「日本救急システム」の版間の差分
編集の要約なし |
|||
(3人の利用者による、間の11版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
{{基礎情報 会社 |
{{基礎情報 会社 |
||
| 社名 = 日本救急システム |
| 社名 = 日本救急システム株式会社 |
||
| 英文社名 = Japan Emergency Medical System Co.Ltd.(JEMS) |
| 英文社名 = Japan Emergency Medical System Co.Ltd.(JEMS) |
||
| 画像 = Misato_Kitago_Branch_Miyazaki_Japan.jpg |
| 画像 = Misato_Kitago_Branch_Miyazaki_Japan.jpg |
||
17行目: | 17行目: | ||
}} |
}} |
||
'''日本救急システム'''(にほんきゅうきゅうシステム)は[[宮崎県]][[東臼杵郡]][[美郷町 (宮崎県)|美郷町]]にある[[株式会社]]。[[消防本部#消防常備消防未設置町村| |
'''日本救急システム株式会社'''(にほんきゅうきゅうシステム)は[[宮崎県]][[東臼杵郡]][[美郷町 (宮崎県)|美郷町]]にある[[株式会社]]。[[消防本部#消防常備消防未設置町村|常備消防未設置]]の2町(宮崎県東臼杵郡美郷町・[[徳島県]][[勝浦郡]][[勝浦町]])における救急救命業務の民間委託および、[[救急救命士]]育成のための教材開発を主要業務としている。 |
||
この項では、日本初となる救急救命業務の民間委託までの流れ、および美郷町・勝浦町の救急態勢についても解説する。 |
|||
== 概要 == |
== 概要 == |
||
2016年現在、非常備消防町村は29町村([[消防本部#消防常備消防未設置町村]]を参照)あり、消防業務は[[消防団]]が行う。([[消防組織法]]第9条により、[[消防本部]]・[[消防署]]・[[消防団]]の全部もしくは一部を設置しなければならない、とされている。)その一方で、救急業務は町村役場が引き受ける、いわゆる「[[役場救急]]」となっている。[[消防庁|総務省消防庁]]の調査では2015年現在で役場救急を実施していた31町村のうち、ほとんどの町村が役場対応であり、民間委託は2町村(役場職員が対応できない時間に警備会社職員が医師・看護師とともに対応するケース、タクシー会社に搬送を委託するケース)だけであった<ref name=":0">{{Cite web|url=http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h27/zinkougensyou_arikata/02/shiryo-3.pdf|title=消防非常備市町村における役場救急 (概要)|accessdate=2019-3-16|publisher=総務省消防庁|format=PDF}}</ref>。また、役場救急では[[救急救命士]]資格がなくても従事可能であるが、医療行為はできない。(なお、救急救命士資格を持った職員が同乗すれば通常の救急業務と同等の医療行為が可能である。)<ref name=":0" /> |
|||
[[国士舘大学]]大学院救急システム研究科の助手として後進の指導に当たっていた創業者の[[白川透]]は、救命士がいない自治体があることに衝撃を受け、2014年夏に美郷町を視察。「消防と救急は必ずしもセットでなくていいのでは」との思いを強め、救急に特化した事業を着想した<ref name=":2">{{Cite news|title=全国初、美郷町で自治体救急業務を請け負う「日本救急システム」社長 白川 透(しらかわとおる)さん|date=2015-5-16|newspaper=宮崎日日新聞|accessdate=2019-3-16|url=http://www.the-miyanichi.co.jp/hito/_14425.html|archivedate=2019-3-16|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315153422/http://www.the-miyanichi.co.jp/hito/_14425.html}}</ref>。これには「自治体(消防本部)採用に漏れた教え子(救急救命士)たちが(救急救命士とは)全く別の道を選ばざるを得ない現状」を見てきた白川が「救命士の新しい受け皿になる可能性」を見出したものでもあった<ref name=":2" />。 |
|||
=== 消防機関のない地方自治体の救急救命業務の現状 === |
|||
白川は、自身の会社である「救急教育出版」の事業を拡大する形で美郷町に業務委託を申し出た<ref name=":1">{{Cite news|title=移住救命士、山里に息吹 救急業務民間委託、宮崎・美郷町へ若者8人|date=2016-10-20|newspaper=西日本新聞|accessdate=2019-3-16|url=https://www.nishinippon.co.jp/feature/i_live_here/article/219596/|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315150505/https://www.nishinippon.co.jp/feature/i_live_here/article/219596/|archivedate=2019-3-16}}</ref>。美郷町によれば、「町民の安心以外にも創業支援や都会から若者を呼ぶ狙いがあった」としており、白川の提案を承諾した<ref name=":1" />。美郷町とで度重なる協議を行い、日本初の試みとして救急救命業務の民間委託という新しい救急システムを構築した<ref>{{Cite web|url=http://www.jems.co.jp/wp/qq-inf02/|title=救急救命業務事業|accessdate=2019-3-16|publisher=日本救急システム}}</ref>。国士舘大学のOBで構成された日本救急システム所属の救急救命士8名は業務委託に伴い、美郷町に移住した<ref name=":1" />。美郷町から日本救急システムへ支払われる救急事業の運営委託費の多くは[[地方創生交付金]]で賄われている<ref name=":1" />。 |
|||
{{See also|役場救急}} |
|||
[[地方公共団体]]の中には、人口・財政上の問題、自治体立地の状況等により消防本部を設置したり、消防組合に参加したり、他地方公共団体の消防本部に消防業務を委託していない団体がある。(常備消防非接地市町村と呼び、2019年4月現在、0市7町22村の計29団体が該当する<ref name=":5">{{Cite web|url=https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000462574.pdf|title=消防機関以外に属する救急救命士の利活用の現状 救急救命士業務の質向上と担保のあり方 地域の消防との連携について(第10回救急・災害医療提供体 制等の在り方に関する検討会 資料5)|accessdate=2019-3-22|publisher=厚生労働省|format=PDF|author=田中秀治|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190322101821/https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000462574.pdf|archivedate=2019-3-22}}</ref>。)[[消防組織法]]第9条により、「地方公共団体は[[消防本部]]・[[消防署]]・[[消防団]]の全部もしくは一部を設置しなければならない」とされている為、非常備消防町村では、消防団のみを保有し、消防業務を行っている。