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'''アーバンシー'''(''Urban Sea''、[[1989年]] - [[2009年]])とは[[アメリカ合衆国|アメリカ]]で生まれ、[[フランス]]で調教を受けた[[競走馬]]である。半弟に[[2000ギニー]]を制した[[キングズベスト]](父[[キングマンボ]])がいる。牝馬でありながら[[凱旋門賞]]を制し、[[繁殖牝馬]]としても優秀な成績を残した。


'''アーバンシー'''(欧字名:{{lang|en|Urban Sea}}、[[1989年]] - [[2009年]])は[[アメリカ合衆国|アメリカ]]生産、[[フランス]]調教の[[競走馬]]。主な勝ち鞍は1993年の[[凱旋門賞]]。引退後に[[繁殖牝馬]]としてG1馬4頭を輩出し、そのうち[[ガリレオ (競走馬)|ガリレオ]]および[[シーザスターズ]]の2頭は[[英ダービー]]に勝利したうえで種牡馬としても大成功をおさめている。
== 戦績 ==
[[1991年]]9月にデビューし、2着。この年の成績は3戦1勝だった。翌年[[リステッド競走]]で2勝を上げたが、重賞タイトルは手に出来なかった。


== 血統背景 ==
[[1993年]]3月にエクスビュリ賞(仏G3)で重賞初制覇を飾る。8月にもG3を勝ち、凱旋門賞へと出走することになったが、G3・2勝の本馬は注目度が低かった。同じ牝馬でも注目を集めたのは[[オークス|英オークス]]含むG1・3勝の{{仮リンク|イントレピディティ|en|Intrepidity}}だったが、13番人気の低評価を覆して見事に優勝、10年振りの牝馬による凱旋門賞制覇となった。このレースは2着にも17番人気の[[ホワイトマズル]]が入る波乱のレースとなった。[[ジャパンカップ]]にも招待されて出走したが、10番人気で8着。
父・[[ミスワキ|Miswaki]]は2歳時に[[フランス|仏]]G1[[サラマンドル賞]]を制し、[[デューハーストステークス]]では[[ストームバード]]の3着に入るなど、仏[[イギリス|英]][[アメリカ|米]]で生涯13戦6勝をあげた{{Sfn|早野|2000|p=218}}。引退後は[[種牡馬]]としてアメリカで供用され、アーバンシーのほかに[[ジャパンカップ]]勝ち馬の[[マーベラスクラウン]]や[[BCクラシック]]勝ち馬の[[ブラックタイアフェアー]]を輩出している{{Sfn|早野|2000|p=218}}。種牡馬としては、スピード系種牡馬である[[ミスタープロスペクター]]直仔としては珍しく芝への適応力の高いステイヤー血統であった{{Sfn|早野|2000|p=218}}{{Sfn|関口|宮崎|2023|p=174}}。


母・Allegrettaは1978年生まれの英国産馬{{Sfn|栗山|2019|p=115}}。[[ドイツ]]の名門牧場・シュレンダーハン牧場が育んだ「Aライン」と呼ばれる牝系の出身であり{{Sfn|栗山|2019|p=115}}、父Lombardは現役時代にドイツ年度代表馬を2度獲得している{{Sfn|石川|1993|p=127}}。[[イギリス]]および[[アメリカ]]で競走馬生活を送り、生涯9戦2勝、英G3・リングフィールドオークストライアルで2着に入るなどの実績を挙げた<ref name="JBIS_Allegretta_戦績"/>{{Sfn|山野|1993|p=64}}。引退後はアメリカの[[ケンタッキー州]]で繁殖牝馬となったもののフランス人生産者へ転売され、アメリカのデナリ牧場に繋養されることになった{{Sfn|山野|1993|p=64}}。そこで1989年2月18日に生まれたのが5番仔・アーバンシーである<ref name="netkeiba_アーバンシー"/>{{Sfn|山野|1993|p=64}}<ref name="JBIS_Allegretta_血統"/>。
[[1994年]]は4月にアルクール賞(仏G2)を勝ったが、その後は勝ち星を上げることなく引退。繁殖牝馬となった。


== 主な勝ち鞍 ==
== 競走馬時代 ==
=== デビュー前 ===
* [[凱旋門賞]](仏G1)
アーバンシーはデナリ牧場で誕生したのちはフランスのエトレアム牧場で過ごし、1歳時(1990年8月{{Sfn|優駿|1993|p=53}}{{Sfn|石川|1993|p=127}})にドーヴィルのセリ市で28万フランで売却された{{Sfn|山野|1993|p=64}}。落札したのは[[日本]]人の画商・沢田正彦だったが購入からまもなくして破産し、アーバンシーは[[香港]]の貿易商デヴィッド・ツィとほか2名に売却された{{Sfn|山野|1993|p=64}}。馬名の意味は「都会の海」であり、[[ヴィクトリア・ピーク]]から臨む海を連想したものであるという{{Sfn|山野|1993|p=64}}。
* アルクール賞(仏G2)
* エクスビュリ賞(仏G3)
* ゴントービロン賞(仏G3)


