文学における近親相姦
文学における近親相姦(ぶんがくにおけるきんしんそうかん)では、小説をはじめとする文学の題材として近親相姦を取り扱ったフィクション作品について述べる。歴史上または現実社会の近親姦について扱ったノンフィクション作品等については本項では述べない。
- 音楽、漫画・アニメ、ゲーム等については、大衆文化における近親相姦を参照。
- 映画・テレビドラマについては、映画とテレビ番組における近親相姦を参照。
- 民話・神話については、民間伝承における近親相姦を参照。
概要
[編集]文学表象における近親相姦は、人間関係の秩序に対する常識的想像力に揺さぶりをかけるモチーフとして用いられてきた[2]。ジョージ・スタイナーによると、兄妹の結合から生まれた者のみが神々の黄昏と人間の曙光をもたらすことができるという伝記的、文学・芸術的な資料は山のようにあり、1780年から1914年まで、多くの伝記や戯曲・小説において近親相姦が描かれている[3]。
西洋では『オイディプス王』や『ハムレット』など、古来より近親相姦をテーマにした作品が生み出されてきた。『ハムレット』の扱っているのは亡夫の弟との結婚ではあるが、近親相姦的な意味合いを感じて悩む息子像が描かれる。17世紀のジョン・ミルトン作『失楽園』ではサタンは娘と交わって子供たちを産ませた。トニー・タナーはシェイクスピアの『ペリクリーズ』から「文学において描かれる姦通は過度の多弁を引き起こす場合があるのに対し、近親相姦は沈黙および発話の抑止を引き起こす」[4]と指摘している。
フランスにおいては、兄弟姉妹間の純粋な優しさとしての愛、また性的欲望を伴う愛がが描かれるのは、19世紀以降の文学において顕著となる[5]。19世紀の文学においてはそれ以前の時代よりも遥かに強く兄弟姉妹間の関係が描かれるようになるが、作家たちの人生においても、兄弟姉妹との親密な愛は感情生活の大きな要素をなしていた。スタンダールと妹ポーリーヌ、バルザックと妹ロール、エルネスト・ルナンと姉アンリエット、ウジェニー・ド・ゲランと弟モーリスなどがその例である[6]。また、近親相姦が喜劇として描かれる場合もあり、マルグリット・ド・ナヴァルの『エプタメロン』では、実母と関係して得た娘と交わった男の話が描かれるが、シリアスなものではなく、一同の笑いを誘う滑稽譚となっている[7]。
ドイツのシュトゥルム・ウント・ドラングでは、兄妹、姉弟の間の恋愛感情というのは非常に好まれた主題だった[8]。
ミステリー小説の分野においては、島田荘司は「かつてアガサ・クリスティの時代は、母と息子の性的関係や、母と娘の戦いといったことを題材にすることはミステリーの世界では倫理的に敬遠されていた」と述べている[9]。
日本においても、平安時代の紫式部による『源氏物語』で義母と息子の近親相姦が描かれたことは有名である。雑誌『猟奇』の1928年10月号に掲載された兄妹の近親相姦を匂わせる夢野久作の『瓶詰の地獄』など、近親相姦は文学のモチーフの一つであった。性暴力として描かれる場合もあり、太宰治は1933年発表の短編『魚腹記』で「ぼんじゅ山脈」なる場所を舞台に、酒に酔った父に強姦される娘の姿を描いた。太宰の故郷である青森県津軽地方に「梵珠(ぼんじゅ)山脈」が実在する。
近年では、1967年のガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』で甥と叔母の近親姦が描かれている。また、ロバート・A・ハインラインのいくつかの短編小説にも近親相姦は描かれている。
小説『ロリータ』(ロリータ・コンプレックスの語源)で知られるウラジーミル・ナボコフも、1969年の『Ada or Ardor』で近親相姦に満ちた家庭を描いた。J・M・クッツェーはナボコフとムージルを例に挙げ、近親相姦はかつて文学の大きな主題だったが、今はそうではなさそうだと述べている。その理由として、セックスを疑似的な宗教体験とする(故に近親相姦を神々に対する挑戦とする)概念が霧散してしまったからかもしれないと予想している[10]。
文学における近親相姦的家族
