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| source = [[ウェブカラー|HTML/CSS]]<ref name="CSS">{{Cite web |url=https://www.w3.org/TR/css-color-3/#svg-color |title=CSS Color Module Level 3 |publisher=[[World Wide Web Consortium]] |language=en |date=2022-01-18 |accessdate=2024-11-08}}</ref>
'''緑'''(みどり、'''綠''')は、[[寒色]]の一つ。[[植物]]の[[葉]]のような[[色]]で、[[黄色]]と[[青]]の[[中間色]]。[[光の三原色]]の一つは緑であり、[[1931年]]、[[国際照明委員会]]は546.1[[nm]]の[[波長]]を緑 (G) と規定した。500-570[[nm]]の波長の[[色相]]はおよそ緑である。色材においては例えば、[[シアン_(色)|シアン]]と[[黄色]]を混合して作ることができる。'''緑色'''(リョクショク、みどりいろ)は[[同義語]]。
}}

'''緑'''(みどり、'''綠''')または'''グリーン'''({{Lang-en|green}})は、[[可視光]]の[[スペクトル色]]の[[黄色]]と[[青緑]]の間にある[[色]]。500-570 nm の波長がおよそ緑の[[色相]]である。[[植物]]の[[葉]]のような色。'''緑色'''(リョクショク、みどりいろ)は[[類義語|同義語]]。

緑は、[[原色#加法混合|光の三原色]]の一つである。RGBカラーモデルでは原色であり、CMYKカラーモデルでは[[シアン (色)|シアン]]と[[黄色|イエロー]]の混色によってつくられる。緑は[[エヴァルト・ヘリング]]が提唱した[[反対色説]]における[[ユニーク色相]]のひとつでもあり、心理四原色([[赤]]・[[黄]]・緑・[[青]])のひとつでもある。なお、緑は赤の[[補色]]であるとされる。

緑は(緑色の、特に[[新緑]]のころの)[[草本|草]]・[[木]]、新[[芽]]・若葉、[[植物]]一般、転じて[[森林]]、[[自然]]などを指す語としても用いられる。


また、緑は寒暖のどちらにも感じられる色であり、中性色に分類される。
緑は(緑色の、特に[[新緑]]のころの)[[草本|草]]・[[木]]、新[[芽]]・若葉、[[植物]]一般、転じて[[森林]]、[[自然]]などを指す語としても用いられる。


== 緑という色名 ==
== 緑という色名 ==
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{{Infobox subcolor|title=翠|hex=00793D
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[[Image:Alcedo atthis head 001.jpg|thumb|240px|[[カワセミ]]の羽根]]
緑に相当する色はかなり広範に及ぶ色の総称であるが、それぞれの色には多く「柳色」や「モスグリーン」などの固有の色名が付いている。より黄色に近い色は[[黄緑]]として、より青に近い色は[[青緑]]として総称されることも多い。英語の'''グリーン'''(green)をはじめ[[欧米]]が感じる対応する色名は、[[日本人]]にとっての緑よりも明るく鮮やかな色である傾向がある。緑はまた漢字で'''碧'''や'''翠'''とも表記されるが、この場合やや青みの強い色を表すことが多く、比較的[[藍緑色]]に近い色合いである。翠は本来、[[カワセミ]]の羽根の色をす名前である。詩的な、あるいは文語的な表現として、海の深く青い色や艶やかな黒髪の色を表すのに「緑」を使うことがある。


緑に相当する色はかなり広範に及ぶ色の総称であるが、それぞれの色には多く「柳色」や「モスグリーン」などの固有の色名が付いている。より黄色に近い色は[[黄緑]]として、より青に近い色は[[青緑]]として総称されることも多い。[[英語]]の'''グリーン''' (green) をはじめ[[欧米]]が感じる対応する色名は、[[日本人]]にとっての緑よりも明るく鮮やかな色である傾向がある。緑はまた漢字で'''碧'''や'''翠'''とも表記されるが、この場合やや青みの強い色を表すことが多く、比較的[[アクアマリン|藍緑色]]に近い色合いである。翠は本来、[[カワセミ]]の羽根の色をす名前である。詩的な、あるいは文語的な表現として、[[]]の深く青い色や艶やかな[[黒髪]]の色を表すのに「緑」を使うことがある。
===語源===
「みどり」という語が登場するのは[[平安時代]]になってからであるが、これは本来「瑞々しさ」を表す意味<ref>現在でも「みどりの黒髪」「嬰児(みどりご)」などの用法が残っている</ref>であったらしい。それが転じて新芽の色を示すようになったとわれる。英語のグリーンも「[[草本|草]]」(grass)や「育つ」(grow)[[語源]]を同じくするとわれ、いずれにしても[[新鮮]]さのイメージを喚起する色である。
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=== 語源 ===
「みどり」という語が登場するのは[[平安時代]]になってからであるが、これは本来「瑞々しさ」を表す意味<ref name="名前なし-paur-1">{{Cite book|和書|editor=新村出|editor-link=新村出|title=[[広辞苑]] 第五版|publisher=[[岩波書店]]|date=1998/11|isbn=4-00-080112-0}}</ref>({{いつ範囲|現在でも|date=2021年5月}}「みどりの黒髪」「嬰児(みどりご)」などの用法が残っているであったらしい。それが転じて新芽の色を示すようになった{{誰範囲2|われる|date=2021年5月}}。英語のグリーンも「[[草本|草]]」 (grass) や「育つ」 (grow) と語源を同じくする{{誰範囲2|われ|date=2021年5月}}、いずれにしても新鮮さのイメージを喚起する色である。
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苔むした石段.JPG|[[]]むした[[石段]]
Alcedo atthis head 001.jpg|[[カワセミ]]の羽根
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== 光源色としての緑 ==
== 光源色としての緑 ==
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[[Image:AdditiveColorMixiing.svg|thumb|240px|光の三原色。中心(或は上)の円が緑(グリーン)]]


'''緑'''(green)[[光の三原色]]のひとつである。ウェブブラウザ等で'''green'''と名前で指定もできるが、その色はRGBで'''#008000'''であり[[純色]]ではない。純色(原色)の緑の名前は'''lime'''で、そちらであれば'''#00FF00'''となる。具体的には「明るい緑」として感じられる色が表示される。
'''緑''' (green) は光の三原色のひとつである。[[ウェブブラウザ]]等で '''green''' と名前で指定もできるが、その色は[[RGB]] '''#008000''' であり[[純色]]ではない{{R|CSS}}。純色(原色)の緑の名前は '''lime''' で、そちらであれば '''#00FF00''' となる{{R|CSS}}。具体的には「明るい緑」に近い色として感じられる色が表示される。


緑の光源は、色合いとしては日常的に目にする緑色よりも明るく鮮やかに感じられる。
緑の光源は、色合いとしては日常的に目にする緑色よりも明るく鮮やかに感じられる。


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AdditiveColorMixing.svg|光の三原色。中心或は上の円が緑(グリーン)
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== JIS規格としての緑 ==
== JIS規格としての緑 ==
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[[日本業規格|JIS]]の規格では緑およびグリーンがそれぞれ定義されている。この両者の色は微妙に異なる色として定義されている。
[[日本業規格]] (JIS) の規格では緑およびグリーンがそれぞれ定義されている。この両者の色は微妙に異なる色として定義されている。


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== 色彩科学における緑 ==
{{Main|CIE 1931 色空間}}
[[国際照明委員会]] (CIE) は[[CIE 1931 色空間|CIE1931RGB表色系]]において、546.1 nm の波長の[[単色光]]を緑 (G) の原刺激と定めた。ただし、原刺激の種類は等色実験において研究者が自由に定めることができるものであり、必ずしも人々がもっとも赤、緑、青に感じる色光を選択してはいない点に注意が必要である。G(緑)の原刺激 546.1 nmとB(青)の原刺激 435.8 nm は、1931年当時すでに普及していた[[水銀灯]]の出す2波長であり、分離して入手しやすい明るい光であるという理由で選択されたにすぎない<ref name="ikeda1980">{{Cite book|和書|author=池田光男|title=色彩工学の基礎|publisher=朝倉書店|series=|year=1980|isbn=9784254210125|pages=55-56|chapter=}}</ref>。