=== 2歳(1991年)から3歳(1992年) ===
== 繁殖成績 ==
アーバンシーは2歳時にフランスのジャン・レスボルド厩舎からデビューし、2戦目には未勝利戦に勝利するまずまずの滑り出しを見せた{{Sfn|山野|1993|p=64}}。3歳時は[[ロンシャン競馬場]]でラ・セーヌ賞を、[[ドーヴィル競馬場]]でピアジェドール賞{{Refnest|group="注釈"|リステッド競走ながら当時フランスで3番目の高額賞金レースであった{{Sfn|優駿|1993|p=52}}。}}に勝つものの{{Sfn|山野|1993|p=64}}<ref name="equibase_アーバンシー_戦績"/>、重賞では[[ディアヌ賞]]6着、[[ヴェルメイユ賞]]3着など好走こそすれ勝ちきれないレースが続いた{{Sfn|山野|1993|p=64}}。その間にデヴィッド・ツィ以外のオーナーの財政状況が悪化したため、凱旋門賞ウィークにロンシャンで開催されるセリ市に上場されることになった{{Sfn|山野|1993|p=64}}{{Sfn|石川|1993|p=127}}。アーバンシーの才能に光るものを見出していたレスボルド調教師のためにデヴィッドは入札を続け、300万フラン(当時のレートで日本円に換算するとおよそ6000万円{{Sfn|石川|1993|p=127}})もの金額で買い戻したが、3歳時はこのあとも重賞制覇には至らなかった{{Sfn|山野|1993|p=64}}。
[[ダービーステークス|ダービー]]、[[アイリッシュダービー]]、[[キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス]]を制した[[ガリレオ (競走馬)|ガリレオ]]、[[2000ギニー]]、ダービー、[[凱旋門賞]]などG1を6勝した[[シーザスターズ]]、[[イタリア|伊]][[アイルランド|愛]]でG1・2勝の[[ブラックサムベラミー]]などを輩出。[[2009年]][[3月2日]]、[[アイリッシュ・ナショナルスタッド]]でボーントゥシー(父[[インヴィンシブルスピリット]])を出産直後、合併症により死亡した<ref>{{Cite web |url=http://www.racingpost.com/news/bloodstock/outstanding-broodmare-urban-sea-dies/ |title=Three million-dollar lots but sobering statistics at Fasig-Tipton Calder Sale |author= |publisher=Racing Post |accessdate=2009年3月4日 }}</ref><ref>{{Cite web |url=http://www.netkeiba.com/news/?pid=news_view&no=34819&category=C |title=凱旋門賞勝ちの名牝・アーバンシーが死亡 |author= |publisher=netkeiba.com |accessdate=2009年3月4日 }}</ref>。


=== 4歳(1993年)から5歳(1994年)===
生涯で産んだ産駒11頭のうち、G1勝ち馬4頭を含む8頭がステークスウイナーとなり、このうちシーザスターズは[[カルティエ賞]]年度代表馬、ガリレオはカルティエ賞最優秀3歳牡馬を受賞。繁殖牝馬としても成功を収めた。ガリレオは英愛[[リーディングサイアー]]を12回受賞するなど[[種牡馬]]としても大きく活躍したほか、シーザスターズなど他の3頭の産駒もG1勝ち馬を輩出し、アーバンシーの血は世界に広がっている。2018年の凱旋門賞では、上位の1着から8着までがアーバンシーの血を持つ馬で独占された<ref>{{Cite web|url=http://www.jairs.jp/sp/contents/newsprot/2018/39/1.html|title=エネイブルが連覇した凱旋門賞、1着~8着がアーバンシーの子孫|publisher=[[ジャパン・スタッドブック・インターナショナル]]海外競馬ニュース 2018年10月11日|accessdate=2018-10-22}}</ref>。自身の牝系からも2018年のダービーを制した[[マサー]]が出ており、同馬は父の[[ニューアプローチ]]がガリレオ産駒であることから本馬の3×4のインブリードを持っている。
上述の通り3歳時はパッとしない競走成績だったアーバンシーであるが、4歳になると徐々に頭角を表し始める{{Sfn|チボー|2004|p=331}}。3月にG3・[[エクスビュリ賞]]で重賞初制覇を果たし{{Sfn|石川|1993|p=127}}、G2・[[プリンスオブウェールズステークス (イギリス)|プリンス・オブ・ウェールズS]]でクビ差の2着を経て、G3・[[ゴントービロン賞]]で重賞2勝目をあげた{{Sfn|山野|1993|p=64}}。


ゴントービロン賞の制覇後、陣営は[[凱旋門賞]]への出走を決めた{{Sfn|石川|1993|p=127}}。鞍上は[[エリック・サンマルタン]]。エリックはフランスの伝説的騎手[[イヴ・サンマルタン]]の息子であるが、彼自身は当時28歳にもかかわらずそれまで目立った活躍がなく{{Sfn|山野|1993|p=64}}、凱旋門賞への騎乗もこれが初めてである{{Sfn|優駿|1993|p=53}}。なお、直近でアーバンシーの手綱を取ってきた[[キャッシュ・アスムッセン]]は1番人気[[エルナンド (競走馬)|エルナンド]]への騎乗が決まっていた{{Sfn|山野|1993|p=64}}。
=== 産駒一覧 ===

この年の凱旋門賞は確たる本命馬が不在ということで23頭立てであり{{Sfn|石川|1993|pp=126-127}}、そのうち16頭がGI馬であった{{Sfn|優駿|1993|p=51}}。1番人気は[[仏ダービー]]馬エルナンドおよび[[オペラハウス (競走馬)|オペラハウス]]{{Refnest|group="注釈"|同一馬主に所有されているため単勝は一括馬券扱い{{Sfn|石川|1993|p=127}}。}}の4.7倍、次いで[[英オークス]]馬{{仮リンク|イントレピディティ|en|Intrepidity}}の4.9倍、[[愛オークス]]馬{{仮リンク|ウィームズバイト|en|Wemyss Bight}}および[[英セントレジャー]]2着馬アーミジャーの5倍、[[仏オークス]]馬{{仮リンク|シェマカ|en|Shemaka}}の8.8倍と続いた{{Sfn|石川|1993|p=127}}{{Sfn|優駿|1993|p=51}}。本馬はここまで調子をあげてきてはいたものの実績に劣るため評価が低く{{Sfn|優駿|1993|p=52}}{{Sfn|週刊Gallop|1993a|p=99}}、当日は13番人気、最終単勝オッズは38倍であった{{Sfn|平出|2019|p=136}}。当日の天気は晴れだったものの前日までの雨によって馬場状態が渋っており、その指数は4.4であった{{Refnest|group="注釈"|当時のフランスの馬場状態は最も乾いた馬場を1、最も水分量の多い馬場を5として、その範囲内で発表されていた{{Sfn|石川|1993|p=127}}。}}{{Sfn|石川|1993|p=127}}。

