真核生物
真核生物 Eukaryota | |||
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分類 | |||
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学名 | |||
Eukaryota | |||
シノニム | |||
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真核生物 (しんかくせいぶつ) | |||
英名 | |||
Eukaryote | |||
下位分類群 | |||
真核生物(しんかくせいぶつ、羅: Eukaryota、英: Eukaryote)は、動物、植物、菌類、原生生物など、身体を構成する細胞の中に細胞核と呼ばれる細胞小器官を有する生物である。
概要
生物を基本的な遺伝の仕組みや生化学的性質を元に分類する3ドメイン説では、古細菌、細菌と共に生物界を3分する。古細菌および細菌の2ドメインは合わせて原核生物(Prokaryote)とも呼ばれる。真核生物は、原核生物に比べて大型で形態的に多様性に富むという特徴を持つ。かつての5界説における動物界、植物界、菌界、原生生物界の4界はすべて今日では真核生物に含まれる。
真核細胞の構造
真核生物の細胞は一般的に原核生物の細胞よりも大きく、場合によっては1000倍以上の体積を持つこともある。細胞内にはさまざまな細胞小器官がある。細胞核は必要な物質のみ透過する穴の開いた二重の膜で覆われており、核液と遺伝情報を保持する DNA を含んでいる。細胞のその他の部分は細胞質と呼ばれ、細胞骨格によって支えられている。
核の周囲を板状とチューブ状の小胞体が取り巻いている。チューブ状の物は滑面小胞体、板状の物は粗面小胞体と呼ばれており、粗面小胞体にはいくつものリボソームが張り付き、細胞内での物質の生成、伝達が原核生物と同程度に潤滑させる器官である。リボソーム内で合成されたタンパク質が小胞体に渡され、小胞に入れられて細胞全体に分配される。ほとんどの真核生物では小胞はゴルジ体に蓄積される。小胞には様々な種類があり、これらの動きを合わせて細胞内組織が構成されている。
その他にも多くの器官が存在している。原核細胞と異なり、真核細胞の中には異化作用と酸素の消費に関係するミトコンドリアがある。植物や藻の系列では細胞内に光合成を行う葉緑体も含まれている。葉緑体を内部に持つ原核生物も存在しているが、それぞれ別々に細胞内に取り込まれたと考えられている(細胞内共生説)。真核生物の多くは細胞表面に鞭毛や繊毛があり、移動に使用したり、あるいは受容器官の働きをしている物もある。
繁殖
細胞分裂の際には、まず核分裂が行われる。一般に、核内のDNAは細胞分裂に先立って、より集められて染色体になり、DNAはこの染色体ごとに新しい2つの細胞のために糸状の構造(紡錘糸)によって分かれて運ばれる。分かれた染色体のコピーが渡される。これを有糸分裂と呼ぶ。真核生物の染色体は直鎖状であり、末端にはテロメアと呼ばれる構造がある。
ほとんどの真核生物では有性生殖が行われる。減数分裂後、染色体の半数を2つ合わせて核の合成を行う。これには様々なパターンが存在する。
起源
かつては細菌、アーキア (古細菌)、真核生物の3ドメインは共通の祖先から別個に誕生したとも考えられていたが[1]、現在では古細菌の中から真核生物が進化したとする説が有力になりつつある(かつてのエオサイト説に近い)[2][3][4][5]。特に、アスガルド古細菌から進化した事が分子系統解析から示唆されている。アスガルド古細菌は2010年代にその存在が確認され、真核生物と多くの類似性を有することが知られている[2]。
生物 |
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真核生物には、実際のところ古細菌だけでなく、細菌など他の生物由来の要素も多く含まれている[6]。真核生物は少なくとも2種以上の生物が合体して誕生したことがほぼ定説となっており、例えばミトコンドリアは、真核生物の母体となった古細菌にαプロテオバクテリアが細胞内共生を経て取り込まれて変化したものであるとする説が有力である[7]。ミトコンドリアと同様に、葉緑体はシアノバクテリアが細胞内共生をへて真核生物に取り込みまれたものであると考えられている。ただし葉緑体については、すでに真核生物の誕生後、藻類の祖先となる系統でのみ個別に生じた現象であると考えられており、真核生物自体の起源とは関係しない。
古細菌から真核生物への具体的な道筋はいまだ未解明であり、水素仮説[8]、リバース・フローモデル[9]、E3モデル[10] など多くの仮説が提唱されている[11]。ほとんどの仮説が、古細菌がバクテリアを取り込んだと考えているのに対して、シントロピー・モデル[12] と呼ばれる仮説のみ、バクテリア(特にデルタプロテオバクテリア)が古細菌を取り込んだと推定しており、共生の関係性が他の説とは逆である。この説ではミトコンドリアは古細菌とは別個に取り込まれて成立したとされる。上記の説以外にも、真核生物の細胞核に類似の器官をもつ一部のバクテリア(例えばプランクトミケス)が、真核生物の起源に関与しているとする説も存在する[13]。
成立年代の推定
真核生物の成立年代は未確定ではあるものの、例えば真核生物に不可欠ないくつかの器官(例えばミトコンドリアや、ステロールを含む細胞膜)[14][15]の成立に酸素が必須なことから、真核生物は24億年前の大酸化イベント以後、好気性条件下でおおまかに19億年前頃(原生代)には成立したとする説が有力である[16]。一方で、真核生物は酸素が大気中に含まれていなかった大酸化イベント(Great Oxidation Event; GOE)以前の生活スタイル(嫌気呼吸)も保持しており[17][18]、最初に誕生した真核生物は通性嫌気性生物であったと想定される。ちなみに大酸化イベント以前(太古代)の地球にもごく少量の酸素は存在していた可能性がある[19]。ただ、真核生物を含め好気性生物が太古代にすでに存在していたかについては、それを明確に支持する証拠は現在のところない。最も古い真核生物の痕跡として、27億年前の地層から検出されたステランと呼ばれる真核生物由来の有機物質が一時期議論されていたが[20][21][22]、その後これらのステランは当時のものではなく後世の混入であると結論づけられた[23][24]。ステランは、真核生物が特徴的に生成するステロールが地層中で化石化したものである。現在、真核生物由来のステランとして認められた最も古いものは約8億年前の新原生代のものにとどまる[25][26]。
新原生代以前の真核生物の有無および実態については詳しくわかっていない。2023年、現生の真核生物がもつステロールとは化学構造がやや異なる、”より原始的な”プロトステロールが化石化したものが新原生代以前の地層に広く分布していることが発表され、これらのステロールは現生の真核生物(クラウン・グループ)以前に存在していたステム・グループに属する生物が作り出していた可能性が指摘された[27]。この説に従えば、現存する真核生物の最終共通祖先は新原生代まで出現しなかったことになり、それまでは真核生物の前駆段階にあたる何らかの好気性生物が長く繁栄していたことになる。一方で、プロトステロールを含めてステロール自体は細菌が究極的な起源である可能性も指摘されており[15]、新原生代以前のステロール(プロトステロール)を合成していた生物が何者だったのかによって、真核生物の成立過程についての理解は今後大きく変化する可能性がある。
ステラン以外の真核生物の痕跡としては、真核生物由来とされる微化石が21億年前の地層から発見されている[28]。ただし、これらの化石が真に真核生物由来かどうかはなお議論の必要がある。19億年前の地層から見つかった、コイル状の多細胞生物と推定されるGrypaniaは真核生物として一定の支持を得ている最古の化石の一つである[16]。真核生物の起源を分子時計を用いて推測する研究も行われている[29][30]。ただし分子時計計算はステランなどの化学化石、および微化石の年代を基にしており、これら化石試料の選択と解釈次第で大きく計算結果が変動するため注意を要する[31](上述の否定された27億年前のステランもその例)。
ちなみに、動物や植物へ至る真核生物の多細胞化は真核生物自体の成立に比べて新しく、10億年前あたりを示唆する研究結果がある一方[16]、上述のGrypaniaが本当に多細胞性の真核生物であった場合、多細胞化の起源が大幅に遡るため、結論は出ていない。
下位分類
五界説では、真核生物は動物、植物、菌類、原生生物の4つの界に分類されていた。しかし近年では、分子系統解析などの研究成果を受け、真核生物の新しい分類体系が発表されている。例えば、動物と菌類は同一の系統に含まれるとしてオピストコンタにまとめられている。