[編集]- ジョン・フォードの『あわれ彼女は娼婦』(1629年から1633年)は、多くの論争を引き起こした初期の例の一つである。
- マルキ・ド・サドの『ソドム百二十日あるいは淫蕩学校』(1785年)、『閨房哲学』(1795年)、『ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え』(1797年)は、全て近親相姦の詳細な描写で満ちている[11]。
- 1969年に書かれたサミュエル・R・ディレイニーの小説、『ホッグ』もまた、近親相姦の詳細な描写が多く描かれている。ポール・ディ・フィリポによると、ディレイニーは一般的とみなされる性的関係の境界を押し広げようとしていた[12]。
- ガブリエル・ガルシア=マルケスの百年の孤独 (1967年)では、叔母と甥の間で起こることを含む、近縁度が大きかれ小さかれ、いくつかの近親者間のセックスがある[13]。他の文学作品では、双子の兄妹が精神が浄化されるような性行為を共有しているアルンダティ・ロイの『小さきものたちの神』のように、結果がそれほど重大なものではないことを示している[14]。
- ウラジーミル・ナボコフの小説『アーダ』(1969年)では、主人公ヴァン・ヴィーンの複雑な家系における近親相姦関係を重要に扱っている。主にヴァンと妹のアーダ、アーダと妹のリュセットの間に性的関係の明白な瞬間がある。ナボコフは、必ずしも近親相姦に内在する可能性のある社会的、またはその他の複雑さや結果を、他者から隠さなければならないタブーとして扱うわけではない[15]。アーダで見られる近親相姦は、主に近親相姦関係を経験した登場人物の思索を表現するためのものだったと思われ、この時期のナボコフの小説における『ロリータ』の小児性愛や、『青白い炎』の同性愛など「性的違反」の他の例と同様の効果を出しているものである。
- ロバート・A・ハインラインの『愛に時間を』(1973年)と『落日の彼方に向けて』(1987年)では、登場人物が近親相姦に賛成する主張をしている[16]。
- 近親相姦及び近親交配は、V・C・アンドリュースの作品において頻繁に扱われている題材である。『ガーディアン』のリジー・グッドマンは、近親相姦を他の暗い題材の中でも、「暗い」側面を探求するための「衝撃的だが必要な」題材として挙げている[17]。
- アン・ライスのメイフェア家シリーズ(1990年–94年) 3部作は、重い近交系の魔女の一家について扱っている。論争の中で、ライスは彼女の小説が若い女性と自由な愛の選択者の代理を務めていると述べた[18]。登場人物の一人、ある父親の子供は、彼の妹であり、娘であり、孫娘である。
- V・C・アンドリュース(上記参照)の小説“ドーランギャンガー”と銘打たれた小説群は、明らかに近親相姦が根本にあるダイナミックで非常に機能不全な家族を描いている『屋根裏部屋の花たち』コリーンは彼女の子供達に彼らの父親、クリストファーが半血叔父であることを明らかにする。その後、クリス・ジュニアは彼の妹キャシーをレイプする。続編『炎に舞う花びら』では、キャシーはクリスの子供を妊娠しており、流産する。本の終わりに、彼らは一緒に逃げて、結婚する。前編、『影の庭』では、マルコムが彼の継母、アリシアをレイプし、その妊娠からコリーンが生まれた。マルコムはアリシアに支払い、彼女の息子・半血弟とコリーンのもとから去る。数年後、アリシアは死に、彼の息子クリストファーが留まる。それは、彼が半血姪だと思っているが、半血妹であることを知らないコリーンと会うということである。彼らは恋に落ち、後に一緒に逃げて結婚し、4人の子供を持つ。程度は低いが、このダイナミクスは、残りの2つのドーランギャンガーの小説『刺があるなら』と『昨日の種』にも現れている。
- 近親相姦はG・R・R・マーティンのベストセラー『氷と炎の歌』シリーズの主題を担い、シリーズ内では近親相姦のサディスティックな異常が描かれる(下記のフィクションにおける双子間の近親相姦も参照)。