レースは前年の[[英オークス]]馬[[ユーザーフレンドリー]]がハナを切って逃げるものの、2ハロン通過時点で単勝139倍のダリューンが先頭に立つめまぐるしい序盤となる{{Sfn|石川|1993|p=127}}。アーバンシーは7,8番手の好位で最内に控えた{{Sfn|石川|1993|p=127}}。その後はスローペースで流れ、4コーナーを過ぎるとレースが動き出す。直線残り300メートル地点で先団についていたオペラハウスが先頭に立つと、内からアーバンシーが、外から[[ホワイトマズル]]がそれぞれ追い込んでくる{{Sfn|優駿|1993|p=52}}{{Sfn|石川|1993|p=127}}。オペラハウス以外の有力馬は極端な重馬場に足を取られて総崩れとなり{{Sfn|優駿|1993|p=52}}、残り200メートル地点になるとオペラハウスに代わってアーバンシーが先頭に立ち、徐々に差を詰めてくるホワイトマズルをクビ差で振り切ったところがゴールであった{{Sfn|石川|1993|p=127}}。アーバンシー自身はもちろん、調教師のレスボルド師、騎手のエリック・サンマルタンの3者いずれもこれがGI初制覇となった{{Sfn|優駿|1993|p=53}}。勝ちタイムは2分37秒30で、これは当時のロンシャン競馬場の芝2400メートルのレコードタイム2分26秒30より11秒も遅い決着となった{{Sfn|石川|1993|p=127}}。1着アーバンシーは前述の通り単勝38倍、2着のホワイトマズルは55倍と人気薄の決着となり{{Sfn|石川|1993|pp=126-127}}、2頭のジュレム・ガニャン(日本における[[馬連]]に相当する)は452.2倍の万馬券となった{{Sfn|石川|1993|p=128}}。

この勝利はフロック視される向きもあり<ref name="jra-van_アーバンシー"/>、優駿は「アーバンシーの快勝に場内騒然」{{Sfn|優駿|1993|p=52}}、週刊Gallopは「番狂わせ勝ち」{{Sfn|週刊Gallop|1993a|p=99}}、ギイ・チボーは「驚愕の凱旋門賞」{{Sfn|チボー|2004|p=331}}などと評している。石川ワタルは騎手の乗り方の巧みさに触れつつも、「非常に時計のかかる馬場状態になったこと」が勝因のひとつであろうと述べている{{Sfn|石川|1993|p=127}}。高橋源一郎はこの勝利について「今年の凱旋門賞はゴチャゴチャしたレース」だと述べ、アーバンシーだけは不利を受けなかったこともあり、ホワイトマズルが一番強い競馬をしていたと評している{{Sfn|週刊ポスト|1993|p=206}}。

陣営は凱旋門賞の勝利後、予備登録をしている[[ジャパンカップ]]への出走を表明して参戦した{{Sfn|石田|1994|p=18}}{{Sfn|優駿|1993|p=54}}。凱旋門賞を経たアーバンシーの馬体はよく言えば「絞られた」、悪く言えば「ガレた」状態であり{{Sfn|石田|1994|p=18}}、鈴木淑子は「アーバンシーは、これが凱旋門賞馬? と思うくらい見かけには"?"が付きました」と評している{{Sfn|週刊ポスト|1993|p=206}}。この年のジャパンカップは「前年にひけをとらない豪華なメンバー」{{Sfn|江面|2021|p=265}}、「掛け値なしに史上最高のメンバ―」{{Sfn|週刊Gallop|1994|p=108}}と評され、アーバンシーは単勝10番人気で[[レガシーワールド]]の8着に終わった<ref name="netkeiba_アーバンシー"/>。

5歳時は緒戦のG2・[[アルクール賞]]に勝利するも、その後は勝ち星をあげることなく引退した<ref name="jra-van_アーバンシー"/>。生涯戦績は24戦8勝であった<ref name="jra-van_アーバンシー"/>。

=== 競走馬としての評価 ===
栗山求はアーバンシーの能力について「スピードには欠けるが底力、スタミナ、道悪適性に秀でている」と{{Sfn|栗山|2019|p=115}}、山野浩一は「ほとんどやや重よりも悪い馬場で活躍しており、パンパン馬場は得意でないだろう」と評している{{Sfn|山野|1993|p=64}}。JRA-VANによると良馬場での連対率が13戦で31%であるのに対して、重馬場での連対率は7戦で86%である<ref name="jra-van_アーバンシー"/>。

週刊Gallopは凱旋門賞で馬群からうまく抜け出してきたことをあげて「牝馬ながら牡馬顔負けの勝負根性がある」と、ヴェルメイユ賞で逃げて3着だったことをあげて「脚質も自在」と評価している一方、勝ち鞍が重馬場のレースに集中していることをあげてスピード不足を指摘している{{Sfn|週刊Gallop|1993b|p=36}}。

== 繁殖牝馬時代 ==
繁殖入りしたアーバンシーは生涯で11頭の産駒を輩出し、2009年3月2日、繋養先の[[アイリッシュ・ナショナルスタッド]]にて出産後の合併症で死亡した{{Sfn|平出|2019|p=136}}<ref name="netkeiba_合田2009"/><ref name="netkeiba_アーバンシー死亡2009"/>。没年齢は20歳であった{{Sfn|奥野|2014|p=92}}。産駒11頭のうち8頭がステークスウィナーで、6頭が重賞勝ち馬、うち4頭がG1勝ち馬である{{Sfn|平出|2019|p=136}}{{Sfn|奥野|2014|p=92}}。また、11頭のうちレースに出走した仔9頭はすべてブラックタイプ勝ち馬となっている<ref name="jairs_Stevens2018"/>。

産駒の[[ガリレオ (競走馬)|ガリレオ]](父・[[サドラーズウェルズ]])は2001年に無敗で英愛ダービーを制覇して[[カルティエ賞]]最優秀3歳牡馬を獲得、種牡馬となってからも11年連続・合計12度の英愛リーディングサイアーを獲得している{{Sfn|合田|2021|pp=104-105}}<ref name="bloodhorse_Hunter2014"/>。

[[ブラックサムベラミー]](父・サドラーズウェルズ)は[[タタソールズゴールドカップ]]などG1を2勝し、[[マイタイフーン]](父・[[ジャイアンツコーズウェイ]])は米G1・[[ダイアナステークス]]に勝利している<ref name="netkeiba_アーバンシー死亡2009"/>。