その一方で、救急業務は町村役場が引き受けるいわゆる「[[役場救急]]」が19町村、役場に属する診療所職員が引き受ける「診療所救急」が5町村で行われている<ref name=":5" /><ref name=":0">{{Cite web|url=http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h27/zinkougensyou_arikata/02/shiryo-3.pdf|title=消防非常備市町村における役場救急 (概要)|accessdate=2019-3-16|publisher=総務省消防庁|format=PDF|deadlinkdate=2019-3-22}}</ref><ref name=":6">{{Cite journal|author=白川透|year=2017|date=2017-3-28|title=へき地で働く民間救急救命士としての生き方|url=https://web.archive.org/web/20190322111411/https://www.kokushikan.ac.jp/research/DPEMS/publication/pdf/journal_03.pdf|journal=国士舘 防災・救急救助総合研究|volume=3|pages=86-89|publisher=国士舘大学防災・救急救助総合研究所|accessdate=2019-3-22}}</ref>。 |
|||
役場救急では一般的に[[救急救命士]]資格がなくても従事可能であるが、一部を除く救急救命行為・特定行為はできない。そのため、役場救急ではほとんどが緊急走行による患者の搬送がメインである。(なお、医師や看護師、救急救命士が同乗すれば通常の救急業務と同等の[[医療行為]](救急救命行為・特定行為)が可能である。(詳細は後述の[[日本救急システム#救命救急業務の民間委託を行うための根拠法]]参照。))<ref name=":0" /> |
|||
このシステムを視察した勝浦町も2017年4月、同社に委託し、救急救命士7名が勝浦町に移住した<ref>{{Cite news|title=「消防空白」…宮崎・鹿児島など29町村 救急業務、民間委託で活路|date=2018-1-11|newspaper=産経新聞|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315150940/https://www.sankei.com/region/news/180111/rgn1801110014-n1.html|archivedate=2019-3-19|url=https://www.sankei.com/region/news/180111/rgn1801110014-n1.html|accessdate=2019-3-19}}</ref><ref name=":3">{{Cite news|title=徳島・勝浦町の救急委託1年 救命士配置で搬送先柔軟に|date=2018-5-12|newspaper=徳島新聞|url=https://www.topics.or.jp/articles/-/46000|accessdate=2019-3-16|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315151839/https://www.topics.or.jp/articles/-/46000|archivedate=2019-3-16}}</ref>。勝浦町は[[地域再生計画]]「「みかんが香り 笑顔あふれる げんきなまちかつうら」安全安心まちづくり事業」において日本救急システムの誘致・救急救命事業整備が明記された<ref>{{Cite web|url=http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/tiikisaisei/dai39nintei/plan/a568.pdf|title=地域再生計画 「みかんが香り 笑顔あふれる げんきなまちかつうら」安全安心まちづくり事業|accessdate=2019-1-16|publisher=首相官邸|format=PDF}}</ref>。勝浦町では、救急救命士と、救急搬送(救急車運転)を行う臨時職員がセットで対応している<ref name=":3" />。 |
|||
=== 救急救命業務の民間委託化 === |
|||
また、[[宮崎大学医学部附属病院|宮崎大学医学部付属病院救急救命センター]]の[[ドクターカー]]運転の業務委託(社員を出向)も行っている<ref name=":4">{{Cite web|url=http://www.jems.co.jp/wp/info/doctorcar/|title=宮崎大学医学部附属病院との出向協定書締結のお知らせ|accessdate=2019-3-16|publisher=日本救急システム|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315160052/http://www.jems.co.jp/wp/info/doctorcar/|archivedate=2019-3-16}}</ref>。 |
|||
※詳細は後述の[[日本救急システム#救命救急業務の民間委託・事業化までの経緯]]を参照 |
|||
日本救急システムでは、日本初となる地方公共団体の救急救命業務の民間委託企業として2015年6月より宮崎県美郷町の救急救命業務の民間委託を開始し、町所有の救急車に救急救命士が乗り込んで医療行為しつつ緊急搬送を行う事業を開始した<ref name=":2" /><ref name=":7" /><ref name=":1" />。この実績もあり、2017年4月より徳島県勝浦町での救急救命事業を開始している<ref name=":3" />。救急搬送に当たっては、消防機関による救急搬送と同様、料金は発生しない<ref name=":8">「消防署のない町で広がりつつある“民間の救急救命士”の取り組み」 - [[MBSテレビ]]「[[ちちんぷいぷい (テレビ番組)|ちちんぷいぷい]]」内『辻憲の「コレだけ」ニュース』</ref>。 |
|||
日本救急システムでは、救急教育出版時代の事業である救急救命士育成のための書籍出版・スマートフォンアプリ開発のほか、救急救命士国家試験対策模試事業も継続している<ref name=":1" />。 |
|||
なお、日本救急システムの前身である救急教育出版はアプリケーションを用いた救命救急士教材の開発を主力としていたが、事業拡大を目指し、2014年に現社名に変更した<ref name=":9">{{Cite web|url=http://www.jems.co.jp/wp/name_change/|title=社名変更のお知らせ|accessdate=2019-3-22|publisher=日本救急システム|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190322104650/http://www.jems.co.jp/wp/name_change/|archivedate=2019-3-22}}</ref>。 |
|||
== 沿革 == |
== 沿革 == |
||
出典表記がない場合、一次資料<ref name=":10">{{Cite web|url=http://www.jems.co.jp/wp/infomation/|title=企業概要|accessdate=2019-3-22|publisher=日本救急システム|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190322105526/http://www.jems.co.jp/wp/infomation/|archivedate=2019-3-22}}</ref>等による。 |
|||
* |
*[[2013年]](平成25年)[[8月28日]] - 「救急教育出版」創業。 |
||
* |
