楽ないしは音に触れる機会を作って、開発と学習や教育効果を増やす二重の用途を担う。
アクセシビリティの利便性では、基礎構造を強化して車椅子の利用に対応する。来園者に前向きな学習体験をもたらす設計とレイアウトに沿って園内でひとときを過ごすうち、感覚をより刺激され意識が高まる。
設計[編集]
一般に感覚の庭の基本はアリストテレスの五感の定義に、または固有受容感覚や平衡感覚など他の感覚を含めることもできる[6]。植生に限定せず、水と流れや彫刻などの無生物を組み込む手法もある[7]。
視覚[編集]
色とりどりの植物や花などは庭の伝統的な要素であり、視覚の構成要素に含まれる。これらをクラスター化すると、視力障がいのある人々を支援する場合がある[8]。これらの植物を利用して鳥や蝶を庭に引き付けると、見る対象を多様にする[8]。
聴覚[編集]
音声はこの種の庭の要素として、自然の風に応じて音を発するものを取り入れる例が多い。葉ずれの音を期待できるタケの仲間や稲科植物、樹木のほか、無生物の鐘や風鈴も利用される。水の音、野鳥の鳴き声もしばしば組み込まれる。
見かける機会こそ少ないが、手で叩く打楽器(太鼓やドラム)、反響音が鳴るしかけ、あるいは踏み段から音が出る装置を設置することもできる。
感覚性認知症の庭[編集]
認知症[9]のある人々に対応した設計も可能である。脳のどの部位の変化による症例の多様さ、日常生活のどんな場面に影響が出るか、例えばそれが記憶だとすると、歩行や食事など毎日のタスクが困難になりがちである。感覚の庭、治療の庭は、投薬をせずに認知症の症状を抑える介入をもたらし(Non-pharmaceutical intervention)、五感を刺激して脳のさまざまな部位を刺激する。あるいはまた、認知症を生きる人々に肯定的な感情をもたらし、生活の質を高める効果が期待できる[5]。
心を落ち着かせる水音に注目して庭園設計に水の要素を取り入れたり、摘み取って香りを嗅いだり色や形を楽しめるように香草類や花を植栽し、ベンチの周りに砂や砂利など粒子の大きさが異なる素材をまいて、足の裏から刺激をほどこす。ポートマッコリー (オーストラリア)の来園者の一例では、ベンチに腰掛けて砂を踏んだときはオーストラリアで過ごした月日の記憶を刺激されてほほ笑み、小石だらけの部分に足を置くと生まれ育ったスコットランド時代を思い出すのか、顔をしかめていた[9]。庭園の肯定的な要素には他にも、くつろいだり心が落ち着く空間である点、介助を受けない状態で手軽な運動ができる点が期待される。
ギャラリー[編集]
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(中)「ブリンデンガルテン」(盲人の公園)と呼ばれ、8つのテーマで香りと手ざわりの庭を構成[注釈 1]。水音が響き、中央の噴水の周りは視覚障がい者向けにオリエンテーションの順路を配した[11]。(ドイツ、バート・ホムブルク市温泉公園内)
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触覚と嗅覚、時に味覚を研ぎ澄ます設計。カウンセラーのチームを置き、訪問者で視覚や視覚の障がいなど個別のニーズに対応する(職員の一部は自らが視覚障がい者)。目隠しをしてガイドに案内してもらうツアーも特徴[14]。(ブラジル、リオデジャネイロ植物園、感覚の庭)
脚注[編集]
注釈[編集]
- ^ レイズドベッドは料理用ハーブ、薬草、バラ、単子葉植物など。
- ^ 「五感の世界」(Welt der Sinne)では、「感覚の発達に役立つ経験の分野」の発想をヒューゴ・キュケルハウス(Hugo Kükelhaus(ドイツ語) 1900年–1984年)に触発されたという[13]。
出典[編集]
- ^ “The Blind People's Garden of Bremen” (英語). www.lesum.de. 2019年9月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月12日閲覧。
- ^ a b “Sensory garden design advice 1.” (英語). www.sensorytrust.org.uk. Sensory Trust (2003年2月21日). 2018年6月15日閲覧。
- ^ “Sensory Gardens - Gardening Solutions” (英語). gardeningsolutions.ifas.ufl.edu. University of Florida, Institute of Food and Agricultural Sciences. 2018年3月20日閲覧。
- ^ Hussein, H (December 2009). “Sensory Garden in Special Schools: The Issues, Design and Use” (英語). Journal of Design and Built Environment 5 (1): 77–95. ISSN 2232-1500 2018年6月15日閲覧。.
- ^ a b “Benefits of sensory garden and horticultural activities in dementia care: a modified scoping review” (英語). Journal of Clinical Nursing 23 (19–20): 2698–715. (October 2014). doi:10.1111/jocn.12388. PMID 24128125.
- ^ Winterbottom, Daniel; Wagonfeld, Amy (May 19, 2015). Therapeutic Gardens: Design for Healing Spaces. Timber Press. p. 227 2020年2月7日閲覧。ISBN 9781604694420
- ^ “Sensory gardens”. EDIS (2004,8). (2004) 2020年12月2日閲覧。.
- ^ a b Fowler, Susan (2008). Multisensory Rooms and Environments: Controlled Sensory Experiences for People with Profound and Multiple Disabilities. Jessica Kingsley Publishers. p. 39. ISBN 9781846428098 2020年2月7日閲覧。
- ^ a b “First dementia garden in Australia opens [国内初の認知症対応の庭園がオープン]” (英語). ABC News (2017年8月22日). 2017年8月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年8月23日閲覧。
- ^ “Community engagement” (英語). St Christopher's School, Westbury Park. 2023年1月19日閲覧。
- ^ “Kurpark” (英語). www.bad-homburg-tourismus.de. Bad Homburg Tourism. 2020年6月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月11日閲覧。
- ^ “Hugo Kükelhaus” (ドイツ語). www.parkdersinne-brv.de. Natur- und Erlebnispark Bremervörde GmbH. 2018年6月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年6月17日閲覧。
- ^ “Hugo Kükelhaus” (ドイツ語). www.parkdersinne-brv.de. Natur- und Erlebnispark Bremervörde GmbH. 2018年6月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年6月17日閲覧。
- ^ “Jardim Sensorial de portas abertas — Jardim Botânico do Rio de Janeiro” (ポルトガル語). jbrj.gov.br. Governo do Brasil. 2018年6月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年6月17日閲覧。
- ^ “No More Barriers: Promoting Universal Design in Singapore”. www.clc.gov.sg. シンガポール国土開発庁快適な都市創造センター(Centre for Liveable Cities, Singapore)(英語) (2015年). 2020年9月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年9月26日閲覧。
関連項目[編集]
- 感覚の庭一覧
- 庭園の種別
- ヒューゴ・キューケルハウス 工芸家で思想家、感覚の分析と結びつけ玩具や彫刻を作った
[[Category:庭園の種類]]
[[Category:障害者]]