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愛媛県靖国神社玉串料訴訟

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
最高裁判所判例
事件名 損害賠償代位請求事件
事件番号 平成4年(行ツ)第156号
1997年(平成9年)4月2日
判例集 民集51巻4号1673頁
裁判要旨

一 愛媛県が、宗教法人D神社の挙行した恒例の宗教上の祭祀である例大祭に際し玉串料として九回にわたり各五〇〇〇円(合計四万五〇〇〇円)を、同みたま祭に際し献灯料として四回にわたり各七〇〇〇円又は八〇〇〇円(合計三万一〇〇〇円)を、宗教法人愛媛県E神社の挙行した恒例の宗教上の祭祀である慰霊大祭に際し供物料として九回にわたり各一万円(合計九万円)を、それぞれ県の公金から支出して奉納したことは、一般人がこれを社会的儀礼にすぎないものと評価しているとは考え難く、その奉納者においてもこれが宗教的意義を有する者であるという意識を持たざるを得ず、これにより県が特定の宗教団体との間にのみ意識的に特別のかかわり合いを持ったことを否定することができないのであり、これが、一般人に対して、県が当該特定の宗教団体を特別に支援しており右宗教団体が他の宗教団体とは異なる特別のものであるとの印象を与え、特定の宗教への関心を呼び起こすものといわざるを得ないなど判示の事情の下においては、憲法二〇条三項、八九条に違反する。
二 愛媛県が憲法二〇条三項八九条に違反して宗教法人D神社等に玉串料等を県の公金から支出して奉納したことにつき、右支出の権限を法令上本来的に有する知事は、委任を受け又は専決することを任された補助職員らが右支出を処理した場合であっても、同神社等に対し、右補助職員らに玉串料等を持参させるなどしてこれを奉納したと認められ、当該支出には憲法に違反するという重大な違法があり、地方公共団体が特定の宗教団体に玉串料等の支出をすることについて、文部省自治省等が、政教分離原則に照らし、慎重な対応を求める趣旨の通達、回答をしてきたなどの事情の下においては、その指揮監督上の義務に違反したものであり、過失があったというのが相当であるが、右補助職員らは、知事の右のような指揮監督の下でこれを行い、右支出が憲法に違反するか否かを極めて容易に判断することができたとまではいえないという事情の下においては、その判断を誤ったものであるが、重大な過失があったということはできない。 三 複数の住民が提起する住民訴訟は、類似必要的共同訴訟と解すべきである。

四 複数の住民が共同訴訟人として提起した住民訴訟において、共同訴訟人の一部の者が上訴すれば、それによって原判決の確定が妨げられ、当該訴訟は全体として上訴審に移審し、上訴の判決の効力は上訴をしなかった共同訴訟人にも及ぶが、上訴をしなかった共同訴訟人は、上訴人にはならず、上訴をした共同訴訟人のうちの一部の者が上訴を取り下げた場合は、その者は上訴人ではなくなる。
大法廷
裁判長 三好達
陪席裁判官 園部逸夫 可部恒雄 大西勝也 小野幹雄 大野正男 千種秀夫 根岸重治 高橋久子 尾崎行信 河合伸一 遠藤光男 井嶋一友 福田博 藤井正雄
意見
多数意見 論点1について、大西勝也 小野幹雄 大野正男 千種秀夫 根岸重治 河合伸一 遠藤光男 井嶋一友 福田博 藤井正雄の10名。論点2は全員一致。
意見 園部逸夫 高橋久子 尾崎行信の3名
反対意見 三好達 可部恒雄の2名
参照法条
地方自治法153条1項,地方自治法242条の2第1項,地方自治法242条の2第4項,地方自治法243条の2第1項,憲法20条,憲法89条,民訴法52条1項,民訴法363条
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愛媛県靖国神社玉串料訴訟(えひめけん やすくにじんじゃ たまぐしりょうそしょう)とは、愛媛県知事が、戦没者の遺族の援護行政のために靖国神社などに対し玉串料を支出したことにつき争われた訴訟。最終的に最高裁違憲判決を出した。