== 緑の色料 ==
== 緑の色料 ==
天然に大量に存在する緑色は[[葉緑素]]で、化学的には[[ポルフィリン]]構造(ポルフィリン環)と呼ばれる特殊な有機構造を持つ分子の中心に金属元素([[マグネシウム]])を配位している。よく似た構造の鮮明な緑色顔料としては[[フタロシアニン]]グリーンがある。着色材料用途のポルフィリン系以外のピロール系化合物としては[[ジケトピロロピロール]]があり、橙から赤にかけての重要な顔料である。
天然に大量に存在する緑色は[[クロロフィル|葉緑素]]で、化学的には[[ポルフィリン]]構造(ポルフィリン環)と呼ばれる特殊な有機構造を持つ分子の中心に金属元素([[マグネシウム]])を配位している。よく似た構造の鮮明な緑色[[顔料]]としては[[フタロシアニン]]グリーンがある。着色材料用途のポルフィリン系以外のピロール系化合物としては[[ジケトピロロピロール]]があり、[[色]]から[[]]にかけての重要な顔料である。


古くから顔料として使われたのは[[孔雀石]]の粉末で、銅の錆([[緑青]])と同じく[[塩基性炭酸銅]]を主成分とする。無機顔料では有害性の低い[[ビリジアン]]、[[酸化クロム]]([[オキサイド・オブ・クロミウム|酸化クロム緑]])がよく使われる。[[ピーコック (顔料)|ピーコック]]と呼ばれる[[セラミック顔料]]も緑色無機顔料である。
古くから顔料として使われたのは[[孔雀石]]の粉末で、銅の錆([[緑青]])と同じく[[塩基性炭酸銅]]を主成分とする。無機顔料では有害性の低い[[ビリジアン]]、[[酸化クロム]]([[オキサイド・オブ・クロミウム|酸化クロム緑]])がよく使われる。[[ピーコック (顔料)|ピーコック]]と呼ばれる[[セラミック顔料]]も緑色無機顔料である。


=== 緑色無機顔料 ===
=== 緑色無機顔料 ===
==== 緑土 ====
==== 緑土 ====
緑土は[[海緑石]]と[[灰緑石]]からなる。これら鉱物は[[水酸化鉄]]、[[水酸化マグネシウム]]、[[硅酸アルミニウム]]、[[カリウム]]などからなる。硅酸錯塩と同様緑土の組成は様々である。色合いは鈍い黄緑色から淡緑灰色のものまで様々ある。このように発色する原因は2価の鉄(第一鉄)にあるが、大半の鉄は3価の鉄(第二鉄)として存在している。緑土は透明性が高く、着色力は強くない。[[イタリア]]の画家が好んでテンペラにおいて[[下層]]に用いた。
緑土は[[海緑石]]と[[灰緑石]]からなる。これら鉱物は[[水酸化鉄]]、[[水酸化マグネシウム]]、{{要検証範囲|[[硅酸アルミニウム]]|date=2021年5月}}、[[カリウム]]などからなる。{{要検証範囲|硅酸錯塩|date=2021年5月}}と同様緑土の組成は様々である。色合いは鈍い黄緑色から淡緑[[灰色]]のものまで様々ある。このように発色する原因は2価の鉄([[第一鉄]])にあるが、大半の鉄は3価の鉄([[第二鉄]])として存在している。緑土は透明性が高く、着色力は強くない。[[イタリア]]の画家が好んで[[テンペラ]]において下層に用いた。太古より[[ヨーロッパ]]で使用されてきた顔料で、比較的広範囲において産出するが、良質の顔料用途になるものの産地は限られる
太古よりヨーロッパで使用されて来た顔料で、比較的広範囲において産出するが、良質の顔料用途になるものの産地は限られる。


==== 銅系緑色顔料 ====
==== 銅系緑色顔料 ====
; 岩緑青 Mountain Green
; 岩緑青 Mountain Green
: 岩緑青・マウンテン グリーンはマラカイト(Malachite)つまり天然の塩基性炭酸銅で組成式はCu<sub>2</sub>(CO<sub>3</sub>)(OH)<sub>2</sub>、世界中に産する[[孔雀石]]の粉末である。最も古くから知られた鮮明な緑色顔料であると考えられている。今日では使用頻度は高くないが、[[日本画]]ではだ重要な位置にある。岩緑青の古名は[[青丹]](物理的に青色と丹色の物質を混合すると緑青色になるが、そういう意味ではない)。
: 岩緑青・マウンテン グリーンはマラカイト (Malachite)つまり天然の塩基性炭酸銅で、[[化学式#組成式|組成式]] Cu<sub>2</sub>(CO<sub>3</sub>)(OH)<sub>2</sub>、世界中に産する[[孔雀石]]の粉末である。最も古くから知られた鮮明な緑色顔料であると考えられている。今日では使用頻度は高くないが、[[日本画]]ではいまだ重要な位置にある。岩緑青の古名は青丹(物理的に青色と丹色の物質を混合すると緑青色になるが、そういう意味ではない)。
; ベルデグリ Verdigris
; ベルデグリ Verdigris
: ベルデグリは[[二塩基性酢酸銅]]である。酢酸臭を伴う緑青色の粉末である。中心製造地はかつて[[モンペリエ]]周辺にあった。銅系顔料の内では反応性が高く、水に一部溶解し、酸には溶解する。熱すると分解して[[CuO]]酸化銅が残る。[[硫黄]]を含む顔料と反応すると黒変する。[[ヴァトー]]は硫黄系顔料である[[ウルトラマリン]]と混合して用いたようであるが、色合いを鮮明なまま残しているというように、この理屈に反する事例も知られている。D.V.[[トンプソン]]は[[イタリア]]初期風景画において愛用された顔料であるが黒変した事例が数多いとしている。ファンエイクグリーン (Van Eyck Green) と強い関係がある。場合によっては[[炭酸銅]]、[[銅]]、[[黄銅]]、[[青銅]]から出来る青若しくは緑の錆を指す。Colour Index Generic NamePigment Green 20。
: ベルデグリは[[二塩基性酢酸銅]]である。[[酢酸]]臭を伴う緑青色の粉末である。中心製造地はかつて[[フランス]]南部の[[モンペリエ]]周辺にあった。銅系顔料の内では反応性が高く、水に一部溶解し、酸には溶解する。熱すると分解して[[酸化銅(II)|CuO]]酸化銅が残る。[[硫黄]]を含む顔料と反応すると黒変する。[[アントワーヌ・ヴァトー]]は硫黄系顔料である[[ウルトラマリン]]と混合して用いたようであるが、色合いを鮮明なまま残しているというように、この理屈に反する事例も知られている。D.V.[[トンプソン]]{{要曖昧さ回避|date=2021年5月}}はイタリア初期風景画において愛用された顔料であるが黒変した事例が数多いとしている。ファンエイクグリーン (Van Eyck Green) と強い関係がある。場合によっては[[塩基性炭酸銅|炭酸銅]]、[[銅]]、[[黄銅]]、[[青銅]]から出来る青若しくは緑の錆を指す。Colour Index Generic Name, Pigment Green 20。
; ファンエイクグリーン Van Eyck Green
; ファンエイクグリーン Van Eyck Green
: [[Image:Van Eyck - Arnolfini Portrait.jpg|thumb|150px|[[ヤン・ファン・エイク]]による緑の解釈(アルノルフィニ夫妻の肖像、1434年)]]
: [[ファイル:Van Eyck - Arnolfini Portrait.jpg|thumb|150px|[[ヤン・ファン・エイク]]による緑の解釈([[アルノルフィニ夫妻像]]、1434年)]]
: 13世紀から14世紀末にかけて、[[装飾写本]]にしばしば見受けられる特徴的な緑がある。それは、油を含んでいるような外観を呈し、顕微鏡で観察しても銅塩の結晶は見えないが、銅を含んでいる。断面や脆弱性から、バインダーが樹脂質であると判断される。[[塩酸]]には溶解する。これを研究したA.P.ローリーはこれをファン エイク グリーンと呼んだ。ファン エイクの作品の多くで使用されている。ド・マイエルヌの文献がこれを記述した最古のものとして知られる。銅塩と純粋なバルサムとで絵具を作ると青緑色になるので、これより黄味の、暖かみのある緑は、[[ケルシトロンレーキ]]、[[サフラン]]、[[ガンボージ]]などを添加することによって顕色したとの説をローリーは提出している。この色は、樹脂系バインダーの保護力が高いために保存状態の良いものが多い。
: 13世紀から14世紀末にかけて、[[装飾写本]]にしばしば見受けられる特徴的な緑がある。それは、油を含んでいるような外観を呈し、顕微鏡で観察しても銅塩の結晶は見えないが、銅を含んでいる。断面や脆弱性から、[[絵具#組成|バインダー]]が樹脂質であると判断される。[[塩酸]]には溶解する。これを研究したA.P.ローリーはこれをファン エイク グリーンと呼んだ。ファン エイクの作品の多くで使用されている。[[テオドール・ド・マイエルヌ]]の文献がこれを記述した最古のものとして知られる。銅塩と純粋な[[バルサム]]とで絵具を作ると青緑色になるので、これより黄味の、暖かみのある緑は、[[ケルシトロンレーキ]]、[[サフラン]]、{{仮リンク|ガンボージ|en|Gamboge|redirect=1}}などを添加することによって顕色したとの説をローリーは提出している。この色は、樹脂系バインダーの保護力が高いために保存状態の良いものが多い。
:{{-}}
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; シェーレ緑 Sheele's Green
; シェーレ緑 Sheele's Green
: シェーレ緑は酸性亜ヒ酸銅で組成式はCuHAsO<sub>3</sub>で、[[1778年]]、[[カール・ヴィルヘルム・シェーレ]]が初めて合成した、合成緑色顔料の嚆矢である。品質はそれ程高くなかったので、これに続くエメラルド緑に直ちに取って代わられる。硫黄や硫化物、鉛に触れると黒変し、酸では分解する。黄緑色を呈するがすぐさま褪色現象が現れる。毒性は極めて高い。18世紀から19世紀初頭には絵画にも使用されたとされている。Colour Index Generic NamePigment Green 22。
: シェーレ緑は酸性亜ヒ酸銅で組成式は CuHAsO<sub>3</sub> で、[[1778年]]、[[カール・ヴィルヘルム・シェーレ]]が初めて合成した、合成緑色顔料の嚆矢である。品質はそれ程高くなかったので、これに続くエメラルド緑に直ちに取って代わられる。硫黄や硫化物、鉛に触れると黒変し、酸では分解する。黄緑色を呈するがすぐさま褪色現象が現れる。毒性は極めて高い。18世紀から19世紀初頭には絵画にも使用されたとされている。Colour Index Generic Name, Pigment Green 22。
; エメラルド緑 Emerald Green
; エメラルド緑 Emerald Green
: エメラルド緑は[[アセト亜ヒ酸銅]]で組成式はCu(C<sub>2</sub>H<sub>3</sub>O<sub>2</sub>)3⋅Cu(AsO<sub>2</sub>)<sub>2</sub>で、[[1814年]][[ドイツ]]の[[シュインフルト]]([[:de:Schweinfurt]])で初めて合成された。かなり鮮明な緑色無機顔料で、亜鉛緑ともコバルトクロム緑とも全く異なる。硫黄を含む空気や物質で黒変する。酸や温アルカリで分解される。毒性が高いことから、パリグリーンと呼ばれ[[殺虫剤]]に使用された。油性の媒材(Binder)で用いた場合の耐久性は高い。絵画における使用例は少なく、ド ヴェルトの報告では1例のみである。中国の古銅器の緑青のイミテーションとしての使用がある。Colour Index Generic NamePigment Green 21。
: エメラルド緑は[[花緑青|アセト亜ヒ酸銅]]で組成式は Cu(C<sub>2</sub>H<sub>3</sub>O<sub>2</sub>)3⋅Cu(AsO<sub>2</sub>)<sub>2</sub> で、1814年[[ドイツ]]の[[シュヴァインフルト]]で初めて合成された。かなり鮮明な緑色無機顔料で、亜鉛緑ともコバルトクロム緑とも全く異なる。硫黄を含む空気や物質で黒変する。[[]]や温[[アルカリ]]で分解される。毒性が高いことから、パリグリーンと呼ばれ[[殺虫剤]]に使用された。油性の媒材 (Binder) で用いた場合の耐久性は高い。絵画における使用例は少なく、ド ヴェルトの報告では1例のみである。[[中国]]の古[[銅器]]の緑青のイミテーションとしての使用がある。Colour Index Generic Name, Pigment Green 21。