[[シーザスターズ]](父・[[ケープクロス]])は2009年に[[英2000ギニー]]および[[英ダービー]]を制覇して[[ナシュワン]]以来20年ぶりとなる英クラシック2冠馬となり、その後も[[凱旋門賞]]を含むG1・6勝をあげ、2009年のカルティエ賞欧州年度代表馬を獲得している{{Sfn|沢田|2014|p=7}}{{Sfn|奥野|2010|p=45}}。種牡馬としても英愛ダービー馬[[ハーザンド]]<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.jbis.or.jp/horse/0001226742/ |title=Harzand(IRE) |publisher=jbis.or.jp |date= |accessdate=2023-09-09 |language=ja}}</ref>、[[グッドウッドカップ]]4連覇・[[ゴールドカップ]]3連覇の[[ストラディバリウス (競走馬)|ストラディバリウス]]<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.jbis.or.jp/horse/0001243617/ |title=Stradivarius(IRE) |publisher=jbis.or.jp |date= |accessdate=2023-09-09 |language=ja}}</ref>、2022年カルティエ賞年度代表馬の[[バーイード]]<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.jbis.or.jp/horse/0001350466/ |title=Baaeed(GB)|publisher=jbis.or.jp |date= |accessdate=2023-09-09 |language=ja}}</ref>らを輩出している。

=== 繁殖牝馬としての評価 ===
水野隆弘はアーバンシーがガリレオを産んだことについて「アーバンシーの競走生活が少し違う結果であれば、今世紀の血統地図は大きく違うものになっていたかもしれない」と述べている<ref name="ケイバブック_水野2021"/>。JRA-VANは産駒が種牡馬として活躍し、その血が世界中に広まったことをあげて「競馬がブラッドスポーツと言われる由縁を考えれば、繁殖牝馬として大成功を収めたアーバンシーは歴史的な名馬と言えるだろう」と評している<ref name="jra-van_アーバンシー"/>。

合田直弘はアーバンシーの産駒のみならず近親からも多数の活躍馬が出ていることをあげて「いまや世界でも最高の名血との誉れを授かるにいたった」と評し、産駒のガリレオが種牡馬として欧州で大活躍していることをあげて「彼を通じてアーバンシーの血脈は世界の生産界に影響を及ぼしつつある」と述べている<ref name="netkeiba_合田2009"/>。また、[[ベーリング (競走馬)|ベーリング]]や[[ラムタラ]]といった産駒があまり活躍していない種牡馬からも活躍馬を出している点を高く評価している<ref name="netkeiba_合田2009"/>。

2018年の凱旋門賞では1着から8着までが、2017年は1着から3着までのすべての馬が血統表にアーバンシーを含んでいたほか、2016年は1着から3着までがすべてガリレオ産駒であり、Martin Stevensは「アーバンシーはサラブレッドの歴史において最も重要な牝馬の1頭と見なさなければならない」「凱旋門賞(G1)を"アーバンシー賞"と改名することを本気で考えなければならないかもしれない。もっと現実的なところでは、パリロンシャン競馬場のウィナーズサークルにこの偉大な牝馬の銅像を建立しなければならないかもしれない」と評している<ref name="jairs_Stevens2018"/>。

=== 繁殖成績 ===
※出生年順、太字はG1勝ち馬、斜体はステークスウイナー
※出生年順、太字はG1勝ち馬、斜体はステークスウイナー


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|mmmm = Almeda [[ファミリーナンバー|F-No.]][[9号族|9-h]]
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*母Allegrettaは生涯9戦2勝<ref name="JBIS_Allegretta_戦績"/>。
*半妹Turbaine(1990,Trempolino)の産駒に2014年ドイツリーディングサイアーのTertullian (1995,Miswaki,アーバンシーと3/4同血)がいる。
*半弟*[[キングズベスト]]は[[英2000ギニー]]勝ち馬{{Sfn|平出|2019|p=137}}。
*半妹Allez Les Trois(1991,Riverman)の牝系からは、[[ジョッケクルブ賞]]に勝ち仏2歳リーディングサイアーになった[[アナバーブルー]]、2008年の[[ジャンプラ賞]]及び[[ジャック・ル・マロワ賞]]の優勝馬である[[タマユズ]]が出ている。
*半妹Turbaineからは独リーディングサイアーのTertullianが出ている{{Sfn|栗山|2019|p=115}}{{Sfn|平出|2019|p=137}}。
*2代母Anatevkaからは独GII[[ドイチェスセントレジャー]]勝ち馬のAnnoと独GII[[ウニオンレネン]]勝ち馬のAnatasが出ている{{Sfn|石川|1993|p=127}}。
*5代母Asterbluteは[[ドイチェスダービー]]勝ち馬{{Sfn|平出|2019|p=136}}。
*その他の近親の活躍馬については[[#主要なファミリーライン]]を参照。

=== 主要なファミリーライン ===
牝系図の主要な部分('''太字'''はG1級競走優勝馬)は以下の通り。*は日本に輸入された馬。「f」は「filly(牝馬)」の略、「c」は「colt(牡馬)」の略。

