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電波相互乗り入れ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
山陰準広域圏から転送)

電波相互乗り入れ(でんぱそうごのりいれ)とは、関東・近畿・中京広域圏以外の複数の府県に跨る民放テレビ局放送対象地域、およびそれを巡る一連の動きを指す(NHK総合テレビジョンに関しては各府県ともに県域放送である)。

2020年現在、山陰地方鳥取県島根県)と岡高地区(通称。岡山県香川県)が該当する。一部通称などとして「準広域」と記述されている場合もあるが、正式にはこれらのエリアも「2つの県を放送対象地域とする県域放送」のエリアである。

特に民放テレビ3局の所在地が不統一である山陰地方ではNHK・民放およびテレビ局・ラジオ局問わず全ての県域放送事情は電波相互乗り入れそのものであるため、山陰地方の県域放送事情についても本項であわせて記述する。

山陰地方のケース

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山陰地方の放送局

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略称・愛称・社名 テレビ ラジオ 備考
ID 系列 鳥取県開局 島根県開局 種別 系列 鳥取県開局 島根県開局
鳥取県鳥取市の放送局
NKT
日本海テレビジョン放送
1 NNNNNS 1959年3月3日
JOJX-(D)TV
鳥取 1→鳥取 38
乗り入れ
松江 30→41
FMとアナログテレビの鳥取親局は、厳密には湯梨浜町に所在。
NHK鳥取放送局 3 総合 1959年3月3日
JOLG-(D)TV
鳥取 3→鳥取 29
AM R1 1936年12月14日
JOLG
鳥取 1368kHz
FM FM 1969年3月1日
JOLG-FM
鳥取 85.8MHz
2 Eテレ 1962年12月28日
JOLC-(D)TV
鳥取 4→鳥取 20
AM R2 1950年4月25日
JOLC
鳥取 1125kHz
鳥取県米子市の放送局
NHK米子支局 3 総合 1970年
(旧)米子 42→(廃止)

1998年11月26日
米子 32→26
AM R1 1954年10月24日
JOLQ(廃止)
米子 963kHz
テレビの米子中継局は、厳密には松江市に所在(旧米子中継局は、米子市に所在)。
2 Eテレ 2006年10月1日
米子 (デジタル新局)→20
R2 1957年12月20日
JOLZ(廃止)
米子 1521kHz
BSS
山陰放送
6 JNN 乗り入れ
鳥取 22→31
1959年12月15日
JOHF-(D)TV
松江 10→45
AM JRN
NRN
クロスネット
1954年3月1日
JOHF
米子 900kHz
AM開局当時は、RSBラジオ山陰。
FM(補完 2017年3月1日
鳥取 92.2MHz
鳥取倉吉
2018年10月1日
松江 87.1MHz
米子出雲
島根県松江市の放送局
NHK松江放送局 3 総合 1959年10月28日
JOTK-(D)TV
松江 6→21
AM R1 1931年12月21日
JOTK
松江 1296kHz
AMの松江親局は、厳密には出雲市に所在。
FM FM 1969年3月1日
JOTK-FM
松江 84.5MHz
2 Eテレ 1962年12月28日
JOTB-(D)TV
松江 12→19
AM R2 1946年9月1日
JOTB
松江 1593kHz
TSK
山陰中央テレビジョン放送
8 FNNFNS 乗り入れ
鳥取 24→36
1970年4月1日
JOMI-(D)TV
松江 34→43
開局当時は島根放送、通称「テレビしまね」。
V-air
エフエム山陰
FM JFN 1986年10月1日
JOVU-FM
松江 77.4MHz
外国語放送放送大学以外では、対象放送区域が複数都道府県にまたがる唯一のFM局。
※テレビの物理chは、各県基幹局のもの。アナログ→デジタル。
※開局日の下はコールサイン(無き場合は基幹中継所)、本社送信所(基幹中継所)所在地・物理ch・周波数。
※テレビはアナログの開始日、デジタルは2006年10月1日全局一斉開始。
※民放の演奏所は全社が本社に置く。

沿革

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乗り入れの経緯とその後

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鳥取・島根の山陰両県は元々結びつきが強く、特に県都・鳥取市から遠く離れ、別個の経済圏を形成していた鳥取県西部の中心・米子市とその周辺は、島根の県都・松江市とは距離も近く、隔てる山もほとんど無い地理上、米子と松江は、そのどちらかに送信所を立てれば相互に電波が届く典型的なスピルオーバー地帯であり、島根県域局であるはずのNHK松江の実質的な放送エリアも鳥取県西部の広範囲にまで及んでいる。