==== コバルト系緑色顔料 ====
==== コバルト系緑色顔料 ====
; 亜鉛緑/コバルト緑 Zinc Green / Cobalt Green
; 亜鉛緑/コバルト緑 Zinc Green / Cobalt Green
: 亜鉛緑・コバルト緑は[[亜鉛]]と[[コバルト]]の酸化物固溶体。[[1780年]]ドイツ人リンマンによって発見された。A.P.ローリーによれば、最初に文献に登場するのは1835年である。コバルトの亜鉛に対する比率は僅かであり、コバルトと亜鉛の比率を多少変えても色合いは殆ど変化しない。耐光性が高く、濃酸には侵されるがアルカリには侵されない。加えて、かなりの高温でも影響を受けない。しかしながら、不透明な無機顔料としては透明性が高く、彩度もそれ高くないのに高価である、美術家には喜ばれていない。マグネシウムを添加したものは暗緑色であり、そうでないものは淡い青緑色になる。Colour Index Generic NamePigment Green 19。
: 亜鉛緑・コバルト緑は[[亜鉛]]と[[コバルト]]の酸化物固溶体。1780年に[[ドイツ人]]のリンマンによって発見された。A.P.ローリーによれば、最初に文献に登場するのは1835年である。コバルトの亜鉛に対する比率は僅かであり、コバルトと亜鉛の比率を多少変えても色合いは殆ど変化しない。耐光性が高く、濃酸には侵されるがアルカリには侵されない。加えて、かなりの高温でも影響を受けない。しかしながら、不透明な無機顔料としては透明性が高く、[[彩度]]もそれほど高くないのに高価であるため、美術家には喜ばれていない。マグネシウムを添加したものは暗緑色であり、そうでないものは淡い青緑色になる。Colour Index Generic Name, Pigment Green 19。
; チタンコバルト緑 Cobalt Titanate Green
; チタンコバルト緑 Cobalt Titanate Green
: [[チタン]]とコバルトの酸化物固溶体。亜鉛やニッケルが加えられて製品化されたものも多く流通している。Colour Index Generic NamePigment Green 50。
: [[チタン]]とコバルトの酸化物固溶体。亜鉛やニッケルが加えられて製品化されたものも多く流通している。Colour Index Generic Name, Pigment Green 50。
; コバルトクロム緑 Cobalt Chromium Green
; コバルトクロム緑 Cobalt Chromium Green
: コバルトと[[クロム]]と[[アルミニウム]]の酸化物固溶体。堅牢性は極めて高く、絵画技法をはじめ、耐熱性を要求される分野、例えば窯業に至る広い用途を持っている。Colour Index Generic NamePigment Green 26。類縁の顔料に[[青#コバルトクロム青 Cobalt Chromium Blue|コバルトクロム青]]がある。これはクロム含有量が少ないコバルトクロム緑である。
: コバルトと[[クロム]]と[[アルミニウム]]の酸化物固溶体。堅牢性は極めて高く、絵画技法をはじめ、耐熱性を要求される分野、例えば窯業に至る広い用途を持っている。Colour Index Generic Name, Pigment Green 26。類縁の顔料に[[青#コバルトクロム青 Cobalt Chromium Blue|コバルトクロム青]]がある。これはクロム含有量が少ないコバルトクロム緑である。