*[[2014年]](平成26年) |
||
**8月 - 白川ら国士舘大学関係者が美郷町を視察<ref name=":2" />。 |
|||
* [[2015年]](平成27年) |
|||
**時期不明 - 救急教育出版の本社を東京から宮崎県美郷町に移転<ref name=":1" />。 |
|||
** [[4月20日]] - 美郷町と救急救命業務委託契約書を締結。 |
|||
** |
**[[10月20日]] - 「救急教育出版」を「日本救急システム」に改称。 |
||
* |
*[[2015年]](平成27年) |
||
** |
**[[4月20日]] - 美郷町と救急救命業務委託契約書を締結。 |
||
**[[6月1日]] - 美郷町北郷での救急救命業務委託を開始<ref name=":5" /><ref name=":11">{{Cite web|url=http://www.mkk.or.jp/furusato/heisei30nendo/2018Miyazaki_Hyoushousaki.pdf|title=宮崎銀行ふるさと振興助成事業 宮崎地区平成30年度 第37回 助成先決まる|accessdate=2019-3-22|publisher=一般財団法人 みやぎん経済研究所|format=PDF|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190322103613/http://www.mkk.or.jp/furusato/heisei30nendo/2018Miyazaki_Hyoushousaki.pdf|archivedate=2019-3-22}}</ref>。 |
|||
*[[2016年]](平成28年) |
|||
**[[2月15日]] - 徳島県勝浦町との覚書を締結<ref name=":16">{{Cite news|title=勝浦町、救急業務を民間委託 救命士7人を配置へ|date=2016-2-16|newspaper=徳島新聞|url=https://www.topics.or.jp/articles/-/9506|accessdate=2019-4-20|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190420142521/https://www.topics.or.jp/articles/-/9506|archivedate=2019-4-20|agency=徳島新聞社}}</ref>。 |
|||
**4月 - 美郷町南郷での救急救命業務を開始<ref name=":11" />。 |
|||
*[[2017年]](平成29年) |
|||
**[[4月1日]] - 徳島支社設置。勝浦町での救急救命業務委託を開始<ref name=":3" /><ref name=":5" />。 |
|||
** 12月 - 救急救命事業の民間委託に際し、美郷町が「地方自治法施行70周年記念 総務大臣表彰」を受ける<ref>{{Cite web|url=http://www.jems.co.jp/wp/info/soumudaijin/|title=宮崎県美郷町:総務大臣表彰を頂きました!!|accessdate=2019-3-16|publisher=日本救急システム|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315160406/http://www.jems.co.jp/wp/info/soumudaijin/|archivedate=2019-3-16}}</ref>。 |
** 12月 - 救急救命事業の民間委託に際し、美郷町が「地方自治法施行70周年記念 総務大臣表彰」を受ける<ref>{{Cite web|url=http://www.jems.co.jp/wp/info/soumudaijin/|title=宮崎県美郷町:総務大臣表彰を頂きました!!|accessdate=2019-3-16|publisher=日本救急システム|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315160406/http://www.jems.co.jp/wp/info/soumudaijin/|archivedate=2019-3-16}}</ref>。 |
||
* |
*[[2018年]](平成30年) |
||
** |
** 4月 - 美郷町西郷での救急救命業務を開始<ref name=":11" />。 |
||
** |
**[[4月2日]] - 宮崎大学医学附属病院救急救命センターのドクターカー運転委託事業を開始<ref name=":4">{{Cite web|url=http://www.jems.co.jp/wp/info/doctorcar/|title=宮崎大学医学部附属病院との出向協定書締結のお知らせ|accessdate=2019-3-16|publisher=日本救急システム|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315160052/http://www.jems.co.jp/wp/info/doctorcar/|archivedate=2019-3-16}}</ref>。 |
||
**[[11月30日]] - [[明治国際医療大学]]との包括協定を締結<ref>{{Cite web|url=https://www.meiji-u.ac.jp/topics/detail/224|title=日本救急システム株式会社と産学間の包括協定を締結しました。|accessdate=2019-3-16|publisher=明治国際医療大学|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315153053/https://www.meiji-u.ac.jp/topics/detail/224|archivedate=2019-3-16}}</ref>。 |
|||
* [[2019年]](平成31年/令和元年) |
|||
**[[1月25日]] - 平成30年度第37回 [[宮崎銀行]]ふるさと振興助成事業 地域創生部門の助成を受ける<ref>{{Cite web|url=http://www.jems.co.jp/wp/info/20190125/|title=宮崎銀行ふるさと振興助成事業の助成先に選んでいただきました。|accessdate=2019-3-22|publisher=日本救急システム|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190322102446/http://www.jems.co.jp/wp/info/20190125/|archivedate=2019-3-22}}</ref><ref name=":11" />。 |
|||
**4月1日 - 明治国際医療大学の教員として救急救命士資格を持つ社員1名を出向。 |
|||
== |
== 事業内容 == |
||
=== 主要事業 === |
|||
* 救急救命業務事業 - 宮崎県美郷町・徳島県勝浦町の救急救命業務を委託。 |
|||
* 救急救命士国家試験対策模試事業 |
|||
* 救急救命業務事業 - 宮崎県美郷町・徳島県勝浦町の救急救命業務を委託<ref name=":12" />。 |
|||
* アプリ開発 |
|||
* 救急救命士国家試験対策模試事業<ref name=":13">{{Cite web|url=http://www.jems.co.jp/wp/product/national_exam/|title=救命救急士国試対策模試事業|accessdate=2019-3-22|publisher=日本救急システム|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190322110017/http://www.jems.co.jp/wp/product/national_exam/|archivedate=2019-3-22}}</ref> |