現在提案されている分類体系として、国際原生生物学会(ISOP)によるものがある。この体系は2005年に発表され[32]2012年[33]と2019年[34]に2度改訂されている。以下に2019年に出版された改訂版(Adl et al., 2019)の概観を表に示す[34][35]。なお真核生物の系統関係の解明は2020年現在も進展中であり[36]、今後も改訂が続いていくと考えられる。
アモルフェア | アメーボゾア
Amoebozoa(アメーバや粘菌を含む系統) | |
incertae sedis オバゾア | ||
ディアフォレティケス | 古色素体類 | 灰色藻類 、紅藻類、緑色植物を含む系統 |
SAR Sar | ||
ハプチスタ Haptistaやクリプチスタ Cryptistaなどいくつかの単系統群 | ||
クルムス、メタモナダ 、ディスコバ、マラウィモナス類等以上に属さないいくつかの単系統群 |
- 2005年と2012年版の体系では主要な分類群の1つとして採用されていた「エクスカバータ」は、単系統性が疑わしいとされ[37]、ディスコバ、メタモナダ、マラウィモナス類の3つに解体された。
- オピストコンタ、アプソモナス類、Breviatea は単系統群を形成すると考えられ、Obazoa と呼ばれる。
研究の歴史
細胞核という構造の有無が生物の分類にとって重要な差異であることは、19世紀にはすでに認識されていた。たとえば原生生物という言葉を初めて用いたエルンスト・ヘッケルは、細菌などのなんの構造も持たない生物を原生生物の中のモネラとして区別し、後に藍藻をここに含めている[38]。しかし当時は動物と植物という差異がまず先に立っており、モネラとそれ以外という差異が注目されることはなかった。
真核生物という言葉は、文献上エドゥアール・シャットンが1925年の論文で初めて用いた[39]。この論文はPansporella perplexaの分類学的位置を議論するもので、末尾の原生生物の分類表と樹形図の中でEucaryotesとProcaryotesが示されているものの、他には何の説明もなかった[40]。シャットンの弟子で後にノーベル生理学・医学賞を受賞したアンドレ・ルヴォフの1932年のモノグラフの冒頭には、シャットンを引用しながら原生生物を原核生物と真核生物に二分する旨の記述がある。ここでは、原核的原生生物を細胞核やミトコンドリアがないもの、真核的原生生物を両者を持つものとしている[41]。以後、20世紀前半に英語、ドイツ語、フランス語の文献で何度か言及されてはいるが、生物を真核生物と原核生物に二分する方法は一般的な認識とは程遠かった[39]。たとえばハーバート・コープランドは1938年に細胞核がない生物をモネラ界としたが、細胞核がある生物についてはヘッケルの3界(動物界、植物界、原生生物界)をそのまま採用している[42]。この二分法を普及させたのは、カナダ人の細菌学者Roger Yates Stanierである。彼は1960年から翌年にかけてサバティカルでパスツール研究所に滞在し、ルヴォフとの議論の中でシャットンの二分法を知り、1962年の論文[43]で広く知らしめたのである[38][39]。電子顕微鏡による微細構造観察が当たり前のように行われる時代になって、この二分法は広く受け入れられるようになった。
しかし1990年に、カール・ウーズ(Carl Woese)らにより分子系統解析を用いて真核生物、細菌、古細菌の3ドメインが導入されるに伴い、真核生物・原核生物という二分法もまた過去のものとされるに至った(Three-domain system)[44]。しかしながら、真核生物以外のすべての生物の総称として、原核生物という言葉は今日でも学術論文で用いられている。一方で21世紀に入ると、真核生物は古細菌から派生して出現した系統であるという理解が普及し、生物界を細菌とそれ以外で分ける、上記とは異なる意味合いでの二分法が出現している[3]。
系統の詳細
前述した国際原生生物学会(ISOP)による2019年[34]の分類の詳細は下記のとおりである:
脚注
注釈
- ^ Adl et.al.2019では真正紅藻綱の直下は「亜綱」になっているが、ここだけ「Hildenbrandiophycidae」(ベニマダラ亜綱)ではなく「Hildenbrandiaceae」(ベニマダラ科)になっている。
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- [矢﨑(2020)] 矢﨑裕規; 島野智之『真核生物の高次分類体系の改訂―Adl et al. (2019)について―』日本動物分類学会、2020年2月29日。doi:10.19004/taxa.48.0_71 。2020年3月24日閲覧。