==== クロム系緑色顔料 ====
==== クロム系緑色顔料 ====
; 酸化クロム緑 Chromium Oxide Green
; 酸化クロム緑 Chromium Oxide Green
: 酸化クロム緑は[[酸化クロム]]で組成式はCr<sub>2</sub>O<sub>3</sub>。最も安定した緑色顔料である。不透明で、硬度が高い。ヴォークランは1809年に陶器の釉薬への使用を提出している。美術家用絵具に採用されたのは1862年頃である。Colour Index Generic NamePigment Green 17。Chromium Oxide Green Brilliantは後述の含水酸化クロムを指す。
: 酸化クロム緑は[[酸化クロム]]で組成式は Cr<sub>2</sub>O<sub>3</sub>。最も安定した緑色顔料である。不透明で、硬度が高い。ヴォークランは1809年に[[|陶器]][[釉薬]]への使用を提出している。美術家用絵具に採用されたのは1862年頃である。Colour Index Generic Name, Pigment Green 17。Chromium Oxide Green Brilliant は後述の含水酸化クロムを指す。
; ビリジアン Viridian
; ビリジアン Viridian
: ビリジアンは含水酸化クロムで、組成式はCr<sub>2</sub>O<sub>3</sub>⋅2H<sub>2</sub>Oで表す場合がある。含水量は約40%。ヨーロッパで製造されている伝統的なやや不透明で明るいエメラルドグリーンを呈するもの、これより不透明だが不鮮明なもの、透明性が高く色感に乏しいものなど、様々ある。[[1838年]]フランス人[[パンヌティエ]]が発見したが[[1859年]][[ギネー]]が特許を公告させ普及した。このため、ギネーの緑とも呼ばれる。鮮明な青味のある緑を呈する、耐光性の高い顔料である。Colour Index Generic NamePigment Green 18。
: ビリジアンは含水酸化クロムで、組成式は Cr<sub>2</sub>O<sub>3</sub>⋅2H<sub>2</sub>O で表す場合がある。[[含水率|含水量]]は約40%。ヨーロッパで製造されている伝統的なやや不透明で明るい[[エメラルドグリーン]]を呈するもの、これより不透明だが不鮮明なもの、透明性が高く色感に乏しいものなど、様々ある。1838年に[[フランス人]]のパンヌティエが発見したが1859年ギネーが特許を公告させ普及した。このため、ギネーの緑とも呼ばれる。鮮明な青味のある緑を呈する、耐光性の高い顔料である。Colour Index Generic Name, Pigment Green 18。


=== 緑色有機顔料 ===
=== 緑色有機顔料 ===
レーキ顔料でない純然たる有機顔料で緑色のものの種類はそれ豊富ではない。フタロシアニンの普及に伴い、緑色顔料の生産は大きく変化したと言える。
[[顔料#レーキ顔料|レーキ顔料]]でない純然たる有機顔料で緑色のものの種類はそれほど豊富ではない。フタロシアニンの普及に伴い、緑色顔料の生産は大きく変化したと言える。


==== フタロシアニン ====
==== フタロシアニン ====
{{See also|フタロシアニン}}
{{See also|フタロシアニン}}
[[File:Phthalocyanine Green G.png|thumb|150px|フタロシアニングリーンG]]
[[ファイル:Phthalocyanine Green G.png|thumb|150px|フタロシアニングリーンG]]
[[葉緑素]]に似た化学構造を持つ[[フタロシアニン]]は1933年、[[インペリアル・ケミカル・インダストリーズ|ICI]](インペリアル ケミカル インダストリーズ)社のリンステッドたちがフタロシアニンと命名、1935年に工業化され、モナストラルブルーの名で商品顔料になった。アメリカでは、1936年に別の名で取引が始まる。鮮明で着色力が非常に強く、プロシア青の倍程の着色力がある。
葉緑素に似た化学構造を持つフタロシアニンは1933年、[[インペリアル・ケミカル・インダストリーズ|ICI]](インペリアル ケミカル インダストリーズ)社のリンステッドたちがフタロシアニンと命名、1935年に工業化され、モナストラルブルーの名で商品顔料になった。アメリカでは、1936年に別の名で取引が始まる。鮮明で着色力が非常に強く、プロシア青の倍程の着色力がある。フタロシアニン緑は[[青#フタロシアニン|フタロシアニン青]]に続いて開発され、塩素化銅フタロシアニンは1838年に商品化された。Colour Index Generic Name には Pigment Green 7、臭素化塩素化フタロシアニンの Pigment Green 36、臭素化塩素化亜鉛フタロシアニンの Pigment Green 58 が記載されている。[[薄型テレビ#液晶テレビ|液晶テレビ]]を含む[[液晶ディスプレイ]]の[[カラーフィルタ]]の緑には、構成要素として Pigment Green 36 が使われている。
フタロシアニン緑は[[青#フタロシアニン Phthalocyanine|フタロシアニン青]]に続いて開発され、塩素化銅フタロシアニンは1838年に商品化された。Colour Index Generic NameにはPigment Green 7、臭素化塩素化フタロシアニンのPigment Green 36、臭素化塩素化亜鉛フタロシアニンのPigment Green 58が記載されている。液晶テレビを含む液晶ディスプレイのカラーフィルタの緑には、構成要素としてPigment Green 36が使われている。


緑のほかに、緑青・ターコイズを呈する無金属フタロシアニン、鮮明な緑気味の青であるフタロシアニン青がある。いずれも化学的に安定な構造で、比較的安価に大量生産されている。
緑のほかに、緑青・ターコイズを呈する無金属フタロシアニン、鮮明な緑気味の青であるフタロシアニン青がある。いずれも化学的に安定な構造で、比較的安価に大量生産されている。


==== ペリレン ====
==== ペリレン ====
[[File:PTCDA.svg|thumb|150px|[[:en::PTCDA|ペリレンテトラカルボン酸二無水物 (en)]]<br>Pigment Red 224]]
[[ファイル:PTCDA.svg|thumb|150px|ペリレンテトラカルボン酸二無水物<br />Pigment Red 224]]
[[ペリレン]]顔料は、ペリレンテトラカルボン酸二無水物の六員環を構成している酸素原子2個を脱落させた構造を有する顔料である。赤から紫、そして、緑(但し黒い緑)といった幅広い色相を持つ顔料グループであり、一般に着色力、堅牢性に優れる。緑色のペリレン顔料であるPigment Black 31は、緑味を呈する黒色顔料であるが、色相は[[濃度]]や[[バインダー]]などの条件により相違する。
[[ペリレン]]顔料は、{{仮リンク|ペリレンテトラカルボン酸二無水物|en|Perylenetetracarboxylic dianhydride}}の六員環を構成している酸素原子2個を脱落させた構造を有する顔料である。赤から紫、そして、緑(但し黒い緑)といった幅広い色相を持つ顔料グループであり、一般に着色力、堅牢性に優れる。緑色のペリレン顔料である Pigment Black 31 は、緑味を呈する黒色顔料であるが、色相は[[濃度]]や[[絵具#組成|バインダー]]などの条件により相違する。
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=== 緑色染料および緑色レーキ顔料 ===
=== 緑色染料および緑色レーキ顔料 ===
緑色の[[染料]]および[[レーキ顔料]]についてはここで述べる。顔料の世界では、[[アゾメチン]]の[[前駆体]]、特に[[イミン]]を構造中に有する顔料をアゾメチン顔料と称する。
緑色の[[染料]]および[[顔料#レーキ顔料|レーキ顔料]]についてはここで述べる。顔料の世界では、[[シッフ塩基|アゾメチン]]の[[前駆体]]、特に[[イミン]]を構造中に有する顔料をアゾメチン顔料と称する。


[[クロウメモドキ科]]の熟成した[[液果]]から抽出することが可能な緑色成分があり、これが本来の「[[サップグリーン]]」である。サップグリーンは、今日では専ら名称として残る。色素として[[ラムネチン]] [[:en::Rhamnetin|Rhamnetin (en)]]や[[エモジン]] [[:en::Emodin|Emodin (en)]]を含んでいる。
[[クロウメモドキ科]]の熟成した[[果実#果実の分類|液果]]から抽出することが可能な緑色成分があり、これが本来の「[[サップグリーン]]」である。サップグリーンは、今日では専ら名称として残る。色素として[[ラムネチン]]や[[エモジン]]を含んでいる。