|||
* アプリケーション開発<ref>{{Cite web|url=http://www.jems.co.jp/wp/product/appliall/|title=アプリ開発事業|accessdate=2019-3-22|publisher=日本救急システム|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190322105029/http://www.jems.co.jp/wp/product/appliall/|archivedate=2019-3-22}}</ref> |
|||
前身となる救急教育出版時代の事業である救急救命士育成のための書籍出版・スマートフォンアプリ開発のほか、救急救命士国家試験対策模試事業も継続している<ref name=":1" />。 |
|||
==== 主なアプリ ==== |
|||
* 救命救急士国試クイズ<ref name=":13" /> |
|||
* 救命救急士数値クイズ<ref name=":13" /> |
|||
* 救命救急士二択クイズ<ref name=":13" /> |
|||
=== その他の事業 === |
|||
* 大学機関への救急救命士派遣 |
|||
**2018年より[[宮崎大学医学部附属病院|宮崎大学医学部付属病院救急救命センター]]の[[ドクターカー]]運転の業務委託(救命救急士を出向)を行っている<ref name=":4" /><ref name=":14">{{Cite web|url=http://www.miyazaki-qq.jp/meeting/pdf/abstract52.pdf|title=第52回宮崎救急医学会 プログラム・抄録集|accessdate=2019-3-22|publisher=宮崎救急医学会|format=PDF|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190322110524/http://www.miyazaki-qq.jp/meeting/pdf/abstract52.pdf|archivedate=2019-3-22|date=2018-8-25}}</ref>。これにより、医師・看護師だけでなくドクターカー運転手も医療者(救急救命士)となるため、最大5名の医療スタッフが現場へ急行することが可能になった<ref name=":14" />。 |
|||
**2019年より、包括協定を結ぶ[[明治国際医療大学]]へ救急救命士資格を持つ職員を教員として出向。 |
|||
== 事業所 == |
== 事業所 == |
||
一次資料<ref name=":10" />による。 |
|||
* 本社:宮崎県東臼杵郡美郷町北郷宇納間401(美郷町役場北郷支所内) |
* 本社:宮崎県東臼杵郡美郷町北郷宇納間401(美郷町役場北郷支所内) |
||
61行目: | 94行目: | ||
* 徳島支社:徳島県勝浦郡勝浦町大字棚野字前田25番地2 |
* 徳島支社:徳島県勝浦郡勝浦町大字棚野字前田25番地2 |
||
** 勝浦救急事業部(勝浦救急隊):徳島県勝浦郡勝浦町久国字国光27-10 |
** 勝浦救急事業部(勝浦救急隊):徳島県勝浦郡勝浦町久国字国光27-10 |
||
== 救命救急業務の民間委託・事業化までの経緯 == |
|||
{{See also|救急救命士#救急救命士の現状}} |
|||
=== 「私の実家のある村には救急車がありません」 === |
|||
創業者の[[白川透]]は[[国士舘大学]]・同大学院を卒業、修士の学位を得て救急システム研究科の助手として後進の指導に当たりながら、2013年に「救急教育出版」を創業した<ref name=":1" /><ref name=":9" />。2014年5月、白川は進路相談中の宮崎県出身学生から「私の実家のある村には救急車がありません。実家のある村で救急救命士としてなにか役に立ちたいと思っているのですが、どうしたらいいでしょうか。」という相談を受け、「そんな馬鹿な話があるのか。この日本という先進国で救急車のない自治体なんてあるのか。」救急救命士・救急車がいない自治体があることに衝撃を受けた<ref name=":2" /><ref name=":15">{{Cite web|url=https://kokushisupoi.jimdo.com/%E3%81%82%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%AE%E4%BB%8A-%E5%8D%92%E6%A5%AD%E7%94%9F%E3%81%AE%E5%A3%B0/no-11-%E7%99%BD%E5%B7%9D%E9%80%8F-5%E6%9C%9F%E7%94%9F/|title=No.11 白川 透(しらかわ とおる)スポ医5期卒 日本救急システム株式会社 代表取締役 「救急救命士が活きる社会を目指して」|accessdate=2019-3-22|publisher=国士舘大学体育学部スポーツ医科学科同窓会|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190322101443/https://kokushisupoi.jimdo.com/%E3%81%82%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%AE%E4%BB%8A-%E5%8D%92%E6%A5%AD%E7%94%9F%E3%81%AE%E5%A3%B0/no-11-%E7%99%BD%E5%B7%9D%E9%80%8F-5%E6%9C%9F%E7%94%9F/|archivedate=2019-3-22}}</ref>。 |
|||
=== 宮崎県美郷町への視察・美郷町の現状 === |
|||
2014年8月に、常備消防未設置市町村の一つである宮崎県美郷町を当時の助手や大学院生などと共に視察<ref name=":2" /><ref name=":15" />。美郷町は緊急搬送のみの「役場救急」を行っていたこと(美郷町の危機管理担当によると、昼間は役場職員が、閉庁後は警備会社職員が対応していた<ref name=":8" />。白川の聞き取りによれば、美郷町の役場救急では「心肺停止の傷病者に心肺蘇生法をせずに担架搬送」をしていたり」、「交通事故の時、バック ボード固定をせずに担架搬送していたり」していた<ref name=":6" />。)、高齢化に伴う職員不足・救急要請の増加による役場救急を担う役場職員のストレスや住民の不安があること<ref name=":8" /><ref name=":6" />、財政的な理由で消防の常備化ができないこと<ref group="注">出典内のMBSテレビの報道によれば、「消防署の新設には、建物やシステム導入などの初期投資に5億円から10億円。人件費などの維持費に年間2億円から3億円はかかる」とされる。また、白川の報告によると「[[横浜市]]と同等の面積(449[[km²]])の地域に、人口が5,347人。[[高齢化率]]が42.7%と宮崎県内で最大であるため」と指摘している。</ref>を知った<ref name=":15" />。 |
|||
美郷町では、救急出場件数は年間250件程度ではある一方、火災件数は年間1件程度であったため<ref name=":15" />、「消防と救急は必ずしもセットでなくていいのでは」、「消防は消防団に任せ、救急だけプロ化したら予算がかからないのでは」との思いを強め、救急に特化した事業を着想した<ref name=":15" /><ref name=":2">{{Cite news|title=全国初、美郷町で自治体救急業務を請け負う「日本救急システム」社長 白川 透(しらかわとおる)さん|date=2015-5-16|newspaper=宮崎日日新聞|accessdate=2019-3-16|url=http://www.the-miyanichi.co.jp/hito/_14425.html|archivedate=2019-3-16|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315153422/http://www.the-miyanichi.co.jp/hito/_14425.html}}</ref>。これには「自治体(消防本部)採用に漏れた教え子(救急救命士)たちが(救急救命士とは)全く別の道を選ばざるを得ない現状」を見てきた白川が「この事業が成功すれば救急救命士の新しい受け皿になる可能性」を見出したものでもあった<ref name=":2" /><ref name=":15" /><ref name=":8" />。 |
|||
=== 日本初の救命救急業務の民間委託 === |
|||
白川は、自身の会社である「救急教育出版」の事業を拡大する形で美郷町に業務委託を申し出た<ref name=":1">{{Cite news|title=移住救命士、山里に息吹 救急業務民間委託、宮崎・美郷町へ若者8人|date=2016-10-20|newspaper=西日本新聞|accessdate=2019-3-16|url=https://www.nishinippon.co.jp/feature/i_live_here/article/219596/|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315150505/https://www.nishinippon.co.jp/feature/i_live_here/article/219596/|archivedate=2019-3-16}}</ref>。美郷町によれば、「町民の安心以外にも創業支援や都会から若者を呼ぶ狙いがあった」としており、白川の提案を承諾した<ref name=":1" />。国や宮崎県、美郷町等と度重なる協議や人員確保を行い、日本初の試みとして救急救命業務の民間委託、すなわち消防機関に属さない救急救命士による救急搬送という新しい救急システムを構築した<ref name=":12">{{Cite web|url=http://www.jems.co.jp/wp/qq-inf02/|title=救急救命業務事業|accessdate=2019-3-16|publisher=日本救急システム|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190322102240/http://www.jems.co.jp/wp/qq-inf02/|archivedate=2019-3-22}}</ref><ref name=":6" />。現在の白川は国士舘大学大学院の助手を辞し、日本救急システム代表取締役社長に専念した<ref name=":15" />。 |
|||
=== 徳島県勝浦町での救命救急業務の民間委託へ === |
|||
勝浦町では2014年から広域行政での常備消防の実現を目指して勉強会などを開いているが、常備消防設立にめどが立っていない<ref name=":16" />。その一方で年間280件の救急要請を搬送のみの役場救急で対応していた<ref name=":16" />。このため人命にかかわる救急業務の充実を急ぎ、2015年に美郷町の救急救命システムを視察した<ref name=":16" />。そして、日本救急システムへの委託を決めた<ref name=":16" />。[[地域再生計画]]「「みかんが香り 笑顔あふれる げんきなまちかつうら」安全安心まちづくり事業」において日本救急システムの誘致・救急救命事業整備が明記され、2016年2月に覚書を締結。2017年4月に同町の救急救命業務を日本救急システムに委託した<ref name=":3" /><ref name=":7" />。 |
|||
勝浦町では日本救急システムへの救急委託を行いつつも、常備消防の設置に向けて引き続き模索している<ref name=":16" />。 |
|||
<br /> |
|||
== 救急救命事業委託自治体の救急救命システムの構築 == |
|||
=== 宮崎県美郷町 === |
|||
国士舘大学のOBで構成された日本救急システム所属の救急救命士8名は美郷町での業務に伴い、同町に移住した<ref name=":1" />。平成30年1月現在、16名の救急救命士が美郷町に移住し、勤務している<ref name=":11" />。美郷町役場・支所の一部を詰所として活用し<ref group="注">役場・支所は合併前の3村の庁舎であり、それの一部を間借りして運用している。</ref>、救急車は役場の駐車場に待機してある<ref name=":10" /><ref name=":8" />。 |
|||
美郷町から日本救急システムへ支払われる救急事業の運営委託費の多くは[[地方創生交付金]]で賄われている<ref name=":1" />。平成30年度の運営費は約1億円と、消防署の維持費用の約三分の一に抑えられている<ref name=":8" />。 |
|||
出動に当たっては救急救命士2名+救急車を運転する町職員2名(役場業務の時間外は、役場の警備業務を委託している[[綜合警備保障]]の警備員からなる「ALSOK搬送隊」)の4名が出動し、緊急走行による救急搬送ないし、[[宮崎大学医学部附属病院]]への[[ドクターヘリ]]搬送依頼を行う<ref name=":5" />。また、救急出動の事後検証を町独自の[[メディカルコントロール]](MC)で行うため<ref name=":5" />(宮崎県のMC協議会には不参加)病院選定を行っていない<ref name=":17">{{Cite web|url=https://www.pref.ehime.jp/h10800/gyoukakukoushien2018/documents/katsuura-syousai.pdf|title=行革甲子園2018 エントリーシート04(勝浦町)|accessdate=2019-4-28|publisher=愛媛県|format=PDF|archivedate=2019-4-28|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190428134433/https://www.pref.ehime.jp/h10800/gyoukakukoushien2018/documents/katsuura-syousai.pdf}}</ref>。また、救急救命士資格維持のための病院研修を宮崎大学医学部附属病院救急救命センターで行っている<ref name=":5" />。このほかにも町内における救急教育等を実施している<ref>{{Cite web|url=https://cms.miyazaki-c.ed.jp/1665/htdocs/index.php?key=jox14k73x-197|title=救命救急法講習|accessdate=2019-3-22|publisher=美郷町立美郷北学園|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190322102614/https://cms.miyazaki-c.ed.jp/1665/htdocs/index.php?key=jox14k73x-197|archivedate=2019-3-22|date=2018-5-24}}</ref>。 |
|||
=== 徳島県勝浦町 === |
|||
2017年4月の徳島支社の業務開始に伴い、救急救命士7名(うち5名は美郷町での業務経験者<ref name=":17" />)が勝浦町に移住した<ref name=":7">{{Cite news|title=「消防空白」…宮崎・鹿児島など29町村 救急業務、民間委託で活路|date=2018-1-11|newspaper=産経新聞|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315150940/https://www.sankei.com/region/news/180111/rgn1801110014-n1.html|archivedate=2019-3-19|url=https://www.sankei.com/region/news/180111/rgn1801110014-n1.html|accessdate=2019-3-19}}</ref><ref name=":3">{{Cite news|title=徳島・勝浦町の救急委託1年 救命士配置で搬送先柔軟に|date=2018-5-12|newspaper=徳島新聞|url=https://www.topics.or.jp/articles/-/46000|accessdate=2019-3-16|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190315151839/https://www.topics.or.jp/articles/-/46000|archivedate=2019-3-16}}</ref>。勝浦町では、救急救命士と救急搬送(救急車運転)を行う臨時職員がセットで対応している<ref name=":3" />。徳島支社では独自の試みを行い、日本初となる[[気管挿管]]が可能な民間救急救命士の配備に加え<ref name=":17" />、徳島県MC協議会が徳島支社を、可能な限り消防本部と同等に扱っているため、救急救命士がドクターヘリやドクターカーを要請できるよう体制を構築した<ref name=":17" />。2016年度にはゼロだったドクターカーおよびドクターヘリの勝浦町への派遣が2018年度は19件となった<ref>{{Cite news|title=救急隊員ゼロ、住民が救急車で搬送・到着遅く|date=2019-2-17|newspaper=読売新聞|url=https://www.yomiuri.co.jp/national/20190217-OYT1T50142/|accessdate=2019-3-30|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190330122312/https://www.yomiuri.co.jp/national/20190217-OYT1T50142/|archivedate=2019-3-30}}</ref>。 |
|||
徳島支社では徳島県MC協議会・徳島救急医療教育研究会に参加しているため、受け入れ可能であれば徳島県内の他の医療機関に搬入できるという<ref name=":17" />。また、救急出動の事後検証を徳島県の他消防機関と同一水準で行っている<ref name=":17" />。また、所属している救急救命士は資格維持のための病院研修を徳島赤十字病院で実施している<ref name=":5" />。 |
|||
== 救命救急業務の民間委託を行うための根拠法 == |
|||
日本救急システムなどの民間所属の救急救命士、すなわち消防機関に属さない救急救命士による救命救急行為の根拠法ならびにその法解釈として、厚生労働省は以下のように提示している<ref name=":5" />。その一方で、現状の[[消防法]]などの法令や、それを解釈した[https://www1.g-reiki.net/city.kobe/reiki_honbun/k302RG00001395.html#l000000000 救急業務規程](平成19年3月27日消訓令第16号) では消防本部の救急業務ありきで構成されているため、民間の救急救命士に関する定義はなく、またグレーゾーンが多いという<ref name=":17" />。 |
|||
* 日本救急システムによる「救命救急業務」は[[消防法]]第二条第九項に基づく、消防機関が行う「救急業務」には該当しない。<ref name=":5" /> |
|||
* 民間企業所属の救急救命士による「救急救命処置」は[[救急救命士法]]第四十四条第二項に基づき活動している(地方公共団体が管理・運行している[[救急車]]([[緊急自動車]])に同乗して活動を行っているため)<ref name=":5" />。 |
|||
* 救急救命士は所属機関や搬送能力による救急救命行為の制限を受けない(救急救命士法第二条一項)<ref name=":5" />。 |
|||
* (使用する車両は)必要な構造・設備があれば必ずしも緊急自動車の認可を受けた救急車を意味するものではない(救急救命士法第四条二項、救急救命士法施行規則第二十二条)<ref name=":5" />。 |
|||
* 救急救命士が処置可能な場所とは、患者発生地点から救急用自動車で医療機関に到着するまでを意味しており、 消防に属さない救急救命士であっても当該傷病者の発生から救急用自動車内または、病院、診療所へ搬送し、到着して医師に引き継ぐまでの間に救急救命処置・特定行為を実施できる<ref name=":5" />。(救急救命士法第四十四条第二項) |
|||
== 脚注 == |
== 脚注 == |
||
<references /> |
|||
=== 出典 === |
|||
{{Reflist}} |
|||
=== 注釈 === |
|||
<references group="注" /><br /> |
|||
== 参考文献 == |
|||
* 救急医学2018年10月号 - へるす出版 |
|||
*[https://www1.g-reiki.net/city.kobe/reiki_honbun/k302RG00001395.html#l000000000 救急業務規程](平成19年3月27日消訓令第16号) |
|||
== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
2019年4月28日 (日) 14:09時点における版
本社・宮崎支社の入る美郷町役場北郷支所 | |
種類 | 株式会社 |
---|---|
市場情報 | 非上場 |
本社所在地 |
889-0901 宮崎県東臼杵郡美郷町北郷宇納間401 美郷町役場北郷支所内 |
設立 | 2013年8月28日 |
業種 | 救急救命業務委託・救急救命士育成教材開発 |
法人番号 | 5013401007145 |
代表者 | 白川 透 |
資本金 | 100万円 |
従業員数 | 26人 |
外部リンク | http://www.jems.co.jp/wp/ |
特記事項:2014年10月20日 株式会社救急教育出版より商号を変更 |
日本救急システム株式会社(にほんきゅうきゅうシステム)は宮崎県東臼杵郡美郷町にある株式会社。常備消防未設置の2町(宮崎県東臼杵郡美郷町・徳島県勝浦郡勝浦町)における救急救命業務の民間委託および、救急救命士育成のための教材開発を主要業務としている。
この項では、日本初となる救急救命業務の民間委託までの流れ、および美郷町・勝浦町の救急態勢についても解説する。
概要
消防機関のない地方自治体の救急救命業務の現状
地方公共団体の中には、人口・財政上の問題、自治体立地の状況等により消防本部を設置したり、消防組合に参加したり、他地方公共団体の消防本部に消防業務を委託していない団体がある。(常備消防非接地市町村と呼び、2019年4月現在、0市7町22村の計29団体が該当する[1]。)消防組織法第9条により、「地方公共団体は消防本部・消防署・消防団の全部もしくは一部を設置しなければならない」とされている為、非常備消防町村では、消防団のみを保有し、消防業務を行っている。その一方で、救急業務は町村役場が引き受けるいわゆる「役場救急」が19町村、役場に属する診療所職員が引き受ける「診療所救急」が5町村で行われている[1][2][3]。
役場救急では一般的に救急救命士資格がなくても従事可能であるが、一部を除く救急救命行為・特定行為はできない。そのため、役場救急ではほとんどが緊急走行による患者の搬送がメインである。(なお、医師や看護師、救急救命士が同乗すれば通常の救急業務と同等の医療行為(救急救命行為・特定行為)が可能である。(詳細は後述の日本救急システム#救命救急業務の民間委託を行うための根拠法参照。))[2]
救急救命業務の民間委託化
※詳細は後述の日本救急システム#救命救急業務の民間委託・事業化までの経緯を参照
日本救急システムでは、日本初となる地方公共団体の救急救命業務の民間委託企業として2015年6月より宮崎県美郷町の救急救命業務の民間委託を開始し、町所有の救急車に救急救命士が乗り込んで医療行為しつつ緊急搬送を行う事業を開始した[4][5][6]。この実績もあり、2017年4月より徳島県勝浦町での救急救命事業を開始している[7]。救急搬送に当たっては、消防機関による救急搬送と同様、料金は発生しない[8]。
なお、日本救急システムの前身である救急教育出版はアプリケーションを用いた救命救急士教材の開発を主力としていたが、事業拡大を目指し、2014年に現社名に変更した[9]。
沿革
出典表記がない場合、一次資料[10]等による。
- 2013年(平成25年)8月28日 - 「救急教育出版」創業。
- 2014年(平成26年)
- 2015年(平成27年)
- 2016年(平成28年)
- 2017年(平成29年)
- 2018年(平成30年)
- 2019年(平成31年/令和元年)
事業内容
主要事業
前身となる救急教育出版時代の事業である救急救命士育成のための書籍出版・スマートフォンアプリ開発のほか、救急救命士国家試験対策模試事業も継続している[6]。
主なアプリ
その他の事業
- 大学機関への救急救命士派遣
事業所
一次資料[10]による。
- 本社:宮崎県東臼杵郡美郷町北郷宇納間401(美郷町役場北郷支所内)
- 宮崎支社:宮崎県東臼杵郡美郷町北郷宇納間401(美郷町役場北郷支所内)
- 徳島支社:徳島県勝浦郡勝浦町大字棚野字前田25番地2
- 勝浦救急事業部(勝浦救急隊):徳島県勝浦郡勝浦町久国字国光27-10
救命救急業務の民間委託・事業化までの経緯
「私の実家のある村には救急車がありません」
創業者の白川透は国士舘大学・同大学院を卒業、修士の学位を得て救急システム研究科の助手として後進の指導に当たりながら、2013年に「救急教育出版」を創業した[6][9]。2014年5月、白川は進路相談中の宮崎県出身学生から「私の実家のある村には救急車がありません。実家のある村で救急救命士としてなにか役に立ちたいと思っているのですが、どうしたらいいでしょうか。」という相談を受け、「そんな馬鹿な話があるのか。この日本という先進国で救急車のない自治体なんてあるのか。」救急救命士・救急車がいない自治体があることに衝撃を受けた[4][21]。
宮崎県美郷町への視察・美郷町の現状
2014年8月に、常備消防未設置市町村の一つである宮崎県美郷町を当時の助手や大学院生などと共に視察[4][21]。美郷町は緊急搬送のみの「役場救急」を行っていたこと(美郷町の危機管理担当によると、昼間は役場職員が、閉庁後は警備会社職員が対応していた[8]。白川の聞き取りによれば、美郷町の役場救急では「心肺停止の傷病者に心肺蘇生法をせずに担架搬送」をしていたり」、「交通事故の時、バック ボード固定をせずに担架搬送していたり」していた[3]。)、高齢化に伴う職員不足・救急要請の増加による役場救急を担う役場職員のストレスや住民の不安があること[8][3]、財政的な理由で消防の常備化ができないこと[注 1]を知った[21]。
美郷町では、救急出場件数は年間250件程度ではある一方、火災件数は年間1件程度であったため[21]、「消防と救急は必ずしもセットでなくていいのでは」、「消防は消防団に任せ、救急だけプロ化したら予算がかからないのでは」との思いを強め、救急に特化した事業を着想した[21][4]。これには「自治体(消防本部)採用に漏れた教え子(救急救命士)たちが(救急救命士とは)全く別の道を選ばざるを得ない現状」を見てきた白川が「この事業が成功すれば救急救命士の新しい受け皿になる可能性」を見出したものでもあった[4][21][8]。
日本初の救命救急業務の民間委託
白川は、自身の会社である「救急教育出版」の事業を拡大する形で美郷町に業務委託を申し出た[6]。美郷町によれば、「町民の安心以外にも創業支援や都会から若者を呼ぶ狙いがあった」としており、白川の提案を承諾した[6]。国や宮崎県、美郷町等と度重なる協議や人員確保を行い、日本初の試みとして救急救命業務の民間委託、すなわち消防機関に属さない救急救命士による救急搬送という新しい救急システムを構築した[17][3]。現在の白川は国士舘大学大学院の助手を辞し、日本救急システム代表取締役社長に専念した[21]。
徳島県勝浦町での救命救急業務の民間委託へ
勝浦町では2014年から広域行政での常備消防の実現を目指して勉強会などを開いているが、常備消防設立にめどが立っていない[12]。その一方で年間280件の救急要請を搬送のみの役場救急で対応していた[12]。このため人命にかかわる救急業務の充実を急ぎ、2015年に美郷町の救急救命システムを視察した[12]。そして、日本救急システムへの委託を決めた[12]。地域再生計画「「みかんが香り 笑顔あふれる げんきなまちかつうら」安全安心まちづくり事業」において日本救急システムの誘致・救急救命事業整備が明記され、2016年2月に覚書を締結。2017年4月に同町の救急救命業務を日本救急システムに委託した[7][5]。
勝浦町では日本救急システムへの救急委託を行いつつも、常備消防の設置に向けて引き続き模索している[12]。
救急救命事業委託自治体の救急救命システムの構築
宮崎県美郷町
国士舘大学のOBで構成された日本救急システム所属の救急救命士8名は美郷町での業務に伴い、同町に移住した[6]。平成30年1月現在、16名の救急救命士が美郷町に移住し、勤務している[11]。美郷町役場・支所の一部を詰所として活用し[注 2]、救急車は役場の駐車場に待機してある[10][8]。
美郷町から日本救急システムへ支払われる救急事業の運営委託費の多くは地方創生交付金で賄われている[6]。平成30年度の運営費は約1億円と、消防署の維持費用の約三分の一に抑えられている[8]。
出動に当たっては救急救命士2名+救急車を運転する町職員2名(役場業務の時間外は、役場の警備業務を委託している綜合警備保障の警備員からなる「ALSOK搬送隊」)の4名が出動し、緊急走行による救急搬送ないし、宮崎大学医学部附属病院へのドクターヘリ搬送依頼を行う[1]。また、救急出動の事後検証を町独自のメディカルコントロール(MC)で行うため[1](宮崎県のMC協議会には不参加)病院選定を行っていない[22]。また、救急救命士資格維持のための病院研修を宮崎大学医学部附属病院救急救命センターで行っている[1]。このほかにも町内における救急教育等を実施している[23]。
徳島県勝浦町
2017年4月の徳島支社の業務開始に伴い、救急救命士7名(うち5名は美郷町での業務経験者[22])が勝浦町に移住した[5][7]。勝浦町では、救急救命士と救急搬送(救急車運転)を行う臨時職員がセットで対応している[7]。徳島支社では独自の試みを行い、日本初となる気管挿管が可能な民間救急救命士の配備に加え[22]、徳島県MC協議会が徳島支社を、可能な限り消防本部と同等に扱っているため、救急救命士がドクターヘリやドクターカーを要請できるよう体制を構築した[22]。2016年度にはゼロだったドクターカーおよびドクターヘリの勝浦町への派遣が2018年度は19件となった[24]。
徳島支社では徳島県MC協議会・徳島救急医療教育研究会に参加しているため、受け入れ可能であれば徳島県内の他の医療機関に搬入できるという[22]。また、救急出動の事後検証を徳島県の他消防機関と同一水準で行っている[22]。また、所属している救急救命士は資格維持のための病院研修を徳島赤十字病院で実施している[1]。
救命救急業務の民間委託を行うための根拠法
日本救急システムなどの民間所属の救急救命士、すなわち消防機関に属さない救急救命士による救命救急行為の根拠法ならびにその法解釈として、厚生労働省は以下のように提示している[1]。その一方で、現状の消防法などの法令や、それを解釈した救急業務規程(平成19年3月27日消訓令第16号) では消防本部の救急業務ありきで構成されているため、民間の救急救命士に関する定義はなく、またグレーゾーンが多いという[22]。
- 日本救急システムによる「救命救急業務」は消防法第二条第九項に基づく、消防機関が行う「救急業務」には該当しない。[1]
- 民間企業所属の救急救命士による「救急救命処置」は救急救命士法第四十四条第二項に基づき活動している(地方公共団体が管理・運行している救急車(緊急自動車)に同乗して活動を行っているため)[1]。
- 救急救命士は所属機関や搬送能力による救急救命行為の制限を受けない(救急救命士法第二条一項)[1]。
- (使用する車両は)必要な構造・設備があれば必ずしも緊急自動車の認可を受けた救急車を意味するものではない(救急救命士法第四条二項、救急救命士法施行規則第二十二条)[1]。
- 救急救命士が処置可能な場所とは、患者発生地点から救急用自動車で医療機関に到着するまでを意味しており、 消防に属さない救急救命士であっても当該傷病者の発生から救急用自動車内または、病院、診療所へ搬送し、到着して医師に引き継ぐまでの間に救急救命処置・特定行為を実施できる[1]。(救急救命士法第四十四条第二項)
脚注
出典
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 田中秀治. “消防機関以外に属する救急救命士の利活用の現状 救急救命士業務の質向上と担保のあり方 地域の消防との連携について(第10回救急・災害医療提供体 制等の在り方に関する検討会 資料5)” (PDF). 厚生労働省. 2019年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。
- ^ a b “消防非常備市町村における役場救急 (概要)” (PDF). 総務省消防庁. 2019年3月16日閲覧。
- ^ a b c d 白川透 (2017-3-28). “へき地で働く民間救急救命士としての生き方”. 国士舘 防災・救急救助総合研究 (国士舘大学防災・救急救助総合研究所) 3: 86-89 2019年3月22日閲覧。.
- ^ a b c d e f “全国初、美郷町で自治体救急業務を請け負う「日本救急システム」社長 白川 透(しらかわとおる)さん”. 宮崎日日新聞. (2015年5月16日). オリジナルの2019年3月16日時点におけるアーカイブ。 2019年3月16日閲覧。
- ^ a b c “「消防空白」…宮崎・鹿児島など29町村 救急業務、民間委託で活路”. 産経新聞. (2018年1月11日). オリジナルの2019年3月19日時点におけるアーカイブ。 2019年3月19日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “移住救命士、山里に息吹 救急業務民間委託、宮崎・美郷町へ若者8人”. 西日本新聞. (2016年10月20日). オリジナルの2019年3月16日時点におけるアーカイブ。 2019年3月16日閲覧。
- ^ a b c d e “徳島・勝浦町の救急委託1年 救命士配置で搬送先柔軟に”. 徳島新聞. (2018年5月12日). オリジナルの2019年3月16日時点におけるアーカイブ。 2019年3月16日閲覧。
- ^ a b c d e f 「消防署のない町で広がりつつある“民間の救急救命士”の取り組み」 - MBSテレビ「ちちんぷいぷい」内『辻憲の「コレだけ」ニュース』
- ^ a b “社名変更のお知らせ”. 日本救急システム. 2019年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。
- ^ a b c “企業概要”. 日本救急システム. 2019年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。
- ^ a b c d e “宮崎銀行ふるさと振興助成事業 宮崎地区平成30年度 第37回 助成先決まる” (PDF). 一般財団法人 みやぎん経済研究所. 2019年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。
- ^ a b c d e f “勝浦町、救急業務を民間委託 救命士7人を配置へ”. 徳島新聞. 徳島新聞社. (2016年2月16日). オリジナルの2019年4月20日時点におけるアーカイブ。 2019年4月20日閲覧。
- ^ “宮崎県美郷町:総務大臣表彰を頂きました!!”. 日本救急システム. 2019年3月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月16日閲覧。
- ^ a b “宮崎大学医学部附属病院との出向協定書締結のお知らせ”. 日本救急システム. 2019年3月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月16日閲覧。
- ^ “日本救急システム株式会社と産学間の包括協定を締結しました。”. 明治国際医療大学. 2019年3月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月16日閲覧。
- ^ “宮崎銀行ふるさと振興助成事業の助成先に選んでいただきました。”. 日本救急システム. 2019年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。
- ^ a b “救急救命業務事業”. 日本救急システム. 2019年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月16日閲覧。
- ^ a b c d “救命救急士国試対策模試事業”. 日本救急システム. 2019年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。
- ^ “アプリ開発事業”. 日本救急システム. 2019年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。
- ^ a b “第52回宮崎救急医学会 プログラム・抄録集” (PDF). 宮崎救急医学会 (2018年8月25日). 2019年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。
- ^ a b c d e f g “No.11 白川 透(しらかわ とおる)スポ医5期卒 日本救急システム株式会社 代表取締役 「救急救命士が活きる社会を目指して」”. 国士舘大学体育学部スポーツ医科学科同窓会. 2019年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。
- ^ a b c d e f g “行革甲子園2018 エントリーシート04(勝浦町)” (PDF). 愛媛県. 2019年4月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年4月28日閲覧。
- ^ “救命救急法講習”. 美郷町立美郷北学園 (2018年5月24日). 2019年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月22日閲覧。
- ^ “救急隊員ゼロ、住民が救急車で搬送・到着遅く”. 読売新聞. (2019年2月17日). オリジナルの2019年3月30日時点におけるアーカイブ。 2019年3月30日閲覧。
注釈
- ^ 出典内のMBSテレビの報道によれば、「消防署の新設には、建物やシステム導入などの初期投資に5億円から10億円。人件費などの維持費に年間2億円から3億円はかかる」とされる。また、白川の報告によると「横浜市と同等の面積(449km²)の地域に、人口が5,347人。高齢化率が42.7%と宮崎県内で最大であるため」と指摘している。
- ^ 役場・支所は合併前の3村の庁舎であり、それの一部を間借りして運用している。
参考文献
- 救急医学2018年10月号 - へるす出版
- 救急業務規程(平成19年3月27日消訓令第16号)