1954年(昭和29年)3月1日、米子市のRSBラジオ山陰(現:BSS山陰放送)が、山陰両県における最初の民間放送局としてAMラジオ放送を開始した。RSBはその地理を活かし、放送開始当初から山陰両県を放送対象地域としてカバーすることが出来ていた。その経緯から、RSB→BSSは両県の放送局で唯一県都以外に本社と演奏所を置いている[注 1]。しかし、これが後に民放テレビ3局の所在地が2県3市にばらける遠因となる[注 2]

1959年3月3日、鳥取県最初の民放テレビ局・NKT日本海テレビジョン放送が鳥取市で開局し、鳥取県内での放送を開始した。RSBもテレビ兼営化を目指すものの、テレビ放送黎明期故に「東名阪など大都市圏以外の各都道府県では、1県につき民放テレビ局は1局」という原則があったことからRSB単独でのテレビ開局が出来ず、RSBとNKTの間で水面下の合併交渉が行われるも決裂。結局は同年12月15日、RSBは島根県向けにテレビ放送を開始したことで「本社は鳥取県、ラジオは両県広域、テレビは島根県のみ[注 3]と、米子市に本社を置いたのがテレビで仇となる形で本社所在地とテレビの放送対象地域が食い違うという、日本国内の放送史上初にして唯一のねじれ現象が発生した。

鳥取県西部ではRSB→BSS(およびNHK松江)が視聴可能ではあったがそれはあくまで区域外(越境)受信とされたため、本社所在地たる鳥取県への放送対象地域拡大を希望し続けたRSB→BSSであるが、NKTが反対し続けたため実現しないまま互いの主張は平行線をたどる。その間に全国各県で2局目以降の民放テレビ局が開局するようになってからもBSSはねじれ現象に苦しみ続けた。

BSS対NKTの(視聴者不在の)争いが膠着状態の中、1970年4月1日、島根県2局目のテレビ局として松江市に本社を置くTSK“テレビしまね”こと島根放送(現:山陰中央テレビジョン放送)が開局。2県合わせても当時で人口140万人に満たない地域に3つの民放テレビ局が出来たことにより、鳥取・島根のそれぞれの県単位でこれ以上民放テレビ局を設立させるのは経営的に困難とみなされ、そしてBSSが長年抱え続けたねじれ現象の解消の必要性が考慮され、旧郵政省(現:総務省)は、民放テレビ局についても鳥取・島根両県を単一放送区域にすることを認可する方針に転じた。これによりBSSとTSKの鳥取県進出が決定することとなったが、BSSの鳥取県進出に反対し続けたNKTも、その代償としてNKTが島根県にも進出できるように同時に決定したため、これ以上の抵抗を断念した。

1972年9月22日、BSS・NKT・TSKの民放テレビ3局による鳥取・島根相互乗り入れ放送が開始された。これによりBSSは鳥取県向けのテレビ放送を開始し、約12年9ヶ月続いたねじれ現象を解消した。当時日本国内で民放テレビ局を3局以上視聴できた地域は、東名阪地区北海道宮城県広島県福岡県七大都市圏程度であり、山陰地方の単一放送区域化は先進的な試みであった。

民放テレビ局の相互乗り入れ開始から14年後の1986年10月1日、両県唯一の民間FMラジオ放送局・V-airエフエム山陰が松江市に開局。V-airもまた両県を放送対象地域としたため、「テレビ・AM・FM全局が、NHKは県域、民放は準広域(厳密には2県域)」と言う、当時全国唯一の構図が成立した(FMの場合、V-air以外でエリアが複数都道府県にまたがる放送局は外国語放送のみ。過去にも放送大学のみ)。

乗り入れ直後は、テレビ朝日系列の同じワイドショー番組がNKT・BSS両局で同時放送または時差放送されたことがあった。また乗り入れ後、NKTとTSKの間で腸捻転が発生するも、読売フジサンケイ間でお互いの資本を交換したことにより、ネットチェンジに発展することなく腸捻転は解消された。

なお、テレビ朝日を幹事局とする民間放送教育協会には、2020年現在、NKTが鳥取県扱い、BSSが島根県(+ラジオのみ鳥取県)扱いで加盟している。

さらに民放の相互乗り入れは、米子市内各地に小規模中継局(旧・米子中継局もこの1つ)を設置していたNHK鳥取にも影響を及ぼした。米子市内では一貫して松江にアンテナが向けられていることから、各地の小規模中継局を受信することは至難であると悟り、これらの小規模中継局を集約すべく、松江市内の送信所に同居する形で新・米子中継局を設置した。域外中継局が設置されたのは、本州では初の事例であった。

BSSのコールサインはラテ同一のJOHF(-DTV)にもかかわらず、未だラジオの親局は米子本社送信所、テレビの親局は松江本社送信所と、テレビ放送が完全デジタル化された今日に至るまで初期のねじれ現象がその尾を引き続けている。日本国内の兼営局で、同一コールサインで別の送信所名が指定されているのはBSSだけ[注 4]である。

ラジオ放送のサイマル配信サービスradikoには、BSSが2012年1月30日(試験配信。本配信は7月)に、V-airが2020年4月1日にそれぞれ参入したが、両局とも上記の通りスピルオーバー地帯にあることから、各県別の地域放送や「ローカルタイム&ローカルステブレ」はその実施に無理があることから実施しておらず[注 5]、各地のAM局で頻発している「支局の放送がradikoで聴取出来ない」事態[注 6]は回避することが出来た。

NHKでも『さんいんスペシャル』を鳥取と松江の輪番で制作しており、2022年4月改編で鳥取・松江の土日祝日の夕方ニュースも『さんいんNEWS645』として、両県またいで放送されることとなった(制作は当番制)。

岡高地区のケース

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なお民放の本社所在地は(3局が不統一である山陰地方とは異なり)、それぞれ岡山市北区RSKTSCOHK)と高松市RNCKSB)に集中している。

脚注

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注釈

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  1. ^ BSSと同じTBS系列では、他にTUYテレビユー山形山形県)が県都でない酒田市に本社を置くがTUYは県都山形市に所在する放送センターに演奏所を設置している。中国地方では山口県のKRY山口放送[テレビ:日テレ系、ラジオ:JRN&NRN]も県都山口市ではなく周南市に本社と演奏所を置いている。なおかつてはTUTチューリップテレビ富山県、旧・テレビユー富山)も県都富山市ではなく高岡市に本社を置いていた。
  2. ^ 三大都市圏の広域局でも関東=東京23区港区)・中京=愛知県名古屋市・近畿=大阪府大阪市、岡高地区でも岡山県=岡山市北区・香川県=高松市と、大抵は都道府県ごとに各都道府県1市区に集約されている。1県2市に民放テレビ局本社・演奏所がばらけているのは鳥取県・山口県(前述)・福島県福島市郡山市。ただし親局はいずれも福島本社送信所)の3県のみ(TUYは前述)。なおかつてはテレビ西日本福岡県)も県都の福岡市ではなく北九州市に本社を、テレビ信州長野県)もやはり県都の長野市ではなく松本市にそれぞれ本社を置いていた。
  3. ^ 「ラジオ2県1波、テレビ1県1波」は、今日のNBC長崎放送京都放送(KBS京都)と同じ体系(その逆がRSK山陽放送とRNC西日本放送)だが、いずれの局も本社がテレビ・ラジオ放送対象地域内にある。
  4. ^ テレビ親局(岡山県岡山市南区)とラジオ親局(香川県高松市)が別々の県に設置されているのはRNC(JOKF〈-DTV〉)も同様であるが、岡山県側に設置されているテレビ親局もラジオ同様「高松本社送信所」と呼称する(同じ香川県発祥のKSB瀬戸内海放送〈相互乗り入れとそれに伴う移転時に親局名が高松本社送信所から変更〉も含め、RNC以外は全局岡山本社送信所)。
  5. ^ BSSは鳥取・浜田・益田の各支局にコールサインがあるため地域放送可能ではあるが実施していない。なおかつてはV-airも隠岐支局にJOVU-FM2というコールサインが割り当てられていたことがあった。
  6. ^ NBCとNBCラジオ佐賀に至っては、佐賀支局が完全にラジオ限定になっているのみならず、2021年9月までは長崎本局の放送を佐賀県内で聴取するにもradikoプレミアムが必須だった(KBS京都とKBS滋賀では、滋賀県内では2014年4月からradikoプレミアム無しで京都本局の放送を聴取可能になった)。

出典

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  1. ^ 会社概要 | TSKさんいん中央テレビ(沿革では10月1日付になっている。)

関連項目

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