==== アントラキノン ====
==== アントラキノン ====
[[File:Emodin.svg|thumb|150px|[[エモジン]]<br>[[:en::Emodin|Emodin (en)]]]]
[[ファイル:Emodin.svg|thumb|150px|エモジン]]
[[File:Anthraquinone acsv.svg|thumb|120px|[[アントラキノン]]]]
[[ファイル:Anthraquinone acsv.svg|thumb|120px|アントラキノン]]
前述のように、[[クロウメモドキ科]]の熟成した[[液果]]から抽出することが出来る成分のエモジンは、[[アントラキノン]]染料に数えられる。
前述のように、クロウメモドキ科の熟成した液果から抽出可能な成分のエモジンは、[[アントラキノン]]染料に数えられる。
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==== フラボン ====
==== フラボン ====
[[File:Rhamnetin.svg|thumb|150px|[[ラムネチン]]<br>[[:en::Rhamnetin|Rhamnetin (en)]]]]
[[ファイル:Rhamnetin.svg|thumb|150px|ラムネチン]]
[[File:Flavone acsv.svg|thumb|120px|[[フラボン]]]]
[[ファイル:Flavone acsv.svg|thumb|120px|フラボン]]
前述のように、[[クロウメモドキ科]]の熟成した[[液果]]から抽出することが出来る成分のラムネチンは、[[フラボン]]染料に数えられる。
前述のように、クロウメモドキ科の熟成した液果から抽出可能な成分のラムネチンは、[[フラボン]]染料に数えられる。
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==== アゾメチン ====
==== アゾメチン ====
[[File:Naphthol Green B.svg|thumb|150px|[[ナフトールグリーン]]<br>[[:en::Naphthol Green B|Naphthol Green B (en)]]]]
[[ファイル:Naphthol Green B.svg|thumb|150px|ナフトールグリーン]]
[[アゾメチン]]系の緑色顔料としては、緑色の[[ニトロソ]]染料のナフトールグリーン [[:en::Naphthol Green B|Naphthol Green B (en)]]のレーキ顔料(Pigment Green 8)がある。印象的な深い緑を呈する。堅牢であるが耐水性にやや劣るところがある。
アゾメチン系の緑色顔料としては、緑色の[[ニトロソ化合物|ニトロソ]]染料の[[ナフトールグリーンB]]のレーキ顔料 (Pigment Green 8) がある。印象的な深い緑を呈する。堅牢であるが耐水性にやや劣るところがある。
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[[File:Malachite green structure.svg|thumb|150px|[[マラカイトグリーン]]]]
[[ファイル:Malachite green structure.svg|thumb|150px|マラカイトグリーン]]
[[マラカイトグリーン]]は、[[カルボニウム]]系の[[塩基性染料]]である。このレーキは、安価な[[水性絵具]]などにも用いられる。
[[マラカイトグリーン]]は、[[カルボカチオン|カルボニウム]]系の[[塩基性染料]]である。このレーキは、安価な[[絵具#水性の絵具|水性絵具]]などにも用いられる。
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== 緑に関する事項 ==
== 緑に関する事項 ==
=== 緑をさす「青」 ===
=== 緑をさす「青」 ===
[[File:Signal_tate.jpg|thumb|200px|青信号]]
[[ファイル:Signal_tate.jpg|thumb|200px|青信号]]
[[ファイル:Wurzelspinat02.jpg|代替文=|サムネイル|200x200ピクセル|青野菜の一例([[ホウレンソウ|ほうれん草]])]]
[[File:Romaine.jpg|thumb|200px|青野菜]]
古代日本語の固有の色名は、[[赤|アカ]]・[[黒|クロ]]・[[白|シロ]]・[[青|アヲ]]の四語のみだったとの説が存在する<ref>{{cite book|author=新村出編|title=『広辞苑 第五版』|publisher=岩波書店|date=1998/11|isbn=978-4000801126}}</ref>。緑が色名として明確に扱われてこなかったため、現在緑色と言われる色そのものは日本語では「青」によって表現されてきた。例えば、
[[上代日本語|古代日本語]]の固有の色名は、[[赤|アカ]]・[[黒|クロ]]・[[白|シロ]]・[[青|アヲ]]の四語のみだったとの説が存在する<ref name="名前なし-paur-1"/>。緑が色名として明確に扱われてこなかったため、現在緑色と言われる色そのものは日本語では「青」によって表現されてきた。例えば、
*「青々とした葉っぱ」「青野菜」など。
*「青々とした葉っぱ」「青[[野菜]]」など。
*「青[[交通信号機|信号]]」: 本来、「進んで好い」を意味する信号灯は緑色である。現在では青緑色が増えているが、旧い信号機では純粋な緑色や黄緑色が使われることもある。[[船|船舶]]の右[[舷]]および[[航空機]]の右[[翼#航空機の翼|主翼]]先端に付いている緑色の灯火([[航行灯]])も、青信号と同じような意味合いを持つが、こちらは「緑灯」と呼ばれている<ref>{{Cite web|和書|title=左側通行・右側通行|url=http://www.mod.go.jp/pco/kagoshima/kachihon/mini/kaijimini2.html|publisher=[[自衛隊鹿児島地方協力本部]]|accessdate=2018-02-04|url-status=dead|url-status-date=2024-03-23}}</ref>。
*「青信号」: 青信号は実際には青緑色になっているが、色覚に特性がある人を考慮したためである。古い信号機では本当の緑色が使われることもある。
*「青二才」など:おそらく果実の熟し具合からの転用で「幼い」「若い」「未熟である」ことを英語では “green”、ポルトガル語でも “verde” と緑色をす語で表しているが、日本では「青い」という。
*「青二才」など:{{独自研究範囲|おそらく|date=2021年5月}}[[果実]]の熟し具合からの転用で「幼い」「若い」「未熟である」ことを英語では "green", スペイン語やポルトガル語でも "verde" と緑色をす語で表しているが、日本では「青い」という。


少なくとも過去において緑色と青色を明確に切り分けなかった言語は日本語に限らず非常に多く、東アジアの[[漢字文化圏]]、東南アジア、インド、アフリカ、[[マヤ語族|マヤ語]]など中南米の言語にみられる。緑色(green)と青色(blue)とを分節しない語彙を表すため、しばしば言語学者は'''グルー'''(grue)という語を使用しており、こうした言語は'''グルー言語'''ともばれる。さらにこのような言語では黒色とも区別されず、いわば「暗い色」として表されることがあり、これは特に赤道直下の言語に多い<ref>{{cite web|url=http://wals.info/feature/134|author=Paul Kay and Luisa Maffi|title=Feature/Chapter 134: Green and Blue|work=The World Atlas of Language Structures Online, WALS|accessdate=2009-12-25}}</ref>。
少なくとも過去において緑色と青色を明確に切り分けなかった言語は日本語に限らず非常に多く、[[東アジア]]の[[漢字文化圏]]、[[東南アジア]][[インド]][[アフリカ]]、[[マヤ語族|マヤ語]]などの[[ラテンアメリカ|中南米]]の言語にみられる。緑色 (green) と青色 (blue) とを分節しない語彙を表すため、しばしば言語学者は'''グルー''' (grue) という語を使用しており、こうした言語は'''グルー言語'''ともばれる。さらにこのような言語では黒色とも区別されず、いわば「暗い色」として表されることがあり、これは特に赤道直下の言語に多い<ref>{{Cite web|url=http://wals.info/feature/134|author=Paul Kay and Luisa Maffi|title=Feature/Chapter 134: Green and Blue|work=The World Atlas of Language Structures Online, WALS|accessdate=2009-12-25}}</ref>。


{{see also|en:Blue–green distinction in language}}
言語ごとの色の分節の食い違いは、最も一般的には色の分け方に[[物理学]]的な根拠がなく、[[フェルディナン・ド・ソシュール|ソシュール]]言語学が主張するように最終的にはそれが[[文化]]によって分節されていることによる<ref>{{cite book|author=[[鈴木孝夫]]|title=ことばと文化|series=<[[岩波新書]]>}}</ref>。しかし、グルー言語が熱帯をはじめ比較的温暖な地域に多いことから、これは野外活動により浴びる紫外線から[[網膜]]を保護するために加齢とともに[[水晶体]]が黄変して、青色のような短波長の感度が低下し、実際に区別が困難になるためであるとする学説もある (lens-brunescence hypothesis)<ref>{{cite journal|author=D. T. Lindsey and A. M. Brown|title=Color Naming and the Phototoxic Effects of Sunlight on the Eye|journal=Psychological Science|volume=13|pages=506&ndash;512|year=2002}}</ref>。現代でも高齢者は[[白内障]]による視界の黄変化により白と黄色、青と黒、緑と青などの区別が困難となる。
言語ごとの色の分節の食い違いは、最も一般的には色の分け方に[[物理学]]的な根拠がなく、[[フェルディナン・ド・ソシュール|ソシュール]][[言語学]]が主張するように最終的にはそれが[[文化]]によって分節されていることによる<ref>{{Cite book|和書|author=鈴木孝夫|authorlink=鈴木孝夫|title=ことばと文化|series=[[岩波新書]]}}</ref>。しかし、グルー言語が熱帯をはじめ比較的温暖な地域に多いことから、これは野外活動により浴びる[[紫外線]]から[[網膜]]を保護するために加齢とともに[[水晶体]]が黄変して、青色のような短波長の感度が低下し、実際に区別が困難になるためであるとする学説もある (lens-brunescence hypothesis)<ref>{{Cite journal|author=D. T. Lindsey and A. M. Brown|title=Color Naming and the Phototoxic Effects of Sunlight on the Eye|journal=Psychological Science|volume=13|pages=506&ndash;512|year=2002}}</ref>。現代でも高齢者は[[白内障]]による視界の黄変化により白と黄色、青と黒、緑と青などの区別が困難となる。
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=== 手術用敷布が緑である理由 ===
=== 手術用敷布が緑である理由 ===
医療機関では、手術の際に緑色もしくは青色の手術着や敷布を使用する。血の赤色を長時間凝視し続けると補色残像という色の錯覚を引き起こし、赤の補色である青緑色の残像が視界全体に生じて手術の妨げになるため、赤の補色を多用することで補色残像の影響を緩和する効果を利用している<ref>宮本サナエいろ色なお話: 色彩の世界への招待状文芸社2000年、ISBN 4-8355-0727-4、pp.31-32</ref>。
[[医療機関]]では、[[手術]]の際に緑色もしくは青色の手術着や敷布を使用する。[[液|血]]の赤色を長時間凝視し続けると[[残像効果#補色残像|補色残像]]という色の錯覚を引き起こし、赤の補色である青緑色の残像が視界全体に生じて手術の妨げになるため、赤の補色を多用することで補色残像の影響を緩和する効果を利用している<ref>{{Cite book|和書|author=宮本サナエ|title=いろ色なお話: 色彩の世界への招待状|publisher=[[文芸社]]|year=2000|isbn=4-8355-0727-4|pages=31-32}}</ref>。


== 近似色 ==
== 近似色 ==
* [[黄色]]
* [[ライムグリーン]]
* [[黄緑]]
* [[黄緑]]
* [[青緑]]
* [[青緑]]
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== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
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{{Reflist}}
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{{Reflist|2}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
{{参照方法|date=2021年5月|section=1}}
* 『顔料の事典』 伊藤 征司郎(編集) 朝倉書店 2000/10 ISBN 4254252439 ISBN 978-4254252439
* {{Cite book|和書|title=顔料の事典|editor=伊藤 征司郎|publisher=[[朝倉書店]]|date=2000/10|isbn=4-254-25243-9}}
* 『絵具の科学』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社 1994/5(新装普及版) ISBN 480550286x
* 絵具材料ハンドブック』 ホルベイン工業技術部中央公論美術出版社 1997/4(新装普及版) ISBN 4805502878
* {{Cite book|和書|title=絵具の科学|edition=新装普及版|author=ホルベイン工業技術部|authorlink=ホルベイン工業|publisher=[[中央公論美術出版]]|date=1994/5|isbn=4-8055-0286-X}}
* {{Cite book|和書|title=絵具材料ハンドブック|edition=新装普及版|editor=ホルベイン工業技術部|publisher=中央公論美術出版|date=1997/4|isbn=4-8055-0287-8}}
* カラー版 絵画表現のしくみ―技法と画材の小百科森田 恒之監修 森田 恒之ほか執筆 美術出版社 2000.3 ISBN 4568300533
* {{Cite book|和書|title=カラー版 絵画表現のしくみ―技法と画材の小百科|author1=森田恒之監修|authorlink1=森田恒之|author2=森田恒之ほか執筆|publisher=美術出版社|date=2000/3|isbn=4-568-30053-3}}
* 絵画材料事典ラザフォード・J・ゲッテンス・ジョージ・L・スタウト森田恒之美術出版社 1999/6 ISBN 4254252439
* {{Cite book|和書|title=絵画材料事典|author=ラザフォード・J・ゲッテンス・ジョージ・L・スタウト|translator=森田恒之|publisher=美術出版社|date=1999/6|isbn=4-254-25243-9}}
* 近江源太郎・監修色々な色光琳社出版 1996年 ISBN 4771302324
* {{Cite book|和書|author=近江源太郎・監修|title=色々な色|publisher=光琳社出版|year=1996|isbn=4-7713-0232-4}}
* 清野恒介・島森功色名事典[[新紀元社]]2005年7月。ISBN 4-7753-0384-8
* {{Cite book|和書|author=清野恒介・島森功|title=色名事典|publisher=[[新紀元社]]|date=2005年7月|isbn=4-7753-0384-8}}
* 永田泰弘・監修新版 色の手帖[[小学館]] 2002年 ISBN 4095040025
* {{Cite book|和書|author=永田泰弘・監修|title=新版 色の手帖|publisher=[[小学館]]|year=2002|isbn=4-09-504002-5}}
* 福田邦夫・著 『色の名前はどこからきたか青娥書房 1999年 ISBN 4790601803
* {{Cite book|和書|author=福田邦夫|title=色の名前はどこからきたか|publisher=青娥書房|year=1999|isbn=4-7906-0180-3}}
* 福田邦夫・著 『色の名前507』主婦の友社 2006年 ISBN 4072485403
* {{Cite book|和書|author=福田邦夫|title=色の名前507|publisher=[[主婦の友社]]|year=2006|isbn=4-07-248540-3}}
* 藤井健三・監修京の色事典330[[平凡社]] 2004年 ISBN 4582634125
* {{Cite book|和書|author=藤井健三・監修|title=京の色事典330|publisher=[[平凡社]]|year=2004|isbn=4-582-63412-5}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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* [[色名一覧]]
* [[色名一覧]]
* [[日本の色の一覧]]
* [[日本の色の一覧]]
* {{Prefix}}
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2024年11月8日 (金) 13:10時点における最新版

緑色の

みどり
 
16進表記 #008000
RGB (0, 128, 0)
CMYK (50, 0, 50, 0)
HSV (120°, 50%, 100%)
マンセル値 2.5G 6.5/10
出典 HTML/CSS[1]

(みどり、)またはグリーン英語: green)は、可視光スペクトル色黄色青緑の間にある。500-570 nm の波長がおよそ緑の色相である。植物のような色。緑色(リョクショク、みどりいろ)は同義語

緑は、光の三原色の一つである。RGBカラーモデルでは原色であり、CMYKカラーモデルではシアンイエローの混色によってつくられる。緑はエヴァルト・ヘリングが提唱した反対色説におけるユニーク色相のひとつでもあり、心理四原色(・緑・)のひとつでもある。なお、緑は赤の補色であるとされる。

緑は(緑色の、特に新緑のころの)、新・若葉、植物一般、転じて森林自然などを指す語としても用いられる。

また、緑は寒暖のどちらにも感じられる色であり、中性色に分類される。

緑という色名

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グリーン
green
 
16進表記 #00B16B
RGB (0, 177, 107)
CMYK (82, 0, 80, 0)
HSV (156°, 100%, 69%)
マンセル値 2.5G 5.5/10
表示されている色は一例です
(みどり)
 
16進表記 #00793D

緑に相当する色はかなり広範に及ぶ色の総称であるが、それぞれの色には多く「柳色」や「モスグリーン」などの固有の色名が付いている。より黄色に近い色は黄緑として、より青に近い色は青緑として総称されることも多い。英語グリーン (green) をはじめ欧米人が感じる対応する色名は、日本人にとっての緑よりも明るく鮮やかな色である傾向がある。緑はまた漢字でとも表記されるが、この場合やや青みの強い色を表すことが多く、比較的藍緑色に近い色合いである。翠は本来、カワセミの羽根の色を指す名前である。詩的な、あるいは文語的な表現として、の深く青い色や艶やかな黒髪の色を表すのに「緑」を使うことがある。

語源

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「みどり」という語が登場するのは平安時代になってからであるが、これは本来「瑞々しさ」を表す意味[2]現在でも[いつ?]「みどりの黒髪」「嬰児(みどりご)」などの用法が残っている)であったらしい。それが転じて新芽の色を示すようになったと言われる[誰によって?]。英語のグリーンも「」 (grass) や「育つ」 (grow) と語源を同じくすると言われ[誰によって?]、いずれにしても新鮮さのイメージを喚起する色である。