{{tree list}}
* Allegretta 1978 f
** Anzille 1986 f
*** '''Anzillero''' 1997 c([[ベルリン大賞]])
** '''Urban Sea''' 1989 f([[凱旋門賞]]など重賞4勝)'''---アーバンシー系↓'''
*** Urban Ocean 1996 c({{仮リンク|ガリニュールステークス|en|Gallinule Stakes|label=ガリニュールS}})
*** Melikah 1997 f
**** Villarrica 2002 f
***** Khawlah 2008
****** '''[[マサー|Masar]]''' 2015 c([[英ダービー]])
***** Vancouverite 2010 c([[ギヨーム・ドルナーノ賞]])
**** Masterstroke 2009 c([[ドーヴィル大賞典]])
**** Hidden Gold 2011 f
***** Creative Flair 2018 f([[バランシーンステークス|バランシーンS]])
**** Moonlight Magic 2013 c([[メルドステークス|メルドS]]など重賞2勝)
**** Royal Line2014 c([[セプテンバーステークス|セプテンバーS]])
*** '''[[ガリレオ (競走馬)|Galileo]]''' 1998 c([[英ダービー]]、[[愛ダービー]]、[[キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス|キングジョージ]]など重賞4勝)
*** '''Black Sam Bellamy''' 1999 c([[タターソールズゴールドカップ|タタソールズGC]]、[[ジョッキークラブ大賞 (イタリア)|イタリアジョッキークラブ大賞]])
*** All Too Beautiful 2001 f([[ミドルトンステークス|ミドルトンS]])
**** All for Glory 2007 f
***** Alluringly 2014
****** Lily Pond 2019 f([[キルボイエステイトステークス|キルボイエステイトS]])
**** Sparrow 2011 f
***** '''{{仮リンク|サードラゴネット|en|Sir Dragonet|label=Sir Dragonet}}''' 2016 c([[タンクレッドステークス|タンクレッドS]]、[[コックスプレート]]など重賞3勝)
***** Les Pavots 2021 f([[ カルヴァドス賞]])
*** '''{{仮リンク|マイタイフーン|en|My Typhoon|label=My Typhoon}}''' 2002 f([[ダイアナステークス|ダイアナS]]など重賞6勝)
*** Cherry Hinton 2004 f
**** Wading 2009 f([[ロックフェルステークス|ロックフェルS]])
***** Just Wonderful 2016 f([[ロックフェルステークス|ロックフェルS]]など重賞2勝)
**** '''{{仮リンク|ブレスレット (競走馬)|en|Bracelet (horse)|label=Bracelet}}''' 2011 f([[愛オークス]]など重賞3勝)
**** '''Athena'''2015 f([[ベルモントオークスインビテーショナルステークス|ベルモントオークスインビテーショナルS]])
***** Never Ending Story 2020 f([[レパーズタウン1000ギニートライアル]]など重賞2勝)
**** Goddess 2016 f([[スノーフェアリーフィリーズステークス|スノーフェアリーフィリーズS]])
*** '''[[シーザスターズ|Sea The Stars]]''' 2006 c([[英2000ギニー]]、[[英ダービー]]、[[凱旋門賞]]など重賞7勝)'''---アーバンシー系ここまで'''
** Turbaine 1990 f
*** Tertullian 1995 c([[ポルトマイヨー賞]]など重賞3勝)
*** Tucana 1999 f
**** Tijuana 2011 f
***** '''[[トルカータータッソ|Torquator Tasso]]''' 2017 c([[凱旋門賞]]、[[バーデン大賞]]、[[ベルリン大賞]]など重賞5勝)
***** '''[[テュネス|Tunnes]]''' 2019 c([[バイエルン大賞]]など重賞3勝)
**** Tusked Wings 2014 f([[ディアナトライアル]])
** Allez Les Trois 1991 f([[フロール賞]])
*** Al Ishq 1997 f
**** Thamarat 2003 f
***** Riqa 2008 f
****** Jawlaat 2013 f
******* '''[[ファクトゥールシュヴァル|Facteur Cheval]]''' 2019 c([[ドバイターフ]]、[[パース賞]])
****** Tantheem 2015 f([[プティクヴェール賞]]など重賞3勝)
***** Wadyhatta 2012 d
****** '''{{仮リンク|サンティアゴ (競走馬)|en|Santiago (horse)|label=Santiago}}''' 2017 c([[愛ダービー]]など重賞2勝)
***** Khaimah 2013 f
****** Glounthaune 2019 c([[キラヴーランステークス| キラヴーランS]])
**** '''[[タマユズ|Tamayuz]]''' 2005 c([[ジャック・ル・マロワ賞]]、[[ジャンプラ賞]]など重賞3勝)
**** Muhawalah 2011 f
***** '''{{仮リンク|エシャーダ|en|Eshaada|label=Eshaada}}''' 2018 f([[ブリティッシュ・チャンピオンズ・フィリーズ&メアズステークス|ブリティッシュ・チャンピオンズ・フィリーズ&メアズS]])
*** '''[[アナバーブルー|Anabaa Blue]]''' 1998 c([[仏ダービー]]など重賞3勝)
*** Anja 2000 f
**** Rifqah 2005 f
***** Mustajeeb 2011 c([[アメジストステークス|アメジストS]]など重賞3勝)
**** Aboulie 2013 f([[ミエスク賞]])
**** Great House 2016 c([[レクサスホーサムステークス|レクサスホーサムS]]など重賞2勝)
*** Northern Melody 2005 f
**** Half Light 2016 f([[ホルステンカップ|ホルステンC]])
*** Violante 2008 f
**** Frequential 2014 f
***** '''[[ロスアンゼルス (競走馬)|Los Angeles]]''' 2021 c([[クリテリウムドサンクルー]]、愛ダービーなど重賞3勝)
**** Impulsif 2015 c([[メシドール賞]])
** Saleela 1995 f
*** Muwakaba 2007 f
**** Cayenne Pepper 2017 f([[ブランドフォードステークス|ブランドフォードS]]など重賞2勝)
** '''*[[キングズベスト]]''' 1997 c([[英2000ギニー]])
** Altruiste 1999 f
*** Alpine Snow 2006 f
**** Armande 2013 f([[コリーダ賞]])
*** Terrubi 2014 f([[モーリス・ド・ニュイユ賞]])
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牝系図の出典:[http://www.galopp-sieger.de/galoppsieger/stammtafel_html?startPferd=AllegrettaLombard&fart=GR3&ftype=&tiefe=715&suchePferd=Allegretta&efil= Galopp Sieger]、[http://p.bogus.jp/ffamily.php?id=22409 牝系検索α]、平出2019(P137){{Sfn|平出|2019|p=137}}


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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|title=Urban Sea|Progeny|Racing Post
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== 参考文献 ==
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=== 単行本 ===
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}}
* {{Cite book|和書
|author = 江面弘也
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|title = 名馬を読む3
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}}
* {{Cite book|和書
|author = 平出貴昭
|year = 2019
|title = 覚えておきたい世界の牝系100
|publisher = 主婦の友社
|isbn = 978-4073411499
|ref = {{SfnRef|平出|2019}}
}}
* {{Cite book|和書
|author = ギイ・チボー
|translater = 真田昌彦
|year = 2004
|title = フランス競馬百年史 : 1900-2000
|publisher = 競馬国際交流協会
|id= {{全国書誌番号|20723599}}
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* {{Cite book|和書
|author = 早野仁
|year = 2000
|title = 20世紀の種牡馬大系
|publisher = 競馬通信社
|isbn = 4-434-00732-7
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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* {{競走馬成績|netkeiba=1989109105|yahoo=1989109105|jbis=0000225908|racingpost=76594|racingpostname=urban-sea}}