- シリーズが始まる前に7つの王国を統治したターガリエン王朝は、古いヴァレリアンの血統を純粋に保つという伝統を持っていることから、しばしば近親婚を行っている。これには、姉妹と結婚した最初のターガリエン王エイゴンと、ジェイへイリス2世とシャエラの兄妹婚によって生まれた狂王の通称で知られる最後の王エイリス2世の例も含まれる。
- 『ローグ・プリンス』と『王女と女王』の主人公であるエイゴン2世は、全血姉妹であるヘラエナと結婚した。彼の半血姉妹のレイニラは、叔父のデーモン・ターガリエンと結婚した。
- ワイルドリング・クラスターは彼の娘と結婚し、その結婚から生まれた娘とさえも結婚する。
- ユーロン・グレイジョイは子供の頃、彼の最年少の完全兄弟であるアーロンとアリゴンをレイプしたことが明らかになった。
- J・R・R・トールキンの『シルマリルの物語』では、記憶喪失になっている間に近親婚が行われる。*J・K・ローリングのハリー・ポッターシリーズにおける主な敵対者、ヴォルデモート卿は、いとこ同士で結婚することで知られるゴーント家の子孫である。
- 平岩弓枝の小説『日野富子』(1971年) では、息子を自らの傀儡にしようとして交わる母が描かれる。
- 藤井重夫の小説『家紋の果』では、息子が売春婦に使う金が欲しいからと母に身体を与える。
文学における双子間の近親相姦
[編集]創作における双子間の近親相姦は「ツインセスト」と呼ばれ、文学作品でもしばしば取り上げられる。
- ドナ・タートの1992年の小説『シークレット・ヒストリー』では、登場人物チャールズとカミラ・マコーレーは二卵性双生児の双子兄妹であり、明確に性的な近親相姦関係を持っている。チャールズは後にカミラによって罵られるが、そのロマンチックかつ性的な関係はナレーションによって明示的に非難されない。
- ツインセストはジョージ・R・R・マーティンのベストセラーファンタジーシリーズ『氷と炎の歌』 (1996年以降)に影響を与えている。ドラマ化された『ゲーム・オブ・スローンズ』では、いくつかのシーンが非合意ではないか議論され、一部の批評家は過度に搾取的ではないか議論を試みるよう指示した[19]。ドラマでは、女王サーセイ・ラニスターの子供は、彼女の双子の弟ジェイム・ラニスターとセックスした結果生まれた子供だった。調査の結果この事実が明らかになるが、ロバート・バラシオン王は彼の妻の子供が不義の子供であったこと知る前に内戦で死亡する。
- 大江健三郎の『同時代ゲーム』(1979年)でも小宇宙と呼ばれている集落の重要人物である主人公の双子の間に近親相姦関係がある。双子の妹へ兄が出した手紙が歴史的資料として出版されているという設定で、投函前に著者が削除した手紙の箇所で行為の内容が詳細に書かれている。
文学における兄弟姉妹間の近親相姦
[編集]ファンタジーフィクション
[編集]- 荒俣宏の歴史ファンタジー小説、『帝都物語』(1985年–89年) には、近親相姦を含むサブプロットが書かれている。大蔵省の官吏の青年は妹と交わり、娘を作る。これが主人公加藤保憲の計画を破る行為となっている。
- デイヴィッド・エディングスの『エレニア記』3部作(1989年–92年)では、エラナ女王の父親アルドレアスは、実の妹であるアリッサ王女と近親相姦した。彼女は最初、彼と結婚する意志をもって青年期に彼を誘惑しており、顧問の一人がそれを可能にする曖昧な法律を見つけたが、主人公の父親によって妨害された。事件は、エラナの母親が死亡した後に再開し、王の死まで続いた。その時、アリッサは修道院に閉じ込められた。
- J・R・R・トールキンの『フーリンの子供たち』(2007年), の登場人物トゥーリンとニエノールは兄妹だが、彼らが初めて合って、龍のグラウルングに纏わるニエノールの思い出を語り合っていた時に、偶然に近親婚を行う。ニエノールが妊娠した後、グラウルングは彼女の記憶を回復させ、彼女と彼女の兄は悲しみから自殺する。これは、トールキンの『シルマリルの物語』、『終わらざりし物語』と『ブック・オブ・ロスト・テイルズ』などの短編で展開されている。この物語は、カレワラのクッレルヴォの話に基づいている。
サイエンスフィクション