光源色としての緑

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green (webcolor)
  16進表記 #008000
lime (webcolor)
  16進表記 #00FF00

(green) は光の三原色のひとつである。ウェブブラウザ等で green と名前で指定もできるが、その色はRGB#008000 であり純色ではない[1]。純色(原色)の緑の名前は lime で、そちらであれば #00FF00 となる[1]。具体的には「明るい緑」に近い色として感じられる色が表示される。

緑の光源は、色合いとしては日常的に目にする緑色よりも明るく鮮やかに感じられる。

JIS規格としての緑

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JIS慣用色名
  マンセル値 2.5G 6.5/10
グリーンJIS慣用色名
  マンセル値 2.5G 5.5/10

日本産業規格 (JIS) の規格では、緑およびグリーンがそれぞれ定義されている。この両者の色は、微妙に異なる色として定義されている。

色彩科学における緑

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国際照明委員会 (CIE) はCIE1931RGB表色系において、546.1 nm の波長の単色光を緑 (G) の原刺激と定めた。ただし、原刺激の種類は等色実験において研究者が自由に定めることができるものであり、必ずしも人々がもっとも赤、緑、青に感じる色光を選択してはいない点に注意が必要である。G(緑)の原刺激 546.1 nmとB(青)の原刺激 435.8 nm は、1931年当時すでに普及していた水銀灯の出す2波長であり、分離して入手しやすい明るい光であるという理由で選択されたにすぎない[3]

緑の色料

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天然に大量に存在する緑色は葉緑素で、化学的にはポルフィリン構造(ポルフィリン環)と呼ばれる特殊な有機構造を持つ分子の中心に金属元素(マグネシウム)を配位している。よく似た構造の鮮明な緑色顔料としてはフタロシアニングリーンがある。着色材料用途のポルフィリン系以外のピロール系化合物としてはジケトピロロピロールがあり、橙色からにかけての重要な顔料である。

古くから顔料として使われたのは孔雀石の粉末で、銅の錆(緑青)と同じく塩基性炭酸銅を主成分とする。無機顔料では有害性の低いビリジアン酸化クロム酸化クロム緑)がよく使われる。ピーコックと呼ばれるセラミック顔料も緑色無機顔料である。

緑色無機顔料

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緑土

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緑土は海緑石灰緑石からなる。これら鉱物は水酸化鉄水酸化マグネシウム硅酸アルミニウム[要検証]カリウムなどからなる。硅酸錯塩[要検証]と同様緑土の組成は様々である。色合いは鈍い黄緑色から淡緑灰色のものまで様々ある。このように発色する原因は2価の鉄(第一鉄)にあるが、大半の鉄は3価の鉄(第二鉄)として存在している。緑土は透明性が高く、着色力は強くない。イタリアの画家が好んでテンペラにおいて下層に用いた。太古よりヨーロッパで使用されてきた顔料で、比較的広範囲において産出するが、良質の顔料用途になるものの産地は限られる。

銅系緑色顔料

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岩緑青 Mountain Green
岩緑青・マウンテン グリーンはマラカイト (Malachite)、つまり天然の塩基性炭酸銅で、組成式は Cu2(CO3)(OH)2 で、世界中に産する孔雀石の粉末である。最も古くから知られた鮮明な緑色顔料であると考えられている。今日では使用頻度は高くないが、日本画ではいまだ重要な位置にある。岩緑青の古名は青丹(物理的に青色と丹色の物質を混合すると緑青色になるが、そういう意味ではない)。
ベルデグリ Verdigris
ベルデグリは二塩基性酢酸銅である。酢酸臭を伴う緑青色の粉末である。中心製造地は、かつてフランス南部のモンペリエ周辺にあった。銅系顔料の内では反応性が高く、水に一部溶解し、酸には溶解する。加熱すると分解してCuO酸化銅が残る。硫黄を含む顔料と反応すると黒変する。アントワーヌ・ヴァトーは硫黄系顔料であるウルトラマリンと混合して用いたようであるが、色合いを鮮明なまま残しているというように、この理屈に反する事例も知られている。D.V.トンプソン[要曖昧さ回避]はイタリア初期風景画において愛用された顔料であるが黒変した事例が数多いとしている。ファンエイクグリーン (Van Eyck Green) と強い関係がある。場合によっては炭酸銅黄銅青銅から出来る青若しくは緑の錆を指す。Colour Index Generic Name, Pigment Green 20。
ファンエイクグリーン Van Eyck Green
ヤン・ファン・エイクによる緑の解釈(アルノルフィーニ夫妻像、1434年)
13世紀から14世紀末にかけて、装飾写本にしばしば見受けられる特徴的な緑がある。それは、油を含んでいるような外観を呈し、顕微鏡で観察しても銅塩の結晶は見えないが、銅を含んでいる。断面や脆弱性から、バインダーが樹脂質であると判断される。希塩酸には溶解する。これを研究したA.P.ローリーはこれをファン エイク グリーンと呼んだ。ファン エイクの作品の多くで使用されている。テオドール・ド・マイエルヌの文献がこれを記述した最古のものとして知られる。銅塩と純粋なバルサムとで絵具を作ると青緑色になるので、これより黄味の、暖かみのある緑は、ケルシトロンレーキサフランガンボージ英語版などを添加することによって顕色したとの説をローリーは提出している。この色は、樹脂系バインダーの保護力が高いために保存状態の良いものが多い。
シェーレ緑 Sheele's Green
シェーレ緑は酸性亜ヒ酸銅で、組成式は CuHAsO3 で、1778年カール・ヴィルヘルム・シェーレが初めて合成した、合成緑色顔料の嚆矢である。品質はそれ程高くなかったので、これに続くエメラルド緑に直ちに取って代わられる。硫黄や硫化物、鉛に触れると黒変し、酸では分解する。黄緑色を呈するがすぐさま褪色現象が現れる。毒性は極めて高い。18世紀から19世紀初頭には絵画にも使用されたとされている。Colour Index Generic Name, Pigment Green 22。
エメラルド緑 Emerald Green
エメラルド緑はアセト亜ヒ酸銅で、組成式は Cu(C2H3O2)3⋅Cu(AsO2)2 で、1814年にドイツシュヴァインフルトで初めて合成された。かなり鮮明な緑色無機顔料で、亜鉛緑ともコバルトクロム緑とも全く異なる。硫黄を含む空気や物質で黒変する。や温アルカリで分解される。毒性が高いことから、パリグリーンと呼ばれ殺虫剤に使用された。油性の媒材 (Binder) で用いた場合の耐久性は高い。絵画における使用例は少なく、ド ヴェルトの報告では1例のみである。中国の古銅器の緑青のイミテーションとしての使用がある。Colour Index Generic Name, Pigment Green 21。

コバルト系緑色顔料

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亜鉛緑/コバルト緑 Zinc Green / Cobalt Green
亜鉛緑・コバルト緑は亜鉛コバルトの酸化物固溶体。1780年にドイツ人のリンマンによって発見された。A.P.ローリーによれば、最初に文献に登場するのは1835年である。コバルトの亜鉛に対する比率は僅かであり、コバルトと亜鉛の比率を多少変えても色合いは殆ど変化しない。耐光性が高く、濃酸には侵されるがアルカリには侵されない。加えて、かなりの高温でも影響を受けない。しかしながら、不透明な無機顔料としては透明性が高く、彩度もそれほど高くないのに高価であるため、美術家には喜ばれていない。マグネシウムを添加したものは暗緑色であり、そうでないものは淡い青緑色になる。Colour Index Generic Name, Pigment Green 19。
チタンコバルト緑 Cobalt Titanate Green
チタンとコバルトの酸化物固溶体。亜鉛やニッケルが加えられて製品化されたものも多く流通している。Colour Index Generic Name, Pigment Green 50。
コバルトクロム緑 Cobalt Chromium Green
コバルトとクロムアルミニウムの酸化物固溶体。堅牢性は極めて高く、絵画技法をはじめ、耐熱性を要求される分野、例えば窯業に至る広い用途を持っている。Colour Index Generic Name, Pigment Green 26。類縁の顔料にコバルトクロム青がある。これはクロム含有量が少ないコバルトクロム緑である。