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{{凱旋門賞勝ち馬}}

2024年11月9日 (土) 02:43時点における最新版

アーバンシー[1]
デヴィッド・ツィの勝負服
欧字表記 Urban Sea[1]
品種 サラブレッド
性別 [1]
毛色 栗毛[1]
生誕 1989年2月18日[1]
死没 2009年3月2日(20歳没)[2]
Miswaki[1]
Allegretta[1]
母の父 Lombard[1]
生国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国[3]
ケンタッキー州[4]
生産者 Marystead Farm[3]
馬主 David Tsui[3]
調教師 Jean D.Lesbordes(フランス[3][5]
競走成績
生涯成績 24戦8勝[5]
獲得賞金 1,704,553ドル[4]
勝ち鞍
GI 凱旋門賞 1993年
GII アルクール賞 1994年
GIII エクスビュリ賞 1993年
GIII ゴントービロン賞 1993年
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アーバンシー(欧字名:Urban Sea1989年 - 2009年)はアメリカ生産、フランス調教の競走馬。主な勝ち鞍は1993年の凱旋門賞。引退後に繁殖牝馬としてG1馬4頭を輩出し、そのうちガリレオおよびシーザスターズの2頭は英ダービーに勝利したうえで種牡馬としても大成功をおさめている。

血統背景

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父・Miswakiは2歳時にG1サラマンドル賞を制し、デューハーストステークスではストームバードの3着に入るなど、仏で生涯13戦6勝をあげた[6]。引退後は種牡馬としてアメリカで供用され、アーバンシーのほかにジャパンカップ勝ち馬のマーベラスクラウンBCクラシック勝ち馬のブラックタイアフェアーを輩出している[6]。種牡馬としては、スピード系種牡馬であるミスタープロスペクター直仔としては珍しく芝への適応力の高いステイヤー血統であった[6][7]

母・Allegrettaは1978年生まれの英国産馬[5]ドイツの名門牧場・シュレンダーハン牧場が育んだ「Aライン」と呼ばれる牝系の出身であり[5]、父Lombardは現役時代にドイツ年度代表馬を2度獲得している[8]イギリスおよびアメリカで競走馬生活を送り、生涯9戦2勝、英G3・リングフィールドオークストライアルで2着に入るなどの実績を挙げた[9][10]。引退後はアメリカのケンタッキー州で繁殖牝馬となったもののフランス人生産者へ転売され、アメリカのデナリ牧場に繋養されることになった[10]。そこで1989年2月18日に生まれたのが5番仔・アーバンシーである[1][10][11]

競走馬時代

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デビュー前

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アーバンシーはデナリ牧場で誕生したのちはフランスのエトレアム牧場で過ごし、1歳時(1990年8月[12][8])にドーヴィルのセリ市で28万フランで売却された[10]。落札したのは日本人の画商・沢田正彦だったが購入からまもなくして破産し、アーバンシーは香港の貿易商デヴィッド・ツィとほか2名に売却された[10]。馬名の意味は「都会の海」であり、ヴィクトリア・ピークから臨む海を連想したものであるという[10]

2歳(1991年)から3歳(1992年)

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アーバンシーは2歳時にフランスのジャン・レスボルド厩舎からデビューし、2戦目には未勝利戦に勝利するまずまずの滑り出しを見せた[10]。3歳時はロンシャン競馬場でラ・セーヌ賞を、ドーヴィル競馬場でピアジェドール賞[注釈 1]に勝つものの[10][4]、重賞ではディアヌ賞6着、ヴェルメイユ賞3着など好走こそすれ勝ちきれないレースが続いた[10]。その間にデヴィッド・ツィ以外のオーナーの財政状況が悪化したため、凱旋門賞ウィークにロンシャンで開催されるセリ市に上場されることになった[10][8]。アーバンシーの才能に光るものを見出していたレスボルド調教師のためにデヴィッドは入札を続け、300万フラン(当時のレートで日本円に換算するとおよそ6000万円[8])もの金額で買い戻したが、3歳時はこのあとも重賞制覇には至らなかった[10]

4歳(1993年)から5歳(1994年)

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上述の通り3歳時はパッとしない競走成績だったアーバンシーであるが、4歳になると徐々に頭角を表し始める[14]。3月にG3・エクスビュリ賞で重賞初制覇を果たし[8]、G2・プリンス・オブ・ウェールズSでクビ差の2着を経て、G3・ゴントービロン賞で重賞2勝目をあげた[10]

ゴントービロン賞の制覇後、陣営は凱旋門賞への出走を決めた[8]。鞍上はエリック・サンマルタン。エリックはフランスの伝説的騎手イヴ・サンマルタンの息子であるが、彼自身は当時28歳にもかかわらずそれまで目立った活躍がなく[10]、凱旋門賞への騎乗もこれが初めてである[12]。なお、直近でアーバンシーの手綱を取ってきたキャッシュ・アスムッセンは1番人気エルナンドへの騎乗が決まっていた[10]

この年の凱旋門賞は確たる本命馬が不在ということで23頭立てであり[15]、そのうち16頭がGI馬であった[16]。1番人気は仏ダービー馬エルナンドおよびオペラハウス[注釈 2]の4.7倍、次いで英オークスイントレピディティ英語版の4.9倍、愛オークスウィームズバイト英語版および英セントレジャー2着馬アーミジャーの5倍、仏オークスシェマカ英語版の8.8倍と続いた[8][16]。本馬はここまで調子をあげてきてはいたものの実績に劣るため評価が低く[13][17]、当日は13番人気、最終単勝オッズは38倍であった[18]。当日の天気は晴れだったものの前日までの雨によって馬場状態が渋っており、その指数は4.4であった[注釈 3][8]

レースは前年の英オークスユーザーフレンドリーがハナを切って逃げるものの、2ハロン通過時点で単勝139倍のダリューンが先頭に立つめまぐるしい序盤となる[8]。アーバンシーは7,8番手の好位で最内に控えた[8]。その後はスローペースで流れ、4コーナーを過ぎるとレースが動き出す。直線残り300メートル地点で先団についていたオペラハウスが先頭に立つと、内からアーバンシーが、外からホワイトマズルがそれぞれ追い込んでくる[13][8]。オペラハウス以外の有力馬は極端な重馬場に足を取られて総崩れとなり[13]、残り200メートル地点になるとオペラハウスに代わってアーバンシーが先頭に立ち、徐々に差を詰めてくるホワイトマズルをクビ差で振り切ったところがゴールであった[8]。アーバンシー自身はもちろん、調教師のレスボルド師、騎手のエリック・サンマルタンの3者いずれもこれがGI初制覇となった[12]。勝ちタイムは2分37秒30で、これは当時のロンシャン競馬場の芝2400メートルのレコードタイム2分26秒30より11秒も遅い決着となった[8]。1着アーバンシーは前述の通り単勝38倍、2着のホワイトマズルは55倍と人気薄の決着となり[15]、2頭のジュレム・ガニャン(日本における馬連に相当する)は452.2倍の万馬券となった[19]

この勝利はフロック視される向きもあり[20]、優駿は「アーバンシーの快勝に場内騒然」[13]、週刊Gallopは「番狂わせ勝ち」[17]、ギイ・チボーは「驚愕の凱旋門賞」[14]などと評している。石川ワタルは騎手の乗り方の巧みさに触れつつも、「非常に時計のかかる馬場状態になったこと」が勝因のひとつであろうと述べている[8]。高橋源一郎はこの勝利について「今年の凱旋門賞はゴチャゴチャしたレース」だと述べ、アーバンシーだけは不利を受けなかったこともあり、ホワイトマズルが一番強い競馬をしていたと評している[21]

陣営は凱旋門賞の勝利後、予備登録をしているジャパンカップへの出走を表明して参戦した[22][23]。凱旋門賞を経たアーバンシーの馬体はよく言えば「絞られた」、悪く言えば「ガレた」状態であり[22]、鈴木淑子は「アーバンシーは、これが凱旋門賞馬? と思うくらい見かけには"?"が付きました」と評している[21]。この年のジャパンカップは「前年にひけをとらない豪華なメンバー」[24]、「掛け値なしに史上最高のメンバ―」[25]と評され、アーバンシーは単勝10番人気でレガシーワールドの8着に終わった[1]

5歳時は緒戦のG2・アルクール賞に勝利するも、その後は勝ち星をあげることなく引退した[20]。生涯戦績は24戦8勝であった[20]

競走馬としての評価

[編集]

栗山求はアーバンシーの能力について「スピードには欠けるが底力、スタミナ、道悪適性に秀でている」と[5]、山野浩一は「ほとんどやや重よりも悪い馬場で活躍しており、パンパン馬場は得意でないだろう」と評している[10]。JRA-VANによると良馬場での連対率が13戦で31%であるのに対して、重馬場での連対率は7戦で86%である[20]

週刊Gallopは凱旋門賞で馬群からうまく抜け出してきたことをあげて「牝馬ながら牡馬顔負けの勝負根性がある」と、ヴェルメイユ賞で逃げて3着だったことをあげて「脚質も自在」と評価している一方、勝ち鞍が重馬場のレースに集中していることをあげてスピード不足を指摘している[26]

繁殖牝馬時代

[編集]

繁殖入りしたアーバンシーは生涯で11頭の産駒を輩出し、2009年3月2日、繋養先のアイリッシュ・ナショナルスタッドにて出産後の合併症で死亡した[18][27][2]。没年齢は20歳であった[28]。産駒11頭のうち8頭がステークスウィナーで、6頭が重賞勝ち馬、うち4頭がG1勝ち馬である[18][28]。また、11頭のうちレースに出走した仔9頭はすべてブラックタイプ勝ち馬となっている[29]

産駒のガリレオ(父・サドラーズウェルズ)は2001年に無敗で英愛ダービーを制覇してカルティエ賞最優秀3歳牡馬を獲得、種牡馬となってからも11年連続・合計12度の英愛リーディングサイアーを獲得している[30][31]

ブラックサムベラミー(父・サドラーズウェルズ)はタタソールズゴールドカップなどG1を2勝し、マイタイフーン(父・ジャイアンツコーズウェイ)は米G1・ダイアナステークスに勝利している[2]

シーザスターズ(父・ケープクロス)は2009年に英2000ギニーおよび英ダービーを制覇してナシュワン以来20年ぶりとなる英クラシック2冠馬となり、その後も凱旋門賞を含むG1・6勝をあげ、2009年のカルティエ賞欧州年度代表馬を獲得している[32][33]。種牡馬としても英愛ダービー馬ハーザンド[34]グッドウッドカップ4連覇・ゴールドカップ3連覇のストラディバリウス[35]、2022年カルティエ賞年度代表馬のバーイード[36]らを輩出している。

繁殖牝馬としての評価

[編集]

水野隆弘はアーバンシーがガリレオを産んだことについて「アーバンシーの競走生活が少し違う結果であれば、今世紀の血統地図は大きく違うものになっていたかもしれない」と述べている[37]。JRA-VANは産駒が種牡馬として活躍し、その血が世界中に広まったことをあげて「競馬がブラッドスポーツと言われる由縁を考えれば、繁殖牝馬として大成功を収めたアーバンシーは歴史的な名馬と言えるだろう」と評している[20]

合田直弘はアーバンシーの産駒のみならず近親からも多数の活躍馬が出ていることをあげて「いまや世界でも最高の名血との誉れを授かるにいたった」と評し、産駒のガリレオが種牡馬として欧州で大活躍していることをあげて「彼を通じてアーバンシーの血脈は世界の生産界に影響を及ぼしつつある」と述べている[27]。また、ベーリングラムタラといった産駒があまり活躍していない種牡馬からも活躍馬を出している点を高く評価している[27]

2018年の凱旋門賞では1着から8着までが、2017年は1着から3着までのすべての馬が血統表にアーバンシーを含んでいたほか、2016年は1着から3着までがすべてガリレオ産駒であり、Martin Stevensは「アーバンシーはサラブレッドの歴史において最も重要な牝馬の1頭と見なさなければならない」「凱旋門賞(G1)を"アーバンシー賞"と改名することを本気で考えなければならないかもしれない。もっと現実的なところでは、パリロンシャン競馬場のウィナーズサークルにこの偉大な牝馬の銅像を建立しなければならないかもしれない」と評している[29]