[編集]- 近親相姦は、SF小説の2人の著名な作家であるアーシュラ・K・ル=グウィンとロバート・A・ハインラインの作品にも現れる。ル=グウィンの短編『九つのいのち』(1969年) には、同一人物の10人のクローン(5人が男性で5人が女性)がおり、その親密な関係には近親相姦が含まれている。彼女の小説『闇の左手』(1969年)には、タブーにもかかわらず仲間の内の2人の兄妹の話が含まれている。
- フィリップ・K・ディックの小説、『流れよ我が涙、と警官は言った』(1974年)では、マクナルティ検査官は彼の妹と性関係にある。
- ピアズ・アンソニイの『バイオ・オブ・ア・スペース・タイラント』(1983年 - )の主人公の少年は、彼が15歳の時に12歳の妹と性交している。
歴史小説
[編集]- トーマス・マンの『選ばれし人』 (1951年) は、意図的ではない近親相姦の霊的結果を探求している。彼の短編『ヴェルズンゲンの血』もまた、ワーグナーによって明示的に描かれたジークムントとジークリンデの兄妹相姦について描いている。
- キャロリン・スローターの1976年の小説『ストーリー・オブ・ザ・ウィーズル』(アメリカ合衆国では『リレーション』で知られている)は、1880年代に起こった主人公キャシーと兄クリストファーの近親相姦関係を描いている。
- ゲイリー・ジェニングスの小説『アズテック』(1980年)の脇筋では、登場人物ミクストリと彼の姉ティチトリニの性関係か描かれる。彼らはその関係を両親や彼らの社会―死をもって罰せられる―から秘密にしている。子供時代から思春期にかけて、関係を持ったが、彼らは彼女の死によって離れ離れになった。その後、彼は何年も彼女のことを思い焦がれていた。彼はその後妻と娘を持ったが、両方死んだ後、彼はマリンチェという女と性交するが、彼女は肉体的に自分の娘と酷似していた。
- フィリッパ・グレゴリーのワイドエーカー3部作の内の二つの本『ワイドエーカー』(1987年)と『フェイバード・チャイルド』(1989年)は、ワイドエーカーの中心的な女性キャラクターベアトリスは、彼女の兄弟のハリーと近親相姦する。彼女の二人の子供ジュリアとリチャードはハリーとの子供である。フェイバード・チャイルドでは、リチャードがジュリアをレイプし、彼女が彼の子供サラ(またはメリドン)を妊娠していることを発見すると、彼女に結婚を迫る。フィリッパ・グレゴリーはまた、彼女の小説『ブーリン家の姉妹』でも兄妹間の近親相姦を描いている。ジョージ・ブーリンは彼の姉妹アンとメアリーの両方とある程度の性関係を持っている。
- A・S・バイアットの中編小説『モルフォ・ユーゲニア』(1992年)の終わりでは、 ヴィクトリア朝の自然主義者—最近貴族と結婚した—は、彼の物憂げで蠱惑的な妻と、彼女の兄の間で起こっている進行中の出来事を発見する。
- ケン・フォレットの1989年の小説『大聖堂』と、 同じタイトルの最後のミニシリーズは共に、レディー・レーガンと、彼女の息子ウィリアム・ハムレイとの間の近親相姦関係を描いている。
同時代フィクション
[編集]- ロレンス・ダレルの『アレクサンドリア四重奏』(1957年–60年)に登場するリザとラディックは姉弟である。彼女がデイヴィッド・モントリブという人と結婚するまで、姉弟は長い間性関係を持っている。
- コーマック・マッカーシーの1968の小説『アウター・ダーク』では、近親相姦の結果産まれた子供を森に捨てて妹の元を去った兄のその後の暴力にさらされ続ける人生と自身の子供を探す妹の2つのパートを軸に物語が展開されていく。
- イアン・マキューアンの1978年の小説、『セメント・ガーデン』では、両親が突然死し親不在の家で過ごす4人兄弟姉妹がお互いに緊張関係を持ちながら生活する姿が描かれており、その中でも特に主人公のジャックと彼の姉のジュリーの緊張関係が強く、ついには近親相姦に至る。また、マキューアンは『最初の恋、最後の儀式』収録の『自家調達』という短編小説でもごっこ遊びの延長で近親相姦を行ってしまう兄妹を書いている。
- ジョン・アーヴィングの1981年の小説『ホテル・ニューハンプシャー』は、ベリー家の生活を記録している。ベリー家の2人の姉弟、ジョンとフラニ―は、大人の時に近親相姦に発展する緊密さを共有する。
- ペネロピ・ライヴリーの1987年の小説『ムーンタイガー』では、主人公クラウディア・ハンプトンと彼女の兄弟ゴードンが10代の頃に近親相姦していたことを読者に明らかにする。
- 吉本ばななの1990年の小説『N・P』では、複数の近親相姦関係が描かれている。語り手・主人公の風美は、第88話まで翻訳して自殺した彼女の恋人庄司が取り組んでいた高瀬皿男の英語で描かれた多くの物語の最後の話を翻訳しようとしている。風美は双子の姉弟乙彦と咲と知り合いの萃に出会う。最後の話に到達すると、風美は、萃は高瀬と売春婦の間に生まれた娘であり、また高瀬と性的関係になっていたことを発見し、それが庄司が自殺した理由だと知る[要説明]。風美はまた、萃が乙彦と近親相姦していることを発見する。
- ジョゼフィーン・ハートの1991年の小説『ダメージ』(ルイ・マルの1992年の映画)は、近親相姦を暗示している。登場人物アンナ(演:ジュリエット・ビノシュ)は、彼女の欲望のために自殺した兄弟と近親相姦したことを示唆している。
- ジェイムズ・エルロイの1992年の小説『ホワイト・ジャズ』の主人公、デイヴィッド・ クラインは、彼の姉妹メグと近親相姦している。
- ヘレン・ダンモアの『ア・スペル・オブ・ウィンター』(1995年) は、孤児であるキャサリン・アレンとロブ・アレンが、祖父の祖国の荒涼たる環境で成長し、その関係が最終的に性的なものに進化する様子を描いている。
- カルロス・ルイス・サフォンの小説『風の影』(2001年)は、兄妹であり互いに愛し合っているフリアン・カラックスとペネロペ・アルダヤに焦点を充てている。性体験の後、ペネロペはデイヴィッドという子を生むことが明らかになった。彼女は、彼女の両親の嫌悪と恥のために、彼女の息子が生まれても彼女の父と母によって無情にも死ぬために放置されている。
- 半陰陽について扱っているジェフリー・ユージェニデスの『ミドルセックス』(2002年)は、トルコによるギリシャへの侵攻によってデトロイトに逃れた愛し合う姉弟から、稀な潜性遺伝子を継承した孫を描く。
同意ではない近親者間性関係
[編集]- 1796年に出版されたマシュー・グレゴリー・ルイスのゴシック小説『マンク』では、主人公、アンブロシオが、後に彼の姉妹であることが判明する少女、アントニアに色欲を抱き、遂にはレイプする。
- ジュディス・クランツの1980年の小説『プリンセス・デイジー』では、彼女の半血兄弟にレイプされている女性の描写が含まれる。
- E・アニー・プルーの1993年の小説『シッピング・ニュース』と2001年の同名の映画では、アグニス・ハムが12歳の時に彼女の10代の兄弟によって一度レイプされ、その結果妊娠したことが説明される。
- V・C・アンドリュースの『屋根裏部屋の花たち』では、上記のようにクリスが妹のキャシーをレイプする。続編の『炎に舞う花びら』で、キャシーはクリスとの子を妊娠し、流産する。本の終わりに、彼らは一緒に逃げて結婚する。
ジュブナイル
[編集]- ソーニャ・ハートネットの『スリーピング・ドッグス』(1995年)では、兄妹の近親相姦は家族の堕落の唯一の症状であることが描かれる。
- フランチェスカ・リア・ブロックの『ウェイストランド』(2003年)は、10代の兄妹の近親相姦に焦点を充てている。
- メリッサ・デ・ラ・クルスのジュブナイルシリーズ『ブルーブラッド』(2006年)は、一生に一度生まれ変わる吸血鬼と、生まれた時にお互いに恋に落ちるカップルを主題としている。カップルになった準主人公の登場人物の二人は、双子である。
- カサンドラ・クレアの『シャドウハンター』シリーズは、自分たちが兄妹だと認識している二人の主人公、クラリーとジェイスが関係を結ぶが、兄妹ではないと明かされる。また、クラリーの本当の兄セバスチャンは彼女に性的な気持ちを持ち、彼は更に関係を深めようと彼女とキスを共有する。
文学における親子間の近親相姦
[編集]- 1959年の小説『影なき狙撃者』は、エリナ・イズリンと彼女の息子レイモンドの間の近親相姦と、エリナと彼女の父親の初期の近親相姦を描く。ただし、それに基づく2つの映画では近親相姦についてあまり明白にされていない。
父娘近親相姦
[編集]- シオドア・スタージョンの短編 『もしすべての男が兄弟なら、君は自分の姉妹をそのなかのひとりと結婚させるか?』(1967年)の主人公は、近親相姦が積極的に推奨される世界を訪れ、その結果ユートピアを見つける。危険なヴィジョンに寄稿されたスタージョンの後書きによると、文化がある種の'真実'を疑いなく吸収する方法を示しているだけであり、近親相姦 それ自体は偶然扱ったものと述べている。
- ピエル・パオロ・パゾリーニの1975年の映画、マルキ・ド・サドの前述の作品『ソドム百二十日あるいは淫蕩学校』の映画版『ソドムの市』は、父娘間の近親相姦で満ちている。
- ジョージ・ウィルキンズとウィリアム・シェイクスピアの演劇『ペリクリーズ』は、タイトルと同名の登場人物がアンティオキアの王アンタイオカスと彼の娘が近親相姦している事実を知る。
- F・スコット・フィッツジェラルドの小説『夜はやさし』(1934年)の登場人物ニコル・ダイヴァーは、彼女の父親との近親相姦の結果神経質になる。
- ラルフ・エリソンの『見えない人間』(1952年)も近親相姦を扱っている。主人公は、小説のある時点で娘が父親によって妊娠した家族と連絡を取る。
- マックス・フリッシュの『ホモ・ファベル』(1957年)では、主人公のウォルター・ファベルがサベスと恋に落ちて性的関係になるが、小説の最終章で、彼の娘である芸術学生ハンナと無分別な関係になっていたことを発見する。
- デボラ・モガックの1983年の小説『ポーキー』の中心的テーマは、11歳の娘への父親による虐待と、これが後の人生に与える影響である。
- グレアム・スウィフトの1983年の小説『ウォーターランド』の主人公、ディック・クリックは、母親と祖父の息子である。
- 1985年のジョン・アーヴィングの小説『サイダーハウス・ルール』では、リンゴ農家の主任収穫者であるミスター・ローズは、娘のローズ・ローズと近親相姦しており、彼女は妊娠している。
- ポピー・Z. ブライトの1992年の小説『ロスト・ソウル』は、二組の大人・子供間の近親相姦がある。ウォレス・クリーチは、彼の若い大人の娘ジェシーと眠り、吸血鬼のジラは息子と深い性的関係を持っている。
- 韓国のスリラー、オールド・ボーイは、父娘の近親相姦を主なプロット一つとして挙げている。
- 1981年に刊行されたコバルト文庫の『恋の罪』(田中雅美著)では、父と娘の近親相姦と妊娠が描かれる。
- 2007年の桜庭一樹の小説『私の男』では、父と娘の近親相姦が描かれる。桜庭はこの作品で第138回(2007年下半期)直木賞を受賞した。
性的虐待
[編集]- シドニィ・シェルダンの『よく見る夢』(1998年)の主人公、アシュレイ・パターソンは、父親から受けた性的虐待によって解離性同一性障害を発症している。
- トニ・モリスンの『青い眼が欲しい 』(1970年)では、ラルフ・エリソンの『見えない人間』の父娘近親相姦で描写されているような合意の近親相姦ではなく、性的虐待を描いている。
- ジェシーはスティーヴン・キングの1992年の小説、『ジェラルドのゲーム』の中心的なキャラクターである。彼女は10歳の時に父親から性的虐待を受けている。
- サファイアのデビュー小説『プッシュ』(1996年)と、それに基づいたガボレイ・シディベ主演の映画『プレシャス』の両方で、主人公プレシャスは自分の父親との間に2人の子供がいる。彼女はまた、自分の母親から性的虐待を受けている。
- シャロン・ドライパーの1997年の小説『フォージド・バイ・ファイア』の登場人物、エンジェルは、ジェラルドの義父でもある父親によって絶えず性的虐待されている。ジェラルドとエンジェルの母親は、自分の子供ジョーダンに注意を払っているので、彼らの話を聞かない。
- イーディス・ウォートンの未発表の短編小説『ベアトリス・パルマート』(1919年頃)の草案は、父親による娘のレイプが描かれている[20]。
- アリス・ウォーカーのピューリッツァー賞受賞作『カラーパープル』では、貧しいアフリカ系アメリカ人の女性セリー・ハリスが若い頃から、彼女の父親アルフォンソ・"ジェームス"・ハリスによって性的虐待を受けている。彼女は14歳で父親との間に2人の子供を持っていた。両親はセリーが子供を出産する頃、彼女から離れた。彼女の父親は結局彼女を奴隷のように扱い、肉体的及び性的虐待の"ミスター"としてのみ知られるアルバート・ジョンソンという若くて裕福な地方の男やもめと結婚することを命じる。
- 2005年の深町秋生の長編『果てしなき渇き』では、娘を強姦した元警官である父の姿が描かれる。
父息子近親相姦
[編集]性的虐待
[編集]- エレーヌ・マリー・アルフィンによって書かれた『カウンターフィット・ソン』(2000年)の登場人物は、14歳のキャメロン・ミラーである。彼は、20人以上の若い男を殺したシリアルキラーの父親から、生涯にわたって性的虐待を受けている。
- ジム・グリムズリーの『ドリーム・ボーイ』では、思春期のネイサンは酔っぱらった父親から性的虐待を受けている。彼の母親はそのことを知っているが、何もしない。
母息子近親相姦
[編集]- 近親相姦は、タイトル・ロールの登場人物が知らずに父親を殺して母親と結婚するギリシア神話が基になっているソポクレスの悲劇『オイディプス王』において重要な要素である。この行動は、ジークムント・フロイトが全ての人の心理の深層に根付いているエディプスコンプレックスであると分析して20世紀に大きな功績を見せた。その女性の対応概念はエレクトラコンプレックスという。近親相姦はまた、オイディプスと彼の母親の間に生まれた4人の子供たちの人生を描いた『オイディプス王』の続編、『アンティゴネー』においても大きな役割を果たしている。主人公は、両親のために自分と自分の兄弟が呪われていると信じている娘、アンティゴネーである。また、アンティゴネーはいとこであるハイモンと婚約している(しかし、当時の文化では近親相姦ではなく、今日でも世界の他の地域において近親相姦だとは考えられていない)。
- ジョン・アーヴィングの『ひとりの体で』(2012年)では、母息子間の近親相姦が描かれる。母息子の近親相姦は、身体的には男性だが精神的には女性の、遺伝上の男性がジェンダーにおける不快感を解決するために行った失敗した試みだった。息子は結局変わらないままだった。
- ジョルジュ・バタイユの『マイ・マザー』は、母親と息子の関係を繋ぐ年代の物語である。クリストフ・オノレの映画『ジョルジュ・バタイユ ママン』はこの本に基づいている。
- ネビュラ賞とヒューゴー賞にノミネートしたピアズ・アンソニイの1967年のSF小説、『クトーン』は、主人公アトン・ファイブはカップルになる前に、彼を誘惑してきた女性が母親であることを見抜き、最終的にマリスの愛を獲得する。
- ピート・ハミルの1977年の小説『ボクサー』は、母息子間の近親相姦と、両方が経験するその結果を扱う。それはアダルト映画の『タブー』シリーズに直接影響を与えたと考えられている[要出典]。
- 1994年のデヴィッド・O・ラッセルの小説『Spanking the Monkey』(通称:猿たたき)では、母と息子の近親相姦が描かれる。
同意ではない近親者間性関係
[編集]- 2010年のフランス・カナダ合作映画『灼熱の魂』では双子の姉弟が死んだ母親の遺言に基づいて兄と父親を捜すためにレバノンに足を踏み入れる。母親はキリスト教過激派として活動していたが1970年に投獄され、レイプを受けるが、そのレイプを行った人物は彼女の息子だった。双子は彼らが1970年に母親と息子の近親相姦によって生まれたと発見する。彼らは、母親が用意した二つの封筒(フランス語で"父に"と"息子に"と書かれている)に書かれている兄と父は、一人の人物を指していたと知る。
- J.T.リロイの『サラ、いつわりの祈り 』(2001年)では、5歳のエレミヤは売春婦の母親から肉体的・性的虐待を受けている。
文学における他の大人子供間の性関係
[編集]- チャック・パラニュークの小説『ラント』の主要な筋の一つでは、近親相姦とタイムトラベルの組み合わせを特徴としている。父、祖父、曾祖父をタイムトラベルによって一人にすることによって、自分自身の遺伝的な能力を大きく高めることができる。このような過程の産物である主人公は、例えば、嗅覚能力が大きく拡張されたり、知覚も優れるようになり、疼痛及び中毒の耐性も強くなる。