クロム系緑色顔料

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酸化クロム緑 Chromium Oxide Green
酸化クロム緑は酸化クロムで、組成式は Cr2O3。最も安定した緑色顔料である。不透明で、硬度が高い。ヴォークランは1809年に陶器釉薬への使用を提出している。美術家用絵具に採用されたのは1862年頃である。Colour Index Generic Name, Pigment Green 17。Chromium Oxide Green Brilliant は後述の含水酸化クロムを指す。
ビリジアン Viridian
ビリジアンは含水酸化クロムで、組成式は Cr2O3⋅2H2O で表す場合がある。含水量は約40%。ヨーロッパで製造されている伝統的なやや不透明で明るいエメラルドグリーンを呈するもの、これより不透明だが不鮮明なもの、透明性が高く色感に乏しいものなど、様々ある。1838年にフランス人のパンヌティエが発見したが、1859年にギネーが特許を公告させ普及した。このため、ギネーの緑とも呼ばれる。鮮明な青味のある緑を呈する、耐光性の高い顔料である。Colour Index Generic Name, Pigment Green 18。

緑色有機顔料

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レーキ顔料でない純然たる有機顔料で、緑色のものの種類はそれほど豊富ではない。フタロシアニンの普及に伴い、緑色顔料の生産は大きく変化したと言える。

フタロシアニン

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フタロシアニングリーンG

葉緑素に似た化学構造を持つフタロシアニンは1933年、ICI(インペリアル ケミカル インダストリーズ)社のリンステッドたちがフタロシアニンと命名、1935年に工業化され、モナストラルブルーの名で商品顔料になった。アメリカでは、1936年に別の名で取引が始まる。鮮明で着色力が非常に強く、プロシア青の倍程の着色力がある。フタロシアニン緑はフタロシアニン青に続いて開発され、塩素化銅フタロシアニンは1838年に商品化された。Colour Index Generic Name には Pigment Green 7、臭素化塩素化フタロシアニンの Pigment Green 36、臭素化塩素化亜鉛フタロシアニンの Pigment Green 58 が記載されている。液晶テレビを含む液晶ディスプレイカラーフィルタの緑には、構成要素として Pigment Green 36 が使われている。

緑のほかに、緑青・ターコイズを呈する無金属フタロシアニン、鮮明な緑気味の青であるフタロシアニン青がある。いずれも化学的に安定な構造で、比較的安価に大量生産されている。

ペリレン

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ペリレンテトラカルボン酸二無水物
Pigment Red 224

ペリレン顔料は、ペリレンテトラカルボン酸二無水物英語版の六員環を構成している酸素原子2個を脱落させた構造を有する顔料である。赤から紫、そして、緑(但し黒い緑)といった幅広い色相を持つ顔料グループであり、一般に着色力、堅牢性に優れる。緑色のペリレン顔料である Pigment Black 31 は、緑味を呈する黒色顔料であるが、色相は濃度バインダーなどの条件により相違する。

緑色染料および緑色レーキ顔料

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緑色の染料およびレーキ顔料についてはここで述べる。顔料の世界では、アゾメチン前駆体、特にイミンを構造中に有する顔料をアゾメチン顔料と称する。

クロウメモドキ科の熟成した液果から抽出することが可能な緑色成分があり、これが本来の「サップグリーン」である。サップグリーンは、今日では専ら名称として残る。色素としてラムネチンエモジンを含んでいる。

アントラキノン

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エモジン
アントラキノン

前述のように、クロウメモドキ科の熟成した液果から抽出可能な成分のエモジンは、アントラキノン染料に数えられる。

フラボン

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ラムネチン
フラボン

前述のように、クロウメモドキ科の熟成した液果から抽出可能な成分のラムネチンは、フラボン染料に数えられる。

アゾメチン

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ナフトールグリーン

アゾメチン系の緑色顔料としては、緑色のニトロソ染料のナフトールグリーンBのレーキ顔料 (Pigment Green 8) がある。印象的な深い緑を呈する。堅牢であるが、耐水性にやや劣るところがある。

マラカイトグリーン

マラカイトグリーンは、カルボニウム系の塩基性染料である。このレーキは、安価な水性絵具などにも用いられる。

複合による緑色

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現在使われている緑は、黄と青の物質を混合したものや併用したもの、黄と青緑の物質を混合したものや併用したものが多い。例としてカドミウム黄とウルトラマリンブルー、フタロシアニン緑、若しくはビリジアンの混合物であるカドミウムグリーン、かつて代表的だった例として黄鉛紺青の混合物であるクロムグリーンがある。

これらは顔料を混合しただけのものを用いるものあれば、共沈顔料と呼ばれる、複数の顔料を組み合わせた顔料を用いる場合もある。

緑に関する事項

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緑をさす「青」

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青信号
青野菜の一例(ほうれん草

古代日本語の固有の色名は、アカクロシロアヲの四語のみだったとの説が存在する[2]。緑が色名として明確に扱われてこなかったため、現在緑色と言われる色そのものは日本語では「青」によって表現されてきた。例えば、

  • 「青々とした葉っぱ」「青野菜」など。
  • 「青信号」: 本来、「進んで好い」を意味する信号灯は緑色である。現在では青緑色が増えているが、旧い信号機では純粋な緑色や黄緑色が使われることもある。船舶の右および航空機の右主翼先端に付いている緑色の灯火(航行灯)も、青信号と同じような意味合いを持つが、こちらは「緑灯」と呼ばれている[4]
  • 「青二才」など:おそらく[独自研究?]果実の熟し具合からの転用で、「幼い」「若い」「未熟である」ことを英語では "green", スペイン語やポルトガル語でも "verde" と緑色を指す語で表しているが、日本では「青い」という。

少なくとも過去において緑色と青色を明確に切り分けなかった言語は日本語に限らず非常に多く、東アジア漢字文化圏東南アジアインドアフリカマヤ語などの中南米の言語にみられる。緑色 (green) と青色 (blue) とを分節しない語彙を表すため、しばしば言語学者はグルー (grue) という語を使用しており、こうした言語はグルー言語とも呼ばれる。さらに、このような言語では黒色とも区別されず、いわば「暗い色」として表されることがあり、これは特に赤道直下の言語に多い[5]

言語ごとの色の分節の食い違いは、最も一般的には色の分け方に物理学的な根拠がなく、ソシュール言語学が主張するように最終的にはそれが文化によって分節されていることによる[6]。しかし、グルー言語が熱帯をはじめ比較的温暖な地域に多いことから、これは野外活動により浴びる紫外線から網膜を保護するために加齢とともに水晶体が黄変して、青色のような短波長の感度が低下し、実際に区別が困難になるためであるとする学説もある (lens-brunescence hypothesis)[7]。現代でも高齢者は白内障による視界の黄変化により白と黄色、青と黒、緑と青などの区別が困難となる。

手術用敷布が緑である理由

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医療機関では、手術の際に緑色もしくは青色の手術着や敷布を使用する。の赤色を長時間凝視し続けると補色残像という色の錯覚を引き起こし、赤の補色である青緑色の残像が視界全体に生じて手術の妨げになるため、赤の補色を多用することで補色残像の影響を緩和する効果を利用している[8]

近似色

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脚注

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  1. ^ a b c CSS Color Module Level 3” (英語). World Wide Web Consortium (2022年1月18日). 2024年11月8日閲覧。
  2. ^ a b 新村出 編『広辞苑 第五版』岩波書店、1998年11月。ISBN 4-00-080112-0 
  3. ^ 池田光男『色彩工学の基礎』朝倉書店、1980年、55-56頁。ISBN 9784254210125 
  4. ^ 左側通行・右側通行”. 自衛隊鹿児島地方協力本部. 2018年2月4日閲覧。[リンク切れ]
  5. ^ Paul Kay and Luisa Maffi. “Feature/Chapter 134: Green and Blue”. The World Atlas of Language Structures Online, WALS. 2009年12月25日閲覧。
  6. ^ 鈴木孝夫『ことばと文化』〈岩波新書〉。 
  7. ^ D. T. Lindsey and A. M. Brown (2002). “Color Naming and the Phototoxic Effects of Sunlight on the Eye”. Psychological Science 13: 506–512. 
  8. ^ 宮本サナエ『いろ色なお話: 色彩の世界への招待状』文芸社、2000年、31-32頁。ISBN 4-8355-0727-4 

参考文献

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関連項目

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