この判決は最高裁が政教分離関係訴訟で下した初めての違憲判決である[1]

訴訟理由

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愛媛県知事であった白石春樹は、1981年から1986年にかけて、靖国神社が挙行する例大祭や県護国神社が挙行する慰霊大祭に際し玉串料、献灯料又は供物料を県の公金から支出していたが、この行為を憲法20条3項および89条に違反するものとして、浄土真宗の僧侶を原告団長とする愛媛県の市民団体が、地方自治法の規定に基づき県に代位して支払相当額の損害賠償訴訟を提起したものである[1]

下級審判決

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1審の松山地裁目的効果基準に照らし、本件行為は県と宗教の結びつきが相当な限度を超えた宗教的活動であるとして違法であると判断した。2審の高松高裁目的効果基準を採用したが、本件行為は宗教的意義はあるが公金支出は小額で社会的儀礼の程度であり、玉串料を出した知事の行為は遺族援護行政の一環であり宗教的活動に当たらないとして合憲とした。

最高裁判決

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最高裁は1997年4月2日に、判決文のうち2審が合憲とした部分を破棄し、愛媛県が公金支出した玉串料は、香典など社会的儀礼としての支出とは異なり、靖国神社という特定の宗教団体(89条)に対して玉串料を奉納するもので援助・助長・促進になるとして憲法20条3項の政教分離と同89条に違反するとした。これは「行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になる」か否かで判断する政教分離原則のひとつの目的効果基準を検討したうえで違憲違法と判断された。

そのため住民が請求した玉串料として支出した9回で合計4万5000円などを愛媛県知事が県当局に返還するように命じたものである。これは僅かな金額の支出であっても、宗教団体への公的機関による公金支出の違憲か否かの判断基準である「目的効果基準」を厳格に適用したものであった。

これは、宗教的儀式の形式であっても、宗教的意義が希薄化した地鎮祭などの慣習化した社会的儀式とは違い、靖国神社という特定の宗教団体(89条)が主催する重要な宗教的色彩の強い祭祀との関わりを県が玉串料の支出を通して持つものであり、国もしくは地方公共団体が宗教的意義を目的とした行為であり特定の宗教への関心を呼び起こす危険性が重要視されたものである。最高裁は「我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超える」ものであり、県による宗教的活動のための違法な公金支出と判断したものであった。

なお、裁判官15名のうち2名(三好達、可部恒雄)は合憲との反対意見を出している。

可部判事は多数意見が津地鎮祭訴訟の目的効果基準の法理を肯定しておきながら、津市の行為(公金の支出、地鎮祭の主催それに対する参列、玉串奉奠、鍬入れ)と愛媛県の行為(公金の支出のみで参拝、玉串奉奠は実際に行っていない)の二つを比べ前者が社会的意義を持ち後者をそうでないとすることは「著しく評価のバランスを失する」と法理の適用を非難し、「援助、助長、促進に至っては、およそその実体を欠き、徒らに国家神道の影におびえるもの」であるとし、多数意見が具体的な「効果」を示さずに違憲判断をしたことを非難している。

最高裁判決内容の事前報道

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最高裁判決の2ヶ月前の1995年2月9日に朝日新聞及び共同通信社の配信を受けて地方各紙が最高裁の違憲判決を報道した。そのため、判決の事前漏洩疑惑が浮上し、当時の裁判官15人全員が訴追請求された[2]。裁判官訴追委員会関係者に事情聴取し、同年12月10日に漏洩の事実認定はないものとして全員を不訴追とする結論を出した[3]

評価

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新田均武田秀章はこの最高裁判決は、「従来の政教分離解釈を否定」していると主張し、「神社界に多大の衝撃を与えた」と評した。

脚注

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  1. ^ a b 平成9年度重要判例解説 憲法3
  2. ^ 野村二郎「日本の裁判史を読む事典」(自由国民社)110頁
  3. ^ 野村二郎「日本の裁判史を読む事典」(自由国民社)110・111頁

参考文献

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  • 『平成9年度重要判例解説』有斐閣、1998年。ISBN 4-641-11572-9 

関連項目

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外部リンク

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