- ロバート・A・ハインラインの2つの小説は、近親相姦を扱っている。『宇宙に旅立つ時』では、トム・バートレットが光速に近い速度で移動する宇宙旅行から帰って来た後、彼女が赤ん坊の時からテレパシーで知っていた姪の孫娘と結婚する。『栄光の道』では、主人公が母親とその娘達(18歳と13歳)から性的なアプローチを受ける―彼らの文化的基準では、多くの妻を受け入れた者が多くの賞賛を受ける―が、地上の束縛を受けるため、主人公はそれらの申し出を拒否するという不名誉を犯す。
- ジョイス・キャロル・オーツの小説、『ファースト・ラブ: ア・ゴシック・テイル』は、11歳のジョージーが彼女の大人のいとこ、ジャレッドの虐待的・性的関係を表現している。彼女が母親と叔母から受ける心理的・肉体的虐待は、ジョージーにジャレッドによる性的虐待が彼女に対する一種の愛情表明だと信じさせる。
- 近親相姦は、実行・想像問わずウィリアム・フォークナーの作品にも多く登場する。『行け、モーセ』、『響きと怒り』と『サンクチュアリ』が例である。
脚注
[編集]- ^ “第11回『ロバと王女』(1970年)”. シネマトゥデイ. (2015年5月29日) 2018年7月28日閲覧。
- ^ 新田啓子『アメリカ文学のカルトグラフィ』(研究社、2012年)p.204 ISBN 978-4-327-47225-2
- ^ スタイナー 1989, p. 17.
- ^ トニー・タナー『姦通の文学』(朝日出版社、1986年)p.71 ISBN 978-4-255-86013-8
- ^ 小倉 2012, p. 231.
- ^ 小倉 2012, p. 232.
- ^ 『愛の神話学―世界神話・文学・絵画にみる愛と苦しみ』(篠田知和基、八坂書房、2011年)p.168 ISBN 978-4896949797
- ^ 『肉体と死と悪魔―ロマンティック・アゴニー』(マリオ・プラーツ、国書刊行会、1994年)p.626 ISBN 978-4336024510
- ^ 深木章子『鬼畜の家(文庫版)』p.385、島田荘司による解説。講談社、2014年(単行本は2011年発行)。ISBN 978-4062778251
- ^ J・M・クッツェー・ポール・オースター『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡2008-2011』(岩波書店、1997年)p.14 ISBN 978-4-000-24524-1
- ^ Schaeffer, Neil (2000). The Marquis de Sade: A Life. Harvard University Press. p. 102. ISBN 9780674003927
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- ^ Blake, Meredith (2014年4月22日). “George R.R. Martin weighs in on 'Game of Thrones' rape controversy”. Los Angeles Times 2017年5月19日閲覧。
- ^ Pierpont, Claudia Roth (2 April 2001). “A Critic at Large, 'Cries and Whispers'”. The New Yorker: 66 .
参考文献
[編集]- ジョージ・スタイナー『アンティゴネーの変貌』みすず書房、1989年。ISBN 978-4-622-04536-6。
- 小倉孝誠『恋するフランス文学』慶應義塾大学出版会、2012年。ISBN 978-4-766-41990-0。
- オットー・ランク 著、前野光弘 訳『文学作品と伝説における近親相姦モチーフ 文学的創作活動の心理学の基本的特徴』2006年。ISBN 4-8057-5163-0。