繁殖成績

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※出生年順、太字はG1勝ち馬、斜体はステークスウイナー

血統表

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アーバンシー(Urban Sea)血統ミスタープロスペクター系/Prince Rose5×5=6.25%、Nasrullah5×5=6.25%(父内)、Alchimist5×5=6.25%(母内)) (血統表の出典)

Miswaki
1978 栗毛 アメリカ
父の父
Mr.Prospector
1970 鹿毛 アメリカ
Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
父の母
Hopespringseternal
1971 栗毛 アメリカ
Buckpasser Tom Fool
Busanda
Rose Bower Princequillo
Lea Lane

Allegretta
1978 栗毛 イギリス
Lombard
1967 栗毛 西ドイツ
Agio Tantieme
Aralia
Promised Lady Prince Chevalier
Belle Sauvage
母の母
Anatevka
1969 栗毛 西ドイツ
Espresso Acropolis
Babylon
Almyra Birkhahn
Almeda F-No.9-h

主要なファミリーライン

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牝系図の主要な部分(太字はG1級競走優勝馬)は以下の通り。*は日本に輸入された馬。「f」は「filly(牝馬)」の略、「c」は「colt(牡馬)」の略。

牝系図の出典:Galopp Sieger牝系検索α、平出2019(P137)[38]

脚注

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注釈

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  1. ^ リステッド競走ながら当時フランスで3番目の高額賞金レースであった[13]
  2. ^ 同一馬主に所有されているため単勝は一括馬券扱い[8]
  3. ^ 当時のフランスの馬場状態は最も乾いた馬場を1、最も水分量の多い馬場を5として、その範囲内で発表されていた[8]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j Urban Sea (アーバンシー)|競走馬データ - netkeiba.com”. netkeiba.com. 2023年8月29日閲覧。
  2. ^ a b c 凱旋門賞勝ちの名牝・アーバンシーが死亡”. netkeiba.com (2009年3月4日). 2023年9月9日閲覧。
  3. ^ a b c d Urban Sea|Progeny|Racing Post”. racingpost.com. 2023年8月29日閲覧。
  4. ^ a b c Horse Profile for Urban Sea|Equibase is Your Official Source for Thoroughbred Racing Information”. equibase.com. 2023年8月29日閲覧。
  5. ^ a b c d e f 栗山 2019, p. 115.
  6. ^ a b c 早野 2000, p. 218.
  7. ^ 関口 & 宮崎 2023, p. 174.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 石川 1993, p. 127.
  9. ^ a b 年度別累計成績/主な成績|競走成績|Allegretta(GB)|JBISサーチ(JBIS-Search)”. jbis.or.jp. 2023年8月29日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 山野 1993, p. 64.
  11. ^ 牝系情報|繁殖牝馬情報|Allegretta(GB)|JBISサーチ(JBIS-Search)”. jbis.or.jp. 2023年8月29日閲覧。
  12. ^ a b c 優駿 1993, p. 53.
  13. ^ a b c d e 優駿 1993, p. 52.
  14. ^ a b チボー 2004, p. 331.
  15. ^ a b 石川 1993, pp. 126–127.
  16. ^ a b 優駿 1993, p. 51.
  17. ^ a b 週刊Gallop 1993a, p. 99.
  18. ^ a b c d 平出 2019, p. 136.
  19. ^ 石川 1993, p. 128.
  20. ^ a b c d e アーバンシー(Urban Sea)|競馬データベース|JRA-VAN World - 海外競馬情報サイト”. world.jra-van.jp. 2023年9月6日閲覧。
  21. ^ a b 週刊ポスト 1993, p. 206.
  22. ^ a b 石田 1994, p. 18.
  23. ^ 優駿 1993, p. 54.
  24. ^ 江面 2021, p. 265.
  25. ^ 週刊Gallop 1994, p. 108.
  26. ^ 週刊Gallop 1993b, p. 36.
  27. ^ a b c 合田直弘 (2009年5月6日). “2000ギニー馬シーザスターズの豪華な血統背景”. netkeiba.co. 2023年9月9日閲覧。
  28. ^ a b 奥野 2014, p. 92.
  29. ^ a b Martin Stevens (2018年10月7日). “エネイブルが連覇した凱旋門賞、1着~8着がアーバンシーの子孫(フランス)[生産]”. jairs.jp. 2023年9月9日閲覧。
  30. ^ 合田 2021, pp. 104–105.
  31. ^ Avalyn Hunter (2014年9月26日). “Pedigree Analysis: Sailing the Urban Sea” (英語). bloodhorse.com. 2023年9月9日閲覧。
  32. ^ 沢田 2014, p. 7.
  33. ^ 奥野 2010, p. 45.
  34. ^ Harzand(IRE)”. jbis.or.jp. 2023年9月9日閲覧。
  35. ^ Stradivarius(IRE)”. jbis.or.jp. 2023年9月9日閲覧。
  36. ^ Baaeed(GB)”. jbis.or.jp. 2023年9月9日閲覧。
  37. ^ 水野隆弘 (2021年11月10日). “週刊トレセン通信 血統閑談 #003 嗚呼、晩秋のアーバンシー(水野隆弘)”. keibabook.co.jp. 2023年8月29日閲覧。
  38. ^ a b c 平出 2019, p. 137.

参考文献

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雑誌

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単行本

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  • 関口隆哉、宮崎聡史『種牡馬最強データ'23~'24: 実績と信頼の充実データ』誠文堂新光社、2023年。ISBN 978-4416523704 
  • 江面弘也『名馬を読む3』三賢社、2021年。ISBN 978-4908655197 
  • 平出貴昭『覚えておきたい世界の牝系100』主婦の友社、2019年。ISBN 978-4073411499 
  • ギイ・チボー『フランス競馬百年史 : 1900-2000』競馬国際交流協会、2004年。全国書誌番号:20723599 
  • 早野仁『20世紀の種牡馬大系』競馬通信社、2000年。ISBN 4-434-00732-7 

外部リンク

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