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妖蛆の秘密

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

妖蛆の秘密(ようしゅのひみつ、ようそのひみつ、英:Mysteries of the Worm、羅:De Vermis Mysteriis)は、クトゥルフ神話作品に登場する架空の書籍。

概要

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ロバート・ブロックが創造した魔道書。初出は、『ウィアード・テイルズ』1935年5月号掲載の『納骨所の秘密』。

本アイテムを有名にした作品は、同年9月号掲載の『The Shambler from the Stars』(邦題が複数あり、そのうちの一つが意訳で『妖蛆の秘密』とされ、書物と同名になっている)。当作品はロバート・ブロックと、クトゥルフ神話の創生者であるハワード・フィリップス・ラヴクラフトとの交流から生まれた。

ラヴクラフトの「ネクロノミコン」に相当する、ブロックが創造した魔導書。主に創造者であるブロックの作品に登場し、加えて他作家の作品でも使用される。

邦訳名

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「妖蛆の秘密」という邦訳は荒俣宏によるもの。当初は読み方は特になかった。捻らずに音読みでは「ようそ」である。

しかし「ようしゅのひみつ」と読むのが通例となっている。大瀧啓裕が1982年に青心社単行本『クトゥルー3』「暗黒の儀式第一章・ビリントンの森」にて、「ようしゅのひみつ」とルビを振り、以降の創元推理文庫の『ラヴクラフト全集』や青心社の『クトゥルー』にて広まる。読みの由来は、先行で翻訳されていたスミスの『白蛆の襲来』(びゃくしゅのしゅうらい)からの影響が指摘されている。[1]

内容・来歴

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基本設定

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著者はルートヴィヒ・プリン(Ludwig Prinn、ルドウィク等の表記もある)。原題はラテン語の『デ・ウェルミス・ミステリイス』(De Vermis Mysteriis)。

著者のプリンはフランドル出身の錬金術師、降霊術師、魔術師で、第九回十字軍の唯一の生き残りを自称していた。十字軍参加時に、捕虜として拘留されていたシリアで魔術を学び、異端審問によりブリュッセルで焚刑に処せられる直前に、獄中で本書を執筆した。

プリンの死の翌年、1542年にケルンで出版された初版本は、鉄製の表紙をした黒く分厚い本。出版直後に教会から出版禁止処分を受け、後に内容を大幅に減らした検閲済削除版が出版される。市場に出回ったのは無害な検閲済版であり、危険な初版本は入手難となった。

特に、「サラセン人の儀式」という章にて古代エジプトの(異端的)信仰が詳しく解説されており、創造者ブロックのエジプト作品にて頻出する。『The Shambler from the Stars』では表題の生物=星の精の召喚方法が書かれていた。

エジプトの神や蛇神(Worm=蛆/爬虫類)にも詳しい。例:父なるイグ(蛇神)、暗きハン(蛇神)、蛇の髪持つバイアティス[注 1]エジプト神話でよく知られている鰐神セベク猫神ブバスティス(エジプト神話のバステト)、アヌビスなどについても描かれるが、異端の邪神としての側面が大きい。エジプト史から抹消されたナイアーラトテップ信仰や暗黒のファラオたるネフレン=カ王についても書かれている。

ラヴクラフトはメインには使用していないが2度自作に登場させており、ミスカトニック大学付属図書館に1冊[2]と、<星の智慧派>教会跡地に1冊[3]あると設定している[注 2]。またヘンリー・カットナーも使用した。

派生設定

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ブライアン・ラムレイ著『妖蛆の王』によると、1820年にチャールズ・レゲットによる英語版が刊行されたが、これは初版本を翻訳したものだという[4]。またラムレイ作品ではアザトース召喚の方法が記されているとされ、意味を読み解くと、核爆発の起こし方であるという[5]大英博物館には3つの版(ラテン語版[注 3]、古ドイツ語版、僧Xなる人物による一部英訳)が収蔵され、また魔術師ジュリアン・カーステアズはレゲットの英語版を所有する[4]

スティーブン・キングの短編『呪われた村』において、物語のキーアイテムとして登場する。この本はラテン語ルーン文字の混成版[6]。また『心霊電流』においては、カトリック教会指定の6禁書のうち2冊「ピカトリクスのグリモワール」「妖蛆の秘密」を参考に、ラヴクラフトは架空のネクロノミコンを創作したと噂されている[7][8]。「妖蛆の秘密」が書かれた時代や、著者プリンの生涯も従来説と異なる[7]

登場作品

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関連項目

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脚注

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【凡例】

  • 全集:創元推理文庫『ラヴクラフト全集』、全7巻+別巻上下
  • クト:青心社文庫『暗黒神話大系クトゥルー』、全13巻
  • 定本:国書刊行会『定本ラヴクラフト全集』、全10巻
  • 真ク:国書刊行会『真ク・リトル・リトル神話大系』、全10巻
  • 新ク:国書刊行会『新編真ク・リトル・リトル神話大系』、全7巻
  • 事典四:学研『クトゥルー神話事典第四版』(東雅夫編、2013年版)

注釈

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  1. ^ 後にラムジー・キャンベルが『城の部屋』で掘り下げる。
  2. ^ 後者は事件後にデクスター医師が回収した。経緯はブロックの『尖塔の影』に詳しい。
  3. ^ 保存状態がかなり悪いとされる。

出典

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  1. ^ 新紀元社『図解クトゥルフ神話』森瀬繚 妖蛆の秘密 61ページ。
  2. ^ 定本6/全集3/新潮2など『時間からの影』ラヴクラフト。
  3. ^ 全集3/クト7/定本6/新潮1など『闇をさまようもの』ラヴクラフト
  4. ^ a b 創元推理文庫「タイタス・クロウの事件簿」収録『妖蛆の王』ブライアン・ラムレイ
  5. ^ 創元推理文庫『タイタス・クロウ・サーガ1 地を穿つ魔』ブライアン・ラムレイ
  6. ^ 扶桑社ミステリー「ナイトシフト1 深夜勤務」収録『呪われた村』スティーブン・キング
  7. ^ a b 文藝春秋『心霊電流』スティーヴン・キング、9章・12章
  8. ^ 扶桑社海外文庫「闇のシャイニング リリヤの恐怖図書館」収録『キーパー・コンパニオン』ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト